練習試合から一夜明け、翌朝。
キャプテン
「フッフッフ、全てはオイラの気迫溢れるプレーから始まったんでやんす!」
「
騒ぎの中心にいたのは、
昨日のパワフル高校との練習試合あと一歩というところまで追い詰めた話しは、知らぬうちに学校中へ広まり、登校して来た途端に話題の中心に上がった。
「
「う、うん。まあ、試合は負けちゃったけどね」
あおいたちと今後の野球部の練習方針について机を囲んで話していた
「つまり、全てはオイラの力! このまま甲子園まで突っ走るでやんすー!」
「キャー!
「なーに調子いいこと言ってるんだよ、
クラスの女子に囲まれ、いい気になって自分の活躍を盛りながら話す
「
「ええ~、そうなの~?
「うぅっ......ぐすん、......でやんす」
真実を知ったクラスの女子に手のひらを返され涙ぐむ
「はぁ~、バカみたい」
「あはは......。まあまあ、ところでさ、昨日の人だけど」
「ああ~、あの金髪の?」
「そうそう。あの人、結局なんだったんだろう? どこかで見たことがあるような気がするんだけど。あおいちゃん、心当たりない?」
「う~ん、ボクも見たことあるような気がするんだよね」
二人が、
去年の春は選手が9人集まり、夏の大会へ向けて夜遅くまで練習をする日々。夏以降になると、女性選手の公式戦出場を認めさせる署名集めに明け暮れた。ニュースはおろか、プロの野球の結果さえも満足に見ることはなかった。
更に、東京という立地にも問題があった。
東京は、
「う~ん......采配は的確に当たるし、読みも凄い説得力があった」
「
「そうだね」
始業を知らせるチャイムが鳴り響いた。
その頃――話題に上がっていた
『あのね。わたし、学校なんだけど?』
「朝っぱらから、保健室に駆け込むヤツなんて稀だろ」
『それは、そうだけど』
「はぁ......」と、諦めたように小さくため息をついた
『それで、用件はなに?』
「野球部のトレーニング器材はどうなってる」
『部が発足した時に揃えから一通りはあるはずよ』
「ピッチングマシーンの型は?」
『えーっと。確かローター式だったと思うわ』
「そうか、分かった。じゃあな」
『えっ? ちょっと!』
ツーツーツー......と、通話が終わった事を知らせる連続した機械音が受話口から虚しく鳴り続ける。
「もう、なんなのよっ!」
要領を得ない用件に
「さて......」
吸い殻を灰皿に捨て、上着を羽織り部屋を出た。
* * *
昼休み、あおいとはるかは教室で弁当を食べながら話しをしている。
「あおい、肩は大丈夫ですか?」
「平気だよ。ありがと」
「そうですか、よかったです」
あおいは軽く腕を回して、心配いらないことをアピール。
練習試合の後、あおいの右肩と肘に厳重に装着された大掛かりなアイシングに心配をしていたはるかは、ホッと胸をなで下ろした。
「新入部員来てくれるかな?」
「昨日の練習試合を見てた新入生もいたみたいですし、きっと来ますよ」
「そうだよね。放課後が楽しみだなぁ」
そして放課後、部活の時間。
男子部員は先に着替えてグラウンドでキャッチボール。鍵を掛けた部室で着替えをしていたあおいと
「みんな、集合して」
白衣をまとったままの
「昨日はお疲れさま。疲れは残っていないかしら?」
「はい!」
声を揃えて答える。返事を聞いた
「待望の新入部員よ。まだ仮入部期間だからジャージだけどね。さあ、自己紹介してちょうだい。先ずは一番右のキミからお願いね」
「はい! 今年入学しました、一年の――」
順番に自己紹介、計六名の部員が新しく恋恋高校野球部に仮入部。
「はい、ごくろうさま。じゃあ分からないことは、キャプテンの
ナインたちから視線を外して、ベンチに顔を向けた
「紹介するから、こっちに来て!」
「あん?」
面倒くさそうに、部室の前に行く。
「あっ、昨日の人......」
「はいはい、静かになさい。今、紹介するから」
静かになったところで
「この人は、
「ど、どういうことですか?
驚き戸惑う中、代表してキャプテンの
「本気で甲子園を目指すのなら素人のわたしよりも、プロに指導してもらった方がみんなのためになるでしょ?」
「プロ?」
新入部員に一度目を向けてから前を向き直して、小さく微笑む。
「ふふっ、何人かは気づいているみたいね。そう、彼は昨シーズン開幕11連敗を喫した彩珠リカオンズを奇跡の逆転劇で、ペナントレース優勝。そして、日本シリーズ制覇へと導き。自身も最多勝、最多奪三振など多くのタイトルを獲得し、突如姿を消した伝説の投手――
突然のことに理解が出来ずに固まる。しばしの間が空いてから彼らの感情が爆発した。
「えっ......? ええーっ!?」
「元プロ野球選手!?」
「み、みなさん! こ、これを見てください!」
驚く
「ほ、本物の
「マジかよ!?」
新入部員の中にリカオンズが本拠地を構える埼玉県出身の生徒が居たため、更に騒ぎが大きくなった。何を言っても無駄だと判断した
「そういう訳だから。今日から、
「あの、
「もちろん、わたしも野球部に残るわ。今まで通り飾りの監督で、サポート役だけどね」
「それじゃあ
緊張感から数人のゴクッと生唾を飲み込む音が聞こえてくる。
そんな中、
「俺がいいと言うまで、お前ら全員走れ」
「は、はい! みんな、道具を片付けてジョギング行くぞ!」
「おおーっ!」
大急ぎでバット、ボール、グラブを片しグラウンドの外周を回り始めた。
「さて、出てくる。水分補給のタイミングはあんたに任せる」
「わかったわ。みんな、最初から飛ばしすぎないようになさい」
――さーて、何人生き残るかな、と。