紅糸清澄   作:茶蕎麦

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 こそこそ……3年ぶりに失礼します!

 皆様もうお忘れになってしまったかもしれませんが、そういや京咲派のお蕎麦なのにちゃんと書いていないな……と気付いたので続き書いてみました。

 他の方々を書くのも忘れてはいませんので、以降少しでも楽しんでいただけましたら幸いですー。


番外話② さよならばかりが人生としても

 山の頂に花が咲く。

 

 それは実のところその頂きが高ければそれだけあまりないことなのかもしれなかった。むしろ、岩だらけの雪の山麓に命の芽吹きまでも求めるのは欲しがり過ぎだと、多くが思う。

 そうやって、険しき山脈(真剣勝負)は、孤独にも(低確率)を受け入れられない。

 そんな当たり前があっても、しかし彼女、宮永咲はこうも知っていた。

 

『森林限界を超えた高い山の上、そこに花が咲くこともある――――』

 

 それは彼女が今一度、を求める姉がその昔に語った言葉。

 その花のように、強く。今はチャンピオンとして高みにあるあの人にそこまで願われた過去が、確かに咲という少女にはあったのだ。

 王牌を引く。それは或いは神様の牌に手を伸ばすことと似ていた。

 

 King's tile drawを目指すようにと促した、宮永照の思惑を未だに咲は分からない。ひょっとしたら、一生をかけたところで真意は理解できないのかもしれなかった。

 もはや楽しかったあの日は炎の向こうに遥か遠く、未だに夢としか見えないくらいなのだから。

 

「私はまだ、そんなに強くないかもしれない」

 

 故に一言、咲はそう認めた。だが、それでも彼女は今も戦っている。窮極の先に花を見つけるために、と。

 

 全国高校生麻雀大会県予選団体戦、決勝。

 その大将戦は、高得点の乱打戦。あの日の長野の確率は狂っていたと後にその牌譜を見直した人たちが述懐したくらいに稀な役が当たり前のように飛び出る凄まじきぶつかり合いだった。

 

『ツモ……リーチ一発平和純全三色一盃口、ドラ――3。数え役満』

 

 風越の大将として池田華菜は不屈を体現し、天江衣の支配をすら堂々と破って32000点を奪取する。

 既に友のいる衣故徒になぶられることさえなくとも、風前の灯火の点数から再び戦列に加わることが出来た彼女の喜色満面の表情は憎たらしさもあり、またどこか憎めないほどに柔らかいものがあった。

 

『ロン――11600』

 

 そして、咲の下家に位置する加治木ゆみだって負けていない。いや、この魔境じみた点のもぎ取り合いの中で唯一麻雀らしさを保ちながら見るものにもしかしたらを感じさせた唯一が彼女であるだろう。

 技術と読心。それを武器にすることで或いは並大抵の人間だろうと魔物たちと誰だって戦えるのではと思わせた、そんなゆみだってしかし及びはしなかった。

 

『――四度目の海底撈月!!』

 

 そして、この闘牌を花天月地とたとえさせた原因でもある魔物、牌に愛された子である天江衣の暴れぶりは凄まじいものがある。

 最初は清澄を狙っていたかと思えば、ゆみからの狙い撃ちに支配力で対抗し、当たり前のように一万点以上で和了った。

 そして、何より王牌を目指す咲と真逆のように海底牌にて確実に和了り切るその異能ぶりには他の手が入る隙などほぼないものである。

 

「でも―――」

 

 今回の団体戦を観るもの達はインターハイ最多獲得点数記録保持者である天江衣をどう抑えるか、に主たる焦点をあてていた。

 たとえば良案の出なかった風越は次善として最も()()()少女である華菜を大将としてそのまま据えている。

 鶴賀学園の場合は一番に上手な津山睦月を衣に当てることも考えたようであるが、その睦月が一番に()()()()人だからとしてゆみを挙げ、大将は彼女となった。

 

「こうやって楽しめているから、まだ……進めていける」

 

 そして、清澄高校に至ってはそもそも天江衣を見つめたものではなく、ただ絶対に安定していて任せられるからと自ずと宮永咲がそこに座っている。

 彼女は奇しくも、対面の天江衣と同じく仲間から絶対的な信頼を得ている魔物。

 

 そんな咲の主たる能力は王牌を自在に理解するもの――――では、ない。

 

「ふふ」

 

 宮永咲の本質はその昔の(元プロ)(チャンピオン)達ですら崩せなかった支配的なまでの点数調整能力であり、故にこそ安定した状態の彼女が負けることなど、ほぼあり得なかった。

 だからこそ、劣勢の先に勝利を知る咲は今を微笑み、そして。

 

「もういっこ、カン」

 

 ただのそれを求める意思の結果として、当たり前のように王牌をその手にするのだ。

 

 花天月地のたとえもあれば、月に叢雲花に風。

 素晴らしきこの時は永遠ではないからこそ美しく。さよならばかりが人生としても、確かに私には花を求める愛があった。

 

『俺は咲が好きだ。でも……ちょっと答えるのが遅くて、ごめんな』

 

 もう確認は無用。目を瞑ったまま彼女は手の中の赤い五筒を披露し、今宵最後の花を魅せる。

 

「清一……対々、三暗刻、三槓子、赤1、嶺上開花……32000です!」

 

 そして、大明槓(捨て牌による槓)からの、責任払い(牌を捨てた衣一人での支払い)という夢のような逆転で優勝候補龍門渕高校を破り、清澄高校がインターハイ進出を決めたのだった。

 

 

 

 清澄高校に入学して、二度目の雨季。

 今年も高校に麻雀部全国大会出場の縦幕が下がる校舎を遠くに望みながら、宮永咲は珍しく雨中の外にてぼうとしていた。

 

「梅の雨。山の上にも花をたとえた言葉はあるんだよね……」

 

 桃色の傘をくるりと回しながら、思い出したかのように彼女はそう言う。

 そして、その横で葉に乗るでんでん虫が紫陽花の端にたどり着くまでの間を、彼女は悩みに尽くすのだった。

 チャンピオン。それを姉から譲り受けてからこの方、咲は王牌に手を伸ばすことの意味について考えることが増えた。

 

 仲を取り戻した姉が教えてくれたところでは、以前嶺上開花の話をしたのは実際健やかに生きて欲しいと思ってのことであり、それ以上の意味はなかったそうである。

 むしろ、あの言葉のせいで妹が嶺上開花ジャンキーになったのだということで、宮永照は珍しくも後悔を面に出したくらいだ。

 軽い姉妹喧嘩の後にしかしそれでもと、自らの生き方を見直し中の咲はこうも考えた。

 

「私は、王に成りたいなんて、そんな気持ちはなくて……ただ、綺麗に咲かせてあげたかっただけ……うん。それは今も、かな」

 

 そもそも、強いこだわりがあろうとも咲にとって嶺上開花は選択肢の一つである。勝ちたいならば、別にそれ以外でも勝てた。

 それくらいに彼女は自らに才能があるとは知っていて、でも時に負けてしまおうが王牌に少女は手を伸ばす。

 

『咲、お前ってやっぱスゲエんだな!』

 

 それは、きっと単純なことだった。

 それでいいかは別にして、でも未だに彼女は頂きの花に夢を持ち続けている。

 

 

「こんなところに居たのか……咲」

「あ、京ちゃん」

 

 雨読ともいかない心地に外に出ても、もう咲は一人でなければそもそも一人にしてくれない彼がいる。

 須賀京太郎は正式に付き合う前からそんな人であり、そして付き合ってからもずっと彼女に手を差し伸べ続けていた。

 緑の折りたたみ傘にその大きな身体を窮屈そうにさせながら、一人をしていた咲に京太郎は苦笑しながら近寄っていく。

 何時もの癖として正対の前に軽く一度背伸びしてから、咲は京太郎に問った。

 

「どうして、私がここに居るのが分かったの?」

「いや、それが愛だとか探したから、って言えりゃまだ良かったのかもしれないけどなあ……」

「えっと、違うの?」

「ああ……誠が黙ってこれ持ってちょっと部室の方に行ってみろって、傘渡してきてさ……アイツお節介っていうかなんていうか……」

「あはは……私達、友達に恵まれてるね」

「だな……誠もあれでからかい方考えてくれりゃあな……どうして俺等アイツのいじりの中で熟年夫婦扱いされてるんだ……」

「だね……」

 

 麻雀チャンピオンカップル。それは去年に麻雀雑誌で付けられた雑な二人の呼称であり、今年もそれが続くのかを気にする者は実のところ外野にそこそこ多い。

 カップル違いますから、とはもう言えない関係であるからにはからかわれても仕方ないとは二人思う。

 だが、それだってどうして夫婦漫才に円熟味が増してきたな、と生暖かい目で友に見られなければならないのか。

 他にも優希辺りは、夫婦喧嘩は犬も食べ飽きたと思うじょー等と揶揄するし、先代部長にはあなた達の結婚式ではスピーチしてあげるからと最後の最後に叫ばれる始末。

 その度、自分達ってそんなイチャイチャしているものなのかと咲と京太郎も首を傾げざるを得なかった。

 

 

「はぁ……いこ?」

「ああ」

 

 そんな下らない方に進んだ会話で先までの真面目な雰囲気は飛び、咲もこの部活休みの日に帰路へ就くようにしたようだ。

 そこそこ速いピッチの足に合わせる、長い脚の彼。ゆったりと何も言わず共に帰ってくれる恋人の良いところを見つつ、咲は足元に影を見て、こう言った。

 

「あ、京ちゃんアマガエル。踏んじゃわないように気をつけよ」

「分かった。あー……そういや、ぶっちゃけカエルの鳴き声って、半分ぐらいはアイラブユーだろ? どうしてアイツらそこら辺あまりからかわれないんだろうな」

「こんなに可愛い両生類に嫉妬しちゃ駄目だよ、京ちゃん……まあ、でも真剣に考えるなら、それは当たり前だから、かな?」

「……だよな」

「京ちゃん?」

 

 止まった彼のつま先を避けるように、カエルはぴょんと去っていく。

 そして、来るだろう返答の代わりの沈黙に振り返った咲は。

 

「咲」

「わ」

 

 そっと、彼に優しく抱きしめられるのだった。途端に、熱く、そして逞しくて嬉しくて恥ずかしくって、と感じるが彼女は何も言えない。

 

 沈黙の時間と一緒にどくんどくんと高鳴る胸元を他所に、京太郎はやがて耳元でこう呟いた。

 

「咲……お前はあんまり、悩まないでいいぞ」

「え、っと……」

「勝つのに悩むのは、お前らしくないっての。何時もらしく脳天気に麻雀って楽しいねってしてる咲でいてくれ」

「……分かっちゃった?」

「そりゃあ……恋人だからな。咲が勝っちまうことに悩んでるってのは分かるって」

 

 咲も恋から心臓が大変であるが、それは京太郎も同じ。

 湿っけと熱とともに伝わってくる本心に、彼女は眦に涙を貯めた。

 

 そう、改めて宮永咲はチャンピオンである。王牌を掴んだもの、とすらされた時の人だ。

 勿論、そんな咲だってプロには中々勝てないし、そもそも京ちゃんを賭けた勝負として時に矛を交える姉にだって勝ったり負けたりだった。

 しかし、彼女は100回やって99回は普通の人に負けないことだって理解している。そして、この世の多くが敗北を楽しめないことだって、理解するようになった。

 

 他の人達が悲しんでしまうなら、私は本当に花を目指すべきだったのか。

 そう、今日も咲は迷っていたのだけれども。

 

「もっとイチャイチャしようぜ、俺等」

「い、いちゃ……ど、どうして?」

「それで、麻雀でも勝ち続けてさ……文句なんて言わせないようにしような」

「えっと……それって」

 

 花に嵐のたとえがあり、さよならばかりが人生。そう諦めきれない純心が宮永咲だ。

 そして、それに恋した男の子だって、もう飽きるくらいに言ったアイラブユーを今日も諦めず。

 

「気にすんなっての、俺はなんて言われようとそんな咲が好きなんだからさ」

「あっ……」

 

 雨は未だ止まない。ひょっとしたら、虹がかかるまでもなく夜が来るのかもしれなかった。

 でも、それでも何度目かぶりの告白に笑みを取り戻した咲は。

 

「私も京ちゃんが大好きー!」

 

 明日の誠のからかいネタにされるだろう、そんな今更の発言を大声にして梅雨の空の下に響かせるのだった。

 

 

 花は咲く。それはきっとそこに、希望があるから。

 




 ダイスの結果……宮永咲 38

 はい、一年の御三方が抜けた感じでした!

 咲さんは、4~71+32+38となりますねー。

 ダイスの結果、残っていて良かったです!
 
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