7Game   作:ナナシの新人

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大変お待たせいたしました。



game43 ~布石~

『さあ試合もいよいよ終盤戦。七回の表恋恋高校の攻撃は、一番レフト――真田(さなだ)! ここまではサードフライとセカンドゴロと二打席連続で凡退、チームも未だノーヒット。突破口を開くことが出来るのでしょーカ!!』

 

 球審に一礼して打席に入った真田(さなだ)は、しっかり足場をならしてマウンドの太刀川(たちかわ)と対峙。

 

「(コーチが指摘してくれた、俺たちの弱さ......。俺は、必ず打つ――!)」

 

 六回裏を抑えた後のインターバル。東亜(トーア)はナインを集めて、太刀川(たちかわ)のピッチングの秘密を伝えた。

 

太刀川(たちかわ)のストレートは、俗に言うファストボールと言うヤツだ」

「ファストボール......動くストレート。ツーシームですか?」

「いや、オイラには太刀川(たちかわ)のストレートは全部フォーシームの回転に見えたぜ」

「あたしも同じよ。完璧なストレートだったわ」

 

 鳴海(なるみ)の答えをチーム一の動体視力を持つ奥居(おくい)が否定し、バントで球筋を見極めた芽衣香(めいか)奥居(おくい)の意見に同意した。

 フォーシームは、ピッチャーが一番最初に教わるストレートの基本的な握り。ボールが一回転する間に四本の縫い目が通過するように投げる日本で主流の直球(ストレート)。一番球速が出て球威のあるボールである反面、他の球種に比べて軌道が素直なため球速や球威・制球力が伴っていなければ比較的打たれやすいボールでもある。

 一方ツーシームは、二本の縫い目を通過するように投げる米国等海外で主流なストレート。日本で主流のフォーシームと比べると空気抵抗を受けやすく、手元で小さく変化するのが特徴の速球(ファストボール)

 

「そうなると太刀川(たちかわ)さんのストレートは動くフォーシームってことになるけど、そんなこと出来るの?」

「そうね......出来なくはないわ。例えば、肘をちょっと上げ下げするだけで同じストレートでも回転軸が少し変わって軌道にも変化が生まれるわ。疲労で肘が下がるとシュート回転するみたいにね。ただ、フォームを崩す恐れがあるから普通意図しては投げないけど」

「うん、そうだね。そもそもボクたちピッチャーは、どんな球種でも同じフォーム、同じ腕の振りの強さで投げられることを理想に練習してるんだもん。フォームを変えるなんて――」

 

 ナインたちは太刀川(たちかわ)のピッチングについて話し合い、東亜(トーア)にも意見を求めた。

 

「コーチは、どう思いますか?」

「どうでもいい」

「......えっ!?」

 

 太刀川(たちかわ)のピッチングをどうでもいいと言い放った東亜(トーア)に注目が集まる。

 

「どう投げているかは、さほど重要じゃない。重要なのは、どう打ち砕き仕留めるかだ。考え過ぎることで自らハードルを上げ、相手の力量を見誤り、必要ないプレッシャーを感じてしまう。その時点で勝負は負けに等しい。このまま何も出来ずに負けるのか?」

 

 東亜(トーア)の問い掛けに、全員が力強い眼差しを向ける。その目は絶対に負けたくないと言う意思を感じさせる目だった。

 

「フッ、なら思い出せ。お前たちが、どうやられたかをな――」

 

 東亜(トーア)の言葉を思い出しながら真田(さなだ)は、グリップを握り直し、左バッターボックスで構えて太刀川(たちかわ)を見据える。

 

「(一打席目はサードフライ、二打席目はセカンドゴロ。どっちも動くストレートをミスショットした)」

 

『ストライクです! うーん、インコースのスバラシイコースの変化球(シンカー)で見逃しのストライク!』

 

「おっけー、ナイスピッチよっ」

 

 太刀川(たちかわ)にボールを投げ返して腰を下ろした小鷹(こだか)は、したり顔でわざと聞こえるようにささやく。

 

「ふふーん、手が出ないみたいね。もう一球いこうかしら?」

「(うっせーな。わかってるつーの、どうせ......ん?)」

 

 あることに気づいた真田(さなだ)は、二球目のストレートを見逃して追い込まれた。

 

「(あら? 甘いコースだった手を出さなかったわ。ずいぶん消極的ね。とにかく塁に出たいから慎重にってことなのかしら? だったら、こう言う釣り球(ボール)に手を出しやすいでしょ!)」

 

 三球目、インハイのストレート。

 真田(さなだ)は、このボール球にわざと手を出し、そして、ハーフスイングにならない程度のところでバットを止める。

 

「スイング!」

「いや、振ってない」

 

 アピールするも球審が首を横に振った。

 

「(よし、狙い通り止めれた。次だ......!)」

「(スイングには成らなかったけど出かかった、やっぱりゾーンを広くして構えてるわ。これを振ってもらいましょ)」

「(おっけー、カーブだね)」

 

 サインに頷いた太刀川(たちかわ)、モーションを起こして四球目を投げた。アウトコース、ストライクからボールになる完璧なカーブ。

 

「(ナイスコース!)」

「(――来た! これだ!)」

 

 真田(さなだ)は、これを待っていた。踏み込んで流し打ち、痛烈な打球が三遊間へ転がった。

 

真田(さなだ)、打った! 打球は、三遊間のど真ん中ー!』

 

「(ウソでしょっ? 完全なボール球を踏み込んで打った......!?)」

 

 小鷹(こだか)は、マスクを脱ぎ捨て内野に指示を出す。

 

「ショート、サード!」

「ボクに任せて!」

 

 ショート小山(おやま)が横っ飛びで捕球。素早く体勢を立て直すも、バッターランナーは俊足の真田(さなだ)

 

『遂に出ました! 恋恋高校、内野安打で初めてのランナーが出ましたー! 小山(おやま)もよく追い付きましたが、投げられませんでした......!』

 

 初ヒット・初ランナーを許したジャスミンは、タイムを取って内野陣がマウンドに集合。その間に真田(さなだ)は、肘あてを回収に来た片倉(かたくら)に伝言を頼んだ。

 

「甘いコースのストレートはたぶん、全部、動くファストボールだ。誘い球とカウントを整えに来る変化球を狙った方が打てる」

「はい、分かりました。伝えます」

 

 ネクストバッターズサークルで準備している葛城(かつらぎ)に伝えてからベンチに戻る。

 

「じゃああの甘いコースのストレートは意図して投げてたってことなのっ?」

「はい、芽衣香(めいか)先輩。真田(さなだ)先輩は、そう言っていました」

「なるほどな。言われてみれば、オイラも二打席ともストレートにやられたぜ」

「俺もだよ。甘いコースは積極的に狙いにいく俺たちの傾向を逆手に取られたんだ」

「やってくれるでやんすね」

 

 グラウンドに目を戻すと、マウンドの輪はなくなり試合が再開されるところだった。

 

「(コーチからサインはない。走るよな?)」

「(――当然! けど、とりあえず一球見させてくれ。データと照らし合わせる)」

「(了解)」

 

 仕切り直しの第一球は、盗塁とバントの両方を警戒してのウエスト。アウトハイへ大きく外した。

 

「(走る気配はない......バントの構えも見せなかったし、強攻策かしら? もう一球様子を見ましょ)」

「(うん)」

 

 頷いた太刀川(たちかわ)目で牽制したあと二球続けて牽制球を投げる。もう一度目で牽制し、モーションを起こそうとしたその前に、ファーストランナーの真田(さなだ)はスタートを切った。

 

「――走った!? 太刀川(ヒロ)!」

「(ダメ! もう投球に体が向いちゃってる......! 無理に牽制球を投げればボークになっちゃうっ! それより速く――!)」

 

『あーっと! 太刀川(たちかわ)、暴投ッ!』

 

 まさかのタイミングでの盗塁に速く投げなければならないと言う想いで乱れたフォームでの投球は、ベースの手前でワンバウンド。キャッチャー小鷹(こだか)は、必死に体で止めたが送球はままならず二塁はゆうゆうセーフ。無死二塁。

 このピンチにジャスミンは、二度目のタイムを取った。

 

「ごめん、焦っちゃった」

「仕方ないわ、あんな完璧に盗まれるなんて思わないもの。それより次だけど......」

 

 ミットで顔を隠しながら一瞬葛城(かつらぎ)に目をやった。

 

「バントか右打ちをしたいハズだからインコース攻めで行くわ。(みやび)とナッチは定位置。美代子(みよこ)はベース付近に、ほむらは気持ち前目にポジションを取ってバントに備えて」

「うん」

「おっけー」

「りょーかいッス!」

「はーいっ、みよちゃん、ガンバりますっ」

 

 それぞれポジションに戻り、試合再開。

 ジャスミンバッテリーは作戦通りバントと右打ちを封じるインコース攻め。厳しいコースを攻められるも、葛城(かつらぎ)は見事送りバントを決める。一死三塁。三番奥居(おくい)に対して慎重に攻めるもカウントが悪くなると敬遠気味のフォアボールで歩かせ、四番甲斐(かい)との勝負を選択した。

 

「お願いします」

「ウム」

「――えっ?」

 

  丁寧に一礼して左打席に入った甲斐(かい)小鷹(こだか)は困惑、それは恋恋高校のベンチも同じだった。

 

「ほう......」

「どういうことなのかしら?」

「さあな。だが、面白い」

 

 スイッチヒッターの甲斐(かい)は、サウスポーの太刀川(たちかわ)に対し先の二打席ともセオリー通り右打席に入っていた。しかし、この打席は左打席で構えている。

 

「(二打席ともまともに打てるボールは来なかった。俺だけじゃない。右バッターはことごとく、食い込んでくるストレートにやられている。なら、左打席(こっち)の方がチャンスはある......)」

 

 初球・二球と外のストレートを空振り追い込まれた。

 

「(タイミングが合ってない、やっぱり苦し紛れの左ね。三球勝負で決めるわよっ!)」

 

 三球目、遊び球は放らず三球勝負インコースへストレートを投じた。

 

「ランナーバーックッ!!」

「クソッ!!」

「ア、アウトーッ!」

 

『ダ、ダブルプレー! 四番、甲斐(かい)、火の出るような痛烈な当たりでしたがファースト川星(かわほし)へのライナー。ファーストランナーの奥居(おくい)は戻れず、ダブルプレーでチャンスを逃しましたー!』

 

「くっ......」

 

 絶好のチャンスを潰した形となり甲斐(かい)は、悔しそうに歯を食い縛りベンチへ戻る。

 

「すみません」

「謝る必要などない。むしろあのダブルプレーは勝利への布石になった」

「布石に?」

 

 ピンチを乗り切り盛り上がっているジャスミンベンチを見て、東亜(トーア)は「そのうち分かるさ」と意味深に笑った。

 

「あんなすんごい当たりよく取ったわね、エライじゃんっ!」

「えへへ~、でも正直、ちょっと漏らしそうになったッス!」

「汚いわね~、トイレ行ってきなさいよー」

「漏らしてないッス! 漏らしそうになっただけッス!」

 

 騒がしいベンチの中プロテクターを外しながら小鷹(こだか)は一人、他のナイン真逆のこと考えてた。

 

「(打球が上がらなかったから助かったけど、完璧に捉えられた。あの二球の空振りは、ストレートの勝負を誘うためのブラフ。完全に裏をかかれた......何してんのよ、あたし。絶対に気を抜いちゃいけない相手だって分かってたのに......)」

 

 大きく息を吐いて顔を上げた。

 

 ――もう油断しない。この試合必ず勝って、みんなと甲子園に行くんだから......!

 

 

           * * *

 

 

 七回裏ジャスミンの攻撃。先頭バッター小山(おやま)を内野ゴロに打ち取るも三番の美藤(びとう)が、あおいのシンカーをレフト前へ打ち返して出塁。一死一塁で四番の大空(おおぞら)の打席。

 

「(大空(おおぞら)さん、この人も練習試合には居なかった。打率は二割に満たないけど、激闘第一のエースからホームランを打ってる強打者だ。コースを間違えないようにね)」

「(うんっ)」

 

 恋恋バッテリーは、大きく曲がる変化球で左右に揺さぶり狙い通り外野フライに打ち取りツーアウト。そして五番柳生(やぎゅう)は、苦手としている低めへのマリンボールで空振り三振に仕留めた。

 

『七回裏、ワンナウトからランナーを出しましたが無得点。試合は八回に入ります。八回表恋恋高校の攻撃は、五番ライト近衛(このえ)から始まります!』

 

 しかし、右バッターの近衛(このえ)はインコースを執拗に攻められたあとのシンカーを打たされセカンドゴロに打ち取られてしまった。

 

「(やっぱり右バッターは厳しいのか。なら、俺が打つしかない......!)」

 

 鳴海(なるみ)は、クサいところをカットし甘いボールを待つ。

 

「ちょっと、しつこい男は嫌われるわよっ?」

「あ、それキャッチャーには褒め言葉だから」

「言ってくれるわねっ。ヒロ、次で仕留めるわよ!」

「うんっ!」

 

 バッテリーが選択した勝負一球はストレート、と見せかけたシュート。インコースへ食い込んでくるボールに対し、咄嗟に肘をたたんで打ち返した。

 

『打球は、ふらふらっと上がった。セカンドとライトの......その間に落ちたー! テキサスヒット!』

 

 恋恋にとってはラッキーな、ジャスミンにはアンラッキーな形でランナーが出た。一死一塁。

 

「さて、そろそろ決めるとするか」

 

 七番矢部(やべ)の打順。

 ついに東亜(トーア)が動いた。

 

 ――代打、六条(ろくじょう)

 




次回、ジャスミン戦完結編となります。
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