7Game   作:ナナシの新人

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ジャスミン戦完結偏です。


game44 ~誓い~

「お、俺が代打ですか......?」

 

 突然代打を告げられた六条(ろくじょう)は、困惑していた。それもそのはず、先輩の矢部(やべ)に代わっての代打。さらに守備での出場はあるが打席にはただの一度も立ったことがないのだから無理もない。

 そんなことはお構いなしに東亜(トーア)は、強引にバットを持たせた。

 

「あおいと一打席勝負した時のイメージで打席に立て。そうすりゃあ打てる」

「は、はぁ......」

 

 渡されたバットを手に緊張でカチカチに固まっている六条(ろくじょう)を見かねた理香(りか)は、優しく声をかけた。

 

「大丈夫よ。あなた憧れの伝説の勝負師、あの渡久地(とくち)東亜(トーア)が打てるって言っているんだから。それに失敗しても頼もしい先輩たちが必ずフォローしてくれるわ。だからあなたは、今日までやって来たことを信じて悔いのないようにね」

「......はい!」

 

 力強く頷いた六条(ろくじょう)の目に一切の迷いや不安はなかった。

 ――お願いします! と頭を下げて左打席に入る。

 スタンドからすべての視線が注がれるバッターボックス。『恋恋高校選手の交代をお知らせします。矢部(やべ)くんに代わりまして、バッター、六条(ろくじょう)くん』場内に流れるアナウンスを背に六条(ろくじょう)は、公式戦初打席を迎える。

 

「(前の打席、アウトでもフェンス際まで運んだ矢部(メガネ)を代えて、この場面で一年生の代打......? いったいどう言うことよ?)」

 

 この采配を疑問に思ったのは小鷹(こだか)だけはなく、ファーストランナーの鳴海(なるみ)も同じ。

 

「(ここで代打? っと、サインを――)」

 

 だが、すぐに気を取り直してサインを確認すべくベンチに顔を向ける。

 

「はるか、お待ちかねだ、サインを出すぞ」

「は、はいっ」

「サインは......」

 

 東亜(トーア)は空サイン出し、はるかが本当のサインを出す。予選が始まって以来初めて出す、はるかのサインは――。

 

「(初球エンドラン!? いくら右よりチャンスのある左って言っても、俺たちも完全には捉えられていない太刀川(たちかわ)さんの投球(ボール)を初球でだなんて......)」

 

 バッターボックスの六条(ろくじょう)をチラリと見る。緊張する様子もまったくなく平然と太刀川(たちかわ)に集中していた。

 

「(肝は座ってるなぁ。なのに俺が不安にどうする? ......よし、六条(ろくじょう)が空振ってもセカンドを奪うつもりで走ってやるぞ!)」

 

 しっかりリードを取ってグッと腰を落とした。

 その行動を見てから小鷹(こだか)は、バッターをじっくり観察。

 

「(この代打は、今大会初打席。初見で太刀川(ヒロ)のボールを打てるとは思えないわ。グリップを指二本分短く持ってるし、たぶんバントね。その証拠に鳴海(ランナー)も、少しでもセカンドへ近づこうと大きなリードを取ってる。クロスして食い込んでくる右より左の方がバントもしやすいってところかしら。二人とも前に来てセカンドで刺すわよ......!)」

 

 ブロックサインでバントシフト敷き、太刀川(たちかわ)に球種のサインを出す。サインはストレート。そして、ミットをバント殺しのインハイへ構えようとした時、彼女の腕が止まった。

 

「(......なに考えてるよ、あたし。もう油断しないって誓ったのに。前の回四番に内角(ここ)を叩かれたじゃない! 長打力のある右の矢部(メガネ)に代えて左の代打、短く持ったバットはインコースを狙うため。もし引っ張られたら最悪一・三塁にされることだってあるわ。そうしたら次は、バントも右打ちも上手い芽衣香(セカンド)。そうなったら――)」

 

 あらゆる可能性が一瞬の内に頭の中を駆け巡り、ある結論に達した。それは想定しうる最悪を避けるための思考。東亜(トーア)は、それを狙っていた。

 

藤堂(とうどう)六条(ろくじょう)の代走で行く、準備しておけ」

「は、はい!」

 

 指名を受けた藤堂(とうどう)は、スパイクの紐を結び直し、出番に備える。グラウンドでは今、初球が投げられようとしていた。

 

「(あおい先輩との勝負......あの時は、コーチに外に来るストレートに逆らわずに打てと言われた。あの時のイメージで......!)」

「(どんな相手でも気は抜いちゃダメ、ここよ!)」

 

 頷いた太刀川(たちかわ)はモーションを起こす。ワンテンポ遅れて鳴海(なるみ)がスタートを切った。

 

「(――エンドラン!?)」

「目を切らないで! あたしが刺すわ!」

「(そうだ、焦ったらさっきの二の舞だよねっ。あたしは、タカを信じて自分のピッチングをする!)」

 

 スタートに惑わされず小鷹(こだか)のミットをめがけて投げた。糸を引くようなストレートが、キャッチャーミットをめがけて飛んでいく。

 

「(ナイスコース!)」

 

 アウトローギリギリのストレート。

 それも打ってもショート・サードへのゴロになる確率の高いコースと高さに来た。

 

「(スタートも良くはなかった。これなら十分に刺せ――えっ!?)」

 

 身体を半身にしてボールに合わせて閉じたミットにあるハズの感触がない。マウンドの太刀川(たちかわ)が、後ろを振り向いてる。彼女のその目線の先に白球が飛んでいた。

 

「――まさか......ウソでしょ!?」

 

六条(ろくじょう)、打ったー! 打球は、ショート小山(おやま)のグラブの上を越えて左中間のど真ん中を切り裂くーッ! スタートを切っていたファーストランナー、サードベースも蹴った! ホームへ戻ってくるーッ! 先制点は、恋恋高校ーッ!!』

 

 打った六条(ろくじょう)もセカンドに到達、ベース上で噛み締めるように小さくガッツポーズ。喉から手が出るほど欲しかった先制点を奪い沸き上がる恋恋ベンチ。更に一死二塁とチャンスが続く。

 

「アイツ、スゲーな! オイラたちが打ちあぐねてた太刀川(たちかわ)のストレートをジャストミートしたぜ!」

「ええ、それに躊躇なく踏み込んだわ。まるで最初からアウトローに来るのが分かってたみたいだった」

「当然だ。今の一打は、この試合でお前たちが無意識のうちに積み重ねてきたモノから生まれた結果だ」

 

 中盤までパーフェクトに抑えられていながらも自分のバッティングに徹し、ノーヒットピッチングと守備も鉄壁。投手戦で一点勝負になること間違いない試合展開でゲームは進んだ。

 その最中ひとつのミスが負けに繋がると言う意識が嫌でも根付いていた。それは特に、ゲームを組み立てる捕手――小鷹(こだか)に。

 

「前の回の真田(さなだ)の出塁。そして、甲斐(かい)のファーストライナーダブルプレーで根付いた種が芽吹いたのさ。“恐怖”と言う種の芽がな」

 

 きっかけは、カウントを整える変化球を内野安打にした真田(さなだ)の打席。今まで見逃していたボール球も少しでも甘くなれば打ってくると言う意識付けになり、さらに結果としてファーストライナー・ダブルプレーになった一打がより一層警戒心を増長させた。

 

「キャッチャーは、本来インコースへ投げさせたかった。だが、長打力のある矢部(やべ)に変わる代打、短く持ったバット、前の回インコースを弾き返した甲斐(かい)の打席が嫌でも蘇る。これでインコースの線はなくなった、となればもう外に投げるしかない。瑠菜(るな)、お前なら何を投げる?」

 

 東亜(トーア)は、既に答えが出ているの知りながら瑠菜(るな)に訊いた。

 

「アウトローのストレートです。左の六条(ろくじょう)くんに対して外に逃げるボールはカーブだけ。これは真田(さなだ)くんが打っていますし、あれだけリードを取られれば盗塁を警戒して初球に緩い変化球(カーブ)は投げられません。そうなれば、まともに打たれていない一番自信のあるストレートしかあり得ません」

 

 思った通りの答えを聞いて満足そうな笑みを見せる、東亜(トーア)

 

「それで?」

「......はい、ジャストミート出来た理由が分かりません。あの動くストレートは狙っていても簡単に打てません」

「フッ、じゃあ答え合わせといくか。鳴海(なるみ)、アイツが使ったバットを貸せ」

「あ、はい、どうぞ」

 

 話している間に戻って来た鳴海(なるみ)から、六条(ろくじょう)が使ったバットを受ける。

 

「このバットに秘密がある。こいつは通常よりも芯が広い中距離ヒッター用のバットなのさ」

 

 瑠菜(るな)は、東亜(トーア)にバットを借りて自分のバットを比べてみた。

 

「本当だ、ヘッドの方に向かうにつれて太くなっているわっ」

「なるほど、その広い芯で手元で小さく動くストレートを捉える確率を上げたのね。それで渡久地(とくち)くん自らバットを渡したのね」

「いや、このバットは普段から使っているモノだ。素人のアイツが、どうすれば打てるか自分自身で考えた末にたどり着いた答えだ」

 

 ナイン一人一人に課した課題で六条(ろくじょう)には、コースに逆らわず打ち返す練習を課した。インコースは引っ張り、アウトコースは流し打つ。素人であるがゆえに変なクセもついていないため自分で工夫し、どう打てば打ちやすいのか、その感覚を自分自身で作りあげていけたことが大きかった。

 

「まあ、そう言うことだ。さて、あいつらが動揺している今、さらに追加点を奪うぞ」

 

 東亜(トーア)は、指示を伝えたあと予定通り藤堂(とうどう)を代走を送り。はるかを通じて、芽衣香(めいか)にもサインを出す。

 

「(セーフティーバント......送りバントじゃないんだ。やってやろうじゃないっ)」

 

 ――了解、とヘルメットのツバに触れてバットを構える。

 

「(セーフティーバント、自分も生き残るにはサードへ転がすのが理想。でも当然、簡単にはさせてくれないわよね)」

 

 同じ過ちを起こさしたくないジャスミンバッテリーは、外へシュートでひとつ簡単にストライクを奪った。芽衣香(めいか)は、相手に悟らせないように目だけで守備位置を確認する。

 

「(バントの警戒もしっかりしてる。サードも前に出てきてるわね、これじゃちょっと生き残るのは無理。もう少し後ろに下がらせないと......!)」

 

 二球目、インコースのカーブ。芽衣香(めいか)はサインを無視してヒッティング、三塁線のファールでツーストライクと追い込まれた。

 しかし、今のファールで状況が変わった。

 

「(よし、サードが下がったわっ。狙うなら、ここよ!)」

 

太刀川(たちかわ)、三球目を投げました! オォーっと浪風(なみかぜ)、セーフティースリーバント! 三塁線へ絶妙なセーフティーバントになったぞ!』

 

「(ここでセーフティー!? ちょっと下げたぶん美代子(みよこ)は追い付けないし、太刀川(ヒロ)は左利き......。一・三塁にさせるわけには行かないわ!)」

 

 マスクを投げ捨て懸命にボールを追いかける小鷹(こだか)の姿を見た東亜(トーア)は、意味深な笑みを浮かべた。

 

「フッ、頑張り過ぎだ。もらったな」

 

「ファーストっ!」ボールに追い付いた小鷹(こだか)、無駄のない捕球から素早く完璧な送球。タイミングはアウトだが捕球寸前、太刀川(たちかわ)が叫んだ。

 

「ほむら、カット! バックホーム!」

「へっ? わわっ、走ってるッスー!?」

「そ、そんな......!」

 

 送球間にセカンドランナーの藤堂(とうどう)は、躊躇なくサードベースを蹴ってホームへ突入していた。ほむらは慌ててベースを離れて送球をカット、バックホーム。

 

『ベースカバーの太刀川(たちかわ)にボールが渡った! 藤堂(とうどう)、ヘッドスライディングーッ! ホームクロスプレー! これは際どいタイミングになった、判定は――!?』

 

 ホーム上に舞った砂ぼこりが収まり球審のジャッジ。球審は両手を大きく水平に伸ばした。

 

「セ、セーフッ!!」

 

『セ、セーフ! セーフです! 恋恋高校、更に一点追加2対0と点差を広げましたーッ!』

 

 好走塁で生還した藤堂(とうどう)を大騒ぎで出迎える。

 

「ナイスラン!」

「うん、凄かったよっ」

「ありがとうございます!」

 

 騒ぎが収まるのを待つ間に理香(りか)は、東亜(トーア)に確認した。

 

「今の走塁は指示?」

「ああ、キャッチャーが三塁方向で捕球したら突っ込めと言ってあった」

 

 小鷹(こだか)が捕球に行けば、必ず太刀川(たちかわ)がベースカバーに入る。そこを東亜(トーア)は狙った。

 

「バント処理の送球はランナーに当たらないようにフェアグランドへ投げるのが基本だ。その基本通りの送球をカットしたほむらの位置はフェアグランド内だった。ホームへ送球もフェアグランド内、受け手が捕手なら完璧な送球だった。しかし、ホームで受けたのは左利きの太刀川(たちかわ)

 

 捕手ならそのままタッチに行ける送球だったが、左利きのため身体を逆に捻る形での捕球になり、そのため反転してタッチに行かなければならなかった。この僅かなロスが勝敗を分けた。

 

「じゃあ送りバントじゃなくて、セーフティーバントのサインにしたのも......」

「当然確実にキャッチャーに取らせるためだ。芽衣香(アイツ)の性格上、必ず自分も生き残る方法を模索するだろうからな」

「......あの子が知ったら怒りそうね」

 

 理香(りか)の視線にはファーストベース上で、上機嫌に得意気な表情(かお)芽衣香(めいか)がいた。

 そんな彼女とは対称的に小鷹(こだか)は、茫然と立ち尽くしていた。

 

「あたしのミスだ......」

 

 今日のあおいの出来からすれば、大きすぎる追加点を奪われたことで心が折れかけていた。

 

「タカ、まだ試合は終わってないよっ。大丈夫、まだ三回もあるんだから、二点なんてワンチャンスだよっ」

「......ヒロ」

「そうよ、キャッチャーが諦めないでくれる? あたし、勝つ気でいるんだから!」

「......ナッチ」

「そうッスよ、ほむらたちにだって取れるッス、絶対ッス!」

「はいっ、みよちゃん、次は絶対に打ちます!」

「うん、ボクも最後のスリーアウトまで諦めないよ」

「だから、ね? ほら、笑って笑って!」

「......まったく、相変わらずノーテンキね」

 

 ――ありがと。少しうつ向いて誰にも聞こえないくらい小さな声で感謝の言葉を言って、顔を上げた。もう悲壮感はなかった。

 

「たった二点差よ! しまっていくわよ!」

「おおーっ!」

 

 マウンドの内野陣だけではなく、外野手も一緒に一丸となって大き張り上げたその声に「がんばれー!」「まだ行けるよー!」とジャスミンナインへスタンドから大きな声援が送られた。

 

「あの子たち、強いわ――!」

「............」

 

 理香(りか)は、危機感の中のどこか嬉しさが混じったような顔。東亜(トーア)は、ただ黙ったままグラウンドを見つめていた。

 そして試合は進む。

 八回は両校共にランナーを出すも好守で無得点。しかし九回表、恋恋高校は追加点を奪った。

 そして九回裏。三点差を追いかけるジャスミン最後の攻撃。ワンナウトで太刀川(たちかわ)に打席が回った。

 

「ヒロぴー、最後の勝負だよ!」

「そうだね。あたしが繋いでサヨナラゲームにするんだもん!」

 

 マウンドとバッターボックスで二人は笑い合った。カウントは2-2。あおいは、鳴海(なるみ)のサインに一度首を振って投球モーションに入る。

 

「――いっけーっ!」

「――ふっ!」

 

早川(はやかわ)、渾身のストレート! 太刀川(たちかわ)、打ったー! 打球はレフト上空へ高々と舞い上がった! レフト藤堂(とうどう)、もう追わない打球を見送る。入りましたー! この一撃が反撃の狼煙となるのでしょうかーッ!?』

 

 反撃は、このホームランの一点だけだった......。

 

 

           * * *

 

 

『ありがとうございましたー!』

 

 両校整列し、挨拶をして、握手を交わす。

 

「悔しいな。もっとあおいと、ずっと勝負してたかった。これで終わっちゃうなんて」

「ヒロぴー......」

「ねぇ、あおい。また勝負しようねっ」

「大学で?」

「違うよ、もっと先――プロでだよ!」

 

 太刀川(たちかわ)は、にっこりと微笑む。

 

「あおいたちが勝ち上がって、甲子園へ行って、優勝すればきっと、女子だって......! ホントは、あたしたちがその役を担いたかったんだけど。あおいたちに任せるよ」

「......うん、約束する。ボクは、ボクたちは――」

 

 ――絶対に甲子園で優勝するよ!

 二人は握手をして誓い。

 

 そして、試合は幕を下ろした。

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