7Game   作:ナナシの新人

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game12 ~新戦力~

 アンドロメダ学園との試合が終わりグラウンド整備後理香(りか)は、はるかが理事長から戻ってきたのを確認してからナインをベンチ前に集めた。

 

「みんなおつかれさま、今日の部活はこれで終わりよ。鳴海(なるみ)くんと仮入部の子はちょっと残ってね。キャプテン挨拶をお願い」

「はい。全員整列、礼!」

 

 ――ありがとございました!

 声を揃えてグラウンドへ頭を下げて解散。鳴海(なるみ)と新入部員は言われた通りベンチ前に残る。

 

加藤(かとう)先生、これを」

「ありがとう。ごくろうさま」

「いいえ、それでは失礼します」

 

 試合の配信に使っていたパソコンやカメラを受け取り、部室に片付けてからベンチに戻る。

 

「お待たせー」

「いえ、それで何の用事でしょうか?」

 

 部室から紙袋を持って戻ってきた理香(りか)に、鳴海(なるみ)が代表して訊く。

 

「ふふっ、これよ!」

「お、おおーっ」

 

 紙袋からビニールに包まれた真新しいユニフォームとアンダーシャツをベンチに並べて置いた。

 

「みんなのユニフォームよ。あなたたちも明日からは、このユニフォームで練習に参加してね」

 

 パチッとウインクをした理香(りか)

 仮入部から一週間、練習という名の過酷な基礎体力強化(筋トレ)に耐え抜いた新入部員たちは、ようやく恋恋高校野球部の一員と認められた事に感動した様子で新しいユニフォームを手に取った。

 

「ダサいユニフォームだよな」

「いきなり冷や水かけないであげて」

「あはは......」

 

 白地に高校野球では珍しいピンクを基調とした個性的なユニフォームに素直な感想を述べる東亜(トーア)理香(りか)は咎め、鳴海(なるみ)は苦笑いでやり過ごす。

 

「失礼します!」

「はい、おつかれさま」

 

 新入部員たちは挨拶をして帰宅。

 ベンチには東亜(トーア)鳴海(なるみ)理香(りか)の三人が残った。

 

「あのもう一着は?」

「ああ、これ? 渡久地(とくち)くんの分よ」

「んなもん着ねえよ」

「あら、テレてるの?」

 

 東亜(トーア)は、理香(りか)を無視して本題に入る。

 

「さて、今日の総括といくか。打撃は70、守備は40ってところだな」

「40点ですか......」

 

 最終回のドタバタ劇にある程度厳しい評価を覚悟していた鳴海(なるみ)だったが、予想通りの低い点数に若干落ち込む。

 

「4点目は要らない点だったな。あの場面で左に打たせサードランナーを無視するのであれば、一つ前の牽制はファーストへ投げるべきだったな。お前、楽な方を選んだだろ?」

「うぐっ......」

 

 図星を突かれて顔をそむけた。

 最終回サード牽制を入れた場面。

 各ランナーのリードが大きく牽制を投げると決めた鳴海(なるみ)は、サードランナーとファーストランナーのどちらに牽制球を投げるか迷い、最終的にサードランナーを選択した。

 その理由は二つ。

 一つはサードランナーの存在価値。ヒットは勿論、暴投、ボーク、エラー、四死球でも失点に繋がる。さらにリードが大きければ内野ゴロを打たせた場合であっても失点の確率が上がる。そのため牽制を挟みホームに近いサードランナーのリード小さくさせる狙いがあった。

 そして二つ目は、鳴海(なるみ)が本来ショートである事が影響していた。

 ショートは基本的にファーストセカンドへの送球が多くサードへ投げる事は稀で中継プレー以外では一試合に一度有るか無いかくらいの割合。

 この送球方向を捕手のポジションに当てはめた場合セカンドサード方向への送球には慣れているが、ファーストへの送球はショートからサードへの送球に近い感覚になるためサードランナーと送球が重なるリスクをおかしてまで送球に自信のあるサードへの牽制を選択した。

 

「あの場面の牽制は本気で刺す必要は無い。ファーストに投げリードを小さくさせておけば、あのやや深めの位置での捕球でも奥居(おくい)の肩であれば十分ゲッツー狙いで勝負出来た」

 

 やや厳しく言った東亜(トーア)だったが、小さく口角を上げる。

 

「だが、あれでいい」

「えっ?」

「お前は、余裕のある5点目をやらなかった。結果を出した、それでいい。理香(りか)

「はいはい。鳴海(なるみ)くん、これ」

「キャッチャーミット?」

 

 理香(りか)鳴海(なるみ)に渡したのは、新品のキャッチャーミット。

 

「お前には本格的にキャッチャーへコンバートしてもらう」

「キャッチャー......」

「部の備品じゃ手に馴染まないでしょ? 因みにそれ、渡久地(とくち)くんのポケットマネーだから」

「え!?」

 

 手に持ったミットを見つめていた鳴海(なるみ)は、東亜(トーア)のポケットマネーと聞きブンッ! と音が出そうな程の勢いでベンチに座り足を組む東亜(トーア)に向き直す。

 

「フッ......」

「期待されてるわね」

「えっと、ありがとうございます」

 

 鳴海(なるみ)は頭を下げて、先に校門で待つ五人の元へ走っていった。

 

「じゃあ先に行ってるわ」

 

 理香(りか)も部室に置いたパソコンとカメラを持ち校舎で帰り支度。

 一人ベンチに残った東亜(トーア)はタバコに火をつけ、誰もいない空間に向かって問いかける。

 

「お前から見てどうだ? あいつは」

 

 返事の代わりにベンチの裏から恋恋高校の制服を身にまとい髪をツインテールにまとめた少女が姿を現した。

 

「才能はあると思います。正直、あの回はもっと点を取られると思いました」

 

 少女は最終回の鳴海(なるみ)の守備を振り返りながら答える。

 

「あの状況であそこまで開き直れる人はそうは居ないですから」

「まあな。でだ、賭けは俺の勝ちなわけだが」

「......わかってますよ。野球部でお世話になります」

 

 少し納得いかない表情(かお)だが少女はしぶしぶ頷いた。

 東亜(トーア)は、残ったユニフォームを少女に放り投げる。

 

「素直じゃあねぇな、まあいいさ。そう言えばまだお前の名前を聞いてなかったな」

瑠菜(るな)です。十六夜(いざよい) 瑠菜(るな)

 

 東亜(トーア)瑠菜(るな)が出会ったのは、恋恋高校近くのバッティングセンター。メダルを渡した恋恋高校の生徒が瑠菜(るな)だった。

 瑠菜(るな)のバッティングにセンスを感じた東亜(トーア)は、アンドロメダ学園との試合が決まったあと瑠菜(るな)を野球部へ勧誘したのだが、彼女の返事は「いまさら入れない」と言う答えだった。

 

「勝負?」

「一打席勝負。俺が勝てばお前は野球部に入る。俺が負けたら......まあ何でもいい。値段を問わず好きな物をくれてやるよ」

「わかりました」

 

 瑠菜(るな)は、東亜(トーア)から挑戦を迷うこと無く二つ返事で受け入れた。だが、彼女は特定の欲しいものがあった訳ではなく『リカオンズの渡久地(とくち)東亜(トーア)』と勝負できる事が嬉しかった。

 二人はバッティングセンターを出て、近くの公園へ場所を変える。

 

「で、どっちでやる?」

「えっ?」

「お前、投手だろ?」

 

 一瞬で見抜かれた瑠菜(るな)は、目を大きく開く。目を閉じて胸に手を添えて息を整えてから顔を上げた。

 

「バッターで、お願いします」

「オーケー」

 

 プロ野球の並み居る強打者を手玉に取り勝ち星を積み上げた伝説の投手との勝負を選んだ。

 

「ハンデをくれてやる」

「いりません!」

「そう言うなよ。勝負を成立させるためだ」

 

 元プロと素人との差を埋めるため提案。

 バント以外でインフィードに飛ばせさえすれば瑠菜(るな)の勝ち。

 

「さあ行くぜ」

「............」

 

 大きく振りかぶる東亜(トーア)に対し、バットを握る両手にグッと力を込める。

 東亜(トーア)は、それを見越したように初球のスローボールを真ん中高めに放った。

 タイミングが合わず見逃してストライク。

 二球目は110km/h程のストレートを真後ろへのファウルで追い込んだ。

 

「ふぅ~......。んっ!」

「ふーん」

 

 ――こりゃあ打たれるな。

 空振りを取る予定だった二球目にタイミングを合わせてきたのを見て、細かいコントロールが出来ない今のままでは打たれると、東亜(トーア)は感じた。

 それでも構わず振りかぶる。瑠菜(るな)は、球種を絞らずに素直に東亜(トーア)の投球モーションにタイミングを合わせた。

 

「――か」

「っ!?」

 

 コーンッ!

 東亜(トーア)の右腕から投じられたボールは、アスファルトを転々と転がる。東亜(トーア)の言葉に動揺した瑠菜(るな)は、真ん中を通ったストレートを見逃した。

 

「俺の勝ちだ」

「............」

 

 頬を染めて東亜(トーア)を睨む。

 

「まあ今のは無効にしてやる」

 

 笑みを見せた東亜(トーア)は、新しい賭けを持ち掛けた。

 それは週末のアンドロメダ学園との試合に勝利することだった。

 

 

           * * *

 

 

「そのミットどうしたの?」

「コーチに貰った」

 

 いつもの十字路で四人と別れ、あおいと二人で歩いていた鳴海(なるみ)の足が止まった。

 

「......本格的にキャッチャーになれって言われたよ」

「ふーん、そっか~」

「俺、キャッチャーなんて......」

 

 あおいは数歩先に歩いてから振り返る。

 

「でもボクにはショートの時より楽しそうに見えたよ、マスクを被ってる時の鳴海(なるみ)くん」

「えっ?」

 

 うつむいていた顔を上げると、あおいは笑顔を見せた。

 

「さあ帰ろっ?」

「あ......うん。そうだね」

 

 二人は、最終回のリードについて話をしながら家路を歩いた。

 

 

           * * *

 

 

十六夜(いざよい)さんの勧誘はうまくいったの?」

「ああ、明日から練習に参加する」

「そう。それにしても無謀に思えたけど本当にコールドで終わらせられるなんて......」

 

 理香(りか)は、グラスを口に運ぶ。

 今日も東亜(トーア)理香(りか)はいつものバーに来ている。練習後の日課になりつつあった。

 

「ふぅ、おいしい。そうだ、キミの狙い通りさっそく試合の申し込みが多数きてたわよ」

「そうか」

 

 これが東亜(トーア)が言ったアンドロメダ学園にコールドで勝つことで生まれる付加価値。試合をリアルタイムでネット配信したことで動画を見た人間がネット上で拡散してくれた。

 この宣伝効果は抜群。

 他校の野球部関係者の目に止まりさらに一年生相手とは言え、春の覇者アンドロメダ学園にコールドで勝利したことで狙い通り練習試合の申し込みが殺到した。

 

「他県の強豪校からもきてるわよ」

「そうか。毎週末土日に試合を組め」

 

 投手が二人になったことで連戦を組めるようになったことが今回の試合の一番の収穫とも言える。

 

「日曜は遠征でもいいわよね」

「ああ。対戦校の選定はお前に任せる好きにしてくれ」

「オッケー」

 

 理香(りか)はスマホを起動させパソコンから転送したメールを確認しながら、東亜(トーア)に訊いた。

 

「ところで近衛(このえ)くんはどうするの?」

「あいつはライトと抑えの二刀流で行く。早川(はやかわ)瑠菜(るな)も完投できるスタミナはねえからな」

「納得してくれるかしら?」

「させるさ。それよりも問題はお前だ」

「わたし?」

 

 なんのことか分からず首をかしげる。

 

「練習試合は鳴海(なるみ)の実戦経験と、お前の采配を養うことが目的だからだ」

「......契約、8月まで延長しない?」

「公式戦一試合につき100万で引き受けてやるよ」

「はあ~、意地悪ね。一雇われ保健医師に700万円も払えるわけないじゃない」

「なら必死に身に付けることだな」

 

 頬杖をつく理香(りか)東亜(トーア)はせせら笑い、グラスを口に運んでから今後のスケジュールについて二人はしばらく意見を交わした。

 

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