7Game   作:ナナシの新人

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大変お待たせしました。


game64 ~進化~

 試合は中盤、灰色の空から小雨が降り始めた。

 恋恋高校の攻撃は前の回ピンチの芽を摘み取った、あおいからの打順。マウンド上の猪狩(いかり)の初球は、ライジングショット。雨の影響を感じさせず、糸を引くようにアウトコースに構えたミットへ突き刺さった。見逃しのストライクを奪い、二球目も真っ直ぐ。

 

『空振り、140キロのストレートにタイミングが合いません! あかつきバッテリー、テンポよく二球で追い込みましたー!』

 

 ボールを投げ返し、二宮(にのみや)は腰を下ろす。

 

「(ぜんぜんタイミングが合ってない......って言うより、バットとボールがかけ離れてる。ノビについていけないって感じのスイングだ。ストレートみっつで仕留めるか? いや、ダメだ。さっきそれで五番に打たれた。このチームは、猪狩(いかり)のライジングショットを()()()()()相手だ。三振に切ったとは言え、八番の女子は迷いなく振り切ってきた。たとえラストバッターでも慎重に攻めねーとな......)」

 

 二宮(にのみや)から出された変化球のサインに、猪狩(いかり)は不満気に首を横に振る。このやり取りが二度続き、業を煮やした猪狩(いかり)はプレートを外して、二宮(にのみや)に鋭い視線を向けた。

 

「フゥ......すみません、タイムお願いします」

「うむ、タイム」

 

 小走りでマウンドへ向かう。

 

「そう睨むな。相手は九番、それもあのスイングだ。さっさと仕留めたいのは分かる。けどな、簡単にいって打たれたら上位に回る」

 

 試合は中盤で、しかも雨。雨天コールドの可能性も視野に入れ、これ以上の失点は厳禁だと二宮(にのみや)は考えていた。もちろんそれは、猪狩(いかり)も同じ。ただ、少し考えに相違があると言う話し。

 

「キミが、雨を気にかけていることは判っている。だが今は、ちょうど良い感じに湿ってて、縫い目にしっかり指にかかる。今のボクは、最高のパフォーマンスを発揮できる」

「......わーったよ、ストレート中心で組み立てる。けど、間が開いちまったから次だけは慎重にいくぞ」

「ああ、判っている。さすがにそこまで愚かではないさ」

 

 球審に礼を言ってしゃがんで、アウトコースへミットを構えた。三球目は話した通り単調な攻めは避けて、外角の変化球を放った。ボールゾーンからストライクゾーンをかすめるように入ってくる完璧なカーブ。

 

「(――変化球! これならボクにだって......!)」

 

 空振りを奪われたライジングショットの時とはまったく違い、アウトコースからのカーブを逆らわずに逆方向へおっつけた。ふらふらっとした弱い当たりだが、ファーストの後方へ飛んだ。ファーストの三本松(さんぼんまつ)は目で追いながら背走してグラブを伸ばすが、あと一歩届かず。打球はファールゾーンで弾んだ。カウントは変わらず、ノーボールツーストライク。

 

「(なんだ、今の......。真っ直ぐの時みたいな戸惑ったスイングじゃない。そもそもどうしてコイツらは、猪狩(いかり)のライジングショットのノビに戸惑わず合わせられるんだ? この九番以外は......。そうか、そう言うことかよ――!)」

 

 球審に貰った新しいボールを猪狩(いかり)に投げ渡しサイン交換、高めのボールゾーンへミットを構えた。その様子を見て、東亜(トーア)は気づく。

 

「バレたな」

「えっ? もう?」

「さすがは名門の正捕手と言ったところか、なかなかの洞察力だ。だが、理由が判明したところでどう対処するかが重要。よう、お前ならどう攻める?」

 

 東亜(トーア)は、鳴海(なるみ)に問いかける。

 

「俺だったら、もっと単純にストライクゾーンで勝負させます」

「これまで四失点しているのにか?」

「はい。失点と言っても、まともな失点は、瑠菜(るな)ちゃんに狙い打たれた一打だけです。矢部(やべ)くんには、申し訳ないけど」

 

 ネクストバッターズサークルで気合いを入れて素振りをする矢部(やべ)に目を向ける鳴海(なるみ)

 

「くくく。気にするな、お前の考えは間違っちゃいない。むしろ正しい。猪狩(いかり)は平凡な投手ではない、むしろ逆。どのボールも一級品、そう簡単には打ち崩せない。しかし、優秀ゆえに陥る落とし穴が存在する」

「落とし穴ですか?」

 

 鳴海(なるみ)と一緒に近くのナインたちも、東亜(トーア)の話しに耳を傾ける。

 

猪狩(いかり)の武器は、ノビのあるストレートでも、キレのある変化球でも、抜群の制球力でもない。コンビネーションなのさ」

「コンビネーション?」

「真っ直ぐが速いから変化球が活きる。変化球が鋭いから真っ直ぐが活きる。そして、それらを思い通りに制球出来るから強力な武器なんだ。しかし――」

 

 あおいを高めのストレートで空振りの三振に奪ってプレートを外した猪狩(いかり)へ視線を移す。

 

猪狩(アイツ)は本格派でありながら、自身を速球派の投手だと想っている。いや、正確には速球派でありたいと想っている、か」

猪狩(いかり)さんは、速球派ではないのですか?」

 

 スコアブックを片手に聞いていたはるかも一旦手を止める。

 

「一昔前ならそう呼ばれていただろう。だが昨今、高校生でも150キロを超すストレートを投げる投手は少なくない。中には、160キロ台に迫るストレートを放るヤツも居る」

 

 同じサウスポーの覇堂の木場(きば)やアンドロメダの大西(おおにし)は、最速150km/hを超すストレートを投げる。しかし猪狩(いかり)のストレートは最速で149km/h止まり、150km/hにはあと一歩届かない。十分に速い部類に入るが、前の二人と比べてしまうとやや見劣りしてしまう。

 

「投手としての完成度で言えば、猪狩(いかり)の方が一枚も二枚も上。二桁を計算出来る即戦力ってやつだな。だが不幸なことに、自身よりも上の存在がいると感じてしまった。春で敗退したことでより一層な」

 

 ベスト4で敗退したことでストレートの強化を図った、その成果が――ライジングショット。

 

「ノビとキレを兼ね備えた新しい武器。練習試合を含め今まで、ほぼ捉えられていない絶対的なストレートを会得したことで自信を取り戻した。だが皮肉なことに、レベルアップしてしまったがゆえ本来あるべき投球スタイルから遠ざかる結果となった。そこを突いて、矢部(やべ)に狙わせた」

 

 ストレートを中心に組み立てる場合バッテリーは、まずストレートの走りを確かめる。そして、一番長打が少ない場所であるアウトコースへ投げる割合が高い。

 

「ホームランでなくてもきっちり前へ飛ばしさえすればよかった。たとえ外野定位置のフライだろうと疑念を抱くのには十分な効果ある。なぜなら?」

「今まで、まともに打たれていないから」

 

 鳴海(なるみ)の返答に、東亜(トーア)は軽く笑みを浮かべる。

 

矢部(アイツ)は意外と飛ばす能力(パワー)がある。なまじ脚がある分当てに行く傾向があるから、コースと球種を教え振り切るよう仕向けたって訳だ」

「加えて、カムフラージュ役でもあるんでしょ」

「フッ、まーな。あおい、アンダーシャツ着替えとけ」

「女子は、ベンチ裏の更衣室を使わせてもらえるようになってるわ。判らなかったら係の人に聞いてね」

「はーい」

 

 グラウンドから戻って来たあおいは、替えのアンダーシャツとタオルを持ってベンチ裏へ入っていく。

 

「みんなも濡れたらすぐに着替えるのよ、持ってきてるわよね?」

「もちっす。おいら、十着持ってきてるぞ」

「おいおい。そらいくらなんでも多過ぎだろ?」

「備えあれば売れ残りなしって言うだろ~」

「憂いなし、な。備えたら売れ残るだろ」

「そうだっけ?」

 

 ベンチがアホな会話をしている間に矢部(やべ)は凡打に打ち取られ、ストライクゾーンでの勝負に切り替えたあかつきバッテリーは続く芽衣香(めいか)もストライク先行のピッチングで退けた。五回表を三者凡退で終わらせ、そして......。

 

「なに? あの投手のストレートを、猪狩(いかり)のライジングショットに見立てただと?」

「はい。おそらくですが、マウンドまでの距離を詰めて再現したんだと思います」

 

 二宮(にのみや)の考察は半分当たっていた。恋恋ナインが行って来た猪狩(いかり)対策は、あおいと瑠菜(るな)の二人の投球を、バッターボックスの前で体感するという方法。

 

「......なるほど。アンダースローの浮き上がるような軌道のストレートを手前で打ち込んできたとすれば、ノビに戸惑わなかった説明がつくな」

 

 二宮(にのみや)の意見に納得した様子でうなづく千石(せんごく)

 

二宮(にのみや)、実際にアンダースローの投手との対戦経験のあるキミからみて、どうやって対峙すればいい?」

「おお、そうだな。アンダースロー特有の軌道に惑わされると、どうしても視線が上向いて肩も上がりがちになる。アッパースイングにならないように上から叩きつけるような感覚で打て」

「わかった。それを心がけよう」

 

 二宮(にのみや)からアドバイスを受けた四条(よじょう)は、準備を済ませてバッターボックスへ向かった。

 その四条(よじょう)よりも一足早くグラウンドへ向かおうとしたところを東亜(トーア)に呼び止められた鳴海(なるみ)は、足を止めてベンチへ振り返る。

 

「はい、何ですか?」

「お前は今、二宮(にのみや)が十年以上の時をかけて築き上げたものを三ヶ月で経験している。すべてを受け止め吸収しろ、などと無茶な要求はしない。だが、無駄にするな。成功も、失敗も、すべて後の糧にしろ。そいつを決して忘れるな」

「......はい!」

 

 真剣な表情(かお)をして返事をした鳴海(なるみ)は、改めてグラウンドへ駆けていった。

 

「どうしたの? 急に」

「まあ、アイツをキャッチャーにコンバートさせたは俺だからな」

「ふーん、そう言うことにしておいてあげるわ」

 

 どこか嬉しそうに理香(りか)は微笑んだ。

 

 

           * * *

 

 

『さあ、試合は中盤戦。二点を追いかけるあかつきの攻撃は、二番四条(よじょう)からの好打順! 追いつき追い越せるか注目してまいりましょう!』

 

 五回裏あかつきの攻撃、恋恋高校は前回から引き継いであおいがマウンドに立ち。そして交代した瑠菜(るな)は、そのままライトの守備に着いた。投球練習で雨で濡れたマウンドの感覚を確かめたあおいは、球審のコールを聞いてモーションに入る。

 四条(よじょう)への初球は、低めのストレート。

 

「ストライクッ!」

 

 球審の手が上がった。見逃しのストライク。そして二球目は一転高めのストレートでファールを奪い、バッテリーは二球で四条(よじょう)を追い込んだ。

 

「(なるほど、確かに打ちづらい......。低いと思えばストライク、ストライクだと思えばボール球を打たされる。これは思いのほか手を焼くぞ。ならば......)」

「(ん? バットを短く持ち直した、意地でも食らいつくつもりか。なら、これで仕留めよう)」

 

 サインに力強くうなづいたあおいの三球目は――。

 

「(――真ん中、失投か! もらった......な!?)」

 

『空振り三振! 膝下へ落ちる鋭い変化球にバットが回りました! ワンナウト!』

 

 四条(よじょう)を仕留めた勝負球、甘いコースからのマリンボール。マウンドで小さくガッツポーズするあおいと対照的に、四条(よじょう)は憮然とした表情(かお)でベンチへ戻っていく。

 

「今のボール、変化球カ?」

「ああ......。おそらく、八嶋(やしま)を打ち取ったシンカーとは別種のシンカーだろう。かなり手元で鋭く変化した、見極めが難しいぞ」

「そうか、了解しタ」

 

 四条(よじょう)から情報を貰った七井(なない)は、左のバッターボックスで構える。鳴海(なるみ)は、七井(なない)をじっくり観察してサインを出した。初球は――アウトコース。

 

「(――外、やや甘めのストライクゾーン。例の変化球カ? いや、しっかり回転してる、これはストレートダ!)」

 

 狙いにいったが、バットは空を切った。

 

「(ストレートが消えた......いや、落ちたのカ? 今のが、四条(よじょう)の言っていた変化球カ......?)」

「オッケーナイスボール! バッター、目がついていってないよ!」

 

 状況を整理が出来ていない七井(なない)を後目に、あえて挑発するように言ってあおいにボールを返した鳴海(なるみ)は腰を下ろすと、すぐさま次のサインを送る。あおいもすぐにモーションに入った。

 またしても同じアウトコース。だが今度は、マリンボールよりも球速を抑えた通常のシンカー。

 

「くっ......!」

 

七井(なない)、泳がされながらも上手く流した! 痛烈な打球が三遊間を襲います!』

 

 三遊間のど真ん中の一番深いインフィールドライン上で、奥居(おくい)が飛びついて捕球。体勢が崩れた状態での送球は難しいと判断した奥居(おくい)は、サードの葛城(かつらぎ)へグラブトス。

 

葛城(かつらぎ)、頼んだぞ!」

「おう!」

 

 トスを受けた葛城(かつらぎ)は素早く体勢を立て直して、ファーストへスローイング。送球は、七井(なない)がファーストベースを駆け抜ける前にファーストミットへ収まった。

 

「ア、アウトーッ!」

 

『な、なんと......ショート奥居(おくい)・サード葛城(かつらぎ)のコンビプレーで、ヒットをアウトにしてみせましたーッ! これはスーパービッグプレーッ! 恋恋高校、鉄壁の守備で相手に流れを渡しません!』

 

 アウトにされたことよりも自分のバッティングをさせてもらえなかったことに、悔しそうな表情(かお)でベンチへ戻る七井(なない)と入れ替わりで、四番の三本松(さんぼんまつ)が同じ左打席に鬼気迫る表情(かお)で立つ。

 

『ツーアウトランナーなし、ここで眠れる四番三本松(さんぼんまつ)。雪辱を晴らし目覚めることが、劣勢のチームへ流れを呼び込むことが出来るでしょーカ?』

 

「(良い流れが最悪の流れへ変わりつつある......。しかし、ここでお前が打てば引き戻せる。流れを、空気を――)」

 

 千石(せんごく)の願いは届かず、三本松(さんぼんまつ)もストライク先行のピッチングで追い込まれてしまった。

 

「(よし、理想的に追い込んだ。でも、ここで焦って勝負にいったらダメだ。一球見せるよ。絶対にストライクゾーンには入れないでね)」

「(――うんっ)」

 

 カウント1-2追い込んでからの四球目は、アウトコース低めへボール二個分外したシンカー。しかし三本松(さんぼんまつ)は、これを強引に振りにいった。だが、当然バットは届かない。しかし――。

 

「まだだーッ!」

 

 左膝を地面に付き、ボール球を強引に引っ張った。ライナー性の打球がライト上空へ飛ぶ。

 

「ウソだろ!? ライト! 瑠菜(るな)ちゃん!」

 

『なんと左膝を地面につけ強引に引っぱたいた! 打球の角度は低いが、三本松(さんぼんまつ)の打球はここから伸びます! 入るか? 届くのかー!?』

 

 ファースト甲斐(かい)の頭上を越えたライナー性の打球は、スタンドへ向かって一直線に飛んでいく。まさかのバッティングに、理香(りか)が身を乗り出す。

 

「まさか、あれが入るの......!?」

「慌てるな、届かねーよ」

 

 東亜(トーア)の言葉通り、ライト線を襲った打球はワンバウンドでフェンスに当たって、フェアグラウンドへ跳ね返った。

 

『これはおしい! あとひと伸び届きませんッ!』

 

 ホームランにはならなかったが、前の二打席の雪辱を晴らした三本松(さんぼんまつ)はセカンドベース上で右拳を大きく掲げた。あかつきの応援スタンドが湧き上がる。この声援に後押しされたかのように、五番の二宮(にのみや)は、高めのストレートを左中間へ弾き返した。

 

二宮(にのみや)、タイムリーヒット! ツーアウトから四番五番の連続ヒットで一点差まで詰め寄ります! なおもツーアウトランナー一塁、一発が出れば逆転の場面で前の打席ホームランを打っている猪狩(いかり)(まもる)へ打席が回って来ました!』

 

 三本松(さんぼんまつ)とタッチを交わし、猪狩(いかり)がバッターボックスへ。

 

「(よし、三本松(さんぼんまつ)の一打で流れは変わった。これはウチの流れだ。逆転まで持っていける)」

 

 千石(せんごく)がそう思った直後タイムがかかり、恋恋ベンチから伝令が送られた。

 

「(伝令か。当然と言えば当然の場面だが。しかしこの流れ、半端な策では変わらんぞ)」

 

 内野陣が、マウンドに集まる。

 

「コーチの指示は?」

「特に何もありません」

 

 そう平然と言ってのけた伝令の香月(こうづき)

 

「えっ? 何もないの?」

「はい。球審が注意に来るまで祝勝会で食べたいものでも話してテキトーに時間を使えだそうです」

 

 ナインたちの目がベンチへ向く。東亜(トーア)は、相変わらず平然としていた。どっしりとした悠然とした姿に冷静を取り戻したナインたちは、言われた通り球審に注意されるまで他愛のない話しで時間を潰して各々ポジションへ戻っていく。

 

「(――内外野共に守備位置は変わらない、キャッチャーも座ったままだ、敬遠もないのか。では今の伝令は、いったい何を......?)」

 

 疑問を抱く千石(せんごく)だったが、答えが出る間もなく試合は進む。あおいの初球が投じられた。インコース低めのストレート。

 

『打ったー! 猪狩(いかり)の打球は、美しい放物線を描いて右中間スタンドへーッ!』

 

「よし、行った!」

 

 打球の角度から逆転のホームランだと確信して拳を握る千石(せんごく)。だが東亜(トーア)は真逆の反応、スタンドへは届かないことを確信して不敵に笑っていた。

 

『おや。これは......失速、失速しています!』

 

「なに......!?」

 

 右中間の一番深いところで落ちてきた打球を、瑠菜(るな)が軽くジャンプしてキャッチ。三つ目のアウトを奪った。

 

『これは非常におしい! 三本松(さんぼんまつ)の打球と同様あとひと伸び、あとひと伸び届きませン! 恋恋高校、逆転のピンチを守り切りましたーッ!』

 

「クックック......甘いな、千石(せんごく)さんよ。そう都合良くことは行かねーよ」

 

 そう言って東亜(トーア)は、空を見上げる。イニング開始時よりも僅かだが確実に増している雨足。千石(せんごく)は、まだ気づいていないでいた。

 

 この雨が、今の勝負を明暗を分けたことを――。

 

 

           * * *

 

 

 五回の攻防が終了しグラウンド整備が行われる中、猪狩(いかり)千石(せんごく)の元へ。

 

「監督。お願いがあります」

「何だ?」

「キャッチャーを、(すすむ)に替えてください」

「なんだと!? どう言うことだ!」

「オイ! ちょっと待てよ!」

 

 千石(せんごく)猪狩(いかり)の会話に二宮(にのみや)も加わる。

 

「俺じゃあ力不足だって言うのかよ!?」

「そうじゃない。力不足は、ボクの方だ」

「何だよ、それ!」

「待て、二宮(にのみや)猪狩(いかり)、どう言う意味だ?」

 

 猪狩(いかり)は、スコアボードへ顔を向けて答える。

 

「一点負けている状況で試合は終盤に入ります。もう一点もやれません。彼らは強い。はっきり言って今年対戦した相手で一番強い。だからボクは――」

 

 猪狩(いかり)は、もう絶対に追加点をやらないと言う強い意志と覚悟をもって言葉にした。

 

 ――もう一段進化します、と。

 





P.S
奥居(おくい)葛城(かつらぎ)の連携プレーは、実際にパワプロのバッチアクション(□ボタン)を用いることで再現できたりします。ただ、普通に送球するよりも遅れるので魅せプレーです。

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