「よし、よくぞ二点で留めた!」
無死満塁から二点失点を喫したが、致命傷とまでは言えない点差。なぜならば、攻撃はまだ九回丸々残されているから。
「先発投手のデータは、頭に入っておるな?」
帝王ナインたちは「はい!」と返事。その力強い答えに満足そうに頷いた
「彼奴らは、奇襲を仕掛けてきおった。奇襲とは、弱者が強者に衝撃を与えるため兵法。しかし、実力の差は歴然である。こちらは普段通りの試合運びでゆくぞ。敵の策に惑わされてはならぬ!
「はい!」
指示に頷いた
「プレイ!」
球審のコールを聞いた
「(キャッチャーで先頭バッター、間違いなく足のあるタイプだ。ただ、体格と構えから見て、長打はあまりなさそうだ。
データと実際に対峙してみた印象を踏まえてサインを出し、内角低めにミットを構える。出されたサインに頷いた
『
初球は、縦のカーブ。真ん中外寄りのやや甘いコースから、構えたミットは殆ど動くことなく収まった。球審の右手が上がる。見逃しのストライクを奪ったのは良いが、
「(何だろう? 最初は打ち気だったのに、
若干疑問に想いつつも「オッケー、走ってるよ!」と、
「(何なんだ? このバッターは......。今度は、まるでやる気を感じないぞ)」
要領を得ない
『ファール! アウトコース低めのストレートを打ちに行きましたが、仕留めきれず三塁方向へのボテボテのファウル。バッテリー、ここは理想的な形で
「(今度は振ってきた......って、また打ち気満々の構えに戻ったぞ? いったい何なんだ? このバッターは――)」
まったくと言っていいほど経験のないタイプの選手に、
「(フフフ、悩んでおる悩んでおる。かく言うこの我輩も、
――気分屋。
「......極度の気分屋。相手の挙動を読んで試合を組み立てる
「確かに、面倒なタイプではあるが、対処方法は幾らでもある」
「どうするの?」
「一番手っ取り早いのは、無視して勝負する」
打率三割を超えれば一流と評される。しかし裏を返せば、一流でも七割近い確率で凡打する。
「打ちにいった場合、一流バッターでも七割は失敗する。だが、四死球は打率に関係なく十割出塁させてしまう。面倒な相手には、下手にカウント悪くして自分の首を絞めるよりも、さっさと打たせちまう方がいい。加えてコイツは左バッター、引っ張って外野手の頭を越えるような長打はまず無い」
「
勝負は必然的に、インコース。
恋恋バッテリーは、追い込んでからの三球目は二球目よりも外に外してカウントを整え、カウントワンエンドツーからの四球目――内角のシュートを選択。
『一二塁間を破るライト前ヒット! 先頭バッター
当てただけのヒッティングだったが、足があると言うことでライン寄りに詰めて守っていた結果のヒット。出塁を許してしまったが、バッテリーとしては想定内。すぐに切り替えて、次のバッターへ神経を注ぐ。
「(最初からバントの構えか。ランナーは......)」
右打席に入った二番バッターから、ファーストランナーの
「(ずいぶんリードが大きいな、単独の盗塁も充分に考えられる。だけど、警戒し過ぎて仕掛けやすくしたら本末転倒。バント失敗を狙いつつ、仕掛けてきたら刺す)」
サインに頷いた
『あーっと! 上げてしまった! キャッチャー
送りバントを決め損ねた二番バッターは悔しそうな
「バント巧者のキミが、送りバントを失敗するなんて珍しいね。難しいボールだったのかい?」
「いや、ボール自体は大したことない。だけど、相当出所が見辛い。早めに準備した方がいい」
「なるほど......」
「(
「珍しいわね。守備で注文を付けるなんて」
「一番のヤツが想定外なタイプだったんでな、仕方なくだ。それに
「幻影?」
「フッ、見てりゃ判るさ」
意味深に言うと、
『バッターボックスには帝王実業不動の三番、
「(珍しく、コーチから守備で注文が出た。このバッターだけは、必ず外角で仕留めろ。なら、インコースでカウントを整えて、最後に外で仕留めるのが定石。だけど、そうそう狙い通り仕留められる相手じゃないから勝負は焦らずに行こう)」
「(ええ、判ったわ)」
先ずは牽制球を投げ、バッターへ初球を投げる。外角のストレート。
「(......ふむ、確かにタイミングを測りづらい。あながち、仕留め損ねた言い訳では無かったということか。しかし、掴むことが出来れば打てないボールではない。タイミングを取る一番の方法は、合わずとも多少強引に振って感覚を掴む。振らなければ、何も得るものはない)」
構え直した
『塁審の判定は、スイング!
「(球威が無い分、コントロールはかなりのものを持っているようだ。牽制も、まずまず上手い)」
目でしっかりランナーを牽制しての三球目。
『再三ランナーを警戒してからの三球目は――外のストレート! ファウル! 厳しいコースのストレート、捉えるきることが出来ません!』
タイミングを合わせられず、差し込まれてファウル。
「(三球続けて速球系のアウトコース攻め、盗塁を警戒しての配球か? しかも、どれも際どいコースの投球大したものだ。しかし、そろそろインコースを挟みたいところだろう。おそらく、緩いカーブ――)」
読みに反し、四球目は大きくウエスト。
「(......ここで外して来るとは、よほど盗塁を警戒しているようだ。しかしこれで、投手有利のカウントから五分に戻ったわけだ。となると――やはり、勝負は内側)」
一旦打席を外し、バットを握り直して戻ってきた
「(――なっ!? アウトコースだと!?)」
「(よし、完璧!)」
インコースを予測していたところへ裏をかく、五球連続アウトコース。
「(......裏をかかれた。しかし、ここは遠い――)」
「ストライク! バッターアウト!」
「――なっ!?」
『見逃し三振ッ! 恋恋バッテリー、好打者
「(ボクは今、自信を持って見送った。今のコースが、ストライクだと......?)」
下された判定に立ち尽くしていた
「
「そうですか。判りました、頭に入れておきます」
ベンチへ戻った
「そうか。選球眼のいいキサマが言うのなら間違いないな。
「はい! キャッチボール、お願いします」
「ああ」
控えの捕手に頼み、
打席では、スイッチヒッターの
『
打席で構える
「(......何てリキみの無い構えなんだ。
『ファーストライナー! 火の出るような痛烈な当たりでしたが、これは不運にも野手の正面! スリーアウトチェンジですッ!』
「くっ......!」
仕留め損ね、悔しさを滲ませる
「
「ありがと」
「どうしたの?」
「あ、うん、何か拍子抜けって言うか......」
「私も、同じ感想よ」
あおいの隣に座った
「どうして、あんな不用意に手を出してきたのかしら......?」
「だよね。
「そんな考え込むような理由じゃない。この回の攻撃で解るさ。おーい」
「はい?」
「初球は、必ずアウトコースへストレートが来る。それはボール球だ。釣られるなよ」
「はーい、わかりましたーっ」
改めてグラウンドへ出ていった
「お願いしまーすっ!」
「うむ。プレイ!」
打席に立つ
「(外を広く使えるなら、そんな楽なことはない)」
「(うーん、あんまりそんな印象は無かったんだけどなぁ。まっ、いいか。じゃあ、これで)」
「ボール!」
「えっ?」
『初球は、アウトコースのストレート。帝王バッテリー、慎重にボールから入ってきました』
「おしいおしい、ボールは走ってるぞー!」
「あっ、うん......」
『ボール、ボールです!
不審に思った
「クックック......今さら何をしようと無駄だ。もう、魔法にかかってしまったのだからな。この魔法は、簡単には解けない」
「魔法......ですか? あっ! もしかして、ジャスミンとの練習試合の時の!」
「いいや、別に特別な配慮などされていない。むしろ公平な判定を下している。名審判と言ってもいい」
「どういうことなの?」
「だから、見たままじゃねーか。単純にボールなんだよ、
『あーっと、これも外れてしまいました! ストレートのフォアボール! この回先頭バッターの七番
その後も
『またしてもボールが先行します! いったい、どうしたと言うのでしょーか?』
「(......そっか、そういうことだったのね!)」
初球で、
「
「あのー、いったいどう言うことなのでしょうか?」
「言っただろ? ストライクゾーンは変わっていないし、審判の判定に贔屓があるわけでもない。しかし、唯一変わったことがある。それは――」
「――
「えっ? そういえば、
「誤った認識を広めてしまったヤツがいるのさ。それが、