7Game   作:ナナシの新人

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対関願戦
game45 ~試練~


「ベスト8か......」

「ん?」

 

 激闘の末、聖ジャスミン学園を敗り恋恋高校史上初のベスト8進出を成し遂げた、その帰り道。ぼそっと呟いた鳴海(なるみ)の言葉に、隣を歩くあおいが「どうしたの?」と小さく首をかしげた。

 

「あ、いや、なんて言うか、あんまり実感がわかないって言うか......」

「実感?」

 

 二人の前を並んで歩いている芽衣香(めいか)瑠菜(るな)が、振り向いて二人の話に加わる。

 

「ああ~、確かにねぇー。あたしも口では“めざせ甲子園!”って言ってたけど、正直、ベスト8まで来れるだなんて思ってなかったし」

「そう? 私は、最初から行けると思っていたわ」

「そりゃあ瑠菜(るな)は、コーチのスゴさを最初から知ってたから――」

「それだよ」

 

 鳴海(なるみ)が割って入る。

 

「それって、なによ?」

「......ああ、そういうことね」

「だからなによっ?」

「簡単なことよ、だって私たちはまだ――」

 

 瑠菜(るな)は、鳴海(なるみ)の言いたかったことを代弁する。

 

 ――自分たちの力だけで勝ったって言える試合がないんだもの......。

 

 

           * * *

 

 

「自信?」

「そうだ。アイツらはまだ、自分たちの実力(チカラ)を完全には信じきれていない」

 

 学校でナインを見送ったあと東亜(トーア)理香(りか)は、いつものバーで今日試合とここまでの戦いの総括を行っていた。

 

「その理由は単純だ。自分たちの力だけで勝ったと言える実績がないからだ」

「......たしかに」

 

 東亜(トーア)がコーチ・監督に就任してからの勝率は公式戦を除いて八割以上。しかしこれは、東亜(トーア)が指揮を取っていない試合を含めての数字。彼が指揮していない試合については、引き分けはあれど、結局、未勝利のまま本番を迎えていた。

 ジャスミン戦もナインたちに考えさせたとは言え、東亜(トーア)の助言があっての勝利。ここから先、シードされた強豪校とそれらを倒し下克上で勝ち上がって来た勢いのある学校が相手。ほんのわずかな心の弱さが命取り。ここぞという場面、自信がなければ判断に迷いが生じ、その迷いは必然的に結果を悪い方向へと導く。

 

「失敗から学ぶと言う言葉もあるが、だが成功は失敗以上に成長させる。それは自信に繋がり、自信がつけば勝負処での重圧(プレッシャー)を跳ね除け、不安からくる集中力の欠如を緩和し、更には普段以上の集中力を発揮することもある。そう言った心理学についてはお前の方が専門だろ」

「フローと言われる心理状態ね。無謀すぎる大きな目標じゃなく、ギリギリ越えられる小さな目標を少しずつハードルを上げて達成していくことで喜びを覚える。その達成感が成長を促す高循環を作り出す。成功の理論、フロー理論のひとつ」

「アイツらも成長は実感している。だが、今のままではいずれ滞る。上へ行くためには殻を破る必要がある」

「ええ。でも、どうするつもりなの? 規定で大会期間中は練習試合は組めないわよ?」

 

「フッ......問題ないさ」

 

 アルコールが注がれたグラスを持ち、口に運びながら答えた。

 

 ――簡単な方法があるじゃねぇか、と。

 

 

           * * *

 

 

「あ、児島(こじま)さん」

 

 リカオンズ球団事務所内の室内トレーニング施設の一室、ミーティングルームのテレビで東京都予選の中継を見ている児島(こじま)のもとへ、軽めの調整を行っていた出口(いでぐち)がやって来た。

 

「また渡久地(とくち)んとこの試合ですか? って、画面デカッ!」

木野崎(きのさき)が設定してくれたんだ。パソコンの画面じゃ見辛いだろうからってな」

「誰でしたっけ?」

「おいおい、渡久地(とくち)みたいなこと言ってやるなよ」

「ははっ、冗談ですよ。えっと、今日で確か......」

「準々決勝、勝てばベスト4だ」

「マジで行くかもですね、甲子園」

「......どうだろうな」

 

 やや険しい表情(かお)で腕を組んだ児島(こじま)は、ソファーに腰を深く預けた。

 

「確かに良い試合はしている。だが、なにか物足りない。抽象的な言い方になるが雰囲気と言うかどこか迫力に欠ける」

「ああー、それ、なんとなく分かりますよ。去年の俺たちみたいな感じっすよね」

「ああそうだ、そんな感じだ。渡久地(とくち)の初登板から順調に勝ち星を重ねてはいたが、実際は、勝たせてもらっていたと言う表現が正しい」

「ええ、本当の意味で勝負に向き合えたと実感したのは、シーズン中盤くらいからだった気がします」

 

 ペナントレースは、日程通りに消化できれば三月末から十月初旬までの半年余り。それは東亜(トーア)がリカオンズで過ごした日々と同じ時間。そしてリカオンズが本当の意味で勝負を知ったのは、シーズン中盤。試合数は70試合前後。歳月で言えば今の恋恋高校と同じ4ヶ月あまりだが、試合数は公式戦を合わせて20試合に満たない彼らとは経験が段違い。

 

「まあ渡久地(とくち)のことだ。なにかしらの策を講じるんだろうが......」

「ん? 児島(こじま)さん、その渡久地(とくち)がベンチいないっすよ!」

「なにッ!? 本当か!」

 

 両校のベンチが紹介がされている映像の中に、東亜(トーア)の姿はどこにも写っていなかった。

 

 

           * * *

 

 

 両校ともに練習が終わり試合前のミーティング。東亜(トーア)のいない恋恋高校のベンチでは、監督代行の理香(りか)が仕切る。

 

「さあ、今日勝てばベスト4よ。いよいよ甲子園が見えてくるわ、ガンバりましょ!」

 

 理香(りか)の呼びかけも、ナインたちは不安の色が隠せないでいた。

 

「ちょっとみんな、表情(かお)が固いわよ」

「は、はい......」

 

 返ってきたのは、覇気のない返事。彼らが東亜(トーア)の欠場を知ったのは今朝、バス移動の最中だったため動揺は大きなモノだった。だが、今日先発を任されている瑠菜(るな)はいたって冷静。事前にはるかが集めてくれた対戦相手の情報(データ)をチェックしている。

 

「ねぇ、片倉(かたくら)くん、バッティングはどうなの?」

「あ、はい。普段の率はあまり良くないですけど、チャンスの場面は強いです」

「典型的なクラッチヒッタータイプなのね。だそうよ、鳴海(なるみ)くん」

 

 突然、話を振られて鳴海(なるみ)は戸惑ってしまった。

 

「しっかりしてくれる? 集中できないのなら新海(しんかい)くんとマスクを代わって」

「ふぅ......ごめん、もう大丈夫!」

 

 大きく深呼吸をして彼女の目を見て答える。

 

「そう。じゃあちゃんとリードしてよね」

 

 そんな瑠菜(るな)の並外れた冷静さに芽衣香(めいか)は感心していた。

 

「けど、よくそんな冷静でいられるわね」

「当然でしょ。私、こんなことで不安になるような練習をしてきたつもりはないわ。みんなは、そうじゃないの?」

 

 瑠菜(るな)の問いかけに少しの間が開いて、全員が頷いた。

 

「(さすが瑠菜(るな)さん。渡久地(とくち)くんの読み通り、チームいち向上心の高い彼女がみんなを鼓舞してその気にさせたわ)」

「みんな、聞いて!」

 

 鳴海(なるみ)が声を上げて、みんなの注目を集める。

 

「俺たち、今までずっとコーチに頼ってきた。不安じゃないって言えば嘘になる......でも、これはチャンスだと思う。コーチ頼りじゃなくて、自分たちの力で戦って、この試合を勝とう......!」

「おうよ、当然だぜ! なっ!」

「あったりまえでしょっ。あたしをなめんじゃないってのっ」

「オイラも、今日は本気を出すでやんす!」

 

 鳴海(なるみ)の素直な気持ちに、ナインたちはひとつになった。

 

「はい、それじゃあスタメンを発表するわよ。先ずはバッテリー......」

 

 ――この子たち大丈夫よ、私もしっかりしなきゃいけないわ。

 

 

           * * *

 

 

『さあやって参りました、甲子園予選東東京都大会準々決勝! ノーシードから快進撃を続ける恋恋高校対甲子園出場経験もある強豪――関願高校との一戦を。わたくし、熱盛(あつもり)宗厚(むねあつ)が、今日も熱く、熱くお伝えして参りまーすッ!!』

熱盛(あつもり)さーんっ』

『おっと、グラウンドの響乃(ひびきの)アナウンサーが呼んでいますね。どうぞー』

 

 映像がアナウンス室からグラウンドへ。

 

『はい、お伝えしますっ。私は今、恋恋高校のベンチ前に来ているのですが、渡久地(とくち)監督が不在との情報が入りました。詳しい詳細が分かり次第お伝えできれば思います』

『そうですか、わかりました。続報が入り次第お願いします。グラウンドリポーターの響乃(ひびきの)アナウンサーでした』

 

「やっぱり渡久地(とくち)はいないみたいですね」

「そうみたいだな」

「――ったくアイツ、いつも大事な時にいなくなるんだからよ」

「しかし、渡久地(とくち)のことだ。これにもなにか意味がある」

「意味、ですか?」

「アイツは無意味なことはしないからな。よく見てみろ」

 

 テレビには今、恋恋高校のベンチの様子が映し出されていた。

 

「おっ、全然気落ちしてる感じはないですね。それどころか......」

「ああ、むしろ今までの試合以上に気合いが入ってる感じだ。もしかして渡久地(とくち)は、これを狙っていたのかもな」

「ご明察」

 

 不意にかけられた声に、二人は同時にドアの方へ顔を向けた。そこに立っていたいたのは――。

 

「と、渡久地(とくち)!?」

「どうしてお前が――!」

「なに、ちょっとした野暮用さ」

 

 突如、リカオンズ球団事務所に現れた東亜(トーア)は、児島(こじま)の対角、出口(いでぐち)の対面のソファーに座って持っていた封筒をテーブルに放り投げる。

 

「野暮用って球場へ行かなくていいのかよっ?」

「今から行ったってどうせ間に合わねーよ」

「いや、そりゃそうかも知れねぇけどさ......」

渡久地(とくち)、さっきのはどういう意味だ?」

「フッ、まあ見てりゃわかるさ」

 

 東亜(トーア)は軽く笑って、テレビに顔を向ける。

 その東亜(トーア)の態度と画面に写る恋恋ナインたちの動きを見た児島(こじま)は、すべてを察した。

 

「なるほど、そう言うことか。試練と言ったところか」

「......まあな」

「だが荒療治過ぎないか? 相手は強豪なんだろ?」

「この程度の相手にやられるようなヤワな鍛え方はしちゃいねぇよ」

 

 

           * * *

 

 

「ナイスピッチ!」

「次、曲げるわ」

「オッケー」

 

 試合直前、後攻の恋恋高校は練習を行っている。

 投球練習をするバッテリーは、瑠菜(るな)鳴海(なるみ)。内野陣は奥居(おくい)芽衣香(めいか)甲斐(かい)葛城(かつらぎ)といつものメンバー。外野は、左に真田(さなだ)、センターに矢部(やべ)。そしてライトに、一年の片倉(かたくら)が入った。

 

「行くでやんすよー」

「はい。真田(さなだ)先輩!」

「おっしゃ、ナイスコントロール! ほい、矢部(やべ)

「オーライでやんす」

 

 矢部(やべ)真田(さなだ)と一緒に軽い遠投で肩をほぐしている。

 

「(思ったより気負ってはなさそうね。まあ、一回先発登板してるんだから当然かしら)」

 

 今日ライトスタメンの片倉(かたくら)は、三回戦で先発登板している。初登板の時は緊張から立ち上がり失点したが五回投げきり二失点で勝ち投手なった。ローテーションでいけば次戦の登板予定なのだが、今日は相手に彼のシニア時代の元チームメイトがいるためスタメン起用になった。

 その元チームメイト同じ一年でありながら強豪関願高校のエースナンバーを背負う、伊達(だて)がブルペンで肩を作っている。

 

「――ライトでスタメンか......フンッ!」

 

 帽子をかぶり直し、キャッチャーへ向かって投げた。そのボールはベース手前で大きくワンバウンド、キャッチャーの脇を抜けていく。

 

「おいおい、スゲー荒れてるな。相手の投手」

 

 児島(こじま)は、テーブルのパソコンを操作して予選の成績を調べる。

 

「ずいぶんと四死球が多いようだな」

「うわぁ......デットボール上等のケンカ投法かよ。つーかよく勝ち上がってこれたな」

「ふむ、しかし、四死球の割りに失点は少ない」

「点には繋がらないってことっすか。あ、始まるみたいですよ」

 

 キャッチボールに使っていたボールはすべて戻され、球審から新しいボールがマウンドの瑠菜(るな)に渡される。

 先攻の関願高校の先頭バッターが打席に入り足場を整え、球審がプレイボールの合図を送ると球場にサイレンが響きわたった。

 

『恋恋高校対関願高校。さあいよいよプレイボールです!』

 

 東亜(トーア)不在の中ベスト4をかけた一戦の火蓋が今、切って落とされた――。




2018版で恋恋高校アップロードしました。
条件検索「セブンゲーム」で出ると思います、興味があるかたはどうぞです。
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