モバP(今日は奏が初主演する映画の公開日)
モバP(今、俺は奏を社用車にのせ、舞台挨拶の会場に向かっている)
モバP(デビュー当初からプロデュースを続けてきた彼女が、まさかあの大物監督に才能を見いだされ、今回主役を任せられることになるとは)
モバP(感慨深いが、奏が自分から離れていってしまうようで、どこか寂しさもある)
奏「ねぇ、Pさん」
モバP「ん?」
奏「Pさんは、どんな映画が好きなのかしら?前にも聞いたかもしれないけど、この機会に具体的な作品名なんて教えてくれないかしら?」
モバP「具体的に、ね......俺はそんなに映画を見る方じゃないからなー」
奏「昔見た映画でワンシーンだけ頭の片隅に残っているような、そんな作品でも構わないわ。Pさんの趣味を知りたいと思ってね」
モバP「うーん、『レオン』って知ってるか?」
奏「ええ。ジャン・レノが主演で有名なヤツよね」
モバP「アレ...かなぁ」
奏「......もしかしてPさんってロリコン?」
モバP「おいおい、邪推するなよ。確かに幼少期のナタリー・ポートマンはそうとう可愛いけど。言っとくが俺はロリコンじゃないぞ」
奏「あら、本当かしら?それにしては事務所でよく小さい子と肉体的な接触をしているじゃない?」
モバP「遊んでいるだけなのに、随分な言い方だな。...ま、まぁ、あんまり否定しすぎるとかえって必死で怪しいって思われるかもしれないから、これ以上のことは何も言うまい」
奏「逃げたわね」
モバP「なんとでも言え」
奏「それで『レオン』のどこが印象に残ってるの?」
モバP「それがさ、俺がこれを初めて見たときは高校の国語の授業だったんだよね。女の先生が映画好きでさ。視聴覚室借りて、授業を2、3個使ってまで見たわけ。それで記憶に残ってたのかな」
奏「いい授業ね。うらやましいわ」
モバP「そうそう。印象強いシーンと言えばアレかな。ゲイリー・オールドマンのクスリをヤる演技。あれはスゴかったなー。見終わった後、友達とフリスクを使って真似してたよ」
奏「ゲイリー・オールドマンの怪演が特に光るシーンね。ああいうちょっとイカれた演技もいずれはやってみたいものね」
モバP「本当か!?...まったく想像がつかないが...奏は演技が上手いから、きっとどんな役でも演じきれるんだろうな。あの厳しいことで有名な監督も終始褒めてたそうじゃないか」
奏「ちょっと肩透かししちゃったかな......なんてね。撮影原場では私も緊張して羊のように震えていたわ。それで、Pさんは私のこと、褒められてくれないのかしら?撮影にもほとんど来なかったし」
モバP「ごめんって。それは何回も謝っただろ」
奏「そうだったかしら」
モバP「最終的にちひろさんに鍛えられた俺の土下座まで見せただろ?」
奏「本当に綺麗な土下座だったわね。あんな土下座見たことがなかったわ」
モバP「あれで許してくれるって言ったじゃないか」
奏「謝罪は済んだけど、まだ褒めては貰ってないわね。だから、Pさん...ご褒美に、キス...ちょうだい。」
モバP「ところで奏はどんな映画が好きなんだ?恋愛映画が苦手ってのは知ってるけど、思い入れのある作品とかはまだ聞いてないなーと思って。俺は映画詳しくないから、言われても分からないと思うが」
奏「露骨に話題を変えてきたわね...そうねぇ、私が好きな作品は、二人が幸せなキスをしてエンドロールが流れる作品、または、これから戦地に赴こうとする主人公が今生の別れになるかもしれないヒロインと熱く口付けを交わす作品、あるいは主人公と口論になったヒロインが強引に唇を奪われる作品なんかが大好きね」
モバP「へ、へぇー。その条件を満たす作品なんてものの多くは、俗にB級映画と呼ばれる部類にごまんとあるんじゃないのか?奏はB級映画も見るんだなー」
奏「............」
モバP「もう着くぞー」
モバP(舞台挨拶で劇場に登壇した奏は、名だたる俳優陣と一緒に並びながら、臆することなくしっかりと受け答えをしていた)
モバP(真っ赤なドレスに身を包んだ彼女は、もう俺にとっては高嶺の花。触れれば傷つく薔薇となってしまったのかもしれない。)
モバP(なんだか俺は居たたまれなくなって会場を後にした)
モバP(大人っぽい彼女が本当に大人になってしまったら、俺はどう接していけばよいのだろう。)
モバP(はじめから彼女と釣り合う自分ではなかったが、いつの間にか彼女のからかいを真に受けてしまっていたのか)
モバP(...なんにせよ、まだ彼女は子供だ。彼女にかまわれるうちは、こちらも大人の対応をしていよう)コンコン
モバP(ふと横を見ると、車の窓ガラスを叩く奏がいた)
モバP(彼女の口が『ま・ど・を・あ・け・て』と言っている)
奏「途中でいなくなるなんてひどいじゃない」
モバP「ごめん」
奏「もう謝罪の言葉は聞きあきたわ。ほら、労いを込めたおかえりなさいのキスは?」
モバP(彼女が腰を屈めて顔を近付けてくる。もう何度も見てきた奏のキス顔が、目の前にある)チュ
モバP(俺は彼女のおでこにキスをした。俺からのキスは初めてだ。少し奏も驚いている?)
モバP「ほら、お嬢さん。車にお入り。その格好じゃまだ冷えるだろ?」
奏「Pさん、動揺しているの?助手席に座らせてくれるなんてずいぶんとサービスがいいのね」
モバP「ご褒美だからね」
モバP「あー、それと、奏。何か音楽聞きたくないか?そこのダッシュボードにCD入ってるから、テキトーに取ってくれ」
奏「......CDなんてないわよ。あるのは...何これ、開けていいの?」
モバP「どうぞ」
モバP(奏が空のリングケースを開ける。その拍子に俺は強引に彼女の右手をつかみ、指輪を滑り込ませ握らせた)
奏「フフッ、Pさん、何のまね?」
モバP「いいから、今度はその手を開いてみてくれ」
モバP(奏がゆっくりと指を開いていく。)
モバP「これがリングトリックさ」
おわり