『さあ試合もいよいよ終盤戦。七回の表恋恋高校の攻撃は、一番レフト――
球審に一礼して打席に入った
「(コーチが指摘してくれた、俺たちの弱さ......。俺は、必ず打つ――!)」
六回裏を抑えた後のインターバル。
「
「ファストボール......動くストレート。ツーシームですか?」
「いや、オイラには
「あたしも同じよ。完璧なストレートだったわ」
フォーシームは、ピッチャーが一番最初に教わるストレートの基本的な握り。ボールが一回転する間に四本の縫い目が通過するように投げる日本で主流の
一方ツーシームは、二本の縫い目を通過するように投げる米国等海外で主流なストレート。日本で主流のフォーシームと比べると空気抵抗を受けやすく、手元で小さく変化するのが特徴の
「そうなると
「そうね......出来なくはないわ。例えば、肘をちょっと上げ下げするだけで同じストレートでも回転軸が少し変わって軌道にも変化が生まれるわ。疲労で肘が下がるとシュート回転するみたいにね。ただ、フォームを崩す恐れがあるから普通意図しては投げないけど」
「うん、そうだね。そもそもボクたちピッチャーは、どんな球種でも同じフォーム、同じ腕の振りの強さで投げられることを理想に練習してるんだもん。フォームを変えるなんて――」
ナインたちは
「コーチは、どう思いますか?」
「どうでもいい」
「......えっ!?」
「どう投げているかは、さほど重要じゃない。重要なのは、どう打ち砕き仕留めるかだ。考え過ぎることで自らハードルを上げ、相手の力量を見誤り、必要ないプレッシャーを感じてしまう。その時点で勝負は負けに等しい。このまま何も出来ずに負けるのか?」
「フッ、なら思い出せ。お前たちが、どうやられたかをな――」
「(一打席目はサードフライ、二打席目はセカンドゴロ。どっちも動くストレートをミスショットした)」
『ストライクです! うーん、インコースのスバラシイコースの
「おっけー、ナイスピッチよっ」
「ふふーん、手が出ないみたいね。もう一球いこうかしら?」
「(うっせーな。わかってるつーの、どうせ......ん?)」
あることに気づいた
「(あら? 甘いコースだった手を出さなかったわ。ずいぶん消極的ね。とにかく塁に出たいから慎重にってことなのかしら? だったら、こう言う
三球目、インハイのストレート。
「スイング!」
「いや、振ってない」
アピールするも球審が首を横に振った。
「(よし、狙い通り止めれた。次だ......!)」
「(スイングには成らなかったけど出かかった、やっぱりゾーンを広くして構えてるわ。これを振ってもらいましょ)」
「(おっけー、カーブだね)」
サインに頷いた
「(ナイスコース!)」
「(――来た! これだ!)」
『
「(ウソでしょっ? 完全なボール球を踏み込んで打った......!?)」
「ショート、サード!」
「ボクに任せて!」
ショート
『遂に出ました! 恋恋高校、内野安打で初めてのランナーが出ましたー!
初ヒット・初ランナーを許したジャスミンは、タイムを取って内野陣がマウンドに集合。その間に
「甘いコースのストレートはたぶん、全部、動くファストボールだ。誘い球とカウントを整えに来る変化球を狙った方が打てる」
「はい、分かりました。伝えます」
ネクストバッターズサークルで準備している
「じゃああの甘いコースのストレートは意図して投げてたってことなのっ?」
「はい、
「なるほどな。言われてみれば、オイラも二打席ともストレートにやられたぜ」
「俺もだよ。甘いコースは積極的に狙いにいく俺たちの傾向を逆手に取られたんだ」
「やってくれるでやんすね」
グラウンドに目を戻すと、マウンドの輪はなくなり試合が再開されるところだった。
「(コーチからサインはない。走るよな?)」
「(――当然! けど、とりあえず一球見させてくれ。データと照らし合わせる)」
「(了解)」
仕切り直しの第一球は、盗塁とバントの両方を警戒してのウエスト。アウトハイへ大きく外した。
「(走る気配はない......バントの構えも見せなかったし、強攻策かしら? もう一球様子を見ましょ)」
「(うん)」
頷いた
「――走った!?
「(ダメ! もう投球に体が向いちゃってる......! 無理に牽制球を投げればボークになっちゃうっ! それより速く――!)」
『あーっと!
まさかのタイミングでの盗塁に速く投げなければならないと言う想いで乱れたフォームでの投球は、ベースの手前でワンバウンド。キャッチャー
このピンチにジャスミンは、二度目のタイムを取った。
「ごめん、焦っちゃった」
「仕方ないわ、あんな完璧に盗まれるなんて思わないもの。それより次だけど......」
ミットで顔を隠しながら一瞬
「バントか右打ちをしたいハズだからインコース攻めで行くわ。
「うん」
「おっけー」
「りょーかいッス!」
「はーいっ、みよちゃん、ガンバりますっ」
それぞれポジションに戻り、試合再開。
ジャスミンバッテリーは作戦通りバントと右打ちを封じるインコース攻め。厳しいコースを攻められるも、
「お願いします」
「ウム」
「――えっ?」
丁寧に一礼して左打席に入った
「ほう......」
「どういうことなのかしら?」
「さあな。だが、面白い」
スイッチヒッターの
「(二打席ともまともに打てるボールは来なかった。俺だけじゃない。右バッターはことごとく、食い込んでくるストレートにやられている。なら、
初球・二球と外のストレートを空振り追い込まれた。
「(タイミングが合ってない、やっぱり苦し紛れの左ね。三球勝負で決めるわよっ!)」
三球目、遊び球は放らず三球勝負インコースへストレートを投じた。
「ランナーバーックッ!!」
「クソッ!!」
「ア、アウトーッ!」
『ダ、ダブルプレー! 四番、
「くっ......」
絶好のチャンスを潰した形となり
「すみません」
「謝る必要などない。むしろあのダブルプレーは勝利への布石になった」
「布石に?」
ピンチを乗り切り盛り上がっているジャスミンベンチを見て、
「あんなすんごい当たりよく取ったわね、エライじゃんっ!」
「えへへ~、でも正直、ちょっと漏らしそうになったッス!」
「汚いわね~、トイレ行ってきなさいよー」
「漏らしてないッス! 漏らしそうになっただけッス!」
騒がしいベンチの中プロテクターを外しながら
「(打球が上がらなかったから助かったけど、完璧に捉えられた。あの二球の空振りは、ストレートの勝負を誘うためのブラフ。完全に裏をかかれた......何してんのよ、あたし。絶対に気を抜いちゃいけない相手だって分かってたのに......)」
大きく息を吐いて顔を上げた。
――もう油断しない。この試合必ず勝って、みんなと甲子園に行くんだから......!
* * *
七回裏ジャスミンの攻撃。先頭バッター
「(
「(うんっ)」
恋恋バッテリーは、大きく曲がる変化球で左右に揺さぶり狙い通り外野フライに打ち取りツーアウト。そして五番
『七回裏、ワンナウトからランナーを出しましたが無得点。試合は八回に入ります。八回表恋恋高校の攻撃は、五番ライト
しかし、右バッターの
「(やっぱり右バッターは厳しいのか。なら、俺が打つしかない......!)」
「ちょっと、しつこい男は嫌われるわよっ?」
「あ、それキャッチャーには褒め言葉だから」
「言ってくれるわねっ。ヒロ、次で仕留めるわよ!」
「うんっ!」
バッテリーが選択した勝負一球はストレート、と見せかけたシュート。インコースへ食い込んでくるボールに対し、咄嗟に肘をたたんで打ち返した。
『打球は、ふらふらっと上がった。セカンドとライトの......その間に落ちたー! テキサスヒット!』
恋恋にとってはラッキーな、ジャスミンにはアンラッキーな形でランナーが出た。一死一塁。
「さて、そろそろ決めるとするか」
七番
ついに
――代打、
次回、ジャスミン戦完結編となります。