時系列は、6巻2章。
俺がこの国の王女であるアイリスに気に入られ、アイリスの遊び相手として城に住むようになって数日が経った。
そんなある日の事。
俺が王城の廊下を歩いていると、敵感知スキルに一瞬だけ反応があった。
注意深く周りを見回すと、すぐ近くにドアがあって。
そのドアの前には、絶対に通さないという意志をひしひしと感じる、厳めしい顔をした騎士が立っている。
俺と目が合うと、その騎士は少し居心地悪そうにしながらも。
「サ、サトウ殿。申し訳ないが、この部屋は立ち入り禁止です」
「ほーん? 俺はアイリス王女の名のもとに、常識的な範囲であればお城のどこでも好きに入っていいと言われているんですが。それなのに、その部屋には入っちゃいけないんですかねえ? その部屋には何があるんですか?」
「そそそ、それは……! も、申し訳ないがそれも話せない! 機密事項だ!」
「城で暮らす俺が不自由しないように、なるべく便宜を図るようにってレインが通達してるんですよね? それでも話せないんですか?」
「い、いえ、これはレイン殿よりも上位の命令でして……!」
ネチネチと質問する俺に、失言した騎士がハッとした表情を浮かべ。
「今この城でレインよりも上位って言ったら、アイリスかクレアしかいないだろ。ていうか、おいアイリス。そこにいるのは分かってるぞ! 観念して出てこい! 隠れんぼに権力を使うのはどうかと思う!」
廊下を歩く俺の足音を聞き取り、部屋の中のアイリスが警戒した一瞬に敵感知スキルが反応したのだろう。
「いません! いません! アイリス王女はここにはいません!」
無理やりドアを開けようとする俺を、騎士が必死に押しとどめる中。
「お兄様こそ、スキルを使うのはズルいです! お兄様がスキルを使うなら、私が権力を使ってもいいと思います!」
ドアの向こうから、アイリスの楽しそうな声が聞こえてくる。
「ほら、やっぱりいるじゃねーか! 見つけたぞ!」
「いいえ。ルールを決める時に、きちんと相手の顔を見なければ見つけた事にはならないとお兄様は言っていました。私を見つけたいのなら、ドアを開けて部屋に入ってこないとダメですよ。……さあ、我が忠実なる騎士スケサンよ。お兄様を追っ払ってしまいなさい!」
「ア、アイリス王女? 私はスケサンなどという名前では……。と、とにかく、そういう事ですので。サトウ殿、ここはお引き取りください」
変てこな名前で呼ばれ微妙そうな騎士が、キリっとした表情を浮かべ俺を見据える。
俺はそんな騎士スケサンに。
「ちょっと待て、あんたは騎士としてそれでいいのか? ここんところ、どこの馬の骨とも知れない冒険者の影響を受けて、アイリスがどんどん王女っぽくなくなってるって噂になっているらしいじゃないか。このままアイリスが王女として間違った方向に成長しちまったら困るんじゃないか?」
「あ、あなたがそれを言うのですか!」
「あんただって、遊びに権力を持ちこむのは間違ってると思うだろ? このままアイリスが暴君にでもなっちまったらどうするんだ? 今それを止められるのはあんただけだぞ。ここは忠実な騎士として、命令に背いてでも主のために正しい事を教えるべきなんじゃないか?」
「そ、それは……! しかし……!」
ドアの前から動こうとはしないが、騎士は明らかに動揺していて。
「ダ、ダメです! お兄様を通さないで! お兄様は、勝負に勝つためならどんな手段を使ってもいいと言いました! 王女である私が権力を使う事に、文句を言われる筋合いはないはずです!」
「ほら、素直だったアイリスがこんな事を言ってるぞ? 本当にこのままでいいのか?」
「ですから、あなたがそれを……!」
俺の言葉にイラっとした表情を浮かべつつも、迷いを見せる騎士に、俺がさらに何か言おうと口を開き……。
と、そんな時。
「あなた達は何をしているのですか?」
俺の背後から聞こえた声に、騎士が表情を強張らせた。
――数分後。
俺とアイリスと騎士の三人は、並んでクレアに説教されていた。
「何度言ったら分かるのですか、カズマ殿! アイリス様におかしな事を吹きこむのはやめていただきたい!」
「おかしな事って言われても。隠れんぼくらい、そこらの子供でも普通にやってるだろ」
「そうではない! いや、アイリス様におかしな遊びを教えるのもやめてもらいたいのですが……。そうではなく、あなたのような冒険者と違って、王族には王族の戦い方が……。というか、廊下で遊ぶのは皆の迷惑になります。アイリス様も、仕事中の騎士を遊びに巻きこんではいけませんよ」
アイリスが楽しそうにしているのを止めるのは気が進まないのか、どこか煮えきらないクレアの言葉に。
「あ、いえ、自分は休憩中なので……、…………」
アイリスの代わりに言い訳をしようとした騎士が、クレアににらまれ黙る。
「そう言われても、アイリスは城から出られないんだから、城の中で遊ぶしかないだろ。こないだ廊下を走るなって怒られたから、今日は走らなくてもいいように隠れんぼにしたんだぞ? 隠れんぼなら、ちょっと物陰に隠れたり、探すのに歩き回ったりするくらいだしな。騎士の人もこう言ってる事だし、誰にも迷惑は掛けていないはずだ」
「そういう事ではありません! これまではどんな時でも高貴な雰囲気を崩さず、わがままを言う事もなかったアイリス様が、あなたが来てからというもの……」
俺に説教するクレアがチラッとアイリスを見ると、アイリスは上目遣いでクレアを見ていて。
「…………、……これはこれで大変お可愛らしい……い、いえ、そうではなく! とにかくなんというか、ダメです」
「いやふざけんな。そんな適当な事を言われて、はいそうですかってなるわけないだろ」
俺はアイリスを見てダメな顔になったクレアにツッコむ。
「て、適当ではありませんよ! アイリス様は王族として、常に周りから見られているという事を自覚していただかなくてはなりません。庶民であるカズマ殿と遊びまわるなど言語道断です!」
それだけは譲れない事なのか、クレアが強い口調で断言する。
俺には貴族だの王族だのといった世界の事はよく分からないが、アイリスが何も言わないという事は、クレアの言っている事は正しいのだろう。
うつむくアイリスの姿に、クレアが口を開きかけるも、何も言わずに口を閉じる。
こいつが口うるさく言うのも、アイリスのためを思っての事なわけで……。
「しょうがねえなあー。なら、人目に付かないところで遊んでいればいいんだろ? この城は広いんだし、誰も入らない庭とかないのか?」
「そ、それはもちろん、ありますが……」
「よし、じゃあそっちに行ってなんかしようぜ。アイリスもこのままじゃ物足りないだろう?」
俺の言葉にアイリスは。
「いえ、今日は私の勝ちですから、これで終わりでもいいですよ。クレアに止められた時、お兄様は私を見つけていませんでしたから」
「……!? アイリス様! ですからそういった考え方を改めていただきたいと……!」
笑顔で狡すっからい事を言いだしたアイリスに、クレアが焦った様子で言う。
俺と出会った頃は素直で大人しかったアイリスは、このところすっかり要領が良くなってきていて。
このままでは俺の兄としての威厳が危うい。
「ほーん? もっと広くて隠れる場所が多いところなら、 隠れんぼの上位版である缶蹴りが出来るんだけどな? 隠れんぼよりももっと面白いのに、やらなくてもいいんだな? まあ、アイリスがいいって言うんなら俺は構わないけどな」
「か、カンケリ!? なんですかそれは! 隠れんぼは隠れる遊びなのに、何かを蹴るんですか!? 教えてくださいお兄様! それはどういった遊びなのですか?」
「おっ、そうか? なら教えてやるよ。缶蹴りってのはな……」
と、俺が缶蹴りについて説明しようとすると、クレアが。
「おお、お待ちくださいアイリス様! 今日はもう、そういった遊びはやめると言ったではないですか! お部屋に戻り、ボードゲームでその男をこてんぱんにしてやればいいでしょう!」
「いいえ、クレア。あなたに止められてしまったから、隠れんぼは途中でやめる事になってしまいました。私はこの国の王女として、お兄様とカンケリで決着を付けねばなりません」
「ですから、そういった搦め手を使うのをやめていただきたいのですが!?」
途中で止められたから決着を付けなければいけないなどと屁理屈をこねるアイリスに、クレアが半泣きで声を上げた。
「ああもう! カズマ殿もバカな事を言っていないで、アイリス様を止めてください!」
俺はそんなクレアの言葉を聞きながら。
「そうだなあ、缶蹴りなら人数が多い方が楽しいと思う。こないだ色鬼をやった時みたいに、レインも入れてまた四人で遊ぶってのはどうだ?」
「無理に決まっているでしょう。あなたと違って、私もレインもいろいろと忙しい身なのですよ」
「罰ゲームはメイドの格好をして勝者に給仕するってのを考えているんだが」
「なんだと!? アイリス様に侍女の真似事をさせるつもりか……!」
「いや待て、俺が悪かった! 今のは冗談だから、いちいち剣の柄に手を掛けるのはやめろよ! でもほら、もしもアイリスが罰ゲームを受ける事になったら、アイリスがお茶を運んでくれたりするんだぞ? 想像してみてくれ、アイリスが『いつもありがとう、クレア』と言って紅茶を……」
「やりましょう」
俺の言葉にクレアが食い気味に即答した。
……アイリスが搦め手を使うようになったのは、搦め手が通用するようなのが周りにいるからだと、こいつは気づいているんだろうか?
*****
俺達はレインに連れられ、ほとんど人が入らないという庭園に案内された。
そこは結構な広さがあり、動物の形に剪定された植木や腰くらいの高さの生垣があって、隠れる場所がいくらでもある。
「あまり人が立ち入らず、結構な広さがある庭園というとこちらになりますね。……あの、本当に私も参加しないといけないのでしょうか? 今日中に片付けないといけない書類が溜まっているのですが……」
「アイリス様の願いとあれば仕方ないだろう。仕事なら後で私が手伝ってやる」
肩を落とすレインを、クレアが慰めている。
子供の遊びなのだから、そんなに嫌なら無理して参加しなくてもいいと思うのだが。
クレアがレインまで巻きこんでいるのは、アイリスのスペックを考えると、俺とクレアだけでは勝てそうにないからだろう。
「よし。じゃあ、ルールを説明するぞ。まず隠れる側の誰かが、缶……ええと、コレを蹴っ飛ばす。鬼がコレを取ってきて、……そうだな、この辺にしようか。この円の中に置くまでに、隠れる側は隠れる」
俺は言いながら地面に円を描き、その中に缶を置く。
この世界には缶がなかったので、クレアがレインを捜しに行っている間に要らない金属を貰い、鍛冶スキルで缶っぽいものを作っておいた。
「お兄様のいたところでは、遊ぶためにわざわざこんなものまで作るのですね」
アイリスが感心しているが、缶を使うのは日本ではその辺で拾えたからだと思う。
「鬼は隠れんぼみたいに他の人達を探しに行くんだが、見つけてもそれで終わりじゃなくて、缶を踏んで『見つけた』って宣言しないと、見つけた事にはならない。『アイ……』…………、『クレア見つけた!』と、こんな感じだな。見つかったら、その人は鬼に捕まってその場に留まる」
俺がアイリスを指さそうとすると、クレアがすごい目でにらんでくるので、クレアを指さして缶を踏み説明する。
「隠れる側は、隠れながら缶を蹴っ飛ばすのが目的だ。缶を円の外に蹴ったら、捕まっていた人達は解放されてまた隠れる事ができる。鬼は缶を円の中に戻して、最初からだ。だから鬼は缶を蹴られないように探さないといけない。缶を蹴られないで全員見つけるのが鬼の目標だ。その時は、最初に見つかった人が鬼になる」
俺の説明が終わると、アイリスが目を輝かせて。
「なるほど。隠れんぼでは、隠れる側は隠れるだけでしたが、カンケリでは反撃する手段があるのですね! 鬼もただ見つけるだけではなくて、カンを守らなければいけない……! 一見簡単そうなルールなのに、奥が深いです! お兄様、勝ち負けはどうやって決めるのですか? 今回も罰ゲームがあるんですよね?」
以前、色鬼の敗者がヒラヒラの可愛い服を着て思いきり可愛い子ぶっていた時の事を思いだしたのか、アイリスがクスクスと笑いながら訊く。
そもそも勝ち負けだのポイントだのは、あの時に思いつきで言っただけで、こういった遊びに勝ち負けも何もないのだが今さらそんな事は言えない。
勝って兄としての威厳を取り戻すのだ。
「……そうだなあ。見つかったら一点って事でいいと思うけど、せっかく缶蹴りなんだし、缶を蹴ったらプラスって事にしようか? じゃあ、見つかったらマイナス一点で、缶を蹴ったらプラス一点って事でどうだ?」
「分かりました! 今回は点数が低い方が罰ゲームですね?」
「では、私が計算しておきますね」
俺の説明に、アイリスがワクワクした表情を浮かべる中、レインが採点係を申しでる。
「ちなみに今回の罰ゲームは、メイドさんの服を着て勝者のお世話をする事だ」
続けて言った俺の言葉に、レインがいいんですかと言うようにクレアを見ると、クレアが気まずそうに目を逸らした。
じゃんけんの結果、最初の鬼はクレアになった。
「それじゃあ、じゃんけんに勝った事だし俺が缶を蹴るからな。運も実力のうちって言うし、これも点数に数えといてくれよ」
缶の前に立つ俺の言葉にアイリスが苦笑し、レインが仕方なさそうにうなずく。
「よし、蹴るぞ!」
俺が宣言とともに缶を蹴ると、クレアが飛んでいった缶を拾いに行く。
アイリスとレインが隠れるために生垣の向こうへと駆けていく中、俺はクレアの背後に回り潜伏スキルを発動させた。
クレアが俺に気づかず、円の中に置いた缶を……。
「あっ!」
俺はすかさず横から蹴った。
「ふはは、油断したな! おいレイン、缶を蹴ったぞ! カウントしといてくれよ!」
「ふ、ふざけるな! こんなものは無効だ! 缶を蹴ったら隠れるというルールではなかったのか!」
缶を取りにも行かず文句を言うクレアをスルーし、俺は改めて生垣に陰に隠れ頭を低くする。
生垣の隙間から覗くと、クレアは何度も背後を振り返りながら缶を取りに行き、元の位置に戻している。
不意打ちで缶を蹴られたのがよっぽど悔しかったらしい。
缶を守るように立ったクレアが周囲を見回すも、隠れている俺達がそんな事で簡単に見つかるはずもなく……。
「そ、その……。アイリス様、見つけました」
缶を踏んだクレアが気まずそうにしつつも声を上げると、生垣の陰からションボリした様子のアイリスが出てきた。
「……見つかってしまいました」
クレアの傍まで歩いていったアイリスが、残念そうに缶をジッと見る。
俺がいきなり缶を蹴った事もあってか、隠れるよりも缶を蹴る事に気を取られ、見つかってしまったらしい。
「次は頑張ります!」
「その意気です、アイリス様!」
両手を握りしめて気合を入れるアイリスを、クレアが応援する。
アイリスが缶を蹴ってポイントが加算されると、アイリスのメイド服姿が遠のくという事をあいつは分かっているんだろうか。
その場にアイリスを残したクレアが、俺達を捜すために缶の傍を離れ歩きだす。
俺は潜伏スキルを発動させながらその場を離れる。
敵感知スキルでクレアの居場所を確認し、クレアがやってくるのとは反対の方向へと生垣に沿って駆けだして……。
クレアが歩いていく先には、熊の形に選定された植木の陰にレインが隠れている。
騎士の勘というやつなのか、クレアは誰かが隠れている事に気づいているようで、警戒しながら植木の陰を覗きこむ。
これはチャンスだ。
クレアが缶から離れている隙を突き、死角から缶を蹴ってやる。
待ってろアイリス、今お兄ちゃんが助けてやるからな……!
生垣から飛びだした俺に、アイリスが目を見開いて。
「クレア、お兄様が来ています! すぐに戻ってきて!」
えっ。
「レイン、見つけたぞ……ッ!? あ、ありがとうございます、アイリス様! 見つけましたよ、カズマ殿!」
アイリスの言葉に、慌てて戻ってきたクレアが缶を踏んだ。
……えっ。
なんという裏切り。
アイリスが黙っていれば、完全に缶を蹴れるタイミングだったのだが。
見つかるくらいなら缶を蹴ろうと植木の陰から飛びだしたレインと、そんなレインを囮にして缶を蹴ろうとしていた俺は、クレアがアイリスの声にひと足早く戻ってきた事で見つかった。
「全員見つけましたね。ええと、次の鬼はアイリス様という事になるんでしょうか?」
「頑張ります!」
アイリスを鬼にするのが不本意なのか、不満そうな表情で言うクレアに、アイリスが笑顔を見せる。
「い、いや、ちょっと待ってくれ。隠れる側は協力して缶を蹴るんだぞ? 鬼の味方をしたらダメだろ」
「そうなのですか? ですが、お兄様はさっきも缶を蹴っていましたし、お兄様が缶を蹴ると得点で負けてしまいそうなので……」
俺の言葉に、アイリスが不安そうな表情を浮かべつつもそんな事を言う。
あれ?
い、言われてみれば……?
缶を蹴って得られるポイントを競っているのだから、俺達は敵同士でもあるわけで。
「そ、そうだな! アイリスは何も間違ってないぞ。変な事言って悪かったな」
……俺が知ってる缶蹴りと違う。
*****
「それじゃあ、また俺が蹴るって事でいいよな? 全員が見つかった時に缶を蹴るのは、最後に見つかった奴って事でいいだろ」
缶の前に立ち宣言する俺に、皆が怪訝な目を向ける。
「ダ、ダメです! 後からルールを追加するのはズルいですよ、お兄様! お兄様はさっき蹴ったのですから、次は私が……」
「いや、アイリスは鬼なんだから蹴ったらダメだろ」
鬼なのに缶を蹴りたがるアイリスに俺がツッコむと、アイリスがションボリする。
「後からルールを付け足していったらゲームにならないってのは、俺だって分かってるけどな。でもこれにはちゃんとした理由があるんだよ。最後まで見つからなかった奴ってのは、最後まで鬼に抵抗し続けたって事だろ? だったら、その分のご褒美があってもいいと思う」
俺の説得にアイリスが納得するようにうなずく中、クレアが横から。
「ちょっと待て! 黙って聞いていれば、アイリス様が咎めないからと好き勝手言いおって! 屁理屈を捏ねて自分に有利なルールを付け足しているだけではないか! そのようなものは無効だ!」
「ほーん? 言っとくが、どういう状況でも缶を蹴ったら一点ってのは、最初からのルールだからな。ここで缶を蹴ったら得点になるんだぞ? それを貰うのに相応しいのは、最後まで見つからなかった奴だと思うんだが、俺の言ってる事はどこか間違ってますかねえ? 他にもっと相応しい奴がいるってんなら言ってみろよ」
「そ、それは……」
「……分かりました。では、お兄様が缶を蹴ってください」
クレアが何も言い返せず口篭もると、アイリスが何かを決意したような表情で言った。
「よ、よし、蹴るぞ……?」
缶を前に構えながら、俺はチラチラと横を見る。
……アイリスがすごい目でこっちを見ているのが気になる。
狡すっからい屁理屈が通り、俺が缶を蹴る事になったのが気に入らないのだろうか。
いやでも、得点勝負になっているのはアイリスも望んだ事だし……。
悩みつつも俺が缶を蹴ると。
――俺が蹴った缶を、アイリスが空中でキャッチした。
「お兄様、クレア、見つけました!」
「!?」
素早く円の中に缶を置いたアイリスが、隠れるために駆けだそうとしていた俺達を指さし、缶を踏みながら宣言する。
マ、マジで……?
騎士であるクレアも身体能力が高いが、アイリスはもっとすごかった。
アイリスが俺達を見つけたと宣言しているうちに、レインだけが逃げていたが、アイリスがすごい速さで追いかけていく。
「フフフ、見たか! アイリス様にはあなたの狡すっからい策略など通用しませんよ! これこそ正々堂々とした王族の戦い方というものです!」
俺と一緒に捕まったくせに、クレアがドヤ顔で勝ち誇っている。
「すごいのはお前じゃなくてアイリスだろ。なんでお前がドヤ顔してるんだよ? というか、レインまで引っ張りこんでるのはお前の方じゃないか。アイリスに狡すっからい策略が通用しないって言うなら、困るのはそっちだと思うぞ」
「な、何を……! あなただって私を引っ張りこんだではないですか!」
「それはアイリスに勝つためじゃなくて、一緒に遊ぶのを邪魔されないためだよ。あんなに簡単に引っ掛かるとは思わなかったけどな」
「……ッ! ……ッ!!」
俺の言葉に激高したクレアが剣の柄に手を掛けた時、レインを見つけたアイリスが戻ってきて缶を踏んだ。
「レイン、見つけました!」
「……ええと、では蹴りますね」
缶の前に立ったレインが、おずおずとそんな事を口にする。
メイド服姿のアイリスを見たくて張り切っているクレアと違い、子供の遊びに付き合う大人という感じのレインは、アイリスに蹴る役を代わりましょうかと提案して断られていた。
レインが蹴った缶が転がっていき。
「クレア、レイン、協力して缶を蹴りましょう! お兄様に私のすごいところを見てもらうんです!」
アイリスが二人に呼びかけながら、生垣の方へと駆けだす。
……アイリスのすごいところはもう十分に見せてもらったと思うんだが。
さっきのよりももっとすごい事ができるんだろうか?
何それ怖い。
缶を拾い元の場所に戻すと、三人の姿はすでに広場にはない。
まあ、敵感知スキルのおかげで俺にはどこにいるのかが分かるんですけどね。
「レイン見っけ」
俺は植木の陰に隠れていたレインを、あっさりと見つける。
アイリスとクレアは、俺がレインを見つけている間は同じ場所にいたが、今はバラバラに行動している。
相談して、挟み撃ちにするつもりらしく、真逆の方向に隠れ様子を窺っていた。
「なあレイン、俺があっちを捜しに行っている間、向こうから誰か出てこないか見張っていてくれないか」
「えっ? その……、カズマ様はさっき、これは協力して缶を蹴る遊びだと言っていませんでしたか?」
「言ったよ! 言ったけど、得点を競ってるんだから仕方ないだろ。レインだって、アイリスやクレアが缶を蹴ったら困るんじゃないか?」
「いえ、私は別に」
ですよね。
付き合いで遊びに参加しているレインは、誰が勝っても負けてもどうでもいいのだろう。
「それに、私が余計な事をしてお二人のチャンスを奪ってしまったら、ご不興を買うかもしれませんので……。すいません、カズマ様に協力する事はできません」
ただの遊びでの事なのに深々と頭を下げるレイン。
そんなレインに俺は。
「ほーん? そういえば、ダクネスと友人の俺は、あんたよりも格上の立場だって言ってなかったか? あの二人の不興を買うのはダメで、俺の不興を買うのはいいんですかねえ?」
「そそそ、それは……! すいません! 許してください……!」
目に涙を浮かべ何度も頭を下げるレインに、さすがに俺も罪悪感を覚える。
……苦労してるんだなあ。
「い、いや、悪かったよ。言ってみただけだって。俺もただの遊びに本気になってるクレアがおかしいんだと思うぞ」
レインを宥めた俺は、敵感知スキルが反応しているところを指さし大きな声で。
「クレア、見つけたぞ!」
すると、俺の背後の生垣の陰でクレアが立ち上がった。
「クッ……!? ちょっと待て! 私はこちらですよ!」
「おっ、そうみたいだな。じゃあ改めて、クレア見っけ」
俺の言葉に騙され姿を現したクレアに、俺は改めて缶を踏んで宣言する。
「あ、あなたという人は……! こんな卑怯な手段で勝って嬉しいのですか!」
「嬉しいですが、それが何か?」
「この男……!」
悔しそうにしつつも、クレアがおとなしく生垣を回りこんで歩いてくる。
「アイリス、そこにいるのは分かってるぞ!」
俺が残ったもう一方の反応を指さし声を上げるも、もちろんアイリスは出てこない。
最後にアイリスを残したのは、このところ俺の狡すっからい知識を吸収し要領がよくなってきたアイリス相手だと、クレアにやったような手口は通用しない気がしたからだ。
だが敵感知スキルがある以上、残っているのがひとりなら俺に負けはない。
それに……。
「なあレイン、点数をカウントしてるのはレインだよな? 今の点数がどうなってるか聞いてもいいか?」
「えっ? ええと……、アイリス様がマイナス一点、クレア様がマイナス二点、カズマ様が二点、私がマイナス二点ですね」
「聞こえたかアイリス! 俺にはお前のいる場所が分かるから缶を蹴る事はできないし、このまま時間稼ぎをしても負けるのはそっちだぞ!」
「ええ……」
「あなたという人は! あなたという人は!」
俺の言葉に、レインがドン引きし、クレアがなんか言っているが、そんな周りの反応は気にならない。
しばらくして。
「アイリス見っけ」
悔しそうな表情で立ち上がったアイリスに、俺は缶を踏んで宣言した。
「それでは、私が蹴りますね!」
缶の前に立ったアイリスが、満面の笑みを浮かべる。
缶を蹴れる事がよほど嬉しいらしく、直前まで俺に見つかり悔しそうにしていたのが嘘みたいだ。
そんなアイリスを、クレアとレインも微笑ましそうに見守っていて。
俺達三人が見守る中、アイリスが缶を蹴り。
――アイリスが蹴った缶は星になった。
「えっ」
ちょっと意味が分からない。
アイリスが缶を蹴った直後、ギュンっていう感じの音とともに缶がものすごい勢いで飛んでいき、空の彼方でキラッと輝いた。
漫画かな?
予想外の事態に俺達が無言になる中、缶を蹴ったアイリスがはしゃいだ様子で走り去り、生垣の陰に隠れる。
空を見上げていた俺が視線を戻すと、レインがどうしましょうと言いたそうな表情でこちらを見ていて。
……いや、俺にそんな事を言われても。
「……あのように楽しそうにしているアイリス様を止めるわけには行かない。すまないが、レイン。カンを捜してきてくれ」
「えっ」
真顔でバカな事を言いだしたクレアが、アイリスと同じく生垣の陰に消えた。
「マ、マジで? ええと、……じゃあそういう事で」
いたたまれなくなった俺もその場から逃げだした。
――あれからどれくらい経っただろう?
潜伏スキルを使い、姿勢を低くして生垣の陰を移動しながら、缶を置く円がある広場をこっそり覗いているのだが、レインが戻ってくる気配はない。
どこに飛んでいったのかも分からないものを、今日中に持ってくるのは無理ゲーではないだろうか。
そんな事を考えていると。
「む。……カズマ殿か」
所在なさげな様子のクレアが、すぐ近くに現れた。
俺と同じように姿勢を低くして移動していたらしく、そのせいかお互いに気づくのが遅れたらしい。
「おい、レインがさっぱり戻ってこないんだが、どうするんだよ? これって権力を利用したいじめじゃないのか? 俺だったらこのまま帰ってるところだぞ」
「ど、どうすると言われても……! ではあなたは、あんなに楽しそうにしていたアイリス様に、蹴った力が強すぎるから今のはなかった事にしてくださいなどと言えたのですか! それもこれも、あなたがアイリス様に、勝負事にはどんな手を使っても勝たなくては意味がないなどと教えるからではないですか!」
自分でもどうかと思っているらしく、ツッコむ俺にクレアが強く言い返してくる。
「心配しなくてもレインは優秀です。これくらいの事は問題になりませんよ。……多分」
「お前今多分っつったろ」
「言ってません」
クレアが俺から目を逸らす。
そんな優秀さは王女の教育係には求められていないと思う。
と、俺達がそんなバカな話をしていると、アイリスが俺やクレアと同じように姿勢を低くしコソコソとやってくる。
「お兄様、クレアも、ようやく会えましたね」
この庭園は結構広いし隠れられる場所がたくさんあるので、俺達に会う事もなく、見つける鬼もいない状況で寂しかったのかもしれない。
俺達のもとへとやってきたアイリスが。
「二人でなんの話をしていたんですか? ……隠れながら内緒話をしていると、普通の事を話しているだけなのに、なんだか楽しいですね!」
ヒソヒソと小声で、楽しそうにそんな事を言う。
……レインには悪い事をしたと思っていたが、アイリスのこの表情を見ていると、どうでもいい事のように思えてくる。
というか、鬼のいない缶蹴りでここまで喜ぶって……。
…………。
「お、お兄様? どうかしましたか? どうして泣きそうな顔をして私を見るんですか?」
「なんでもない。今日は目いっぱい楽しもうな」
「はい。……あの、でも、レインが戻ってこないのですが……。こういう時はどうすればいいのですか? 私がカンを強く蹴りすぎてしまったせいでしょうか……?」
俺の言葉に、嬉しそうにうなずいたアイリスが、すぐにションボリしたように表情を曇らせる。
これはいけない。
アイリスの背後からクレアがフォローしろという圧を送ってくるが、そんなのとは関係なく、俺もせっかく楽しんでいるアイリスを落ちこませたくはない。
しかし、缶を捜しに行ったレインが何をしているのが分からないので、なんと言ってフォローすれば……。
――と、そんな時。
『クレア様! カズマ様! アイリス様! ……見つけました!』
庭園全体に響く大声で、そんな宣言が発せられた。
声のした方を見上げると、そこには缶を手にしたレインが屋上に立っていて。
「レイン!」
「レ、レイン!?」
戻ってきたレインにアイリスが嬉しそうな声を、疲労困憊した様子のレインにクレアが困惑したような声を上げる。
缶を捜すために駆け回ったらしく、レインの髪はボサボサになっていて、着ている服も少し汚れたり、乱れている。
というか、なんで屋上に上ってるんだよ?
さっきの大声は、わざわざ魔法で声を拡大して叫んだものらしい。
確かにあそこからなら、この庭園のどこに隠れていても見つけられるだろうが、缶を円の中に置いて足で踏みつけ、『見つけた』と言わないと意味がない。
レインが戻ってくるまでに場所を移動してしまえば、見つかった事は無効になる。
いや、そもそも中庭の外に出る事までは想定していなかったわけだが……
俺がそんな事を考えていると。
レインの姿が消えた。
…………えっ。
それと同時に、庭園の広場に現れたレインが、円の中に置いた缶を足で踏みつけた。
「一度に全員を見つけるなんて、すごいわレイン!」
「ありがとうございます、アイリス様」
アイリスに褒められ、レインがニコニコと微笑んでいる。
「い、今のはテレポートか? ただの遊びにスキルまで使うのはどうなんだ?」
レインが屋上から消え中庭に現れたのは、テレポートの魔法を使ったためらしい。
物言いを付けるクレアに、レインが微笑んだまま。
「クレア様、勝負事というのはどのような手段を使ってでも勝たなければ意味がないのです。ですので私も、遊びと言えど今日は本気でやらせていただきます。騎士であるクレア様は私より身体能力が高いですよね? 魔法使いである私が魔法を使うのもそれと同じ事だと思います」
「お、お前までカズマ殿のような事を言いだしてどうするんだ! アイリス様の教育係として、アイリス様に悪影響を与えるような行動は慎んでくれ」
「おいやめろ。なんでもかんでも俺のせいにするのはやめろよ。どっちかって言うと、缶が庭園の外まで飛んでいったのに、お前がレインを見捨てたから怒らせたんだろ」
「そ、そう言われても。あの時はああするしか……!」
俺の言葉に、微笑んでいたレインが明後日の方向に顔を向け、クレアが俺とレインを交互に見ながら言い訳をする。
そんな二人のやりとりを見守っていたアイリスが。
「あの、やっぱり私が思いきり蹴ったのがいけなかったのかしら? 庭園の外にまで飛ばしてしまったし、レインも見つけてくるのは大変だったでしょう? 次は加減して蹴る事にしますから……」
「そんなわけないだろ。せっかくの遊びなのに本気でやらないでどうすんだ。手加減されて勝ったって、嬉しくもなんともないだろ」
「そ、そうです! アイリス様が我々を気遣う事などありません」
ションボリした様子で手加減しようとするアイリスに、俺とクレアが口々に言う。
俺達がそんな話をしていると、レインが。
「そうですよ、アイリス様。せっかくの機会ですから心置きなく遊んでください。それで、次の鬼はクレア様ですね。最後に見つかったのはアイリス様ですから、またアイリス様が缶を蹴ってくださいますか?」
「えっ」
微笑みながらのレインの言葉に、クレアが声を上げた。
*****
――それから。
「見つけたぞレイン!」
「クレア様、カンを踏まないと見つけた事にはなりませんよ。『アンクルスネア』!」
「あっ」
「アイリス様、今です!」
「任せて!」
レインが魔法でクレアを足止めしている間に、アイリスが缶を蹴ったり。
「『テレポート』」
「……!? レイン、さすがにそれはどうなんだ……!」
「すいませんクレア様、ですが勝負なのに手を抜くのは相手にも失礼だと思います」
クレアが缶から離れている間に、テレポートを使い広場に現れたレインが缶を蹴ったり。
「『クリスタル・プリズン』!」
「「!?」」
「アイリス様、クレア様、見つけましたよ」
鬼になったレインが、魔法で作りだした氷で生垣の陰を映し、あっさりと隠れていた二人を見つけたり。
なんていうか、レイン無双だった。
我慢して遊びに付き合っていたのにあの場面で見捨てられたら、怒るのは当たり前だ。
……いろいろ溜まっていたんだろうなあ。
「ねえレイン。クレアがなかなか戻ってこないのだけれど。やっぱり私が缶を強く蹴りすぎたのがいけなかったんでしょうか?」
「いえ、アイリス様。缶が場外まで飛んでいっても、缶の速度と角度、今日の風向きなどから、どこに缶が落ちているかはある程度分かるのです。いつもお教えしている算術は、このように役立てる事ができるのですよ。また、この季節の王都の風は先日お教えしたように……」
「すごい! すごい! 王族として必要だからと教わってきた事が、こんな風に役に立つなんて……!」
生垣の陰に座る俺の隣で、レインが小声でアイリスに授業をしている。
教わってきた事を遊びに役立てられる事が嬉しいのか、アイリスがはしゃいだ様子でレインの言葉に聞き入っている。
クレアが鬼の時にアイリスが缶を蹴ったのは、これで何度目だろう?
「なあレイン。そろそろ許してやったらどうだ? そりゃ、あんな事されたら怒るのも無理はないけどさ、もう暗くなるし、缶を捜そうにも見つからないんじゃないか」
「ちょっと何を言っているのか分かりませんね。私がカズマ様やクレア様に対して怒るはずがないじゃありませんか。でも、そうですね。そろそろ夕食の時間になりますし、クレア様が戻られたらカンケリは終わりにしましょうか」
――ふらつきながら缶を手に戻ってきたクレアに缶蹴りの終了を告げると、その場に両手を突いて動かなくなった。
「そ、それで……。得点はどうなっているんだ?」
今にも死にそうな感じのクレアが、そんな事を訊く。
……こいつはこんな状態でもアイリスにメイド服を着せる事を諦めていないのか。
「と、得点ですか? ええと……。アイリス様が二点、クレア様がマイナス七点、カズマ様が一点、私が……えっ、三点……ですね……」
徐々に声が小さくなっていったレインが、全員の点数を告げると。
「……ほう。つまり罰ゲームは、敗者である私がメイド服を着て、勝者であるレインに奉仕するというわけだな?」
平板な口調で言ったクレアの言葉に。
レインが涙目で首を振りながら、俺の袖を掴んできた。
*****
夕食の後。
「お茶が入りましたよ!」
メイド服を着たクレアが、誰も入らないようにと言いつけた部屋で給仕をしていた。
「ありがとうクレア。でも、お兄様とレインにもお茶を淹れてあげてね」
甲斐甲斐しく世話をされ、お茶を淹れられているアイリスが、苦笑しながらクレアにそんな事を言う。
「お構いなく」
「お、お構いなく……」
別のテーブルで自分のお茶を自分で淹れながら、俺とレインが口々に言うと、クレアがいい笑顔でアイリスの世話に戻る。
そんな二人の様子を見ながらレインが。
「カズマ様、ありがとうございました。私とした事が、今回は調子に乗ってしまって……」
「いや、あれは怒ってもいいと思う。俺ならひとりで帰ってたところだ」
遊びに付き合わされた挙句、見捨てられた事でマジギレし、本気を出してクレアを負かしたレイン。
しかし二人の立場を考えると、罰ゲームとはいえメイド服姿のクレアに世話をされるのは、レインにとっては絶対に避けたい事だったらしく。
俺の提案で、敗者であるクレアは、レインだけでなく勝者である俺達三人の世話をする事になった。
三人の中には、もちろんアイリスも入っているわけで。
アイリスにメイド服を着せたがっていたクレアだが、自分がメイド服を着てアイリスの世話をするのも嬉しいらしく、レインにやられた事を恨んでいる様子はなかった。
「アイリス様、お茶のお代わりはいかがですか!」
「クレアったら、そんなにたくさんは飲めませんよ」
俺は楽しそうな二人の様子を見ながら……。
「でも今回は、アイリスに兄としての威厳を思い知らせる事ができなかったからな。次は全員が勝者だとかぬるい事言わないで、俺の方が上だって事を分からせてやる」
「カ、カズマ様? 兄としての威厳だとか自分の方が上だとか、他の人に聞かれたらマズい事になりますよ? というか、カンケリの得点ではアイリス様が勝っていましたよね?」
「何言ってんの? 今回はクレア以外全員が勝者なんだから、どっちが勝ったとかそんな事はないだろ。それともレインが一位で、アイリスが二位なのか? そんなにメイドクレアのご奉仕を受けたいのか?」
「ひいっ! すいません、すいません! 今回は決着が付いていないと思います! あの、ですが……。できれば私を巻きこむのはやめていただきたいのですが。今日も結局書類が片付いていなくて……」
「いや、俺がレインを巻きこんだわけじゃないぞ。アイリスに罰ゲームを受けさせるには俺達だけじゃ無理だと思って、クレアがお前を巻きこんだんだろ」
「ではその、罰ゲームというのをやめてほしいのですが」
「超断る」
キッパリと言った俺の言葉に、レインが肩を落とした。