アルティメット千早な僕が765プロのオーディションに落ちた件 作:やんや
長かったですね……。
今日は月曜日。アイドルのお仕事初日である。
僕は朝から346プロダクションにやって来ていた。
時刻は八時半。今日は初日のため九時に出社するように指示されていたので三十分早い出社になる。交通機関を使わずに通勤するつもりのため電車等の遅延を気にする必要はないけれど、悪天候や工事で遅くなることも考えたらもう少し早く家を出た方がいいかもしれない。せっかくのチート体質なのだから睡眠時間はもっと削っても構わないだろう。
初出勤という記念すべき今日、346プロダクション前まで来た僕は少しだけ緊張していた。
いや、アイドルの仕事自体はどうってことはない。決してリラックスしているわけではないけど、緊張を自覚する程の重圧は感じていなかった。
では、僕が何に気後れしているかと言うと、目の前に広がる346プロの事務所──会社? まあ、事務所とは名ばかりのでかい建物にビビったというのが正解だ。
正面玄関らしき洋風の建物は事務所と言うには洒落ており、モダンとも言えなくない煉瓦造りの見た目は一瞬お城に見えてしまう。その玄関部分の背景には前面のイメージとは異なり近代的かつ洗練されたデザインのビルが建っている。どちらも周囲の建物から色々な意味で浮いていた。
建物自体も凄いのだが、その周りがさらに凄いことになっている。
左右を見ればかなり遠くまで事務所の敷地を囲う様に柵が続いていた。柵の向こう側は全て美城グループの所有物である。
その広い敷地内には前述した二つ以外にも大小様々な建物が多数混在し、入口からでは全て確認できないくらいだ。軽く調べた情報によると、広大な敷地面積を有するここにぎっしりと芸能関係の施設が設けられているとか。
それでいて周囲の美城以外の建物とは著しく浮いているということもなく、決して下品さを感じさせない造りになっている。よく観察すると、周りの景観を損なわないように樹木を植えるような”余裕”さえ見て取れた。ただし、その余裕を含めた全てから美城グループの歴史と強さ、そして凄味を感じ取れてしまうため僕のは若干引いていた。
今僕が立っている正門からまっすぐ進んだ先に見えるお城っぽい建物が一番目立つのだけれど、その周りを囲むように建つ何かしらの施設も十分な存在感を放っている。少なくとも346の建物一つで765プロの事務所が丸々入ってしまうくらいと言えば伝わるだろうか。
僕の認識間違いでなければ、奥の方にカフェらしき物がまるまる一棟建っているように見えるんだけど……。
事前情報で知ってはいたけど、やはり346プロダクションという所は大手なのだと改めて実感させられた。
そんな大手事務所を前にして僕は今敷地内に入れずに右往左往している。
実はここに来るのは初めてのため、どう入っていいかわからないのだ。
見た目だけならどこかの一部上場している外資系企業に見えなくもない346プロの敷地だ。そこに普段着姿の僕が入るのは何だか躊躇われた。
周りを見ても事務所に出入りしているのはスーツ姿の大人ばかりで、アイドルっぽい人間の姿は一人も見られない。アイドル事務所と看板があるわけでもなく、しばらく周りを見回してもアイドルの姿は見えないことで、ここまで来ると実は場所を間違っているんじゃないかと不安になってしまう。
どうしようかな、誰かに「ここは346プロですか?」と訊ねてみようかな。でも僕コミュ障だから知らない人に話しかけるとか無理だ。一人で牛丼屋に入った時にトッピングは無料と書いてあっても、誰か他の人が自由に取るのを確認するまで取れないタイプだから、勝手に敷地内に入るのも躊躇っちゃう。
誰か知ってる人でも居ないかな……。
「あ、如月さん!」
門の前でキョドっていると僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
この脳髄を抉るような甘ったるい声は!
声の方に顔を向けるとこちらに小走りでやって来る女性が見えた。
あの緑色の制服姿は千川ちひろさんじゃないか!
この間の最終面接で着ていたやつと同じ制服だから遠目でもすぐにわかった。
やった、知ってる人居た! これで勝つる!
やっぱりここが346プロでいいんだ。良かった。九割九分大丈夫と思っていても、確実な情報がないと二の足を踏むのは僕の悪い癖だね。
それにしても千川さんは走っている姿も可愛いな。一つにまとめられたお下げ髪が走る度にぴょこぴょこと跳ねるのをみているだけで一時間くらい時間を潰せる気がする。
千川さんを初めて見た時は寡黙で真面目な人に見えたけれど、最終面接が終わってからは凄く饒舌で気遣いができて面白い人だとわかったので、今ではただ可愛い年上の女性って感じだ。前世から数えると年下だけど。
何やら焦っている様子で走っていた千川さんは僕の前までやって来ると足を止めた。てっきり他所に目的地があり、このまま通り過ぎて行くものとばかり思っていので目の前に止まったことに少し驚いた。
「おはようございます、千川さん」
「おはようございます、如月さん」
丁寧に頭を下げられたため釣られて頭をさげる。お互いにお辞儀をし合うかたちだ。顔を上げると千川さんと視線が合う。千川さんはすぐに笑顔を向けてくれた。
今日の千川さんの笑顔は素敵スマイルだ。笑顔がスマイルとか意味が重複してるけど、何となく千川さん相手だとしっくりくる気がする。
別に馬鹿にしているわけではない。ただ、この間見た千川さんの笑顔と今の笑顔が違ったから、どう形容すればいいか分からなかっただけだ。
やはりこの間のは営業スマイルというやつだったのだろう。どことなく硬さのあった表情が今日はとても朗らかに見える。断然僕はこちらの笑顔の方が好きだ。僕が男だったら即告白して振られるくらいである。振られちゃうのかよ。
「どうして千川さんは門に? どなたかのお出迎えですか?」
だったらその人に感謝だ。千川さんの登場は僕にとって渡りに船だった。千川さん程の人が出迎える相手なのだから、きっと大物アイドルとか会社の重役に違いない。間接的とはいえ、僕を助けてくれた相手に精一杯の感謝の念を送る。
「今日は如月さんが初めて出社するということで、上の者から迎えに上がるように仰せつかっていたんです」
と思ったらまさかの僕を出迎えるためだった。感謝の念が急速旋回して戻ってきてしまった。
僕を迎えに来てくれたのは非常に助かるのだけど、わざわざ僕なんかを迎えに来させられた千川さんには同情してしまう。
いくら初めて来たとはいえ、僕みたいな新人アイドルにプロジェクトでも中心に近い立ち位置の千川さんが迎えに来てくれるのは仰々しい気がした。
「時間よりも随分早く来ていて驚いちゃいました」
千川さんに言われ、そんなに早く来ただろうかとポケットからケータイを取り出し時間を確認する。
現在の時刻は朝の八時半過ぎ。指定された時間は九時のため三十分近く早く来てしまったことになるが、そこまで早い時間だろうか?
あれ、だったら何で千川さんは今ここに居るのだろう。予定よりも三十分早いというならこの時間に千川さんが来る必要はないのに。
「えーと、どこかから門を観察されてました?」
建物内から門を見ており、万が一僕が早く来たら対応する予定だったとか?
だったら僕がうろちょろと挙動不審にしていたのも見られていたということだ。恥ずかしい。
この中で時間を潰せるとなるとカフェテラスあたりだろうか。でもさっき見た時は千川さんの姿は見えなかったけど……。
「いいえ。今来たところですよ」
「えっと……そうなると三十分も早くここに来たことになりますけど?」
「ええ、お待ちするつもりでしたので」
「え、三十分も前からですか?」
「はい」
何てことはないと笑顔で答える千川さんだったが、三十分も前から待つのは変じゃないだろうか。僕の感覚からすると違和感がある。
重要な取引先の社長とかならともかく、新人アイドルでしかない僕なんて待たせておけばいいだろうに。仮に入れ違いになるのを避けるためであったとしても、五分前くらいで十分じゃないのか。それが何で三十分も待つことに?
上の者ってことはプロデューサーの指示ってことだろうけど、あの人にしては少し意外な指示に思えた。
プロデューサーはたとえアシスタント相手と言えど、理不尽な指示は出さないと思う。何かほかに理由があるに違いない。
「それだけ期待されているということですよ」
「はぁ……? それならいいのですが」
僕の心情を読んだかのように千川さんが励まし(?)の言葉をくれる。まあ、期待されているというなら素直に喜んでおこう。
実際プロデューサーに期待されていると聞いて心が弾んだのは確かなのだから。
「まずは受付を済ませちゃいましょうか。付いてきて下さいね」
そう言って正面に見える建物へと歩き出した千川さんの後に付いて行く。
僕のアイドル生活の記念すべき一日目は快晴に恵まれたようで、朝から春の日差しが眩しく降り注いでいる。舞い散る桜とのコントラストが門から建物までの短い道程を花道の様に彩っていた。
そこいらを歩く346プロの関係者っぽい人達がすれ違ったり近くを通る際に会釈をしてくるのも、なんだか自分が大物になった気がして気分が良くなる。実際は前を歩く千川さんに向けてだろうけど。今の僕は千川さんの後を付いて回るだけの金魚のフンの様なものだ。初日から態度が悪いと思われても嫌なので千川さんに倣って会釈を返しておく。
と言うか、これだけの人に挨拶されるとか、実は千川さんって凄い人なのかな?
会釈をして来る人の中には、わざわざ近付いて来たり、作業の手を止めてまで挨拶をして来る人までいた。ただの事務員だと思ってたけど、実際は偉いとか?
だったら僕の態度って拙かったかな。タメ口こそ利いていないものの、愛想笑いの一つもせずにどうでもいい話しか振れてない。この間の最終審査に居た人達と違って、これからも顔を合わす機会が多いはずだし、これからはもっと丁寧な会話を心掛けよう。
それから数十メートル歩き、お洒落な扉を潜り346プロダクションの建物の中に入った僕はその大きさに圧倒された。
「……大きい」
そのまんまの感想が口から漏れ出てしまった。でも大きいのだから仕方ないじゃない。
入ってすぐに見える大きな階段には赤い絨毯が敷かれていて、見上げる程に高い天井には見事なシャンデリアが飾られている。ここだけを切り取って見ると、まるで自分がどこかのお城に迷い込んだかのような錯覚を覚える。自分がシンデレラの名前を冠する企画に参加していることも相まって、この感覚は的確なのではないかと自画自賛してみる。実際そういう狙いがあってのネーミングなのだろうけど。とにかく346プロの資本力をまざまざと見せ付けられた気分だ。
さらにこの建物以外にもスタジオや娯楽施設すら同じ敷地にあるというのだから、346プロ……美城の一族の力は凄いね。アイドルを完全バックアップ可能な設備とスタッフ数はアイドル育成において規模だけならば765プロとは雲泥の差だ。まあ、逆にそれでもあのメンツが育ってしまったからこそ765プロは伝説なんだけどね。
「こちらで受付をお願いします」
エントランス横の受付を示しながら千川さんが入舘手続きについて説明してくれた。
今日は初日ということで入館証無しで入れたのだが、明日からはそれを提示して入るように言われた。
受付で記名するとすぐにカード型の入館証が手渡される。
千川さんの説明によると、これはセキュリティカードの役割も担っているそうで、これがあればほとんどの建物に入れる上に無料で施設を利用できるのだとか。ジムに大浴場、果てはエステサロンまで無料なんて太っ腹すぎる。基本的に予約不要と言われているので好きなタイミングで利用できるというのは素晴らしい。気紛れな僕には打ってつけだね。急な仕事が入りやすいアイドルのためなのだろうけど、スタッフを常駐させるなんて本当に半端ないわ。
千川さんが語る破格の待遇に内心慄いていると、受付の女性達の視線が僕に集まっているのに気付いた。皆さん何やら変な奴を見るような目を向けていらっしゃる。もしかして、過去他のアイドルがこの待遇を聞いた時はもっと良いリアクションを返していたとか。だというのに、僕だけ淡白だから肩透かしを食らった気分なのかな。
まさか、感謝の言葉すらない新人の小娘として無礼者扱いとか?
しまった、そういうパターンか。
「えっと、その、過分な配慮をして頂きありがとうございます」
慌てて千川さんにお礼を言いながら頭を下げた。千川さんに言うのが正しいかはともかくとして、誰かしらにお礼を言わないと居た堪れないのだ。
「そんなに畏る必要はありませんよ? 如月さんのそれは当たり前の待遇ですから。ただし、他のアイドルの子達には内緒にして下さいね? もちろんできる限りで構いませんので」
「あ、はい? わかりました」
他のアイドルって……まさか、この待遇って僕達シンデレラプロジェクトのメンバーだけ?
メンバー以外には内緒ってことは、他のグループのアイドルはこれ以下の待遇なのかな。言われてみれば事務所に所属するアイドル全員がこれとか予算がいくらあっても足りないよね。
確かに大っぴらには言えない。やはりシンデレラプロジェクトは凄い企画だったんだ。それを纏めているプロデューサーも凄い人ってことだよね。改めて彼の凄さを実感させられた。同時に自分のプロデューサーが凄い人なのだと知れて嬉しくなった。
時間を置いたことと僕が感謝の気持ちを伝えたことでいつの間にか受付の人達の僕を見る目は変わっていた。やはり感謝を言葉にするって大事だね。
何故か受付の全員が不自然に目を見開いていたけど。
「まだ予定まで時間があるので、少し施設を見て回りましょうか」
「いいんですか?」
このいいのかというのは、千川さんの負担にならないのかという意味と僕みたいな新人が好き勝手に施設を見て回ってもいいのかという意味だ。
時間があるとは言っても、僕は一応仕事として今日来たわけだから、そうやって自由時間を設けて貰うのは負担にならないかと不安になる。
「はい。お昼までは私が付きっ切りで案内することになっていますから。空いた時間の使い方は一任されているんです」
「なるほど。わかりました、是非宜しくお願いします」
「では行きましょうか」
再び移動を開始した千川さんに付いて行く。背後の諸々の視線はあえて無視しよう。きっと千川さんほどの人が案内役をすることに驚いているってところかな。
そしてそれを無表情に受け入れる僕の態度の悪さが際立つ。
千川さんの案内でまず初めに訪れたのは食堂だった。
建物から予想できたが食堂もお洒落だった。外にはテラス席もあるため、今日みたいな晴れの日には利用者が多そうだ。
「お洒落なところですね」
「そうでしょう。メニューも豊富で、お値段もリーズナブルとあって人気なんですよ。外部の方もよく足を運ばれますし。たまにですが私も利用するんです」
この広さなら内部外部関係なく収容可能だろう。下手なレストランよりも大きいし綺麗だ。食堂一つとっても規模が違う。たるき亭のおうどん食べたい。
「安いのは助かりますね」
貧乏人の僕には安いというフレーズだけで心躍るものがある。お弁当持参(当然コンビニ弁当)を覚悟していたため食堂の存在は渡りに船だった。
「まあ、如月さんの場合は関係ないんですけどね」
何ですかそれ。新人アイドルが使うなんぞ十年早いとかそういう体育会系な感じですか。確かに僕みたいな子供が使うには敷居が高いけど……。
「如月さんは、今日はお昼は持参されましたか?」
「いえ、コンビニあたりで何か買おうと思っています」
「でしたら是非この食堂を使って下さい」
んん? 何かさっきの言葉と食い違うぞ。僕もここを使っていいのだろうか。じゃあ何で関係ないなんて言ったのだろう。
「あの、私には関係ないということでしたので、てっきり利用できないのかと」
「ああ、違うんですよ。最初にすべての施設が無料と言ったでしょう? ですからこちらも無料なんです」
「無料って……まさか、食堂の料理がですか?」
「その通り」
耳を疑う話だった。いくらお金があると言っても食堂の利用が無料なんて凄すぎないか。最悪ここで三食摂れば食費不要になるじゃないか。
凄い。美城凄い。シンデレラプロジェクト凄い。プロデューサー凄い。
「ふふ、喜んでいただけたようで何よりです」
「お金に乏しいので、食費が浮くのは助かります。これで何とか人間らしい食事になると思います」
「? そうですか」
首を傾げて不思議そうにしている千川さんにはわからないだろうけど、食事が不要なのに食事を摂らないといけないというのは結構辛いのだ。
何でもいいから物を食べるように優からきつく言われていた僕は、いかに食費を掛けずに物を食べるかを突き詰めていた時期がある。僕の場合、「食べられれば何でもいい」が本当の意味で可能なので、食費を抑えることに執心したのだが、止め時がわからずに際限無く質を落として行ってしまった。
最終的に街で配られるポケットティッシュを食べるようになったのだけど、運悪く食事時に優がアパートにやって来て食事シーンを見られてしまった。その結果優が泣き崩れるという大惨事が起きたので、それ以来最低でも人が食べられる物を食べることにしている。ティッシュだって慣れると食べられないこともないんだけどな。
でも、優から「姉が無表情でティッシュ食べているシーンに出くわした弟の心境を考えて」と涙ながらに説得されたら従わざるを得ないよね。
もしかして、優が僕の食べているものを執拗に気にしだしたのはこれが原因じゃないだろうか。春香が作ってくれる料理すら気にするからね。
「さ、次に行きましょうか」
「はい」
弟にわりと重いトラウマを植え付けていたことに気付いたところで次の施設へと移動を開始する。
こんな所で物を食べていれば優に心配されずに済むね。
次に案内されたのは意外なことにエステルームだった。
美容系の施設は精神科と産婦人科以外の病院と同じくらい僕と縁がない場所と思っていたので、千川さんに紹介されても食堂ほどの感動は覚えなかった。
と言うか、エステルームがあるって何だよ。
「エステルームが事務所の敷地内にあるのって普通ないですよね」
「そうですね。346プロ以外だとあんまり聞いたことがないですね」
あるとすれば961プロくらいか。あの事務所って社長が黒いだけでプロダクション自体はホワイトなイメージがするんだよね。逆に超絶ブラックなのが765プロと876プロ。昨今の流行り的には961プロの方が追い風吹いてるという説まであるレベル。
どうしてこんなになるまで放置していたんだ。プロデューサー二人で捌けるアイドルの数じゃないだろ。ゲーム世界だと一人だぞ?
こうして現実世界になってみると、765プロのプロデューサーって軽く人間辞めている気がする。同じ人間辞めている同士、仲良くなれた気がするんだよね。結局一度も会うことなくアメリカに行っちゃったみたいだけど。
ということは、今の765プロって秋月律子単独で回しているってこと?
しかもこの後スクールの子達も随時加わっていくって聞いてるよ。
大丈夫? 死なない?
秋月律子死なない?
「……ちなみに、このエステって部外者の方は」
「無理ですね」
「ですよね」
「このエステルームはただでさえ大人組のアイドルの方々で取り合いになっているんですから、よその方を入れる余裕なんてないですよ。ちなみに完全予約制です」
「そうですか」
部外者も利用できるなら秋月律子に紹介してあげたかったのだが……。
まあ、そりゃそうだよね。大人なアイドルにとって仕事の合間のエステなんて大切な回復要素だろう。それをよその人間に使わせることになったら経営側が恨まれても仕方がないって話だ。
「如月さんは予約なく使用可能ですけどね」
「……」
大丈夫? 死なない?
僕アイドルの大人組に殺されない?
その後は浴場(やはり敷地内にある)や広報部の仕事スペースなど、346プロの施設を丁寧に紹介して貰った。
千川さんのボイスを聞いているだけで満足できるのに、こうして各施設の説明まで受けられるなんて、今日のこの時間を指示してくれたプロデューサーには大感謝である。
「最後と言うか、本来の目的地に着きました。ここがレッスンルームです」
最後に案内されたのはレッスンルームだった。
レッスンルームと言いつつまだ廊下に居るのだけど。
「レッスンルーム……たくさんあるんですね」
今僕が言った通りこの施設内に多種多様な部屋が設置されていた。途中で見た廊下の案内板によるとそれら全てがレッスンルームということらしい。
部屋の前にはそれぞれダンスやボイス等のざっくりとした用途が書かれたプレートが掲げられている。さらに第一第二と各種類ごとに数部屋ずつあるため、かなりの人数が同時にレッスンが可能のようだ。346プロはアイドルの人数もさることながら、俳優や歌手が多く所属するとかでこういった施設には前から力を入れている。人材がそのまま資産に繋がるとあっては育成に注力するのは当然だね。このレッスンルームもそうした所属アイドル達が日夜特訓のために使用しているとか。当然僕もここには今後お世話になるのだから見学はしっかりとしておきたい。
「実はプロデューサーさんの指示で、如月さんにはダンスレッスンを受けていただくことになっています」
突然レッスンを受けろと言われた僕は戸惑った。
ジャージ持参と言われていたので着替えは問題はない。しかし今日やるのは体力作りのためのトレーニングくらいかと思っていたので、まさか初日からレッスンを受けることになるとは想定外だった。
まあ、トレーニングがレッスンに変わったから何だって話だけど。
でも純粋に体を動かすのと踊りは違うからなぁ。少し心配だ。
「レッスンですか……」
「今までダンスレッスンは受けたことはありますか?」
何気なく呟いた言葉は千川さんには自信無さげに聞こえたようだ。確かに僕はダンスレッスンを受けたことはない。
そもそも僕は生まれてこの方レッスンというものを一度も受けたことがなかった。小さい頃から独学でやって来たからだ。
千早がそういう教室に通っていなかったから自分も必要ないと思い込んでいたのと、見ただけで動きを覚えてしまうので教室に通うという思考に至らなかったのだ。
だからこそ、僕にとってダンスを始めとした何かのレッスンを受けるという感覚は完全に未知の領域になっている。
「ありません」
色々と複雑な事情があるものの、それを馬鹿正直に言うわけにもいかないので端的に事実のみを伝えた。
「わかりました。トレーナーの方には初心者だと伝えておきますね」
「はい……よろしくお願いいたします」
僕が初心者だとわかっても千川さんは笑顔を崩すことなく、むしろ気遣うような声で言ってくれた。
僕は嘘を言ってはいない。
しかし事実も言ってはいない。
千川さんの気遣いを受け、今になって中途半端な回答をしたことを後悔している。
でも嘘を吐いてレッスンを受けたことがあると言うことは果たして正しいことだろうか。もしくは、見ただけで覚えられると言うべきだったか。
ま、結論から言えばそれらは全部間違いだったわけだけど。
僕にダンスレッスンを付けてくれるというトレーナーはすでにレッスンルームに待機してくれていた。
いかにもトレーナーという格好のやや目付きが鋭い女性だ。てっきりもう少し年上の人だと思っていたので相手の若さに驚いた。僕より年上なのは当たり前なのだけど、どう見ても二十代前半にしか見えない。
見ても二十代前半にしか見えない。
「どうかしましたか?」
「いえ、想像していたよりも若い方だったので驚いてしまって……」
言った後にこれだと若手トレーナーだと不満みたいに聞こえそうだと自分の失言に気付く。
「それは。まだ私はルーキーですから」
予想通り、僕の言葉を悪い方に捉えたトレーナーの表情が目に見えて曇る。
「あ、いえ、不満ということではないんです。純粋にその若さで346プロでトレーナーをされていることが凄いと思いました」
慌ててフォローを入れてみるも、それで相手の表情が晴れることはなかった。
初対面でやらかしてしまった。
隣の千川さんを盗み見ると困まり顔で僕とトレーナーさんを交互に見ている。千川さん的にも今のはマズかったようだ。第三者ということでフォローも入れられないだろうし。
本当に僕はこういう対人スキルが低い。そのせいで今みたいに相手を不快にさせることが多かった。
これから何度もお世話になる相手にこれはダメだよね……。
「とりあえず、時間までレッスンをしてみましょうか。それでお互いにわかることもあると思いますから」
これ以上は痛い沈黙が流れるだけだと判断したのか、千川さんがレッスンを促してくれた。非常に助かった。
さすが千川さん。容姿とも相まって女神に見える。
「それでは宜しくお願いします」
「はい。宜しくお願いします」
千川さんの取り成しによりトレーナーさんと互いに頭を下げ合った。微妙なしこりを残しつつもお互い子供ではないので表面上は前向きな態度だ。
「それではトレーニングウェアに着替えて来て下さい」
千川さんの指示により隣のロッカールームへと移動する。
レッスンルームには千川さんとトレーナーさんが残るようだ。
たぶん僕の居ないところで改めて千川さんからフォローを入れてくれるのだろう。本当に千川さんは女神のような人だ。
ロッカールームに入ると適当なロッカーを選んで開ける。当然中身などなく空っぽだ。
そこに持っていた荷物を入れると着ていた服を脱ぎはじめる。
一気に下着姿になった僕は着ていた服をロッカーに入れると、今度はトレーニングウェアを鞄から取り出した。
「あれ?」
ロッカーの扉に取り付けられた鏡に映る自分に違和感を覚え着替える手を止めた。
何か肩から首にかけて赤い斑点がある。
よく見ようと鏡で映すのだが、首の後ろというのと鏡自体が小さいとあってよく見えない。
たぶん虫刺されか何かだとおもうんだけど、この時期に蚊なんていただろうか。
まさかダニ?
それなりに清潔にしているつもりでも湧いて出て来るのが害虫だ。寝ている間に刺された可能性が高い。
となると同じベッドで寝ていた春香も刺されているかもしれない。
あとで聞かなくては。
原因はともかく、今はこの斑点をどうにか取らないと。アイドルがこんなもの付けているわけにもいかないよね。
自然回復を待つのも億劫なので、僕は自分の左手の小指を右手で覆うように握ると躊躇いなくそれをへし折った。
ベキリという乾いた音がしたので確実に骨が折れたことがわかる。
当然痛みを感じない僕は顔色一つ変えることはない。こんな時は後遺症も便利に思える。
折れた指を見ると逆方向に九十度以上曲がっていた。しかし次の瞬間には何事も無かったかのように折れた指は元どおりになっていた。折れた骨はもちろん、ひしゃげた関節と断裂した筋肉まで瞬間的に治癒している。
鏡で確認すると赤い斑点は全て消えていた。
結果に満足した僕は、あまり二人を待たせるわけにもいかないと思いレッスンルームへと戻った。
「お待たせいたしました」
少し気後れしながらレッスンルームに戻るとトレーナーと千川さんの間に流れる空気は先程よりは幾分軽くなっていた。これで僕が戻ると同時に再び重苦しい空気になったら軽くショックを受けたところだが、幸にもそんなことはなく、和やかな雰囲気のまま迎え入れられた。
どうやったのか不明だけど千川さんが何かしてくれたのだろう。やはり女神か。
「本日はご指導の程よろしくお願いします」
気持ちを持ち直した僕は改めてトレーナーに深々と頭を下げた。
言い方が悪く無表情の僕は人一倍態度で示さなければならない。今後はよほど砕けた関係の相手以外には丁寧過ぎるくらいの態度で接した方が良さそうだ。
その考えは正しかったらしく、トレーナーと千川さんは顔を見合わせると笑顔で頷き合っていた。僕が居ない間にあったやりとりの関係だろうか。どうでもいいか。
「では、さっそくレッスンを始めましょうか。まずは私の動きを真似して下さい。これは準備体操のようなものなので丁寧に、しっかり身体を伸ばすように動かして下さい」
「はい」
トレーナーが見本の動きを始めたところで千川さんが部屋の入り口に移動した。そのまま出て行くのかと思ったら扉の横辺りで立ち止まりこちらに振り返った。
「私は端の方で観ていますね」
どうやら最初に言った付きっ切りで案内するという話は本当だったらしい。てっきり案内は施設見学とレッスンルームまでと思っていたけど、レッスン中もこうして近くで見ていて貰えるなんて想定していなかった。
忙しいはずの千川さんがわざわざ見守ってくれているのだから格好悪いところは見せられないよね。歌を聴いてもらったことはあってもダンスを披露したことはない。
初めてのレッスンということで文字通り様子見で留めようと思っていた予定を破棄して本気でレッスンを受けることにする。
千川さん見てるー?
僕張り切っちゃうよー!
そうやってやる気を出してトレーナーのレッスンに臨んだわけだけど……。
一時間しないうちにレッスンルームを追い出されてしまった。
「……」
どうしてこうなった。
固く閉ざされた扉を呆然と眺めながら自問するが答えなんて出るわけがなかった。
同じく追い出される形になった千川さんを見ると、こちらはこちらで頭痛を堪えるように頭を抱えながら唸っていた。また発作だろうか?
こうなると長くなることを知っているので再び扉へと視線を戻す。
トレーナーが閉じこもってしまったレッスンルームの扉をしばらく眺めていた。
僕はただ真面目にレッスンに取り組んだだけなのに……。
トレーナーも途中までは普通にレッスンをしてくれていた。千川さんから僕がレッスン初心者だと知ったトレーナーは僕に笑顔を見せながら懇切丁寧に踊りを見せてくれた。
初めてのレッスンというのと、誰かに教わるという行為がとても楽しかった僕はトレーナーの期待に応えるように本気でレッスンへと取り組んだ。
しかし途中からトレーナーの表情が曇って行き、段々と動きがぎこちなくなっていった。最後の方は顔を引きつらせており、とてもではないが誰かに教えられる状態ではなくなってしまったのだ。
何でそうなったのか、レッスンというものをこれまで受けてこなかった僕にはトレーナーの変化の理由を考察することすらできない。
ただ、今も室内から聞こえてくる「私の努力」「これまでの時間」「無意味」というトレーナーの言葉が酷く物悲しく感じられただけだ。
「如月さん……」
千川さんの声に顔を向けると、困り顔の千川さんが目に入った。もう頭は抱えていなかった。
発作はいいのだろうか。
「レッスンを受けるのが初めてと仰いましたよね?」
「はい、今日が初めてです」
「それは、これが理由ですか?」
千川さんが言うこれが何なのか、完全に把握していたわけではなかった。しかし、今の僕が理解している範囲で答えるのだとすれば、答えは一つだ。
「はい」
僕の端的な答えを聞いた千川さんは、一言「そうですか」と言った。
その時の千川さんが見ていたのは答えた僕ではなくトレーナー……正確にはトレーナーがいるであろう部屋の扉だった。
今の千川さんからは感情の色が見て取れない。無表情ではないが、いつもの笑顔でもない。ただ何かを諦めたような、何かに疲れたような顔をしていた。
その時の僕には千川さんの想いなんてわかるはずがなかった。だって、わかろうとしていなかったのだから。
千川さんは一つ溜息を吐くと、僕に少し待つように告げどこかへと電話をかけたはじめた。
相手は一コールで出た。
「プロデューサーさん、千川です。今少しよろしいでしょうか?」
電話の相手はプロデューサーらしい。
今あったことを報告してこれからのことを相談でもするのだろうか。そりゃあんな状態のトレーナーを放置なんてできないものね。
「実は少し問題が起きまして……あ、いえ、如月さんに何かあったというわけではないんです。ただ……」
千川さんがこちらへと目を向ける。僕は気を遣って後ろを向くと少し離れた位置に移動した。
その後千川さんは何事かをプロデューサーと小声で話していた。さすがの僕でもこういう時に聴力を上げるようなことはしなかった。
「……はい、わかりました。では、そのように対応します」
話が終わったので振り返ると、千川さんが深く息を吐く姿が目に入った。先程の溜息とは纏う空気が違っている。先程のは疲労。今のは諦観だった。
その二つの違いに気付くことはできても、その違いの意味を理解できない。それが僕だ。
「予定を変えて別の部屋に移動しましょうか」
千川さんはいつもの笑顔に戻ると軽く手を叩いてから歩き出した。その足取りは少しだけ早く、まるでこの場から離れたがっているようにも見えた。
「あの、トレーナーのことは……」
ズンズンという足音の幻聴が聞こえる勢いで歩く千川さんに今も部屋に籠っているトレーナーが気になった僕はどうするのかを尋ねた。
千川さんが足を止める。少し先に立ち顔をこちらに向けないため表情を窺うことはできない。
「たぶん、もう駄目でしょうから」
表面上変わらぬ声色でそう答えた千川さんは「さ、行きましょうか」と僕を促した。
僕はそれに何も答えることができず、言われるがままに千川さんの後を付いて行くことしかできなかった。
千川さんと供に移動した部屋は一見ではその用途がわからない部屋だった。
その部屋はレッスンルームのある施設ではなく、中央の事務所の下に設けられた地下にある部屋だった。
そこかしこに小道具や取材用の機材、中身不明の段ボールが所せましと置かれている。それを見た僕の第一印象は「物置みたいな部屋」だった。
先程まで居たレッスンルームとは違いお洒落な壁ではなく、事務的な雰囲気のベージュの壁が逆に新鮮に見える。
「ここは一応企画部署の役割があった部屋なんですよ。……昔の話ですけど」
千川さん曰く、この地下部屋は外からの音をほとんど遮断しているため昔はよく社外秘どころか部外秘レベルの会議を開く場所だったそうだ。
よく見ると壁際にホワイトボードが置いてあり、天井からはプロジェクタスクリーンが下がっていた。たぶん探せばどこかにプロジェクターもあるのだろう。そう言われてみれば設置されている机や椅子が会議室にある物に見えなくもない。
「少しここで待っていて下さいね」
ここで待つように言うと千川さんはどこかへと行ってしまった。待てと言われたならば待つほかにない。
丁度いいことに会議用なのだろう、僕みたいな庶民からすればとても立派に見えるソファがあるのでそこに座って待つことにした。
軽くソファを撫でてみる。革製品特有のツルツルとした感触があった。手に埃が付かなかったことから完全に死に部屋ではないのかもしれない。プロジェクターなんかが使える状態で置いてあるのだから当然か。
こういう高級そうなソファって偉い人がよく座っているイメージがある。よくドラマとかで見る社長とかがそんな感じだ。
765プロのオーディションの時に見た社長も似た椅子に座っていたけど、人柄のせいか似合わないと思った。逆に961プロの社長とかは似合うんだろうな……。
そう言えば全国のプロダクションのオーディションを片っ端から受けた僕だけど、961プロだけは受けてなかったんだよね。今思えばあの事務所は元は四条貴音、我那覇響、星井美希が所属していたということもあって個性的な人間でも受け入れる意思はあったんだよね。まあ、ゲームの話なのでこちらでも同じかはわからないけれど。
もし僕が961プロに入っていたらどうなっていただろうか。765プロに拘らなくなっていたのなら961プロも選択肢としてはありだったのではないかと今更ながらに考えた。
たぶん、社長のやり方に付いて行けずにジュピターの様に途中で辞めていたと思う。
だが逆に同調した場合はどうなっていただろう。きっと打倒765プロを掲げて黒井社長と協力関係になっていたはずだ。自分を選ばなかった765プロなんて消えてしまえばいいという暗い願望を抱いて。
僕は765プロが抱える問題を知識として知っている。原作知識という武器を最大限に利用すれば変な新聞記者を雇わずとも簡単に不祥事を手に入れられる。
原作知識という解答を元にチートを使用して裏付けをとる。彼女達が抱える問題は小さいものはともかく大きなものは結構スキャンダラスだ。アニメではその筆頭が千早だったわけだけど……。
僕以外でも星井美希のプロデューサーへのアプローチや菊池真の大乱闘もアイドルとしては問題行為だ。事実を知ってさえいれば、あとは証拠さえ揃えてしまえば破滅まっしぐらだ。
そうやって765プロの不祥事を暴露しまくって彼女達を破滅へと導くことに愉悦を覚える怪物が生まれるわけだ。
……なんて、ありえないけどね。
僕が765プロを破滅へと追いやる?
無いよ。
あり得ない。それだけは絶対にやらない。
確かに僕の765プロに対する感情が全て負へと反転した場合、それは決して妄想で終わらなかったはずだ。
それは認めよう。僕は敵に対して容赦する人間ではない。この世界の人間特有の”甘さ”を僕は持ち合わせていない。リアルな人間が持つ非情さを僕は持っている。それこそ黒井社長が善人に見えるほどに。
だから僕が本当に765プロを憎んでいたのならば、今頃あの事務所は土地ごと消えてなくなっている。
それをしなかったのは、僕が今でも765プロのことが好きだからだ。
たとえオーディションに落とされたとして、落とされた直後であっても、僕は765プロを憎みはしなかった。
何故どうしてと疑問を抱いても、憎しみを抱くことは決してなかった。憎しみよりも戸惑いが、怒りよりも悲しみが勝った。そういった後ろ向きな理由だとしても結果として僕の中に負の感情は生まれなかったのだから、きっと僕は765プロが好きなんだ。
だから僕は765プロの敵にはならない。同じアイドルである以上、何かしらの形で対決することになってもそこに憎しみは持ち込まない。
それでいい。それさえできれば、僕は満足だ。……千早がそれで納得するかは別として。
と言うかだよ。何となく765プロの暴露ネタって世間から取りざたされることはなく流されて終わるイメージしか浮かばないんだよね。普通なら大問題になるはずなのに、何事もなかったかのようにスルーされる不祥事の数々。それがアイマス世界。
それでいて千早のネタはあんな大々的に取り扱うとか不公平じゃないかな?
と言うか、黒井社長も調べればこういうネタはたくさん見つけられたはずだろう。でもそれをネタに何もしていないということは、単純に見つけられていないか世間と同じで問題ないと流していたかだ。
そう思うと一周回って黒井社長の不公平さに腹が立ってきたぞ。改めて憎たらしく感じたと言った方が正解か。
どちらにせよ961プロは選択肢としては無かったな。打倒765プロという精神が生まれない以上、黒井社長とやって行く自信なんてない。
そもそも僕って黒井社長のこと好きじゃないしね。声が好きじゃないし。顔も腹も黒いし。やること小物過ぎるし。
こっちのプロデューサーとは大違いだよ。プロデューサーは僕を見つけてくれた上にあそこまで必死にスカウトしてくれた。いつも真摯に僕の話を聞いてくれるし、何かと気に掛けてくれている。
黒井社長はあの人の爪の垢を煎じて飲むべきだね。いや、黒井社長程度にプロデューサーの爪の垢はもったいないぞ。ポケットに入っている綿埃でも嗅いでおけばいいよ。そしてバッドトリップすればいいんだ。
埃でキメるとか黒井社長最低だな(冤罪)。
やっぱり黒井社長嫌いだわ。
そしてプロデューサー最高。
「プロデューサー好き」
ガタガタッと物が落ちるような音が聞こえたので顔を向けるといつの間にか千川さんが帰って来ていた。
千川さんの足元を見ると何かケースみたいな物が散乱している。どうやらあれを落としてしまったみたいだ。顔色も何か悪いみたいだし、また発作を起こしたのだろうか。
「千川さん……?」
心配になったのでソファから立ち上がり千川さんへと近づく。
たまに挙動がおかしい千川さんだけど、今回のは物を落とす程に動揺している。まるで何か見てはいけないものを見てしまったかのようだ。
それとも何か僕がしてしまった?
あ、まさか勝手にソファに座ったことかな。千川さんはここで待つように言いはしたけれどソファに座るように言ったわけではない。だと言うのに勝手にソファに座った僕はマナー違反を犯したわけだ。もしかしたらこのソファは偉い人の私物とかで、使用してはいけなかったという可能性もある。
前世でそれなりのマナーを学んでいたつもりだっけれど、こういう場面での気遣いは結構忘れてしまっている。そのせいで致命的なミスを犯してしまった。
「あ、あの……これはですね、何と言えば良いか」
何とか取り繕うとしても、僕が勝手に座っていたことは誤魔化しようのない事実であった。
ここは下手な嘘を吐くよりも素直に謝った方が良い場面だ。それにこれまで良くしてくれた千川さん相手に嘘を吐くのは躊躇われる。
「お恥ずかしいところをお見せいたしました……その、私こういうのに慣れていなくて」
素直に社会人としてのマナー知識に欠けていることを告げる。
「え、あ、じゃあ……初めてなんですか?」
千川さんは僕の告白に意外だという顔をしていた。中途半端に外面が良い分、こういうことに慣れていると思われているのかも知れない。実際はろくに社会を知らない精神年齢だけ高い輩です。
「はい、今まで自分とは無縁なことだと思っていたのですが、まさかこんなことを自分が体験するなんて思っていなくて。だから、今回のも特に意識せずに勝手に……」
「そうだったんですか……。もう少し経験豊富な子だと思っていたので意外でした」
「お恥ずかしい限りです」
やはり知識が豊富だと思われていたらしい。でも実際は常識を知らない残念な女だったわけだ。
これで千川さんに呆れられてしまったかな。格好つけるつもりはなかっけれど、呆れられても良いと思ってはいない。
「恥ずかしいなんてことはありませんよ」
「え?」
と思ったら意外な言葉が返って来た。
千川さんの顔を見れば僕に慈しみの心が見える様な優しい笑顔を向けていた。
「誰だって初めては戸惑うものですから。だから、そんな風に気にする必要はないんですよ?」
これ新入社員の男性が言われたら一発で惚れるね。
入社してすぐに仕事を失敗。打ちひしがれているところに千川さんみたいな可愛い先輩に優しく慰められるとかやばいでしょ。
結構、と言うかかなり好きなシチュエーションだった。
「千川さん……」
「あ、そうでした」
「あ」
年上の女性から受けた思わぬ優しさに思わず「これはもう女性相手でもいいのでは?」とトチ狂ったことを考えかけた僕だったが、千川さんがさらりと離れてしまったため正気へと戻った。
うーん、この深くまで踏み込ませない感じはさすがだよね。さすが声が有名なだけはある(偏見)。
「プロデューサーさんからこちらを借りて来ましたよ」
千川さんが取り出したのは何枚かのDVDだった。
全て透明なケースに入れられ、手書きのタイトルがそのまま見えるようになっている。
タイトルには『’12秋 346プロ主催 ライブ』とどれも簡潔なものが書かれているだけだった。
これをどうすると言うのか。千川さんとDVDを交互に見やる。
「如月さんにはここで346プロに所属しているアイドルの子達のライブ映像を観て貰います」
突然言われた指示内容に頭を傾げる。
ライブ映像を観る?
それをしてどうするのだろうか。と言うか、そんなものを観るならばわざわざこんな地下室でやることないのではないか。
そんな僕の疑問が顔を出ていたのか、千川さんが事情を説明してくれた。
「実は本来如月さんを担当するトレーナーはベテラン以上の方を予定していたのですが、急遽代役の仕事が入ったグループのライブ用にレッスンをする必要があったためそちらに回りました」
「それは……当然の対応ですね」
さすがに先輩アイドルを差し置いて新人の僕を優先しろとは言わない。というか言えないだろう。
「それで手の空いていたルーキーの方に如月さんのレッスン役が回ったわけですが……」
そこで千川さんが一旦言葉を止める。
「申し訳ありません。誰が悪いというわけではないんですけど……ただ、彼女のことを責めないであげてほしいんです」
彼女というのはトレーナーのことだろう。千川さんに言われずとも僕がトレーナーを責める理由はなかった。
千川さんは誰が悪いわけではないと言ってくれてはいたけれど、たぶん今回の事態は僕が原因なのは確実だ。ならば悪いのは僕ということになる。
それでも僕を責めずにいてくれる千川さんの気遣いを無駄にしないためにも話に乗るしかない。
「責めるも何も……元よりトレーナーに対して何か思うところがあるわけではありませんから。だから、その、お気になさらずに」
結局気の利いたことなんて言えなかった。
表面だけ擬えた定型文が言葉となって千川さんの気遣いを滑らせてしまった。
気遣いに対して気遣いを返せない自分が嫌になる。
これはプロデューサーの指示なのだから。プロデューサーがやれというなら何だってやるよ。それがライブ映像を観るという指示なら僕はいつだって何度だって観る。それが僕に必要なのだとあの人が出した結論なのだから、僕はそれを無条件に受け入れるだけだ。
だからは千川さんも、そんな申し訳なさそうな顔をしないでほしい。
それに前向きに考えてみれば、アイドルのライブ映像をこんな大画面で観られるなんて役得じゃないか。
「わかりました。私はここでライブ映像を観ればいいんですね?」
「はい、お願いします。いくつかこちらでピックアップしたものがあるので、それを観て346プロダクション所属のアイドルの実力を見て下さい。……本当はレッスン風景を見ていただけたら良かったんですけれど、都合がつかなくて」
「それは仕方がないと思います。346プロのアイドルの皆さんはとてもお忙しいというのは知っています」
ちなみに映像で見るのは構わないけれど、相手のアイドルはこちらで選んでもいいのだろうか?
「あの、今回見ることになる映像はどのアイドルの方が映っているものでしょうか?」
「如月さんはどなたか希望のアイドルがいらっしゃいますか? 色々と持ってきているのでお好きな子を選び放題ですよ」
その言い方はどうかと思うが、選べるというなら見たいアイドルがいる。
城ヶ崎の時の二の轍を踏まないためにも、346プロ所属のアイドルの情報は軽く目を通していた。
大手プロダクションとあって有名アイドルから新人アイドルまで数多く所属しているので全員目を通せたわけではないが、上位メンバーはある程度押さえていると思う。
765プロの様な全員がトップアイドルという頭おかしい所属率ではないものの、346プロにもトップアイドルと呼ばれるアイドルは結構な数所属している。
その中でも僕が注目したのは高垣楓というアイドルだった。
彼女はモデルからアイドルに転向した経歴を持つ。天性の美貌とオッドアイという身体的特徴は神秘的な印象を彼女に与えていた。それまで特にレッスンを受けていたというわけでもないのに歌唱力も抜群とあって、まさに天は二物を与えずを否定する存在と言える。
歌が上手いというところに一瞬目が行きかけたけれど、僕が高垣楓についてもっとも注目した点は、彼女が今年で二十五歳だということだった。
アイドルでその年齢は些か年嵩に思える。アイドルマスターに出て来たアイドルで年上と言えば三浦あずさだった僕には高垣楓の年齢は衝撃的だった。と同時に、自分の中で勝手に決めていたタイムリミットが延びたことを喜んだ。
そういうこともあり高垣楓には注目していたのだけれど……後になってそれ以上に年上のアイドルが数多く存在することを知って自分の悩みが馬鹿らしくなったのはまた別の話。
そして高垣楓をはじめとした上位メンバーの中には城ヶ崎美嘉の名前もあった。カリスマギャルとして世の女子高生から絶大な人気を誇るトップアイドルに最も近いアイドルの一人である彼女を知らなかったのは拙い。本気で僕は失礼なことをしていたのだと今更ながら背筋を凍らせた。
そんなわけで、色々と346プロ所属のアイドルを調べていた僕は彼女達の忙しさというのを理解している。だから僕一人のためにレッスンを見せられるわけがないのは分かっていた。
「では、高垣楓さんか城ヶ崎美嘉さんの映像があれば、そちらを見せていただきたいのですが」
僕が挙げたのはその二人だった。色々調べた結果、その二人が特に印象深かったからだ。
「高垣さんと城ヶ崎さんですか、ちょっと待ってくださいね……あ、これですね」
千川さんが見せてくれたDVDケースには「13年1月 346主催」と書かれていて、つい最近の物だとわかった。
「ちょうどその二人が出ているライブの映像なんですよ。冒頭からお二人を含めた人気アイドルの子達がグループでお願いシンデレラを披露しているんです。単独ライブの物は今手元にないので、新しい物となるとそれだけになりますね」
「いえ、これで十分です。単独ライブよりも今はグループでやっているものの方が勉強になると思いますので」
まだデビューすらしていない僕が単独ライブの映像を見せられたところで得られるものは少ないだろう。最初はシンデレラプロジェクトの一人としてグループ単位での活動がメインになるはずだから、今の段階ならグループで映っているものを見た方が良い。
「わかりました。それじゃ、さっそくセットするので座っててください」
そう言って千川さんがDVDをセットし始めたので先程まで座っていたソファへと腰を下ろす。今度は許可を貰ったので気兼ねなく座れた。
「お待たせしました」
たかだかDVDをセットする程度、大して待ってはいないのだけど、そう言ってはにかむような笑みを向けられると反応に困る。
僕もお返しに微笑んで見せられれば良かったが、それもできない僕は真顔で会釈するしかなかった。
特に気にした様子もない千川さんが隣へと座る。
僕が座っているのは長いソファのため千川さんと一緒に座ったところで狭くは感じない。でもだからと言って一緒に座る理由にはならないんじゃないかな?
ほら、正面のソファ空いてますよ。
「あ、私も一緒にライブを観るようにとの指示は受けていますよ」
視線で千川さんに空いているソファを勧めるも、上手く伝わらずに見当違いの話をされてしまった。
いや、一緒に観ると言っても意味合いが違うと言うか、ある意味近いというか……。
ぶっちゃけこんな可愛い人に隣に座られると緊張してしまうのですが。
中学時代も席替えで可愛いクラスメイトと席が隣になると緊張してしまうくらいだ。千川さんみたいな人が隣に座って来た日には緊張のあまり死ぬ自信すらある。すぐ蘇生するけどね。
「この回、と言うか今年のライブは凄く盛り上がったんですよ」
僕のライフゲージの急激な減少などお構いなしに千川さんはライブの解説をしてくれた。
今は録画が始まった直後らしく、場内アナウンスや観客のざわめきだけが聞こえる。
結構大きな会場だ。僕がこんなところで歌えるのはいつになるのか。
すでに似た大きさの会場でステージを経験している春香との差に心の中だけで落ち込んでいるとステージが始まった。
突然ライトアップされたステージに現れたのは高垣楓をセンターに置いた五人のアイドル達だ。
それぞれお姫様をモチーフにした衣装を着込み各々ポージングをとっている。
そして始まる一曲目は「お願いシンデレラ」という曲らしい。隣の千川さんが教えてくれた。
この曲はオープニング曲というのもあってキャッチーなフレーズが目立つ。お願いシンデレラという言葉から続く歌詞は少女達の夢や希望に溢れた想いが綴られているような、それでいて崖際な人間の切羽詰まった感もありなんとも言えない曲だ。
シンデレラプロジェクトに参加しているからというのもあって「シンデレラ」という言葉につい気が向いてしまうのを抑えつつ、各アイドルの動きを目に焼き付ける。
やはり高垣楓は頭一つ飛びぬけているな。ヴィジュアルもさることながらパフォーマンスが素晴らしい。「お願いシンデレラ」はグループ曲であるにも関わらずつい彼女だけを目で追ってしまいたくなる。
確かに城ヶ崎や他のアイドルも目を引くものがある。しかし高垣楓と比べると何かが足りないように見えてしまうのだ。それは高垣楓の持つ、世界から浮いている様な雰囲気がそう見せているのかもしれない。
ただ僕にはそれ以外にも理由があるとしか思えなかった。そして、これは憶測でしかないのだけれど。
たぶん彼女は見つけているのだろう。
だから彼女はシンデレラなのだ。
それからしばらくの間、千川さんからの注釈を頂きながらライブ映像を観て行った。
グループ曲をはじめ、各アイドルのソロ曲も良いアングルから見ることができた。その中には城ヶ崎の代表曲らしい「TOKIMEKIエスカレート」もあった。やはり店頭に置いてあるような小さいテレビなどで見るよりも大画面で見る方が分りやすい。前回覚えきれなかった部分も今回ので補完できた。
今回のライブ映像を観て学べたことと言えばそれくらいだろう。
商業用にカット割りされていない生の映像なので全体の動きが見えたのは良い。かなりの収穫があった。
「どうでしたか?」
テンションが上がったのか少し声を弾ませた千川さんが訊ねて来た。
やっぱりこの人はアイドルの子達が活躍するのを見るのが好きなんだな……。
「とても勉強になりました。引きの映像で全体の構成が良く見えたので覚えるのが楽でした」
765プロにおける音無小鳥に重ねたということもあるが、アイドルが輝く姿を見て顔を綻ばせた千川さんを僕は良い人だと思った。
この可愛らしく頼り甲斐のある女性は信用できる。
今日一番の収穫はライブ映像ではなく、千川さんと過ごしたこの時間だと断言しよう。
「え、今のだけで覚えたんですか?」
心の中で千川さんへの好感度をぐんと上げていると、千川さんから驚きの声が上がった。
「はい、一度観ましたので」
プロジェクターの映像のため細かい動きは脳内で補完するしかなかったが、全体的な動きは覚えた。
ライブならともかくDVDの場合カット割りのせいで動きが繋がらなくて覚えるのに若干苦労するのだが、今回の映像は教材としてならほぼ満点と言えるものだ。
そのお陰で一度だけで覚えることができた。これが商業用のDVDだったらこうも行かなかっただろう。
「……ちょっと踊ってみて頂いてもいいですか? 覚えた範囲内だけでいいので」
「はい」
千川さんの意図はよくわからなかったけれど、踊れと言われたのだならば踊るだけである。
ソファから立ち上がると空いたスペースへと移動する。
少し動いてもぶつからないように位置を調整すると千川さんへと向き直った。
千川さんは先程までとは違い、神妙な顔でこちらを見てきている。
「始めます」
一言告げた僕はステップを開始した。ついでに歌も覚えたので歌ありだ。
左右前後のコンビネーションステップ、それから上半身の軽快な振り付け。
映像の中のアイドル達がしていた踊りをそのまま再現する。
各アイドルごとに振り付けが違う箇所はその時のセンターポジションの人間のものを都度選んでミックスした。
そうやって歌って踊りながらこんな感じでいいのかなと千川さんの様子を窺うと、彼女は目を見開いて固まっていた。
千川さんの反応をシャットアウトした僕はパフォーマンスを続けた。
「そこまでで結構ですよ」
三曲目が終わったところで千川さんがストップがかかったので踊るのを止める。
まだ十曲以上残っているのだけれど、もういいのだろうか?
疑問に思いながら千川さんの様子を窺えば、千川さんは先程までの固まった顔を止めて、今度は困惑した顔で僕をじっと見詰めていた。
「……今のは、ライブのダンスを再現したんですか?」
「はい。引きの画像だったので全員分踊れます」
質問に答えると千川さんは目を見開いた状態で固まってしまった。
「全員分……全曲?」
「はい、一度見ましたので」
今度は頬が引き攣ったのが見えた。
「本当に……見ただけで、覚えられるんですね」
「はい」
「それは……どの程度の範囲でしょうか?」
「と、おっしゃいますと?」
「一度見れば覚えられるというのは、一曲の範囲内なら何人分同時に再現可能なのか、時間で言えばどの程度の長さかという意味です」
「そういう意味でしたら……十三人構成までかつ基本的なライブ時間ならば最初から最後まで再現が可能です」
僕の答えに今度こそ千川さんは絶句した。同時に千川さんから僕に向けられる目が完全に「変な物」を見る目になっている。
その程度で傷付くことはない。昔からよくそういう目で見られていたからだ。
僕の中では一度見れば再現可能というのは便利能力ではあるが、こうして変な目を向けられる程のものではないと思っている。
言ってしまえば、これってただ単純に動きを覚えるだけなんだよね。それだけでも凄いと言えば凄いけれど、 世の中にはもっと異次元染みた能力を持った人間がいるのだから。僕のこれなんて控えめとさえ言える。
それに覚えたとしても、実際に物にするには何度も踊って動きを体に染み込ませなければならない。また僕自身があまりダンスが上手いわけではないため結局練習を積まなければいけないわけだ。そのため僕の中ではあまり強い能力という認識はなかった。
どうしても歌と比べると数段見劣りしてしまう。逆に言えば歌に関しては極まっているという意味でもある。だから僕はあの時歌が得意だと言ったのだ。
僕の答えを聞いた千川さんは、
「本当に、貴方はなんてものを見つけてきたんですか……」
どこか遠くを見つめるようにして呟いたのだった。
ちひろ「私の胃が無事なのは今日までです!」
一日どころか一話ももたなかった件。
千早係という猛獣使い役を進んで引き受ける菩薩のような優しさとブッダに出て来るウサギのような自己犠牲精神は全346プロスタッフの涙と尊敬、そして哀悼の意を受けるに値するのであった まる
だって最終面接で上の人間からそういう役目だって認識されちゃったんだから仕方ないじゃない。
千早が人間性を取り戻すのが先か、ちひろの胃が死ぬかが先か。
結果はわかりませんが、私はちひろの胃が死ぬことに花京院の魂を賭けるぜ!
次回もお仕事編