7Game   作:ナナシの新人

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番外編最終話です。


Another Game スタートライン

『今年もこの日がやって来ました! レジェンド率いるプロ野球OBチーム対高校女子選抜チーム! 実況はわたくし、INFINET(インフィネット)所属・轟ハルカでお送りしてまいります! そして――』

 

 プロ野球OBチームがバッティング練習を行っているグラウンドを映していたカメラが、客席スタンドの映像に切り替わった。

 

『パワフルTVアナウンサー、響乃こころです。さっそくご覧ください、応援席いっぱいのお客さんを!』

『スゴい人数ですね!』

 

 内野席は即日完売。反響の大きさから急遽用意された外野席の一部も完売と注目度の高さが窺える。

 それもそのはず。今日の試合は例年社会人野球球団の協力ではなく、元プロ野球選手を中心に構成されたメンバーの上、元メジャーリーガーも複数人参加している。

 

『それでは、バッティング練習を終えた選手に話を伺ってみたいと思います。一度放送席へお返しします』

 

 メインマイクが放送席へ戻され、映像はグラウンドへ戻った。

 

『インタビューは準備が整い次第お届けします。おーと! どよめき混じりの大きな歓声が上がりました! 世界のヒットメーカー、鈴木選手のバッティング練習が始まります! そして隣のゲージには、WシリーズMVP・松居選手! この二人が同じユニフォームに袖を通してプレーする姿を誰が予想出来たでしょうかっ!』

 

 スタンドの声も届かないダグアウトの静かな控え室で、女子選抜の試合前ミーティングが行われていた。

 

「スタメンは昨夜発表した通りよ。夢城さん、お願い」

「はい。OBチームの先発投手は、鈴木選手。基本130キロ台中盤の速球とスライダーのコンビネーションで組み立てる本格派⋯⋯なんだけど」

 

 今日の先発マスクを被るのは、攻守の要として所属チームを四度日本一に導いた名捕手。

 

「盗塁阻止率は歴代トップクラス。でもそれ以上に、キャッチング能力が群抜いてる、右打者のアウトコースは要注意」

「際どいところをストライク判定されるかもってワケね」

 

 芽衣香の言葉に、右打者の表情が締まる。

 

「二遊間は、新木選手と井畑選手。両選手とも最近まで指導者だったからブランクは小さい、そのグラブ捌きは健在。次は、打者」

 

 1番から9番、控え選手まで誰もが一度は名前を聞いたことのある名選手の名が連なり、選手たちが臆してしまいそうになる前に、理香は先手を打つ。

 

「つけ入る隙はむしろ多いわ。球史に名を残した名選手も衰えたから引退したのよ。現役の指導者は居ないし、解説をしてる人も居れば、中には完全に身を引いていた人も居るわ。準備期間はそうそうなかったはずよ。何より、データ多いしね」

 

 配られた資料を手に各々話し合いを重ね、ロッカールームでユニフォームに袖を通し、知らせに来た係員の案内でグラウンドへ出る。荷物をベンチに置き、グラブを手に守備練習を始める。

 

「相変わらずいい動きしてんなー、冴木のやつ」

「でやんすね」

「冴木さんとコンビを組むのは、五十嵐さんかな?」

 

 三塁側のベンチ付近の席に居る鳴海たち恋恋高校野球部男子の面々が彼女たちの守備練習を見守っていると、両チームのスタメンが発表された。

 

「うち三人は先発落ちか~」

「他の投手もみんなベンチに居ないでやんす」

「早い継投になりそうだね。加藤監督、本気で勝ちに行くつもりだ」

「ああ、しかし――」

 

 受験勉強の合間を縫って駆けつけた甲斐の視線の先には、OBチーム先発の鈴木がベンチ前で古多を相手にキャッチボールで肩をならしている。

 

「50近い人の動きじゃないな、腕の振りが鋭い」

「去年138キロ出して、9回完封してるんだろ」

「化け物でやんすね⋯⋯」

 

 守備練習が終わり、両選手ともにベンチへ戻っていく。

 しばしの休憩を挟んで開会セレモニーが行われ、大歓声を背中に浴びながらOBチームがポジションに散っていく。

 

『鈴木選手の投球練習が終わりました、間もなくプレイボールです!』

 

 先頭バッター佐渡摩智が打席に入り、球審の右手が挙がる。

 

『試合が始まりました! 選抜チームの先頭バッターは、討総学園二年生の佐渡摩智選手。負けん気の強さと初球から振ってくる積極性が持ち味です! さあ、注目の初球――あーとっ!』

 

 初球、すっぽ抜けたボールが肘当てに直撃。デッドボール。

 

『なんと、初球デッドボール! これは当てた方もイタい一球でしょう。試合は波乱幕開けになりました!』

 

 治療に走った優花から「問題なし」との合図を受け、安堵の顔で理香はひとつ息を吐いた。

 

「(どうであれ、願ってもないカタチでノーアウトでランナーが出た。この機は逃しちゃダメ、攻めるわよ)」

 

 サインに頷いた二番の冴木は、バットを寝かす。

 

『攻守共に高いレベルのプレーが魅力な冴木選手ですが、送りバントの構え。後ろには、甲子園準優勝の立役者五十嵐選手が控えています。ここはしっかり得点圏内にランナーを進めたいところ』

 

 セットポジションからの初球――。

 

『ランナー走った! バッターはバットを引いて判定はボール、二塁へ送球! タッチアウト! スローイングはやや一塁方向へ逸れましたが、セカンド新木選手が上手く掬い上げてタッチアウト! 盗塁失敗。果敢に攻めましたが、ここは一歩及びませんでした』

 

「初球スチールを読まれたんでしょうか?」

「どうかしら。初球もシュート回転して抜けていたわ。ただ、捕手の送球はあそこしかないという場所へきたわね。これは大きな収穫よ」

 

 やや一塁方向へ逸れた送球はショートバウンドして、ちょうど滑り込んできた走者の足先にどんぴしゃり。僅かでもズレていれば、セカンドベースを奪われていた。

 戻って来た摩智に痛みの確認と労いの言葉をかけ、試合に目を戻す。冴木は、膝元のスライダーを打たされ内野ゴロ。三番五十嵐は力のある高めのストレートを空振り、三振。ランナーを出すも結果的に三人で攻撃を終えた。

 

「聖、相手のデータは頭に入ってるわね」

「もちろんだぞ。至皇理、先に行ってるぞ」

「ええ」

 

 打席と投球の両方に備えていた至皇理に声をかけた聖は一足先にグラウンドに出て、内野陣とサイン確認を行い、彼女が出て来るのを待ち、二人は投球練習を行う。

 

『選抜チームの先発を任されたのは、佐渡摩智選手の双子のお姉さん、佐渡至皇理選手。投手だけではなく、内外野をそつなく守れ、クレバーな投球術と勝負強い打撃が魅力の二刀流です! OBチームを相手にどのようなピッチングを見せるのでしょうか』

 

「サイン確認は?」

「必要ありませんわ」

「そうか。では、行くぞ」

「ええ⋯⋯」

 

「潰しますわ」と続いた至皇理の声は客席の大歓声でかき消され、聖には聞こえなかった。

 

『OBチームの先頭バッターは、もちろんこの人! 世界一のヒットメーカー、鈴木選手の登場です!』

 

 研ぎ澄まされたオーラに圧倒されそうになりながらも、データと実際の立ち姿を合わせて、聖は配球を考える。

 

「(初球から振ってくるタイプだ、ボール球にも手を出す。引退後の試合でも、そのスタイルは変わってないぞ)」

 

 打ち損じてくれれば儲けものという考えで出されたサインに素直に頷き、至皇理は投球モーションを起こす。

 

『佐渡選手の足が上がった! レジェンドを相手に臆せず向かっていけるでしょうか?』

 

「(誰であろうと関係ありませんわ。私の摩智ちゃんを――)」

「(――逆球!?)」

 

 構えたコースとは真逆の内角ボールゾーンのストレート。

 

『捕らえた! 鋭い打球はライナーが一塁線を抜けて――ラインを僅かに切れました。ファウルです! 抜けていれば間違いなく長打だったでしょう』

 

「⋯⋯至皇理、ボールは走ってるぞ」

 

 新しいボールを受け取った至皇理は、目を閉じる。

 

「(これが世界ですか、広いですわね)」

 

 小さく息を吐き、聖を見る。

 

「(ん。至皇理の雰囲気が戻った。やる気になったか)」

 

 聖は、バッターへ視線を移す。迷いなく振り抜かれた一振り。警戒心を強めるには充分だったが、恋恋高校との経験を活かして逃げ一辺倒にはならない。実戦とデータをフル活用して、勝負出来る状況に持っていった。

 

『ここもファウル、もの凄い粘り! カウント2-2、次が8球目!』

 

「(よし、連続でストレートを見せられた。勝負はここだぞ!)」

 

 バッテリーが選択した勝負球は、揺れながら進む山なりのナックルボール。振りに行ったミートポイントの手前で逃げるようにスッと沈んだ。しかし、ミットにボールの感触がこない。

 

『ヒット! ワンバンウドになろうかというボールを捉え、レフト前へ運びました! こちらも先頭バッターが出塁です』

 

「コースは完璧だったわ。あれを拾われたら仕方ないわね」

「はい。本当の勝負はここからです」

 

「わかってるわね?」と、優花はベンチを見るバッテリーにサインを送り、二人とも小さく頷いて試合に戻った。そして、二番打者が打席に入る。

 

『打席には、井畑選手。バント、右打ち、エンドラン、小技も得意な守備の名手です。バッテリー、一塁ライナーを目で牽制して、初球――ボール。なんと、スローカーブから入ってきました』

 

 バッター有利のカウントを作り、二球目。

 

『スタート! しかし、バッテリー読んでいた! 大きく外してストライク送球! 判定は、セーフ! やや余裕のあるタイミングで、盗塁成功。ノーアウト二塁とチャンスを拡げました!』

 

 右打ちで進塁打。そして、続く三番・髙橋の打席は――。

 

『ライトへのフライ、ランナータッチアップ。返球は返って来ません。先制点はOBチーム! 無駄のない速攻劇で一点を奪い獲りました!』

 

 先制点を許すも四番・松居を定位置のライトフライに打ち取り、追加点は許さず攻守交代。四番から打順も三者凡退に打ち取れ無得点に終わったが、理香の顔に焦りの色は一切ない。

 裏の守備。ランナーを一人許すも後続を抑えた。

 試合は進み、三回裏。太刀川がマウンドに上がり、中軸を打つ至皇理はそのままレフトへ回って、新島はベンチに下がる。

 

『選抜チーム、鈴木選手を歩かせるもこの回をゼロに抑えました!』

 

「軌道はだいたい頭に入ったでしょ。ここからは狙い球を絞っていきなさい。摩智、見れてないけどいけるわね」

「当然だぜ!」

 

 先頭バッターの摩智は打席へ向かい。ネクストの冴木は、新島と話している。

 

『引っかけた、平凡なサードゴロ! しかし、佐渡摩智選手の足は速い! これも際どいが――』

 

「アウトッ!」

 

『アウトです! 選抜チーム先頭を出すことが出来ません。二番、冴木選手が打席で構えます』

 

 外角のストレートをファウル。二球目、外から巻いてくるスライダーを見逃して追い込まれた。理香は、新島に確認。

 

「今のね、バックドアのスライダー」

「そうです。外れたと判断したボールをストライクにされました」

「さすが、球界の頭脳。簡単に的を絞らせて貰えないわね」

 

 三球目、ボールゾーンへ逃げるツーシームを追いかけてしまい、ショートゴロ。左打者への外角の出し入れ。更に一巡目は使わなかったツーシームを織り交ぜたコンビネーションに右打者だけではなく、左打者も気を配る必要が生まれた。

 なかなか突破口を作れないまま、試合は中盤六回。

 

『選抜チーム、この回もランナーを出せません。許したランナーは初回の死球のランナー1人だけ。まさに、快刀乱麻のピッチングです!』

 

 苦戦は覚悟していたとはいえ、ノーヒットのまま回が進んでいくにつれて、優花の顔が徐々に硬くなっていく。

 

「大丈夫、誰も振り負けていないわ。指揮官は決して顔に出してはダメ。ベンチの顔色を窺うようになったら終わりよ」

「――はい」

 

『OBチームは7番下位打線からの攻撃。選抜チームはここで投手交代。3回1失点の太刀川選手から、地面すれすれから投げるサブマリン投法の早川選手へスイッチです。流れを変えるピッチングを期待したいところ』

 

 あおいは、幸先よく先頭を高めのストレートで三振に切り、続く8番も低めのシンカーで狙い通り内野ゴロを打たせた。

 

『サードのアンツーカーで打球が跳ねた! サード佐渡摩智選手、体で止めるも投げられません! 記録は内野安打!』

 

 ベンチを出た優花は、大丈夫だと言い張る摩智を強引にベンチ裏へ連れて行く。

 

「和花さん、行くわよ」

「わかりました」

「キャッチボールやるわよー」

「お願いします、浪風さん」

 

 大急ぎで準備を進める、和花。マウンド上では、内野陣を交えて話し合い。そして、場内には選手交代のアナウンスが流れた。

 

「元気そうでやんしたが、大事をとっての交代でやんすかね?」

「だろうね。預かってる立場だし、無理はさせられないよ」

 

 サードに和花が入り、試合再開。OBチームは代打が起用され、ファーストランナーは土と人工芝を跨ぐ大きなリード。

 

「スゲー強気。走る気満々って感じだなー」

「うーん、どうかな」

「何が?」

 

 奥居は、鳴海に問いかけるも、その返事は曖昧なもの。

 

「ま、なんとなく⋯⋯」

「何だよそれ」

「リードだろ」

 

 恋恋高校の盗塁の名手、真田が意見を述べる。

 

「あの人、現役時代6年連続30盗塁を記録したスペシャリストだ。鈴木選手が先発の子の速いクイックで余裕あったんだぜ、早川相手にあそこまで強気なリードを取る必要性は薄い」

「それもあるんだけど⋯⋯」

 

 鳴海の予感は的中する。

 告げられた代打はプロ野球引退後、去年まで独立リーグでプレーし、通算打率3割超のハイアベレージヒッター、内河。

 盗塁は仕方ない、と割り切ってカウントを貰いにいった外角へ逃げるカーブを逆方向へ流し打たれた。

 

『冴木選手飛び付く! 打球は一・二塁を破ったー! 新木選手、現役時代を彷彿とさせる俊足を飛ばして三塁へ! ワンナウト三塁一塁とチャンスが拡がりました!』

 

 タイムを取る。

 申しわけなさそうな顔でマウンドへ走った聖を、あおいは笑顔で迎え。冴木から「ミスは誰にでもある、失敗を恐れて消極的になるな」と励ましと共に活を入れられ、気を取り直して顔を上げる。

 

「大丈夫そうね。夢城さん、あなたならどうする?」

「セオリー通り、前進守備でホームアウトを狙います」

「バッターは、鈴木選手よ?」

「それでもです。うちの攻撃はあと三回、ここでの失点は致命傷になりかねません」

「そう」

 

 迷いのない優花の言葉を聞いた理香は、自ら声を出してナインに指示を出す。

 

「内外野前進! サード、ベースに付いて! レフトはもっと前へ!」

 

 指示の意図を誰よりも早く理解した至皇理は満面の笑みで、更に前進。

 

『選抜チーム、レフトがインフィールドライン上まで前進する変則シフト! これはいったいどういう意図なのでしょうっ?』

 

「これだとレフトフライは確実に失点します」

「そうね、でもいいの。残念だけど、うちの外野じゃ定位置のフライでもホームで刺すのは難しいわ。だけど、ゴロでなら勝負出来る。ここまで打球は上がってないしね」

 

 サードを守る和花がベースに貼りついていることで、サードランナーは牽制を警戒して大きなリードを取れない。開いた三遊間の穴を、至皇理がカバーするシフト。

 

「加藤監督、勝負に出たな! ゴロならホームで殺せる」

「それだけじゃないよ」

 

 至皇理のカバーで五十嵐はセカンド寄り、合わせて冴木もファースト寄りのポジショニング。サードと同じく、ファーストの土門季音もベースについているため、ファーストランナーのリードが小さい。

 

「ショートがセカンド寄りだから、打球次第でセカンド併殺も狙える。走られたら歩かせればいい。これは実質、満塁策だよ」

「ベンチは勝負の一手を打った。後はバッテリー⋯⋯いや、グラウンドに立つあいつら次第か」

 

 恋恋ナインだけではなく、女子選抜チームのブルペン陣、スタンド中が勝負の行方を見守る。

 

「抑えなさい、あおい。あなたなら必ず抑えられる⋯⋯!」

「センパイ、ファイト! 聖、ちゃんと捕りなさいよ!」

 

 そしてその中には、各プロ球団のスカウトの姿があった。

 ここが試合の山場と見て。彼女たちが、この先の舞台に立てるだけの資質を持ち合わせている否かを⋯⋯試合当初、少なからずあった偏見の目を捨て去り、見定めようと真剣な眼差しを向けている。来る、ドラフト会議へ向けて――。

 

「私たちに出来るお膳立てはここまで。後は、あの子たち次第――」

「はい、そうですね」

 

『サインに力強く頷いた、臆する気配は微塵もありません! 早川選手、注目の初球――』

 

 この試合の左右する勝負。

 新たな舞台のスタートラインに立つための勝負。

 そして、この試合の先に続く勝負はまだ始まったばかり。




次回作になります
https://syosetu.org/novel/350611

アンケート第二弾。仮に続編があった場合のメイン校について。※その他は、アンケート用に活動報告を設けますので、そちらの方へ回答していただけると助かります。

  • 恋恋高校
  • あかつき大付属
  • 聖タチバナ学園
  • オリジナル校
  • その他。パワプロに登場する学校
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