「アンタは……一体……」
「俺か? 俺は
意味が解らないので、頭が埋め尽くされた。目が覚めれば、俺よりデカい男が見下ろしながら、見下しながら俺に名前を明かしているのだから
上半身を起こしながら体を動かし、鈍りを取る。どうやら反応が遅いということは、かなり寝ていたようだ。頭痛もしだし、頭を押さえる
怪我をした覚えもないし、体調も悪いとも言えない
きもちわるい
「ほぅ、『アレ』を抱えながら体を動かすとは。少々でまだまだであるが、よくやった方だ」
何言っているのか本当にわからないが、バカにしているのはわかる。奴は腕を組みながら高笑いしているが、その声が俺の頭痛をさらに強くした
咄嗟に体が動きだし、地面に脚を付けた
「うるさい、黙ってくれないか」
そのような言葉を発そうとしたら、声より先に―――――
『ビュン』
拳が一目散に、奴の顔に向かっていった
それは溜めもなく、ましてや暴力を振るう気にもなれなかった。だが、どうみてもその拳は『殺意』を纏い、過去に放った一撃
当たれば運が良ければ気絶………
悪ければ
―――――――――死
『バシッ』
「随分と遅い拳だ。角度もいまいち、威力もいまいち。だが、人間にしては『怪物』と言えばいいのだろうか。鋭き拳とはめずらしい、溜めもなくこの威力は人間では不可能だ。だがもっと人間として評価すべき所は、尋常ではない『獰猛な殺気』。腹を空かした野獣と同レベルとは驚愕だ。しかも、俺がこの拳を掴まなかったら、まだ二撃目を用意しているようにも思える。片腕のワン・ツーとは中々の武芸だ、素晴らしいとでも言っておこう。人間としては」
だが、奴は意図も簡単に俺の拳を防ぎあわよくば観察する暇もあったのだ。俺も驚いている、体も驚いている、拳が震えている。さまざまな感情が支配しだした
頭痛のことなど忘れていて、逆に思い出すのも不可能な状態。全身の感覚が麻痺しだした。動こうともできない、顔の表情を変えられない
これが――――――恐怖?
いや――――――――期待だ
「俺の拳を受け取るなんて、並の者じゃないね。と――――いかにも達人がいいそうな事いってみたけど」
「貴様も俺に拳を当てようとするなんざ、並以上のバカだがな」
「はは、それは酷くね? こうみえても成績は中の中なんだけど」
挑発に乗りかかるように、拳に力を入れる。だがそれでも奴の受け止めている手はビクともしない
「……………おい、すぐこの拳を引っ込めれば貴様の罰を取り消しにしてやる。引け、小僧」
さっきまでは奴の声は、まるで授業中に演奏しているロック連中だった。だが、今のこいつの声は授業中に寝た時で静かな演奏をしてくれるオーケストラ達のようだ
わかったぞ、何故俺が動けなかったのか? 何故感覚が麻痺しだしたのか? その全てが理解した
こいつに
全力デ
ヤレルカラ
『ドン!! ドン! ドドドドドドド!!!!』
「はっははははははははははははははははははははははははははははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
「……………………………」
溜めのない拳、殺意を纏う拳がまるで五月雨のように奴に降りだす。拳の連打は止まらず、奴の防御も崩れない。緊張と期待が一気に溜まりだした。体がよく動く、頭が真っ白になる。瞼をするのも惜しいこの瞬間を、大切にするよう拳を緩めない
「ヤベェ!!! トマラネェ!!! タノシスギテ、オモシロスギテ、コロシタイ!!!」
「理性を失ったか…………バカが」
「ナァ、アンタモタノシイダロ!!? アツクナッタロ!!? グチャグチャニヤリタイダロ!!??!?」
「もう貴様に情など必要ない。求めるのは人としてではなく、獣を選んだ貴様には最強の罰を与えよう」
奴の防ぐ拳の位置がだんだんと前に進み出し。俺と同じように溜めのない拳が出てき始めた
俺も防御の姿勢をはじめているが、攻撃への手数を休めない。もし一瞬でも止まったら、この殺し合いが終わってしまう
だが、それでも―――――この殺し合いは―――――とてつもなく―――――虚無である
「だが『あの子』には情があるため、仕方がないが0.002%の力でその獣を殺してやろうじゃねぇか!!!!」
「!?」
攻防を繰り広げた拳の音が一瞬に、俺の耳から消え去った。無の空間ができたような感覚。視界も俺と奴以外では、世界が真っ白に染め上っている。しかもありえないことに、スローモーションに見える
熱くなった体が、だんだんと冷えてきて今では戦闘の意欲も急激に上がらない。頭の回路が復活したように、考えることも
拳がだんだんと俺に近づいてくることもって―――――――あれ?
なんで、目の前に拳が
『ドォオン!!!!!!!』
酷い音が、俺の耳に響きだした
顔中の皮膚という皮膚は一時的に機能停止
だが、停止かと思いきや急激な痛みが顔から体にわたりだした
「がああああぁあっ!?!?」
「俺の慈悲を受けろ。俺の強さを称えよ。俺の勝利を味わえ。だが一番大切なのは、『あの子』の優しさを忘れるな。小町 小吉」
「な、なん……………」
「意識朦朧の中で、お前は呂律が回らないだろう。それでいい、今は言葉を忘れよ。考えを捨てされ。魂に意識を預け、目を閉じ、脳みそで安らげバーカ」
最後の瞬間、そいつは不敵な笑みを浮かべ俺はまた気絶してしまった
つか『あの子』って誰?
つかバカって言うなバカ!!!!!!
「―――――これが俺たちの最初の出会いだったな。小吉」
「懐かしいな。まだあの時は意味も解らずアンタに着いて行ったが、今じゃあ立派な宇宙船員だとは」
お互いソファに座っていて窮屈だが、何故か小吉は居心地がいいと思う。まるで大地に身を預けているようだと
虎之助は手を広げ、後ろの窓にベタッとくっ付ける。その動作に可笑しいと小吉は目で追ったが、それでも虎之助の行動は正しいと思っている
「もうすぐだ、もう目の前にマンマルの火星がある。あそこに俺の餌が何百年も撒かれている……ゾクゾクするぜ」
「まったく、あと七日で火星に着陸するんだ。だからその――――不適な笑みは止めてくれよ」
と、虎之助の笑みはまたも小吉に向かれこっちもこっちで不敵な笑みを浮かべる。二人はソファから立ち上がり、食堂に向かった――――
火星まであと七日
「じょうじ」
火星の『奴等』は一週間前から大多数の群れで行動し密集している。一匹一匹が発生音をだし、まるで威嚇、悲鳴をあげているようだ
だが唯一の共通点は
おまけ
「ん?」
「どーしたの? 急に部屋を覗くなんて」
「………………いや、ちょっと思い出しただけだ。変哲もない日常の会話ってのを」
「へぇー、イチローくんは家族が多いから大変だろうね」
「とくに兄弟が多くて困っちまうよ。けど、それでも楽しい部分だがな」
「ふ~ん。まぁ、アタシもトラと話している時もそうだしね」
「あぁ、本当だな。まるで家族だな、俺らは」
感想をください!
そして次回から火星編です!