アルティメット千早な僕が765プロのオーディションに落ちた件   作:やんや

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今回はかなり短めです。
前話に追加しても良かったくらいですね。
相変わらずの蛇足回。


アルティメットなアイドルの卵その3

 空が青い。

 透き通るような青色が人口過多なこの街の上に広がっている。

 歪な四角形で縁取られた空の景色を僕は黙って見上げていた。

 春の陽気を感じるには少しばかり寒いのだろうか。道行く若者が時折吹き通る風に身をすくませているのが視界の端に映る。

 ほんの少しだけ、世界とも呼べない狭い範囲だとしても身の回りの物事を見回してみれば今まで見えなかったものが見えてくる。

 化粧品店の店頭に映るモデル。ファッション系アンテナショップの店内から漏れ出る曲。346プロのライブの宣伝看板。

 それら全てに城ヶ崎美嘉が存在した。

 

「あー」

 

 気付いてしまえば意識できてしまう。城ヶ崎美嘉という情報を少し探せば彼女関連の情報はそこかしこで確認することができた。

 どうしてこれまで気付かなかったのか。

 いや、気付けなかったのか。

 興味が無かったでは済まされない程に圧倒的な情報量だ。しかもこのお洒落の発信地のような街では城ヶ崎の情報はそれこそ溢れるほどにあったのに……。

 僕はそれに気付かなかった。

 同じ事務所の先輩という関係を抜きにしても、こんなにも広がっている城ヶ崎美嘉の情報をまったく意識できていなかったのは異常だ。

 まるで僕の何かが彼女の存在を意識から外れてしまっているかの様に、実際に出会うまで僕は彼女のことを認識できていなかった。

 どうやら城ヶ崎の芸歴はここ一、二年の間らしいので引き籠っている間意識的アイドル関連の情報をシャットアウトしていた時代に気付けないのはわかる。でも、その後にアイドルを再び目指してから今日まで城ヶ崎を知らずに来たのは変だ。

「僕だから」という理由だけでは納得しにくい──実は少し納得しかけた──事象だった。

 

「はぁ……」

 

 自分の新たなやらかし案件に溜息が出る。

 息が白くなる時期はとうに過ぎているため吐かれた息はただの雑音となって漏れただけになった。

 しかし、視覚情報としての吐息が見えなかったとしても音として聞こえたからだろう、隣に立つ春香には僕の心情を察することはできたようだ。

 

「千早ちゃん」

 

 透き通るような青空に引かれ、自意識を彼方へと飛ばしかけていた僕を春香の声が現実へと引き戻した。

 春香を見ればこちらを気遣うように、眉を八の字に曲げた顔をしている。

 こんな風に最近の僕は春香を心配させることが多い。

 これまで身内だからと放置されていた僕の悲惨な私生活がとうとう春香にバレたせいもある。

 つい最近まで僕の家の冷蔵庫には調味料すら無かったのだ。入っているのは何故かノート一冊とペン一本だけ。誰が見てもやばい光景である。

 再会直後は春香の方が精神的に追い詰められていたこともあり、その場での突っ込みはなかったのだけれど、後々振り返ってみたところ僕の環境が人間として終わっていることに気が付いた彼女がガサ入れしたことにより現状が発覚した。

 それ以来、春香が何かと世話を焼いてくれるようになったのだった。

 春香に負担を掛けてしまっているとわかりながらも、こうして春香に心配して貰えることが幸せで少し心が晴れた気がした。

 そんな僕の心情を察したらしい春香が拗ねたように口を尖らせる。

 

「ごめんなさい。少し落ち込んでしまっていたわ」

「城ヶ崎さんのこと?」

「そうね……」

 

 城ヶ崎姉妹のことはつい先ほどの出来事というのと、僕の新しい「やらかし案件」とあって記憶に焼き付いている。

 まさか事務所の先輩にあたる人を公然と知らないと宣ってしまうなんて、厳しい事務所だったらこの先やって行けないレベルの失態だ。

 幸いなことに、プロデューサーや千川さんを始めとしたシンデレラプロジェクト関連の人達は優しい人達が多かったので心配はしていない。

 城ヶ崎も僕が見る限り気にしている様子は見られなかった。

 問題があるとすれば、城ヶ崎と仲が良いアイドルからの不興を買うことだけど、そちらは城ヶ崎と仲が良いアイドルなんて僕が知るわけもないので気にしていない。

 と言うか、お手上げ状態だった。

 女性の噂に対する伝達速度が早いことを身を以て知っている僕には、今の時点で346プロ内のアイドル全員が僕のやらかしを共有済みと言われても驚かない。

 さすがにそこまで酷くはないにしても、僕の評判は最終審査の様子からしてもあまり良くないことは確かなので、これからは色々と言動に気を付けていきたい。

 まずは346プロの有名アイドルの顔と名前を覚えるところから始めよう。

 会う人全てにこいつ誰だという態度を見せるのは拙いと城ヶ崎の件で思い知ったからね。

 先程見かけた看板のアイドルくらいは知っておきたい。

 

「春香は城ヶ崎さんのことを知っていたのよね?」

「うん? ……うん、そうだね。…………知ってたよ」

「他に346プロのアイドルで有名な人って誰か知らないかしら」

 

 僕の問いに春香がコテンと首を傾げるのを見て自分の言葉が足りないことに気付いた。

 

「実は私、346プロのアイドルを誰も知らないのよ」

「え」

「ちなみに、さっき掲げられていた看板の人達とかは城ヶ崎さん含めて有名な人達なの?」

 

 僕の問いに春香の顔が「うわぁ」という感じに引かれたのがわかった。

 その反応を見てやっぱり有名な人達だったのかと改めて自分の知識不足を自覚する。

 それにしても春香のこの顔である。普段僕が何を言おうと軽く受け取ってくれる彼女が完全に引いてた。

 

「ごめんなさい。やっぱり自分で調べることにするわ」

 

 慌てて質問を取り下げる。

 春香の反応に怯んだからではない。彼女の様子から有名人の数とその度合いを語るだけで時間を必要とすることが察せられたからだ。

 そもそも346プロってどのくらいの規模なんだっけ。前にプロデューサーを調べるためにホームページに行ったことがあるけれど、概要以外の情報はほとんど調べていなかった。

 

「私は大丈夫だよ?」

 

 春香は何でもないように言ってくれたけれど、どうしてもお願いする気になれない。

 確かに彼女に教えて貰えれば346プロのアイドルについて楽に知ることはできるだろう。それこそ、一般人では知らないような詳しい話だって知ることができるかも知れない。

 でも、それは何となく反則な気がする。

 それに、ーーいや……。

 ふっと湧いて生まれた本心が明確に言語化される前に頭の端へと押し込める。危うく自分の中にブレが生まれるところだった。

 自制を心掛け、胸の内を春香に悟らせないようにする。

 

「いいえ、自分で調べないといけないって思い直しただけよ」

 

 本心の代わりに口を突いたのは聞こえだけは良いような薄っぺらい建前だった。

 

「そう? 千早ちゃんがそれで良いって言うならいいけれど……。でも、私にできることなら何でもするから、遠慮なく言ってね?」

 

 快く協力を申し出てくれた春香に心中で謝罪する。

 今僕が言った建前は未だに残る男心が見せた反発心だった。

 現在進行形でトップアイドルの位置に君臨していて、アイドル番組の司会の経験もある春香の知識量は僕がただ調べただけでは太刀打ちできないくらいに豊富だ。そんな春香に色々と教えて貰った方が良いなんて判り切っていることだ。

 でも、僕にはその選択肢を採ることができなかった。それは前述した情けない程にみすぼらしい見栄とプライドの表れだけれども、本当の本当はもっと利己的で浅ましい感情が理由だった。

 それこそ言ってしまえばなけなしの男心が砕け散ってしまう程に女々しい理由。

 

 せっかく一緒に居るのだから、別の人の話をするよりも貴女との話しをしていたい。

 

 ──などと……。

 

「言えるはずがないよね」

 

 口の中で転がすだけで実際に言葉にすることはなかったけれど、改めて理由を思い浮かべればそれが一番大きな理由だと自覚した。

 本当に最近の僕はどうかしているらしい。春香相手にあれこれと難しく考えてしまっている。一周どころか二周目の十七年目にしてこんな思春期を拗らせたようなことを考えているなんて。

 

「どうかしたの?」

 

 もごもごと口を動かすだけで何も返さない僕の様子を不思議に思ったのか、春香が首を傾げるようにこちらの顔を覗き込んで来る。

 その表情がこちらを心配するようなものではないことに、「心配する内容ではないこと」だと察せる彼女の洞察力に心臓が跳ねたような気がした。

 今の自分の内面までも見透かされているのではないか、そんな疑心暗鬼に近い考えに反射的に春香から顔を逸らしてしまう。

 

「あっ……!」

 

 でも、すぐに今の行動で春香を傷つけてしまったのではないかと気づいた。

 顔を覗き込んだ相手から顔を逸らされるなんて、春香に嫌な思いをさせてしまっただろうか。仮に僕が同じことをされたら心に尋常じゃないダメージを受ける。

 恐る恐る春香の方へと顔を向ける。でも、そこにあったのは僕の心配した傷付いた春香の顔ではなく、微笑ましいものを観るような温かい笑顔だった。

 

「ごめんなさい、これは別に春香を疎んでとかそういった意味はないの、ただ──」

「大丈夫」

 

 それでも釈明は必要だろうと思い、慌てて口を開いた僕の言葉に春香の柔らかな声が被さった。

 

「千早ちゃんが私との時間を大切に思ってくれて嬉しい」

 

 全て見透かされた様な、こちらを包み込むような声と笑顔に気付かないうちに強張っていた肩から力が抜けた。

 春香には全てお見通しらしい。僕の考えも、懸念も、ちっぽけなプライドも。

 

「……──うん」

 

「嬉しい」と言ってくれた春香の優しさと想いに、僕はただ頷き返すことしかできなかった。

 ああ、それでも僕の心の奥底にあった感情までは読み取れてはいないのだろう。

 僕の前世が男で、今も心が男であり続けているなんてさすがの春香でも気付こうはずもない。

 その事に深く安堵した。

 

「春香と一緒に居る時間は私にとって大切な時間よ」

 

 改めて僕は本心の表側を口に出した。そうする事で裏側の本音を隠すように。

 

「だから、他の人の話はしないわ」

 

 きっと、千早と同じくらい僕は春香のことを大切に思っている。

 すでに原作の千早とは大きくずれて別人と化してしまった僕だけれど、それだけは彼女と同じだと言えた。

 僕は春香が大好きなのだ。

 

「好きよ、春香」

 

 思わず言葉にしてしまうくらいには正直な気持ちだった。

 嘘偽りの無い想いを告げるのは気恥ずかしい。でも、伝えたい時に伝えなければ機会を永遠に失ってしまうから。

 それは二度とごめんだった。

 

「う、あ……う、千早ちゃん、好きって」

 

 顔を赤く染める春香。

 同性とはいえ面と向かって好きと言われて恥ずかしかったのだろうか。春香はごにょごにょと小声で言いながら俯いてしまった。

 この反応に困ったのは僕の方だった。

 わりと頻繁に好き好き言い合ってる気がするのだけれど……。どうしてか今回に限って春香の反応がおかしい。

 赤い顔で独り言を呟き、手をこねこねと動かしながら脚をモジモジさせている。

 まるで熱に浮かされたような様子に今度こそ風邪かと心配になってしまう。

 

「私も千早ちゃんのこと好き」

 

 しかし、春香のはっきりとした言葉と真っ直ぐに向けられた目力の強さに風邪の線は消えたことがわかった。

 春香が僕を見る目が微かに潤んでいるのがわかる。

 春香の瞳に映る僕が揺れる。

 僕の中の春香が揺れる。

 

「……行きましょうか」

 

 不思議とそれが当たり前だと思えるように、自然な形で春香へと手を差し出せた。

 春香は一瞬だけ戸惑いを見せた後、

 

「うん!」

 

 満面の笑みを浮かべてこの手を取ってくれたのだった。

 

 こうして僕達は友情の再確認を終えた。

 本当に僕達って相思相愛だよね!




千早に春香への恋愛感情はないよ。

今回千早の方が春香にフラグを立てているように見えますが、春香に対して恋愛感情を抱いたとかそういうことはありません。友情>恋愛になるように鋼の精神と思い込みで春香への愛情は湧かないようにしています。
仮にあっとしても小学生男子が抱くような思春期一歩手前の衝動程度です。
千早くんちゃん10歳(弟談)。


前回今回の千早の城ヶ崎美嘉に対する台詞は現実で例えると、某夢の国のお土産コーナーで買い物中にメインの鼠人間を知らないと言っちゃったようなものです。
周りからは目と頭を疑われるレベル。春香だから「千早ちゃんだししょうがないよねー」で許されていますが、他人や城ヶ崎妹からすれば「この人やばい」と思われます。
アイマス世界での城ヶ崎美嘉って若者全般の知名度高そうですし。そのメッカとも呼べる街で知らない発言はかなり酷い発言だと思います。
実は引き籠り時代に千早が意識的に無意識を操ってアイドルを認識できなくしていたとかなんとか。

ここ数話でまったく展開が進まずに申し訳ありません。
今回も蛇足と言っていいようなお話でした。しかも千早と春香が会話しているだけという。
続きを期待されていた方には申し訳ない思いです。
ただ、この物語は千早や他のキャラの内面を掘り下げていかないとただ千早が無双するだけのお話になるため、どうしてもその場その場で千早には立ち止まらせてしまっています。
千早が誰に対してどういう感情を抱くかその一つ一つに意味があり、相手を傷つけたり傷ついたりする理由や動機に重きを置いているためしばらくは展開が遅くなります。
などと供述しており。


早くお仕事初日を投稿したいです(だいたい書き終わっている件)
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