7Game   作:ナナシの新人

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New game19 ~大局観~

『ファウル! 香月(こうづき)、追い込まれてから外のスクリューボールを二球粘り、次が五球目』

 

 新しいボールを貰った優花(ゆうか)は、勝負を急がずにプレートを外し、いったんクールダウン。

 

「(スクリューを積極的に振ってくる。それも、合わせるようなバッティングじゃない。おそらく、しっかり狙っていけと指示が出てるわね。だけど、この程度は想定の範囲内よ)」

 

 ロジンバッグに軽く触れて間を取り、セットポジションに戻る。

 

「(トップバッターは対応してきたけど、あなたは、どうかしらっ?)」

「(さっきよりも外。このコースからなら、ボールになる......あっ!)」

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

『球審の右腕が上がりました、見逃し三振! 最後は、アウトコースのチェンジアップ! 香月(こうづき)も粘りを見せましたが、最後は手が出ませんでしたー。ワンナウト!』

 

 一球前よりも外と判断したところへ、スクリューとほぼ同じ球速のチェンジアップ。裏をかかれ狙い通り、見逃し三振に打ち取られてしまった香月(こうづき)が、若干肩を落としてベンチへ戻る。

 

「スクリューに狙いを定めた途端、似た球種のチェンジアップを織り交ぜてきたわ」

「当たり前だ、優花(アイツ)は、戦略家。内寄りに立って、強振してるんだ、狙い球はすぐにバレる」

「なら、スクリュー狙いは逆効果?」

「言っただろ。打たされずに、打てばいい」

「スクリューはカットして、別の球種を引き出す作戦よね。だけど、チェンジアップを織り交ぜたコンビネーションは、見極めは難しいんじゃ――」

「ハァ、そんな単純な意味合いではない。そもそも、狙い球を引き出すなんてことは、勝負に勝つためには当然の策。甲子園に出るようなチームは、どこもやっている。事実今までも、そうして戦って来ただろ」

 

 太刀川(たちかわ)阿畑(あばた)猪狩(いかり)山口(やまぐち)など、幾多の好投手たちと戦い勝利を収めてきた。

 しかし、今回は、事情が異なる。

 

「初戦に帝王実業が、瑠菜(るな)に対して行った策は使えない。負けが許されるペナントレースなら話しは別だが、次戦は、中ゼロ日で連戦。フォーム修正は、間に合わない。下手に意識して追えば、致命傷になる。だから、自分の形で振らせる必要がある。その上で、攻略しなければならない相手だ」

 

 加えて既に八強を決めたチームは、アンドロメダ学園の大西(おおにし)を筆頭に、150キロを越す投手がエースナンバーを背負っている。この試合に勝利したとしても、最大50キロ近い緩急に対応しなければならない。

 

「だからこそ狙って打ち砕く、生命線であるスクリューを。そのための強振、強打。緩いボールほど、しっかり捉えなければ飛距離は伸ばせない。当てに行くようなバッティングは、失投が、失投でなくなる。二番手以降も、類似するタイプの投手が続くんだ。決め球を打ち、ダメージを与える。()()()にな――」

 

 東亜(トーア)が視線を向けた先に居るのは、三人の変則投手をリードする捕手、六道(ろくどう)(ひじり)だった。

 

 

           * * *

 

 

 打順は、トップバッターの真田(さなだ)に戻り、ここから二巡目。バッターボックスに入った真田(さなだ)は、軽く足場を慣らし、バットを構えた。

 

「(あとアウトふたつ。だけど、ここからが本当の鬼門。タイミングを外し、泳ぎながらもライト前へ運んだ一打席目のバッティング。あれは、並の打者が出来ることじゃない。少なくとも、ウチの野球部に出来る選手は居ないわ)」

 

 優花(ゆうか)も、クリーンアップを打つ妹の和花(のどか)も、成し得ないバッティング技術。

 

「(並の打者なら空振り......少なくとも引っかけるか、ポップフライになるような体勢からでも、外野へ運べるバットコントロール。インパクトの瞬間も両手だった、マグレ当たりじゃないわ)」

 

 金属バットを使用している点を考慮に入れても、体勢を崩されながらも、しっかりと懐のミートポイントまで呼び込んで捌ける技術。

 甲子園へ出発前に行われた、東亜(トーア)との真剣勝負。

 東亜(トーア)が操る、経験にない変幻自在の投球に対応するため自然と身に付いた産物。

 

「(いっそのこと勝負を避ける手も......なんて、ナンセンスにも程があるわ。もちろん理想は、リードを保ったままバトンを後続へ繋ぐこと。でもそれ以上に、経験が重要。だから二巡目(ここから)は、(ひじり)、あなたが組立(リード)なさい。この一巡の間に肌で感じ取った、あなた自身の感性で)」

 

 力強い目をして頷いた(ひじり)は、優花(ゆうか)から真田(さなだ)へ視線を移す。

 

「(このバッターは、どんなボールにも器用に対応してくるバッターだ。何より、足がある。塁に出すと厄介この上ないぞ)」

 

 バットコントロールもさることながら、驚異的な足を封じたい(ひじり)が選択した初球は、インコースのスクリューボール。真田(さなだ)は指示通り振り抜くも、一塁線を切れていってファウル。

 

「(よし、狙い通りカウントを稼げた。次は、これだ)」

 

 二球目は、インコースのボールゾーンから巻いて入ってくるスライダー。見逃して、ストライク。球種は異なるが、ほぼ同じコースで追い込んだ。更に、インコースを続ける。高めのストレートをカット、三塁側へのファウルに逃げた。

 

「(むぅ、今のを外野へ打ち上げて貰いたかったんだが、仕方ない。これを三遊間へ打たせるぞ)」

 

 ブロックサインを内野陣へ送り、腰を下ろす。

 

「(組立が少し変わった? それに何だか、テンポがいいな。ああ、そうか。初回と違って、ピッチャーが首を振らないんだ)」

 

 出されたサインに頷いた優花(ゆうか)は、間髪入れずに投球モーションに入る。四球目は、外角のボール。

 

「(外――からのスクリューか!? チィッ!)」

 

 寸分の狂いもなく、外角低めいっぱいをかすめる様にストライクゾーンへ入ってくるスクリューボール。真田(さなだ)は初回と同様に、上手く合わせて振り抜いた。強い当たりが、予め締めていた三遊間を襲う。

 

『痛烈な当たり! サード夢城(ゆめしろ)和花(のどか)、ダーイブ! が、僅かに届かない! しかし、ショートが追いついた! 深い位置から大遠投......あっと、送球が逸れた! ファースト、取れません! 六道(ろくどう)、素早くバックアップ、セカンドへの進塁は阻止しました。しかし、恋恋高校のリードオフマン真田(さなだ)、二打席連続ヒットで出塁しますッ!』

 

 防具を外し、ひと息付く。

 

「ナイスバッチです」

「全然ダメだ。今のは、打たされた。飛んだコースが良かっただけだな。あと、伝えてくれ」

 

 コーチャーの六条(ろくじょう)から、防具を回収に来た藤村(ふじむら)に伝言を託し。ベンチへ報告された。

 

真田(さなだ)先輩からです。主導権が、キャッチャーに移ったかも知れないそうです」

「やっぱり、配球が一巡目と違うわね」

「大した問題じゃない。どっちが主導権を握っていようとも、スクリューは必ず投げてくる。そいつを、確実に狙っていくまでだ」

葛城(かつらぎ)くんへのサインは? 正攻法で行くのなら、送りバント一択だけど......」

「送らせればいいだろ。ただし、スクリュー以外の球種をな」

 

 その指示がはるかを通して、葛城(かつらぎ)真田(さなだ)に伝わる。スクリューの攻略優先のため、バントの構えはせずに右打席に入った。

 

「(この回は、送ってこないのか? 相手は今、一点ビハインド、強攻策も考えられる。セオリー通り、エンドランと右打ちを警戒するぞ。優花(ゆうか)先輩は、この回で降板予定だ。こちらも出し惜しみは無しで行く。優花(ゆうか)先輩も、頼むぞ)」

「(ええ、分かっているわよ)」

 

 視線だけではなく、実際の牽制球を交え、葛城(かつらぎ)への初球を投じる。インコース低めへ食い込んでくるクロスファイアー、ストレートがコースいっぱいに決まった。

 

『ここも、ストライク先行のピッチング! 葛城(かつらぎ)への二球目、今度もインコースへ真っ直ぐがズバッと来ました! しかし、ここはやや外れて、カウント1-1』

 

「(二球とも、転がせなくはないけど難しいコースだった。七瀬(ななせ)サインは、変わらず継続か。カウント的にも来そうだよな。インサイドなのか、アウトコースなのか)」

 

 平行カウント、ストライクを取るには持って来いの場面。

 そして、そのボールで来た。アウトコースへ逃げていく、スクリューボール。

 

「(アウトサイド、追いかけないで、振り抜く......!)」

 

『あっと、打ち上げてしまいました! これは、ミスショット、一塁側ファウルフライ! ファースト、セカンド、ライトが追いかけます』

 

「オーライ!」

 

 いち早く落下地点に入ってグラブを掲げたファーストだったが、高く上がったフライは浜風に大きく流され、目測を誤り、捕球し損ねてしまった。

 

「すまん......」

「ドンマイだぞ」

 

 励ましの声をかけ、各々ポジションに戻る。

 

「(アウトは取れなかったのは痛いが、追い込めた。ここからは、ゾーンを広く使って行くぞ)」

「(ふぅ、助かった。ん? サインが変わった、バント中止か。了解)」

 

 早いカウントで追い込まれてしまったこと、真田(さなだ)の足を計算に入れ、ゲッツーはないと判断してのサイン変更。

 

「(けど、スクリュー狙いなのは変わらない。投げてくるか? いや、投げさせてやる。何球粘ってでも......!)」

 

 その思い通り、猪狩(いかり)のフォークを序盤で引き出した持ち前の粘り強さを発揮し、フルカウントまで漕ぎ着けた。

 

「さて、またしても状況が変わった。どうする?」

「エンドランよ。相手も仕掛けやすいと思っているだろうけど、彼女たちの肩では三振ゲッツーは狙えない。打たせに来るわ。右へ打たせないようにインコースで、と断言したいところだけど。あえて右方向へゴロを打たせて、併殺狙いもあり得るわね。恋恋(ウチ)が、ジャスミン戦でやったみたいに......」

「それで?」

「それでも、エンドラン。負けてるのに消極的な攻撃は、相手を助けるだけ。何より今、点には繋がっていないけど、マズいプレーが続いているわ。嫌な流れを断ち切りたいと思っているハズ。その隙に、つけ込む......!」

 

 理香(りか)の返答を聞いた東亜(トーア)は小さく笑みを見せる。

 

「まあ、及第点といったところか。もう一歩踏み込めていれば、満点だったな」

「もう一歩?」

「台所事情を踏まえれば、分かることだ。はるか」

「はいっ」

 

 サインを受け取った二人は「了解」と軽く、ヘルメットに触れる。葛城(かつらぎ)の仕草を見て、ベンチから何かしらのサインが出たことを察知した(ひじり)は、仕掛けて来そうな戦術を、頭の中で思案。

 

「(......理想は、内野ゴロを打たせて併殺だ。一番考えられる作戦は、併殺逃れを念頭に置いたエンドランが濃厚。私たちとしては、併殺を取りたい場面だ。それに何より――)」

 

 顔を上げた(ひじり)は、優花(ゆうか)を見る。

 

「(だがここは、贅沢は言えないぞ。欲張れば、傷口は広がる......!)」

「(そう。あなたは、そう考えたのね。それでいいのよ。戦局を、冷静に客観的に見られる大局観。あなたの判断は、正しいわ)」

 

『さあ、サインが決まりました! 夢城(ゆめしろ)優花(ゆうか)、ランナーに睨みを利かせ、足を上げる! そして、ファーストランナースタートを切った!』

 

 バッテリーが選んだ勝負球は、インコース。

 

「(――インハイ。やっぱり、右打ちを潰しに来た! だけど、内過ぎる。ボール......違う、これは、スクリューだ!)」

 

 ボールゾーンからストライクゾーンの膝下へ曲がりながら落ちる、スクリューボール。右打ちの警戒ではなく、バッターを仕留めにいった一球。

 

「(ランナーの進塁は仕方ない。だが、見逃せば三振だぞ!)」

 

 早々とボールと判断してしまったが、狙えと指示された変化球。葛城(かつらぎ)は、止めかけたバットを窮屈になりながらも振り切った。

 

『打ったー! いい角度でレフトへ上がったぞーッ!』

 

 スタートを切っていた真田(さなだ)は急ブレーキ、一・二塁間のハーフ地点で打球の行方を見守る。

 

近衛(このえ)、回せ!」

 

 ベンチからの東亜(トーア)の声に、この回サードコーチャーに入っている近衛(このえ)が、腕を大きく回す。

 

真田(さなだ)、走れ!」

「マジで!? 抜けんのかよッ!」

 

 改めて再スタートを切る。引っ張った葛城(かつらぎ)の打球は、レフトの頭上を越えて、ワンバウンドでフェンスに当たって跳ね返った。

 

『レフト今、クッションボールを処理、素早く中継へ送球。しかし、返ってきただけ! ファーストランナーの真田(さなだ)は、悠々とホームイン! 打った葛城(かつらぎ)も、二塁へ到達! 恋恋高校、先制点を奪われた後、すぐさま同点に追いつきましたーッ!』

 

「ナイスラン!」

 

 ベンチへ帰ってきた真田(さなだ)を、ハイタッチで出迎える。

 

「今の、スクリューだったわよね? 外野の頭を越すような打球は、見込めなかったんじゃ......」

「あれが膝下を捌く、理想的なバッティングなのさ。打った本人は、どうして飛んだのか解っていないだろうけどな」

 

 バットが先に出て、身体が後から回る。

 一瞬スイングを躊躇ったことが功を奏した一打。

 

「さて、答え合わせだ」

 

 マウンド上で(ひじり)と言葉を交わしていた優花(ゆうか)が、ベンチへ合図を送る。

 そして、場内にアナウンスが流れた。

 

『聖タチバナ学園、選手の交代をお知らせします。夢城(ゆめしろ)優花(ゆうか)さんに代わりまして、ピッチャー――』

 

 名前を呼ばれた、エースナンバーを背負う、(たちばな)みずきが、グラウンドへ姿を現した。




最後のバッティングは、OBの落合さんのインコース打ちを参考にさせていただきました。最近ですと、アルモンテ選手のホームランで少し話題になったバッティングです。
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