fallout 双頭熊の旗の下に   作:ユニット85

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2 異地

「ランドルフ中尉、アイボットの準備完了しました」

 そう報告した部下の元へ行きランドルフは頭の高さで浮いている偵察用アイボットの1機を眺める。周りは緑の大地に澄んだ青い空、今彼らがいるのはウェイストランドではない、異地だ。

「異常は無いか」

「ええバッチリですよ中尉」

 

 アイボットとは、スイカを一回り大きくしたような球体状の機体からアンテナが何本も突き出したロボットである。空中に浮きそこそこの速度で飛び回れるのでNCR軍ではこのロボットにカメラを搭載し簡易な偵察目的で広く使っている。

 周りを見れば同じ偵察仕様のアイボットが2機、合計で3機が準備を完了し命令を待っている状態だった。

 

「よし、アイボットを発進させろ」

 

 アイボットの操作員達がブリーフケースのような折りたたみ式ターミナルを操作しアイボット達の高度を上げ四方へ発進させる。ちなみにターミナル1台で1機のアイボットをコントロールできる。

 アイボット達はターミナルから遠隔操作され地上の映像をリアルタイムでターミナルに送ってくれる、また写真撮影も可能だ。事前に飛行経路をプログラムしたりアイボット自身のAIに任せることも可能だがあまり融通が効かない為、今回は地上からの遠隔操作を行う。

 ウェイストランドとは違う非常に青くに澄んだ空の彼方へ、アイボットたちは飛んで行きやがて見えなくなる。

 

「後は、果報は寝て待て。だな」

 

 ランドルフは、ぼ~と辺りを見回してみる。後続である同じ小隊のM6A1から展開したパワーアーマー兵達がポータルの周りを固め、さらに防護服に身を包んだ科学者達がそこら辺の草や土をサンプルケースに詰め込んでいる。

 

「暇だな」

 

 今の任務はポータル周りの警護と科学者の護衛ぐらいだ。初めて見たときは奇異に思えた異地の風景もしばらくすると見慣れ、飽きてきた。ポータルの周りにあるものといえば、目に見える範囲では広大な草原と、少し近くにそんなに広くない森、そして遠くの方ある山脈くらいしかなかった。

 

 

 

 

 

 2時間ぐらいしてようやく状況が動き始めた。アイボットが道らしきものも見つけたのだ。ランドルフの小隊は休憩中だが急いでアイボットの制御ターミナルへ向かい、モニターを操作員の肩越しにのぞきこむ。

 

 

 

「けっこう広い道だな」

「ええ明らかに道です」

 

 ターミナルの画面にはアイボットのカメラが捉えた映像がリアルタイムで映し出されていた。およそ200メートル上空から送られてくる映像には、緑の大地に一条の茶色い道が少し蛇行しながら刻まれていた

 

「あとはこの道沿いに偵察すれば、いずれ何かが見つかるな。とりあえず北の方へアイボットを進めてみよう」

 

 成果はすぐにあらわれた。大規模な街がみつかったのだ。この発見はすぐさま上級司令部へ報告され。大統領も知ることとなった。この報告に関係省庁は沸き立つ。人間かどうかは分からないが、異地に文明が発見されたのだ。彼らと友好な関係を築き交易を行えば、一から資源開発をしなくてもいいのだ。

 

「新しい命令が下った。アイボットを町の上空に進出させ情報収集をしろ。とのことだ」

 

 アイボットが町へ高度をとりつつ侵入すると、より詳細な町の外観が顕になる。

 町の建造物は殆どが石やレンガ造りで道も石畳で出来ていた。さらには街を縱橫に奔る道路には大小様々な自動車が行き交っていた。パッと見た感じでは19世紀後半から20世紀初頭のヨーロッパの街といった印象であった。しかし町を行き交う人々の様相は地球のヨーロッパとは違うようだ。アイボットのカメラの解像度と望遠限界、さらに真上からの撮影の為、細部は分からないが、どうも人々の頭に例外なく獣の耳のようなものが付いているようだ。

 

「もっと、高度を下げられないか?」

「これ以上下げたら気づかれるかもしれませんよ」

 

 ランドルフとアイボットの操作員が話あっていると、2人の後ろからターミナルを覗き込む人影が一つ。

 

「ランドルフ中尉、見ました? ケモミミ娘ですよ、ケモミミ」

 

 ローランドが2人の後ろで喜色が滲む声を上げて小躍りする。フルフェイスのヘルメットで遮られて表情は分からないが、きっとヘルメットの下はニタニタ顔だろう。

 

「ローランド、自分のpip-boyでも見れるだろ」

「いいじゃないですか中尉、もっと大きい画面で見ても、pip-boyのディスプレイじゃ小さくて」

 

 ランドルフはため息をつきながら、心のなかでなにがケモミミだこのナードめ。と悪態をつく。

 アイボットの映像は戦術インターネットを通じ全員のPip-boyで閲覧でき、さらにポータルの向こうの中隊本部、その上の司令部にもほぼリアルタイムで情報の共有が可能となっている。ただしポータルの向こうは電波が届かないため一旦有線通信に切り替えなければならなかったが。 

 ここで中隊本部から、ランドルフの小隊に町の住民と接触せよ。という新たな命令が下される。

 

「言語データの収集の具合は?」

「順調ですね、すごい勢いで集まってます」

 

 アイボットの集音マイクで集められた言語データは言語解析装置にかけられ、現在英語に翻訳中である。現地民とのコミュニケーションは言語解析装置と同期し、自動同時翻訳機能を搭載しているPip-boyで行うつもりだ。

 そうこうしている間に別のM6A1を装備する小隊やパワーアーマーを装着していない一般の歩兵部隊が到着し橋頭堡をより強固なものにしていく。

 

「よし、小休憩の後、見つけた町へ行き現地民との接触を図る。全員武器とパワーアーマーの点検をしておけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーキム王国の都市アカデブルクは人口10万ほどの都市だ。周辺の農場からの収穫物を集積し別の都市へ流通させる中継都市として発展している。

 その都市にあるアカデブルク中等学校の赤いレンガ造りの校舎2階、今は休憩時間中の教室の窓際で一人の少女が外を眺めていた。

 

「ねぇアメリア次の授業は何だっけ?」

 

 外を眺めていた少女――アメリアに頭からイヌの耳を生やし金髪を肩のあたりまで伸ばした少女が話かける。

 

「次は歴史の授業よ。カミラ」

 

 アメリアはポニーテールにした長い銀髪を揺らしながらカミラに答える。アメリアの頭からも、頭髪と同じ色をした毛に覆われたイヌ耳が生えている。

 

「え~歴史か、わたし歴史は苦手なのよね」

「真面目に受けないとまたテストで赤点とるわよ」

 

 カミラがため息をつきながらアメリアの隣の席に腰を下ろす、すると教室に男子達が喋りながら入って来た。授業の開始が近いのだ。1分ほどして授業の開始を知らせるベルが鳴り響き。生徒達は慌てて自分の席へ着席する。教室にいる全生徒の頭にイヌ耳が生えその毛色は様々であった。

 生徒達が着席して間もなく、小太りの中年の女性教師が温和な笑顔を浮かべながら教室へ入り教壇に立つ。

 

「みなさんこんにちは、さっそくですがこの前の続きから始めたいと思います。教科書の114ページを開いてください」

 

 教室中にページをめくるパラパラという音が響き生徒たちは教科書の上に視線を落とす。

 114ページには産業革命の興りについて書かれていた。

 

「ではコンラートくん産業革命がわがアーキム王国で興ったことでどのような変化が起こりましたか。ここは宿題で予習してくるように前回の授業で言いましたので、当然答えられますよね」

「はい先生の蒸気機関の発明により大量生産が可能になり工場制機械工業が発達し、アーキム王国は飛躍的に発展しました」

 

 教師に指名された男子生徒が淀みなく答える。

 

「素晴らしい、よくできました。この蒸気機関の発明ひとつとっても、私達 カニシアンが人間より優れた種族である証明になります。ではその劣等種たる人間達はどうなりなしたか?テレーゼさん答えてください」

「はい。私達カニシアンの生存を脅かす人間は、愚かにもアーキム王国とその同盟国家に戦いを仕掛けました。けど優等種族であるカニシアンは人間の侵略を撥ね退け、逆に人間達の国を滅ぼしました」

「よくできました。およそ150年前にこの大陸にある人間の国はすべて滅亡しました。当時の人間の国は強力な軍隊を常備していましたが、産業革命によって進歩した我が国の軍の前では無力同然でした。新型の銃や大砲、鉄道による輸送網、蒸気船を装備した海軍、さらに兵士の練度、全てにおいて我が軍は人間の軍を隔絶していたのです」

 

 教師は一旦言葉を切り一息つく、その時生徒の一人から質問が飛ぶ。

 

「先生。人間は絶滅したのでしょうか?」

「いいえ。完全には絶滅していません。生き残りの人間は我が国だけでなく周辺のカニシアンの国でも奴隷として利用されています。あとこの大陸では人間は死ぬか奴隷として生きていますが、他の大陸では逃げ出した生き残りが新たな国を作っています。ですが人間の根絶は時間の問題です。汚らわしい人間の根絶と支配は私達カニシアンが神に課せられた偉大なる使命なのですから」

 

 教師は話を続けようとしたが、ジリリリリという授業の終わりを告げるベルによって遮られる。

 

「あら、ここまでのようですわね。宿題として117ページから120ページを予習してきなさい。」

 

 

 

 

 

 学校からの帰り道アメリアとカミラは石畳の歩道を並んで歩き帰宅していた。日はだいぶ傾いてきたが、まだ夕食までの時間はある。2人はこれから何をするかを話しあっていた。

 2人の直ぐ側の車道を中型のバスが何台も石畳を軋ませながら走っていく。車内には疲れて暗い表情をし、揃いの薄汚れた作業着を纏った人間達が、まるで家畜のようにぎゅうぎゅう詰めにされていた。アカデブルク周辺の農場と市内にある人間用の宿舎間を往復するバスだ。今通ったバスは農場での強制労働を終えた人間を宿舎へ移送する途上のバスであろう。

 

「きったないわね、あんな生き物早く絶滅してしまえばいいのに」とカミラ

「まぁ、それなりに利用価値があるから、動かなくなるまで使い潰すのがいいんじゃない」

 

 そのバスとすれ違う形で対向車線を別の大型の人員輸送用のバスやパトカーが走って行く。紺色に塗装されたそれは警察が使用しているもので、今走っていったバスの車内には大勢の警察官が乗っていた。

 

「何かあったのかしら」

 

 そのバスはどうやら街の入り口の方向へ向かっているようだ。

 2人が正面に向き直ると、街の住民達が大勢歩いてやって来るのが見えた。どうやらバスの行き先と同じ街の入り口へ向かっているみたいだ。その野次馬たちの1人からアメリア達は何事かを聞いてみる。

 

「なんでも、鎧を着た騎士が街の入り口に現れたとか」

 

 鎧を着た騎士と聞いて2人は怪訝な顔をする。今の時代銃火器の性能が飛躍的に向上し戦場で鎧など着ても役に立たない。全身を覆う甲冑など博物館の中でしか存在しない代物だからだ。

 

「映画の撮影かしら?」

「そんな話聞いたことないわ」

「ねぇ、見にいってみない? どうせ暇だし」

「そうね、行ってみましょう」

 

 2人は大した時間も掛けず、ピクニックにいくような気軽さで例の鎧を着た騎士を見に行くことを決める。2人は騎士を見に行く野次馬の群れに混ざり街の入り口へと向かった。

 

 

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