「暇だ」
暇すぎる。暇で暇だから、暇なのである。それは単純明快、彼の『暇』が訪れた。この世界では軽く驚く程度
だが、彼は『暇』。それは普通の人の倍と考えてもいいだろう。なんたって彼は『最強』。このうえなく飢えているのだ
今日は時間を潰すために、研究所をウロウロ出歩いている。素気ない顔で、両手をポケットに入れ威風堂々と偉そうに
「こないだ遊びにいったばかりなのによ……! あぁ、マジでイラつくぜ!!」
「きゃっ!?」
反射的に大声を出してしまい、横切るはずの女の子が倒れてしまった。衝動―――女は大声に驚いて、そして瞬間に倒れた
尻から倒れたわけではなく、そのまましゃがみ込んだのだ。まるで『忠誠』を誓っているように
「すまん、許せ」
「い、いえ……! あっ、資料が」
「俺が取るから、お前はゆっくりしてろ。瞼の下に薄いクマがあるな、最近徹夜した証拠だろう。手にインクやらパソコンでも打ち続けて多少へこんでいる。そのまま休め」
「は、はい!」
わずかな観察だけで、ここまで見抜くことができるのは虎之助だけだろう。女はそのまま一息つくように、こんどは尻をつけてペタンと座り込んだ
虎之助は一枚、一枚丁寧に資料をかき集める。一枚、二枚―――と、ある紙を取り目を奪われる
それは写真付きの個人情報が書かれている。虎之助はくまなく詳細を読み、器用に散らばった資料を片手でかき集める
右手に集めた資料が数十枚、左にはたった一枚の資料
「なぁ、女。この資料は一体なんだ?」
「あ、その資料はニュートン博士が独自に調べた人材です。私にもわかりませんけど、どうやらこれからスカウトに行くようですよ」
「ほぅ……なら、こいつもその人材なんだな」
虎之助が唯一興味をもった資料を、女の人に見せる。中身を確認して、頭をコクリと上下に動かした
「よし、ならこいつは俺がスカウトしてくるぜ!! ニュートン博士に言っとけ」
「は? ちょ!? そんなわざわざ行かなくても」
「じゃあな」
一言だけいい、無責任にも大切な資料を持ちながら颯爽に素早く去って行った。女は考えた……一体、あの顔とあの内容でどう興味が湧くのかを
この世界は残酷で穢れている―――――
なぜか――――――――
それは―――――――――
人間が存在するからである
人間という生命体が存在するだけで、世界は混乱し関係は壊れは自我を失う。そう、俺は今も過去も現在もそう考える
「ででけ、デブ!!」
「消えろ強姦魔!!!」
「地球のゴミ!!」
人間に罵倒されるのも慣れてきた。いや、別にそういう性癖なわけではなく…もう、どうでも良くなった
俺の周りには何もない、精神的に外面的に現実的に全てが無い。机には悪口という子供が考えそうな落書きと、背中に当たるごみクズ
静かに勉強するのが何が悪い?
「こら、お前たち」
だが、やはりサポーターという補助役は必要なのであろう。教壇で大声をあげる、青年のような先生…大人である
ゲームでも大人という役割は『支える』というキーワードが多い。主人公やそれを取り巻くキャラを支える
だが……
「生ゴミに燃やすごみ当ててどうするんだ」
俺はキャラでもなく、人間でもないらしい
先生は似合わない笑顔を浮かべ、生徒は全員大声をあげて笑いだす。そんなに面白いのか?
またも俺の背中でゴミを当てられる。痛くない、けれど……胸が痛い。頭が痛い。厭になってくる
黒板に書いてあるのを全てノートに書き、それでも俺は何もわからないまま書き続ける
だから言ったろ? 世界は残酷え穢れている……そして、敵が多いと。はは、頭の中でこう考えるなんて俺も末期だな
「おじゃましまーーーーーーーすッッッッ」
『ガシャン!!!!』
突然、窓が全開に開かれた。いや、壊された。そして、声も聞こえた。吞気なセリフと裏腹に、その内は鋭いナイフと思える
一瞬誰も気づかなかった。いや……気づきたくなかったんだろう。こんな変な『生き物』が自分のクラスに入るなんて
皆は表情が固まりながらも、首を動かし窓側を見る
「おっ、テメェが『蛭間 一郎』だな」
どうやら、この『生き物』は俺に用があるらしい。冷静に俺も顔を向けて、そう気取っているが
目が合った瞬間
『ボキッ!!!』
力を入れすぎて、ペンが折れてしまった。指が震ええる、腕が震える、体が震える、脳が震える
こいつは、俺しか見ていない。視線を俺だけに向けている。奴はゆっくりと窓から降り、そのまま俺に向かう
ふざけんなよ、なんなんだこの『世界』は!!!!!!!
声をあげてしまうほど、俺は爆発した。恐怖と憎悪が交る
「なるほど……フム………」
「ッ!!」
見られている。だが、可笑しい……別にみられるなんて慣れているはずなのに、こんな気持ち悪いなんて
『観察』だ
わかってしまった。こいつは俺を『観察』している。二度見よりたちが悪い
「へぇ…やっぱ虐められているんだな、テメェは」
「ッ!? そう…だが」
「たしかに外面的に虐められそうな風格だな。納得、納得。ははははははははははは!!!!」
嫌味を言われているが、言い返せない。たしかに正論だ。正論すぎて、俺は何も言い返す言葉も浮かばない
奴は高笑いしながら、視線を上に向けた。何が可笑しいんだ
だが、教室の空気は変わった。何人は気づいているはずだ、もうここの『支配者』は誰だか
「はは…そ、そうですよね。可笑しいですよね!!? あはははは、あははははははは!!!」
「せ、先生……」
一気に自分の立場が無くなったんだろう。先生は奴に従うように、己も笑い出す。だが、プライドが許さないだろうな
自分も同じ立場に立てないと、面子が丸つぶれ。先生は気づいてない、こいつの『怖さ』を
「ははははははははははははははは!!」
「あは、あはははははははははははははは!!!!!」
「はははははははははははははははははは!!!!!!」
「あはははははははははははははははははははは!!!!!!」
「はーっはっははははははははははははははははははは!!!!!!」
「あーっはっははははははははははははははははははははは!!!!!!」
「うるせぇ」
『ザシュ』
奴の爪が先生の首を切り刻み、そのまま綺麗に床に落ちた。その落ちた音は教室に響きだした
血は、周りの生徒たちにかけられ放心状態。ここで映画だと女性は叫ぶだろうが、叫べない
先生のようになりたくない。そう心に堅く決心している、自分ルールだ。そして、教室の生徒たちが声も発せず出来た暗黙のルール
「あぁ~あ、服が汚れちまったよ。これスゲェ気に入ってるんだぜ? 酷いよな?」
俺に投げかけてきやがったッ!!!!!
どうすればいい? どうすれば、正解が出せる。わかるわけがない、こんな化け物の質問なんか、わかるわけがない
体中に危険信号、脳内ではアラームが。この化け物相手にどうすればいい。俺は……俺は……生きなきゃなんねぇんだ!!!
「知るか」
「まぁ、そうだな。洗えばいいし」
会話が……出来た
「はは、やっぱ俺が見込んだやつだ。この俺にそんな声をかけるなんて」
生きていることが、とても嬉しいと思う瞬間だ。心臓がバクバク動いているが、それでも俺は正常だ
すると、奴は俺に手をさしのばしてくれた
「そのめぐまれた体格…骨が太く、鍛えてないはずなのに筋肉が発達している才能。そして、虐められものなお孤高であり続ける気高さ。合格だ、俺の仲間になりやがれ」
「ど、どういう……」
「ハイ、決定だ。お持ち帰り」
奴の手が俺の顔を覆いかぶせ、そのまま気を失ってしまった
「…………ん、ここは……」
「おう、お目覚めか。蛭間 一郎」
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