『熱い熱い戦いを繰り広げたU-18世界大会、決勝戦もいよいよ大詰め! 9回表2点差を追いかけるアメリカ代表、ワンナウトからの連打で一死、一・二塁と一打同点一発が出れば逆転の場面で、強力クリーンナップを迎えます!』
予選を無傷で突破し迎えた決勝戦。
大西、木場、久方怜。そして今、マウンドに立つ猪狩。四人の投手で繋いで来た決勝戦。8回からマウンドを任された猪狩は8回を三者凡退で抑え、9回も先頭バッターを簡単に打ち取ったが、1番バッターに内野安打、続く2番には内野と外野の間に落ちる不運な当たりでピンチを背負った。
この悪い流れを切るためタイムを要求した鳴海は、マウンド上に内野陣を集めて話し合う。ネクストバッターは、スイッチヒッターでサウスポーを大の得意とするヴィクター・コールドバーグ。セカンドランナーは駿足ミッキー・バーミリオン、ファーストランナーも足のあるヤーベン・ディヤンス。外野手の正面に飛んだ打球でも、ほんの僅かでももたつけばホームを奪われる可能性があるランナー。そしてヴィクターは今日、サウスポーの大西と木場からいずれも逆方向へ一本ずつヒットを放っている。
「満塁策にする手もあるけど?」
「キミは、ボクが打ちこまれると思っているのか?」
「そうじゃないけど、満塁の方が守りやすいと想って」
「確かに。四番のマキシマムには特大の一発があるけど、確実性という面ではヴィクターの方が一段優る。準決勝でもホームランを打っているしね」
「けどさ、逆転のランナータダで出すのは悪手じゃね? 芯外しても持ってくパワーある四番だし」
鳴海と猪狩のやり取りを聞いて、二塁手の蛇島、遊撃手の奥居が意見を述べ。三塁手の才賀と一塁手の清本は表情は崩さず、猪狩の答えを待っている。猪狩の返事は当然――勝負。
「オッケー、あとアウト二つしっかり取り切ろう」
鳴海は軽く握った右の拳を小さく振り上げ、サインをベンチへ送る。ベンチの最前線で腕を組み、戦況を見守っている千石はサインを受け取り頷く。
「(バッテリーは⋯⋯いや、彼らは勝負を選択したか。同点を避けるため、ここはセオリー通り前進守備を敷く場面だが⋯⋯)」
もし仮に前進守備の間を抜かれてしまえば、同点になった上に勝ち越しのランナーをスコアリングポジションに残してしまう。ポジションに戻り、ベンチからの指示を待つ鳴海の頭にも前進守備を敷く考えはない。
「(裏の攻撃はこちらも上位からだ、同点までなら構わない。ここはどっしり構えて確実にひとつずつアウトを重ねて行くぞ)」
奥居を経験のあるレフトへ回し、代わりに友沢をショートへ置くことも千石の頭に過ったが、裏の先頭バッターが今日二度出塁している真田であることで思い止まり、下手に動かずこの場を選手たちに託した。
「(――来た。監督の指示は、前進守備じゃなくて右打ち警戒。バッターは二安打とも逆方向への軽打。ライトに打ってくれるならホームで刺せる)」
U-18日本代表の外野手は左から真田、負傷した選手の代わりにサポートメンバーから急遽メンバー入りした矢部、そして、沖田の鉄壁駿足の外野陣。中でもライトの沖田は一年生ながら、友沢、奥居に勝るとも劣らない強肩。
「(右打ち警戒のシフトか。それがどうした、打ち抜いてやるぜ!)」
鳴海から飛んだブロックサインで右打ち警戒のシフトが敷かれるも、右打席に入ったヴィクターはお構いなし。バットを先端をマウンドの猪狩に向けて構える。
『出ました! ヴィクター・コールドバークの代名詞スナイパーショット! 大胆な構えから繰り出される正確無比なバットコントロールは正にスナイパーの名が相応しい! 日本バッテリー、凌ぐことが出来るでしょーか? うーん、一瞬たりとも目を離せません!』
歓声が飛び交う中、鳴海は急がずヴィクターをじっくり観察し、思考を巡らせ、初球のサインを出す。出されたサインに、猪狩は一瞬戸惑いを感じたが首を振ることなく頷いた。
『サイン交換が終わりました。マウンドの猪狩守、セットポジションから足を上げる!』
「(アウトコースだと!? それも――)」
「strike!」
「くっ!」
『バッテリー、初球は外角の変化球から入ってきました。狙い球が違ったのでしょーか? ヴィクター、中途半端なスイングでワンストライク!』
ベンチにも緊張が走った。
千石は目を見張り。険しい表情で戦況を見詰める二宮は、同じ捕手の土方に問いかける。
「おい。お前なら、初球ストライクのカーブ要求出来たか?」
「無理だ。バッターがインサイドのストレートを狙っているまでは読めたが、準決勝の決勝打になったカーブだけは選択肢にない」
「だよな。」
先日の準決勝アメリカ対某国戦。
試合後半一死、二・三塁の場面。内野ゴロでも一点を奪える状況で、左投手から外角のカーブをライトスタンドへ叩き込み勝敗は決した。当然そのデータはチーム内で共有されている。一発勝負、優勝がかかった土壇場でのリスクはそう簡単には背負えない。
「だが、オレたちに出来ないことが彼にはそれが出来る。結果で投手の信頼を勝ち得た」
捕手としての実績、経験、打力、守備、総合力に置いて鳴海より二人の方が一枚も二枚も上。それでも持ち前の観察力と並外れた集中力、勝負所での声かけなど。ひと月に満たない短い期間で投手陣との信頼関係を築き、決勝のスタメンマスクを任されるまでに。
『フォークボール! ワンバウンドをしっかりキャッチ。虎視眈々と次の塁を狙うセカンドランナーもこれでは動けません!』
集中力からの捕球力を発揮し、もう1球フォークを続けたあと外角ボールゾーンのライジングキャノンで打ち気を誘う。
『ファウル! ボール球に手を出してしまいましたが、力のない打球は一塁側のスタンドへ。バッテリー、好打者ヴィクター・コールドバークを追い込みました!』
「(予測より手元でノビたが、ファストボールを狙ってのスライダーは捌ける。問題は、スプリット。このピッチャーは平然とワンバウンドを放る、甘いコースには来ない。ボール球を追いかけて引っかければ、ダブルプレーで試合が決まる。1球外して来るか? それとも――)」
ヴィクターはあらゆる可能性を考えるも、鳴海の中で勝負球は既に決まっていた。
迷いなく出されたサインに猪狩は一瞬目を疑ったが、すぐに頷いてセットポジションに付いた。そして、どこか嬉しそうに静かに息を吐き。まるでランナーの存在が抜け落ちているかのように、力感無くモーションを起こす。
『ピッチャーの足が上がった! キャッチャーのミットはど真ん中! 勝負球は、ストレート!』
「(ファストボールか! いや、これはさっきのファストボールより⋯⋯バ、バカな、このオレがサウスポー相手に差し込まれるだと!?)」
「strike! Out!」
『インハイのストレートにバットが空を切りました! 三振! 強打者ヴィクターを退け、ツーアウト! ランナーはそれぞれベースに釘付け動けません。世界一の栄冠まであとアウトひとつですッ!』
「まさか、この土壇場でアレを完成させるとは⋯⋯まったく、大した奴らだ」
鳴海と猪狩、二人揃って千石へ視線を送る。
結果次第で敬遠も視野に入れていた千石が「決めてこい」と送ったサインは――打者勝負。
二人揃って頷き、ラストバッターを迎え撃つ。
『アメリカ代表の大砲、マキシマム=池田=クリスティンの準備が整いました! アウトカウントはツーアウト、ランナーは当たった瞬間にスタートを切ります。ランナーは共に駿足一打同点、ホームランなら逆転! 逃げ切れるか? U-18日本代表。本場ベースボールのプライドを見せられるか? U-18アメリカ代表! サイン交換が終わりました、ピッチャーの足が上がる!』
初球、二球とストレートで追い込み、三球勝負。
「(来い!)」
「(行くぞ、これがボクの新しい決め球――カイザーライジングだ!)」
決め球は、ヴィクターを打ち取った球種と同じ渾身のストレートは、唸りをあげて構えたミットに一直線。振りに行ったマキシマムのバットは掠ることなく、無情にも空を切った。
「Strike Out! Gameset!」
『空振り三しーんッ! 若き侍たちが世界一の栄光を掴み掴み取りましたーッ!』
試合終了を告げる最後のコール。
次世代を担う選手たちは一斉にマウンドに駆け寄り、勝利の喜びを分かち合った。
そして、もう一つの決戦が始まろうとしていた。
* * *
10月初旬。東京駅新幹線のホーム降り立った聖タチバナ学園野球部新キャプテン橘みずきは、ニヤリと小悪魔のような笑顔を見せた。
「来たわね、東京!」
「何度も来てるぞ」
「県境の隣県ですからね。買い物に出ることも多いです」
「うむ。パワ堂本店のきんつばは至高だ」
少し遅れて下車した六道聖、夢城和花の二人に指摘されてやや不愉快げに目を細める。
「細かいことはいいのよ。さ、行くわよっ!」
人通りの多いホームを抜け、改札を出た三人は駅近くのカフェに立ち寄り、立ち上げたスマホの地図アプリを開き、プロ野球チームの本拠地であり、甲子園東京都予選決勝戦の会場でもある神宮球場へのアクセス方法を調べる。
「やっぱ、バスか電車よね」
「事前に調べていた通りだな。次のバスに乗れば、集合時間20分前には着けるぞ」
「なら、バスでいっか。で、何してんの?」
みずきは、やや小さめのノートにメモを取る和花に訊ねる。
「ただ待つのも非効率ですから。事前配布されたスケジュール表で疑問に思ったことや、質問することをメモしています」
「まじめ~」
「和花は特別な事情があるからな。今回は、野手と投手どっちで参加するんだ?」
「それも直接話して決めようと思っています。可能なら、投手練習に参加したいところですが」
「十六夜さん居るしね。あたしも、早川さんからいろいろ聞きたいし。アンタは?」
聖に振る。彼女は少し考えてから答えた。
「トレーニング方法を訊きたいぞ。恋恋高校は誰もがプレーに迷いがなかった」
「そうですね。恋恋高校の並外れた集中力、判断力高さは姉さんも興味を持っていました」
「で、その優花先輩は受験生なのに特別招集に応じたってワケね。前乗りしてるんでしょ?」
「はい。昨日からこちらへ来ています」
元メジャーリーガー率いるチームと女子選抜チームの特別試合の監督と選手選考を任された恋恋高校の監督も務める加藤理香は、和花の姉・夢城優花にも参加選手として打診をするも、受験を理由に辞退。断りの連絡を入れた際進学後の話題があがり、トレーナー兼マネージャーとして参加することを決めた。
「というワケで、とうちゃく~」
「どういうことだ?」
「あちらの様ですね。行きましょう」
バスと徒歩移動で目的地に到着。資料に書かれた集合場所の通用口前へ向かうと十名ほどの選手と、トレーニングウェア姿の優花が居た。
「姉さん」
「あら、来たわね」
「どうもでーす」
「優花先輩、お世話になるぞ」
集合時間まで待つよう三人に伝え、メンバー表にチェックを入れる。
「せんぱい、新島先輩はどうなったんですか?」
「試合当日に合流予定よ」
「ぶっつけ本番か」
「受験生ですからね。あ、恋恋高校のみなさんです」
三人から遅れること5分。恋恋高校の女子部員が到着。
真紅の優勝旗を掴んだ彼女たちへ一斉に視線が集まる。早川あおいは愛想笑い、十六夜瑠菜は普段通り、浪風芽衣香は得意気に。練習生として参加する一年生の二人は、どこか場違い感を覚えて控え目に。
「あ、あはは、なんか視線がスゴいねー」
「そりゃそうよ」
「堂々としなさい。あなたたちもよ」
「は、はいっ」
瑠菜に叱咤された二人は、背筋を伸ばす。
決勝戦で戦ったアンドロメダ学園のジャベリン五十嵐こと五十嵐由香里、練習試合で対戦した大筒の冴木創、聖ジャスミン学園の選手たちとリラックスした様子で言葉を交わし。参加者全員が揃ったところで、ロッカールームで身支度を調えて、グラウンドへ。
「おはよう。今日から試合までの三日間よろしくね」
ベンチ前に集まった選手は、挨拶をした理香に向かって「よろしくお願いします!」と全員揃って会釈。
「じゃあさっそくアップから始めましょう。夢城さん」
「はい。メニューを発表するわ。先ずは、柔軟とグラウンド一週ジョグ。その後、ベースランニング5本」
二人組に別れ、時間をかけての柔軟した後ゆっくり目のペースでグラウンドをジョギング。狙っていたとばかりにスピードを上げたみずきは、太刀川との会話が途切れたあおいの隣に並んだ。
「早川さーん」
「ん? あ、えっと、聖タチバナの橘さんだったよね?」
「覚えててくれたんですね、橘みずきでーすっ。ブルペンご一緒していいですか? いろいろ教えて欲しいなーって」
「うん、ボクでよければ」
みずきは背中で作ったピースサインを二人に見せた。
「あの行動力はさすがだな。和花も声をかけてみてはどうだ?」
「そうしたいのはやまやまですが」
冴木と共に先頭を走る瑠菜と話せたのは、ベースランニングが終わったあとのことだった。ポジションごとの練習が行われる中、瑠菜と和花はキャッチボール。
「あら、野手投げじゃないのね」
「姉に教わりました。フォームは十六夜さんを参考にさせていただいています」
「そう。じゃあ、このまま続けましょう」
30球を越えたあたりから、二人が投げるボールの違いが浮き彫りになった。綺麗な軌道を描く瑠菜の送球に対し、和花が投げるボールの軌道がややズレることが増え、元野手のクセが無意識に表に現れた。
「キャッチボールは1球も無駄にしちゃダメ、常に投球を意識して行うこと。これは反復練習でしか身につかないわ」
「わかりました」
軸足、踏み出しの幅、リリースポイントなどを1球1球意識したキャッチボールをしばらく続けた。
その頃ブルペンでは、捕手が座っての投球練習。
「ナイスボールです、太刀川さん」
「まだまだ。どんどん行くよー」
太刀川のピッチングを受けるのは、築石岬高校二年
「二人とも男子顔負けの実力ですわね」
「隣のことはいい、そろそろ本気を出して投げろ。至皇理」
聖が受けているのは、討総学園二年佐渡至皇理。
「心外ですわね、真面目と投げていますわ」
「この程度でか? なら、妹と同じ野手に戻れ。その場合どっちかがベンチを外れることになるけどな」
「仕方ありませんね」
おちゃらけた雰囲気が消え、ストレートもスローカーブも今までとは段違いの球速、球威、変化、キレ。そして極めつけは――山なりのスローボールが不規則に軌道を変え、聖のミットを弾いた。
「むっ!?」
「あら、この程度のボールをパスボールですか? これでは試合では使えませんわね。織部さん、彼女の代わりに受けてくださいます?」
「私には⋯⋯」
したり顔で上から目線で煽る至皇理に、聖は眉尻を上げる。
「バカにするな。来い!」
「懲りませんね。気合いだけでは何度やっても結果は変わりませんわよ」
「(――見えた!)」
二球捕り溢したあとの三球目。目を凝らし、不規則に軌道を変えるナックルボールを脅威的な集中力で捕球してみせた。
「まぐれはそう何度も続きませんわ」
「まぐれかどうか試してみるんだな」
「燃えてるねー、私も全開でいくよ!」
「はい」
こうして、紆余曲折ありながらも合宿初日は終了。
合宿二日目の夜、女子代表が宿泊している旅館。レポートを持った優花は、理香の元を訊ねた。
「お疲れさま。どうだった?」
「中から見るのと外から見るのとでは見え方が全然違いました」
客観的に物事を見る大局観を大事にしている優花だが、自身が選手としてプレーしていると少なからず主観が入ってしまう。
「たいしたものよ、たった二日でこれだけ見られるなんて。妹さんはどう?」
「まだわかりません。直接話せていたので、きっかけを掴んでくれれば」
「そう。これ、あなたはどう思う?」
「試合のスターティングメンバーですね。先発投手⋯⋯」
「私はね、今度の試合勝つつもりでいるわ」
窓際に移動した理香は、夜空に浮かぶ満月に視線を向けた。
「すっかり秋らしくなったわね。どうして、今になったと思う?」
「⋯⋯あっ!」
質問の意味を理解した優花の目の色が変わった。
「きっと変わる。違うわね、変えるのよ。必ず」
「――はい」
理香の決意を知った優花は、力強く頷いて答えた。
そして、自らも決意を新たに決心を固めた。この先の可能性を掴み取るため、自分に出来る最大限のことする、と。
次回Another Game最終話になる予定です
アンケート第二弾。仮に続編があった場合のメイン校について。※その他は、アンケート用に活動報告を設けますので、そちらの方へ回答していただけると助かります。
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