7Game   作:ナナシの新人

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大変お待たせしました。


対あかつき大附属戦
game56 ~もうひとつの決戦~


「決勝の相手は、あかつき大学付属高校よ」

「順当だな。で、試合内容は?」

 

 もはや恒例となった理香(りか)東亜(トーア)による、とあるバーでの報告会。東亜(トーア)は、スマホを眺めながら試合内容を聞く。

 

「ちょっと待ってね」

 

 試合内容の要点をまとめたファイルをバッグから取り出して読み上げる。

 

「スタメンはレギュラーメンバー、先発投手は二番手の麻生(あそう)くん」

猪狩(いかり)のパチモンみてーなヤツか」

「ええそう。利き腕は逆の右だけど投球フォームから変化球の変化方向、球速、髪型まで似せて。文字通り、右投げの猪狩(いかり)くんね」

 

 説明を聞きながら東亜(トーア)は、ややバカにしたように鼻で笑う。理香(りか)は、気にせずに話を続けた。

 

「見た目はアレだけど、実力は本物よ。今日の試合も六回まで登板して被安打4、失点はエラーが絡んでの1点のみ」

「六回コールドか」

「いいえ、七回コールドよ」

「七回?」

「そうだけど、どうかしたの?」

「いや、いい。続けろ」

 

 ――そう? と、少し不思議そうに首をかしげた理香(りか)だったが続きを話す。

 

「七回表の攻撃でコールド圏内の点差をつけたあかつきは、捕手二宮(にのみや)くんを除いて代打・代走を使いつつ、二年生へメンバーチェンジして、麻生(あそう)くんもこの回で降板。裏の回にマウンドへ上がったのは、あかつき不動のエース、猪狩(いかり)(まもる)。打者三者を相手に三者連続三振に切って取り試合を締めくくったわ」

「ふーん、投げたのか」

「あかつきの監督、千石(せんごく)監督のインタビューによると予定通りの調整登板だそうよ」

 

 あかつきは、全試合コールドゲームで勝ち上がった。そのため投手の投球イニングも恋恋高校の投手陣と比べると実戦登板が少ない。そして明日は反対ブロックの西東京が先に決勝戦を行うため、日程が一日明くことを計算しての調整登板だった。

 

「調整登板ねぇ、クックック......」

「なによ、その意味深な笑いかた......?」

「俺の経験から言えば、中一日での調整登板などすべきではない。なぜなら疲労が抜けきらないからだ」

「でも球数は15球も投げていないわよ?」

「お前の言う球数ってのは、あくまでも打者へ向けて投げた投球数のことだろう」

 

 試合中継などで表示される球数は、投手が打者に向かって投げた球数。それには試合前やイニング前の投球練習、打者走者への牽制球、ツーアウトになってからのベンチ前での肩慣らしのキャッチボールのなどの球数は含まれていない。

 

「たとえ打者へ向けての実戦投球は15球だったとしても、登板前の肩を作るためのブルペンでのキャッチボールや投げ込み、イニング前の投球練習を合わせれば、少なく見積もっても50球近い球数を放っている」

「50球......」

「例え、どんな楽な場面で軽く投げようとも消耗するのさ、肩や肘ってのは。結果として登板することがなかったとしても、試合展開によっては何試合も続けて肩を作らねばならないプロの中継ぎが、いかに過酷で選手生命が短いと言われる理由が分かるだろ」

 

 これこそが、プロの中継ぎが短命と言われる理由。疲労は必ず蓄積する。だからこそ、どんな試合展開になろうとも必ず投げない日を作ることが重要。長いシーズンを戦うペナントではそう言った捨てゲームを作ることが出来るが、一発勝負の高校野球(トーナメント)ではそれが出来ない。となれば当然、優秀な投手を数多く集められる学校が有利になることは必然とも言える。

 ※実際、高校野球において酷使による故障を危惧し、県によって球数制限を設けようと言う動きもあるようですが。資金源がある私立の名門校が露骨に有利になるため、球数制限導入に苦言を呈す学校も少なくないそうです。

 

「中継ぎが1イニングだけでそれだけ投げているんだ。先発投手は当然もっと投げる。先発投手は100球が目処と、やたらとこだわるヤツがいるが、そう言うヤツほど見かけの数字に騙されて、本質を見誤るのさ」

「......数字の盲点。正に“木を見て森を見ず”ね」

「あかつきは、投手運用に困るような学校じゃない。次期エース候補の二年に経験を積ませるチャンスを捨ててまで、エースをマウンドへ上げた。この代償は高くつくよ」

 

 そう言って小さく笑った東亜(トーア)は、スマホを見ながら、ゆっくりとグラスを口に運ぶ。

 

「さっきから、なにを見てるの?」

「ちょっと面白いもんだ」

 

 すっと、理香(りか)の方へスマホを持っていく。画面に表示された情報を見た彼女は、やや難しそうな表情(かお)になる。

 

「これ......」

「な? 面白いだろ。アイツらは経験しているが、名門校(あかつき)はどうなのかねぇ」

「確かに、でも微妙じゃない? 50パーセントよ?」

「確率的にはな。だが、三割打てれば優秀と言われる打率よりも確率は上だ。そして、この数字通りの現象(こと)が起きたのなら――」

 

 ――荒れるぞ、決勝戦は......。

 

 

           * * *

 

 

 決勝戦前日、明日恋恋高校が戦うスタジアムで、もうひとつの決勝戦が行われていた。

 

『さあ西東京予選大会決勝戦、春夏連続の甲子園出場を目指す覇堂高校対パワフル高校の一戦もいよいよ大詰め! 2-1と覇堂高校がリードした状況で九回のマウンドに立つのは、この男――木場(きば)嵐士(あらし)!』

 

 球審から新しいボールを受け取り、投球練習を行う覇堂バッテリー。パワフル高校はベンチ前で円陣を組み、気合いを入れ、心をひとつにして、九回最後の攻撃に挑む。

 

『九回裏一点差最後の攻防が今、始まろうとしていますッ! パワフル高校は上位打線、一番駒坂(こまさか)からの好打順! 土壇場で追いつき、追い越せるか? それともマウンドに君臨する覇堂のエース――木場(きば)嵐士(あらし)が、その豪腕でパワフル打線を捩じ伏せ、栄光を掴み取るのかーッ? ンンーン、まったく最後まで目が離せませンッ!』

 

 場内アナウンスが流れ、バッターボックスに立った駒坂(こまさか)は、「よっし、こーいっ!」とバットを木場(きば)に向け、気合いを入れて叫ぶ。

 

「気合いだけじゃ......オレの真っ直ぐは、打てねーぜ!」

 

 大きく振りかぶった。ワインドアップから放たれる豪速球がキャッチャーミットに重く鈍い音を響かせる。

 

『豪快なストレート! スピードガンは150キロを計測! まだまだ球威は衰えていませんッ!』

 

「オッケー、走ってるぞ!」

「オウ!」

 

 水鳥(みずとり)からの返球を受け取り、焦らずにサイン交換を行い投球モーションに入った。

 

「ストライク! ストライクツー、カウントノーツー!」

「くっ......」

 

 150km/hを超すストレート二球で追い込まれた。 そして三球目もストレート、完全な振り遅れ。高いミート力を持つ駒坂(こまさか)だが、バットに当てることさえも出来ずに三球三振に倒れた。

 

「......先輩、お願いします!」

「よーし......!」

 

『先頭バッターの駒坂(こまさか)を仕留めてワンナウト。続くバッターは、くせ者のスイッチヒッター、小田切(おだぎり)!』

 

 小田切(おだぎり)は、なんとか出塁しようとセーフティバントなどで揺さぶりをかけるが、木場(きば)はまったく動じない。それどころか、出来るものならやってみろと言わんばかりに自慢の豪速球で、小田切(おだぎり)をねじ伏せた。

 

「......すみませんっす。星井(ほしい)先輩、あとは頼みます......!」

「ああ、わかってる。東條(とうじょう)、絶対にキミに回すから......!」

 

 ネクストバッターの東條(とうじょう)は、鋭い眼光でうなづく。

 

「最後の勝負だな、星井(ほしい)

「......そうだね、最後の勝負だ。ボクは必ずキミを打つ。そして――」

 

 ネクストバッターズサークルで自分が出塁することを信じて準備をしている東條(とうじょう)に、星井(ほしい)は目をやって小さく笑った。

 

東條(とうじょう)が試合を決めるところを見届ける......!」

「言ってくるじゃねーか。なら先ず、お前がオレを打って見せろ......!」

「当然だよ。さあ勝負だ、木場(きば)!」

 

 星井(ほしい)は左バッターボックスで構え、木場(きば)は投球モーションに起こした。

 初球は、150キロを超える爆速ストレート。

 

『ふらふらっと上がった打球は三塁側スタンドに入って、ファール! ワンストライク!』

 

「(くそっ、まだ振り遅れている。もっと始動を速めないと......!)」

 

 タイムを要求し、打席を外した星井(ほしい)は、今の爆速ストレートの軌道を思い出しながら素振りをしてバッターボックスに戻った。

 

「ありがとうございます」

「うむ。プレイ!」

 

『さあ仕切り直し、バッテリーの選択は――爆速ストレート! これもファール! しかし、先ほどよりもいい当たりでした! タイミングが合ってきているのか?』

 

「よし、もう少しだ......!」

 

 打席で手応えを感じている星井(ほしい)。そんな彼に、マウンド上の木場(きば)は複雑な感情を抱いていた。

 

「(星井(ほしい)......お前、ホントに変わったな。覇堂(うち)にいた頃とは別人だ。あの頃のお前は、こんな痺れる場面に直面すると、いつもおどおどしてたよな......)」

 

 プレートを外し、ロジンバッグを弾ませながらパワフル高校のベンチを横目で見る。そこには精一杯声を張り上げ、星井(ほしい)に声援を送る、パワ校ナインたち。

 

「(覇堂(うち)を出たお前は、その先で最高の仲間たちと出会ったんだな......)」

 

 ロジンバッグを投げ捨てる。

 

「(だけどな――)」

 

 サイン交換を行い、木場(きば)はモーションを起こす。

 

「(ボクは、打つ......ボクを受け入れてくれた。みんなのためにも――!)」

「(オレにも、負けられねぇ理由があんだよ!)」

 

『足が上がった、勝負の一球!』

 

 バッテリーの選択は、三球続けて爆速ストレート。アウトローいっぱいの見逃せばストライクの完璧なコース。

 

「ぐっ......いけーッ!」

「フェア、フェアーッ!」

 

星井(ほしい)、打ったー! 長打コース!』

 

 星井(ほしい)は、この難しいボールに食らいついた。差し込まれながらも振り切った打球は、サードのグラブの先をかすめ、三塁線を破りファールゾーンを転々と転がって行く。

 

「ストップ! ストップ!」

「いや、行く!」

「あっ! おいッ!」

 

 一塁コーチャーの指示を無視してセカンドへ向かった。ツーベースヒット。しかし、これはパワフル高校の監督にとっては想定外の出来事だった。

 

「どうしてなんだ? 星井(ほしい)......!」

 

 次はこの試合の先制点を叩き出した、四番の東條(とうじょう)。しかし、星井(ほしい)が二塁へ行ってしまったことで一塁が空いてしまった。自ら敬遠をしやすい状況を提供してしまったからだ。

 

「先輩......」

「心配しないで大丈夫だよ。木場(きば)は、絶対に逃げない。ここで逃げるような男じゃないさ」

 

 息を整えながらプロテクターを後輩に預け、マウンドに集まった覇堂内野陣を見つめる。

 

「うまく打たれたな」

「ああ、最後の最後で押し込みやがった。当てにいくだけならファールフライで終わってたってのに、やってくれるぜ」

「さて、一塁が空いているな。ここは完璧に抑え込んでいる香本(五番)と勝負するのがセオリーだが......」

「ああ?」

 

 木場(きば)は、この状況でのセオリーを話す水鳥(みずとり)に鋭い視線を向ける。

 

「四番から逃げて甲子園に行くくれーなら、死んだ方がマシだ!」

「フッ、奇遇だな。俺も同じことを考えていた」

「あん? なんだよ、お前らしくねぇな」

「簡単なことだ。俺はお前が、四番に二度も打たれるとは思っていない。それだけのことだ。それに、ここで打たれるようなら......()()と勝負する資格はない。そうだろう?」

「......ああ、その通りだ!」

 

 他のナインたちも二人と同じ考えを共有していた。各々木場(きば)に、ひとこと声をかけてからポジションに戻り守備に着く。

 

『さあ試合再開です。一打同点、一発が出れば逆転サヨナラの場面で四番の東條(とうじょう)がバッターボックスへ向かいます。おーっと、キャッチャーは座ったまま! どうやら敬遠はせず、勝負を選択したようですッ!』

 

「......いいのか? 敬遠しなくて――」

「忠告感謝する。だが生憎俺たちは、木場(エース)を信頼しているんでね。必ずお前を仕留めてくれると――」

「フッ......」

 

 どこか嬉しそうに笑った東條(とうじょう)は、バットを構えた。初球、爆速ストレートを見逃してストライク。二球目はカーブをアウトコースへ外してカウント1-1。

 

「ファ、ファール!」

 

 間一髪で打球をかわし、一塁塁審は両手を広げる。

 

『ファールです! 鋭い当たりでしたが一塁線へ切れてファール! パワフル高校、ついに土俵際まで追い込まれてしまったーッ!』

 

 しかし、ここから東條(とうじょう)は驚異的な粘りを見せる。

 

『な、なんと、追い込まれてからファールで粘り、ボール球を見極め、遂にフルカウントまでこぎ着けました!』

 

 しかも、確実にタイミングが合ってきている。

 この時、東條(とうじょう)の集中力は極限まで到達していた。彼から放たれる異様な気配を、木場(きば)も感じている。二人の呼吸がぴったりと重なった。

 

『フルカウントからの勝負球――あーっと! なんと、木場(きば)! 振りかぶったーッ!』

 

 ランナーを無視してのワインドアップ。

 だが、セカンドランナーの星井(ほしい)はスタートを切らなかった。無意識に、この二人の勝負を見届けることを選んだ。

 

「これで......終わりだーッ!」

「――フッ!」

 

 木場(きば)渾身のインハイの爆速ストレートを、東條(とうじょう)は完璧に振り抜いた。快音を残し、引っ張った打球はライト上空へ高々と舞い上がった。

 

東條(とうじょう)、打ったー! 完璧に捉えたーッ! 打球を追ってライトが全力で下がるぅーッ!』

 

「――よ」

 

 木場(きば)は、打球を見ることなく膝に両手をついた。

 

「あり得ねぇよ......」

 

 ライトの足が止まった。

 

「――ホームランはな」

 

 フェンスの手前で振り向いたライトは、グラブを掲げ、フェンスの手前で打球を捕球。同時にマウンドへ向かって全速力で駆け出した。

 

『試合終了ーッ! 勝ったのは、栄光を掴んだのは覇堂高校ーッ! 東條(とうじょう)の当たりは、もうひと伸び届きませんでした!』

 

 左腕を空へ向かって伸ばし、大きくガッツポーズをとる木場(きば)。彼の元へナインたちは駆け寄り、勝利の喜びを爆発させた。

 

「......負けた、か」

「お疲れ、東條(とうじょう)

「......いえ、力及ばず申し訳ないです」

 

 うつむき悔しさに唇を噛み締める東條(とうじょう)の肩を抱いた星井(ほしい)は、「ありがとう」とお礼を言って、涙を流すナインたちの最後尾に並んだ。

 

「2対1、覇堂高校! 礼!」

 

 球審の号令の後「ありがとうございました!」と、両校はお互いの健闘を称え合う。

 

「負けたよ、木場(きば)

星井(ほしい)

「ボクたちに勝ったんだ。初戦で負けたら許さないからね」

「ったりめーだ! つーか......」

 

 木場(きば)は、内野スタンドに目を向けた。

 

「アイツらにリベンジするまで、ぜってぇーに負けねぇ......!」

 

 そこに居たのは、かつて練習試合でコールド負けという大敗を喫した、恋恋ナインたちの姿があった。

 

「あれ? なんかボクたち、睨まれてる?」

「みたいだね」

 

 木場(きば)は彼らを指差し、聞こえるように大声で叫んだ。

 

「オイ、オメーら! オレは約束は果たした、次はお前たちの番だ! あかつきなんかに負けたらブッ飛ばすからな! っておい、静火(しずか)、なにすんだよっ?」

「うっさい、キャプテンなんだから最後までちゃんとしてよっ!」

 

 マネージャーで妹の静火(しずか)に首根っこを掴まれ連行されて行く。ついさっきまで死闘を繰り広げていたライバルの情けない姿に、星井(ほしい)は苦笑い。

 

「ちょっとちょっと激励って言うか宣戦布告されちゃったわよっ?」

「へへっ、こりゃ負けられねーな」

「最初から負けるつもりはないわ」

「うん、ボクもだよ」

「当然オイラもでやんす......!」

「だね。じゃあ帰ろう。明日は、俺たちの番だ」

 

 恋恋高校ナインたちは席を立ち、球場をあとにする。

 その去り際、鳴海(なるみ)星井(ほしい)は目を合わせて微笑みあった。声には出さなかったが、二人は想いは一緒だった。

 

 ――決着は、プロの世界でつけよう、と。

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