そして、プロアマ親善試合の三位にある人を捏造することにもなってしまいました。
藤田靖子にとって、須賀京太郎は希望の光である。彼の中で燃え盛る炎、それは彼女の内まで飛び火し、溜まっていた澱を焼き尽くし、軽くなったその身を高みへと押し出してくれた。
教え与えるだけ伸びる彼の為に悩めば悩むほど、靖子の力も着実に伸びていく。それは、ずっと燻っていた過去が思い出せなくなるほどに、健やかなものだった。
得意は捲くり。そのための技術は誰よりもあると信じていた。しかし、他に対する自信はどうであったか。それはプロの世界に浸かれば浸かる程になくなって、幽かにしかないものだった。
だが、何も知らない京太郎は、靖子の全ての力を認めて褒め称える。それが、本気であることは疑いようもなく、また、彼女が卑下したところでそれを認めず彼は持ち上げ続けた。
すると、現金なことであるが、無根拠にも自信が復活してくるものである。そして、教授しながら冷静に見つめ直せば自分の不得手の理由も自ずと見えてきた。後は、試合の中で直していけばいい。
それが可能なのは、藤田靖子が一流の雀士だからということもあったが、京太郎という原石が放つ眩い光にその熱の影響も大きかった。あんなに早く成長し輝いている弟子に、無様な姿は見せられない。そんな矜持も確かに靖子を強くしていた。
そして努力は直ぐに実を結び、今までの実力では勝る事は難しいであろう相手に直接対決ではなかったとはいえ大量に稼ぎ勝つことに成功したのである。
それはコクマが終わってふた月近く経った冬の日。温い室内から出ることで感じる、抜けるような青空の下の寒さに、着膨れした姿で抵抗している小さな少女を見つけた靖子は彼女に声をかけた。
「あんたが天江衣か、お疲れ様。いや、強いね」
「……藤田靖子。衣も夜郎自大だったか。相手が千軍万馬な輩ばかりと分かってはいたが、どこか侮りがあったのかもしれない」
「難しい言葉を使うんだな……まあ、これでもプロの端くれだからな。牌に打たされているような相手には負けれられなくてね」
「衣が、打たされている?」
「ああ、そうだ。細かく教えてあげてもいいが……今は時間がないか。気になるならここに連絡先が書いてあるから後でメールなり電話なりするといい。ほら、名刺」
「わ……にゅ、何だか可愛い黒猫とゴールデンレトリーバーが……」
「……それは気にしないでくれよ」
指摘され、少し恥ずかしくなった靖子は頬を掻く。名刺にデザインされたその犬猫のモデルは自分とその弟子であり、いまだに何故どうしても京太郎の影を自分の隣に入れたいと考えてしまったのか、彼女は疑問を持っている。
まあ、あいつも可愛いといえばそうだからな、と考えながらこっそり目の前の衣という卓上では魔物であっても下りた今は幼気なばかりの耳当てとコートでふわふわな少女を靖子は眺めて機嫌を良くしていた。
「衣ー。どこへ行きましたの?」
「トーカか。それでは仲間が探しているから、衣は帰る。フジタはどうするんだ?」
「もう少し、ここに居るよ」
「そうか」
そして、靖子をその場に放って、メイドを侍らせた金髪の少女の元へとウサギのカチューシャをした金髪少女は走り去る。
こちらを睨みつけている恐らくは透華というだろう少女に、靖子は笑顔を返してから、空を眺めた。着物も気温も違えども同じ晴天の下。しかし京太郎と出会ったあの時、それと比べてどうにも身体が熱くて肌寒さが殆ど感じられないな、と考えながら。
原因となっている、先まで牌を握っていた掌を開いて閉じる。そこに未だ残る熱は、錯覚ではない。今まで毛先も触れることのなかったオカルトを今や掴んでしまった、その感覚を靖子は思い出す。
「あんなことを言ったが、しかし、今日は私も打たされていたのかもしれないな……」
ここ最近、毎度ではないが大事な時に限って必ず誰かの当たり牌を掴んだその時、指先に炎が燃えあがってそれを離さぬようにと靖子を促すようになっている。幻の火炎はその色も熱もまるきり京太郎の瞳の奥にて燻っているものと同じ。
つまり、師弟の絆か何なのか、靖子は京太郎の力の影響を受けて、事前に危険牌の察知をすることが出来るようになったのだ。勿論、そんなものが無くとも彼女は強いが、それでも百発百中の熱い感覚に頼ればその防御力は正しく無比。
今試合、つまりはプロアマ親善試合においてその力は猛威を奮い、半荘十八回を戦って一度たりとて振り込むことなし、という結果になったのであるから、恐ろしい。
「ま、京太郎の助けだと思って有り難く使ったが、別に今回は頼らなくても良かったかな」
だが、力の助けが無くともこの試合にトッププロは出場しなかったこともあり、普通に打っても勝ちをおさめられたのは間違いなかった。炎に頼らず何度か振っていたとしても、靖子は悠々と一位を取れていただろう。二位の衣を引き離して。
天江衣は確かに強い。完調ではなくとも、彼女は正しく魔物で、只の人の手に及ぶものではなかった。
しかし、競った相手は、普段からプロの世界で魔物と争い続けている靖子。もっと言うならば、その実力自信を磨き直して絶好調のプロ雀士。そんな彼女が、不完全な魔物等に負けることなんてまずないのである。
「ふ、藤田プロ!」
「確か、君は三位の……」
「あの、これにサインしてもらえませんか?」
「プロ雀士カード……しかも私のか。いいよ、書いてあげよう。ペンはあるかな?」
「あ、忘れていました……」
靖子がキセルを吹かしながら、自分の闘牌を振り返っていると、そこに束ねられた黒髪を跳ねさせながら、凛とした顔立ちの少女が表情を崩してやって来た。
思い返せば彼女は高校一年生ながら今試合にて三位になったプロの某が見出したという期待のホープであり、そんな子が何用かと思えば、ねだられたのは己がサイン。
快くそれに応じようとした靖子であったが、しかし如何せん試合を終えて直ぐにふらりと外へ出たがために、筆記用具等は手持ちになかった。
故に、カードを用意する余裕があったのならば、と書くものも持って来ていないか尋ねたものの、少女が忘れていたために、それはなく。
思わぬことに顔を朱くした少女を見、どうしようか考えていると、ぽつりと彼女は呟いた。
「うむぅ、失礼しました……あの、失礼ついでに、一つ聞いていいですか?」
「何かな?」
「藤田プロは、京太郎と、どういう関係なのですか?」
「ほう」
靖子は思わず唸る。恥から下を向いていた少女が、顔を上げて京太郎と口にした瞬間、先までが嘘のように切り替わった。その能面の様な表に黒く光る両の瞳に宿るのは粘っこい、敵意。
麻雀で散々に負かした相手からだってそうは伺えない強い意を受けながら、しかし靖子の口の端は弧を作った。
「どうして、彼の名前が出てくるのかな?」
「先輩みたいにどんなものでも臭いで分かる、という訳ではないですけれど……京太郎の臭いならば私は間違えませんから」
「今日一度も会っていないのに分かるとは、全くオカルトな嗅覚だな。それで、京太郎と私がどういう関係かというと……」
「なんですか?」
「からかおうかと思ったけれど、冗談で刺されたら困る。ただの師弟だよ」
ふざけることは許さない。そんな強き視線に音を上げて、靖子は正直に関係を話す。すると、少女はポニーテールを跳ね上げ、驚きを見せた。
「師弟、ということは……京太郎、麻雀始めたのですか!」
「まあ、その通り」
「あれだけ誘っても乗らなかったのに、どうして……」
灰吹きに吸い殻を落としながら、困惑する少女を靖子は観察する。卓上での達者振りと異なって、右往左往するその様子は年相応で可愛らしい。
表情を様々に変えられるのは、最早羨ましいぐらいだと思い、もう一つその顔を驚きに変えることの出来る言葉を思いついて、そのまま靖子は口にした。
「それは知らないが……なるほど君は京太郎のことが好きなのか」
「ええ。何よりも」
しかし、少女は何一つ驚きも恥ずかしがりもしない。決然とした表情を作って、そして真っ直ぐに靖子を望む。
「……まあ、頑張るんだな」
それに圧されることなく靖子は笑い。彼女は適当に応援しているよ、と口にしようとした。
「あいつは私のものだが」
しかし、口は勝手に動いてそんな言葉を発し、更に酷薄に歪んだ。
未だ熱を孕んだ手を確認するように強く握り。そうして、靖子は近い自分を確認してから、遠い少女を嘲笑ったのだった。
「それにしても、京太郎の師匠ってどんな奴なんだじぇ。藤田プロってあまり知らないじょ」
「ほら、口だけじゃのぉて手も動かしんさい。……まあ、最近じゃのお。藤田さんがテレビで騒がれるようになったのは」
「和了りの派手さはなくても、捲くりというスタイルに守備率一位ともあれば、人気が出ないわけもないわよね。でも、ヤスコ自身はプロ雀士カードでレア度が上がったことばかりを喜んでいたわ」
「随分と気にしとったからのぉ……」
小学生高学年相当の部分の計算プリント、ちょうど分数の割り算に差し掛かった辺りで飽きたのか疲れたのか、優希の手は完全に止まってペンから離れる。そして、数字溢れる脳裏で考えていた疑問を言葉にした。
まこはそれを問題視したが、しかし久は休みに丁度いいと話に乗ってあげてとアイコンタクト。またその題目が知り合いのことであるからには、すらすらと話は続いていった。
しかし、京太郎の師匠が二人と既知だとは知らない優希は目をぱちくり。驚いて再び質問をする。
「先輩たちとも、知り合いなのかー? 随分と清澄麻雀部と縁がある人だじぇ」
「と、いうよりもまこの家の雀荘と縁があるのよ。そこから私達、須賀君と面識が出来たの」
「へぇ。染谷先輩の家って雀荘だったのかー。どんな感じの雀荘なんだじぇ?」
「ノーレートの、メイド雀荘じゃ」
「メイド……雀荘……訳が分からないじぇ!」
優希は至極もっともな驚き方をする。しかし、現実にそんな訳のわからない雀荘は存在するために、彼女の発言はそのまま流された。
「まあ、そんなことより、私はヤスコがちゃんとあの二人に危機感を味わわせられるかどうかが心配ね。変に仏心を出す性格じゃないとは思うけれど」
「隠しとるようじゃが、どうも可愛いものに弱いところがあるからのぉ……和に咲を可愛いと思ったら果たしてどうなるのじゃろうか」
「むぅ? 何か先輩たち、悪巧みしていたみたいだじぇ。でも、あの二人に危機感って……そんなの、京太郎に恋人が出来た、とか嘘つけば一発なのに」
何気ない優希の一言。しかし、それは現状を彼女なりに理解しているが故の言葉だった。
思わず上級生二人は驚いたが、しかしその目がこちらにまで向いているようなことはない。特に久はほっとしながら、そっとまこの方を見た。その際に目が合わなかったことに、また少し安心をして。
「……それは駄目じゃ。そもそも、この話は麻雀に対する危機感じゃからのぉ」
「そうね。……そろそろ、休み時間はお終いにしましょうか。ほら、ペンを持って」
「うー、仕方ないじぇ……」
そして、補習は再開される。少し落ち着かない雰囲気のままに、しかしその日、優希はもう二度と京太郎の名前を口にすることなく、嫌々ながらプリントの全てを平らげた。
先輩に頑張ったご褒美とタコスを奢って貰った優希は笑顔で先程までのことなど忘却の彼方にしてしまっていて。だから、意図的に黙していたのかどうかは、最早彼女にだって判らない。
それは、圧倒。京太郎という炎によって焚きつかれた靖子の力は最早学生程度では及びのつかない位置にあった。
ただでさえ運が太い上、相手の当たり牌をその手から零すような真似は殆どせず、更には多少点差付けられたところで捲くる技術まで持っている。
隙というものがまるでない。それでいて、靖子は今のところ別にオカルトな力には手を付けていないという事実。そう、彼女は単純に運と技術のみで三人を圧倒していた。
「通れば、リーチ……」
「ロン。流石にそれは通らない」
「また、ですか……」
高めを狙って捨てていけば、大抵の場合余り牌を狙い撃たれる。その繰り返しが和を脅かす。
牌の出し入れ、理牌の癖。プロの眼力からすれば、上品に牌を並べている相手の手牌は透けているようなもの。対戦者の中では京太郎のみが、理牌せずに挑んでいるが、練習せずに中々そんな真似をすることは出来ない。
勿論、それだけではなく、経験から来る勘に、来る牌に対する理解が靖子の早和了りを支えている。理論理屈は全てその補助にすぎない。
故に、余人には理解の及ばない打牌等頻繁にあって。そんな相手に勝てない、更には恋する人に近寄る毒婦に及ばないという苛立ちによって和の闘牌にも乱れが出てきていた。
「槓」
「ふぅ」
「嶺上開花、ツモ、タンヤオ。三千二百、千六百です」
「こっちは中々、か」
反して、機械のように咲は打っている。その内は冷静とは程遠いが、しかし怒涛も過ぎて呑まれてしまえば凪と影響は変わらなくなってしまうものであり。
苛立ちを通り過ぎた先にて、メンタルに依存しがちな咲の闘牌は皮肉にも安定していた。だが、それでも届かない。捲くりの女王は、最早役満を和了られたところで捲くられることのない位置で安堵していた。
そして最後に、視線の矛先は愛すべき弟子へと向く。
「しかし京太郎。お前はひょっとしてヤキトリで終わる気か? 幾ら捲くりを教えたとはいえ、最終局まで和了りを我慢することはないんだぞ?」
「はい。……って言っても正直この面子の中ではキツいですが、何とか和了ってみせますよ」
「差し込み一度しか振り込まず二位と僅差というのはまずまずだが、それだけじゃあ、褒めてやれないぞ」
「同級生の前で何時もみたいに撫でられても困るだけだから別に……はい、分かりました。頑張りますから睨まないで下さい」
思わず会話を楽しんでしまったが、京太郎の中の炎は変わらず健在。それを確認できただけで、靖子にとっては十分である。
最後まで気持ちが死ななければ、捲くる可能性は消えないのだ。それを教えずとも知っていた優秀な弟子に、送る言葉はさほどない。
靖子はただ可愛らしいその反応の一つ一つを愛で、京太郎の格好いいところを期待する。彼と共にあれる悦びから、嫉妬なのか入り混じってよく分からない強い感情の篭った二対の視線は努めずとも無視できた。
「咲、それロンだ。タンヤオ、七対子、ドラドラ。八千点」
「はい……」
そして、愛弟子は見事に言を叶え、そして咲と和の二人を下すことまで成功する。点数的には靖子の一人浮き。しかし、その下に京太郎が付いてきてくれたことが嬉しく、彼女の挑発的な笑みは満面のものとなった。
「ふふ。私の勝ち、だな。夏が終わるまで、と言ったが……しかしこれだと個人戦はともかく団体戦だと夏のインターハイも県予選で終わってしまいそうだな」
「そんなこと……」
「いや、客観的にみて、非常に厳しいと言わざるを得ない。天江衣率いる龍門渕高校。あのチームは強い。何より衣は群を抜いている。京太郎なら、分かるだろう?」
「まあ、そうですね……龍門渕、特に衣さんにはちょっと俺じゃあ敵わないしなぁ……」
「京ちゃん、その衣さんに会ったことあるの?」
「まあ、靖子さんの縁で、ちょっとな」
咲の問いに応えながら、京太郎はあの日の闘牌を思い出す。支配と蹂躙。衣と靖子の対決に巻き込まれた彼が和了れたのは一度、千点ばかり。
その奪った千点棒一本が衣と周囲の見る目を変えさせたという自覚はあるが、しかしそれっぽっちの傷跡しか残せなかったという無念は未だに京太郎の胸の中にある。
自分の力量は恐らくは咲たちと同じくらい。ならば、確かに今彼女達が戦えば勝てないだろうと京太郎は思う。しかし、それでもまだ県予選には時間があった。
己が力を高めるのにそれほど時間は必要としていない。ならば、と京太郎は希望を持って言葉を紡ぐ。
「でも、まだ時間があるし、咲や和ならひょっとして……」
「京太郎。県予選の大将戦は、満月の夜の辺りに行われるんだよ」
「ああ、それは……ちょっとヤバいな。衣さんが本気を出せるシチュエーションじゃないか」
衣と出会った日、一度きりの半荘。夜半に行われたそれが、どれだけ彼女の強さを京太郎に深く刻んだことか。
正しくオカルトの塊のような、牌に愛された子。それが衣である。
「京太郎くん……その人に私達では勝てない、と?」
「いや……なんて言ったらいいか……って、うわ、靖子さん、頭撫でないで下さいよ」
「よしよし。こういうのは、はっきりした方がいいぞ京太郎。言えないなら私が代わりに伝えてあげようか。――天江衣は私に及びかねない力を持っている。とてもじゃないが、今のお前たちでは勝てないよ」
「っ、そう、ですか……」
「……でも、あの時靖子さん勝ちましたよね」
「最後に捲くるのが上手く行かなければ、私が負けていたよ」
京太郎の頭を抱えながら、靖子は少し物憂げに語る。実際、掛け値なしに衣の全力で向かわれたために、炎の力を借りても僅差だったのだ。
気楽に戦えた今回なんて、その時のプレッシャーからすれば及びもつかないもの。靖子にとって、最早二人は敵ではない。見るべきところはそれぞれにあるが、それだけである。
自分のものを狙われていたからとはいえ、大人気なく威圧してしまったのが今や恥ずかしく思えてしまうくらいだった。
「勝つよ」
しかし、一言。それを皮切りに靖子のそんな考えが覆される程の圧が周囲に振りまかれていった。
その中心にいるのは咲。眼光灯しらせ、感情のままに魔物の気配を発させる彼女を、ここで初めて靖子は直視する。
「強くなって、その人にも勝つ。立ちふさがるもの皆倒して……貴女にも勝つ!」
その一言に篭められた思いはどれ程か。気炎を上げる咲は瞳から焔溢れさせて、普段の小動物のような姿は何処へ行ったのか、今や恐るべき魔物として靖子の前にて立ち上がる。
「ふふ。楽しみにしているよ」
そういう手合いに慣れている筈の京太郎すら竦ませる程の圧力を、しかし笑い流して、靖子はそう答えた。
「まあ、久との約束はこのぐらいで守れただろうかね」
カツ丼を頂いてから黙って支払いをし、三人を置いて先に帰った靖子は自宅のアパートの中でそう独り言ちる。一人暮らしの彼女の部屋は、衣装と同じくパンキッシュな内装に、可愛らしいぬいぐるみが目立つ。
そんな部屋の端にある古びた麻雀の本で埋め尽くされた本棚に近寄って、その上にあるものを靖子は手に取った。
「だが、果たしてあの二人との約束を私は守れるのかどうか。夏の終わりまで、か。自制できるといいのだけれど」
また一言口にした靖子の手元でジャラリと鎖の擦れる音がする。
その根本、パンク風ですらない、まるで大型犬の首に取り付けるためのもののようなシンプルで大きい首輪を手にしながら、靖子は一人衝動と戦っていた。
恐らく皆さんは既に誰か察されているかもしれない三位さんの数字はこうなっています。
ダイスの結果……第三位 97
偏りが気になって、サイコロを買い替えた後にこの数は出ました……いや、不思議です。