7Game   作:ナナシの新人

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game38 ~宣言~

『ストライク! いきなりスリーベースを打たれましたが三塁にランナーを置いてかえって開き直ったか、内と外それぞれ際どいコースのストレートでストライクを奪い、ツーストライクと追い込みましたー!』

 

 二番バッター葛城(かつらぎ)は、初球・二球とストライクゾーンを通過したストレートを見送った。球審にタイムを要求して、一度バッターボックスを外す。

 

「(球速は120km/h中盤くらいかな? コントロールはイマイチ。とりあえず思い切り投げ込んだのが良いところへ散ったって感じか......よし)」

 

 二度素振りをして、バッターボックスでグリップを握り直す。

 

「プレイ」

「(とにかく俺は、俺の仕事をする......!)」

 

 バットを握る手にグッと力を込めて、力強くピッチャーを見据えた。

 

『おっと! 大きく外れました。葛城(かつらぎ)、追い込まれてから粘りを見せ、ついにフルカウントまでこぎ着けました!』

 

 二球追い込んだにも関わらず、際どいコースをことごとくファールで粘られフルカウントまで持っていかれたピッチャーは、思わずプレートを外して間を取る。葛城(かつらぎ)も一息ついて、バッターボックスを外し、メットを脱いで額の汗を拭う。

 

葛城(かつらぎ)くん、スゴいわね」

「うーん......でも葛城(かつらぎ)くんなら、打てそうなボールあったと思うけど」

「確かにそうね。真田(さなだ)くんの足なら、ヒットじゃなくても内野ゴロで帰って来られるわ」

「ミスショットしたワケじゃない。アイツは、わざとファールにしているのさ」

 

 瑠菜(るな)とあおいの会話に、すぐ隣に座って戦況見つめていた東亜(トーア)が入った。

 

「お前ら、冴木(さえき)を覚えているか?」

冴木(さえき)さんって確か、大筒高校の人だったよね?」

「ええ、そうよ。走攻守全てにおいてレベルの高い選手だったわ」

「その冴木(さえき)が、瑠菜(るな)のインコースを流し打ちした打ち方を応用して、狙ってファールを打っているのさ」

 

 ――大筒高校、冴木(さえき)の流し打ち。

 タイミングを外された際、咄嗟に軸足を外へ流し、強引に逆方向へ押っつける高等技術。葛城(かつらぎ)は、この打ち方を応用した打ち方。

 冴木(さえき)はインパクト時、流した軸足で最後に地面を踏み込み逆方向へ強い打球を飛ばす打ち方。一方葛城(かつらぎ)は、軸足での最後の蹴りをあえて抑えることにより、ボールの勢いに逆らわず意図して、ファールになる確率を上げるバッティングをしている。

 

「初回無死三塁。確かに、先制点が欲しい場面だ。だが仮に、アウトになったとしてもそのアウトには先制点以上の価値がある」

「先制点以上の価値ですか?」

「なんだろう?」

 

 小さく首をかしげる瑠菜(るな)とあおいを後目に、東亜(トーア)は軽く笑みを見せた。

 

『さあ次が11球目、双方ともにここで決められるかっ? ピッチャー、セットポジションから――投げましたッ!』

 

 ボールは、外のストレート。

 

「(ボールだ......!)」

 

 振りに行ったバットを止めて見送ったボールが、キャッチャーのミットに音を立てて収まった。葛城(かつらぎ)は、過去の教訓を活かしてセルフジャッジをせずにコールを待つ。

 

「......ストライク! バッターアウト!」

『――ストライク、ストライクです! 際どいコースにズバッとストレートが決まりました! 粘りを見せた葛城(かつらぎ)でしたが、最後はピッチャーの勝ち、見逃しの三振に倒れましたー!』

 

 大きく深くひとつ息を吐いて、ネクストバッターの奥居(おくい)に情報を伝達してから、ベンチに戻ってきた葛城(かつらぎ)に、理香(りか)は労いの言葉をかけた。

 

「ふぅ......」

「お疲れさま」

「監督」

「もう、監督は渡久地(とくち)くんでしょ? 私は、部長よ」

「あっ、すみません、まだ慣れなくてっ」

 

 どっとベンチが沸いた。初陣とはとても思えないリラックスした様子のベンチ、百戦錬磨の東亜(トーア)が居ること安心感が、この空気を作り出した。この空気に危機感を覚えながら、騒ぎが収まるのを待って東亜(トーア)は、葛城(かつらぎ)に打席の成果を訊く。

 

「えっと、球種はまっすぐとカーブの二種類です。球速は出ても130km/hに届くか届かないかくらいで。カーブは抜けるか叩きつけるか、ストライクに来るときは甘くなる事が多いです。それと内は狭く、外は広いです」

「だそうだ」

「はい、わかりました」

 

 一緒に聞いていた鳴海(なるみ)は頷き、ゾーンについて詳しく訊ねた。

 

「外はどれくらい広い?」

「そうだな、約ボール一個。内側は、半個分くらい狭い」

「わかった、ありがとう。あおいちゃん、次の回はもっと外を広く使っていこう」

「うんっ」

 

 力強く頷いたあおいは、次の回の準備を始めた。

 

「これが価値なんですね」

「ああ、そうだ。目先の一点よりも後の得点、後の失点を防ぐ確率を上げる価値のあるアウトだ。それに次は――アイツだからな」

 

 東亜(トーア)が目を向けたグラウンドでは奥居(おくい)が、初球の外角のストレートを見逃し、ストライクを取られたところだった。

 

「(今のは、いいコースだったな。打ってもファールかシングルだ。結構バラけるって言ってたけどどうだ......? って、おわッ!?)」

 

 二球目、今度はカーブがすっぽ抜けて曲がることなくまっすぐ頭に向かって来た暴投を、奥居(おくい)は咄嗟に頭を下げて避けた。

 

『おっと! よろしくない投球。バッター奥居(おくい)、間一髪で避けました』

「ボール!」

「(あっぶねぇ~。カーブの回転だったのに、まっすぐ頭に来やがった......!)」

 

 奥居(おくい)はズレたメットを被り直すと、一度深呼吸して気持ちを落ち着け、改めてバッターボックスで構える。

 

「(今のでピッチャー縮こまってるな。つーとここは、外......!)」

 

 決して狙った訳では無いが、避けなければ頭に当たるボールを投げた直後の投球に、必然的にインコースを避ける心理が働いた。奥居(おくい)は、読み通りの真ん中外よりのストレートに対し、躊躇なくバットを出した。

 しかし打球は上がらず、痛烈なライナーでピッチャー横を抜けて行った。

 

「(くぅ~っ、ミートし過ぎた......!)」

 

 バットを放り投げて、ファーストへ走る。打球はマウンド後方でバウンド、そのままセンター前へ抜けると思われた瞬間、バス停前高校のショート田中山(たなかやま)がボールに飛び付いた。

 

『ショート横っ飛びー、捕ったーッ! ナイスな捕球!』

「うっそ! マジかよ!?」

 

 慌ててスピードをあげる奥居(おくい)。いいスタートを切った真田(さなだ)は、スタンディングのまま既にホームを駆け抜けている。ホームイン、一点先制。

 

『しかし――投げられませんっ。内野安打、その間にサードランナーがホームイン。恋恋高校初回に一点を先制しましたー! さらにワンナウト一塁、このままリードを広げられるのか?』

 

「ナイスラン、真田(さなだ)!」

「おう、サンキュー」

 

 戻ってきた真田(さなだ)をベンチ全員で出迎えているなか、東亜(トーア)は別のところに注目していた。

 

「ふーん......」

「どうしたの?」

「別に。さてと、さっさとコールドで終わらせるか」

 

 東亜(トーア)の言葉通り恋恋高校は、この回さらに三点を奪い、回を追うごとに得点を積み重ねて行った。そして――。

 

『さあ五回の表14点差を追いかけるバス停前高校、最後の攻撃になってしまうのでしょうか? 一方恋恋高校は、公式戦初勝利まであとアウト一つです! マウンドには、この回ライトで先発出場した近衛(このえ)に託されています!』

 

 鳴海(なるみ)近衛(このえ)のバッテリーはサイン交換を済ませて、最後のバッターと勝負。

 

近衛(このえ)、振りかぶって――投げましたー! バッター打ったー! ライトへのフライ! 十六夜(いざよい)瑠菜(るな)、打球を追ってバック。こちらを振り向いてグラブを差し出した落下地点に入ったか? そして――今、ウイニングボールを掴み取りましたァーッ! スリーアウト、ゲームセット! 恋恋高校、大差をつけて見事初戦を突破いたしましたー!』

 

 試合終了の瞬間――ナインは喜びを爆発させ、スタンドから沸き起こた大歓声は、大差にも関わらず最後まで戦い抜いたバス停前高校を称え、勝利した恋恋高校を祝福する声はいつまでも鳴り止まなかった――。

 

 

           * * *

 

 

『いやー、まことにスバラシイ試合でしたッ。それでは、ここで勝利した恋恋高校監督のインタビューをお聞きください。響乃(ひびきの)アナウンサー、お願いしまーす』

『はい、こちら恋恋高校控え室前の通路です。見事初戦を勝利した恋恋高校の監督――あの渡久地(とくち)東亜(トーア)監督にお話を......あれ? 渡久地(とくち)監督? どこへ行ったんですかーっ?』

『......おや、どうやら何やらトラブルが起こった様ですね、申し訳ございませんっ。準備が整うまで、今日の試合のハイライトをご覧ください』

 

 試合後恒例のアナウンサーによるインタビューをブッチした東亜(トーア)は、既に球場の外でタバコを吹かして待っていた。

 

「今日で俺たち三年は引退だ。結局公式戦で一勝も出来なかったけど――」

 

 球場の外では、バス停前高校ナインが集まって引退の挨拶をしてた。しばらくして挨拶が終わり選手たちが帰って行く。その中の一人に、東亜(トーア)は声をかけた。

 

「おい、お前」

「ん? あっ......」

 

 東亜(トーア)が呼び止めたのは、田中山(たなかやま)

 

「プロへ行くつもりがあるのなら志願届けを出しておけ。じゃあな」

「......俺が、プロ......?」

 

 突然の出来事に田中山(たなかやま)は、東亜(トーア)の言葉の意味が理解できず、ただただ遠くなっていく背中を見送ることしか出来なかった。

 

『はい、ありがとうございました。勝利した恋恋高校の部長加藤(かとう)先生でした。本当におめでとうございますっ。それではお返しします、放送席の熱盛(あつもり)さーんっ』

『はい、加藤(かとう)先生、ありがとうございました。それでは、試合のハイライトをお送りしながらお別れです。次回も、熱く、熱くお送りまいりまーす!』

 

 試合後のインタビューが済み、ナインは球場を出てマイクロバスに乗り込んだ。

 

「よう、遅かったな」

「遅かったな、じゃないわよっ。あなたどこへ行っていたのっ?」

「これだ」

 

 指を二本立てて口の前に持っていく。理香(りか)は、呆れ果てた様子で大きなタメ息をついた。

 

「はぁ~......!」

「さっさと座れ。ここからは時間との勝負だ」

「......はいはい。運転手さん、お願いします」

「はい、では出発します。みなさん、シートベルトをおしめください」

 

 理香(りか)が座るとマイクロバスは走り出した。高速を走り一時間弱で恋恋高校に到着。

 

「さて、じゃあやるとするか」

「何をするんですか?」

「解散じゃないんでやんすか?」

「あなたたち、もう忘れたの? お待ちかねの実戦練習じゃない」

「あっ......!」

 

 実戦練習は公式戦が始まってから。その約束通り、今日から普段のトレーニングに加え実戦練習を開始。カウント、ランナーの有無、点差等の状況を想定して練習を行う。先ほどの試合で気づいている選手も多かったが、春先に比べると体のキレは格段に増していた。打球が伸びる、今まで届かなかった打球に届く、送球の鋭さが増し正確さも増していた。

 

「みんな、のびのびやっているわね」

「今まで出来なかったことが出来るようになった。それが面白いのさ」

「ふふっ」

「心・技・体と言うことが言葉があるが、順番としては体→技→心だ。先ずは動ける身体を作ってやる。そうすれば今のアイツらのように出来なかったことが出来るようになる、技術が身に付く。そして技術が身に付けば、おのずと自信はつく。プレーにも余裕が生まれる。あとは勝手に伸びて行くさ、この年代はな」

 

 東亜(トーア)の言葉は、その通りになった。

 公式戦で初勝利を上げ、練習で成長を実感し、自信を持った恋恋ナインは、初戦の勢いそのままに二回戦、三回戦共にコールドゲームで勝ち上がり四回戦へと駒を進めた。

 対戦相手の候補は第2シードの激闘第一高校と、エースを欠きながらも勝ち上がって来たジャスミン学園。勝った方が四回戦の対戦相手になる。

 三回戦の翌日、ジャスミンのほむらから連絡を受けた鳴海(なるみ)とあおいは練習を早めに切り上げさせてもらい、偵察を兼ねて次の対戦相手が試合をしている球場へ足を運んだ。

 

「......ジャスミン、勝てるかな?」

「うーん、どうだろう」

 

 あおいの質問に鳴海(なるみ)は答えを濁した、それも致し方ない。誰の目から見ても両校戦力には歴然とした差が存在している。特に投手力、緒戦を控え投手で完封勝ちした激闘と何人も時には野手もマウンドに上がり繋いでここまで戦ってきたジャスミンとは比べものにならない。

 もしかしたら、もう試合は終わっているかも知れない。そんなことが頭を過りながらも、二人は階段を上りスタンドに出た。

 

「ウソ......」

「おいおい、マジかよ......!?」

 

 バックスクリーンに写し出されたスコアに二人が驚く、八回で2-0とジャスミンがリードしていたためだ。そして直後、八回裏激闘第一のボードに「0」の数字が刻まれた。

 

「あ、あおいちゃん!」

「えっ? そ、そんな......」

 

 グラウンドを見た二人は絶句した。マウンドに、あの太刀川(たちかわ)が立っていたからだ。

 太刀川(たちかわ)は、マウンドを降りてハイタッチを交わしながらベンチに座ってドリンクを飲む。

 

「ひ、ヒロぴー? 今投げてたの、ヒロぴーだよねっ!?」

「た、たぶん......あの、すみません」

 

 鳴海(なるみ)は近くの席で観戦している観客に、ここまでの試合経過を教えてもらった。お礼を言って空いている席に腰をかける。

 

太刀川(たちかわ)さん、初回から投げてるって......しかも三塁を踏ませてないって」

「そんな......で、でも、ヒロぴーの肩は――」

「......わからないけど。治ってなかったら激闘を抑えられないよ」

『ストライク、バッターアウト! チェンジ』

 

 九回表のジャスミンの攻撃は三者凡退。最終回のマウンドに、太刀川(たちかわ)が向かう。

 

「(あおい、見に来てるかな?)」

「ヒロ、行くわよ!」

「あ、うん、オッケー」

 

 投球練習を終え、試合再開。バッテリーはストレートを軸に組み立て、内野ゴロ二つでツーアウトを奪った。そして最後のバッター、小豪月(しょうごうげつ)を空振りの三振に打ち取り完封で試合を決めた。

 

 試合後ほむらに案内されて、鳴海(なるみ)とあおいはジャスミン学園の控え室へ来た。

 

「ヒロぴー、お二人が来てくれたッスよ」

「あ、ありがとう。久しぶりだね、あおい」

「う、うん......」

「キャプテンさん、渡久地(とくち)監督の指導法を聞かせて欲しいッス!」

「あ、うん、いいけど」

「ありがとうッスっ。じゃあほむらたちは、外に居るんでごゆっくりどうぞッス!」

 

 ほむらたちが出て行って、控え室で二人きりなった。

 

「あ、あの......」

「ゴメンっ!」

「え、えっ?」

 

 突然手を合わせて頭を下げた太刀川(たちかわ)に、あおいは驚いて戸惑う。

 

「ホントはもっと早く知らせたかったんだけど、いろいろ話せない事情があって......」

「じゃ、じゃあヒロぴーの肩は......」

「うんっ、バッチリ治ったよ!」

 

 笑顔でブイサインをした太刀川(たちかわ)を見たあおいの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

 

「わわわっ、ちょっと、あおいっ、泣かないでよっ」

「だ、だって、信じられなくて......」

「......実は、わたしもまだ信じられないんだけどねー」

 

 太刀川(たちかわ)は頬を指でかきながら、経緯をあおいに話した。

 

「じゃ、じゃあ渡久地(とくち)コーチが、お医者さんを紹介してくれたのっ?」

「うん、そうなんだ。でも条件として、あおいはもちろん恋恋高校の誰にも話すなって」

「......なんで?」

「さあ? でも昨日になってもう話していいって連絡が来て、だったら試合を見てもらった方がいいかなって思って、ほむほむに頼んだんだよ」

「そっか、そっか......。よかった、ホントよかった」

 

 一瞬笑顔を見せたあと太刀川(たちかわ)は、真剣な顔で右手を差し出して、あおいに握手を求めた。

 

「今度の先発、あおいだよね。わたし、絶対負けないから......!」

「ヒロぴー......」

 

 あおいは目を閉じて、ゆっくり深く息を吐いてから彼女をまっすぐ見つめて、その手を取り握手を交わす。そして――。

 

「ボクも、負けないよ。ボクたちは甲子園で優勝するんだから......!」

 

 そう力強く宣言した。

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