ちょっとの罪悪感から書きました。
おっきな魚雷、大好きです。
てーとく、一緒に行こ?
ごちそうさまでち。
も、もう、いっぱいでち……
伊58はとってもおりこうさんである。
これは間違えようのない事実だ。
この鎮守府に着任して、彼女に初めて出会って以来私はずっとそう思っている。
無邪気なあの目で見つめられると自分の汚い心がじりじり痛むくらいにはおりこうさんだ。
「てーとく、ゴーヤの顔に何かついてる?」
「ん? い、いや、何もないぞ、ほら早く入渠してこい」
ゴーヤに言われてぼーっと見蕩れていることに気付いて僕はあわてて目をそらした。
いかんいかん、今は執務中で、帰還して来た艦隊の報告を受けている最中だった。
首をかしげて私をのぞき込んでくるゴーヤは旗艦を任されている。
潜水艦なのに旗艦? と思うだろう? だけどうちの鎮守府ではこれが常識だ。
なんてったってゴーヤはおりこうさんでとっても優秀なんだから。
ショートの髪から出ている謎の形のアホ毛だとか、もちろん無邪気な目は大きい、ちょっといかがわしいお店のようなセーラー服上とスクール水着の謎の組み合わせ(提督指定の水着と言っていたがもちろん指定していない、指定できるのならもっと、こう……何でもない) すらりとした足、海の中にずっと潜っているせいか白い肌、たまに赤ちゃんのように語尾にでちとつける所、あげだしたならキリがない、魅力。
僕が彼女を見る度にこの胸に抱く感情の正体はおそらくは恋、だろう。
だけど言えない、所詮は上司と部下の関係、言ったらおそらく彼女は僕を避けるだろう。
だからこの気持ちは胸の奥に秘めておく。
「て、てーとく! その……ちょっとこの後時間ある?」
「あ、ああ……ああっ!?」
えっちょっと、秘めておこうと思った矢先にゴーヤがそんなことを言い出す。しかも少しもじもじと太ももをこすり合わせ、顔も少し赤くして。
おいおいおいおい、そんな顔をするな、勘違いしてしまうじゃあないか。だがそんな所も可愛い。
へいじょーしん、平常心、落ち着け僕、勘違いするな。
「大、丈夫だ、仕事は片付けたから」
「そう、そうならちょっとお願いがあるでち」
「お願いか、いいぞ、ゴーヤはいつも頑張っているからな、僕が出来る事なら何でも聞こう」
ゴーヤの口から、お願い、という言葉が出るとついつい卑猥な空想が脳をよぎる。
いけない、普段から彼女はちょっとこちらが勘違いしてしまう言葉を言う事がある。だがもちろんそんな意味では言っていない、わかっている、だけど僕の心の汚い部分が勘違いを発生させてしまう。
だからそのお詫びというか、罪悪感というか、彼女が頑張っているという事もあるが、そういう気持ちもあって彼女が何か望む事があれば、何でもかなえてあげたいと思っている。
「何でも、聞いてくれるんだよね?」
「ああ、聞いてやろう」
ゴーヤが念を押してきたので首を縦に振る。
念を押すときに前のめりになって破れた水着から胸がのぞいて視線がつられそうになる、というかつられた、数瞬見てしまい、慌ててそらす。
ゴーヤを見ると気づいてなかったようだ、よかった。
何かを悩むように下を向いて、そして少しの間、小さく息を吸う音が聞こえた。
よかったとか思っている場合じゃなかった、何か重大な事のようだ。
なんだ? もじもじしながら言うお願いって……わからない。
意を決したようにゴーヤが顔を上げて僕の目を見てくる。
真剣な眼差しに見つめられ、心臓が跳ねた。
「一緒に入渠してほしいでち!」
………は?
どうしてこうなった、はここで使うべきセリフだろうな、と湯につかりながら僕はそう思った。
艦娘の入渠ドックはお風呂のような形をしていて、中に張られた特殊な湯と浴槽の力によって艦娘に限り、傷を癒してくれるらしい。らしいというのは実際にその瞬間に立ち会った事がなく、妖精さんにそう聞いたからだ。
この鎮守府には普通の大浴場もあり、艦娘達は出撃して傷つかない場合はそちらを使うようになっていて、入渠ドックを使う事は無い。
そして、重大なのは、ゴーヤと僕、今この入渠ドックにいるのはこの二人だけという事だ。
僕の隣にゴーヤがいて、肩まで湯につかり、傷を治している。
上気して少し赤くなった肌や、聞こえてくる吐息の音でいつものゴーヤより何割か増して艶めかしい。
「あ、あんまり見ないでほしいでち、恥ずかしい……」
「お、ああ! す、すまん!! つい見蕩れて……」
やってしまった、駄目と思いつつもついつい見てしまう。
落ち着け、というか何でゴーヤは僕と一緒に入渠したいなんて言い出したんだ? 誰もいなくてさみしいからか? 意外とさみしがり屋なのか?
冷静になるために一旦思考を現実から逃避気味にしていると、肩に突然何かの重みが乗っかった。
一体何……が、あ?
心臓がまた跳ねた、いつの間にか近づいてきたゴーヤが僕の肩に頭を乗せている。
ただでさえ緊張しているのにこんな事されたら思考どころじゃない。
近すぎて肩も触れ合っている、やわらかい感触。
「って! ゴ、ゴ、ゴーヤさん? 何をやっているんでしょうか?」
「こっこれは……その……ふれあいでち!」
「そ、そうか、ふれあいなのか、それなら何も問題ないな」
緊張して変な事を口走ったがよく考えたら問題ありだ。駄目だ、のぼせて思考がまとまらない。
ゴーヤの方を見たらうつむいて湯の水面を見ているのでどんな表情をしているのかわからない。
「そういえばゴーヤ、お前が大破とは運が悪かったな、あの海域で砲撃を食らったのはひさしぶりじゃないか」
「ちょっと考え事してぼーっとしてて、ごめんなさい」
「謝る必要はない、僕だって仕事中にぼーっとする時はあるし、でも気をつけないと、ゴーヤは艦娘なんだから油断は命とりだ、もしゴーヤが沈んだらみんな悲しむぞ」
「てーとくも?」
「当たり前だろ?」
「そっか、えへへへ、嬉しいでち!」
僕は悲しむどころか首をくくるかも、とは言えなかった。ちょっぴり残った冷静さでギリギリ抑えた。
ゴーヤは僕の言葉を聞いて微笑んだ、幸せそうで何よりだ。
その後もゴーヤと楽しいおしゃべりの時間を過ごして、僕はのぼせそうになったので先に上がった。
結局なんでゴーヤが一緒に入渠しようと言ってきたのかわからなかったけど、仕事の疲れはゴーヤのおかげで吹き飛んだのでまあ良しとしよう。
「ふう~、うーん、終わった終わった」
疲れが吹き飛んだからついでに明日の仕事をやったら、思った以上に作業が進んで終わってしまった。
ゴーヤ効果恐るべし、といった所か。
出撃以外でも優秀なゴーヤには今度間宮で何かスイーツでも買ってあげよう。
喜ぶ顔を想像してついついにやけそうになりながら、眠るために提督用の部屋で軍服からパジャマに着替える。
今日はいい夢見れそうだな、と思っているとドアをノックする音。
「ゴーヤです、てーとく、いるでち?」
……え? 嘘だろ!? 今はフタフタマルマル、ゴーヤ寝ます、って言いだす時間、とっくに仕事は終わっているから寝ているはずだと思っていたんだが。
「いいぞ、大丈夫だ」
「失礼します、でち」
動揺しながらも入室を許可すると扉の向こうからは間違いなくゴーヤの姿が現れる。
いつものスクール水着の上にセーラー服ではなく、女の子らしいピンクのパジャマに身を包んだゴーヤは控えめに言っても可愛すぎる。
って見蕩れてる場合じゃねえ!! 何だ今日は! なんて日だ!
思わず叫びそうになるし、今日だけでどれだけ心臓に負担がかかっているだろう。
「あっ! 提督のパジャマ姿初めて見た!」
「そういうゴーヤのパジャマ姿も初めて見たぞ、可愛いしよく似合ってる」
「ええっ! そう! 嬉しいでち……」
照れるゴーヤが頭をかいた。
「って、違う! 今日お風呂で言えなかった事を言いに来たんでち」
「ほう、やっぱり何かあったのか」
なるほど、ゴーヤは何か言いたいことがあったから僕と一緒に入渠した、と。
「でも言いたい事があるなら風呂なんか入らなくてもよかったんじゃないか?」
「それは、イムヤがそうした方が成功率が……何でもないでち!」
イムヤ、伊168、ゴーヤと同じ潜水艦で仲が良い艦娘だが、なんで今その名前が? それと成功率とは?
「それよりもでち、言うでち、言うでちよ!」
「お、おう、いつでも来い!」
何を言うんだろうか、さっぱりだがゴーヤは真剣な目をしていたから僕も真剣に答えなければ、と身構えた。
ゴーヤが口を開く。
「ゴーヤが今日大破しちゃったのは悩み事をしていたからって言ったよね、実は悩み事って提督の事なのでち」
「えっ! ぼっ僕!? なにか不満な所があった!?」
まさかいつも邪な目線を向けてしまってるのがばれたのか?
それで気を病んで被弾した? 笑えない、やばい、そんなの提督失格じゃないか!
風呂に入ったのに冷汗で背中が濡れていく感覚がしはじめた。
「そ、そういうワケじゃないよ! むしろ提督はいつも優しいしよくしてくれるでち、疲れたらすぐに休ませてくれるし、今日だって被弾したからってすぐに入渠させてくれたでち」
「そんなの当たり前だろ?」
艦娘だって生きているんだ、その命を預かる提督の僕がその命を尊重しないわけがない。
特にゴーヤは大事な艦娘だ。鎮守府にとっても、もちろん僕にとっても。
「提督は当たり前でもゴーヤは嬉しいんでち、それで……」
大事な事を言おうとしてるのだろう、顔を赤くして、ゴーヤは深呼吸を一つ。
「ゴーヤはそんな提督の事が好き! 付き合ってほしいでち!」
今、なんて? 僕の事が好き……だと?
今までそんなそぶりは……
そう思い今日のゴーヤの行動を振り返ってみると思い当たる所があった。
ゴーヤの悩み事は今日、僕にこの告白をすることだろう、入渠の件もおそらくイムヤにそうすれば告白の成功率が上がるとそそのかされたという事か。
成程、そういう事だったのか、そういう……嬉しさで心臓が破裂して倒れそうだ。
「ダメ……でち?」
ゴーヤが上目遣いでこちらを見上げてくる、その不安そうな瞳で僕は我に帰った。
両想い、だったのなら隠す必要もない。
「ダメなわけない、僕もゴーヤの事が好きだ!」
「ほ、本当ですか!? 嬉しい……嬉しいでち」
「うおっと!」
喜び抱き着いてくるゴーヤ、あまりに嬉しいのかその目から涙が一筋光る。
僕も方も嬉しくて泣いてしまいそうだったが、かっこつかないからこらえて、空いている右手でゴーヤの頭を撫でてみた。やわらかくさらさらした髪は触り心地がよく、甘い香りがした。
こうして、僕とゴーヤは晴れて結ばれた。
「えへへ、提督、今日最後のお願いがあるでち」
「なんだ? ゴーヤの願いなら何でもかなえてやるぞ」
しばらく僕を抱きしめていたゴーヤが顔を上げて僕の目を見て笑顔で言った。
「今日……一緒に寝よ?」
ありがとうございました。