7Game   作:ナナシの新人

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game17 ~決意~

 東亜(トーア)高見(たかみ)の練習に付き合っている間の対外試合三試合目。恋恋高校は7-3で千葉県の強豪校に敗れた。対外試合はこの試合で通算1勝3敗2分。

 東亜(トーア)が采配をしていない試合に関しては2敗1分(大筒高校戦を含む)と未だ未勝利。理香(りか)の采配はさほど大きな問題はなく、無難にこなしていたが二人の間には明確な差が存在していた。

 その理由は渡久地(とくち)東亜(トーア)という存在にあった。

 元プロ野球選手それも異次元の成績を残した選手がベンチに居ることで安心感を与え、更に試合では的確な指示により結果を残し自信に繋がっていた。

 しかし、逆に言ってしまえば東亜(トーア)の不在は精神的な弱さを浮き彫りにしてしまう結果になっていた。

 

『入りましたーッ! マリナーズ高見(たかみ)(いつき)! これで一軍復帰から三試合連続のホームラン! 彼本来の実力をいかんなく発揮してくれています! うーんっ、(わたくし)の興奮も最高潮を向かえています、それではテレビの前の皆さんご一緒に――いらっしゃいませぇーッ!』

 

「相変わらずハイテンションな実況だな」

 

 マリナーズ戦のテレビ中継をスマホで見ながらベンチに座る東亜(トーア)の元に一人の野球部部員がやって来た。

 

渡久地(とくち)コーチ」

瑠菜(るな)か、なんだ?」

 

 イヤフォンを外して、瑠菜(るな)話を聞く。

 

「私に、コーチの()()()()()を教えてください。お願いしますっ」

 

 大きく深く頭を下げて東亜(トーア)に教えを請う。

 瑠菜(るな)のいう“あのボール”とは、東亜(トーア)のピッチングの生命線『低回転ボール』のこと。東亜(トーア)が投げる通常のストレートは、マウンドからホームベースまで18回転前後だが。低回転ボールは、通常のストレートと同じ腕の振りで、ベース到達までに3回転前後しかしない特殊なストレート。

 同じストレートでも回転数の違いでノビやキレに影響が出る。特に東亜(トーア)のピッチングはストレートオンリーのイメージが固まっているためバットはボールの遥か上を通り空を切ることとなる。

 しかし、それは高見(たかみ)に見破られ、後に攻略法までも確立されてしまった。しかも、ただ投げるだけではなく心理的駆け引きを駆使して使用するため、東亜(トーア)以外の投手が覚えたところで良くてタイミングを狂わすチェンジアップ。最悪ただのホームランボールになってしまう。

 事実大筒高校の試合では東亜(トーア)のマネをしたが、腕の振りの違いを冴木(さえき)に看破され、連打を許し失点をしてしまった。

 

「あんなもん覚えたところで役に立たねぇよ」

「......でも、武器が欲しいんです。今の私の力じゃあどうしても四回以降に掴まってしまうんです......」

「ふーん、武器ねぇー」

 

 実は、東亜(トーア)瑠菜(るな)に低回転ボールを教えるつもりでいた。

 高見(たかみ)と取引で彼が東亜(トーア)攻略に使用した特注のピッチングマシーンを譲り受ける事となっていたのだが。復帰戦翌朝、高見(たかみ)から電話がかかってきた。

 

渡久地(とくち)、今からうちの練習場へ来れるか!』

「なんだよ。ずいぶん慌ててるじゃねぇか」

『見つけちまったんだ。お前が瑠菜(るな)ちゃんに教えようとしている『低回転ボール』の致命的欠点をな......!』

 

 高見(たかみ)に知らせを受け急遽、マリナーズ室内練習場へ|足を運ぶことになった。

 

「さて、さっそく見せてもらおうじゃねぇか。致命的欠点ってヤツをよ」

 

 高見(たかみ)は、バッターボックスでバットを構える。

 マウンドにあるのは、彼が東亜(トーア)を攻略するために自費で6000万円を費やして開発した、疑似渡久地(とくち)ピッチングマシーン。

 

「行くぞ、(いつき)

「ああ、頼む」

「(構えは普段と変わらないな)」

 

 マリナーズの三番を打つ走攻守三拍子揃った助っ人外国人――トマスが、マシーンを作動させると練習場にモーターの回る音が響く。

 ボールが発射される直前に高見(たかみ)は、通常の構えから目いっぱい軸足を下げ、クローズドスタンスに変えた。

 

「フッ......!」

 

 強制的に頭の位置が下がるこのフォームであれば、向かってくるボールを斜めから引きぎみに見ることができ、ボールの軌道に奥行きが生まれ、球筋を見極めてからバットを振りだすことが出来る。マシーンから放たれる東亜(トーア)のピッチングを完璧に再現しているランダムボールをミスショットすることなく、次々と打ち返した。

 そして、最後の一球も球場であれば、確実にホームランであろう大きな当たりをライトへ放った。

 

「ふーん、まさかこんな打ち方があるなんてね」

「正直、この打ち方を見つけたのは偶然だった。マシーンの調整を行っている時にふと閃いたんだ。お前のボールは端からみたらなんの変鉄もないボール。だったら、(よこ)から見て打てばいいってことに......!」

 

 高見(たかみ)と入れ替わり、トマスが打席に立つ。今度は、最初からバッターボックスの一番外側で構えて、思い切り踏み踏み込んで打つ。逆方向への良い当たりを連発した。

 

「前の攻略法。周辺視を利用したバスターからのヒッティングは、バッターによって不得意の差が大きかったが。クローズドスタンスや、最初から外側に立って踏み込むバッティングフォームなら、お前のボールを大の苦手としていたトマスも、この通りだ。ただ、センターから逆方向へしか強い当たりが打てないと言う欠点もあるが......」

「シフトを敷いたところで遅いボールを引っ張り、シフトで空いた穴を突くことは容易い」

「ああ、そうだ。引っ張るには当てるだけいい」

 

 両目でしっかりとボールを捉え、ボールの軌道を見極めてから打つ正攻法とは、まったく正反対の攻略法。

 

「この攻略法がもっと早く見つかっていたら、オレたちが優勝してただろ?」

 

 ベンチに座る東亜(トーア)にトマスが訊く。東亜(トーア)は、目をつむり笑みを見せた。

 

「関係ねぇよ。お前らのバッティングフォームをぶっ潰すのが少し早まっただけだ。しかも一度じゃなく、気づかないほど徐々に崩し、復調の兆しさえ与えず引退を意識させる程にな」

「鬼か!」

「当たり前だ、それが勝負の世界だろ。甘っちょろい考えじゃあ死ぬぞ?」

 

 二人は、東亜(トーア)の本気の目と声に恐ろしい人間だと改めて感じた。

 

「それでどうする? 低回転ボールを......お前の投球術をマスターすることが出来れば、高校生相手にならそう簡単には打たれないと思うけど。持っていくか?」

「ああ、持っていく。教えるかどうかは別としてもキャッチャーのキャッチング技術の向上にはもってこいだからな。コイツは」

「そうか、オーケー。じゃあ、配送業者を手配する」

「まあ確かに、オレも捕球は苦労した。初日で完璧に対応できたのは、天海(あまみ)くらいだったし」

 

 ――天海(あまみ)

 北海道フィンガーズに所属する日本を代表する大打者。来たボールに柔軟に対応出来る天性のバッティングセンスを持つ。高見(たかみ)とは、また別タイプの天才打者。

 

 特注のピッチングマシーンを千葉から東京の恋恋高校へ持ち帰り以降、練習後の鳴海(なるみ)のキャッチング練習に使われる事となった。そして三日後の今日、瑠菜(るな)東亜(トーア)の元を訪れた。

 

「低回転ボールは、打者の心理を読み裏を突く必要がある」

「大丈夫です。私、練習後のカードゲームで一度も負けていません」

 

 自信あり、と瑠菜(るな)の目には力強さがある。少しでも弱気を見せれば教える気は無かったが。ここまではっきりと返事を返したため教えることにした。一番の理由は、教えて損はないと言うこと。

 二人はグラウンドへ移動し、他のナインが帰り仕度をしている中照明を灯しマウンドにピッチングマシーンを設置して、特訓が始まった。

 

鳴海(なるみ)

「はい!」

 

 ベンチから鳴海(なるみ)が、二人の下へ走る。

 

「今から瑠菜(るな)に、ピッチングマシーン(コイツ)の本当の性能を見せる。お前、受けてみろ」

「わかりました! 準備してきます!」

 

 プロテクターを着けている間にピッチングマシーンの設定を変更する。瑠菜(るな)は、バットを持ってバッターボックスに立ち、鳴海(なるみ)がキャッチャースポジションでミット構える。

 

「とにかく全部振れ。行くぞ」

「はい、お願いしますっ!」

 

 ピッチングマシーンから東亜(トーア)の投球を完璧再現したボールが一定の間隔で連続して放られる。初球は、真ん中のストレートをセンターに打ち返したが、二球目からは何球かに一度ファールや凡打は出るが七割以上は空振り。最後の一球も、空振りに終わった。

 

「感想は?」

「......スゴいです。まるでボール生きているみたいに自分からバットを避けるみたいな感じ......」

「まあ悪くない感性だ。でだ、何球まともに捕球できた?」

「うっ......、よ、四割......?」

「三割にも届いちゃいねーだろ、くだらん見栄を張るな。別に怒りゃしねえよ。初見じゃ、マリナーズのトマスやフィンガーズの北大路(きたおおじ)ですら二割未満だったそうだ」

 

 北大路(きたおおじ)

 天海(あまみ)同様北海道フィンガーズに所属。俊足好打に加えホームランを打てるパワーも兼ね備えた巧打者。

 リーグトップクラスの実力者も自分とほぼ変わらないことにほっとした鳴海(なるみ)

 

瑠菜(るな)、お前の言う『低回転ボール』ってのはな。一球が特別なボールって訳じゃない。その全てのボールが勝負球だ」

 

 低回転ボールとは、特定の球種を表すモノではない。例に上げれば120km/hの球速で20~3回転、110km/hでも20~3回転、100km/hでも20~3回転と言うように、ありとあらゆる球速で回転数を投げ分けるボール。

 つまり同じスピードのストレートでもホームベースに届くまでの間にまったく違う軌道を描くことがバッターの予測した軌道に反し、強烈なまでの打ちにくさを生んでいた。

 

「相手の狙いの裏をつく以前に、狙い通りに投げられなければ成立しない。指先の感覚を身に付けることが最重要課題だ。だが、これは教えて出来ることじゃない。お前自身が、自らの身体で覚えるしかない。それでもやるか?」

「......はい、やります!」

「そうか。なら、これを持っていけ」

「硬球?」

「寝転がった状態で回転を意識させながらボールを天井へ向かって投げる。家で出来るボールコントロールのトレーニングだ」

「はいっ」

 

 グラウンド整備をしてナインたちは帰宅の途につく。いつもの交差点で別れ、あおいと鳴海(なるみ)は公園でキャッチボールをする。

 

「ねぇ、鳴海(なるみ)くん」

「なに?」

「実際にボールを受けて見てどんな感じだったの?」

「うーん。とにかく捕り難いかな? 予想外の軌道で飛んでくるし」

「そっか~。でも、それって――」

 

 あおいは、受け取ったボールに目を落として手の中で転がす。

 

「打ちにくいってことだよね?」

「うん、そうだね。じゃなきゃ120km/h前後のストレートだけでプロで戦うなんて無理だよ」

「......だよね。瑠菜(るな)は、そんなスゴいボールをマスターしようとしてる」

 

 グッと力を入れてボールを握り投球フォームに入る。鳴海(なるみ)は慌ててしゃがんでミットを構える。

 

「だから、ボクも......!」

 

 アンダースローから放たれたボールは綺麗な軌道を描きながら鳴海(なるみ)のミットに突き刺さり、二人以外誰も居ない静寂の夜の公園に乾いた音を響かせた。

 

瑠菜(るな)に負けない、新しい決め球を覚えるんだ!!」

「あおいちゃん......」

 

 決意を口にしたあおいを見た鳴海(なるみ)は――頑張れ、と心の中でエールを送った。

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