7Game   作:ナナシの新人

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Final game10 ~綻び~

 三回表、壬生の先頭バッター原田(はらだ)を内野ゴロに打ち取りワンナウト。二番、永倉(ながくら)を打席に迎える。恋恋バッテリーは、前の打者と同様配球の中にカーブを多く織り交ぜ、早いカウントで追い込むも勝負を決めきれずにいた。

 

「(くそ、粘るなぁ。しかも、振り切った上で付いてくるからコースを間違えると持っていかれる。どうする......?)」

 

 ボールの交換を要求した鳴海(なるみ)は、間を取っている間に打開策を模索する。

 

「たったの一巡で、対抗策を講じられたか。噂に違わぬ洞察力、そして、選手たちの実行力だな」

「はい。目先を変えられる緩い変化球は、主に速球を長打に狙うウチにとって厄介です。ですが、永倉(ながくら)は上手く対応しています」

「対応出来ない程の球速でないことが救い......いや、それがよりウチを苦しめる。皮肉な話しだ」

 

 150キロ中盤の豪速球を投げる、アンドロメダの大西(おおにし)。しかし、コントロールに難があり甘く入ることも少なくない。その失投を一撃で仕留める豪快な打撃スタイルは、制球力抜群の変則軟投派の瑠菜(るな)やあおいと相性が悪い。

 

「出来れば避けたいところだが、今後の展開いかんによっては、以前のスタイルに戻すことも視野に入れなければならん。どうだ?」

「今のところは、何とも答えがたいです。ひとつ言えることは、今の沖田(おきた)は、簡単に崩れることはありません」

「あとどれほどの点差をつけることが出来るか、か。少々早すぎたのかも知れないな」

 

 守備と打席の両方に備えている土方(ひじかた)は、どこか憂いを帯びた表情(かお)を見せる監督の心の内を酌み取った。なぜなら彼も、まったく同じことを想っていたから。

 

「(苦戦する相手であることは、組み合わせが決まった時から覚悟していた。理想は試合序盤、最悪試合中盤までに勝負を決しておかなければ、試合の行方は分からなくなる。先行逃げ切りがベストであることは間違いないんだ)」

 

 勝負の行く末を見つめる土方(ひじかた)の眼光は、より鋭くなった。そして、試合は再開された。試合再開直後、平行カウントから一球は、外角への誘い球のストレート。永倉(ながくら)は、振りに行きかけたところを必死に堪えてバットを止める。鳴海(なるみ)はすかさず、スイングをアピールするも三塁塁審判定は、ノースイング。フルカウント。

 

「(......結局、フルカウントまで持っていかれた。でも、あからさまなボール球以外は、手を出さざるを得ない。ストレートを見せた、ここは、ストライクからボールになるカーブが無難。だけど、このバッターには初回に、インローのカーブをレフトの深いところまで運ばれてる......)」

 

 顔を上げ、バッターに目を向けて思考を巡らせる。

 その様子をベンチから見守る理香(りか)も、難しい表情(かお)をして見守っていた。

 

「相当、悩んでいるわね」

「初回に、デカいのを飛ばされているからな。だが、先頭バッターを抑えた配球を軸に攻めれば、おのずと答えに辿り着く」

「先頭バッターへの配球......確か、カーブとストレートでカウントを稼いで、アウトコースのボール球を上手く打たせたわね」

 

 ストレートとカーブの緩急を上手く使い、最後は、低めのボール球を引っかけさせた。それらを踏まえた上で東亜(トーア)は、ブルペンでの肩慣らしから戻ってきたあおいたちに問いかける。

 

「長打を狙う相手に、お前たちはどう対処する?」

「ファウルでカウントを稼ぎたいですね。早めに追い込めれば、決め球がある先輩たちは有利です」

「じゃあ、決め球を最後に持っていくとして。どこで打たせてカウントを稼ぐ?」

「うーん、インコースかな? 鳴海(なるみ)くんは、よくインハイのストレートを要求して来るし、そこは、ファウルになることが多い気がします」

 

 インコース、特に高めは肩の開きが早くなりやすく、捉えてもファウルになる確率が高い。しかし、少しでも甘く入ると長打になるリスクを伴うが、あおいと瑠菜(るな)は、高い制球力があるため狙ってカウントを稼ぐには持って来いコース。

 

「狙い通りカウントを稼ぎ、バッテリー有利の状況で追い込んだとしよう。では、決め球をどこへ投げる?」

 

 あおいと新海(しんかい)の答えは、同じだった。

 

「ストライクからボールになる、マリンボール!」

「低めです」

 

 二人の答えに、東亜(トーア)は笑みを見せた。

 もし仮に仕留め切れなかったとしても、やり直せばいい。

 

「同じ球種を続ける、高めのボール球で誘う、インコースで腰を引かせる、緩いボールを見せて視線を変える、外角へ外し作り直すのもよし。極端な話し、相手の頭にないド真ん中へ放って虚を突くことも可能」

「上下左右前後の揺さぶり、両サイドの出し入れ......文字通り、何でも出来るわね」

「逃げずに追い込んでしまえばな。いくら思い切って振ってくるといっても、追い込まれている以上、必ず迷いは生じる。それが出来ず、御陵も、今までの相手も沈んだ」

 

 御陵の三番手は、緩急を使って攻める投手。三失点は、いずれも下位打線に取られた失点。壬生は、上位と下位で打者のスタイルが違う。前二人が滅多打ちにされたことで弱気のピッチングになり、四球でランナーを溜めてしまったあげく、ストライクを欲しがったところを下位打線に捕まった。

 クローザーは、逆に速球派。大差が付いていたことで開き直って自分のピッチングに専念出来た。力にある高めの真っ直ぐで押していたが、不慣れな回跨ぎの影響で疲れが出始め、若干甘く入ったところを痛打されての失点。

 

「この試合は、失点ありきで投げさせた。相手のスタイルと本来の力量を正確に測るために。瑠菜(るな)も、覚悟した上で逃げずに投げた。そして、浮かび上がったのが、上位打線と下位・控えのスタイルの違いと実力の差。もし、臆病風に吹かれ、強力打線に畏縮し、四球連発で逃げるようなことになっていれば得られなかった情報だ」

「一昨夜の言葉通り、大役を成し遂げたのね」

「いや、もうひとつ、大仕事が残っている。異分子の存在。ネクストバッターの三番、ヤツだけは、どちらにも当てはまらない。ホームランバッターであり、アベレージヒッターでもある。それが、迷彩......壬生というチームを覆い隠す、絶妙なカムフラージュ。ここは、ランナー無しで迎えたいところだが――」

 

『さあ、フルカウント! 十六夜(いざよい)瑠菜(るな)、サインに頷きました!』

 

 フルカウントからの勝負球は、一打席目と同じ、インコース低めのカーブ。完全に裏をかかれた。頭に無かった同じコースへの同じ変化球に思わず、バットが回る。中途半端なスイングで当てた打球は、ショート奥居(おくい)への平凡なフライ。

 

「オーライ!」

 

奥居(おくい)、手を上げた! ここは、バッテリーの粘り勝ち! 初回、大きな当たりを打たれた変化球で仕留めましたーッ! ツーアウト!』

 

「(よし。これで――)」

「(ランナー無しで、三番と勝負に専念できるわ......!)」

 

 無言で頷き合った二人は、バッターボックスへ向かって悠然と歩いてくる、沖田(おきた)を見据える。軽く会釈をして構えた姿に、鳴海(なるみ)は目を見張った。

 

「(な、何だ? 初回とは、まるで雰囲気が違うぞ......)」

「(あの時と――練習試合で見た時と同じ......いえ、あの頃以上の雰囲気を纏っている。どこへ投げても打たれる、そんな気持ちになりそう......)」

 

 バッテリーと同じ感覚を、恋恋高校ベンチも感じ取っていた。

 

「これが、威圧感っていうのかしら......?」

「ストライクゾーンにミット構えられないかもです......」

「ボク、頷く自信ないかも......」

「呑まれるな。確かに、独特な雰囲気を醸し出しているが、それだけだ。別に、高見(たかみ)天海(あまみ)が、金属バットを持って立っている訳ではない。そう考えれば、多少は気も晴れるだろ?」

「それはまあ、トップレベルのプロ選手と比べるのは酷だと思うけど......」

「呑まれた時点で、戦う前に勝敗は決まってしまう。しかし、負けるにしても意味のある負け方をすればいい。合わせ打たれた初回の打席と、今回の打席。どれだけ別のモノを拾えるかの勝負。あおい、見逃すなよ。最低あと二回、必ず対峙しなければならない相手だからな」

「は、はいっ!」

 

 大きく頷いたあおいは、グラウンドへ真剣な眼差しを向けた。東亜(トーア)もグラウンドへ視線を送りつつ、理香(りか)に声をかける。

 

「なに?」

「少々気になることがある。アイツを見ておいてくれ」

 

 さり気なく、対象人物に指を差して依頼。

 

「ええ、分かったわ」

 

 頷いた理香(りか)は、依頼された人物を注意深く見張る。

 グラウンドでは沖田(おきた)が構え、バッテリーのサイン交換が終わったところ。

 

『初回、バッターボックスの沖田(おきた)に、先制のタイムリーを打たれた恋恋バッテリー、どう入るか? 注目の初球ですッ!』

 

 瑠菜(るな)の足が上がる。初球は、外角低めのカーブ。初回とほぼ同じ入り方で、見逃しのストライクを奪う。「ナイスボール!」と声をかけて、ボールを瑠菜(るな)へ返した鳴海(なるみ)は腰を降ろして、沖田(おきた)に目を向ける。

 

「(......目だけで見送った。もし、初回と同じで消極的に来るのなら、早めに追い込んで勝負と行きたいところだけど――)」

 

 二打席目は、追い込まれる前に振ってくるデータがあるため迂闊には行けない。目を閉じて、打ち取る方法を考える。

 

「(今の見送り方、ストレート待ちなのか? ならここは、カーブを続ける......としても、今より甘く入れば狙われる。そもそも、カーブを続けて追い込んだら次は、速球系って宣告してるようなものだし。多少のボール球だろうと、長打に出来るバッター。仮にバットが届かない場所へ外しても、いたずらにカウントを悪くするだけで、その先は手詰まり。どうすれば......)」

 

 ――最悪は、逃げて打たれること。

 

 悩み抜いた末に答えを出した鳴海(なるみ)は、再び沖田(おきた)を見る。そして、サインを出した。出されたサインに、瑠菜(るな)は目を大きく開く。

 

「(......本気?)」

「(うん。たぶん、いや、絶対に打ちにくる。もし、ここで手を出さないようなバッターなら、打ち取れるチャンスがある。だから、今日一番のボールを投げ込んで来て......!)」

「(分かった、信じるわっ)」

 

 サインに頷いた瑠菜(るな)は、大きく息を吐いて、投球モーションに入る。

 

十六夜(いざよい)沖田(おきた)への第二球を......投げた! 内角高めのストレート!』

 

 初回、タイムリーを打ったコースと同じストレート。

 沖田(おきた)は、迷わずに振りに行った。打球は、バックネット直撃真後ろへのファウルボール。

 

『ファウルです! しかし、タイミングはバッチリ合っていましたが、ややバットが下に入ったか? バッテリー、ツーナッシングと理想的な形で追い込みました!』

 

「(へぇ......もう一段上のキレあるストレートがあったんだ。まあ、今のを基準(ベース)に変えればいいだけだけど)」

 

 打席を外した沖田(おきた)は、トントンっと軽く肩でバットを弾ませてから打席へ戻り、ゆっくりと構え直す。

 

「(二球で追い込まれたのに、余裕のある表情(かお)を崩さない。だけど、こっちも計算通り追い込めた。一気に決めに行こう!)」

「(ええ!)」

 

 力強く頷いた瑠菜(るな)の姿を見た東亜(トーア)は、どこか満足げな表情(かお)を見せた。

 

十六夜(いざよい)沖田(おきた)へ対する三球目は――外角のボール!』

 

 外角よりのストライクゾーンのストレート。バッテリーは、遊び球を使わずに三球勝負に行った。

 

「(この軌道は、カーブじゃない。ストレート? だけど、さっきよりもずいぶん遅い。失投?)」

 

 緩急に惑わされず、しっかり見極め狙い澄まして振りに行った。

 

「(ここから......落ちる?)」

 

 瑠菜(るな)の投げた勝負球は、ホームベースの手前で急激に落下した。

 

「(三球勝負の鉄則――空振りを奪え。沖田(おきた)には、生半可な緩急は通用しない。だったら、生半可じゃない緩急で勝負するしかない)」

「(これが今、私が操れる一番遅いボールよ!)」

「ふっ......!」

 

 ストライクゾーンからボールゾーンまで落ちる100キロを切る低速低回転ストレートに、若干泳がされながらもしっかりミートして、咄嗟に左手を離して打ち返した。

 

『ボール球を上手く拾った! 打球は、センターへ!』

 

 大きな打球は、全速力で背走して追う矢部(やべ)の頭上を越え、ワンバウンドでフェンスに当たって跳ね返った。

 

『ヒットです、センターオーバー! ライト藤堂(とうどう)が、バックアップ! おっと、バッターランナー沖田(おきた)、セカンドを蹴って三塁へ! 中継浪風(なみかぜ)からの返球、タッチは間一髪セーフ! スリーベースヒット! ツーアウトから追加点のチャンスを作りました! そして、四番を迎えますッ!』

 

 すかさずタイムを取った鳴海(なるみ)は、瑠菜(るな)の元へ駆け寄る。

 

「完敗ね。今のを、外野の奥まで飛ばされるなんて」

「ううん、そんなこと無いよ。ホームランには、ならなかったんだから――」

 

 二人が話している間も恋恋ベンチは、上がった息を整えている沖田(おきた)を、信じられないといった感じで見つめている。

 

「完全に崩していたのに。あんな打ち方で、センターオーバーの打球を......」

「逆手にあたる左手を離す直前、しっかりと押し込んでいた。だから一見、崩されたように見えても勢いのある打球が飛んだのさ。それより、どうだったよ? ネクストでの、近藤(アイツ)の様子は」

「えっ? ええ、憮然とした表情(かお)で勝負を見守っていたわ」

「気になったことは?」

「そうね......そう言えば、三球ともタイミングは取っていたけど、実際に振りはしなかったわね」

 

 バッターボックスの横に立つ近藤(こんどう)は、脇を締めて、上から下へと振り下ろす様な素振りを繰り返している。

 

「フム」

「何か気になることがあるって言っていたけど?」

「......三番の走塁。今の三塁打、初回の三盗、なぜ、あれ程のリスクを冒してまで果敢に攻めたのか」

「それは、私も思ったわ。特に、今の三塁打。沖田(おきた)くんは投手なのに、ツーアウトで全力疾走なんて普通しないし。私なら、絶対にさせないわ」

「俺にはそれが、どこか焦りの表れのように感じる。何かあるんだ。焦る理由、攻めなければならない事情が」

「つまり、近藤(こんどう)くんに関係があると見てる?」

「そいつを調べるのさ。上手く行けば、反撃に繋がる一手になり得る」

 

 東亜(トーア)は自ら、マウンドで言葉を交わしている鳴海(なるみ)瑠菜(るな)へサインを送った。

 

「あっ、コーチからサインだ」

「交代......じゃない?」

「続投の合図だ。コーチは、まだ行けるって想ってるんだよ」

 

 交代を覚悟していた瑠菜(るな)の目に、力が戻る。

 

「次を抑えれば、無失点だからね」

「――ええ!」

 

 戻った鳴海(なるみ)は腰を降ろし、今度ははるかを通して、東亜(トーア)からの指示を受け取る。そして、四番近藤(こんどう)がバッターボックスに入った。

 

「(......コーチから配球の注文が来た。帝王戦の蛇島(へびしま)の時以来の明確な指示――)」

 

 東亜(トーア)の指示通りのサインを、瑠菜(るな)へ送る。

 

『ツーアウト三塁、バッターボックスには、四番近藤(こんどう)! 十六夜(いざよい)、初球を投げました! アウトコース低めのストレート! ズバッと決まって、ワンストライク!』

 

 続く二球目も、外角のストレート。これをファウルにして、沖田(おきた)の時と同様に二球で追い込んだ。そして三球目は一転、内角高めのボール球で誘う。

 

『ファウル! ややボール気味のストレートを引っ張り、強い当たりでしたが、三塁線を切れて行きました! カウント変わらず。次が、四球目です』

 

 近藤(こんどう)への四球目――。

 

「あっ!?」

「(マズい!?)」

 

 アウトコースを狙ったストレートが、甘く入ってきた。

 

『ファーストライナー! 恋恋バッテリー、このピンチをゼロに抑えましたーッ! 近藤(こんどう)も、良い当たりを放ちましたが、不運にも野手の正面、追加点はならず。試合は三回裏恋恋高校の攻撃へ移ります!』

 

 失投を仕留め損なった近藤(こんどう)は、憮然とした表情(かお)のまま、防具を預けて、換わりにグラブを受け取ってライトへ走っていく。

 

「クックック、なるほどねぇ。相当悪いな、アレは」

「調子が悪い?」

「いや、故障だな。初回もだったが、内角には強引に手を出した割に、外角は振り切れていない。今のも、甘いコースにも関わらず打球が上がらなかった。おそらく、左腕が利かない」

「左腕......御陵戦で受けた、デッドボールの影響......!」

「当日は何ごともなくても、次の日に痛みが来ることは良くある。僅かに綻びが見えたな。しかし――」

 

 ――こちらも、限界のようだ。

 

 東亜(トーア)の視線の先は、鳴海(なるみ)と一緒にホッとした表情(かお)でベンチへ戻ってくる、瑠菜(るな)の姿を捉えていた。

 

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