『ファウル!
新しいボールを貰った
「(スクリューを積極的に振ってくる。それも、合わせるようなバッティングじゃない。おそらく、しっかり狙っていけと指示が出てるわね。だけど、この程度は想定の範囲内よ)」
ロジンバッグに軽く触れて間を取り、セットポジションに戻る。
「(トップバッターは対応してきたけど、あなたは、どうかしらっ?)」
「(さっきよりも外。このコースからなら、ボールになる......あっ!)」
「ストライク! バッターアウト!」
『球審の右腕が上がりました、見逃し三振! 最後は、アウトコースのチェンジアップ!
一球前よりも外と判断したところへ、スクリューとほぼ同じ球速のチェンジアップ。裏をかかれ狙い通り、見逃し三振に打ち取られてしまった
「スクリューに狙いを定めた途端、似た球種のチェンジアップを織り交ぜてきたわ」
「当たり前だ、
「なら、スクリュー狙いは逆効果?」
「言っただろ。打たされずに、打てばいい」
「スクリューはカットして、別の球種を引き出す作戦よね。だけど、チェンジアップを織り交ぜたコンビネーションは、見極めは難しいんじゃ――」
「ハァ、そんな単純な意味合いではない。そもそも、狙い球を引き出すなんてことは、勝負に勝つためには当然の策。甲子園に出るようなチームは、どこもやっている。事実今までも、そうして戦って来ただろ」
しかし、今回は、事情が異なる。
「初戦に帝王実業が、
加えて既に八強を決めたチームは、アンドロメダ学園の
「だからこそ狙って打ち砕く、生命線であるスクリューを。そのための強振、強打。緩いボールほど、しっかり捉えなければ飛距離は伸ばせない。当てに行くようなバッティングは、失投が、失投でなくなる。二番手以降も、類似するタイプの投手が続くんだ。決め球を打ち、ダメージを与える。
* * *
打順は、トップバッターの
「(あとアウトふたつ。だけど、ここからが本当の鬼門。タイミングを外し、泳ぎながらもライト前へ運んだ一打席目のバッティング。あれは、並の打者が出来ることじゃない。少なくとも、ウチの野球部に出来る選手は居ないわ)」
「(並の打者なら空振り......少なくとも引っかけるか、ポップフライになるような体勢からでも、外野へ運べるバットコントロール。インパクトの瞬間も両手だった、マグレ当たりじゃないわ)」
金属バットを使用している点を考慮に入れても、体勢を崩されながらも、しっかりと懐のミートポイントまで呼び込んで捌ける技術。
甲子園へ出発前に行われた、
「(いっそのこと勝負を避ける手も......なんて、ナンセンスにも程があるわ。もちろん理想は、リードを保ったままバトンを後続へ繋ぐこと。でもそれ以上に、経験が重要。だから
力強い目をして頷いた
「(このバッターは、どんなボールにも器用に対応してくるバッターだ。何より、足がある。塁に出すと厄介この上ないぞ)」
バットコントロールもさることながら、驚異的な足を封じたい
「(よし、狙い通りカウントを稼げた。次は、これだ)」
二球目は、インコースのボールゾーンから巻いて入ってくるスライダー。見逃して、ストライク。球種は異なるが、ほぼ同じコースで追い込んだ。更に、インコースを続ける。高めのストレートをカット、三塁側へのファウルに逃げた。
「(むぅ、今のを外野へ打ち上げて貰いたかったんだが、仕方ない。これを三遊間へ打たせるぞ)」
ブロックサインを内野陣へ送り、腰を下ろす。
「(組立が少し変わった? それに何だか、テンポがいいな。ああ、そうか。初回と違って、ピッチャーが首を振らないんだ)」
出されたサインに頷いた
「(外――からのスクリューか!? チィッ!)」
寸分の狂いもなく、外角低めいっぱいをかすめる様にストライクゾーンへ入ってくるスクリューボール。
『痛烈な当たり! サード
防具を外し、ひと息付く。
「ナイスバッチです」
「全然ダメだ。今のは、打たされた。飛んだコースが良かっただけだな。あと、伝えてくれ」
コーチャーの
「
「やっぱり、配球が一巡目と違うわね」
「大した問題じゃない。どっちが主導権を握っていようとも、スクリューは必ず投げてくる。そいつを、確実に狙っていくまでだ」
「
「送らせればいいだろ。ただし、スクリュー以外の球種をな」
その指示がはるかを通して、
「(この回は、送ってこないのか? 相手は今、一点ビハインド、強攻策も考えられる。セオリー通り、エンドランと右打ちを警戒するぞ。
「(ええ、分かっているわよ)」
視線だけではなく、実際の牽制球を交え、
『ここも、ストライク先行のピッチング!
「(二球とも、転がせなくはないけど難しいコースだった。
平行カウント、ストライクを取るには持って来いの場面。
そして、そのボールで来た。アウトコースへ逃げていく、スクリューボール。
「(アウトサイド、追いかけないで、振り抜く......!)」
『あっと、打ち上げてしまいました! これは、ミスショット、一塁側ファウルフライ! ファースト、セカンド、ライトが追いかけます』
「オーライ!」
いち早く落下地点に入ってグラブを掲げたファーストだったが、高く上がったフライは浜風に大きく流され、目測を誤り、捕球し損ねてしまった。
「すまん......」
「ドンマイだぞ」
励ましの声をかけ、各々ポジションに戻る。
「(アウトは取れなかったのは痛いが、追い込めた。ここからは、ゾーンを広く使って行くぞ)」
「(ふぅ、助かった。ん? サインが変わった、バント中止か。了解)」
早いカウントで追い込まれてしまったこと、
「(けど、スクリュー狙いなのは変わらない。投げてくるか? いや、投げさせてやる。何球粘ってでも......!)」
その思い通り、
「さて、またしても状況が変わった。どうする?」
「エンドランよ。相手も仕掛けやすいと思っているだろうけど、彼女たちの肩では三振ゲッツーは狙えない。打たせに来るわ。右へ打たせないようにインコースで、と断言したいところだけど。あえて右方向へゴロを打たせて、併殺狙いもあり得るわね。
「それで?」
「それでも、エンドラン。負けてるのに消極的な攻撃は、相手を助けるだけ。何より今、点には繋がっていないけど、マズいプレーが続いているわ。嫌な流れを断ち切りたいと思っているハズ。その隙に、つけ込む......!」
「まあ、及第点といったところか。もう一歩踏み込めていれば、満点だったな」
「もう一歩?」
「台所事情を踏まえれば、分かることだ。はるか」
「はいっ」
サインを受け取った二人は「了解」と軽く、ヘルメットに触れる。
「(......理想は、内野ゴロを打たせて併殺だ。一番考えられる作戦は、併殺逃れを念頭に置いたエンドランが濃厚。私たちとしては、併殺を取りたい場面だ。それに何より――)」
顔を上げた
「(だがここは、贅沢は言えないぞ。欲張れば、傷口は広がる......!)」
「(そう。あなたは、そう考えたのね。それでいいのよ。戦局を、冷静に客観的に見られる大局観。あなたの判断は、正しいわ)」
『さあ、サインが決まりました!
バッテリーが選んだ勝負球は、インコース。
「(――インハイ。やっぱり、右打ちを潰しに来た! だけど、内過ぎる。ボール......違う、これは、スクリューだ!)」
ボールゾーンからストライクゾーンの膝下へ曲がりながら落ちる、スクリューボール。右打ちの警戒ではなく、バッターを仕留めにいった一球。
「(ランナーの進塁は仕方ない。だが、見逃せば三振だぞ!)」
早々とボールと判断してしまったが、狙えと指示された変化球。
『打ったー! いい角度でレフトへ上がったぞーッ!』
スタートを切っていた
「
ベンチからの
「
「マジで!? 抜けんのかよッ!」
改めて再スタートを切る。引っ張った
『レフト今、クッションボールを処理、素早く中継へ送球。しかし、返ってきただけ! ファーストランナーの
「ナイスラン!」
ベンチへ帰ってきた
「今の、スクリューだったわよね? 外野の頭を越すような打球は、見込めなかったんじゃ......」
「あれが膝下を捌く、理想的なバッティングなのさ。打った本人は、どうして飛んだのか解っていないだろうけどな」
バットが先に出て、身体が後から回る。
一瞬スイングを躊躇ったことが功を奏した一打。
「さて、答え合わせだ」
マウンド上で
そして、場内にアナウンスが流れた。
『聖タチバナ学園、選手の交代をお知らせします。
名前を呼ばれた、エースナンバーを背負う、
最後のバッティングは、OBの落合さんのインコース打ちを参考にさせていただきました。最近ですと、アルモンテ選手のホームランで少し話題になったバッティングです。