「
「あん?」
名前を呼ばれて、振り向く。彼を呼び止めたのは、かつてのチームメイトでバッテリーを組んでいた捕手、
「お前、今までどこにいたんだよ。優勝が決まる直前にベンチから居なくなりやがって。日本シリーズにも顔を出さねぇしよー」
「どうでもいいじゃねーか。俺抜きで勝ったんだから」
「そういう問題じゃ......まあ、いいや。ここに来たってことは、リカオンズに復帰するんだろ?」
「その逆だ。正式に引退の手続きを済ませたところだ」
「......は? はぁーっ!? 引退!?」
引退と聞いて、
「ちょっ、なんでぇー!?」
「何を騒いでいるんだ」
「久しぶりだな。
「ああ、しばらく」
「
「ああ、聞いてる。正式に引退するんだってな」
球団トレーナーから事前に引退の話しを聞いていたため
「だけど、どうして今さら手続きに来たんだ?」
「必要になったから来たまでさ」
「いや、わけわからん......」
困惑する
「
「さーな。まあ、そのうちわかるさ。じゃあな」
「楽しみにしていろ」と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべて言った
「
「こ、
「
「こ、これを見てください!」
息を切らせた遅れてきた
「あの野郎......」
「本気、ですかね?」
「アイツが、今まで本気じゃなかったことがあるか?」
「ですよね。あいつ、本気で......」
「行くぞ、
「は、はい!」
「(待ってるぞ、
資料の内容は、
事務所を出た
「やっぱり時間かかったのね」
「いや、少し立ち話をしてた」
「そう。じゃあ行きましょ」
車は埼玉県から東京都へ向かい走り出した。
「で、どうだった?」
「あんたのお望み通り納得させたさ」
「よくすんなり行ったわね」
プロアマ規定――。
一度でもプロ野球に所属した者は、一定の研修を受けなければ学生野球の指導者になれない制度がある。
これが、
現役時代プロ野球会のドンと呼ばれる人物に喧嘩を売った
そして、彼女の懸念は当たっていた。だが、
「俺の方は条件を果たした。次はあんたらの番だ」
「分かってるわ。すで理事長も了承してるし、各方面への根回しも済んでいるわ」
「ずいぶん仕事が早いな」
「キミなら、どんな手を使っても認めさせると信じていたからね」
一度要請を断わった
それは数日前のあの日に遡る――。
* * *
――断わる。
「......理由は? 野球に未練はないの?」
「ギャンブルは、ワンナウトだけじゃない」
「ふふっ、そんなこと言って自信がないんでしょ? 稀代の勝負師と謳われるわりには勝てる勝負しかしない臆病者だったのね」
理由を聞いた
「フッ、
やる気にさせるための安い挑発。
「いいぜ、受けてやる」
「そう来なくちゃっ!」
「ただし、条件がある」
「条件? 何かしら?」
――俺のやり方に一切口を出すな。
この条件を二つ返事で飲んだことで仮契約が成立。二人が乗る車は今、
「これ、一応目を通しておいて」
「なんだ、これ?」
「学校案内と野球部関係の資料」
「要らねーよ」
渡されたファイルを後部座席へ放り投げた
「寝る。着いたら起こしてくれ」
「はあ~......。はいはい、おやすみなさい」
高速道路を走ること数時間後、駐車場に車を停めた
「起きて、着いたわ」
「......ああ」
二人は車を下車。
赤レンガ造りのスタイリッシュな新しい校舎。
ここが
二年前まで女子校だったため男子生徒が極端に少なく、野球部の部員もギリギリの状態。昨年とある事件により一時的に公式戦出場停止に追い込まれたが、ルール改正により処分が解かれた。
「こっちよ」
――どうぞ。と渋みのある返事があり、二人は室内へ入る。
部屋の奥の机に白髪混じりで気品のある初老の男性が座っていた。
「失礼します。理事長先生、連れてきました」
「ご苦労様。キミが話しに聞いた、
洒落たガラステーブルを挟んでソファーに座る。
「理事長の
「はい」
契約の話しは事前に取り決めていたこともあり、
「うむ。これで契約成立だ」
理事長は立ち上がり握手を求めるが、
「それで実際どうかね? 甲子園は......」
「さあな」
適当に答え。若干前屈みで理事長を見据える。
「だが俺は、最終的に勝ちで終わらせてきた」
「......なるほど、十分な回答だ。ようこそ恋恋高校へ、我々はキミを歓迎する」
こうして、
契約内容。
野球部関連の要求には可能な限り務める。
契約期間は今年度の4月の初めから6月末の三ヶ月。
以降この契約を