「キタッス! 絶好のチャンス到来ッス!」
恋恋高校応援団の中で一際大声で声援を送る、聖ジャスミン学園のほむら。彼女と一緒に観戦している
「今回は、貰ったチャンスじゃないからモノにしたいね」
「ええ。でも、まともに勝負してくるかしら?」
「ネクストが、
ネクストバッターズサークルには、
「う~ん、雰囲気的に、満塁になったら代打。ツーアウトなら、そのままって行くって感じかな?」
「おそらくね。あおいを代える選択肢はないわ。あの子が降りた時点で、試合は終わりよ」
「だよね」
「ヒロぴーも、ぶちょーも、お喋りしてる場合じゃないッスよ! ちーちゃんを見習って、一緒に大声で声援を送るッス!」
「わ、私は、別に大声は出していないぞ!」
「応援グッズのタオルを振り回しながら言っても、まったく説得力ないッス」
「う、うるさいっ!」
「ハァ、落ち着いて見られないわ。それに、暑いし。やっぱり、テレビで見ればよかった」
「あははっ、とりあえず、あたしたちも応援しよっか」
騒がしいスタンドのことなどまったく目にもくれずに、輪の中心に居る
「タイムを取ったけど。向こうのベンチは、伝令を出さないのね」
「必要ないんだろう。お前は、この状況をどう乗り切る? 勝負か、満塁策か」
「......そうね。点差と打順の巡りを考慮して中間守備を、思い切って、ゲッツーシフトを敷くのもありかも」
「サードランナーの
「ええ。欲張って満塁策を選んだ結果大量失点、なんてことになったら目も当てられないわ。いざとなれば、
「ふーん」
「間違い?」
グラウンドの動きを注視しながら、澄まし顔で答える。
「正解か不正解かは所詮結果論さ」
マウンドに集まっていた内野陣が散り、ポジションに戻った
「割り切ったな。勝負する気はさらさらない」
「
「さあな。まあ俺なら、迷わず申告敬遠して勝敗をより明確にする。その方が、バッターも勝ち負けを意識するからな。
「――はい!」
力強く返事をした
『バッテリー、一球大きくウエスト! スクイズ警戒です』
二球目も、大きくウエスト。ボールが、二つ先行。ここで
「やっぱり、スクイズ警戒と見せかけての敬遠。けど、どこまでも冷静ね。
「どうだろうな。
「何かって?」
「今、申告敬遠を行わないこと。そしてなぜ、ウエストでの敬遠に拘るのか。その理由だ」
三球目もウエストされ、四球目に入ろうかという場面。壬生ベンチからも、申告敬遠を行うような動きはない。
「
「確かにそうね。暴投のリスクを考えれば、申告敬遠して然るべき場面。少なくとも、普通の敬遠で問題ないハズ......」
「何かある。上澄みの底に潜む、重要な
それを探るべく
『さあ、ボールスリーからの四球目――仕掛けたーッ!』
「さて、どう出るよ? 貫くか、動くか」
扇の要、
『ウエスト! 恋恋ベンチは、動きませんでした! 結局、フォアボール。全ての塁が埋まります!』
この結果に
「内野ゴロを狙いに、必ずインコース攻めをしてくる。外角は全て、バットが届かないところだ」
「......分かってます!」
「それでもまだ、金属を使うつもりはないのか? 勝利よりも、己の意地を優先させるのか?」
木製バットをギュッと握り、まっすぐ
「フッ、それでいいさ。迷うより全然良い。ただし、信念を貫くのなら決して迷うな。どんなことが起きようともだ。いいな?」
「はいっ!」
改めて打席へ向かう
『な、なんと! 壬生高校、ここで超前進守備を敷いてきました! 外野を守る選手は誰も居ません! これは、恋恋高校が敷いた“9人内野”とほぼ同じシフトです!』
ファーストとサードはラインを詰めた守備位置を取り、それにより出来た隙間を埋めるようにして、外野手三人がインフィールドライン上に列なっている。外野へ打たせないことを前提の守備陣形。
「(あたしの腕力じゃ内角を捌くのは難しい。出来ることは、スクイズ......は、間違いなく警戒されてる。ベースより前に居るし。なら、真っ向勝負しかないじゃん......!)」
『超前進守備対
「(うっ......簡単に追い込まれちゃった。外角なら踏み込んで、先っぽで合わせて内野の頭を越す打球を打てるかもだけど......)」
三球目は、その外角。明らかにそれと分かるボール球のスライダーでカウントを整えに来た。
「(思い切り外された、都合のいいコースになんて投げて来ないわよね。勝負球は、インコース。このボールを打たない限り反撃ムードは消える。いっそのこと、金属バットに......ダメ、持ったことないから感覚が狂う。それで失敗したら、絶対に後悔する! コーチも、貫けって言ってた。次の一球が、あたしにとっても、相手にとっても勝負球――)」
「(理想的なカウントは作れたが、目は死んではいない。ここは、念には念を入れる。間違えるなよ?)」
出されたサインに険しい表情で頷いた
「(――甘い! それに走った。スクイズ......いや、エンドラン!)」
「(インハイ! あたしが勝つには、コレを打つしかないっ!)」
軸の右足を引き、ボールを芯で捉えると引いた軸足を再度踏み込んで逆方向へ強引に押っ付けた。練習試合で
「いっけーっ!」
「
「くっ......!」
『
「ひとつでいい!」
『ファーストは、アウト! しかし、取られたあと、すぐさま二点を奪い返しました! 壬生も狙い通りの内野ゴロを打たせましたが、ここは恋恋高校に軍配が上がりました! なおも、ツーアウトながらランナー二塁!』
戻ってきた
「ナイス!
「どこがよ、すんごい悔しい......」
もしランナーが走って居なければ、ホームゲッツー、セカンドゲッツーもあり得たことも含め、とても悔しがっていた。
「欲張りね。二つも打点を上げたのに」
「フッ、打ち取られて満足しているよりずっといいさ。それに、うっすらと浮かび上がって来た」
――アイツが、懸念に感じていることがな。
二度目のタイムを取った壬生ナインが戻り、あおいがバッターボックスに入る。ツーアウトということで、守備は通常の定位置に戻った。あおいへの初球は、外角のストレート。厳しいコースで、ストライクを奪った。二球目、意表を突いてセーフティバントを試みるも、ファウル。三球目は、食らい付いてカットした。
「(セーフティに、カット打ち。ただで死ぬ気はないか。一球インを見せて、外に落として終いだ――)」
「ここだな」と、
『あっと!
サードへ進むも結局、あおいは三振に打ち取られ、長い攻撃を終えた。
「そう言えば、誰と交代するの?」
「ん? 決まってるだろ」
そう答えると
「お疲れさん」
「......はい」
交代を告げられた
「限界、だったのね......」
「肉体的にも、精神的にもな。そりゃそうだろ。打って、走って、守って、旧友相手に普段以上に集中力を研ぎ澄ませていたんだからな。
「うっす! よっしゃ、行くか!」
「オッケー」
「......スゲー悔しい」
「
スポーツドリンクを渡した
「決勝は、絶対に投げる......!」
「俺もだ。最後まで、グラウンドに立ってる」
「わたしたちも負けてられないよね」
「うんっ」
一年生たちの姿勢を、想いを聞いた
「頼もしいわね」
「はい」
そして、七回表の守備。
あおいに代わってマウンドに立った
いよいよ試合は大詰め、終盤戦、最終局面を迎える。