7Game   作:ナナシの新人

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Final game17 ~姿勢~

「キタッス! 絶好のチャンス到来ッス!」

 

 恋恋高校応援団の中で一際大声で声援を送る、聖ジャスミン学園のほむら。彼女と一緒に観戦している太刀川(たちかわ)小鷹(こだか)は、真剣な顔で戦況を見守っていた。

 

「今回は、貰ったチャンスじゃないからモノにしたいね」

「ええ。でも、まともに勝負してくるかしら?」

「ネクストが、芽衣香(めいか)だからねー。あっ、九番が出てきたよ!」

 

 ネクストバッターズサークルには、芽衣香(めいか)ではなく、近衛(このえ)がバットを持って準備していた。その芽衣香(めいか)はというと、ベンチの奥の方に座ってはいるが、タイムを取ってマウンドに集まっている壬生内野陣から目を離してはいない。

 

「う~ん、雰囲気的に、満塁になったら代打。ツーアウトなら、そのままって行くって感じかな?」

「おそらくね。あおいを代える選択肢はないわ。あの子が降りた時点で、試合は終わりよ」

「だよね」

「ヒロぴーも、ぶちょーも、お喋りしてる場合じゃないッスよ! ちーちゃんを見習って、一緒に大声で声援を送るッス!」

「わ、私は、別に大声は出していないぞ!」

「応援グッズのタオルを振り回しながら言っても、まったく説得力ないッス」

「う、うるさいっ!」

「ハァ、落ち着いて見られないわ。それに、暑いし。やっぱり、テレビで見ればよかった」

「あははっ、とりあえず、あたしたちも応援しよっか」

 

 騒がしいスタンドのことなどまったく目にもくれずに、輪の中心に居る土方(ひじかた)は、内野陣に指示を与えている。その姿を見つめている理香(りか)は、壬生のベンチへ視線を移した。

 

「タイムを取ったけど。向こうのベンチは、伝令を出さないのね」

「必要ないんだろう。お前は、この状況をどう乗り切る? 勝負か、満塁策か」

「......そうね。点差と打順の巡りを考慮して中間守備を、思い切って、ゲッツーシフトを敷くのもありかも」

「サードランナーの矢部(やべ)の生還は仕方ないと割り切り、バッター勝負に行くと」

「ええ。欲張って満塁策を選んだ結果大量失点、なんてことになったら目も当てられないわ。いざとなれば、沖田(おきた)くんを再登板させればいい。次回以降なら、ブルペンで調整出来るわ。そのためにも、リードは一点でも多く保つこと」

「ふーん」

「間違い?」

 

 グラウンドの動きを注視しながら、澄まし顔で答える。

 

「正解か不正解かは所詮結果論さ」

 

 マウンドに集まっていた内野陣が散り、ポジションに戻った土方(ひじかた)は腰を降ろして、外角へミットを構えた。

 

「割り切ったな。勝負する気はさらさらない」

藤堂(とうどう)くんは歩かせて、満塁策を選んだ。でも、申告敬遠はしないのね。決勝(うしろ)を気にする必要がないから......それとも、四球外す中でスクイズを仕掛けてくれば、ひとつアウトを取れる算段かしら?」

「さあな。まあ俺なら、迷わず申告敬遠して勝敗をより明確にする。その方が、バッターも勝ち負けを意識するからな。芽衣香(めいか)、準備しておけ。チャンスで、お前に回るぞ」

「――はい!」

 

 力強く返事をした芽衣香(めいか)は、バッティンググローブと肘当て、すね当てを付けて打席に備える。試合は、藤堂(とうどう)へ初球が投じられたところ。

 

『バッテリー、一球大きくウエスト! スクイズ警戒です』

 

 二球目も、大きくウエスト。ボールが、二つ先行。ここで東亜(トーア)は、近衛(このえ)を呼び戻し、芽衣香(めいか)がネクストへ向かう。しかし、土方(ひじかた)は構わず三度、外角へミットを構えた。

 

「やっぱり、スクイズ警戒と見せかけての敬遠。けど、どこまでも冷静ね。近衛(このえ)くんが下がったのに、まったくブレなんて。少しくらい迷いが生じてもおかしくないのに」

「どうだろうな。土方(アイツ)の一貫した姿勢の裏には、何か特別な理由が存在する気がしてならない」

 

 理香(りか)と、ベンチ裏から戻ってきた瑠菜(るな)を含めた、東亜(トーア)の声が聞こえる位置に座る数名の視線が集中する。

 

「何かって?」

「今、申告敬遠を行わないこと。そしてなぜ、ウエストでの敬遠に拘るのか。その理由だ」

 

 三球目もウエストされ、四球目に入ろうかという場面。壬生ベンチからも、申告敬遠を行うような動きはない。

 

近衛(このえ)くんを下げたなら、芽衣香(めいか)との勝負に専念すればいい訳ですし」

「確かにそうね。暴投のリスクを考えれば、申告敬遠して然るべき場面。少なくとも、普通の敬遠で問題ないハズ......」

「何かある。上澄みの底に潜む、重要な理由(モノ)が――」

 

 それを探るべく東亜(トーア)は、はるかを通じず自らサインを送った。鳴海(なるみ)矢部(やべ)藤堂(とうどう)の三人は、ヘルメットに触れて返事を返す。

 

『さあ、ボールスリーからの四球目――仕掛けたーッ!』

 

 鳴海(なるみ)はスタートを切り、藤堂(とうどう)はバットを横に寝かせた。投球は、ウエスト。バットに当たらず、空振りのストライク。土方(ひじかた)はセカンドには目もくれず、サードランナーの矢部(やべ)を目で牽制するにとどまった。鳴海(なるみ)の盗塁は決まり、三塁二塁に状況が変わった。

 

「さて、どう出るよ? 貫くか、動くか」

 

 扇の要、土方(ひじかた)の選択は――。

 

『ウエスト! 恋恋ベンチは、動きませんでした! 結局、フォアボール。全ての塁が埋まります!』

 

 この結果に東亜(トーア)は、芽衣香(めいか)を呼び戻す。

 

「内野ゴロを狙いに、必ずインコース攻めをしてくる。外角は全て、バットが届かないところだ」

「......分かってます!」

「それでもまだ、金属を使うつもりはないのか? 勝利よりも、己の意地を優先させるのか?」

 

 木製バットをギュッと握り、まっすぐ東亜(トーア)を見つめ返して、顔を逸らさない。

 

「フッ、それでいいさ。迷うより全然良い。ただし、信念を貫くのなら決して迷うな。どんなことが起きようともだ。いいな?」

「はいっ!」

 

 改めて打席へ向かう芽衣香(めいか)を待ち受けていたのは、予想だにしなかったことだった。

 

『な、なんと! 壬生高校、ここで超前進守備を敷いてきました! 外野を守る選手は誰も居ません! これは、恋恋高校が敷いた“9人内野”とほぼ同じシフトです!』

 

 ファーストとサードはラインを詰めた守備位置を取り、それにより出来た隙間を埋めるようにして、外野手三人がインフィールドライン上に列なっている。外野へ打たせないことを前提の守備陣形。

 

「(あたしの腕力じゃ内角を捌くのは難しい。出来ることは、スクイズ......は、間違いなく警戒されてる。ベースより前に居るし。なら、真っ向勝負しかないじゃん......!)」

 

『超前進守備対浪風(なみかぜ)芽衣香(めいか)! 表の攻撃は近藤(こんどう)が、貴重な追加点に繋がるヒットを放ちました。内野の頭を越せば、大量得点のチャンス! 同時に内野ゴロを打てば併殺打の可能性大! この勝負、果たしてどちらへ転ぶのか!?』

 

 芽衣香(めいか)への初球、窮屈なコースのストレートに中途半端に手を出し、空振りのストライク。二球目も、インコースのストレート。今度はきっちり振りに行くも芯を外し、サード方向へのボテボテのファウル。二球で追い込まれてしまった。

 

「(うっ......簡単に追い込まれちゃった。外角なら踏み込んで、先っぽで合わせて内野の頭を越す打球を打てるかもだけど......)」

 

 三球目は、その外角。明らかにそれと分かるボール球のスライダーでカウントを整えに来た。芽衣香(めいか)はタイムを取り、打席を外して目を閉じる。

 

「(思い切り外された、都合のいいコースになんて投げて来ないわよね。勝負球は、インコース。このボールを打たない限り反撃ムードは消える。いっそのこと、金属バットに......ダメ、持ったことないから感覚が狂う。それで失敗したら、絶対に後悔する! コーチも、貫けって言ってた。次の一球が、あたしにとっても、相手にとっても勝負球――)」

 

 芽衣香(めいか)に悟られぬよう、はるかを通じて、全ランナーにサインが送られた。内容は、「スタートを切れ」。そして、芽衣香(めいか)が打席へ戻り、試合再開。土方(ひじかた)は、戻ってきた彼女を観察。

 

「(理想的なカウントは作れたが、目は死んではいない。ここは、念には念を入れる。間違えるなよ?)」

 

 出されたサインに険しい表情で頷いた山南(やまなみ)は、ひとつ息を吐いて、セットポジションに付く。足を上げて、四球目――インコースのストレート。全ランナーが同時にスタートを切った。

 

「(――甘い! それに走った。スクイズ......いや、エンドラン!)」

「(インハイ! あたしが勝つには、コレを打つしかないっ!)」

 

 軸の右足を引き、ボールを芯で捉えると引いた軸足を再度踏み込んで逆方向へ強引に押っ付けた。練習試合で冴木(さえき)が見せた、インコースの流し打ち。足りない反発力を手首の返しと右腕の押し込みで補い、ぶっつけ本番で再現して見せた。

 

「いっけーっ!」

斎藤(さいとう)!」

「くっ......!」

 

浪風(なみかぜ)の打球は、突っこんで来た斎藤(さいとう)の横をカウンターで破って行ったーッ! 全ランナーは、スタートを切っています! 矢部(やべ)、楽々と生還! セカンドランナーの鳴海(なるみ)も、サードベースを蹴る! 一・二塁間の間にポジションを取っていたライトの島田(しまだ)が、無人の外野へ抜けようかという打球に下がりながら追いついたが、体勢が悪い......! 間に合うか!?』

 

「ひとつでいい!」

 

 土方(ひじかた)の指示で、バックホームを諦め、ファーストへ送球。しかし、慣れない内野手の動きからの送球で、やや内側へ逸れた。ベースカバーに入った山南(やまなみ)は、ベースを離れてキャッチ。走ってきた芽衣香(めいか)の身体へタッチに行く、グラブの先が、ユニフォームを僅かに掠めた。

 

『ファーストは、アウト! しかし、取られたあと、すぐさま二点を奪い返しました! 壬生も狙い通りの内野ゴロを打たせましたが、ここは恋恋高校に軍配が上がりました! なおも、ツーアウトながらランナー二塁!』

 

 戻ってきた芽衣香(めいか)を、ナインたち盛大に出迎えるも、彼女は浮かない表情(かお)をしていた。

 

「ナイス! 芽衣香(めいか)ちゃん!」

「どこがよ、すんごい悔しい......」

 

 もしランナーが走って居なければ、ホームゲッツー、セカンドゲッツーもあり得たことも含め、とても悔しがっていた。

 

「欲張りね。二つも打点を上げたのに」

「フッ、打ち取られて満足しているよりずっといいさ。それに、うっすらと浮かび上がって来た」

 

 ――アイツが、懸念に感じていることがな。

 

 二度目のタイムを取った壬生ナインが戻り、あおいがバッターボックスに入る。ツーアウトということで、守備は通常の定位置に戻った。あおいへの初球は、外角のストレート。厳しいコースで、ストライクを奪った。二球目、意表を突いてセーフティバントを試みるも、ファウル。三球目は、食らい付いてカットした。

 

「(セーフティに、カット打ち。ただで死ぬ気はないか。一球インを見せて、外に落として終いだ――)」

 

「ここだな」と、東亜(トーア)は、あおいに指示を出した。四球目、山南(やまなみ)が投球モーションに入った瞬間、ベースに覆い被さるように身を乗り出して、バントの構えを取る。

 

『あっと! 土方(ひじかた)、ショートバウンドを抑えた! しかし、セカンドランナー藤堂(とうどう)、この一瞬の隙を突いてサードを奪いました、盗塁成功! ツーアウト三塁!』

 

 サードへ進むも結局、あおいは三振に打ち取られ、長い攻撃を終えた。

 

「そう言えば、誰と交代するの?」

「ん? 決まってるだろ」

 

 そう答えると東亜(トーア)は、ベンチへ戻って来た藤堂(とうどう)に声をかける。

 

「お疲れさん」

「......はい」

 

 交代を告げられた藤堂(とうどう)は、まるで倒れ込むようにベンチに座り込み、天井を見上げて、ゆっくり深く息を吐いた。

 

「限界、だったのね......」

「肉体的にも、精神的にもな。そりゃそうだろ。打って、走って、守って、旧友相手に普段以上に集中力を研ぎ澄ませていたんだからな。近衛(このえ)、捻じ伏せて来い」

「うっす! よっしゃ、行くか!」

「オッケー」

 

 鳴海(なるみ)とグラブを合わせ、近衛(このえ)はマウンドへ走っていく。その後ろ姿を見つめながら、藤堂(とうどう)は唇を噛みしめた。

 

「......スゲー悔しい」

芽衣香(めいか)先輩も、同じこと言ってた。俺も、悔しい」

 

 スポーツドリンクを渡した片倉(かたくら)も、イニング間の練習を行うナインたちを見て、決意を固める。

 

「決勝は、絶対に投げる......!」

「俺もだ。最後まで、グラウンドに立ってる」

「わたしたちも負けてられないよね」

「うんっ」

 

 一年生たちの姿勢を、想いを聞いた理香(りか)は、どこか安心したように優しく微笑み、瑠菜(るな)は頷いた。

 

「頼もしいわね」

「はい」

 

 そして、七回表の守備。

 あおいに代わってマウンドに立った近衛(このえ)は、ランナーをひとり許したものの、無失点で切り抜けた。

 いよいよ試合は大詰め、終盤戦、最終局面を迎える。

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