7Game   作:ナナシの新人

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お待たせしました。


New game17 ~諸刃の剣~

 ディレイド気味のスチールを決められてしまった優花(ゆうか)は、一応、視線で牽制していたとは言え「盗塁は無い」と、半ば決めつけてしまっていたことを悔やんだ。

 

「(やられた。まさか、あのタイミングのスタートでセカンドを奪われるだなんて......)」

 

 だがそれは、ほんの僅かな時間。大きく深呼吸をし、瞬時に気持ちを切り替えた。セットポジションに着き、改めて、八番バッター片倉(かたくら)と対峙。三盗を警戒して、今度はしっかりと、セカンドランナーの藤堂(とうどう)へ注意を怠らない。

 

『ストライク! アウトコースいっぱいにストレートが決まりました! カウントを平行へ戻しました』

 

「切り替えの速さは、なかなか目を見張るものがある。伊達に戦略家を気取っている訳ではないらしいな」

「相手を褒めるのは結構だけど。みんなは、“次の一手”のことが気になるみたいよ」

 

 試合そっちのけで鳴海(なるみ)たちの注目は、東亜(トーア)に集まっていた。

 

「そんなたいそうなことじゃねーよ。タイム。瑠菜(るな)、伝令だ」

「はい!」

 

 内容を伝え、瑠菜(るな)を伝令に送った。

 

『おっと、恋恋高校、渡久地(とくち)監督が動きます。どうやら、攻撃の伝令が送られるようです。十六夜(いざよい)が、ベンチから出てきました!』

 

 バッターボックスを離れた片倉(かたくら)に、東亜(トーア)からの指示を伝える。

 

「(このタイミングで、攻撃の伝令。いったい、何を仕掛けてくるつもりなのかしら......?)」

優花(ゆうか)先輩っ!」

「――え、ええ」

 

 可能性がありそうな戦術を思い浮かべながら、肩が冷えないように軽くキャッチャーボール。指示を受けた片倉(かたくら)は一礼して、バッターボックスへ戻った。

 

「プレイ!」

 

 球審のコール。試合再開。

 試合再開直後の初球は、エンドランを警戒して、大きく外角へウェスト。片倉(かたくら)は見逃し、ツーボール・ワンストライク。

 

「(......僅かな反応すらない。エンドランは無さそう......決めつけは厳禁。カウント、球種のどちらかで仕掛けてくる可能性もあるわ。だけど、一番ダメなことは、警戒し過ぎて自滅してしまうこと。ツーアウト、バッター勝負に集中――)」

 

 四球目、アウトコースのスライダーで見逃しのストライク、カウントを戻した。

 

「これで、ツーエンドツー、速球系でカウントを整えた。スクリューで決めに来る確率が高まったわね」

「間違いなく投げるさ。ここで信用して投げられないようなボールなら、この試合は難なく片が付く。後続も、滅多打ちだ」

 

 一度のサイン交換で頷いたマウンド上の優花(ゆうか)と、キャッチャーの(ひじり)が選んだ勝負球は――スクリューボール。左バッターの片倉(かたくら)の膝下へ、曲がりながら変化して来た。際どいコースへ来たこの一球に手を出さず、目で追って見送る。

 

「――ストライク! バッターアウト、チェンジ!」

 

『見逃し三振! 最後は、スクリューボール! 片倉(かたくら)、手が出ませんでしたーッ!』

 

 一打先制のピンチを脱した優花(ゆうか)は小さく息を吐き。大きく息を吐いた片倉(かたくら)は駆け足でベンチへ戻り、水分補給とピッチングの準備に取りかかった。東亜(トーア)の指示を伝令として伝えた瑠菜(るな)は手伝いながら、片倉(かたくら)に尋ねる。

 

「それで、どうだった?」

「あ、はい。瑠菜(るな)先輩に言われた通り、しっかり見てきました」

 

 東亜(トーア)の指示は、「全球見逃せ。例え追い込まれていたとしても」。それにより、判明したことは――。

 

「スクリューは、“ボール球”でした」

「フッ、やはりな」

 

 優花(ゆうか)の球速は最速110km/hと遅い反面、すべての球種を四隅へ投げ分けられる抜群の制球力を持つ。その中で、一見甘いコースのストレートに見える球筋、球速が無い故に、思わず振りにいってしまう。その結果、バッターは、ボール球を打たされてしまっていた。

 

「だが、球審のジャッジは、ストライク。ここから見ていても、逆球は一球たりとも無い。コントロールが良いと、バッチリ印象付けている。つまり、キャッチャーの高い捕球技術と制球力の合わせ技だな」

「それじゃあ追い込まれたら見逃せないし、打ちにいけばボール球を打たされるってことじゃない」

「まあ、そうなるな」

 

 遅いという致命的な弱点を補い、余るほどの長所に替えた投球術。

 元々打たせて取る軟投タイプの三投手、当然、内外野共に守備は堅い。現に二回戦も、少ないチャンスをものにし、僅差で勝利を収めた。地方大会も同じ戦術で勝ち上がってきたチーム。

 

「とりあえず守ってこい。攻撃の話しは、その後だ」

 

 ――はい! と元気よく返事をして、グラウンドへ駆けてナインたちを見送った理香(りか)は、東亜(トーア)にだけ聞こえる程度の小声で聞いた。

 

「スクリューが狙いって言っていたけど。ボール球なら、他の球種を狙った方がいいんじゃないの?」

鳴海(なるみ)が言っていただろ? ランナーをスコアリングポジションへ進めたところで、要所で使われたら、今の打席のように簡単に得点は奪えない。今までの連中も、優花(アイツ)らの術中に嵌まって敗北した」

「......少々面倒な相手、その言葉通りの相手ね」

「攻略法はある。あるにはあるが――」

 

 東亜(トーア)が、若干懸念を抱いている理由。

 それは――優花(ゆうか)を含めた聖タチバナ学園投手陣の攻略法であると同時に、恋恋高校投手の欠点をも露呈することになり兼ねない“諸刃の剣”であることに。

 

 

           * * *

 

 

 この回先頭バッターの八番をフォアボールで塁に出し、ラストバッターの優花(ゆうか)が確実に送りバントを決めて、一死二塁のピンチを背負った。ここで打順は一巡、トップバッターに戻る。内角のストレートで詰まらせ、ショートゴロに打ち取り、セカンドランナーは動けずツーアウト。

 そして、二番バッター新島(にいじま)を迎える。

 

新島(にいじま)、インコースのストレートに窮屈なバッティングを強いられました! しかし、これは......ピッチャー、セカンド、ファーストの間、面白いところへ飛んだぞ!』

 

 詰まった打球は、まるでプッシュバントのように内野で一番処理の難しい投手、一塁手、二塁手のちょうどド真ん中、トライアングルのエリアへ打球が転がった。鳴海(なるみ)はマスクを投げ捨て、内野連携の混乱を回避させる目的で大声で指示を出す。

 

「セカンド! ファーストは無理、バックホーム!」

 

 ピッチャー片倉(かたくら)は足を止め、ファーストの甲斐(かい)はファーストベースへ戻る。打球を処理した香月(こうづき)は、バッターランナーを無視してバックホーム体勢を入った。

 

「(しっかり軸足に体重を乗せて、脇を締めて......!)」

「ストップ! ストップッ!」

 

 サードベースを蹴ったセカンドランナーは、サードコーチャーの指示で急ブレーキ、サードベースへ引き返す。ノーバウンドのストライク送球がホームへ返って来た。記録は、内野安打。ツーアウトながら三塁一塁。

 

「あれ? あのセカンドって、肩があんまり良くなかったんじゃないんですか? 結構、良い送球でしたよ?」

「少なくとも、地区予選の頃はそうだったわ。あれから、多少改善されたみたいね」

 

 優花(ゆうか)にとってこれも、想定外の出来事。

 しかし、今のプレー以上に気がかりに感じていることが、彼女にはあった。

 

「(攻撃の伝令......結局、何も仕掛けて来なかった。“待て”のサインだったのなら、わざわざ伝令を消費してまでするような指示(こと)じゃない。きっと、何かしらの意図があるに違いないわ)」

 

 グラブを持った優花(ゆうか)は、ツーアウトのためレッグガードを付けたまま打席と守備の両方に備えている、(ひじり)に声をかける。

 

「キャッチボール、お願い」

「分かった」

「みずき。あなたも、準備しておきなさい」

「えっ? でも、まだ一イニングありますよ?」

「今日は、継投を繰り上げることも想定しておかなければならない相手よ。佐奈(さな)にも、伝えておいて」

「......分かりましたー」

 

 ベンチを出たところで、佐奈(さな)がダグアウトから戻ってきた。

 

「お待たせしましたぁ~」

「遅ーい! いったい今まで、何やってたんですかっ?」

「メイク中に気になったので、ヘアスタイルのセットをしてました~」

「それ、今やることですか?」

「乙女の常識でぇす」

 

 言っても無駄と頭では分かっているため口にしないが、「どうせ、帽子を被るんだから意味ないじゃない」と、正論を思いつつ、ネクストバッターの和花(のどか)にサインを送ってから、(ひじり)と一緒にブルペンへ向かった。

 

『ツーアウトながらも三塁一塁。そして迎えるバッターは、先ほどレフト前へヒットを放っている夢城(ゆめしろ)姉妹の妹、夢城(ゆめしろ)和花(のどか)! そのクールな瞳は、既に獲物を見据えているでしょう! 注目の対戦ですッ!』

 

「よろしくお願い致します」

 

 丁寧に頭を下げて左打席に入った和花(のどか)を、鳴海(なるみ)はじっくりと観察する。

 

「(この回は、初回二回と違うセオリー通りの戦術。今度こそ、揺さぶりは止めたのかな? けど、ツーアウトで三塁一塁だし。何かと仕掛けやすいアウトカウントなのは間違いない。とにかく、先手先手で行くよ。カウントが有利になれば、相手の策を絞り込める)」

 

 サインに頷いた片倉(かたくら)

 初球は、アウトコースのストレートから入った。

 

『見逃して、ストライク!』

 

 続く二球目は、初回にヒットを打たれた横カーブとは別種の、より縦に変化するインコースのカーブ。やや甘く入ったが、大きな落差が功を奏し、空振りを奪った。

 

「(ツーナッシング。仕掛けてくるなら、ここだ。一球、様子を見よう)」

 

 サインを出し、アウトコースのボールゾーンにミットを構えた。

 

「(――外角。際どい、ここはカットですね)」

 

 バットの先端で軽く合わせ、三塁側へのファウル。四球目、一球前よりやや外寄りのコースのストレートを同じようにカットして、ファウルを打った。

 

「(明らかに、前に飛ばすつもりのないスイング。四球狙い......なら今のは、見逃がすハズ。となると、狙いは内角? 引っ張って三塁一塁を保ったまま、四番へ回すことが狙い。四番に回すのは悪手、このバッターで流れを切ることがベスト!)」

 

 そして、勝負は五球目。

 

「(――内角のカーブ、来ましたね。狙い通りです)」

 

 足をオープンに開いて、持ち手の間隔を広げバットを立てた。

 

「――なっ!?」

 

『なんと! ここで、セーフティスリーバントだーッ!』

 

「(新島(にいじま)先輩のおっしゃっていた通り、内角へ切れ込んでくるこの横のカーブは、セーフティバントを狙いやすい)」

 

 空振りしたカーブよりも横へ変化するカーブを、狙い通り一塁線へ転がした。一塁ランナーが居たため、ファースト甲斐(かい)のスタートが遅れた。マウンドを降りた片倉(かたくら)が、いち早く打球処理へ走る。

 

「ウォッチ! 間に合わない!」

 

 鳴海(なるみ)の指示で、ライン横を転がる打球を見送るが、しかし――。

 

『一塁線のライン上にピタリと止まりました! 先制点は、聖タチバナ学園学園! 夢城(ゆめしろ)和花(のどか)の見事なセーフティバントで、先制点をもぎ取りましたーッ!』

 

 本来得意とする奇襲攻撃で先制点を奪われ、なお、ランナー二塁一塁とピンチを背負ったまま追う展開。

 

「よし!」

 

 狙い通り作戦が決まったことに、ブルペンの優花(ゆうか)は噛みしめるように左手を軽く握った。

 

「先制点を取ったぞ!」

「ええ、これで少しだけ立ち回りに余裕が出来るわ。さあ、本格的に肩を作るわよ」

「私は次ぎ、ネクストバッターなのだが?」

「追加点は無理よ。仕込んだ策はここまで、良くて外野フライといったところね」

 

『ライトフライ、上手く掬い上げましたが、ここは一歩打球に伸びが足りませんでした。しかし、ツーアウトから夢城(ゆめしろ)和花(のどか)の絶妙なセーフティバントで貴重な先制点を奪いました。試合は、三回の攻防へと移ります。さて、どのような試合になるのか、わたくしのボルテージも上がって参りましたーッ!』

 

 ベンチへ戻ってきた鳴海(なるみ)は、さっそく反省の弁を述べる。

 

「すみません、セーフティも警戒しておくべきでした......」

「済んじまったモノは、悔やんだところで戻らねーよ。さて、あの投手の攻略法だが――」

 

 東亜(トーア)は、投球練習を行っている優花(ゆうか)に目を向け、真剣な表情で聞いているナインたちに攻略法を伝えた。

 

 ――ストライクからボールになるスクリューを思い切り振り抜け。

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