今回は、聖タチバナの話しが中心で短めになっています。
三回戦前夜、聖タチバナ学園宿舎の一室。
サウスポー三本柱のひとり、
「姉さん、何か収穫はありましたか?」
「予選とは、まったく別のチームになっているわ。刹那の判断力と決断力が格段に上がっている。本大会までの短期間で、いったいどんな方法で身につけたのかしら?」
飲み物をテーブルの隅において隣に座った
「やはり、この方の......
「影響は間違いなく受けているでしょうね。相手の不意を突く奇襲、浮き足だったところを決して逃さない勝負眼。初戦の帝王実業で見せた、油断してオーバーリードした
『なんですってー!?』
廊下から響く大声に話しを遮られた
廊下では、湯上がりの二人の女子が大きな声で言い争いをしていた。
ひとりは、二年生でエースナンバーを付ける
「プリンの方が、いいにきまってるって!」
「きんつばが至高だ。だいたい、みずきはプリンばかり食べ過ぎだぞ。最近、足が太くなったんじゃないか?」
「な!? あ、あんただって人のこと言えないっしょ! この、きんつばオバケ! お腹周りがたるんできたんじゃないの!」
「なーっ!?」
「お二人とも、騒がしいですよ」
部屋を出た
「あっ、
「うむ。きんつばとプリン、どちらがお風呂上がりの甘味に相応しいか......」
「どちらでも同じです、就寝前の間食は太りますよ。それより、お話があります」
無慈悲かつ的確な一言で不毛な言い争いに終止符を打った
「姉さん、連れてきました。
「そう、ご苦労さま」
「
「私たちに、何か用事か?」
「恋恋高校戦についての話しよ。明日の一番手は、私が行くわ」
「ちょっと待ったーっ」
恋恋高校との試合を一番楽しみにしているみずきは、
「先発投手は、私と
「
「むぅ~......理由はっ?」
納得していないみずきに、帝王実業戦で
「わざわざ打ちやすいストレートを捨てて、決め球のフォークボールを打った。結果はアウトだったけど、前の四番が打ったのもフォークボール。この二人は明らかに、
「帝王実業の
「ええ、その通りよ」
あの時、
満塁ホームランを受け、腹をくくることが出来た
「ふーん、で。それと、
じとーっと疑念の目を向けるみずきのことを気にする素振りなど微塵も見せず、手元の資料を手に取った
「相手は、調べても調べても力量の底が知れない。二回戦なんて酷いものよ、一方的過ぎて何も得るものは無かった。私は、勝つための情報を得るための捨て石になれる。みずき、あなたに出来る? 出来るのなら、先発は任せるわ」
「......わかりましたー、
「最初から素直にそう言えばいいのよ」
テーブルの上に拡げられた資料を片付ける
「
「
「聞こえているわよ」
「聞こえてます」
* * *
『さて、本日お届けするゲームは、恋恋高校対聖タチバナ学園! 両校共に、今大会から出場が認められた女子部員が活躍するチーム同士の対戦! この新たな歴史を見届けようと、この対戦を待ち望んだ大勢のファンが朝早くから詰めかけ満員御礼です!』
恋恋高校対聖タチバナ学園の一戦。後攻の恋恋高校のブルペンに入っているのは、帝王実業戦でリリーフ登板した一年生
「あっれー? 先発一年の男子じゃん。
「油断しない。あの投手は、育成に切り替えたとはいえ、名門・帝王実業を相手に三回一失点に抑えた実績を残しているわ」
「データでは、回を追うごとに尻上がりに調子を上げていくタイプですね。ストレートの最速は140キロ、通常のカーブに加えて、縦のカーブを持ち球に勝負する右の本格派です。いかに早い回で得点を積み重ねられるかが、勝敗を別けることになるでしょう」
「オーダーも変えてきているぞ。セカンドがピッチャーと同じ一年生の、控えの女子が入っている」
「ベンチでの振る舞いを見る限り、レギュラーの欠場は、故障の類いではなさそうね。おそらく、勝てば連戦になる準々決勝へ向けての休養といったところかしら」
「なにそれ、私たちことは、最初から眼中に無いってことっ? ムカつく~!」
「いちいち目くじらを立てない。後悔させてあげればいいだけのことよ。さあ、行くわよ」
両校の選手たちは、バックネット前に整列し、挨拶を交わす。
先発投手
「プレイボール!」
ベスト8を賭けた戦いが今、始まりを告げた――。
※シナリオの都合上。
みずき、