『さあ、ツーアウトまで来ました! 北海道フィンガーズ
千葉マリナーズの本拠地で戦うマリナーズ対フィンガーズの二回戦。
昨シーズン、球界のドン・
フィンガーズの投手・
そして、バッターボックスで対するは球界を代表する天才打者、
『ストライク! バッターボックスの
「(くそっ......。分かっているが、どうしてもフォームが崩れる)」
優勝決定戦の五試合前、
そして、その余波が今なお、
『
高めの浮き上がるようなストレートに手を出し、空振りの三振。
マウンド上で、クールに小さくガッツポーズを見せる
「
「......監督」
顔を上げた先にはマリナーズの監督を務める
「しばらく、下でフォームを固めて来い」
登録抹消、二軍降格通告。
ロッカールームの荷物を片付け、重い足どりで球場を後にする。
「天下の
「――と、
ルーキーイヤー以来の二軍降格にショックを隠せないでいた
「......なぜ、お前がこんなところに居る!?」
「図星か。悩める天才にアドバイスをしてやろうと思ってな」
「アドバイスだと? ふざけるな! 敵のお前からの情けなど受けない!」
「そう邪険にするなよ。俺は既に、リカオンズとは縁を切った身だ。プロ野球界にも二度と復帰しないと契約した。つまり、お前とは二度と勝負する事は無いんだ、もう、敵も何もねぇだろ?」
――損はさせない。まあ話だけでも聞いてみろよ。
「お前は打席で考えすぎている。フォームの崩れを極度に恐れ、本来の自分を見失っている。確かにお前は天才だ、この先お前以上の打者はそうそう出てこないだろう。だが、今のままなら消えるぞ」
「精密機械ほど故障した場合の復旧は難しい。だが、俺としてもお前程の才能がこのまま消えるのは忍びない」
「......何が言いたい?」
「取引だ」
翌朝10時。恋恋高校初遠征試合の采配を
「さて、始めるとするか」
「フン」
マウンドとバッターボックスで
「お前が投げるんじゃないのか?」
「本来なら俺が投げたいところだが、生憎肩を故障しているんでね」
「故障だって?」
「お前らとの試合でぶっ壊れたって訳さ。今の医学じゃ完治は出来ない。まっ、そう言う事だからコイツで我慢して貰う。行くぞ」
ボールをセットして、スイッチを押した。
マウンドよりも数メートル後方にセットされたピッチングマシーンから放られたボールは、一度視界から消える緩い山なりの超スローボール。
「くっ......!?」
打ち損じた打球はバックネットに直撃し、転々とファウルゾーンを転がる。
「次、行くぞ」
「ああ......」
二球目も同じ山なりの軌道の超スローボール。
「くそっ......!」
「左肩が突っこみすぎだ。そんなアッパースイングじゃ打てるモンも打てねぇぜ」
「......次だ、来い!」
気合いの入った表情で自身を見据える
三度目のファウルチップを叩いた
「(――遅い。
横目で、
「(だが、あの
「どうした? もう、ギブアップか」
「まさか。続きだ、来い!」
「フッ、そう来なくっちゃな」
このあと二時間ぶっ通しでバッティング練習を続けた。
時計は12時を回り区切りを入れるため最後の一球。
「フンッ!」
――カィーン! と、ようやく良い当たりがレフト前へ飛んだ。近くのコンビニで昼食を買い休憩を入れて、13時から再び練習を再開。
「フゥ......」
「悩んでるって感じの
「......打球が飛ばない」
良い当たりも増え、狙って左右に打ち分ける事も出来るようになったが、致命的に打球が上がらず飛距離は伸びない。
「飛ばなくて当たり前だ。簡単に飛ばさせないために、超スローボールに設定しているんだからな」
「なに?」
遅いボールは反発力が小さく飛び難い。たとえ金属バットでも、しっかりと振り芯で捉えなければ外野を越すことは困難。金属よりも遥かに反発力の小さな木製バットでは、なお更に難しい。
つまり、スローボールを遠くへ飛距離を伸ばす為には打者の力量がもろに試される事となる。
「ボールの芯とバットの芯を両方しっかりと捉え、なおかつ打球に力を乗せる事が出来なければ、この超スローボールを飛ばすことは出来ないのさ。逆に言えばこいつを柵越え出来た時こそ理想的なフォームの完成って事だな」
「......続けてくれ」
「しかし、お前が高校野球のコーチとはね。どういう風の吹き回しなんだ?」
「ただのギャンブルさ」
「ギャンブル?」
二人は、バーで酒を呑み交わしながら会話をしていると、そこへ
「
「どうも」
「そうだったのね。教えてくれてもいいのに」
「あはは」
「フゥ......。で、スコアは?」
「6-2で負けたわ......。はい、これ」
スコアブックを
「女子選手が多いんだな。先発も女の子か」
「ああ、一応二枚居るが。二人とも一巡目は特殊な軌道で乗り切れるが、どちらも二巡目で掴まる傾向が高い」
「理由は?」
「最速110キロ程度、どちらもこれといった決め球が無い」
「球筋に慣れられると厳しいってことか。なるほど合点が云った。それで
「まあ、
小さく笑みを浮かべグラスを口に運ぶ二人に、訳もわからず
「なんの話?」
「
「それは責任重大だね。ところでコーチを引き受けた理由がギャンブルって?」
「
「えっ......治るのか?」
「ええ、間違いなく治るわ。わたしの紹介する博士ならね」
「そうか......。これは早く克服しないとね」
翌日からの
そして、この練習は恋恋高校の部員たちに良い影響を与えてくれた。プロアマ規約があるため、
特に力を伸ばしたのは、以前
そして、恋恋高校でバッティング練習を始めてからあっという間に十日と言う日々が過ぎ去った。
『さあ、やって参りました。千葉マリナーズ対大阪バガブーズの一戦! 実況担当は
二軍落ちから最短の10日で一軍復帰を果たした
一回の攻防を終え、二回の裏。
バッティンググローブを着け右バッターボックスで構える。
『ピッチャー振りかぶって第一球を投げました! 指にかかったストレートがアウトローへ突き刺さります! ワンストライク。バッターはピクリとも動きません』
『ピッチャー振りかぶって第二球を投げました! 際どい所へのインコース!』
『は、は、入りましたーッ!
『放送席、放送席。ヒーローインタビューです! 本日のヒーローはもちろんこの人。四打数四安打二本塁打五打点を上げたマリナーズ、
お立ち台の上で帽子を取り歓声に答える。
『いやー。実に見事なバッティングでした』
『ありがとうございます。僕自身が一番驚くほどの出来です』
『完全復活と言ってもよろしいのでしょうか?』
『そう言ってもらえるよう、今日のようなバッティングを続けていければ思います』
『今後の活躍を期待しています! それでは球場のファン、画面の向こうで見ている多くのマリナーズファンに一言お願いたします』
『今まで足を引っ張っていましたが、ここからチームを引っ張っていける活躍をします、応援よろしくお願いします!』
カメラのフラッシュが炊かれ、更に歓声が大きくなった。
『う~んっ、力強い宣言ありがとうございます。期待しています! それでは......』
『あ、マイクいいですか?』
『え? ああ、はい。どうぞ』
インタビュアーからマイクを受け取った
『この十日間、僕の練習に付き合ってくれた奴がテレビの向こうで見ているか分からないが。この場を借りて彼に一言言わせて貰います』
テレビ中継のカメラを力強い目で見つめる。
『お前とはプロ野球で戦うことは叶わない。だけど、僕はもう一度とお前と勝負をしたい』
一度目をつむってから、ゆっくり開いて言った。
『いつの日か、海の向こうで勝負だ!!』
まさかの発言に球場全体がどよめきざわついた。
「
「勝負の相手は!? 一言お願いします!」
カメラのフラッシュは
悩める天才の復活よりも、この発言が明日の紙面を賑わせたのは言うまでもない。