7Game   作:ナナシの新人

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対聖ジャスミン学園戦
game39 ~無言の会話~


『さあやって参りました東東京地区予選四回戦! 本日お届けするカードは、初戦から三試合全てをコールドゲームで勝ち上がってきた恋恋高校。そして第二シード激闘第一を完封で撃破した聖ジャスミン学園の一戦です!』

 

 ベンチ前では恋恋高校ナインたちがキャッチボールで身体をほぐし、試合が行われるグラウンドでは今、野球部の主将で扇の要でもある小鷹(こだか)を中心に聖ジャスミン学園が試合前の全体練習を行っている。

 

「まさか、あの激闘第一を完封で倒して来るなんてね」

「別に不思議でも何でもない」

 

 不幸なことに激闘第一高校は、全国優勝を狙える名門校。初出場の女子だけのチームが相手だったため、大事な緒戦にも関わらず戦力を温存して控え中心のオーダーを組んだ。

 試合序盤は、思惑通り激闘第一のペースで進んでいた。投手は凡打の山を築き、野手も安打を積み上げ、層の厚さを見せつけた。

 しかし、ランナーを出しても得点に結びつかない。良い当たりは野手の正面を付き、ランナーを得点圏に置いてもあと一本が生まれない。だが、ベンチも選手たちも楽観していた。

 

「『しっかり捉えている』『たまたま野手の正面に飛んでいるだけ』『球威はない、いずれ打ち崩せる』。そんな傲りが本質を見誤ったのさ」

 

 なかなか得点を奪えない中、ゲーム中盤不運な当たりで逆に先制点を奪われた。それでもまだ、ベンチには余裕があった。

 しかし、回が進むにつれその余裕は徐々に消えていった。

 五回も無得点に終わり、ここで漸く主力に切り替えた。だが、もう遅すぎた。復活したエース太刀川(たちかわ)の前に六回表を三者凡退に打ち取られ、その裏準備不足のままマウンドに上がった二年生エース鶴屋(つるや)が、不用意にストライクを放った初球を四番にホームランを打たれて失点。

 

「代わった二年生エースは、ややメンタル面に難がある選手だった。もう点をやれない場面での失点、これが致命的。自分たちは名門、相手は女子高、絶対に負けられない。そんな思いが自然とスイングを大きくさせ、全員が一発狙いの強振のフルスイング。当然力めば力むほど確実性を失いドツボに嵌まる」

 

 ジャスミンバッテリーは、激闘第一の一発狙いを嘲笑うように緩急を巧みに使いボール球を振らせ、フォームが小さくなるとみるや球威のあるストレートで打ち取る配球を展開。更に太刀川(たちかわ)は回を追う毎に尻上がりに調子をあげ、結局最後の最後まで捉えることが出来なかった。

 

「全ては起こるべく起きた必然だ」

「あの子たち......ジャスミン学園は――」

 

 強い。そう感じた理香(りか)の頭に一瞬なんとも言えない不安が支配した。

 

「そう悲観するな」

「えっ?」

「お前との契約は果たしてやる」

 

 そう言って東亜(トーア)は小さく笑みを浮かべ、ちょうどジャスミンの全体練習が終わった。両校の選手たちはベンチへ戻り、球審の号令が掛かるまで最後のミーティングが行われる。

 

「練習を見てて思ったんだけど、向こうのメンバーかなり変わってない?」

 

 芽衣香(めいか)の疑問の通りジャスミンベンチの顔ぶれは練習試合の時とガラリと変わっていた。スタメンに至っては四人も入れ替わっている。

 

「三回戦のあとほむらちゃんが教えてくれたんだけど、ケガをした太刀川(たちかわ)さんの復帰を信じて勧誘を続けたんだって。新しく入った女子たちは、ほむらちゃんの情熱に負けたみたい」

「情熱って言うか、もう執念ねっ」

「はっはっは、そうかもね。それで新しい選手の特徴だけど――」

 

 パワフルTVが配信しているアーカイブ映像で得た各選手の情報を、鳴海(なるみ)を中心に再確認。一方、聖ジャスミン学園ベンチは――。

 

「今日の先発はあおいちゃんッス、強敵ッス!」

「言われなくても分かってるわよ。あの練習試合じゃまともにバッティングさせて貰えなかったもの」

「だが部長、早川(はやかわ)はインコースを投げないぞ」

「もちろん知ってるわよ。何度も何度もビデオを見たからね」

 

 美藤(びとう)に指摘された小鷹(こだか)だったが、あおいの不調の原因に薄々感付いていた。それでも心を鬼にしてみんなに、そして自分に言い聞かせる。

 

「卑怯だと思うかも知れないけど私たちは、勝つために......甲子園に行くために弱点を狙って行くわよ......!」

「――はい!」

 

 声と気持ちを揃えて返事をした直後、審判団が集合の号令をかける。両校ナインたちはベンチを飛び出し、グラウンドに一列で並び整列。

 

「先攻、恋恋高校。礼!」

『お願いします!』

 

 ジャスミンは守備に、恋恋はベンチへそれぞれ戻り試合開始の時を待つ。先発ピッチャー太刀川(たちかわ)の投球練習が終わり、先頭バッター真田(さなだ)がバッターボックスに向かう。

 球審に挨拶をして、しっかり足場を作りバットを構えると球審が右手を伸ばした。プレイボール宣言と共に球審に試合開始を告げるサイレンが鳴り響く。

 

『さあいよいよプレイボール! 聖ジャスミンの先発太刀川(たちかわ)、いったいどんな立ち上がりを見せるのでしょうカーッ!? 実況はわたくし、熱盛(あつもり)が試合の最後まで熱く熱くお送りしてまいりーす!』

 

 太刀川(たちかわ)の第一球――。

 

「ストライクッ!」

『アウトコースへストレートがビシッと決まりました! 先頭バッター真田(さなだ)、ピクリとも動きません! ワンストライク!』

「ナイピッチ!」

 

 小鷹(こだか)は受けたボールを太刀川(たちかわ)に投げ返して腰を下ろし、真田(さなだ)に目をやる。

 

「(練習試合と今までのビデオを見た限りストライクはどんどん振ってくるタイプなのに平然と見送ったわね。手が出なかったのかしら? それとも太刀川(ヒロ)の回復具合を見定めてる?)」

 

 真意は、その両方だった――。

 

「(やべぇ......今の手が出なかったぞ。けど、これは絶対に悟られちゃいけない。メンタルトレーニングの時と同じでポーカーフェイスで......!)」

 

 平然を装いながら悟られないように、小指一本グリップを余して握り直した。

 

「(それに今のストレート、練習試合の時よりも明らかに速い。ここは先ずストレートのタイミングにキッチリ合わせる――!)」

 

 高い実力を持つ女子選手が同じチームに所属していて更に、相手も練習試合で実力があることを知っているから勝負の世界では命取りに成りかねないプライドを捨てることが出来る。

 これが恋恋高校と、足元を掬われた激闘第一との一番の違い。バッターボックスの真田(さなだ)に油断や慢心は微塵もない、それは他のナインも同じ。

 

『さあ二球目。バッテリーの選択は――ストレート!』

「(よしっ、良いコースよ。ボールも走ってる!)」

「くっ......!」

 

 バットの先の上っ面に当たったボールは、球審の左肩の上を抜けてバックネットに当たり、ガシャンッと音を立ててファールゾーンに落下した。

 

「ファ、ファール!」

『ほぼ真後ろへのファール! ひと振りでタイミングを合わせて来ました!』

「(今のストレートに合わせて来るなんて、流石ね。なら次は――)」

「(ストレートのタイミングで待って、狙い通りストレートをスイングして差し込まれた。もっと始動を速めるか......? でもノーツー、カウント的にも変化球は十分考えられるぞ。もう一球ストレートか、緩急のあるカーブ......。外の良いコースへ二球来た、これ以上のストレートは無い。なら次は――)」

 

 ――外、ボールになるカーブ。二人の考えがピッタリ重なった。小鷹(こだか)は緩急のあるカーブのサインを出し、真田(さなだ)も甘く入れば叩くと変化球をセンターから逆方向へ流し打つイメージを持って狙いを定めた。

 しかし二人の思惑とは裏腹に太刀川(たちかわ)は、変化球のサインに首を横に振る。

 

「(カーブはイヤなの? 仕方ないわね。じゃあインコースのシンカーかシュートで――ってストレート!?)」

 

 サインを出し直す前に太刀川(たちかわ)は、プレートを外して帽子の鍔に軽く指先を触れて自ら球種のサインを送った。

 

「(さすがに三球も続けたら前に飛ばされるわよっ。コイツらみんな目が良いんだから!)」

「(わかってるよ。でもお願い、小鷹(タカ)、ここは勝負させて。あたしの今のストレートが通用するか試させて。この先絶対に競った場面が来る。その時自信を持って投げ込めるように――!)」

 

 太刀川(たちかわ)の並々ならぬ意志の強さを感じ取った小鷹(こだか)は、目をつむり大きくひとつタメ息をついてうなづいた。

 

「(まったく頑固ね。わかったわよ、真っ向勝負で行くわよ)」

「(ありがとっ)」

「(でも、もう外はダメ、三球続けたら打たれる。攻めるならここよ!)」

 

 インコース低めにミットを構えた。太刀川(たちかわ)は、頷いて投球モーションに入る。

 

『太刀川《たちかわ》、ノーワインドアップから第三球を――投げました! インコースのストレート!』

 

「(インコース!?)」

「(ナイスコース、完璧よ!)」

 

 完全に裏をかかれた真田(さなだ)は、やや腰を引く感じでインコースギリギリのストレートに手を出せず見送り。直後、パンッ! と小気味良い音を響かせてボールはキャッチャーミットに収まった。

 

「(やべぇっ!)」

「(よし、入ったっ!)」

 

『指にかかったストレートがミットを奏でるぅ! ウーン、どちらと取れるスバラシイコースへの投球! 果たして球審の判定は――』

 

 捕手、打者ともに見逃し三振をほぼ確信。

 しかし一呼吸置いたあと球審のジャッジは、手は上がらずに首を横に振った。

 

「ボ、ボール!」

「っ!?」

 

 小鷹(こだか)は思わず声を上げそうになったのを必死に抑え、逆に命拾いした真田(さなだ)はほっと胸を撫で下ろす。対称的な二人の表情(かお)を見て、東亜(トーア)はベンチの投手陣と捕手陣に問いかけた。

 

「ようお前ら、さっきの場面三球勝負で打ち取るなら何を選択する?」

「カウント0-2からの三球勝負ですか? 瑠菜(るな)ちゃん」

 

 捕手経験の浅い鳴海(なるみ)は、隣に座っている瑠菜(るな)に振る。

 

「きわどいコースへの投球よ。球種は前の配球にもよるけど、大半はボール球に手を出してくれれば儲け物って感じじゃないかしら」

「うん、ボクもそんな感覚で投げてるよ。ストライクゾーンにはほとんど入れないかな」

「俺もキャッチャーやってた時は、落ちるボールか、外の変化球か、高めの釣り球を要求したな」

 

 日本の野球では二球目でノーツーと追い込んだ場合、三球勝負へは行かず一球外すことがセオリーとなっているがこれは、間合いを取ることと、打者の感覚をずらす目的がある。例えば外を続ければ内角が近く感じ、内角を続ければ外角がより遠く感じ、打者に取ってのストライクゾーンを広げる効果がある、が。

 実はこれ、ノーストライク・スリーボールの次は一球待てと似ている一面もあったりする。せっかく追い込んだのに三球目でヒットを打たれると「なぜ一球外さないんだ」と失敗を怒る指導者が居たりするからだ。(実際、某プロ野球チームにはかつてツーナッシングから打たれると罰金等があったそうです)。

 

「だそうよ」

「難しく考えすぎだな。もっとシンプルに考えろ」

「シンプルに、ですか?」

 

 ストライクを取ってもらえなかった次の投球、ジャスミンバッテリーはカーブをアウトコースへ外して2-2平行カウント。

 

「今の場面、ジャスミンバッテリーは変化球(カーブ)で逃げざるをえなかった。一球前の投球が完璧すぎた結果な」

 

 三球目、グラウンドで対峙していた小鷹(こだか)真田(さなだ)の対称的な表情を見て東亜(トーア)は確信した。あの一球はストライクだった、と。

 

「0-2からの三球勝負の三球目、球審のストライクゾーンは通常よりもやや狭くなる傾向がある」

 

 逆に3-0の場合は、ストライクゾーンがやや広がる傾向がある。

 

「よほど甘いコースでなければストライクを取ってもらえないことがある。それが良いコースであればあるほど次の投球に影響する。そこで三球勝負の鉄則は『見逃しは狙わず、空振りを奪え』だ」

「空振り......瑠菜(るな)ちゃんなら、低回転ボール。あおいちゃんならマリンボールかな?」

「決め球を定めるな、状況に応じて使い分けろ。『空振りを奪う』と言うことはイコール『手を出しやすい甘いコースへの投球』と言うことでもある。続ければ狙われる。その都度一番効果的な配球を見定めろ」

「――はい!」

 

 バッテリーたちは頷いて揃って力強く返事をした。

 その頃グラウンドでは、ツーナッシングからフルカウントまで粘った真田(さなだ)だったが、力のある外のストレートでサードフライに打ち取られたところだった。

 

「悪い、打ち上げちまった」

「ドンマイ、でどうだった?」

「相当来てるぞ。球威も制球も練習試合より遥かに上だ」

「マジか......」

 

 鳴海(なるみ)は、グラウンドへ目を戻す。二番バッターの葛城(かつらぎ)が、内野ゴロに打ち取られツーアウト。

 そして――。

 

「ライトーっ!」

「あっ! くそ~っ!」

「おーらいっ」

 

 キャッチャーが指示を出し、定位置から三メートルほど下がったライトが落下点でグラブを構える。

 

『ライト、美藤(びとう)千尋(ちひろ)。三番バッター、奥居(おくい)の打球をガッチリキャッチ! これでスリーアウトチェンジですッ! マウンドの太刀川(たちかわ)、これまで初回にビックイニングを作ってきた強力恋恋打線を三者凡退に切って見せましたーッ!』

 

 悔しそうに戻ってくる奥居(おくい)。逆に太刀川(たちかわ)は笑顔でハイタッチを交わしている。

 

「ヒロぴー、スゴい!」

「負けられないね」

「うんっ、行こう!」

 

 三者凡退に打ち取られた恋恋高校ナインたちは、そんなことを気にするそぶりも見せず走ってグラウンドへ飛び出して行った。

 

「あおいちゃん、ラスト!」

「――っ!」

「オッケー、ナイスボールッ!」

 

 パーン! と最後の投球練習を終えて、ジャスミン一番バッターがバッターボックスへ。

 

『恋恋高校の先発は、早川(はやかわ)あおい! 今日も熱盛(あつもり)の胸を熱くしてくれるのか! 対する聖ジャスミン学園の一番バッターは矢部田(やべた)! この瓶底眼鏡の向こうにどんな素敵な素顔を隠しているのか、矢部田(やべた)亜希子(あきこ)が右バッターで構えます!』

 

 鳴海(なるみ)は、前回の練習試合には居なかった矢部田(やべた)をじっくり観察。

 

「(前は居なかった選手か。この子を含めてあと四人が新しいスタメン......アーカイブを見た限り定石通り足のあるタイプだった。その足を潰すためにインコースを使いたいところだけど)」

 

 あおいは、まだインコースを投げれていない。

 

「(外の真っ直ぐで対応をみよう)」

「(アウトコース狙いだべ!)」

 

 鳴海(なるみ)のサインにあおいは、首を横に振った。

 

「(そう? じゃあシンカーを振らせて――)」

 

 またサインに首を振る。あおいは、太刀川(たちかわ)と同様に自分から投げたいボールのサインを出した。

 

「(インコースの真っ直ぐ!? でも......)」

「(――大丈夫、投げさせて......!)」

 

 鳴海(なるみ)はベンチを見て、東亜(トーア)に指示を求めた。しかし東亜(トーア)は、どこか愉快そうに小さく笑みを浮かべるだけで指示は一切出さず突き放す。

 

「(......キャッチャーがピッチャーを信じなくてどうする?)」

 

 色々な思考が鳴海(なるみ)の頭の中を駆け巡ったが、やがてひとつの結論に達した。インコースにミットを構えた。

 あおいは大きく頷き、投球モーションに入る。

 

「(ヒロぴー、見てて......これがボクの本気だよ!)」

 

 そして、構えたミットめがけて勢いよく腕を振った。

 

「――いっけーっ!!」

 

 しなやかなフォームから投じられたストレートは、ミットめがけて飛んでいく。そしてインコースに構えた鳴海(なるみ)のミットに、一寸の狂いもなく渾身のストレートが突き刺さる。

 

「ス、ストライークッ!」

『初球、インコースのストレートが決まったーッ!』

「部長、今のインコースだったぞ!」

「まさか克服したって言うのっ?」

「さすが、あおい......!」

 

 あおいはマウンドからジャスミンベンチに向かって笑顔を見せて、太刀川(たちかわ)も笑顔で答える。

 

「(ボク――)」

「(あたし――)」

 

 その笑顔で二人は、無言の会話を交わした。

 

 ――絶対に負けないからっ!

 

 




パワプロでは太刀川(たちかわ)はスクリューですが、シンカーとして書いています。
これは実際シンカーとスクリューは別物だからです。パワプロでは右はシンカー、左はスクリューとなるので。
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