アルティメット千早な僕が765プロのオーディションに落ちた件   作:やんや

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ようやく千早をステージに立たせてあげられました。


アルティメットな初ライブその12

 今日はライブ当日だ。

 いよいよ……いや、ようやくこの日が来たのだと思うと、不思議な高揚感を覚える。

 これまでの努力の成果──結果が出る日だから。僕がこれまでやって来たことは無駄では無かったのか、その答えがわかる。

 昨日の時点で、僕達バックダンサーは城ヶ崎と合わせての調整を問題無く終わっており、全員トレーナーから合格が貰えている。僕達の準備は万全、あとはライブの開始を待つだけだ。

 今は昼の十二時を少し回ったくらいで、ライブまではまだ時間があった。僕達が出演する城ヶ崎のライブは他のアイドル達の後になるから、さらに後の出番となる。

 

「今日は本番ですが、皆さんは勉強だと思って先輩達から色々学んでください。今日の全てが皆さんにとって貴重な体験になります」

 

 楽屋に向かう前に、スタッフの控室でプロデューサーと最終打ち合わせをする。打ち合わせという名の気合入れみたいなものだけど。

 なるほど、本番すら新人の僕達にとっては勉強になるわけだ。良い言葉である。

 当然だが、この程度の規模のライブは慣れているのであろう、プロデューサーに緊張している気配はない。いつもの鉄面皮に覆われた表情の奥は今日も隠されたままだ。

 

「プロデューサー……もっと景気の良い言葉はないの? こう……例えば、お前達のライブをしっかり目に焼き付けておくぜ、とかさ!」

「未央ちゃん、プロデューサーさんはそんな高度な言い方しないですよ」

 

 プロデューサーの言葉が物足りなかったのか、ダメ出しをする本田。その本田に島村が微妙に失礼なフォローを入れている。

 

「申し訳ありません。あまり、こういった時に良い言葉が思い浮かばなくて」

 

 本田の無茶ぶりを生真面目に受け取ったプロデューサーは申し訳なさそうに首に手を当てていた。あ、これ本当に困っているやつだ。

 プロデューサーに気の利いたセリフはハードルが高いだろう。やり過ぎるとアレなセリフになるし、言葉一つに調整が必要とか生きるの難しくないのかな。

 ここは僕もフォローくらいしておくべき? 

 

「では、私からもう一つだけ」

 

 と思ったら、意外にも彼には言葉を続ける気があるらしい。真っ直ぐにこちらを見ると、彼なりの激励を言葉にして送ってくれた。

 

「皆さんの頑張りを私はきちんと見て来たつもりです。今日までよく頑張りました……今日のライブは是非楽しんでください」

「お、お~!? プロデューサーにしてはイイ感じのセリフだぁ! プロデューサーっぽい」

「は、はい。何だかプロデューサーみたいです」

 

 いや、プロデューサーだが? 

 当の本人もらしくないと思ったのか、珍しく困った表情をしていた。いや、これは照れているのか? 

 先程の台詞といい、何とも珍しい物を見た気がする。プロデューサーの場合、求められてもあんな事言わないと思っていたから正直意外だった。何か彼の心境を変えるような良い事でもあったのだろうか? 

 まあ、悪い事では無いのだから、深く考える必要は無いか。

 二人もプロデューサーから期待通りの言葉を貰えたことで嬉しそうにしているし、これは幸先が良さそうだ。

 

「みくが応援に来たにゃ!」

 

 前振りも無く、突然入口に設置されている仕切りから前川が顔を出して来た。ザ・オフの格好という感じの普通のファッションをしている。常識的に考えて、こんな所にまで猫耳つけてやって来たらヤバイ奴だ。しかし、そこまで突き抜けられたら大成するとも思う。やはりビジネスか……。

 出演者でも無いのにここまで応援に来てくれるなんて、最初のいざこざからは考えられないくらい仲良くなった気がする。

 僕以外と。

 

「良かった、まだここに居てくれて。みくちゃんがどうしても本番前に声を掛けたいって言ってたから。もちろん、私も応援しに来たからね」

「えっと、ずっとがんばって来たみんなに……一言だけでも声をかけたくて」

 

 三村と緒方も応援に来てくれたらしい。

 最後まで練習に付き合ってくれた彼女達の登場は素直に嬉しいと感じた。実はバックダンサーに選ばれた時に他のプロジェクトメンバーからすれば僕達は抜け駆けしたように思われているんじゃないかと思っていたから。実際、前川が絡んで来たのもその辺りが原因なのだから、他のメンバーからの心証は良くないものと覚悟していた。

 しかし、前川をはじめ、今回のライブにプロジェクトメンバーが観客として観に来てくれていると事前に知らされた時は肩の力が少しだけ抜けた。そして、こうやって目の前に来てくれたことでライブに参加することへの後ろめたさはほとんど払拭されたと言っても良い。

 残念ながら春香や優のチケットをバックダンサーでしかない僕では用意することができなかった。二人に僕の晴れ舞台を見て貰えなかったのだけが残念である。

 

「みくにゃん達、応援に来てくれたんだ!」

「ま、あれだけ練習に付き合ったんだから応援くらいしに来て当然! 本番も頑張ってにゃ!」

「みんなの踊る姿、楽しみにしているね」

「みんなと一緒に、観てるから」

 

 三人からの激励を受け、僕の中のやる気がぐんぐん上がっていく。同じプロジェクトメンバーからの祝福を受けるなんて、アイドル冥利に尽きるってやつだ。

 この調子でライブの方も上手く行くと良いなぁ。

 

 

 控室を出ると、そのままバックダンサーの楽屋に僕達三人だけで向かった。

 すぐにプロデューサーと合流する手筈だけど、今だけは僕達だけで他のバックダンサー達に挨拶をすることになる。これも経験というやつなのだろう。

 楽屋入り口の表札にバックダンサー控室とポップな文字で印刷された貼り紙がされている。この中に今日出演のバックダンサーが詰めているのか……。

 実は今日の今日まで他のバックダンサーと顔合わせをしたことがなかったりする。そんなことをする時間の余裕なんて僕達には無かったし、お互いに所属も違うから機会がなかった。

 僕達346プロ所属のアイドルと違い、今回バックダンサーとして参加している人達は、バックダンサー専門で雇われた外部の人だったり、正規のアイドルを目指して経験を積むために参加しているアイドル候補生なんかが大半だ。昨年765プロでやった大規模なライブの時にバックダンサーをしていた子達も養成所に通うアイドルの卵だったので、僕達みたいな新人とはいえ正式にアイドル事務所所属のアイドルがバックダンサーだけをするのは珍しいことになる。

 すでにアイドルとしての道が約束されている僕達は、果たしてバックダンサーの彼女達に受け入れられるのだろうか? 

 正直不安だ。こういう場面で排斥されるのがいつもの僕のパターンだから。何だか、ライブ本番よりも気合いが入ってしまう。ヘラヘラするタイプではないが、普段にも増して気合を入れて挨拶に臨もう。

 

「よろしくお願いします!」

 

 やはりこういう時、先陣を着るのは本田だった。当たり前のように楽屋に突貫して行く。コミュ力ある人って本当羨ましいよね。本田の物怖じしない態度に一段と尊敬の念を抱いた。

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 本田に続いて島村も楽屋へと入って挨拶をしていた。確か島村は前に手伝いで似たような楽屋に入ったことがあると言っていたのを思い出す。そのアドバンテージがここで活きた感じだ。

 最後に僕が楽屋へと入る。三人目ならもう恐れるものは無いよね? 

 先に入った二人を盾にした感じがして嫌な気分になるが、こんな時の僕はポンコツの極みに立っているから前に出るのは拙いのだ。

 室内の様子を探ると、場の空気は悪くなさそうに感じる。本田達の挨拶にきちんと返事があった。これなら僕も流れで行ける気がするね。

 そう思って楽屋へと入ったのだが、中に詰めていたバックダンサー達の反応は僕が期待していたものとは違っていた。

 僕が楽屋に入った瞬間、室内がザワ付いたのだ。本田と島村の時は何もなかったのに、僕の番になってこの反応はどういうことだろう? 

 と思ったら、次の瞬間にはサッと波が引くように一気に室内が静まり返った。

 

「皆さん、こちらに」

 

 何かリアクションでも返した方が良いのかと考えを巡らせていると、入り口に現れたプロデューサーに呼ばれてしまった。

 挨拶もまともにできないうちに楽屋を後にする。呼ばれはしたけれど、どこに向かおうと言うのだろうか。

 その疑問はずらりと並ぶ寄贈品の花々で埋め尽くされた廊下を通ったことでほとんど晴れたと言える。

 辿り着いたのは、今回の出演アイドル達の楽屋だった。

 楽屋には一方的にだが知っている顔が揃っていた。今回のライブのメインキャストであるアイドル達が四人、ライブ前の準備を始めているところだった。

 

「わぁっ……プロデューサーさん、来てくれたんですか!?」

 

 その中の一人、黒髪の少女がプロデューサーが来たのに気づくと、満面の笑みで彼へと駆け寄って行った。

 

「プロデューサーっ! お久しぶりですね!」

「あら、貴方がライブ前に顔を見せにくるなんて珍しいわね」

 

 他のアイドル達もプロデューサーの到来に嬉しそうにしていた。各々好き勝手にプロデューサーへと話しかけている。一人だけ我関せずという感じの子もいるが……。

 

「ど、どうしようか?」

「とても邪魔できる空気じゃないですよね……」

「待つしかない感じね」

 

 プロデューサーと彼女達の会話に、僕達はすっかり置いてけぼりを食らってしまった。

 見た感じ、プロデューサーと彼女らアイドルは旧知の仲のようだし、久しぶりに会ったのなら積もる話もあるだろう。それを邪魔するほど無粋ではないつもりだ。

 ちなみに、城ヶ崎の姿は見当たらなかった。

 

「失礼、今日は皆さんの応援というよりも、彼女達を紹介しに伺いました……出演者の方々にご挨拶を」

 

 心の準備もなく、唐突に大先輩の楽屋に通され、前置きもなく挨拶しろと言われ戸惑う。他の二人を見ると、目の前の人達のことをよく知っているらしく、緊張した顔をしつつ喜色に溢れた表情を浮かべ、キラキラとした目で彼女達を見ていた。

 そんなに嬉しいのか……つい今しがたまでガン無視されていた相手だけど? 

 確かに、憧れのアイドルと間近で会える機会って同じ事務所に入らない限りそうそう無いからね。役得だと喜んでも不思議ではないか。

 僕だって765プロのメンバーに会ったら感動するだろうし、目をキラキラさせる自信はある。でも、目の前の人達のことはよく知らないから、そこまで感動はしなかった。当然ライブ映像で顔と実力程度は知っていたけど。

 

「今回バックダンサーとして出演させていただきます、島村卯月です!」

「本田未央です! 本日はよろしくお願いします!」

「如月千早です。よろしくお願いいたします」

 

 控室に居る先輩アイドル達が挨拶をする僕達に注目する。

 最初に島村、次に本田を見る。興味深そうにしている人もいれば、微笑ましそうな目を向けている人もいた。

 皆輝いた顔をしており、これが346プロのエース達なのかと思うと僕も負けていられないと奮起する思いだった。

 しかし、最後に僕を見た先輩方の目は、前二人の時と違っていた。

 

『これが如月千早か』

 

 全員の目が語っている。

 値踏み、とは違う。この目は、すでに値段がわかっている物に対して興味を持っている人間がする目だ。僕の情報をある程度知っているからできる目だ。値段に価値が釣り合っているか探っている。

 で、誰から僕の値を聞いた? 

 先輩アイドル達からの注目を浴びて委縮する程ヤワではないので、特に何かリアクションを返すことはしない。もしかしたら今のだって僕の勘違いの妄想の可能性だってあるのだから。相手が何かしてこない限り僕は何もしないつもりだ。

 だって、先手を譲らなければ不公平でしょ。

 

「はじめまして! 日野茜っていいます!」

 

 おっと、このまま挨拶だけで終わるかと思いきや、絡め手とか何それって感じの人が目の前に現れたぞ。纏う空気が陽の者のそれだ。つまり、僕の天敵。

 確か今回の出演者である日野茜だったか。誰が見てもパッション属性のアイドルである。その彼女が他のアイドルを置いてけぼりにし、本田と島村を無視する形で僕の前で堂々と名乗りを上げて来た。

 その意味するところは正直わからない。

 

「初めまして、本日はよろしくお願いいたします」

「はいっ、よろしくお願いします! ずっと貴女には会いたいと思ってました! 握手しましょう!」

 

 わぁ……こ、こわーい! 

 こちらが一つ返事をする度に、二つ話を進めてくるんだけどぉ……。

 とりあえず、勢いよく差し出された手を握る。すると日野は「よろしくお願いします!」と言いながら力強く手を握るとブンブンと手を振り回した。どんだけテンションが高い人なんだ。僕はこの人と同じ空間に閉じ込められたら、一分も経過しないうちにその部屋を爆砕するだろう。あと僕じゃなかったら腕痛めると思うから本田達には止めてあげてね? 

 

「やりますね!」

 

 ……何が? 

 僕は一体何を仕掛けられて何に感心されたんだ。バトル漫画の序盤に意味深なセリフとともに出て来たキャラが最終回になっても出てこなかったくらい釈然としない物を感じるぞ。

 もういっそのこと拳で語り合わないか? 

 

「茜ちゃん、新人の子に急に絡みに行ったらびっくりしちゃうよ?」

 

 日野の扱いに困っていると、横から黒髪ショートの女の子が日野を窘めるように割って入ってくれた。

 確か名前は小日向美穂とかいったはずだ。日野とは違って大人しいイメージの、これがキュートのお手本ですよといった感じの子だ。

 オールドタイプ……失礼、オーソドックスタイプなアイドルだ。こういう子は地味ながら根強い人気が出るタイプだよね。僕にはあまり無い魅力を持っている。

 

「ごめんなさい、如月さん。ライブ前ということもあって、茜ちゃん少しテンションが高いみたいで……いきなりで驚かせちゃいましたよね?」

「なるほど。いえ、気にしないでください」

 

 日野のことをフォローしている姿は気遣いのできる良い人という印象を与えるだろう。たぶん本田や島村も同様の印象を小日向から受けたに違いない。

 しかし、僕には今のやり取りに違和感を覚えるのだった。何か僕は見落としていないだろうか? 

 

「美穂ちゃん! まだ私が話しているんですよ!?」

「今は他の皆が居る場所だから……」

「くぅ~っ……仕方ないです。美穂ちゃんがそう言うのならば」

 

 まだ絡み足りないのか、小日向に抗議の大声を上げる日野だったが、再度小日向に窘められると渋々引き下がって行った。

 危なかった。もう少し意味不明なテンションで絡まれていたら、日野の顔面にマッハ突きをお見舞いするところだった。

 

「今日が初めてのライブなんですか?」

「は、はい!」

 

 日野を遠ざけた小日向は僕から視線を外すと、島村達の方へと話しかけていた。実に当たり障りのない会話だ。普通の人に見える。とても。

 

「実際に見ると、とても存在感のある子なんですね……」

 

 小日向達のやり取りに参加するか迷っていると、別の方向から声を掛けられた。

 

「あ、初めまして。佐久間まゆっていいます。如月千早さん、ですよね?」

 

 ゆるふわなセミロングの髪をした少女が椅子に座り、ふわふわとした笑顔を浮かべこちらを見上げていた。

 名前は本人も名乗った通り、佐久間まゆという。何だか独特な雰囲気を持っている子だ。ぱっと見ると小日向同様にスタンダードなキュートアイドルなんだけど、皮一枚めくるとヤバイ何かが出て来そうだと僕の直感が告げていた。しかし、他の子と違い、僕に対する悪意はまったくと言っていいほど感じられないので、それは気にしなくていい属性だろう。

 今問題にすべきは何故僕に話しかけて来たのかということだ。

 

「はい、如月千早といいます。本日は城ヶ崎さんのバックダンサーとして出演させていただきます。よろしくお願いいたします」

「そんなに畏まって話さなくてもいいですよ?」

「いや、ですが……」

 

 硬い口調の僕に佐久間は畏まらなくていいと言ってくれたが、新人の僕が先輩アイドルに砕けた口調を使うわけにもいかない。相手が良くても周りが許さないだろう。

 

「大丈夫ですよ。そういうの、あまり気にしない人が多いですから……それに、如月さんと私は同じ、ですから」

「同じ……?」

 

 はて、何が同じだと言うのか。言っちゃ悪いが、この人と同類だと思われるのは凄く名誉棄損な気がする。お互いにとって。

 

「私は如月さんの事を直接応援はできませんが、同じ立場の人間として応援はしていますからね?」

「え、はい? え?」

「うふふ……私もプロデューサーさんと……」

 

 いや、もう、この時点で僕の会話用のスタミナポイントは底を尽きた……。

 駄目だ。この子とは会話が成立する気がしない。

 例えるなら、ラーメン屋に入ってラーメンを頼んでおきながら、麺を食べずにスープだけ飲んで帰るみたいな……。

 僕とは根本的に価値観が違う気がする。言語として理解はしても、文化として理解できない。

 だから、この子とは一生、利害が不一致する気がしない。利害が一致するのではなく、お互いの利にまったく干渉し合わないという意味で不一致しないのである。

 しかし、この中では唯一僕に対してノーマルな感情を持っているのであまり無碍にもできない。

 

「そ、そうですね。同じですね。ハハハ」

「はい、同じです。うふふ」

 

 しばらく佐久間と二人でうふふあははと笑い合う。

 地獄かな? 

 誰か助けてくれないかな? 

 

「それでは、そろそろ時間となりますのでお暇させていただきましょう」

 

 心から助けを求める僕には、プロデューサーのその言葉が福音に聞こえた。さすがプロデューサー、欲しい言葉を欲しいタイミングでくれるなんて。

 よ、大将。日本一! 

 

「えー! もっと居て下さいよ!」

「そうですよ、最近のお話とかもっと聞かせてください」

 

 不満をあらわにするアイドル達にプロデューサーが困り顔で首に手を当てている。

 別にいいよ、どうせ時間はあるのだから彼女達が満足するまで相手をしてやって欲しい。

 

「ですが、私は彼女達のプロデューサーとして仕事がありますので……」

 

 前言撤回。この人は駄目な言葉を最悪のタイミングでよこしやがる人だ。

 プロデューサーの言葉を聞いた先輩アイドル達の視線が、スッと音を立てるように彼から僕へとスライドする。

 いや、だから、どうしてそこで僕にだけ視線が集まるのかと。僕が何をしたって言うんすかねぇ!? 

 

 その後は、城ヶ崎がやって来て室内の空気に「何事?!」と驚いていたり、部長さんが偉そうな人を連れて来て場の空気がピリッとしたりしたが、一応関係者との顔合わせは終わった。

 ちなみに、偉そうな人は僕の事を知っていたらしい。何で? 

 あと、未来の四文字目ってどう言う意味だろう……。

 

 

 ライブ開始まで入念に準備とチェックを進めるスタッフ達を横目に、ジャージに着替えた僕達三人は舞台裏で進行表を手に打ち合わせをしていた。

 打ち合わせと言っても僕達に何かを決定する権限は無いため、書いてあるプログラムの意味を確認するだけだが。

 

「えっと、上手と下手って、どっちがどっちでしたっけ?」

「上手がステージから見て左、下手が右ですよ」

「右手が上手で、左手が下手……」

「それは観客席から見た場合ね」

 

 今はこの後のステージ上での最終リハーサルの段取りを覚えている。僕達は踊りは憶えていても、入退場などの細かな立ち回りの方をまったく知らなかった。こればっかりは経験が物を言うだろう。慣れたら進行表だけで全て理解できるようになるのだろうか? 

 一応子供のころからアイドルになる勉強をして来ているので、基本的な知識はあるつもりだ。実際にステージに立っての動きを経験していないが、それでも二人に基礎を教えるくらいはできる。

 こういう時、一緒にステージに立つ城ヶ崎に色々教えて貰いたいけれど、彼女は彼女で曲のメインを張るわけだから僕達を教える余裕なんてないだろう。なんとか僕達だけで乗り切る必要があった。

 それよりも、先ほどから本田の顔色が悪い気がする。アイドルの楽屋に行くまでは結構平気そうな顔をしていたのに、今では先程までの覇気を感じられなくなっていた。

 

「……本田さん、どうかした?」

「え? いやっ、なんでもないよ?」

 

 様子のおかしい本田に声を掛けてみるも、何でもないとはぐらかされてしまう。明らかに何かあるって顔で言われても説得力がない。

 

「如月さんは、緊張とかしないの?」

「緊張?」

 

 なんで緊張の話が今出て来るのだろうか。

 

「もうすぐライブ本番だと思うと緊張とかしないかなって、さ」

「はぁ……なる、ほど?」

 

 客観的に自分の精神状態を考えても、今の僕はこれっぽっちも緊張していない。最終面接を乗り切った僕には、パフォーマンスを見せる状況で緊張するなんてことは今後起きないだろう。

 失敗を絶対にしないという自信がある限り、ステージ上で不安を抱く理由は僕には無かった。

 

「特に緊張することはないわね。楽しみ、という感情はもちろんあるけれど」

「如月さん凄いですね……」

 

 素直に精神状態を伝えたら島村に感心されてしまった。ただの経験値の違いだと思うけどなぁ。

 

「さっすが如月さん、色々と図太いね!」

「未央ちゃん……」

 

 僕の答えに表面上明るく答える本田だったが、顔色が悪いことに変わりはなかった。今の話の流れからすると、もしかして本田は今緊張しているのだろうか? 

 コミュ強で陽キャなのに? 

 どうやって? 

 

「ありがとう」

 

 ここで素直に「何で緊張してんの?」とか訊いたら拙いことくらいわかる。だから適当にお茶を濁してその場での会話を終わらせたのだった。

 

 

 実際にステージに立ってのリハーサルに入っても本田と、あと島村の顔色は優れなかった。音響スタッフと城ヶ崎のやり取りを見て余計緊張してしまっているように見える。

 ステージの装置を使って通しのリハーサルをするためにブーツのみ衣装の物へと履き替えた時には悲壮感すら漂わせている二人にさすがに何か声を掛けた方が良いかと思い始めた。しかし、こういう場面で緊張する人間ではないと思われている僕が余計な一言を言って怒らせてしまわないか不安だ。だから今は静観することしかできない。

 

「頭、気を付けて」

 

 一瞬ディスられたかと思ったら、ステージの奈落から飛び出す昇降装置の柵にぶつからないよう島村が注意されていただけだった。注意された当の島村は、いつもだったら大げさに慌ててみせるところを返事も無く言われるままに迫の上にスタンバっただけだった。本田の方もいつものおちゃらけた雰囲気が完全になくなっている。

 うーん……。

 

「結構勢いがあるんで、着地の時は気を付けてください……さん、に、いち!」

 

 スタッフのカウントダウンで僕達の乗った迫が昇降装置からステージまで跳び上がる。

 ほぼ人力のはずなのに結構勢いがあるね。上まで上り切ったら、その勢いのままステージに放り出されてしまった。僕は勢いをそのままに空中でバランスを取ると、そのまま足場へと危なげなく着地する。

 ……何これ、凄く楽しいんだけど。爆風で舞い上がったコンテナの蓋を足場に戦った思い出が蘇る。あの時は落ちたら死ぬと思って攻撃の手を緩めていたけれど、今なら死ぬ心配をしなくていいから決着をつけられるかも知れない。劈け僕の”嘆きの拳(スクリーミング・フィスト)”。

 

「きゃっ」

「わっ?」

 

 さて、文字通りステージに上がったことだし、ダンスをはじめよう……そう思った時に、隣から小さな悲鳴と戸惑いの声が聞こえたので顔を向けると、島村と本田が尻もちを突いている姿が目に入った。どうやら姿勢の制御が上手くいかず転んでしまったらしい。

 二人は自分達の失敗に呆然とした顔をしている。

 ……そう言えば、これの練習って僕達してなかったよね。する環境も時間も無かったけど。

 

「一旦ストップ!」

 

 僕達が入りを失敗したことで曲が止まってしまった。

 城ヶ崎を見ると僕達のハプニングを気にすることなく、きちんと自分の振付けを続けられていた。

 本当ならば僕も二人を心配する前に踊り始めなければいけなかったのだろう。リハーサルなのだから動きの確認を優先するべきだった。しかし、二人に気を取られて動き出せなかったのは完全に僕の落ち度だった。

 

「もう一回行っとこうかー!」

 

 スタッフのリテイクの声が掛かり、もう一度始めからとなった。たぶん、ここが一番練習のしどころだとわかった。

 しかしながら、その後のリハーサルでも僕達は上手く登場することができなかった。まあ、僕はできていたのだけど、二人の方が体幹をブレさせてしまい踊り始めることができなかったのだ。さすがにそれに合わせるのが間違いであるのはわかるし、ダンスと違い錯覚を利用して誤魔化すこともできない。完全に詰んでいた。

 

「もう一回できませんか……?」

「これ以上は厳しいですね」

 

 何回かリハを試みたが、何度も同じ登場シーンで失敗してしまい最後は時間切れとなってしまった。島村がスタッフにもう一度できないかとお願いするも、スタッフ側はにべもなく断り別の場所へと行ってしまう。

 後には海底よりも重く息苦しい空間だけが残された。(体験からの比較)

 

「……どうしましょうか。如月さん、こういう時ってどうしたら?」

 

 不安そうな顔をしている島村がどうしようかと話を持ち振って来る。

 

「んー、そうですね。とりあえず、この後どうにか時間を作って貰えるようお願いしつつ、私達はダンスの方だけでも合わせておくしかないでしょうね」

 

 実は僕の方はあまり深刻に考えていなかった。

 できない物はできないのだから仕方がないではないか。迫から昇降装置を使っての登場なんて普通素人がやるようなことではない。こんなライブ当日のリハーサルの僅かな時間で練習するようなものではない。

 ……というのは、自分がちゃんとできているから言えることなのかも。僕が逆の立場だったら焦っていたかもしれない。いや、それでも、この状況すら楽しんでいただろうか……? 

 アニメでも、春香達が竜宮小町がライブに間に合わない時に皆で力を合わせて乗り切ったことを思い出し、こういうのをいかに乗り越えようか考えるとワクワクしてしまう。それに、ライブ直前でのハプニングとかアイドルっぽい、などと思っている自分は不謹慎な奴なのだろう。

 

「そう、ですね。ダンスだけでも、もう一度練習しておきましょうか……」

 

 納得はしていなくても、何かしら具体的な案を提示されると幾らか安心するものである。それを狙って言ってみたのだが、島村の表情が少し和らいだのを見るにどうやら成功したらしい。

 本田の方はと言うと、会話に加わることはなく下を向いてしまっている。こちらの方が重症かもしれない。

 

「本田さんも、ダンスの練習をしておきましょう?」

「そう、だね……」

 

 返事はできる分、末期まではいっていない感じだ。

 しかし、このままでは拙いよね。ムードメーカーの本田がこれでは島村まで引っ張られてテンションが下向きになるばかりだ。

 

「如月さんはあんまり不安そうに見えませんね」

「……私は昔に似たような体験をしたことがあったから」

 

 あの体験がこんなところで役に立つとは思っていなかった。何事も経験とはよく言ったものだ。よければ今度二人も経験してみるといい。失敗すると数十トンの火薬の爆発に巻き込まれることになるけど。

 などと言える空気ではない。

 

「良いよね、自分は上手くできてるからって余裕があって」

「み、未央ちゃんっ?」

 

 ぼそりと本田の口から漏れ出た言葉はあえて聞かなかったことにした。

 こういう時にコミュニケーションの無さが悔やまれる。僕が今何か言うと絶対余計なことを言って拗れるに決まっているからだ。

 

「ゴメン、ちょっと頭冷やして来るねっ」

 

 本田はそれだけ言い残すとどこかへと立ち去って行ってしまった。たぶんトイレかな? 

 島村と二人で残されてしまった。

 何だか島村と二人っきりになるの久しぶりな気がする。初めて会った時以来だろうか。

 

「あの、未央ちゃんのことですけど……」

「ん? 本田さんがどうかしましたか?」

「……えっと、そのぉ~……怒ってないですか?」

「怒る理由がないですね」

 

 これは本音だ。僕が本田に怒る理由はない。

 本田は不安のせいで色々頭の中がこんがらがっているだけだ。だから、少し何か言葉が漏れた出た程度でそれに怒るのは間違っている。それに仲間とのぶつかり合いとかテンション上がるし。

 それすらできない相手がいるのだから。

 ぶつかり合えることは幸せなことなのだから。

 

「如月さんって、大人ですよね……」

「……そう、見えますか?」

 

 優から十歳の少女扱いされたことがあるのに? 

 なんだか最近は春香からも年下の子供扱いされている気がするのだけど、気のせいだよね……? 

 実際僕の方が一年弱年下ではあるけども、同い年ではあるんだよ。なのに春香の僕の扱いは子供のそれなのである。さすがの僕でもご飯は自分で食べられるし、体だって自分で拭けるのだ。

 

「私がそういう感情に疎いだけですよ……。それに、本田さんってまだ十五歳でしょう? ついこの間まで中学生だった子の言葉で怒るのも大人げないと思うんですよ」

「そういうところが大人だと思います。私はあまりそういうことありませんでしたけれど、もし言われたらきっと困っちゃうと思いますから」

 

 そう言えば、島村と僕も同年代だった気がする。僕が早生まれなので来年の二月までは十七歳で、島村がたぶん今年十七歳だから同い年になるのかな? 

 だから、三人の中で本田だけが十五歳で年下と考えると、余計に彼女に怒る気にならないだろう。だって双海姉妹と同い年で、高槻より年下なんだから……。

 ……え、待って、双海って中学三年生なの? 高槻が高校生ってまじで? 

 言って僕も学生だったら高校三年生だ。来年は大学生の年齢である。

 時の流れって怖い! 

 

「それに、仲間の言葉に怒っても良くないですから」

「未央ちゃんが仲間だから、ですか……」

「はい。仲間の言葉にあれこれ騒ぐのは好きじゃないんです」

 

 よく春香から765プロのメンバー同士がじゃれ合ったり喧嘩したりしていると聞かされては羨ましいと思っていたのだ。喧嘩をしたいとは思わないが、じゃれ合いとかは仲間っぽくて凄く憧れる。

 僕も346プロで本田とそういう関係が築けるだろうか。まだまだ心に壁があるので気長に仲良くなって行けばいいと思っている。

 

「あの、私は……!」

「はい?」

 

 唐突に声のトーンを上げる島村。もじもじと落ち着かない様子で体を揺らし、指を何度も組み替えている。何か言いたげな様子に、しかし内容が思い至らず首を傾げるしかない。

 あ、トイレ? 行ってどうぞ。

 

「私は、如月さんの……仲間、ですか?」

「えっ?」

 

 想定していなかった質問に言葉に思わず聞き返してしまった。あんまりこういう繊細な質問は受け付けたくないのだが。「私達友達だよね?」みたいな質問をクラスメイトがしているのを見て冷めた思い出があるから余計そう思ってしまう。

 端的に答えると、仲間ではない。

 と言うか、島村と仲間かどうかなんて考えたこともなかった。僕にとって仲間って本田くらいしか居ないから。島村を頭数に入れるという発想がそもそもなかった。

 しかし、この質問が出るということは、島村はそれを疑問に思う程度には仲間意識があったということだろうか? 

 

「……仲間、なのでしょうか?」

 

 僕は判断できない。だから、逆に訊ねてみた。島村に判断を委ねたと言ってもいい。僕はどちらでも良いから……。

 期待しないことには慣れている。

 

「私は……如月さんも、未央ちゃんのことも……仲間だと思っています。違いましたか……?」

 

 それが島村の答えだった。

 さらに違うかと訊かれてしまえば、僕は答えなければならないだろう。

 

「そう……なら、私達は仲間ね」

 

 つまり、そういうことである。

 仲間かと問い、仲間だと頷いて貰い、そこで初めて仲間だと思える関係を健全とは言わない。でも、仲間だと思った相手が実は仲間じゃなかったと知ってしまうよりは、僕の心は傷付かないで済む。

 

「は、はいっ……! 仲間です!」

 

 ただの確認行為に、大げさなくらいに島村は喜んでみせた。腹芸ができないタイプに見えるから、本心で喜んでいるのだろう。

 ……そんなに、僕と仲間になったことが嬉しいのか。

 

「未央ちゃんが戻ったら、ダンスの練習頑張りましょうね!」

「ええ、まだ直せる場所があるものね」

「前から思ってましたけど、如月さんって凄くよく見てますよね。自分でもわかっていなかった動きとか的確に指摘してくれますし。まるでトレーナーさんみたいでした」

「誰かに習うことがなかったから、見て覚えるしかなくて、それでよく見えるようになったのよ」

 

 二人っきりになったことで気まずい空気になるかと思いきや、こうして島村とアイドルの話ができるようになっていた。出会った当初のぎこちなさに比べれば驚くほどスムーズな会話ができたと思う。

 

「なるほどっ。あ、あと、ダンスの動きなんですけど──」

「ああ、そこは──」

 

 本田が戻るまでの間、僕達はアイドル話に花を咲かせたのだった。

 

 

 

 ライブが始まった。

 楽屋備え付けのモニターからライブの映像が流れているのを僕は椅子に座りながら眺めている。

 あの後、若干気まずそうな顔をした本田が戻って来たので、僕達は何でもないという顔でダンスレッスンに誘った。何もしないでいるよりはマシと思ったのか、ノリ気の本田を伴い、空きスペースでダンスレッスンを続けていた。おかげで細かい修正ができたけれど、結局本番まで登場シーンの練習をすることはできなかった。

 今はこうして楽屋でいつ呼ばれてもいいように待機状態である。

 モニターの中では城ヶ崎を筆頭に、アイドル達が晴れやかなステージを演じていた。改めて見ると、346プロのアイドルって、他所のプロダクションよりも優秀なアイドルが多いような気がする。実は765プロの続編の舞台が346プロだったと言われても信じられるくらい粒揃いだ。

 そう思えてしまうくらい、今ステージの上にいるアイドル達は皆一流としての風格と輝きを持っている。

 そんな人達のバックダンサーを今回やるわけだけど……。

 今ちょっとだけピンチだったりする。

 ずっと緊張しっぱなしの本田がライブが始まってから完全に沈黙してしまっているのだ。顔は引き攣る余裕すらなくずっと無表情になっており、顔色も心配になるくらい白く血の気が引いている。

 さすがに呆然自失となる程の緊張ではないみたいだけれど、それでも本番のステージに支障を来すレベルで重圧を感じてしまっているようだ。

 

「ライブ、始まっちゃいましたね」

 

 何の気なしに呟かれた島村の言葉を聞いて本田の肩がぴくりと動く。動くだけで何も言おうとしない。いつもの彼女なら「いよいよ本番かぁ!」なんて顔を輝かせていてもおかしくはないのに、今はそれがない。

 

「未央ちゃん、大丈夫ですか……?」

「え……? そう、かなぁ?」

 

 あまり本田の状態を理解していないらしい島村が声を掛けて、ようやく口を開いても心ここに在らずといった調子だ。それくらいしか反応を返せないところを見ると、いよいよやばいのかもしれない。

 本当は彼女のメンタルが弱いことを僕は知っていた。最後の最後に踏ん張れる程の何かを、本田が持っていないことを知っていた。だから、本来は僕や島村が本田を支えてあげるべきだったのだ。しかし、島村の方にその余裕はなく、僕の方は能天気にライブに浮かれているばかりで、本田のフォローができないままここまで来てしまった。

 今更何か言ったところで、この状況を変える言葉を僕は持っていない。逆に何かを言うことで事態を悪化させてしまうかもしれない恐れすらある。

 だから、僕は何も言わない。

 また、何も言わない。春香に何も言わなかった弱い僕が再び顔を出して来た。

 

 ──でも、仕方ないよね? 

 

 そう、仕方ない。

 だって僕は一言余計なことを言ってしまうから。それでキョウは離れて行った。言わない方が良いことだってあるんだって教えられた。

 

 ──嫌われたくないもんね? 

 

 そう、嫌われたくないから。

 何も言わなければ、本田はただ緊張しているだけで済む。ここで僕が何かを言って険悪なムードになったら、それこそライブどころではなくなってしまうかもしれない。

 

 ──痛いのは嫌だもんね? 

 

 そう、痛いのは嫌だ。

 心の痛みはずっと残る。何十年先になっても消えないことだってあるんだ。何百年後かに、今日の日を後悔する日が来て欲しくない。

 

 だから、これでいい。ある程度は未来予知の力で本田をカバーできるのだから。ライブ中は常に全力で予知し続ければハプニングにだって対応できる。そうすれば本田が不調のままでも問題ない。

 

 ──そう、問題ない。

 

 本田にとっての初めてのライブが、そんな紛い物で良いわけがないだろ? 

 

 ──。

 

 黙ってろ。今日のライブにお前の居場所なんてない。

 それまで僕の頭の中で甘い言葉を囁いていた奴を意識の底へと押し込む。ちょっと油断すると、すぐ弱い僕が出て来てしまうなぁ。

 いけないことだ。仲間の晴れの舞台を汚してしまうところだった。

 せっかくの初ライブなのだから、本当の実力で勝負させてあげたいじゃないか。それができるのは年上の僕の仕事だ。同じ年上組の島村は……今度頑張ってくれればいい。

 とは言っても、僕自身に現状の解決案は無い。どれだけ頭を捻っても何も浮かびやしないのだ。だって僕ってコミュ障だから。余計なことを言ってしまうから。

 こういう時、”如月千早”は役に立たない。全員技能特化型だからコミュニケーション能力無いんだよね……。

「お前よりはマシだ」と抗議が入った気がしたけど無視する。お前らも大概なんだよ! 

 能力で解決できないことになると、途端にポンコツになる僕である。でも、そこで諦めるわけにはいかない。駄目で終わらせたくないから。

 

「少し、席を外すわね」

 

 二人に言い残して楽屋を出ていく。

 別に逃げたとかじゃない。ちょっと電話をするだけだ。

 楽屋から出ると人の通りがない廊下の奥へと移動し、持ちだしたケータイで相手へと通話を掛ける。

 

『……もしもし、お姉ちゃん?』

 

 通話を掛けたのは優だった。

 こんな時、頼れる相手って僕には優しか居ないんだよね。コミュ強の春香に頼ると力技勧められるし……。

 

「ごめんね、ちょ~……っと、ピンチでぇ」

『うん、凄くピンチなことは伝わったよ』

 

 嘘っ? これで伝わるの? 

 流石は優だ。僕のことを何でもわかってくれる。

 

『今ライブ中じゃないの?』

「私の出番は後の方だから。それで、ちょっと本番前に問題が発生しちゃって……」

『僕で解決できるようなことかわからないけれど、お姉ちゃんが解決できないってことは、どうせ人間関係の話だろうから聞くだけ聞いてみるよ』

 

 本当に僕のことを理解してくれているね。若干引っかかる言い方なのはたぶんケータイの電波が悪いからだろう。

 

「実は……」

 

 僕が優に事情を説明しようとすると、廊下の向こう側から城ヶ崎がやって来るのが見えた。

 はて、今はライブ中では。まあ、次の出番までステージに上がらないのだから自由にするのは問題ないのか。

 城ヶ崎は僕が廊下に居るのに気付くと、笑顔で手を振って来た。慣れているのか緊張した様子は見られない。

 電話中ということもあり、深めに会釈だけ返す。

 そのままこちらに来るかと思いきや、彼女は本田達の居る楽屋の中へと入って行ってしまった。

 僕達に何か用でもあるのだろうか? 案外、激励でもしに来てくれたのかも知れない。あれで本田達には後輩想いの先輩としての姿を見せているからね。

 

『お姉ちゃん?』

「あ、ごめんなさい。ちょっと先輩の方が通ったから。で、事情なのだけど……」

 

 待たせてしまった優へと謝ると、改めて事情を説明した。

 リハーサルで迫を使っての登場が上手くいかなかったこと。本番前にバックダンサーの一人が緊張で不調になっていること。その相手と少しぎこちなくなってしまったこと。あまり上手く説明できた自信はないけれど、可能な限り優に詳細を伝えた。

 僕から事情を聞きながら、優は合間に幾つか質問を挟んで来た。僕にはその質問の意味がわからなかったけれど、優の方が人間関係の性能は良いので素直に答えた。

 やがて事情を説明し終わると、優は何か納得がいった感じで「なるほど」と呟く。

 

『解決方法だけど……』

「うん、うん。何があるかな? 私は何をすればいい? なんて言えばいい?」

 

 もう答えが出ちゃったの? 

 凄いなぁ優は。僕なら千年あっても無理だわ。

 焦る気持ちを抑えて優の答えを待つ。

 

『解決方法は無いよ』

「え゛」

 

 予想外の答えに喉から変な音が出てしまった。

 

「待って、解決できないくらい絶望的な状況なの? 本当に、何もないの?」

『無いよ』

 

 優なら何か良い案があると思っていたから、何も無いという答えに何かないかと食い下がるも、優から出たのは同じく無いという絶望的な物だけだった。

 

「そう……何もない、のね」

 

 優への失望感は無い。元から当事者の僕に解決できない事態を部外者の優に頼ることが反則だったのだ。それで解決方法が無いと言われて失望するなんて理不尽過ぎる。

 むしろこんな話を根気よく聞いてくれただけでも大助かりだ。

 

「ごめんね、変な質問しちゃって。話を聞いてくれてありがとう。それじゃ、もうそろそろ時間だから──」

 

 最後に優の言葉が聞けてよかったと思う。それだけでも電話した甲斐はあった。本田の方は島村と二人で何とかフォローしよう。

 失意を抱いたまま、優との通話を終えようとする。

 

『僕に解決策は無いけれど、お姉ちゃんにはあるんじゃないの?』

「──え?」

 

 通話を終えるぎりぎりで耳に届いた優の言葉──、それはまさに想定外のものだった。

 問題の根底として、僕に解決策は無い。だってコミュニケーションの話だから。その分野に僕が活躍する余地はない。

 ずっとそうだった。これまでも、そしてこれからも、ずっと……それが現実だと思っていた。

 

「だって、私には何もしてあげられないわ」

『何もしなくていいよ』

「何もしなくていいって、解決策は私にあるんでしょう? でも、何もしなくていいって、どういうこと?」

『お姉ちゃんは何もしなくていいんだよ。ただ、今の気持ちを伝えるだけでいいはずだよ。きっと、それだけでその人は大丈夫になると思う。たぶんだけど……』

「伝えるって……」

 

 気持ちを? 

 どうしてそんなことをする必要があるのだろうか。いや、それをしてどうなるのだろうか。

 よく意味がわからない。

 

『その人はきっと不安に思っている。でも、それってライブに対してだけなのかな?』

「それは、そうなんじゃないの? ライブで緊張しているから、あんなに不調になっているのだろうし……実際、ガチガチだし、いつもと様子も違うし」

『お姉ちゃんが言うなら、そうなのかもしれないね。でもね、きっとそれだけじゃないよ。その人は、今、ライブを一人でやろうとしているんじゃないかな』

「一人でライブを?」

『なんだか、その緊張しちゃってる人って、一人で背負いすぎている気がするんだよね。それでいてお姉ちゃんに刺々しい態度見せているみたいだし?』

 

 今の説明でそこまでわかるの凄すぎひん? 

 

『だから、お姉ちゃんがその人をどう思っているのか、きちんと言葉で伝えるべきだと思う。あと、もう一人の人にもね。そうすれば、その人はお姉ちゃんをちゃんと見てくれるから。一人じゃないと理解すれば緊張もましになるんじゃないかな?』

「そんなこと……」

『できない?』

 

 できないかと訊かれたら……できないと思う。

 

「だって、私の言葉は相手を怒らせちゃうから」

『……』

「余計なことを言っちゃって、相手を怒らせるのが私だから。一言多い私は、いつだって失敗して来たから。だから言えないわ」

 

 余計なことを言って、「もういい」と切り捨てられることが怖い。

 

『伝えたいの? 伝えたくないの?』

「伝えたいけど。それは今でもなくていいというかぁ。いつかどこかで、言葉を勉強してからでも遅くないと思うんだよねぇ」

『明日やるって言ってやらないタイプでしょ、お姉ちゃんは』

「明日やるとすら言わないタイプよ」

『駄目さを上乗せしないでよ……』

「それに、私が何か言っても、でしょ? 伝わるかわからないし、伝わっても仕方ないし……だし」

 

 伝えたところで何になると言うのだろう。

 

『言いたいことを言わないと、伝えたいことが伝わらないよ。言わなくても伝わるだなんて、甘えなんだから』

「……でも、だってぇ」

 

 わかってあげられなかった僕が、言わないと伝わらないなんて言ったらズルいじゃないか。

 言わなかったことが悪いなんて思ってしまったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『それにさ、お姉ちゃんは一言多いって言っているけどさ……』

 

 うじうじと悩む僕に、電話の向こう側の優が若干呆れが混じった声で告げた。

 

『お姉ちゃんは一言多いんじゃないよ。一言足りないんだよ』

 

 ……ほわっと? 

 

「一言……足りない?」

『そう、一言……二言、三言かもしれないけど。とにかく、お姉ちゃんは言葉が足りないと思う』

 

 ずっと僕は一言多いのだと思っていた。だから余計なことを言って相手を怒らせていたのだと、そう思っていたのに……。

 今、優から認識外の言葉を告げられた。

 

「足りない……」

『うん、足りてないね。余計なことも言うけれど、根本的に足りてないよ。それじゃあ、相手に正しく伝わらないって』

 

 ……。

 ……。

 ……そう、だったのか。

 

「私は……一言足りていなかったのか……!」

 

 僕は一言足りなかった。

 ずっと一言多いと思っていたから。余計なことを言って、相手を怒らせて来たのだと思って来たから。だから、何も言わないことを選んで来たのだから。

 前に優に何をして欲しいのか言って欲しいと言われた事を思い出す。言わなければ伝わらないって、あの時わかっていたはずなのに……。

 優に言われて気付かされた。

 

「衝撃の事実だ」

『僕としては、自覚が無かったことの方に衝撃だけど。でも、そっかぁ……一言多いと思ってたのかぁ』

「……また、優に教えられちゃったわね」

『お姉ちゃんは人間関係の学が浅いからね』

「ふ……マグル学、落第しているから」

『いつ魔法学校に通っていたのさ』

「スリザリンは嫌だ、スリザリンは嫌だ、スリザリンは嫌だ……”ハッフルパフ”!」

『その組み分け帽子、不良品だよ。寮生が可愛そうだから、大人しくグリフィンドールに行ってなよ』

 

 僕がグリフィンドールに行ったら一年目でスリザリン生が全員失踪ルートだよ。逆もまた然り。

 

「私……伝えたいことを伝えることにするわ。それで怒られたら、その時は言葉を尽くして謝る」

『うん、それがいいよ。怒られちゃうこともあるだろうけど、伝えられないまま終わるよりは良いと思うから』

 

 伝えられずに終わるのは辛い。あと一言、それだけでも相手に伝わっていたら……変わっていたのだろうか? 

 キョウは今も友達で居てくれただろうか。

 

「ありがとう。私は今まで言えなかった一言を伝えることにするわ」

『うん』

「さすがは優ね! 私のことを何でも知っていると言っても過言ではないわ。大好き、抱いて!」

『一言余計だよ』

 

 優に通話を切られてしまった。何でだい!? 

 ちょっとしたジョークじゃないか。一言多すぎたとしても謝る余地すらないとか、今までのやり取り全部台無しじゃないか! 

 でも、好き! 

 

「……ありがとう、優」

 

 もしも、優が居なければ僕が足りない言葉のせいで伝えられないままだっただろう。それで失う関係があっただろうし、修復できない亀裂を生んだかもしれない。

 でも、僕は一言を伝えることを知った。一言多いせいで怒られるんじゃなくて、一言足りなくて伝わらなかったことを自覚した。それでも余計な一言を言っているのは先程のやり取りでわかったが……。

 とにかく、本田と島村には、今伝えないといけないことができた。

 

 楽屋へと戻ると城ヶ崎の姿はすでになく、不安そうな表情を浮かべた本田達が居るだけだった。

 

「あ、如月さん……」

「お待たせ、二人とも」

 

 心なしか不安度が増している気がする。何かあったのだろうか? 

 

「どうかしたのかしら?」

「いや、ただ……どうしようかなって」

 

 本田の表情は暗い。まだライブの不安は払拭できていないようだ。

 当然か……迫の問題もあるし、それ以外にも初めてのライブということもあって緊張しないわけがない。

 

「スタンバイお願いします!」

 

 スタッフからそろそろ城ヶ崎のソロ曲が始まると告げられる。僕達も舞台の方に行かなければ。

 でも、その前に伝えないといけない一言があった。

 

「あの、二人とも……少しだけ、聞いて貰えないかしら?」

「えっと、でも、スタンバイ掛かってるけど……」

 

 僕が話を切り出すと、本田が戸惑った声を上げる。このタイミングで話とか言われても困るだろう。

 

「…………でも、これだけは伝えておきたいから」

 

 いつもの僕だったら、ここで「じゃあ、いいわ」と終わらせていたことだろう。また余計なことを言ってしまったと後悔して。

 でも、今は違う。ここで怖気づいてしまったら何も変わらない。

 伝えたい一言があるから。

 

「ごめん……私は今、それを聞く余裕がないや。如月さんと……違うから」

 

 申し訳なさそうな顔をしながらも、本田は僕の願いを断った。

 余裕がないから、と。

 僕と違うから、と。

 

 やっぱり、駄目なのかな……。

 もう伝えることすら叶わないのかな。伝える機会すら失った時はどうすればいいのだろうか? 

 

 それ以上言葉を紡げない僕から視線を外した本田が楽屋から出て行こうとする。

 

「如月さんの話を聞きませんか? まだ、少しなら時間がありますから」

 

 しかし、それを島村が止めた。そっと本田の前に立つようにして行く手を遮るように立ち塞がった。

 

「しまむー……」

「それに、私は如月さんが何を言いたいのか知りたいです」

 

 島村は僕の話を聞く言ってくれた。さらに、本田の説得もしてくれた。

 良い子だと思う。本当に。

 出会った時から知っていたことなのにね。

 

「如月さんは、私達に何を伝えたいんですか?」

 

 いつものと違い真剣な顔の島村に問われたことで、僕も覚悟を決めることにした。

 ここまでお膳立てしてくれたのに退くわけにはいかない。

 

「もしかしたら、今から言うことは……二人にとって大きなお世話かも知れないけれど……」

 

 これは、もしかしたら余計な一言かもしれない。

 

「ずっと言いたかったことがあったの。前から伝えたくて、でも、ずっと言えなくて今日まで来てしまったわ」

 

 今更言う言葉でもないし、今言う言葉でもないし、わざわざ言う言葉でもないのだけれど……。

 

「それでも、今聞いてほしいから」

 

 僕は今、伝えたかった。

 

「ありがとう」

 

 これが、僕が二人に伝えたかった言葉だ。

 

「私の話を聞こうとしてくれてありがとう。一緒にご飯を食べてくれてありがとう。気遣ってくれてありがとう」

 

 この短い付き合いの中で、たくさんのありがとうの気持ちができた。

 

「仲間だって、言ってくれて……ありがとう」

 

 ずっと、仲間が欲しかった。自分と一緒に歩める──歩んでくれる人が欲しかった。

 アイドルになって、仲間を作って、一緒に歩いて、一緒のステージに立つことが夢だったから。

 だから、

 

「二人のおかげで、夢が、叶いました……」

 

 だから、ありがとう──。

 

「……」

「……」

「それだけ、伝えたくて……」

 

 沈黙する二人に申し訳ない気持ちになる。きっと、二人には唐突に感謝を告げて来た僕の心の中身は理解できないだろう。

 でも、伝えたい言葉が伝えられた。それだけで僕は満足だった。

 言えてよかった。

 

「ごめん、如月さん」

 

 やがて、沈黙を破ったのは本田の謝罪の言葉だった。

 謝罪の言葉の意味はわからない。でも、やはり余計な一言だったか……。

 顔を俯け、手を強く握りしめる。

 

「ずっと、如月さんのこと誤解してた」

 

 その手を温かい感触が包み込んだ。

 

「え……」

 

 顔を上げると、目の前に本田の顔があった。その顔は、今さっきまでの緊張に強張った物と違い、申し訳なさそうに眉を傾け、薄っすらと涙を浮かべて瞳を揺らしている。

 その本田が僕の手を握ってくれていた。

 

「緊張していた私より手冷たいじゃん……私、結構嫌なこと言ってたよね……緊張とかもあったけどさ、ずっと如月さんは自分一人だけでアイドルをやれると思っているんだって、そう思ってた。だから、変な所で突っかかってたんだ……でも、違ったんだね。ちゃんと、仲間だって思ってくれてたんだ」

 

 昔の僕はそうだったかも知れない。765プロの皆を仲間だなんだと言いながら、本心では一人でどこまでも行けるものだと勘違いしていたから。

 でも、今は違う。僕には仲間が必要なんだ。色々と失ったことで、そう強く思うようになった。

 

「私は……如月さんは凄く強い人だと思ってました」

 

 今度は島村が、本田の手に合わせる形で僕の手を握る。

 

「いつもどこか遠くを見ている気がして。それが私達が見ているものより遠いものに感じて……きっと、如月さんに私達は必要ないんじゃないかって思ってました。でも、話している時とかに、凄く心細そうな顔をしていて、どうしてだろうって思っていたんです。そしたら、さっき私に仲間かどうかわざわざ訊いて来たから、この子は人との付き合い方が不安なんだってわかりました」

 

 やはりバレていたらしい。

 というか、島村からも「この子」扱いなんだね僕って。一応学年としては僕の方が年上よ? 

 

「だから、聞けて良かったです。今まで如月さんにして来たことが、如月さんにとって良い事なんだって知れて良かった!」

「島村さん……本田さんも……ありがとう」

 

 伝わった。

 まだ、一つの言葉だけだけれど、僕の言いたいことが二人に伝わってくれたことが嬉しかった。

 

「っ~~──よーし!! 気合入って来たっ!」

 

 本田が元気よく腕を上げた。声の感じからして、まだ空元気っぽくも感じるけれど、いつものテンションに戻ったようだ。

 

「はい! 島村卯月、頑張ります!」

 

 負けじと島村の方も気合を入れている。

 

「私も、最善を尽くすわ」

 

 僕だって、二人と一緒に頑張るんだ。

 

 

 

 何とか本番前の緊張を解いた二人を伴い、ステージ裏へと向かう。

 

「お、来た来た……。どう、緊張はとれた?」

 

 そこで待っていた城ヶ崎が声を掛けて来る。どこまでも他人事な言い方だ。

 

「ええ、おかげさまで」

「はいっ、ばっちりです!」

「ご心配をお掛けしました!」

 

 僕はともかく、二人は城ヶ崎を慕っている気があるから、今は城ヶ崎の態度がありがたく思える。

 

「みなさーんっ、どうですかっ!? 元気ですかーっ?」

 

 ただでさえ響く場所で大声がさらに耳に突き刺さる。こんな時と場所を考慮しない声量の奴というだけで相手が誰かわかる。

 見れば、日野と小日向がこちらに駆け寄って来るのが見えた。どうやらステージの合間を縫って来てくれたらしい。

 一応先輩としてフォロー入れてくれる気はあるんだよね。

 

「出る時の掛け声は決まっていますか?」

 

 小日向がアドバイスなのか何なのかよくわからないことを言って来た。

 

「か、掛け声ですか……?」

「あった方がいいですよ!」

「好きな食べ物とかどうですっ?」

 

 やけに掛け声を推して来るなぁ。ライブ前に掛け声が必要という文化はアイドル界隈で共通の文化なのだろうか。

 そんなもの決めるなんて聞いてないのだが。あと、食べ物の掛け声ってどうよ。外と中を同時に攻撃しないといけないの? 

 もっと普通のにしようよ。

 

「生ハムメロン!」

 

 と思ったら島村が速攻で食べ物を叫んでいる。そして生ハムメロン!? 

 

「ふ、フライドチキン!」

 

 本田もか。さっきまでのガクブルが嘘みたいにノリノリじゃないか。

 そして二人が僕の方を期待を込めて目で見て来る。やれってことか……。

 

「野菜炒め」

「うん、知ってた」

「あはは……本当に好きなんですね」

 

 言えって言うから言ったんだがぁ? 

 そんなこと言ったら君達のフライドチキンも生ハムメロンも大概だからね? 

 野菜炒め馬鹿にするなよ。凄く美味しいんだぞ。

 

「それじゃ、ここは公平に、ジャンケンで勝った人のを掛け声にするっていうのはどう?」

「あっ、それ良いですね!」

「ソウネ、コウヘイネ」

 

 ジャンケン……。

 昔なら、ジャンケンと言えど勝負事にテンションを上げていただろう。しかし、今ではジャンケンはボーナスステージでしかない。勝率百パーセントの勝負に熱くなれない。

 これが強き者の孤独というやつか……。

 なんて、ジャンケン相手に強者の孤独を感じる程度には余裕がある僕であった。

 

「ふーん、さっき楽屋に顔出した時とは全然違うじゃん」

 

 僕達のやり取りを見ていた城ヶ崎が感心半分、戸惑い半分で口を挟んで来た。

 そう言えば何でさっき楽屋に来たのか聞きそびれていたことを思い出す。

 

「そう言えばさっき……」

「ねっ、何か緊張を解すきっかけでもあったの?」

 

 何をしに来たのか訊ねようしたら、逆に質問を被されてしまった。

 まあ、大して知りたいわけでもないからいいけど。

 

「ええ、ただちょっと……」

 

 何と言えばいいのか迷う……。

 僕達が軽くギスっていたことを伝えるわけにもいかないので、そこははぐらかして適当に教えておこう。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……色々と、伝えただけです」

 

 こんな感じで納得してくれないだろうか? 

 

「……」

「……」

「……」

 

 僕の答えを聞いた城ヶ崎が黙り込む。

 なぜか彼女だけではなく、近くで話を聞いていた日野と小日向も口を閉ざしてしまった。

 

「じゃ、いくよー……じゃんけん!」

 

 空気にそぐわぬ明るい本田の掛け声が静寂の中響いた。

 勝負の結果は言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 ステージ下まで来た僕達は迫の上にスタンバイするとお互いに視線を交わした。

 先程までの不安な顔は二人には見られない。僕だって無表情ながらやる気に満ちている。

 

「行けるわね」

「もちろん」

「はい、大丈夫です」

 

 やる気は十分。気力も充電済み。

 あとは勢いで押し切るのみだ。

 

「いきます! 五秒前、よん、さん……」

 

 スタッフのカウントダウンが始まる。

 

「「「野菜──」」」

 

 残り二秒というところで、僕達は先程決めた掛け声を合わせて口にする。一回目なのに不思議とタイミングが合った。

 そして、昇降装置から一気に上昇する。

 

「「「炒め!」」」

 

 迫から飛び出すタイミングで、先程決まった掛け声を三人で叫ぶ。

 

「なんだこの掛け声はー!」

 

 しかし、それが野菜炒めなのは正直ダサい。僕が言う権利はないけど。

 とりあえず、隣の本田が自分の掛け声にセルフ突っ込みを入れているのは無視をして、初めて見るステージからの光景へと目を向けた。

 

「へぁ……!」

 

 それは、想像していたものよりも、とても輝いて見えた。

 たくさんの客が一人一人ペンライトを持っており、その光が目の前一面に広がっている。

 目を凝らせば全員の顔を識別できる僕だけど、今は彼または彼女らを全体として見ることを選んだ。

 

「あ……」

 

 声も出ないくらいの衝撃。息ができないくらいの感動。涙が出そうになるくらいの喜び。僕が長い間忘れていた、心の底から溢れて来るような熱い気持ちが身体を満たす。そう錯覚してしまうくらい、この光景は鮮烈かつ衝撃的だった。

 

「わあっ……」

「すっごい」

 

 二人も目の前の光景に魅入っている。

 一度目にしてしまえば誰だって焦がれるようになる。これ以上の価値ある景色があるだろうか。そんな疑問を挟む余地がない程に、この景色は黄金色に輝いて見えた。

 枯れた涙腺から涙が滲み出そうになり、慌てて情動ごと飲み込んだ。せっかくの晴れ舞台を涙で汚すわけにはいけないから。

 

 春香や他のアイドル達はみんなこの光景を見ていたのだろうか? 

 バックダンサーの身ですら震える程の感動を覚えるというのに、この歓声を、この視線を、全て自分に集められたらどれだけ感極まるのだろうか。想像しただけで……想像できないくらいに心が震えるはずだ。

 頭の中の如月千早が、自分のライブはもっと凄かったとドヤっているのは無視をする。

 

 着地はそれまでの失敗が嘘の様に危なげなく成功した。

 

 そして──、

 

 曲が始まる。

 

 初めてのライブが始まる。

 

 僕のアイドルが始まる。

 

 

 曲の開始とともに城ヶ崎がステップを踏み始める。

 今回僕達がバックダンサーを務めることになった曲は、城ヶ崎の代表曲である『TOKIMEKIエスカレート』だ。ポップな曲調にモテ系女子特有の面倒くさい上から目線の恋心を綴った歌詞がキャッチーで城ヶ崎ファンは当然、世の女の子にも人気の曲だ。僕だったら絶対歌えないであろうスウィートな歌を城ヶ崎は可愛く、時に格好良く歌えている。こうして見ると、パッション属性ってキュートもクールも行けるから歌の幅が広いよね。歌を武器にする者としては意識してしまう。同じパッション属性として城ヶ崎は参考になった。

 

 城ヶ崎の歌ばかりではなく、僕達バックダンサー組にも意識を向けよう。

 曲の出だしは、メインである城ヶ崎を目立たせるためにでしゃばらず、それでいてスタートダッシュを決めるように勢いよく始まる。

 躍動的な体の動きと流動的な手足の振り付けは、綺麗に合わせるとそれだけで見栄えが良くなる。僕達が一番気を遣い、一番苦しんだパートだ。新人というのもあるが、僕達の纏う空気は各々違う。それを違和感なく合わせるのは動きを合わせるよりも難しい。誰かが突出して目立ってもダメなのだ。

 シンクロパートから個別パートへと移動する。センター役の島村が城ヶ崎と動きをシンクロさせながらダンスを魅せ、左右の僕と本田がポージングを決めて、ダンスの動きを際立たせる役を熟す。

 そこから順繰りに城ヶ崎と動き合わせて踊る人数を増やしていき、最後は全員同じ振付けになってから最初のBメロへと移行する。

 ここまでくれば後は大丈夫だ。何度も練習した馴染みのステップを仲間と一緒に踊るだけである。

 ちらりと舞台袖を見れば、プロデューサーが安堵の溜息を吐いているのが見えた。うん、やっぱり出だし部分のデキを心配していたらしい。これで上手くいかなかったらプロデューサーの責任になっていたかもしれないと思うと上手くできてよかったと思う。

 改めて観客席の方に目を向けると、シンデレラプロジェクトのメンバーの姿が見えた。前川達をはじめ、あまり話したことがないメンバーも全員駆けつけてくれたらしい。

 杏ちゃんも居るじゃん! 

 いえーい、杏ちゃん見てるー? 来てくれるなんて意外だったよー。

 ぜっったい来ないと思ってたわ。

 

 ああー、楽しいなぁ。ライブが楽しくて仕方がない。仲間と一緒に立つステージが、こんなに気持ちがいいものなんて、体験しなければ知りようが無かった。

 ステージに立つアイドルと、それを支えるスタッフ達、ライブの計画を進めた運営や、協力会社の人……そして、ライブを楽しむ観客達。みんなが作った今日のライブだから、僕は最後まで気を抜かずに、そして精一杯楽しむことにした。

 

 

 

 それは最後のサビの後、コール直前で起こった。

 

 全員で体を使って、”TOKIMEKI”のアルファベットを観客のコールとともに順番に作って行くパートなのだが、そこで本田の足の運びと島村の立ち位置が予定と違ったのだ。

 だが、これは別に間違いというわけではない。あくまで今回決めたパターンから外れているだけで、振付自体は合っている。ただ最終的にこれにしようと決めたものと違うだけだ。

 最終チェックでは別の動きにすると決めていたはずなのに、いつの間にこっちのパターンに変更になっていたんだ……。まさか、さっき城ヶ崎が楽屋に来た時に? 

 問題は、二人の方の動きがきちんと合っているということだ。つまり、僕だけが違う振り付けを踊っていることになる。

 

 僕だけが動きが違う。

 

 観客からは僕がミスしたように見えるだろう。

 

 ……このまま踊ればだけど。

 僕は二人の振り付けが違うことを予測していた。ほんの数秒先で二人が違う動きをするとわかっているので、それに合わせて踊ればいいだけだ。

 パターン……この場合パターンBと呼ぼうか、予定とは違う動きに合わせて僕も立ち位置をパターンBにして踊った。

 何も問題はない。

 ステージ上の僕にイレギュラーは存在しない。全ては予定通りだ。

 ターンで戻って来る本田と危なげなくすれ違う。これがもしパターンAのままだったら正面からぶつかっていただろう。

 目だけで本田を見ると必死ながらも心から楽しそうな顔で踊っている。

 島村も同様だった。

 ……ならば、何も問題はない。

 だから城ヶ崎、貴女はライブに集中してくれ。

 こちらを驚愕の表情で見ている彼女へ視線を送る。

 

「……っ」

 

 まだライブ中であることを思い出したのか、城ヶ崎はハッとした顔でライブへの集中を取り戻していた。今がコール中で良かったね。

 

 その後は特に問題もなく無事に踊り切る事が出来た。

 途中ヒヤリとした場面はあったけれど、僕達の初めてのライブは大成功に終わったと言って良いだろう。

 

 

 

 

「全プログラム終了でーす!」

 

 スタッフの合図とともに関係者一同が集まった控室で歓声が上がった。

 今回ライブのために尽力した人間全員での打ち上げである。もちろんバックダンサーである僕達も参加することになった。まあ、メインは城ヶ崎達アイドルとスタッフの方々だけど。それでも今日のライブに参加した一員として気兼ねなく打ち上げに参加することができた。

 

「やったね! 初ライブ、大成功!」

「はいっ。やりました! みんなで力を合わせた結果ですね!」

 

 本田と島村はライブが終わって緊張から解放されたためか、テンションが高い。かく言う僕もテンションが上がっていた。だって、ライブの打ち上げとか初めての体験だし。

 

「本当に良かったわ。二人と踊ったライブ、ずっと忘れないから」

「最終回みたいな言い方しないでよ。これからもっと一緒にステージに立つんだからさ!」

「そうですよ。色々なライブに出ましょう。今度は私達がメインので」

「おおっ、バックダンサーの次はメインとか、しまむーは野望持ちですなぁ」

「ええっ!? 違いますよ、ただ二人とまたライブに出るならって思っただけですってば~」

 

 じゃれ合う本田と島村を眺めながら、今回の二人の頑張りを思い返す。

 素人同然だったところから始めたダンスを、この僅かな期間できちんと踊り切るまでに習熟してみせたのは二人が頑張ったからだ。僕みたいな一度見た動きを再現できるなんてズルを二人は使えないから、この結果は純然たる努力によるものだ。

 

「ありがとう」

「えっ、それは何の感謝?」

「いえ、ただ、頑張った二人が凄く尊くて……」

「あはは、なんですかそれ」

 

 つい口を突いた感謝の言葉に耳ざとく反応されてしまい困ってしまった。別に深い意味があったわけではない。単純に今の気持ちを素直に表現しただけだから。

 

「お疲れさまでした」

 

 ずっと挨拶回りをしていたプロデューサーがやって来た。途中アイドル達に捕まっていて大変そうだったけど、何とか振り切ってここまで来てくれたようである。

 何でわかるかと言うと、彼の背後に不満そうな顔のアイドル達が並んでいるからだ。そこから少し離れた場所から佐久間が手を振っているのが見えた。意味は不明だ。

 

「プロデューサー、ライブに出させてくれてありがとうございました」

「今回、如月さんの出演は私の方で決めてしまったようなものでしたので……もしかしたら不本意だったのではないかと思っていました」

 

 僕のライブ参加はプロデューサーの判断に一任してしまっていたから、もしかしたら彼が気にしているんじゃないかと思っていたのだけど、案の定、僕が不満に思っているのではないかと気にしていたらしい。だから、そんなことはないときちんと伝えることにした。

 

「いいえ、プロデューサー……私はライブに出られてとても嬉しかったです。だから、ありがとうございました。私の夢を叶えてくれて……」

 

 夢を叶えてくれたプロデューサーには感謝しかない。

 

「そう、ですか……よかった。……いえ、とてもいいステージでした」

「プロデューサー?」

 

 一瞬だけプロデューサーの鉄面皮がズレたように見えたが、次の瞬間にはいつも通りの強面に戻っていた。

 少しだけ見えた彼の素顔に、僕の記憶の奥底の何かに引っかかる気がした。

 

「如月さん!」

「え、何事!?」

 

 記憶を引き出そうとしたら後ろから本田と島村に抱き着かれてしまい記憶が霧散してしまう。

 

「やりました! 私達初ステージ無事成功しました!」

「なんかもう、全部がキラキラしてたっ。アイドルってやっぱり最高!」

 

 二人とも今になってから感極まってしまったらしい。僕はステージの上でテンションの最高潮に達してしまっていたので今はわりと平常運転である。

 やはり陽キャの二人のテンションには僕みたいな奴は付いていけないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ライブの本番は終わった。後片づけも、反省会も、皆と喜びを分かち合うのも終わった。

 

 だから、こっちの本番も始めよう。

 

 すっかり撤収作業も終了し、誰も居なくなったステージ会場に僕はやって来ていた。

 本来会場内は照明が落とされているはずだというのに、ステージの上だけがライトアップされている。

 

「やっぱり、来ちゃったか……」

 

 スポットライトの当たるステージ、その中心に、いつも通りの笑顔を浮かべた城ヶ崎が立っていた。




千早「真のアイドルは眼で殺す!」

コミュ障を理由に言わないことを選んでいた千早が、今回伝えることを覚えました。それでもある程度心を許した相手にしか言えませんが、一言足りないことを自覚したのは大きな前進ですね。
一言余計な方はいつか直るといいですね。
アルティメットなアイドルの卵編から一言足りないせいで周りを振り回していた千早ですが、足りていたらもう少し人間関係拗れなかったかもしれません。

今回のMVPも優が持って行きました。大概彼も万能ですよね。コミュ障の姉と生まれた時から付き合い続けているため、生来の高スペックと合わさりコミュニケーション魔人になっています。安楽椅子探偵ならぬ安楽椅子コミュアドバイザー。
困った時に頼る相手がいることがこちらの千早の強みです。原作千早は765プロのアイドル達と打ち解けるまで一人でしたから、こちらの千早は誰かに頼る思考があります。
仲間になったと思った千早と、仲間だったと確認できた島村。凄く危険な綱渡りの言葉の応酬。ここは一言追加していたら破綻していたかもしれません。
傷付け合わなければ直す仲すらありませんから、千早の言葉が相手に届くようになったことがどう人間関係に影響するか、見どころです。


ライブシーンでは予知能力がなければ千早は失敗していました。
本当に千早のルーサーは使い勝手が良い能力ですね。一番アイドル向けです。この先、ダブルやペルソナが活躍することはあるのでしょうか。
エルダーとアプレンティスはすでに使用中。






日野茜について。
なんでしょうね。たぶん城ヶ崎や高垣ほど拗れてないです。その分直接的な対応を求められます。陽キャな時点で千早には毒なのである意味一番厄介なタイプでしょう。
早く本田と高森と組めばよいよ。

小日向美穂について。
えー、四天王!?
早く島村と五十嵐とよいよ。

川島瑞樹について。
オイオイオイ、あいつ四天王だわ。
早く高垣とよいよ……オイオイオイ。

佐久間まゆについて。
作中で千早が評したままです。佐久間にまゆPが居る時点で千早と佐久間は争いません。互いに相手の大事なものに触れないため争いが生まれません。その代わり仲良くもなりません。
あと、佐久間は千早を同士だと勘違いしています。城ヶ崎達はちょっと佐久間の価値観的に相容れない感じです。罪悪感を抱いている時点で同士足りえない。
千早の強みはアニメやゲームの原作知識のおかげでPの視点を理解していることでしょうか。「Pが好きなアイドルがいてもいい」という価値観があるため、佐久間からは罪悪感の無いように見えています。「Pを好きになるアイドルがいてもいいが、自分はそういう気持ちは持ってないよ」が伝わっていない悲劇。

バックダンサー「なんか人間離れした容姿の子がバックダンサーとして現れた件」
今回のバックダンサー達はプロのダンサーやダンサー志望者もいれば、アイドルの経験値稼ぎとして参加したダンス特化アイドルでした。そんな中に現役のアイドルが現れたら受け入れる人が大半の一方で、微妙な空気になる人もいます。しかし、千早の登場でそんな空気もぶっ壊れました。致命的に引き立て役に向かない容姿に、バックダンサー陣はなんでこんなの採用したんだと思ったことでしょう。こんなのが自分達と同じバックダンサーとして参加するのですから、本田や島村のことを気にしている余裕なんかありません。

偉そうな人
たぶん偉い人。千早の話を聞かされている人。つまり千早側の人。



次回、アルティメットな初ライブ最終回。

ライブなんてものは前哨戦でしかありません。積み上げた努力と能力をフルに使えば千早に物理的な障害は問題ありませんから。
だからこの後の城ヶ崎との決着こそが、この章の本番です。
誰かと真っ向から向き合うことの難しさを千早は知ることになります。
殴り合いでどうにかなる世界に生まれてさえいれば……!





以下、もしも千早が一言多く(言い方を変えて)言葉にしていた場合のルート分岐パターン

アルティメットなアイドルの卵その1
ルートA
千早「春香、すぐに部屋に上がりましょう」

ルートB
千早「春香、体調が悪いように見えるわ。すぐに部屋に上がって休んだ方がいいわよ」
春香「ううん、体調は悪くないよ」



アルティメットなアイドルの卵その2
ルートA
春香「じゃあ当然城ヶ崎さんのことは……」
千早「まったく知らないわね」

ルートB
春香「じゃあ当然城ヶ崎さんのことは……」
千早「私はずっとアイドルの情報が入らないような生活をしていたから、どれだけ有名な人でも知らないのよ」
莉嘉「(えっ、入院とかしてたのかな……じゃあ、仕方ないのかも)」



アルティメットな初仕事その1
ルートA
ルキトレ「どうかしましたか?」
千早「いえ、想像していたよりも若い方だったので驚いてしまって……」

ルートB
ルキトレ「どうかしましたか?」
千早「いえ、トレーナーの方ってもっと年配の方をイメージしていたので。凄く若い人が現れて驚きました」
千川「ああ、他のプロダクションだと現役を引退した方が務められていることもありますけど、うちなんかはトレーナー専門の人を雇っているんですよ」




アルティメットな初仕事その2
「プロデューサー好き」→「プロデューサー好き」



アルティメットな初仕事その3
ルートA
武P「皆さんとの交流はよろしいのですか?」
千早「それは必要があることでしょうか?」

ルートB
武P「皆さんとの交流はよろしいのですか?」
千早「今は仕事中なので仕事を優先しようかと思いまして。あとできちんとご挨拶するつもりです」
本田「いやいや、今やろうよ……。ほら、こっち来なって!」



アルティメットな初仕事その4
ルートA
美嘉「……そんなにアイツの許可が大事?」
千早「大事です。城ヶ崎さんには関係が無い話ですが、私にとって、あの人の判断は絶対なんです」
美嘉「そうやってっ……!」

ルートB
美嘉「……そんなにアイツの許可が大事?」
千早「大事ですよ。私にとって、あの人の判断は絶対なんです。城ヶ崎さんもプロデューサー(美嘉P)にやれと言われたらやるし、駄目と言われたらやらないでしょう?」
美嘉「えっ、そりゃプロデューサー(武P)に言われたら何でもやっちゃうかもしんないけどさ……」
千早「でしょう?」
美嘉「うん……」



アルティメットな初ライブその3
ルートA
三村「如月さんって友達想いなんだね。最初の印象だと、他人を拒絶するタイプなのかなって思ったから少し意外かなって」
千早「いえ、友達ではないですよ?」
三村「え?」
千早「本田さんと島村さんは同じプロジェクトの仲間ですが、別に友達でもなんでもありません」
三村「え……でも、あんなに仲良しに見えるのに?」
千早「仲が良いかどうかなんて、他人から見てもよくわからないものですよ。仲が悪くないからといって、仲良しとは限りませんから。少し会話した程度で仲良しだなんて……ましてや、友達などと思われるのは困ります」

ルートB
三村「如月さんって友達想いなんだね。最初の印象だと、他人を拒絶するタイプなのかなって思ったから少し意外かなって」
千早「いえ、友達ではないですよ?」
三村「え?」
千早「本田さんと島村さんは同じプロジェクトの仲間ですが、別に友達でもなんでもありません」
三村「え……でも、あんなに仲良しに見えるのに?」
千早「仲が良いかどうかなんて、他人から見てもよくわからないものですよ。仲が悪くないからといって、仲良しとは限りませんから。少し会話した程度で仲良しだなんて……ましてや、友達などと思われるのは困ります。そうやって、期待して裏切られて来ましたから……」
三村「あっ……(なんとかしてあげよう)」

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