オラリオで槍の兄貴(偽)が頑張る話   作:ジャガボーイ

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12話

 

「断る」

 

俺は、真剣に頼んできた目の前のバカの願いを一切の躊躇もなく切り捨てた。

俺の返答を聞いたアーサーは断られると思っていなかったのか、『え?』と言いたげな間抜け面を晒している。

俺はそんな目の前のバカに言ってやった。

 

「男だったら、卑怯な手段を使ってでも生き残って、嫁と娘は渡さねぇぐらい言って困難を跳ねのけろ」

 

俺の言葉を聞いたアーサーはアホ面からどこかスッキリした表情へと変わり。

いつものさわやかな笑顔で『はい』と言って自宅へと帰って行った。

俺は迷いの無くなったアーサーの後姿を見て思う。

 

朝帰りの言い訳は大丈夫か?

 

後日、三大クエストの一つである『陸の王者』を討伐しに向かった遠征隊にいた出発の直前までミイラの様な姿だったらしい。

 

勿論、アーサーをボコボコにした犯人は嫁だ。

 

もう、アリアを連れて行けば命の危険はないんじゃね?

 

俺は特に心配する事はなく、彼らの遠征に行く姿を見守った後はいつもの日常へと帰って行った。

 

 

 

―数か月後―

 

 

遠征に出た二大ファミリアは『陸の王者』と『海の覇者』を見事に討伐した。

オラリオでは三大クエストが残り一つになった事でお祭り騒ぎだ。

 

そして、俺自身も単身で61階層に到達して見事にゼウスファミリアのダンジョン到達階層の記録を塗り替えた。

 

やる事もやって、やる気も無くなった俺は、現在ロキファミリアに遊びに来ていた。

 

………。

 

「つまらねぇ……」

 

「ひ…人をこれだけボロボロにしておいて言う事はそれだけなのかい?」

 

「ぐぬぬ…この化け物め」

 

ロキファミリアの館の庭でぶっ倒れて、文句を(のたま)うフィンとガレス。

俺はそんな二人に呆れた表情で反論した。

 

「LV5で打ち止めになったから戦って欲しいと頼んだのは何処の誰だよ?」

 

「…確かに頼んだのは僕たちだけど……これはひどいんじゃないかな?」

 

懐からポーションを取り出し、ゆっくりと飲んだフィンはユラリと立ち上がり、庭の惨状を見ながら眉を顰める。

そして、そんなフィンに釣られて俺も庭を見渡す。

 

木々はへし折れ、大地は衝撃によって出来た蜘蛛の巣状のヒビが幾つも点在し、人ひとりを飲み込めるのではないかと言うクレーターも存在する。

まあ…確かにやり過ぎたかもしれないが……。

 

「やったのは、アホみたいに斧を振り回していたガレスだろ?」

 

「そうかもしれないけど……あのクレーターは君だろ。

僕が直感で避けなかったら、間違いなく腕の一本は無くなっていたよ」

 

「ったく、細かい野郎だな……。

それに、ハンデをやってこれは不味いんじゃね?」

 

俺は自身の体に施したルーン魔術による呪いを解き、地面に修復のルーン魔術を施す事で庭の修復を始めた。

ルーンに俺の魔力が注がれると淡い光が発生し、ビデオテープを巻き戻すかのように庭が修繕された。

 

「相変わらず便利な魔法だね」

 

「威力や効果は調整可能で出来ない事はほとんどない。

まさに万能だな」

 

あっと言う間に治った庭を見て感心の声を出すフィンとガレス。

こんな調子でランクアップはいつになる事やら……。

 

 

 

 

 

 

庭の修復が終わり、帰る事にした俺はフィンと共にロキファミリアの門の近くへと移動していた。

そんな中、黙っていたフィンが口を開いた

 

「ゼウスとヘラの三大クエストが終わった後……貴方は誰に付くんだい?」

 

鋭い瞳で俺を見ながら返答を待つフィン。

俺はそんなフィンをニヤリと笑いながらいつもの返答をする

 

「そんなの…面白い方に付くに決まってんだろ?」

 

いつもならこの返答に苦笑して『…貴方らしい』と言ってくるフィンだったが、今回は違った。

フィンは俺を敵を見るかのような瞳で睨んでいた。

 

「…僕は内心、いつもそうやってはぐらかす貴方に我慢してきました。

でも、もう限界です。

三大クエスト終了まで時間がなくなってきた……僕らは時間がないんだ」

 

「はっ。僕ら(・・)()の間違いじゃねぇのかよ。

なぁ?例え友人であろうとも、野望の為に踏台にしようとしている小人(パルゥム)さんよ」

 

こちらを睨み付けて話すフィンを友人としてではなく敵として睨み返す俺。

 

「僕は一族の為に英雄にならないといけないんだ……たとえ、友人を踏み台にしようとも」

 

俺の目から逸らす事なく、睨み続けるフィン。

俺は目の前の馬鹿野郎に思いを口にする。

 

「へぇ…覚悟はあるってか?

じゃあ、言わせてもらうぜ。…それは王道ではない。

友人を踏み台にして行こうとしているその道は……邪道でしかない。

それでも前に進むのか?『勇者(ブレイバー)』フィン・ディムナ」

 

「…わかっているさ。

そんなことぐらい……彼の家族に恨まれるのも覚悟している。

それでも僕は立ち止まらない。

地獄に落ちるその日まで、これから踏み台にする彼らの為にも立ち止まらない。

たとえ、目の前に貴方が立ちふさがろうとも、僕は一族の為に止まらない。

決死の覚悟で貴方に挑ませてもらう。

大英雄(だいえいゆう)』クー・フーリン」

 

理解は出来るが納得ができないお互いの考えを口にした俺達は、そのまま別れてそれぞれの生活に戻った。

 

しかし、俺達の今後…いや、オラリオの情勢が大なり小なり変化するであろう戦いがもうすぐ始まろうとしていた。

 

 

 

 


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