生きる目的を無くした男が平凡な人生を歩むまでの話

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死んだ男の話

人の()とはなんだろう?

 

心臓が止まったら()ぬのだろうか?

 

それとも脳がその役目を終えたら()ぬのだろうか?

 

あるいはーー

 

 

 

 

「あー!もうめんどくせぇ!!」

男は唐突に叫んだ。

「なんでこんなになっちまったかなぁ…」

真っ白のままのノートを見つめながら、一人でそう呟く。

この男は大学受験に失敗し、浪人した。

しかしながら九月を過ぎた現在も勉強が捗らないでいる。

「…気分転換も大切だよな」

ゲーム、漫画、小説、アニメ、映画、ドラマ…etc.

もはや勉強がそれらの合間に気分転換としてやってるのではないかと思うほどに疎かにしているから捗らないままになってしまっている。

「空から一億円くらい降ってこねえかなあ…」

そんなに都合のいいことが起こらないと知りながらも呟く。

「…」

生産性のない生き方をしたこの男はーー

「おい」

他に誰も居ない部屋に向かって話しかける。

「さっきからなんなんだお前」

まさか、とは思うがーー

「何が『まさか、とは思うが…』だ!そもそもどうやって俺の部屋に入って来たんだお前!」

やはり、見られていたようだ

「見られていたも何もそりゃあ部屋で俺の動きを実況してるへんなやつがいたら気がつくだろうが」

「気がつく方がおかしいのです」

「急に口調が変わったな…まあいい、それよりも…」

「誰だ、お前?」

「死神…でいいのかわかりませんが、そんな感じです」

「…」

アホみたいに口を開けた男に負けじと無言を貫くとしよう。

「…」

「はあ?」

「何言ってんだお前…?」

馬鹿にされたようだ。

「死神です」

今度は簡潔に伝える。

「いや、そうじゃなくてさ」

「こんなガキが死神とか無理があるだろ」

「まあ…死神ではないですし…」

「じゃあ何しに来た何者なんだよ」

「あなたの()を見届けに来た死神のような存在です」

「あーはいはい…めんどくさいしもうそれでいいよ」

「助かります」

「で?俺は何をしたらいいんだ?さっさと帰って欲しいんだが」

「死んでください」

「あのなあ…いくら子供でも言っていいことと悪いことがあるだろうが」

「死んでくれたら帰ります」

「まだ言うか…」

「ただの死ではありません」

「あ?」

「あなたは今の生活に満足してますか?」

「…してねえよ」

「では、あなたの生きる目的を奪うことにします」

「…そんなんねえよ」

生きる目的がないのは知っている。

「ですから、生きる目的を作ります」

「必死に勉強して、大学に入って、サークルに入って、勉強も、青春も…そして就職して、身を粉にして働いて、そしてそして…」

「最期にあなたが孫たちに囲まれて『もう遣り残したことはない…』そう言わせたら私の仕事は終わりです」

「それって…」

「ですから」

「まずは合格目指して一緒に勉強頑張りましょう?」

「…こんな非日常を待ってたよ」

 

 

 

 

私の姿は他の人には見えない。

志半ばで死んでしまったからだ。

私の夢を彼に託すことができた。

それだけで私の役目はもう終わっていたのだろう。

あのとき彼は隣に住んでただけの幼なじみなど忘れていた。

それは、仕方ないことなのだろう。

少し寂しさも感じたけど、意志を託す猶予があったことには感謝したい。

そして、彼に()という贈り物が出来た。

ただの死じゃない。

平凡だけどとても幸福な人生の終わり。

それはきっと、素晴らしいものだと私はーー

 

 

「もう、遣り残したことはない…だった…か…」

「お父さん…」

「お爺ちゃん!」

 

 

 

 

お前、いつの間にか居なくなってると思ったらこんなところにいたのかよ

 

えっ?なんでここに…

 

お前に会いにきた…それじゃダメか?

 

…!

ううん…ダメじゃない。

 

 

 

 

 

fin


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