7Game   作:ナナシの新人

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game6 ~始動~

 練習試合から一夜明け、翌朝。

 キャプテン鳴海(なるみ)たち野球部員が三人在席する3-Aの教室は、とても騒がしかった。

 

「フッフッフ、全てはオイラの気迫溢れるプレーから始まったんでやんす!」

矢部(やべ)くん、すごーいっ!」

 

 騒ぎの中心にいたのは、矢部(やべ)

 昨日のパワフル高校との練習試合あと一歩というところまで追い詰めた話しは、知らぬうちに学校中へ広まり、登校して来た途端に話題の中心に上がった。

 

鳴海(なるみ)くんは、ホームランを打ったんだよねー?」

「う、うん。まあ、試合は負けちゃったけどね」

 

 あおいたちと今後の野球部の練習方針について机を囲んで話していた鳴海(なるみ)にも飛び火したが、鳴海(なるみ)は自身の力ではなく、東亜(トーア)のアドバイスによりもたらされた結果であることから、おおっぴらには喜んではいない。

 

「つまり、全てはオイラの力! このまま甲子園まで突っ走るでやんすー!」

「キャー! 矢部(やべ)くん、かっこいいー!」

「なーに調子いいこと言ってるんだよ、矢部(やべ)。お前は、イニング三つのアウトの内二つも献上したじゃねーか」

 

 クラスの女子に囲まれ、いい気になって自分の活躍を盛りながら話す矢部(やべ)に、二つ隣のクラスで同じ野球部の奥居(おくい)が無慈悲にも真実を告げる。

 

奥居(おくい)くん、それは言わないで欲しいでやんすー!?」

「ええ~、そうなの~? 矢部(やべ)くん、かっこわる~い」

「うぅっ......ぐすん、......でやんす」

 

 真実を知ったクラスの女子に手のひらを返され涙ぐむ矢部(やべ)を呆れ顔で見ながら、あおいはタメ息を漏らす。

 

「はぁ~、バカみたい」

「あはは......。まあまあ、ところでさ、昨日の人だけど」

「ああ~、あの金髪の?」

「そうそう。あの人、結局なんだったんだろう? どこかで見たことがあるような気がするんだけど。あおいちゃん、心当たりない?」

「う~ん、ボクも見たことあるような気がするんだよね」

 

 二人が、東亜(トーア)ことをよく知らない理由。

 去年の春は選手が9人集まり、夏の大会へ向けて夜遅くまで練習をする日々。夏以降になると、女性選手の公式戦出場を認めさせる署名集めに明け暮れた。ニュースはおろか、プロの野球の結果さえも満足に見ることはなかった。

 更に、東京という立地にも問題があった。

 東京は、東亜(トーア)と対立していた球界のドンがオーナー勤める日本屈指の人気球団が存在し、地上波放送はほぼ全て独占状態。東亜(トーア)が所属していた彩珠リカオンズとは別リーグ、更に親会社が新聞社ということも相まって、リカオンズに関する記事の扱いを悪くするなどの工作を行っていたため、彼らの目に写る機会が少いことも理由だった。

 

「う~ん......采配は的確に当たるし、読みも凄い説得力があった」

加藤(かとう)先生の知り合いみたいだし。部活の時に聞いてみよっか?」

「そうだね」

 

 始業を知らせるチャイムが鳴り響いた。

 矢部(やべ)をイジっていた奥居(おくい)は、おお慌ててで自分の教室へ。あおいも自分の席へと戻っていった。

 その頃――話題に上がっていた東亜(トーア)は、宿泊先の都内のホテルから電話を掛けていた。電話の相手は、理香(りか)

 

『あのね。わたし、学校なんだけど?』

「朝っぱらから、保健室に駆け込むヤツなんて稀だろ」

『それは、そうだけど』

 

「はぁ......」と、諦めたように小さくため息をついた理香(りか)は、改めて用件を伺う。

 

『それで、用件はなに?』

「野球部のトレーニング器材はどうなってる」

『部が発足した時に揃えから一通りはあるはずよ』

「ピッチングマシーンの型は?」

『えーっと。確かローター式だったと思うわ』

「そうか、分かった。じゃあな」

『えっ? ちょっと!』

 

 ツーツーツー......と、通話が終わった事を知らせる連続した機械音が受話口から虚しく鳴り続ける。

 

「もう、なんなのよっ!」

 

 要領を得ない用件に理香(りか)は、終了ボタンを押して少し乱暴にスマホを白衣のポケットにしまった。一方通話を終えた東亜(トーア)は、スマホをベッドへ放り、テラスへ出てタバコを吹かしながら、眼下へ広がる都心の街並みを眺め、のんきに朝のひとときを満喫していた。

 

「さて......」

 

 吸い殻を灰皿に捨て、上着を羽織り部屋を出た。

 

           *  *  *

 

 昼休み、あおいとはるかは教室で弁当を食べながら話しをしている。

 

「あおい、肩は大丈夫ですか?」

「平気だよ。ありがと」

「そうですか、よかったです」

 

 あおいは軽く腕を回して、心配いらないことをアピール。

 練習試合の後、あおいの右肩と肘に厳重に装着された大掛かりなアイシングに心配をしていたはるかは、ホッと胸をなで下ろした。

 

「新入部員来てくれるかな?」

「昨日の練習試合を見てた新入生もいたみたいですし、きっと来ますよ」

「そうだよね。放課後が楽しみだなぁ」

 

 そして放課後、部活の時間。

 男子部員は先に着替えてグラウンドでキャッチボール。鍵を掛けた部室で着替えをしていたあおいと芽衣香(めいか)も支度を済ませて出てきた。

 

「みんな、集合して」

 

 白衣をまとったままの理香(りか)が、部室の前にナインを集める。

 

「昨日はお疲れさま。疲れは残っていないかしら?」

「はい!」

 

 声を揃えて答える。返事を聞いた理香(りか)は笑顔で頷き、彼女の後ろに並ぶジャージ姿の生徒たちを紹介。

 

「待望の新入部員よ。まだ仮入部期間だからジャージだけどね。さあ、自己紹介してちょうだい。先ずは一番右のキミからお願いね」

「はい! 今年入学しました、一年の――」

 

 順番に自己紹介、計六名の部員が新しく恋恋高校野球部に仮入部。

 

「はい、ごくろうさま。じゃあ分からないことは、キャプテンの鳴海(なるみ)くんに訊いてね。それと――」

 

 ナインたちから視線を外して、ベンチに顔を向けた理香(りか)は、面倒そうにベンチに座る金髪の男に向かって声をかける。

 

「紹介するから、こっちに来て!」

「あん?」

 

 面倒くさそうに、部室の前に行く。

 

「あっ、昨日の人......」

 

 東亜(トーア)を見たあおいが、小さく声をあげる。どういう訳かとざわつく部員たちの中、新入部員は少し違った反応をしていた。

 

「はいはい、静かになさい。今、紹介するから」

 

 静かになったところで理香(りか)は、改めて東亜(トーア)を部員に紹介。

 

「この人は、渡久地(とくち)くん。今日から正式に野球部のコーチとして、あなたたち指導してもらうことになったわ」

「ど、どういうことですか? 加藤(かとう)先生」

 

 驚き戸惑う中、代表してキャプテンの鳴海(なるみ)が訊く。

 

「本気で甲子園を目指すのなら素人のわたしよりも、プロに指導してもらった方がみんなのためになるでしょ?」

「プロ?」

 

 新入部員に一度目を向けてから前を向き直して、小さく微笑む。

 

「ふふっ、何人かは気づいているみたいね。そう、彼は昨シーズン開幕11連敗を喫した彩珠リカオンズを奇跡の逆転劇で、ペナントレース優勝。そして、日本シリーズ制覇へと導き。自身も最多勝、最多奪三振など多くのタイトルを獲得し、突如姿を消した伝説の投手――渡久地(とくち)東亜(トーア)よ」

 

 突然のことに理解が出来ずに固まる。しばしの間が空いてから彼らの感情が爆発した。

 

「えっ......? ええーっ!?」

「元プロ野球選手!?」

「み、みなさん! こ、これを見てください!」

 

 驚く鳴海(なるみ)たちにマネージャーのはるかは、スマホを見せる。液晶画面には、目の前にいる渡久地(とくち)東亜(トーア)その人が、試合で投げている動画が映し出されていた。

 

「ほ、本物の渡久地(とくち)選手だ! 俺、実家にユニフォームを飾ってあるんだぜ!」

「マジかよ!?」

 

 新入部員の中にリカオンズが本拠地を構える埼玉県出身の生徒が居たため、更に騒ぎが大きくなった。何を言っても無駄だと判断した理香(りか)は、騒ぎが収まるのを待って改めて伝える。

 

「そういう訳だから。今日から、渡久地(とくち)コーチの指示の元練習メニューを組むことになったわ」

「あの、加藤(かとう)先生は?」

「もちろん、わたしも野球部に残るわ。今まで通り飾りの監督で、サポート役だけどね」

 

 理香(りか)は一通りの質問を全て答えたのち、あとを東亜(トーア)に委ねた。

 

「それじゃあ渡久地(とくち)くん、よろしくね」

 

 緊張感から数人のゴクッと生唾を飲み込む音が聞こえてくる。

 そんな中、東亜(トーア)は初めての指示を出した。

 

「俺がいいと言うまで、お前ら全員走れ」

「は、はい! みんな、道具を片付けてジョギング行くぞ!」

「おおーっ!」

 

 大急ぎでバット、ボール、グラブを片しグラウンドの外周を回り始めた。

 

「さて、出てくる。水分補給のタイミングはあんたに任せる」

「わかったわ。みんな、最初から飛ばしすぎないようになさい」

 

 理香(りか)に許可をもらいグラウンドを後にする東亜(トーア)は、気合いを入れて練習に取り組むナインたちを見て笑みを浮かべ小声で呟いた。

 ――さーて、何人生き残るかな、と。

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