このすばShort   作:ねむ井

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『祝福』7、既読推奨。
 時系列は、7巻2章。


このひび割れた屋根に修復を!

 ――銀髪盗賊団が指名手配されたと知った俺は、屋敷に引き篭もりアクアの近くで日々を過ごしていた。

 

「うーまれたー。うーまれたー。ドーラーゴンのーひーなーがー」

 

 窓際に置いたソファーに体育座りしながら、降り続く雨を眺めアクアが歌う。

 その手には卵が抱かれ、手のひらから暖かな光を浴びせていた。

 

「ねえカズマ。そんなところで暇そうにしているんだったら、あんたもこの子のために何か歌を歌ってあげてちょうだい」

 

 絨毯にあぐらをかき、ちょむすけの腹をくすぐってじゃらす俺に、アクアがそんな事を言ってくる。

 

「俺は暇じゃないぞ。ちょむすけの相手をするのに忙しい。というか、この子ってその卵の事かよ? さっきから歌ってたけど、それってただの暇つぶしじゃなかったのか?」

「そんなわけないじゃない。お母さんのお腹の中にいる赤ん坊に歌を歌ってあげると、胎教に良いって言うでしょう? もしもこの子が凶暴なカースドラゴンとして生まれてきても、歌を聞かせてあげていれば優しい子に育つはずよ」

 

 凶暴なドラゴンが歌を聞かせたくらいで優しくなるのかとか、そもそもそれは鶏の卵だろうとか、いろいろと言いたい事はあったが、今はアクアにへそを曲げられると困るので何も言えない。

 そんな俺に、調子に乗ったアクアが。

 

「まったく、これだから童貞ニートは! 子育て中のお母さんに暇な時間なんてあるわけないじゃない。そんな事も分からないんですかー?」

 

 ……この野郎。

 

「鶏の卵抱いてるだけのくせに、何が子育てだバカにしやがって! おい、その卵寄越せ。俺がTKGの歌歌いながら美味しく頂いてやるよ!」

「やめて! やめて! これは鶏じゃなくてドラゴンの卵だって言ってるじゃない! あんたがバカな事を言っているのも、この子には全部聞こえてるんだからね! 生まれてきたドラゴンに美味しく頂かれても知らないわよ!」

 

 俺が卵を奪おうと手を伸ばすと、アクアは涙目になって卵を胸元に抱えこむ。

 と、そんな俺達に。

 

「カズマ、ちょっと手伝ってくれませんか? 二階の廊下が雨漏りしているんですよ」

 

 階段を降りてきためぐみんが、大工道具を片手にそんな事を言ってきた。

 

「お天気占い師の予報では、当分雨が続くらしいですからね。早めに直しておかないと、天井裏が湿気ってカビが生えますよ」

「それは大変だな」

「今日も雨が降っていますが、今は少し雨足が弱まっています。屋根を直すなら今のうちに……、…………あの、カズマ? 大変だなと言っているのに、どうして立ち上がろうとしないんですか? 位置的に私だけでは直すのが難しそうなので、一緒に屋根の上に登ってほしいのですが」

 

 …………。

 

「今ちょっと忙しいから後で」

「ちょむすけをじゃらしているだけでしょう! めちゃくちゃ暇そうじゃないですか!」

 

 暇そうにしているくせに頼みを断る俺の袖を、めぐみんがグイグイと引っ張ってくる。

 

「いや、悪いけど本当に忙しいんだよ。ただちょむすけをじゃらしているだけに見えるかもしれないが、 実はものすごく重要な事をやっていてだな……」

「何か重要な事ですか! カズマだって、この屋敷の事は大切に思っているはずでしょう? まだ私達が借金に追われていた頃、冬を越す事ができるかも分からなくて焦っていた時に、幸運にもこんな大きな屋敷に住めるようになった……あの喜びを忘れたわけではないはずです」

「お、お前……。懐かしい思い出を語っているように見せかけて、精神攻撃してくるのはやめろよ」

 

 これだから知能の高い紅魔族は。

 いや、俺だってこの屋敷には愛着があるし、雨漏りしているのなら修理したいと思うのだが。

 

「手伝ってくれるのならアクアでも構わないのですが……」

「残念だけど、私はこの子を抱いていないといけないから手伝えないわ」

 

 めぐみんの言葉にアクアが即答する。

 最初からアクアには期待していなかったのか、すぐに俺の方を見ためぐみんは。

 

「カズマはこういう時に面倒くさがる人ではないはずです。……もしかして、本当に何か手伝えない理由があるのですか?」

「そ、それは……」

 

 俺が屋根の修理を嫌がるのは、アクアの傍を離れたくないからだ。

 冒険者ギルドのお姉さんの話では、銀髪盗賊団を捕まえるためにバニルに見通してもらう事になっているらしい。

 あの悪魔はアクアの傍にいる人間を見通しづらい。

 バニルに見通されないためには、こいつの近くにいるのが一番安全なはず。

 そんな事情をめぐみんに知られるわけには……。

 …………。

 いや、別にめぐみんに知られても困らないな。

 しかしアクアに知られると困るので、この場で説明するわけにはいかない。

 こいつに隠し事なんかできないだろうから、知られたら何かの拍子にポロっと喋ってしまいそうだ。

  口篭もる俺に、アクアがドヤ顔で。

 

「お子様なめぐみんには分からないかもしれないけど、童貞ニートがこの賢くも麗しいアクア様と一緒にいたがるのは仕方のない事なのよ。私くらいになると、ただそこにいるだけで純真な童貞を誘惑してしまうの」

 

 澄ました口調で言いながら、組んでいた足を優雅な仕草で組み替える。

 その拍子に卵を落としそうになって慌てているが……。

 

「いや、お前は何を言ってんの? 俺にも選ぶ権利があるって何度も言ってるだろ」

 

 俺がすかさずツッコむと、

 

「見てめぐみん。ツンデレよ! この男、金髪ツインテールでもないのにツンデレみたいな事を言いだしたわ!」

 

 アクアが卵を持っていない方の手で俺を指さし、バカな事を言いだした。

 俺がアクアの傍にいたがっているのは事実だが、それでこいつが調子に乗っているのはイラッとする。

 何か、修理を手伝わなくてもいいような言い訳は……。

 

「ええと……。ほら、俺ってヒュドラに殺された時に三割方溶けちまっただろ? これまでにないくらい体が損傷したせいか、生き返ってからも体調が戻ってないんだよ」

 

 唯一俺が銀髪盗賊団だと知っていて、ソワソワしながら俺達のやり取りを聞いていたダクネスが、俺の言葉にハッとした表情を浮かべた。

 

「そうだったんですか? それならそうと言ってくださいよ。では、カズマは今日は安静にしていてくださいね。家事当番も私が代わりにやりますから」

 

 落ちこむダクネスの方をチラッと見ためぐみんが、心配そうにそんな提案をする。

 ……どうしよう、本当の事を言うわけにはいかないとはいえ、普通に心配されると罪悪感がある。

 というか、ダクネスは俺が銀髪盗賊団だと知っているのだから、アクアに知られないために嘘をついていると察してくれてもいいと思う。

 余計な時にだけ勘の良さを発揮するアクアは、俺の態度に不審なものを感じるのか、卵を抱えたまま俺の顔をじっと見つめてくる。

 広間が微妙な空気になる中。

 

「……分かった。不器用な私よりもカズマに任せた方がいいと思い、黙っていたが……。そういう事なら私が手伝おう。雨具を取ってくるから少し待ってくれ」

 

 俺の方をチラッと見たダクネスが、気まずそうにしながら手伝いを名乗り出る。

 そんなダクネスにめぐみんが。

 

「大丈夫ですか? ダクネスもこのところ、毎日のようにクーロンズヒュドラと戦って、疲れているんじゃないですか?」

「心配するな。私は体力と頑丈さにだけは自信がある。確かにヒュドラとの戦いで疲労が溜まってはいるが、修理の手伝いくらいなら問題はない」

「そうですか? では、お願いします。でも無理なら無理と言ってくださいね」

 

 ダクネスは俺に心配するなというような表情を見せ、めぐみんとともに玄関のドアから出ていった。

 

 

 

 ――ものの数分で戻ってきた。

 

「すいません、ダクネスは不器用すぎて手伝いになりません! というか、雨漏りが悪化しました! 早く直さないと廊下まで水浸しになりますよ!」

 

 雨具の裾から水滴を垂らしながら、焦った様子のめぐみんが声を上げる。

 

「知ってるよ。上の方ですごい音がしたから見に行ったら、廊下に思いきり水が垂れてたからな。バケツじゃ足りなくなさそうだったから、ネロイドを捕まえる用のツボを置いといたぞ」

「あ、ありがとうございます。それでですね、やっぱり私ひとりでは直すのが難しそうなので、できれば誰かに手伝ってほしいのですが」

「すいません。不器用ですいません……!」

 

 めぐみんと同じく水滴を垂らしながら、両手で顔を覆ったダクネスが繰り返し謝っていた。

 

 

 *****

 

 

「いいですかアクア。湿気を甘く見てはいけません。ちょっとジメジメしているだけだと思って放っておくと、いつの間にかカビが生えてくるんです。アクアだってカビランランの恐ろしさは知っているでしょう? というか、屋根の穴が大きくなってしまったので、このままだと廊下まで水浸しになりますよ」

「だ、大丈夫よ。私なら水を操って湿気を飛ばすくらいできるから……!」

「本当ですか? 雨が降るたびに湿気を飛ばしてもらう事になりますが、毎回きちんと忘れずにやってもらえるんですか? アクアはウィズの代わりに共同墓地のゴーストを天に導くと言っていたのに、面倒くさがって結界を張っていた事がありますよね? それに、最近も忘れていて、ダクネスに言われて慌ててゴーストを祓いに行っていましたよね?」

「そそそ、それは……!」

 

 卵を温めているからなどというわけのわからない理由で屋根の修理を渋るアクアに、めぐみんがグイグイ迫っている。

 そんな中、ダクネスがこちらの様子を窺いながら。

 

「……カズマ。体調は大丈夫なのか? いや、大丈夫ではないのだろうが……。もしも起き上がるのも辛いなら、ベッドで横になっていたらどうだ? お前が死んだのは私のせいのようなものだし、今日はいくらでも世話をしてやるぞ」

 

 申し訳なさそうな表情で、そんな事を言ってくる。

 意図した事ではないとは言え、騙しているようなものなのでこっちが申し訳なくなってくる。

 本当の事を説明したいが、アクアとめぐみんの前では都合が悪い。

 

「別にお前のせいじゃないって言っただろ。そんなに気にしなくてもいいぞ」

 

 後で説明しようと思い、俺がダクネスの言葉を軽く流していると。

 

「そ、その……。それでお前が少しでも安らぐのなら、またメイド服を着て奉仕してやっても……」

「マジで?」

 

 恥じらいながら口篭もるダクネスに、俺は真顔で問い返した。

 

 

 

「……お茶です」

「うむ。ご苦労」

 

 ダクネスが俺の前に紅茶の入ったカップを置く。

 ――めぐみんの説得に折れたアクアが、卵をダクネスに預け、二人で屋根の修理をするために出ていった後。

 俺はメイド服を着たダクネスに世話をされていた。

 俺の体調を気遣ってか、運んでくる途中で転んで中身をぶちまけることもないし、俺のズボンの股間部分にお茶をこぼす事もない。

 手にしたお盆を胸元に抱え、俺の隣に立って次の指示を待つ姿は、見た目だけなら仕事ができるメイドさんという感じだ。

 ちなみに卵は邪魔になるからと俺が持たされている。

 普段からこれくらいまともならなあ……。

 …………。

 違う、そうじゃない。

 ダクネスがメイドの格好で世話をしてくれるというのでつい乗ってしまったが、体調が悪いと言ったのは銀髪盗賊団の事を知られないためで、本当はアクアに蘇生されたおかげでもうなんともない。

 今ならアクアとめぐみんは広間にいないので、ダクネスにその辺の事情を説明できる。

 

「ほ、他に何か、私にしてほしい事はないか? 今日はなんでも言ってくれ」

 

 …………。

 

「今なんでもするって」

「か、勘違いするな! なんでも言えとは言ったが、なんでもするとは言っていない! そういった事ではなく、もっとこう、普通の……」

「そういった事って何ですかねえ? おいエロネス、何を想像したのか言ってみろよ」

「ううう、うるさい! エロネスと呼ぶのはやめろ! お前がいやらしい目をしているのがいけないんだろう!」

「はあー? そんな格好してるくせに何言ってんの? エロい格好してるんだから、エロい目で見られるのは当たり前だろ。自分から短いスカートを履いておいて、階段を上る時に男の視線が気になるとか言うのはどうかと思う」

「こ、これは少しでもお前のためにと……! 感謝の気持ちを示すためであって……!」

 

 俺の言葉に顔を真っ赤にしたダクネスが、短いスカートの裾を引っ張って太ももを隠そうとする。

 

「そこまで言うならマッサージでもしてもらおうかね。肩揉んでくれよ」

「あ、ああ、分かった」

 

 俺の後ろに立ったダクネスが、俺の肩に両手を乗せ……。

 

「いだだだだだ! やめっ……! おいやめろ、本気で力を入れてどうする! 力加減ってもんを考えろ! 俺の肩を握り潰すつもりか! こっちはステータスの低い最弱職なんだぞ!」

「す、すまない! ……こ、こうか?」

 

 痛がる俺に、ダクネスが首を傾げながら力を入れ直す。

 

「痛い! 痛い! 変わってねーよ! お前、実は俺の嘘に気づいてんのか? まどろっこしい事しやがって!」

「ちちち、ちがー! 父上はこのやり方で喜んでくれて……! おい、ちょっと待て。嘘とはどういう事だ?」

 

 俺の肩に手を掛けたダクネスの声が低くなり、ぴたりと動きを止める。

 

「そりゃ親父さんはお前に肩揉まれて喜んでただけだろ。……どういう事って言われても。ヒュドラにやられたせいでいまだに体調が悪いっていうのは、アクアの傍にいるための嘘だよ。ほら、銀髪盗賊団が指名手配されて、バニルに居所を見通してもらうって話になってただろ? あいつはアクアの近くの人間を見通しづらいらしいからな。でも、俺が銀髪盗賊団だって知らない二人には事情を説明できないから、それっぽい嘘をついたんだよ」

 

 というか、ダクネスがメイド服で奉仕してくれると言いだしたせいで忘れていたが、アクアの傍にいなくて大丈夫なのだろうか?

 屋敷にはアクアが張った悪魔除けの結界があるから大丈夫なはずだが……。

 

「お、おお、お前という奴は! わ、私は本当に、私のせいでお前に負担を掛けたと……! 本気で心配したんだぞ……!」

「そ、そりゃ悪かったけどさ。でも事情を知ってるのはお前だけなんだから、察してくれてもいいと思う」

 

 俺の言葉に、ダクネスは悔しそうな表情を浮かべ。

 

「くっ……! いや待て、だったらどうして私がメイド服に着替える前に説明しなかったんだ? あの時には二人はもう外に出ていたのだから、嘘をつき通す必要はなかったはずだ。そうしていたら、私もこんな恥ずかしい格好をしなくて済んだのに……!」

「だってしょうがないじゃん。エロメイドにご奉仕してもらえるんだったら、多少の嘘くらいついたってしょうがないじゃん」

「お前って奴は、お前って奴は!」

「いだだだだだ! おいやめろ、暴力に訴えるのはやめろよ! そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞ! いいのか? 今のお前にクリエイトウォーターで水をぶっかけたら、濡れ透けエロメイドにジョブチェンジする事になるぞ!」

「やってみろ、やれるものならやってみろ!」

 

 と、そんな時。

 屋根を直すために外に出ていたアクアとめぐみんが戻ってきた。

 

「ねえ待って! もう一度チャンスをちょうだい! 工事現場の女神と呼ばれたアクアさんよ? ダクネス並に不器用扱いされるのは納得いかないんですけど!」

「アクアは卵を気にしてソワソワしすぎですよ。屋根の上での作業なんですから、ちゃんと集中しないと危険です」

「だって! だって! ダクネスは不器用だからうっかり卵がクシャッてなるかもしれないし、カズマは目を離したら卵を食べるつもりに違いないわ! あの二人に任せてもちっとも安心できないの! めぐみんは子供を心配するお母さんの気持ちが分からないの?」

「それはまあ、私は母になった事はありませんから……」

 

 アクアと話しながら屋敷に入ってきためぐみんが、俺達の方を見ると言葉を止める。

 

「……あの、どうしてダクネスはメイド服に着替えているんですか? 私達が外で屋根を修理している間、二人は何をやっていたんですか?」

 

 ジト目になるめぐみんに、ダクネスは。

 

「ち、違うんだめぐみん! 聞いてくれ、この男は……! ……ッ!」

 

 慌てて言い訳をしようとし、俺の肘打ちを受けて口を閉じる。

 めぐみんはともかく、アクアの前で事情を説明するわけにはいかないという事は、こいつも分かっているのだろう。

 様子のおかしいダクネスに、めぐみんが首を傾げる中。

 

「あーっ! どうしてカズマが卵を持ってるの? 返して! ほら、うちの子を早く返しなさいな!」

 

 アクアが声を上げ、俺から卵をひったくっていく。

 

「もう! ダクネスったら、どうしてカズマに卵を渡しちゃうの? その男に渡して、卵が食べられちゃったらどうするのよ?」

「す、すまない。その、カズマの世話をするのに邪魔になったから……」

「まったく! ダクネスはまったく! 卵とこの男と、どっちが大事なの?」

「お前バカか。鶏の卵なんかより俺の方が大事に決まってんだろ」

「お、お前は調子に乗るな!」

 

 アクアにツッコむ俺に、ダクネスがいきり立ち。

 そんなダクネスにめぐみんが。

 

「ダクネス。カズマは生き返ったばかりで調子が悪いのですから、乱暴はダメですよ。ダクネスだって、カズマが心配だからメイドの格好をしているのでしょう? いえ、どうしてメイドの格好なのかは分かりませんが」

「いやめぐみん、……! そ、そうだな。今日くらいは安静にさせてやろう。すまなかったなカズマ」

 

 事情を説明できないダクネスが、すごい目で俺を睨みながら話を合わせる。

 ダクネスから目を逸らす俺にめぐみんが。

 

「ですが、困りましたね。早く屋根を直さないと天井裏が水浸しになりかねません。カズマ、すいませんが、フリーズで応急処置だけでもしてもらえませんか?」

「いや、そういう事なら俺がアクアと屋根を修理してくるよ。体調が悪いって言っても、多少無理すればそれくらいはできるし、もしもの時もアクアが傍にいれば大丈夫なはずだ」

「本当ですか? それは助かりますが……。あまり無理しないでくださいよ」

「まあ、無理はしないけどな。めぐみんも言ってたじゃないか。俺だって、この屋敷の事は大切だと思っているんだよ。ほらアクア、行くぞ」

「えー? どうして私まで行かないといけないの? こういう時くらいしか役に立たないんだから、カズマがひとりで直してくればいいと思うんですけど!」

 

 アクアの傍にいるためのちょうどいい言い訳を見つけ、立ち上がった俺に、卵を抱えてソファーに腰を下ろしたアクアが文句を言う。

 めぐみんがそんなアクアをたしなめるように。

 

「そんな事言わずに、カズマと一緒に行ってあげてくださいよ。もしもカズマの体調が悪化したら、なんとかできるのはアクアだけなんですよ」

「騙されちゃダメよめぐみん。さっきから体調が悪いとか言ってるけど、その男は……」

「よしアクア! さっさと屋根を修理してこようか!」

 

 余計な事を言いそうなアクアを引っ張って、 俺は屋敷を飛びだした。

 

 

 *****

 

 

 雨の中、めぐみんが立てかけた梯子を伝い屋根の上へと登る。

 俺はアクアから大工道具を受け取ると、屋根のひび割れを鍛冶スキルで修復し始めた。

 

「トンカチくれ」

「はい」

「やすり」

「はい」

「…………」

「汗」

 

 俺は何も言っていないのに、アクアがハンカチを取りだし俺の額を拭く。

 

「いや、お前は何をやってんの? 手術じゃねーんだぞ! 雨で濡れてるのに汗拭いたってしょうがないだろ!」

「次は何? ほら、早くしてー、早くしてー」

「楽しくなってきてんじゃねーよ!」

 

 と、俺がアクアに邪魔されながらも順調に作業を進めていると。

 

「ねえカズマ。回復魔法のエキスパートである私には、私の完璧なリザレクションで生き返ったのに、体調が悪いなんてあり得ないって分かってるんですけど」

 

 アクアがニヤニヤしながらそんな事を言ってくる。

 こいつは普段察しが悪いくせに、どうしてこういう時だけ勘が良いんだろうか。

 

「調子が悪いふりをして、ダクネスにメイドの格好をさせていたんでしょう? この事をダクネスに黙っていてほしかったら、マイケルさんの店で一番高いお酒を買ってちょうだい」

「お断りします。俺が嘘ついてたって事はダクネスも知ってるよ」

「!? ねえ待って! ちょっと意味が分からないんですけど! ダクネスってば、カズマの体調が悪いわけでもないのにメイドの格好でお世話してたって事? 前はメイド服を着るのを恥ずかしがっていたのに、ダクネスも変わったわね。これはギルドの皆に広めないと……」

 

 なんか誤解されている気がするが、俺は本当の事しか言っていない。

 

「よし、まあこんなもんだろ。これでダメだったら業者の人を呼ぶしかないな。おいアクア、終わったから汗拭いてくれ」

「……? カズマったら何言ってるの? 雨で濡れてるのに汗拭いたってしょうがないじゃない」

 

 この野郎。

 

 

 

 

「お帰りなさいませご主人様! なるほど、メイドというのはこんな事もやるんですね」

 

 作業を終えて屋敷に戻った俺とアクアを、メイド服姿のめぐみんが出迎えた。

 

「どうですかカズマ。ダクネスはあまり乗り気ではないようなので、今日は私がこの格好でお世話してあげますよ」

 

 仲間思いなめぐみんは、体調が悪い俺のために恥ずかしいのを我慢しているらしく顔が赤い。

 メイド服はダクネスにとってはサイズが小さいが、めぐみんが着るとあちこち余っていて、袖や腰を紐で絞っている。

 胸に詰め物をしているのが、胸が小さいことを結構気にしているめぐみんには一番屈辱的なのかもしれない。

 そんなめぐみんの後ろでは、普段着になったダクネスがオロオロしている。

 ……何があったのかは分からないが、めぐみんが俺の嘘を信じてメイド服を着る事になってしまい、止めるに止められないでいるらしい。

 というか、めぐみんになら俺が銀髪盗賊団だと教えても構わなかったのだが。

 

 と、俺の隣に立っていたアクアがぼそっと。

 

「ねえカズマ。ダクネスはカズマが嘘ついてたって知ってるらしいけど、それってめぐみんも知ってるのかしら?」

 

 …………。

 

「高い酒奢るのでめぐみんには黙っててください」

 

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