「――という事があって、ダクネスがまた実家に引き籠もった」
「キミって本当に鬼だよね。あの子は強そうに見えて繊細だから、あんまりいじめないであげてねって言ったのに」
ダクネスに結婚式騒動の時の罰を与えた数日後。
俺は、屋敷を訪ねてきたクリスと、広間で話をしていた。
「あれはいじめじゃない。また同じような事があった時に、ダクネスがまた同じような事をしないようにっていう戒めみたいなもんだ。お前だって、あの時にアクセルにいたら、ダクネスが悪徳領主と結婚するのに反対してたはずだぞ」
「そ、それはもちろんそうだけど……」
「それに、今回の事はバニルのせいであって俺は悪くない」
「バニル? バニルっていうと、あのお祭りの時にいた、変てこな仮面を被った人だよね? あの人がどうかしたの?」
……あれっ?
悪魔とアンデッドにはアクア以上に厳しいというこの女神に、バニルの事を伝えてしまっていいんだろうか。
不思議そうに首を傾げるクリスを前に、俺が困っていた、そんな時。
アクアがクリスの前にお茶のカップを置いて。
「粗茶ですけど」
「あ、ありがとうございますアクアさん! いただきます!」
女神の力関係というのはよくわからないが、エリスは先輩であるアクアには頭が上がらないらしく、クリスが恐縮したようにお茶を飲み……。
…………。
その微妙な表情にピンと来て、俺がカップを覗くと、中に入っていたのは透明な液体。
「またかよ! またお湯じゃねーか! 茶葉が無駄になるし、お茶をお湯に変えるのはやめろって言ってるだろ。淹れ直してこい!」
「何よ! 私が液体に触れると水にしちゃうのは、体質なんだから仕方ないじゃない! それに、私が触れたんだから浄化されて聖水になってるはずだし、私の信者だったら喜んで飲んでくれるところよ!」
「おいやめろ。クリスをお前んとこの頭おかしい信者と一緒くたにするのは本当にやめろよ」
「だだだ、大丈夫だから! あたし、お湯も好きだから! それにほら、アークプリーストであるアクアさんが清めてくれた聖水なんて、高級なお茶よりもすごいじゃない!」
アクアにお茶を淹れ直させようとする俺を、クリスが焦ったように止める。
そんなクリスの言葉に、アクアがドヤ顔で。
「ほら、分かる人には分かるのよ。クリスはエリス教徒なのに見込みがあるわね。いっその事、アクシズ教に改宗しない? エリスはね、可愛い顔して昔は結構ヤンチャしてたし、実は胸もパッドを入れている偽物なのよ。クリスもアクシズ教徒になれば、女神アクアの加護できっと胸が大きくなるんじゃないかしら」
「い、今のところ改宗する予定はないかなあ。……それとアクアさん、あんまりそういう話を広めるのはやめてほしいんだけど」
アクアに勧誘され、クリスが困ったように断る。
と、ソファーに座り、ちょむすけをじゃらしていためぐみんが。
「あの、アクア。アクシズ教徒になったら胸が大きくなるというのは本当ですか?」
「本当よ。アクシズ教徒は食べたい時に食べ、飲みたい時に飲んでいるから栄養が行き届いているし、我慢したりするストレスもないから、胸が大きくなりやすいの。『アクシズ教徒になったら、巨乳になりました』『アクシズ教徒になったら、胸が大きくなりすぎて肩が凝って困ってます』『アクシズ教徒になったら、胸が大きくなりモテまくって玉の輿に乗りました』……そんな喜びの声を、私はいろんな信者から聞いたわ」
「いや、お前それ個人の感想ですって出るヤツだろ。詐欺みたいなもんじゃねーか。こないだネズミ講で捕まったばかりのくせに、まだ凝りてないのかよ」
「ちょっと! 余計な事を言うのはやめて! めぐみんはちょっと押せばアクシズ教徒になってくれそうなんだから、邪魔しないでよ! これはCM上の演出ってヤツで、詐欺じゃないわ!」
「完全に狙ってやってんじゃねーか! ふざけんな!」
俺とアクアのやりとりに、めぐみんがいきり立って。
「嘘なんですか? 嘘なんですね? おい、喧嘩を売っているなら買おうじゃないか! 世の中には吐いてはいけない嘘があるという事を教えてあげますよ!」
「待ってめぐみん。ねえ待ってよ! 私は嘘なんか吐いてないわ。ただ、個人の感想だから誰にでも同じ事が起こるとは言えないってだけで……。ていうか、目が赤いんですけど! ヤバいくらい赤いんですけど! めぐみんが怒りっぽいのは知ってるけど、こんな事でそんなに怒るのはどうかと思うの!」
「こんな事? 今、こんな事って言いましたか?」
「すいませんでした! 謝るから許して!」
ちょむすけを放り出しソファーから立ち上がっためぐみんが、アクアに飛びかかる中。
俺はクリスに。
「そういえば、クリスに頼みたい事があるんだが」
「頼みたい事? カズマ君にはいろいろとお世話になってるし、大概の頼み事は聞いてあげるよ」
「ダクネスの屋敷に忍びこむのに協力してもらいたい」
「断る」
俺の言葉に、クリスがキッパリと言った。
そんなクリスに、俺はテーブルをバンバン叩いて。
「ガッカリだよ! 何が大概の頼みは聞いてあげるだ! 期待させておいて即座に断るとか、ガッカリだよ! なあ、クリスも自分で言ってたじゃないか。俺って、結構お前に協力してると思うんだよ。たまにはその借りを返そうとは思わないんですか? それとも、敬虔なエリス教徒ってのは借りたもんを返さないのが普通なのか?」
後半を喧嘩している二人に聞こえないように、ひそひそと囁く俺に合わせ、クリスも囁き声で。
「や、やめろよお……。ねえ、エリス様の名前を出すのは本当にやめてよ。そりゃ大概の事なら聞いてあげたいけどさあ。貴族の屋敷に侵入するっていうのは、大概の事には入らないと思う」
「ほう! 大概の事には入らないような事を俺には頼んでおいて、自分はやらないと?」
「うっ……。そういう言い方はズルいよ! 私の場合は、世界のためにやってるんだから仕方ないじゃないか」
「世界のためだろうがなんだろうが、俺が協力したのは事実だ。それに、王城に忍びこんで正体がバレたら、最悪処刑される可能性があったけど、ダクネスの親父さんとは顔見知りだし、ダクネスの屋敷ならバレても怒られるだけで済むはずだ。協力してくれたっていいと思うぞ」
「そ、それはそうかもしれないけど……。大体、どうしてダクネスの屋敷に忍びこみたいなんて言いだしたの? ひょっとして、引き籠もっているダクネスの事が心配なの? ……ね、ねえ、そういえばお祭りの時、ダクネスとチューしたとか言ってたけど、キミ達って結局どういう関係なの? こないだはハーレムがどうとか言ってたけど、何か進展があったの? ひょっとして、恋人同士になったとか……? そ、それで、人目を忍んで会いたいとか、そういう……? そういう事ならこのクリスさんに任せておいてよ! いくらでも協力するよ!」
わけの分からない事を言ってひとりで盛り上がり、顔を赤くするクリスに、俺は。
「いや、貴族の人に借りた魔道カメラをダクネスが持っていっちまったから、取り返しに行きたいんだよ。あれって高価なものらしいし、早めに返した方がいいだろ。正面から訪ねていったら、ダクネスが会いたがらないって、衛兵に門前払いされた。だからもう、忍びこむしかないが、俺ひとりだと失敗するかもしれないからな。本職のクリスが協力してくれるんなら、バレた時にダクネスの怒りが半分になるはずだ」
「断る」
俺の言葉に、クリスがキッパリと言った。
*****
「――よし分かった。じゃあ、こうしよう。俺と勝負をして、俺が勝ったらクリスはダクネスの屋敷に侵入するのに協力してくれ。クリスが勝ったら、俺はクリスの言う事を何でもひとつ聞く。勝負方法はクリスが決めていいぞ。ただし、ジャンケン以外な」
このままでは埒が明かないので、俺がそう提案すると、クリスは怪訝そうに。
「ジャンケン以外? ジャンケンじゃなくても、運が絡む勝負なんかいくらでもあると思うけど、本当にあたしが勝負方法を決めていいの? 正直に言って、幸運に関する勝負であたしが負けるわけないって思うよ」
「ああ、それでいいぞ。ジャンケンは完全に運だけの勝負だけど、それ以外なら、多少は戦略が入り込む余地もあるだろ」
「……ねえ、それってイカサマするって言ってるの? 言っとくけど、イカサマは駄目だからね」
「もちろん。見破られないイカサマはイカサマじゃないよな」
「キミは何を言ってんの? 駄目に決まってるじゃないか」
「まあ待てよ。イカサマを見破ったらクリスの勝ち。見破らなくても、普通にやったらクリスの勝ちだ。しかも、勝負方法はクリスが決めていいんだぞ? これって、クリスにすごく有利な条件じゃないか」
「だから不安なんだよね。街でクズマとかカスマとか呼ばれてて、卑怯な手段で魔王軍幹部や大物賞金首と渡り合ってきたキミが、自分に不利な勝負を持ちかけてくるとは思えないし……」
「おいやめろ。命を懸けた勝負に卑怯もクソもないだろ。それとも、真っ向から戦って俺が死んだら良かったとでも言うつもりか? それに、お前のせいでパンツ脱がせ魔だとかいう噂が広まって迷惑してるんだが」
「そ、それは悪かったけどさあ……」
なおも渋るクリスに、俺は。
「しょうがねえなあー。それじゃあ、イカサマはなしにしてやるよ。その代わり、めぐみんと組んでもいいか? 二対一なら、クリスの幸運にも勝てるかもしれないからな」
「うーん。それくらいならいいかな。それで、勝負方法はどうするの?」
俺がめぐみんを呼ぶと、めぐみんはアクアに襲いかかるのをやめて。
「勝負ですか? いいですよ。紅魔族は売られた喧嘩を買うのが掟ですからね。それに、カズマに頼られるというのは珍しいですし、悪い気はしません。全力で叩き潰してあげますよ!」
「め、めぐみん? 別にあたしはカズマ君と喧嘩してるわけじゃないからね?」
「三人で勝負になるものって言ったら、ちょうどこの半生ゲームってのがあるな。ルールは知ってるか? サイコロを振って、止まったマスに書いてある通りに、仕事をしたり結婚したり子供が出来たりっていうアレだ。これなら幸運の絡む勝負だし、クリスにも文句はないんじゃないか? チーム全員の点数を足すってのは、流石に二対一だと勝負にならないだろうから、一番点数の高かった奴がいるチームの勝ちって事でどうだ? つまり、俺とめぐみんのどっちかがクリスよりも点数が高かったら、俺の勝ちってわけだ」
ふんふんと頷きながら俺の説明を聞いていたクリスが、首を傾げ。
「ねえ、サイコロを振るって事は、やっぱり完全に幸運が絡む勝負だよね。いくらめぐみんと組んで二対一だからって、対戦相手の妨害が出来るわけでもないし、カズマ君があたしに勝てるとは思えないなあ。一体何を企んでるのさ? やっぱり、イカサマをするつもりなの?」
「イカサマはしないって言ってるだろ。嘘だと思うなら、あの嘘を吐くとチンチン鳴る魔道具を持ってきてもいいぞ。そんな事をしなくても、めぐみんと組めば俺達が勝つに決まってるしな」
「カズマも分かってきたではないですか! そう! 紅魔族随一の魔法使いであるこの私と組めば、どんな勝負だろうと負けるはずがありませんよ!」
「分かったよ。そこまで言われたら、幸運の女神の信徒として引き下がるわけにはいかないよね。それじゃあ、行ってみようか!」
と、なんだかんだ言って、クリスが楽しそうにサイコロを手にした、そんな時。
怒れるめぐみんから解放されたアクアが。
「ねえカズマ。カズマが狡すっからいのは知ってるけど、二対一っていうのはどうかと思うの。めぐみんがカズマと組むっていうんなら、私はクリスと組んであげるのが公平ってものじゃないかしら? 安心してクリス。この私が手を貸してあげるんだから、カズマになんか負けないわ」
「えっ……。えっ……?」
クリスが呆然としたように、アクアを見てポツリと呟く。
アクアが、俺達三人が半生ゲームをしているのに、自分だけ仲間外れにされて黙っているはずがなく。
俺とめぐみんがチームを組んだら、アクアはクリスと組むのが自然な形で。
先輩女神に頭が上がらないらしいエリスに、そんなアクアの提案を拒む事は出来ず。
そして、不運の申し子みたいなアクアが手を貸したりしたら、いくらクリスの運が良くても、俺に勝てるわけがない。
汚い事など何もしてない俺は、爽やかな笑顔を浮かべて。
「そうだな、流石に二対一ってのは卑怯だし、クリスとアクア、俺とめぐみんの二対二って事にしようか。もちろん、俺はイカサマなんかしないぞ? そんな事をしなくても勝つに決まってるしな。ほらクリス、早くサイコロを振れよ」
*****
――その夜。
ダスティネス邸の前にて。
「……本当に大丈夫かなあ? いくらダクネスと仲が良いって言っても、貴族の屋敷に忍びこんだりしたら、普通はタダじゃ済まないんだよ?」
「おい、いい加減に覚悟を決めろよ。俺が勝ったら忍びこむのに協力するって約束だろ」
俺は、半生ゲームでボロ負けしたくせに、ぐちぐち言うクリスにそう言った。
「ううっ……。やっぱり納得行かないよ……! あたしはもう、絶対に絶対に、キミを敵に回す事だけはしないからね。どんな強敵より、魔王軍の幹部とかより、キミを敵に回す方がよっぽど嫌だよ」
「一応聞いとくが、それって褒めてるんだよな?」
「そんなわけないじゃないかあ!」
「しーっ! クリス、静かにして! これから忍びこむところなのに、ダクネスにバレちゃう!」
「す、すいませんアクアさん」
アクアのせいで連れてこられたようなものなのに、クリスはアクアに注意され静かになる。
ちなみにめぐみんは、私を味方にしたかったのではなく、アクアを敵に回してクリスの運気を下げたかっただけなのですねと面倒くさい事を言いだし、不貞寝している。
「それじゃあアクア、今回も支援魔法を頼むよ」
「今回も? ねえ、今回もって言った? キミ、しょっちゅうこんな事やってんの? ていうか、アクアさんの支援魔法をこんな事に利用するのはやめろよお……」
クリスが文句を言う中、アクアが俺とクリスに様々な支援魔法を掛けて……。
「『ヴァーサタイル・エンターテイナー』!」
最後に掛けたのは、俺にとってはお馴染みの、芸達者になる魔法。
「……? ねえアクアさん、今のは何の魔法なの? 聞いた事がないけど」
「今のは芸達者になる魔法よ」
「そ、そうかい。それ、今必要かなあ……?」
俺は疑わしそうにしているクリスに。
「何言ってんだ。これはとてもいい魔法だぞ。ぶっちゃけ、他の支援魔法全部と同じくらい役に立つからな」
「よく分からないけど、カズマ君がそこまで言うって事は役に立つんだろうね」
「あーあー、クリス、クリス……。あたし、クリス! カズマ君にパンツを盗まれて喜んでた盗賊だよ!」
「何言ってんの? ねえキミってば何を言ってんの? やめてよ! その魔法が役に立つのは分かったから、あたしの声で変な事を言うのはやめて! 喜んでたわけないじゃないかあ!」
「クリス、しーっ!」
「す、すいませんアクアさん!」
アクアを屋敷に帰し、クリスとともにダスティネス邸の裏口へと回る。
以前は窓を破って忍びこんだが、本職の盗賊職であるクリスがいるので、解錠スキルを使って裏口から入る事が出来る。
「よし、開いたよ。開いたけど……、ねえ助手君。やっぱり考え直さない? ダクネスにバレたら、タダじゃ済まないと思うよ」
「賭けに負けたんだから、いい加減に覚悟を決めてくださいよ、お頭。……いや、コレって銀髪盗賊団としての仕事じゃないんだし、お頭ってのはおかしいだろ。今回は俺がアクアに支援魔法を掛けさせたりして、お膳立てもしてるんだし、今回こそ俺の方が親分なんじゃないか?」
「何言ってんのさ助手君。貴族のお屋敷に忍びこむんだから、あたしがお頭に決まってるじゃないか」
「分かりました。じゃあダクネスに怒られる時はそう言いますね。あと、銀髪盗賊団が侵入するのは悪徳貴族の屋敷ばかりっていう話になってますから、噂が広まったらダスティネス家に不利になるかもしれませんが、構いませんね? じゃあ、行きましょうか」
「待ってよ親分! 分かったから! キミが親分でいいから!」
「よし、行くぞ下っ端」
俺達は潜伏スキルを使い、ひそひそとそんな会話をしながら、ダスティネス邸に入る。
「それで、親分。キミは前にもこの屋敷に侵入した事があるみたいだし、ダクネスの部屋がどこにあるのかも分かってるんだよね?」
「そうなんだが、貴族の屋敷ってのは広いし、夜で暗かったから、ぶっちゃけダクネスの部屋の場所は分からん。でも心配するな。前の時にも使った手で、ダクネスの部屋まで使用人に案内してもらえるはずだ」
裏口からゴミを捨てるためか、厨房はすぐ近くにある。
俺は厨房のドアをノックし、ダクネスの声で。
「すまない。ララティーナだが、今夜は少し遅くまで起きていようと思うので、夜食を頼めないだろうか」
「お、お嬢様!? 夜食ですか、かしこまりました。ですが、その……、以前、お嬢様のお仲間のサトウカズマとかいう輩が侵入してきた事の対策として、このような場合には声だけでなく、顔を見て確認するようにと仰っていたはずですが……」
……!?
クソ、流石に貴族の屋敷だけあって、一度使った手が二度も通用する事はないらしい。
クリスが目で『どうするの?』と問いかけてくるが、こうなったら手はひとつしかない。
「そうだったな。分かった。今……、ああっ! しまった! こちらへ来てくれ! 早く!」
「お嬢様! どうなさいました! だいじょう……」
「……すいません、『ドレインタッチ』!」
焦ったようなダクネスの声に、慌てて出てきた料理人を、ドレインタッチで眠らせる。
と、俺がひと息ついた時。
「ああっ! サトウカズマ!」
厨房の中から俺を指さし叫ぶ者が……。
中にいた料理人は一人ではなかったらしい。
俺は慌てて厨房に駆けこみ、叫ぼうとしているその料理人に手のひらを向けた。
「『クリエイト・ウォーター』!」
「がぼっ!?」
口内に水を生成され、叫ぶ事が出来ずに苦しそうに水を吐きだす料理人もドレインタッチで眠らせる。
厨房には他に誰もいない。
改めてひと息つく俺に、クリスが心配そうに。
「カズマ君、大丈夫? ていうか、こんな事やって大丈夫なの?」
これはマズい。
ダクネス以外には誰にもバレずに忍びこんで帰るつもりだったのに、盗賊っていうか、強盗みたいな感じになっている。
いや、大丈夫だ。
戦闘になったわけではないし、眠らせただけだし、まだ大丈夫なはずだ。
「これからどうしましょうか、お頭」
「ちょっと待ってよ! あたしは知らないよ! 使用人に手を出して、ダクネスはものすごく怒ると思うけど、親分はキミだからね!」
俺の記憶を頼りに、潜伏スキルを使いながら屋敷の中を歩き回る。
ドレインタッチで眠らせた二人の料理人は、椅子に座らせテーブルに突っ伏した姿勢にして、毛布を掛けておいた。
「ねえカズマ君、もう帰らない? 明日の朝にでも、また来ようよ。ダクネスにはあたしからも謝ってあげるからさ」
と、最初から忍びこむのに反対していたクリスが、そんな事を言いだした。
「おいふざけんな。お前は賭けに負けて忍びこむのに協力してるんだから、今さらそんな事を言いだすのはどうかと思う。言っとくが、クリスの解錠スキルがなかったら、忍びこむのはもっと面倒だっただろうし、お前だって共犯なんだからな。怒られる時は二人一緒だって事を忘れるなよ」
「そうかな? ダクネスに、賭けに負けた事とかいろいろと話したら、あたしの事は許してくれるんじゃないかなって気がするよ。というか、ここでキミに協力し続けるより、大声を出した方が皆のためになるんじゃないかな」
「そんな事したら、誰かが駆けつけてくるまでスティールを唱え続けてやるからな」
「や、やめろよお……」
俺が手のひらを向けると、クリスが涙目になって身を引く。
ひそひそ声でそんなバカな会話をしながら、一部屋一部屋、慎重に調べていると……。
「そこに誰かいるのか?」
とある部屋のドアを少しだけ開けた途端、パッと部屋の中に明かりが灯り、中から低い声が聞こえた。
俺はクリスと顔を見合わせ、逃げようか顔を出して謝ろうかと無言で話し合うも、結論が出るより先に。
「侵入者か? 今すぐに姿を現せ。現さなければ、魔道具を使って警備の者を呼ぶ事になる」
……この声は、ダクネスの親父さんだ。
親父さんとは顔見知りだし、事情を話せば許してくれるかもしれない。
「す、すいません。俺です。サトウカズマです。警備の人を呼ぶのはちょっと待ってもらえませんか?」
そう考えた俺が、頭を下げながら部屋に入ると、ベッドの上で上半身を起こし、厳しい表情で鈴のような魔道具を手にした親父さんがいた。
「……君か。詳しくは聞いていないが、何か諍いがあったようだね。ここ数日、ララティーナが部屋に籠っているのは知っている。それに、クリス君と言ったか。娘と仲良くしてくれているようで、嬉しく思う。しかし、こんな夜中に忍びこむというのは、友人の家に遊びに来るにしても、いくらなんでも非常識だろう。君達の行いは犯罪者そのものだよ。ましてや、ここは仮にも貴族の屋敷だ。これは、貴族としての権力を行使するしないの話ではない。侵入者を野放しにしたなどという噂が立てば、他の盗人を呼び寄せるかもしれないし、何より法を守る者として他の貴族達に示しがつかない。分かるね? 以前は場合が場合ゆえに見逃したが、今回はあの時とは違う。警備を呼ばせてもらう」
厳しい表情で厳しい事を言う親父さん。
……正論だ。
正論すぎて何も言えない。
律義に俺と一緒に部屋に入ってきたクリスも、俺の隣で縮こまっている。
俺は、迷わずベルを鳴らそうとする親父さんに。
「ちなみに、ダクネスが部屋に持ちこんだ魔道カメラには、ダクネスが可愛らしい服を着て可愛らしいポーズをした写真が収められているんですが」
「ララティーナの部屋は廊下を右に行って、角を曲がった三つ目のドアだ」
「ありがとうございます」
俺が礼を言って親父さんの部屋を出ようとすると、クリスが慌てたように。
「ええっ! い、いいんですか? 侵入者ですよ! 捕まえなくていいんですか!」
「いや、私も耄碌したもので、近頃は幻覚や幻聴に悩まされる事も多くてね。だからこれはただ幻聴に答えているだけの独り言なのだが、アレは可愛らしい格好は似合わないと言って、最近では可愛らしい服を着る事もなければ、可愛らしいポーズをする事もない。しかし、親というものは娘の可愛らしい姿を見たいと思うものだよ」
親父さんは、さっきまでの厳しい表情が嘘だったかのように、でれでれしている。
「そういう事だ。ほらクリス、バカな事を言ってないで早く行くぞ」
「バカな事!? ねえ、これってあたしがおかしいの? 納得行かないなあ!」
「おいクリス、静かにしろよ。いくら家主が認めてくれたからって、俺達が貴族の屋敷に忍びこんだ犯罪者だって事を忘れるなよ」
「忘れてないよ! 忘れてないからおかしいって言ってるんじゃんか! キミの方こそ、そんなに堂々と犯罪者だって言うのはおかしくないかな!」
俺は、おかしな事を言って騒ぐクリスを引っ張って、親父さんの部屋を後にした。
「ここがダクネスの部屋だな。中は暗いし、ダクネスは眠ってるみたいだから、魔道カメラだけ盗みだして、とっとと逃げよう。クリス、解錠スキルを頼む」
「ね、ねえ、やっぱり出直さない? 料理人に顔を見られたし、魔道カメラがなくなってたら、カズマ君が盗んだってバレると思うんだけど」
「そもそも魔道カメラを奪っていったのはダクネスだし、俺達は親父さんの許可を得ているんだから何も問題はない」
「だからって乙女の部屋に忍びこむなんて……! ううっ……。ごめんよダクネス……!」
クリスが半泣きになりながら、ダクネスの部屋の鍵を開けて。
俺がそっとドアを開け、ダクネスの部屋に踏みこむと、そこには……!
明かりは点いておらず、月明りが射しこむ部屋の中央で。
アクアが選んだ可愛らしい服を身に付け、姿見の前でくるりとターンをし、ひらひらのスカートを翻して、ニマニマしながら『コレはない。コレはないな』などとぶつぶつ言うダクネスの姿が。
と、俺に気づいたダクネスが動きを止め。
「「…………」」
俺とダクネスは、しばらく無言で顔を見合わせて。
「……間違えました」
「……! ……!! ……ッ!!」
俺がドアを閉めると、部屋の中からダクネスが悶絶するような物音がする。
「な、何? 間違えたって何? 何があったのカズマ君? ねえ何があったのさ!」
俺の肩をガクガク揺さぶるクリスに、俺が答えるより先に、ダクネスの部屋のドアが開いて。
ドアの隙間からダクネスが。
「お前って奴は! お前って奴は! こんな時間に何をしに来た? 以前は事情を隠して屋敷に籠った私にも非があったが、今回のお前はただの侵入者だ。騒ぎになれば、穏便に済ますと思うな。私だって庇うつもりはない。今度こそ前科が付くと思え」
「何しにって、お前が持っていった魔道カメラを返してもらいに来たんだよ。というか、お前が引き籠もってるのも、それの中にあるフィルムをどうにかしたいからだろ? まあ、罰は撮影会をするってとこまでだし、写真をばら撒く事まではしないが、そのカメラは借りたものだから、貴族の人に早く返しておきたいんだよ」
「ば、ばら撒く……!? ふざけるな! そんな事を言われて、誰が返すものか! 屋敷に侵入してきた事には目を瞑っておいてやるから、今夜は大人しく帰れ! あまりしつこいようだと、人を呼ぶぞ!」
「ほーん? いいんですかお嬢様。そんな格好をしているのに、騒ぎになっていいんですか? 騒ぎになって、駆けつけた使用人や親父さんに、その可愛らしい格好を見られてもいいんですか? よし、それじゃあちょっと大きな声でも出してみようかな」
「……!? ま、待て! 分かった。分かったから騒ぎを大きくするのはやめてくれ」
「おっと立場が入れ替わったな。いいからとっととカメラを返せよ。早くしないと、見回りの人が来て騒ぎになるぞ。騒ぎになったら俺は捕まるが、お前だって困るんじゃないか?」
「クッ……! 分かった、とにかく部屋に入れ!」
そう言って、俺を部屋に引き入れようとするダクネスに、クリスがオロオロしながら。
「あ、あの、ダクネス。あたしもいるんだけど、部屋に入ってもいいかな?」
「クリス!? お、お前まで何をやっているんだ! 仕方ない。いいから部屋に……、あっ、いや、待っ……、……ああもうっ! 仕方ない! いいから入ってこい!」
言葉の途中で自分の可愛らしい格好に気付き、ためらうも、ダクネスはクリスに部屋に入るように言う。
部屋に入り、ダクネスの格好を見たクリスは。
「えっと、ダクネスがそんな格好をしているなんて珍しいね。可愛らしくて、よく似合ってるよ」
「そ、そうか……? いや、私は無骨だし、腹筋も割れているし、こういう可愛らしい格好が似合わないから、その……。あまり褒めないでくれ」
クリスの素直な言葉に、ダクネスが赤くなった顔を両手で覆う。
そんなダクネスに。
「そんな事ないよ。似合ってるよ。ダクネスは可愛らしい格好も似合うんだから、いつもそういう格好をしていればいいのに」
「い、いや、私は冒険者で、弱き者の盾になるべきクルセイダーだ。こんな生地のやわっこい服を着ていては、いざという時にすぐに破れてしまうだろう」
「じゃあ、屋敷にいる時だけでも、そういう服を着たらどうかな? カズマ君達以外には見ている人もいないんだし、ダクネスだって、可愛らしい格好は嫌いじゃないんだろう?」
「そ、それは……。いや、しかし、今さら私が可愛らしい格好をしたら、あいつらは……特にカズマは間違いなくからかってくるだろう。だから、私は今のままでいいんだ」
「やっぱりそういう格好が好きなんじゃないか。恥ずかしがらずに可愛らしい格好をしていればいいのに。好きなら好きって素直に言えばいいのに、恥ずかしがって否定するからそんな目に遭うんだぞ。というか、お前は強めに責められたいだのモンスターに嬲られたいだの、そんな格好をするよりよっぽど恥ずかしい事をいつも言ってるからな。お前の羞恥の基準はどうなってんだよ?」
「!?」
と、流石に何かがおかしいと思ったようで、ダクネスが顔を覆った両手を外して声のする方を見る。
そこには、クリスの口を塞いだ俺がいて。
「プハッ! ねえカズマ君、あたしも大体同意見だから黙ってたけど、ダクネスをからかうのはやめてよ! ダクネスは強そうに見えるけど、繊細なところもあるんだから!」
「分かってるよ! 強そうに見えるけど、可愛らしいものが好きなんだよね!」
「あたしの声を真似するのもやめろよお……!」
口を塞いでいた俺の手を振り払い、クリスがダクネスの方をチラチラ見ながら文句を言う。
さっきまでの会話が、クリスの声真似をした俺とのものだと気付いたダクネスが、再び赤くなった顔を両手で覆った。
「…………ゆ、許してください……! もう勘弁してください……!」
泣きが入ったダクネスを、人を呼んで見たままを話してもいいのかと脅しつけ、隠していた魔道カメラを持ってこさせた。
俺が、手にした魔道カメラが壊れていないか点検していると。
「うっ……。ううっ……」
「キミって本当に鬼だよね。本当に本当に鬼だよね。あたし、キミのところにダクネスを預けておいていいのか、不安になってきたんだけど」
すすり泣くダクネスを、まるで俺から守るかのように抱き寄せ、クリスがそんな事を言う。
……この状況は、流石にちょっと罪悪感がある。
「わ、分かったよ。悪かったよ。でも、元はと言えばお前が悪いんだぞ。結婚式の時に俺達に心配掛けたのも、魔道カメラを持ち逃げしたのもお前なんだからな。確かに俺もやりすぎたかもしれないが、俺ばかり責められるのはおかしいと思う」
「カズマ君こそ、悪かったって思ったんならきちんと謝ればいいのに。素直になれないところは似た者同士なんじゃない?」
言い訳をする俺に、クリスがクスクスと笑いながら言う。
「う、うるさいぞ。悪かったって言ってるだろ! すいませんでした! それより、フィルムをどうするかって話だろ?」
ダクネスは、アクアやめぐみんの写真も入っている、高価なフィルムを駄目にする事も出来ず、現像する時に自分の写真を誰かに見られる事も恥ずかしがり、魔道カメラごと部屋に引き籠もっていたらしい。
クリスが、ダクネスの頭を撫でながら。
「よしよし。あたしはダクネスの味方だからね。ダクネスはどうしたいの?」
「わ、私は……、撮影の時、アクアは楽しそうにポーズを取ったりしていたし、めぐみんも写真を撮る事が出来るなんて思っていなかったと喜んでいたし、……出来れば、二人のためにもきちんと写真を形にしてやりたいが……。正直、ここ数日悩まされ続けていろいろとバカバカしくなってきたし、もう魔道カメラごとぶっ壊してやりたいと思う」
「お、おう……。そうかい。ダクネスはこう言ってるけど、どうする?」
「や、やめろよ。これひとつで、屋敷が建つくらいの値段がするらしいんだからな。せめて壊すならフィルムだけにしてくれよ。でも、これだってかなり高価だって話なんだぞ? もう一生遊んで暮らせるくらいの金はあるが、恥ずかしいから壊すってのは普通にもったいないだろ」
というか、ダクネスの写真を親父さんに渡さないと、不法侵入で訴えられるかもしれない事を、クリスは分かっているのだろうか。
と、ようやく落ち着いたようで、クリスから離れたダクネスが。
「……私だって、写真が出来るのを楽しみにしている、アクアやめぐみんをガッカリさせたくはない。私が恥ずかしいのを我慢すればいいと言うなら、我慢してやりたいとも思う。……だが、そう思うたびに、結婚式の時の罰だとか言って調子に乗っていたアクアや、もっと笑顔が硬いだのこっちに視線を寄越せだのと言って、ニヤニヤしながら写真を撮りまくっていたお前の顔が目に浮かんで、イラっとするんだ。このイライラが晴れたらまともな考えも浮かぶかもしれないし、とりあえず一発殴らせろ」
「お、お前……。そんな可愛らしい服を着てるくせに、中身はやっぱり脳筋女じゃないか! 確かに、カメラを構えたらつい変なスイッチが入って調子に乗ったし、ダスティネスの屋敷にまで乗り込んでからかったのはやりすぎたかもしれないが、そもそも原因はお前の方にあるんだし、俺だけが一方的に殴られる筋合いはないはずだ」
「格好を変えたくらいで、そうそう中身が変わるものか! だから言っているではないか、私にはこういう可愛らしい格好は似合わないと! もう悩むのはやめだ。とにかく一発殴らせろ!」
「断る!」
魔道カメラを放り投げた俺は、飛びかかってきたダクネスを正面から迎え撃ち、手四つに組んで向かい合う。
アクアの支援魔法のお陰で、ダクネスが相手でも力負けする事はない。
「おい、いいのか? あんまり騒ぐと見回りの人が来て、お前のその恥ずかしい格好を見られちまうぞ! なんなら、俺が人を呼んでやろうか? ……ぐっ! こ、この野郎!」
ダクネスを牽制するため、声を上げようと口を開いた瞬間、両手を塞がれたダクネスが俺の顔に頭突きをしてきた。
「お嬢様、可愛らしい格好をしているのに、随分と汚い戦い方をするようになりましたね! ……お前をそんな風に育てた覚えはないのだが。私は悲しいよ、ララティーナ」
「……! わ、私の父の声色を使うのはやめろ!」
争う俺達を、魔道カメラを手に見守るクリスが。
「ね、ねえ、二人とも。あんまり騒ぐと、本当に人が来ちゃうよ! そんな事になったら二人とも困るんじゃない? 一回落ち着いて話し合った方が……」
「クリスには悪いが、私はこの男を殴れればそれでいい。誰かに見られたところで構うものか!」
「出たな脳筋! 考えるのを放棄しやがって! お前、結婚式の時からちっとも変ってないじゃないか! 反省したっていうのはなんだったんだ? エリス様に誓ったんじゃなかったのか?」
「そ、それは……!」
と、ダクネスが言葉に詰まった時。
――パシャリ、と。
それは写真を撮影する音。
俺とダクネスが、動きを止めてクリスの方を見ると、クリスが手にした魔道カメラを不思議そうに見下ろしている。
「……あ、あれ? 撮っちゃった……? ごめんダクネス! またダクネスの写真を撮っちゃったかもしれない……!」
撮っちゃったかもしれないも何も、魔道カメラのレンズは、取っ組み合う俺とダクネスの方を向いている。
ただでさえ、可愛らしい格好をした写真を残すのが嫌だと言っていたダクネスの写真を、これ以上撮られて、これ以上に面倒くさい事になるのは困るのだが……。
「お、おい、今のはノーカンだよな? 今のを撮ったのはクリスだし、この際、あいつを殴ってイライラを晴らしたらいいと思う」
「ちょ……!? い、いや、確かに今のはあたしが悪かったけど……!」
俺が、ダクネスの怒りの矛先を逸らそうとしていると。
ダクネスは、なぜか魔道カメラをじっと見つめていて……。
「そ、そういえば、カズマは撮影するばかりだったから、カズマの写真は一枚もないのだな……。し、しかも、私と一緒に写っている写真か……!」
何かぶつぶつ言っているが、何を言っているのかよく聞こえない。
……ちょっと嬉しそうに見えるのは、気のせいだろうか?
「おい、なんて言ったんだ? 俺は難聴系主人公じゃないから、聞こえなかったからってそのままにはしないぞ。ほら、言いたい事があるならハッキリ言えよ」
「い、いや、……その、さっき頭突きをしたので少しは気が晴れたし、アクアとめぐみんは写真を楽しみにしているだろうから、私は恥ずかしいのを我慢しようと思う。だが、なるべく写真を人に見られたくないから、現像してもらう業者はこちらで選んでもいいか?」
「おっ、そうか。それくらいなら構わないぞ。アクアとめぐみんの写真は、現像が終わったらきちんと本人達に渡してやれよ。あと、お前の写真を一枚、クリスにやってくれ」
「えっ、あたし?」
「クリスに? クリスなら悪用しないだろうし、それは構わないが……」
クリスが驚いた顔をし、ダクネスも不思議そうに首を傾げる。
俺はクリスに小声で。
「俺がくれって言っても、断られるに決まってるだろ。お前はダクネスに写真を貰ったら、それを親父さんに渡すんだ。そうしないと、不法侵入で訴えられるかもしれないんだからな」
「えええ……。なんか騙すようで気が引けるんだけど……」
「別に悪い事じゃないだろ? 恥ずかしがる娘の写真を、欲しがる父親に渡すだけだ」
「う、うーん……。まあ、それくらいなら……」
話がまとまると、俺達はフィルムをダクネスに預け、魔道カメラを手に、ダクネスの部屋の窓から脱出した。
「……なんだか、カズマ君と一緒だと、見つかって追いかけ回される事ばかりだから、こうやって静かに逃げられるのは新鮮だね」
「それは言いっこなしですよ、お頭」
「だから、今夜は銀髪盗賊団じゃないから!」
*****
――それから少しの間、ダクネスがしばらく自分の部屋に籠り、出てきたらひとりで嬉しそうにニヤニヤしているという事が何度かあったが、聞いても理由は教えてくれなかった。