7Game   作:ナナシの新人

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今回は、マリナーズの高見の話が中心となります。



game16 ~悩める天才~

『さあ、ツーアウトまで来ました! 北海道フィンガーズ河中(かわなか)、今シーズン初完封まであと一人です!』

 

 千葉マリナーズの本拠地で戦うマリナーズ対フィンガーズの二回戦。

 昨シーズン、球界のドン・田辺(たなべ)の策略により、各チームの主力をマリナーズへトレードさせ、何としてもリカオンズの優勝を阻むという禁手を敢行したが結果は振るわず。東亜(トーア)が球界から姿を消したシーズン終了後、経営不振で親会社が変わった前所属球団への再トレードが行われた。

 フィンガーズの投手・河中(かわなか)もその中のひとり。MAX160キロのストレートと、消えると称されるフォークボールを武器にする日本屈指の左腕。

 そして、バッターボックスで対するは球界を代表する天才打者、高見(たかみ)(いつき)。昨シーズンは、打率4割に迫る驚異的な数字を残したが。今シーズンはここまで打率2割ちょうど、ホームラン0本という本来の力とはかけ離れた低い数字。

 

『ストライク! バッターボックスの高見(たかみ)、二球で追い込まれてしまいましたー!』

 

「(くそっ......。分かっているが、どうしてもフォームが崩れる)」

 

 優勝決定戦の五試合前、東亜(トーア)最後の登板で36得点と圧倒的な数字で攻略したマリナーズだったが。それは全て東亜(トーア)の策略。厳しいコースを打たされ続けたマリナーズの選手たちは、本来のバッティングフォームを崩され、短期間での修正も出来ず、リカオンズに四連敗を喫し、リーグ連覇を逃した。

 そして、その余波が今なお、高見(たかみ)を苦しめていた。

 

河中(かわなか)、振りかぶってラストボールを......投げましたー! ストライク! バッターアウト!』

 

 高めの浮き上がるようなストレートに手を出し、空振りの三振。

 マウンド上で、クールに小さくガッツポーズを見せる河中(かわなか)に対し、遂に打率2割を切ってしまった高見(たかみ)は肩を落とし、顔を隠すようにタオルを頭から被って、ベンチで唇をかむ。

 

高見(たかみ)

「......監督」

 

 顔を上げた先にはマリナーズの監督を務める忌野(いまわの)が、腕を組んで険しい表情(かお)をしていた。

 

「しばらく、下でフォームを固めて来い」

 

 登録抹消、二軍降格通告。

 ロッカールームの荷物を片付け、重い足どりで球場を後にする。

 

「天下の高見(たかみ)(いつき)が情けねぇ表情(かお)をしてるな。二軍行きでも通告されたか?」

「――と、渡久地(とくち)......!」

 

 ルーキーイヤー以来の二軍降格にショックを隠せないでいた高見(たかみ)の前に因縁の相手、渡久地(とくち)東亜(トーア)が姿を現した。

 

「......なぜ、お前がこんなところに居る!?」

「図星か。悩める天才にアドバイスをしてやろうと思ってな」

「アドバイスだと? ふざけるな! 敵のお前からの情けなど受けない!」

「そう邪険にするなよ。俺は既に、リカオンズとは縁を切った身だ。プロ野球界にも二度と復帰しないと契約した。つまり、お前とは二度と勝負する事は無いんだ、もう、敵も何もねぇだろ?」

 

 ――損はさせない。まあ話だけでも聞いてみろよ。

 東亜(トーア)の言葉を渋々受け入れた高見(たかみ)は、球場近くのレストランの個室で夕食を摂りながら話を聞いた。

 

「お前は打席で考えすぎている。フォームの崩れを極度に恐れ、本来の自分を見失っている。確かにお前は天才だ、この先お前以上の打者はそうそう出てこないだろう。だが、今のままなら消えるぞ」

 

 高見(たかみ)は、注文した料理に一切箸をつけずにただ黙ったまま東亜(トーア)の目を逸らさずに言葉を噛み締めている。

 

「精密機械ほど故障した場合の復旧は難しい。だが、俺としてもお前程の才能がこのまま消えるのは忍びない」

「......何が言いたい?」

「取引だ」

 

 東亜(トーア)は、やや前のめりになり高見(たかみ)に取引を持ち掛けた。

 翌朝10時。恋恋高校初遠征試合の采配を理香(りか)に一任した東亜(トーア)は、恋恋高校野球部のグラウンドに居た。

 

「さて、始めるとするか」

「フン」

 

 マウンドとバッターボックスで東亜(トーア)高見(たかみ)の二人が対峙。東亜(トーア)はマウンドにピッチングマシーンをセットし、二軍戦を欠場した高見(たかみ)はバッターボックスでバットを構える。

 

「お前が投げるんじゃないのか?」

「本来なら俺が投げたいところだが、生憎肩を故障しているんでね」

「故障だって?」

「お前らとの試合でぶっ壊れたって訳さ。今の医学じゃ完治は出来ない。まっ、そう言う事だからコイツで我慢して貰う。行くぞ」

 

 ボールをセットして、スイッチを押した。

 マウンドよりも数メートル後方にセットされたピッチングマシーンから放られたボールは、一度視界から消える緩い山なりの超スローボール。

 

「くっ......!?」

 

 打ち損じた打球はバックネットに直撃し、転々とファウルゾーンを転がる。

 

「次、行くぞ」

「ああ......」

 

 二球目も同じ山なりの軌道の超スローボール。

 高見(たかみ)は、再びファウルチップを叩いた。

 

「くそっ......!」

「左肩が突っこみすぎだ。そんなアッパースイングじゃ打てるモンも打てねぇぜ」

「......次だ、来い!」

 

 気合いの入った表情で自身を見据える高見(たかみ)を見て、東亜(トーア)は笑みを浮かべた。しかし、次もファウル。気合いだけで克服出来るほど甘くはない。

 三度目のファウルチップを叩いた高見(たかみ)は、バッターボックスを外し、軽く素振りをしながら考える。

 

「(――遅い。渡久地(とくち)の低速低回転ストレート以上に来ない。いや、それ以上に山なりの超スローボールを打つことに、どんな意味ある?)」

 

 横目で、東亜(トーア)を見る。

 

「(だが、あの渡久地(とくち)だ。必ず意味はある)」

「どうした? もう、ギブアップか」

「まさか。続きだ、来い!」

「フッ、そう来なくっちゃな」

 

 このあと二時間ぶっ通しでバッティング練習を続けた。

 時計は12時を回り区切りを入れるため最後の一球。

 

「フンッ!」

 

 ――カィーン! と、ようやく良い当たりがレフト前へ飛んだ。近くのコンビニで昼食を買い休憩を入れて、13時から再び練習を再開。

 

「フゥ......」

「悩んでるって感じの表情(かお)だな」

「......打球が飛ばない」

 

 良い当たりも増え、狙って左右に打ち分ける事も出来るようになったが、致命的に打球が上がらず飛距離は伸びない。

 

「飛ばなくて当たり前だ。簡単に飛ばさせないために、超スローボールに設定しているんだからな」

「なに?」

 

 遅いボールは反発力が小さく飛び難い。たとえ金属バットでも、しっかりと振り芯で捉えなければ外野を越すことは困難。金属よりも遥かに反発力の小さな木製バットでは、なお更に難しい。

 つまり、スローボールを遠くへ飛距離を伸ばす為には打者の力量がもろに試される事となる。

 

「ボールの芯とバットの芯を両方しっかりと捉え、なおかつ打球に力を乗せる事が出来なければ、この超スローボールを飛ばすことは出来ないのさ。逆に言えばこいつを柵越え出来た時こそ理想的なフォームの完成って事だな」

「......続けてくれ」

 

 高見(たかみ)は、一心不乱にボールを打ち続けた。そして結局、この日は一度も打球をフェンスに当てることは出来なかった。

 

「しかし、お前が高校野球のコーチとはね。どういう風の吹き回しなんだ?」

「ただのギャンブルさ」

「ギャンブル?」

 

 二人は、バーで酒を呑み交わしながら会話をしていると、そこへ理香(りか)がやって来た。

 

渡久地(とくち)くん、お待たせ......。って高見(たかみ)選手っ?」

「どうも」

 

 東亜(トーア)は遠征へついていかない理由を理香(りか)の経験を積ませるためと言い。高見(たかみ)のバッティング練習をしていた事を知らせていなかった。

 

「そうだったのね。教えてくれてもいいのに」

「あはは」

「フゥ......。で、スコアは?」

「6-2で負けたわ......。はい、これ」

 

 スコアブックを東亜(トーア)に渡す。隣の高見(たかみ)も覗き込んだ。

 

「女子選手が多いんだな。先発も女の子か」

「ああ、一応二枚居るが。二人とも一巡目は特殊な軌道で乗り切れるが、どちらも二巡目で掴まる傾向が高い」

「理由は?」

「最速110キロ程度、どちらもこれといった決め球が無い」

「球筋に慣れられると厳しいってことか。なるほど合点が云った。それで()()が必要な訳か」

「まあ、()()はキャッチャーのためだけどな」

 

 小さく笑みを浮かべグラスを口に運ぶ二人に、訳もわからず理香(りか)は首をかしげた。

 

「なんの話?」

高見(たかみ)が、一軍に上がれば分かるさ」

「それは責任重大だね。ところでコーチを引き受けた理由がギャンブルって?」

渡久地(とくち)くんの右腕の治療と引き換えに、甲子園出場を条件に引き受けてもらったの」

「えっ......治るのか?」

「ええ、間違いなく治るわ。わたしの紹介する博士ならね」

「そうか......。これは早く克服しないとね」

 

 東亜(トーア)から完治不能と聞いていた高見(たかみ)は、どこか嬉しそうな声だった。

 翌日からの高見(たかみ)の集中力は、初日とは比べならないほど研ぎ澄まされていた。試行錯誤を繰り返し、徐々にだが確実に飛距離を伸ばしていく。

 そして、この練習は恋恋高校の部員たちに良い影響を与えてくれた。プロアマ規約があるため、高見(たかみ)から直接の指導は無かったが彼のバッティング練習を間近で見れることは相当な経験となり、ナインたちの参考になった。

 特に力を伸ばしたのは、以前東亜(トーア)高見(たかみ)以上の可能性を秘めていると称した奥居(おくい)高見(たかみ)の無駄の無いスイングをモノにし、広角へ打ち分けるコツを掴んだ。

 そして、恋恋高校でバッティング練習を始めてからあっという間に十日と言う日々が過ぎ去った。

 

『さあ、やって参りました。千葉マリナーズ対大阪バガブーズの一戦! 実況担当は(わたくし)熱盛(あつもり)宗厚(むねあつ)でお送り致します。そしてマリナーズのスターティングメンバーには彼の名前があります! 戻って来た天才、高見(たかみ)(いつき)ー! ん~っ、私興奮を押さえきれません!』

 

 二軍落ちから最短の10日で一軍復帰を果たした高見(たかみ)は、落ち着いた様子でベンチに座り戦況を見つめている。

 一回の攻防を終え、二回の裏。高見(たかみ)の復帰第一打席が回って来た。

 バッティンググローブを着け右バッターボックスで構える。

 

『ピッチャー振りかぶって第一球を投げました! 指にかかったストレートがアウトローへ突き刺さります! ワンストライク。バッターはピクリとも動きません』

 

 高見(たかみ)は笑みを見せて、バットを握り直し再び構えた。

 

『ピッチャー振りかぶって第二球を投げました! 際どい所へのインコース!』

 

 高見(たかみ)がバットを振った瞬間――パーンッ! と甲高い音が球場に響き渡り、打球は一瞬でバックスクリーンのスコアボードに直撃。復帰第一打席の一撃は、時を止め。一時の静寂の後、歓声が沸き上がった。

 

『は、は、入りましたーッ! 高見(たかみ)(いつき)、復帰第一打席は復活を告げる第一号特大の先制ホームラーンッ!』

 

 高見(たかみ)は、噛み締めるようにゆっくりとベースを回りホームベースを踏むと大きく右腕を天に向かって突き上げた。

 

『放送席、放送席。ヒーローインタビューです! 本日のヒーローはもちろんこの人。四打数四安打二本塁打五打点を上げたマリナーズ、高見(たかみ)選手です!』

 

 お立ち台の上で帽子を取り歓声に答える。

 

『いやー。実に見事なバッティングでした』

『ありがとうございます。僕自身が一番驚くほどの出来です』

『完全復活と言ってもよろしいのでしょうか?』

『そう言ってもらえるよう、今日のようなバッティングを続けていければ思います』

『今後の活躍を期待しています! それでは球場のファン、画面の向こうで見ている多くのマリナーズファンに一言お願いたします』

『今まで足を引っ張っていましたが、ここからチームを引っ張っていける活躍をします、応援よろしくお願いします!』

 

 カメラのフラッシュが炊かれ、更に歓声が大きくなった。

 

『う~んっ、力強い宣言ありがとうございます。期待しています! それでは......』

『あ、マイクいいですか?』

『え? ああ、はい。どうぞ』

 

 インタビュアーからマイクを受け取った高見(たかみ)が何を話すのか球場中の注目が集まる。

 

『この十日間、僕の練習に付き合ってくれた奴がテレビの向こうで見ているか分からないが。この場を借りて彼に一言言わせて貰います』

 

 テレビ中継のカメラを力強い目で見つめる。

 

『お前とはプロ野球で戦うことは叶わない。だけど、僕はもう一度とお前と勝負をしたい』

 

 一度目をつむってから、ゆっくり開いて言った。

 

『いつの日か、海の向こうで勝負だ!!』

 

 まさかの発言に球場全体がどよめきざわついた。

 

高見(たかみ)さん! 今の発言は海外挑戦表明と捉えてよろしいのでしょうか!?」

「勝負の相手は!? 一言お願いします!」

 

 カメラのフラッシュは高見(たかみ)の姿を消し、各記者が真意を求めてマイクを向ける。

 

 悩める天才の復活よりも、この発言が明日の紙面を賑わせたのは言うまでもない。

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