Final Fantasy XV 〈Salvation〉 作:日鏡 夜幻
ーーーーアミシティア家の朝は早い。
王の盾としてルシス王家に仕えてきた彼らは、王都にいるときは日課として早朝トレーニングを欠かさない。それは魔法や武器召喚など人外の力を使えるルシス王の側で闘うことができなければ、足手まといになるだけであり、王の盾と名乗るからにはそのようなことは絶対に許されない。
「ッフ……!ク……ォオッ!」
ガギィンッ!!と、派手な金属音が室内に響き渡る。
息を切らす男の前には常人なら到底持ち上げることは不可能な重量の器具が。早朝からいきなりこんなものを持ち上げているくらいだから、王の盾も存外、人の道を少し外れていると言える。
「グラディオラス様、少し根を詰めすぎでは?」
「……大丈夫、気晴らしみたいなもんだ」
差し出されたタオルを礼を言って受け取った男は、心配そうに声をかけたモニカ・エルシェットに苦笑する。
「そう簡単に習慣は変えられねえからな。それに体が鈍っちゃ困る」
「ですが最近の様子は少し変だと、王都城内でも噂になっています」
本来モニカは王都警護隊の先輩であり、立場としてはグラディオラスの方が下にあるわけだが、現在の彼は王都の中でもトップにあたる地位にいた。『王の剣』が先の戦争で解散した後、王都の軍事組織として復活したルシス軍の将軍にグラディオラスが抜擢されたのだ。
前任のコル将軍を推す声も多く、グラディオラス自身もコル将軍に復帰を期待していた。しかし、自分はもう前線に立って闘うことはできない、若い者にまかせる、といって引退してしまった。今は意見番としてグラディオラスに助言する程度だ。
「そうか……悪いな、気をつける」
「はい。それでは私はこれで失礼します」
モニカが出ていった後、グラディオラスは虚空を見つめ、体のダルさを感じ近くのイスに座り込むのだった。
ーー
グラディオラス・アミシティアは大柄な体つきで、腕に入った刺青が印象的な青年だった。今は三十代に突入して以前よりは落ち着いたが、それでも体が衰えたようには全く見えない。むしろ一回り大きくなったようにも思える。
(……それも、背負うものが一層大きくなっちまったからだろうな)
将軍として抜擢されたグラディオラスは、王のいないルシス国では代表となんら変わらない存在で、国民からの期待や責任を一身に負っている。
彼らの王、ノクティスがアーデンとの決戦に向かったとき、時間を稼ぐ為にグラディオラス達は大量のシガイと死闘を繰り広げた。……その時がノクトとの最後の顔合わせとなってしまったが。
さすがの彼らも無傷とは言えず、グラディオラスは左腕の肘から先を切り落とされてしまっていた。今はニフルハイム帝国の将軍、レイヴスが使っていた義手と同じ技術で作られたものを着用している。
別にその事はグラディオラスは気にしていない。闘いの勲章は彼にとっても誇りある栄誉ともいえる。
そんなグラディオラスだったが、彼にはやらなければならない事が山積みだった。この世界が闇から解放された後、彼らにとって荒れに荒れた世界を修繕していくことが最優先事項。ルシス王国はアコルドなどと手を組んで荒れていた地域の復興に努めているが、これがかなり時間がかかると予想されていてグラディオラスの悩みのタネとなっていた。
(それに最近モンスターの凶暴化が報告に上がっていたな)
キュウキやベヒーモスなどはノクティスによって世界が救われても以前と変わらずに存在し続けている。昔は彼らモンスターをハンターが狩っていたため、シガイ無き今、問題ないと思われていたのだが、その予測は覆された。
大陸中、主にニフルハイム帝国周辺なのだが、凶暴化したモンスターが街を襲うといった事件が度々起こっている。
そこでの目撃情報によれば凶暴化したモンスターにはある特徴があるのだという。
「黒い霧みたいなものが全身から溢れている、と」
報告書を読んでいたグラディオラスは、彼が派遣していた情報収集係からの写真を確認して目を見開く。
そこに写っていたのは巨大なベヒーモス。彼らが昔狩ったスモークアイと呼ばれる隻眼のベヒーモスとよく似たモンスター。
似ているだけなら何も問題ない。あのサイズに成長するベヒーモスなど、何体かは世界中を探せば見つかるはずだ。
グラディオラスが驚いたのはそこではない。
「この黒い霧みたいなのは……シガイの」
真の敵が牙を向き始めたのだった。