クロックリターン・プラネット 作:機械系ヒロインバンザイ
……誰か、クロプラの二次小説書いてくれ…。
さて、状況を整理してみよう。
…ここはどこだ?決まっている。自宅だ。……随分前に崩落したはずの。否、それは正確ではない。天井は壊れ、建物の至る所から嫌な音が鳴り、今にも崩れそうになっている。
………そして、目の前には一つのコンテナ。その中には、世界中を探しても決して存在しないであろう美しさを誇る
「……どないなってるん?」
思わず方言を呟くナオト。これはどう考えてもあの日の焼き直しにしか見えない。あるいは夢でも見ているのだろうか?
ナオトの記憶にあるのは、悲壮な覚悟を決めたリューズの顔だ。なんかよく分からないうちにテンプにキスされ、それを目撃したリューズが嫉妬で暴れようとしたのは覚えているのだが……。
(まさかこれは、走馬灯ってやつか⁉︎)
『テンプを徹底的に破壊した後、ナオトさまを殺して後を追う』。まさか、その宣言通りに事を成してしまったのだろうか?
(いやいやいや、さすがにそれは……ないよね?)
そもそも、走馬灯とは映像のようなものではなかったか?先ほどからナオトを取り巻く景色は変化していない。常軌を逸した聴力が、ヘッドホン越しに外の喧騒を捉え、あらゆる状況がリューズと出会った日のやり直しであると告げている。
(……とりあえず、修理だ)
そして、およそ1時間後。幸い故障箇所も故障の仕方も記憶にある通りだった為、以前ほど時間を掛けずに修理できた。そして、それがますますナオトを不安にさせる。
……すなわち、本当にタイムスリップでもしてしまったのではないか、と。
かつてナオトは赤熱したリューズを背負った時に背中に大火傷を負った。リューズのパーツを融解させるほどのその熱はナオトの背中を容赦なく焼き、完治不能なレベルの重症になった。1ヶ月経った後ですら、少し動いただけでも痒みやら痛みやらが炸裂したほどだ。
ーーーそれが、今はない。
別にタイムスリップだろうが何だろうが、かつてのナオトならば気に留めなかっただろう。両親は他界し、あるのは機械への愛と代わり映えのしない日常だけ。人生の負け組だったあの頃ならば、全く問題なかった。
しかし、今。リューズとアンクルという、あまりにも大きな存在。それを失ったなら、きっとナオトは生きられない。
ーーーそして目の前に、あの時と同じリューズがいる。
修理は済んでいる。ゼンマイも動いている。あとは彼女が目を覚ますのを待つのみ。
「……おはようございます、ナオトさま」
「よっしゃあああああぁぁぁーー!」
ナオトは勝利した。そしてこの世全てに感謝した。
結局の所、タイムスリップなんてあるわけがなかったのだ。きっとこれは何かの偶然で、たまたまあの日と同じ状況が続いていたのだ。そうに違いない。
だが。
リューズは思いもよらない行動に出た。ガバッと起き上がり、ナオトに抱きつく。そしてその美しい面をナオトの腹部に埋めた。愛情表現だとしても、彼女にしては些か情熱的すぎやしないだろうか?
「…ああ、ナオトさま。ナオトさまナオトさまナオトさまナオトさま……」
「え、と、リューズ…?」
何か、様子がおかしい。まるで悲鳴を堪えるかのような声の響きに、小刻みに震える肩。どう見ても普段のリューズではない。
「…もう決して、ナオトさまを危険な目に遭わせたりなどしません。絶対に」
ーーーそして、ナオトを見上げたその瞳には、光が宿っていなかった。
(……おうふ)
リューズは正気を失っていた。と言うよりヤンデレ化していた。通常なら恐怖、あるいはドン引きする場面。しかし見浦ナオトは機械を愛し、機械に愛され、機械に恋し、機械にプロポーズする変人にして世界屈指の変態である。こんな事態になったリューズの身を案じ、心配こそすれ、恐怖もなければ引いたりもしない。否、寧ろ自分の身をそこまで想ってくれることに喜び、興奮さえしていた。
ーーー変態を興奮させてはならない。
これは誰もが知る宇宙の常識である。幸いと言うべきかナオトは草食系(自称)かつ理性の抑えが効く(?)方なので、いきなりリューズに不埒な真似をしたりはしない。しないが、こみ上げてくる愛情には逆らえず、時間を忘れてただひたすら抱き締め返すくらいのことはする。
……その結果として、建物が崩れるその瞬間まで、二人はずっと抱き合ったままだった。それはさながら、世界が滅ぶ中恋人が愛を確かめ合う映画のワンシーンのようであったという。
そして、崩壊し始めた建物から脱出して数分後。
「…申し訳ありませんでした、ナオトさま」
「いや、寧ろごちそうさまでした」
リューズの機転で通帳その他貴重品を全て回収し、公園で一休み。そしてリューズの開口一番が謝罪だった。その瞳には光が戻り、少なくとも見た限りではいつも通りのリューズである。
「…痣が残るほどの力で抱き締められたにも関わらず『ごちそうさま』とは…。やはりナオトさまはマゾなのでは?」
「いや、そんな痛くなかったし…」
ナオトにしてみれば、あの火傷に比べたら全く大したことはない。それこそ『骨折』と『蚊に刺された』以上の差があるだろう。
「ところで、これは一体どういうことなのでしょう?まるであの日をやり直しているかのような…」
「…リューズにも分からないか」
もう、タイムスリップした、と断定して良いような気もする。リューズが目覚める前まで感じていた不安は全くなく、もうなんでもできそうな気がしているナオトだった。
大体、自分達は世間的にみればテロリストである。周囲の通行人の目があるにも関わらず通報された様子もないし、こちらに向けられている視線は精々がリューズの美貌に目を惹かれたか、もしくは一緒にいるナオトに対する嫉妬程度のものだ。もう意識だけがタイムリープしているとしか思えない。
「よし、今夜は取り敢えず漫画喫茶にでも泊まろう」
「なるほど、以前ご利用になった一室で密着する腹積もりですね」
「もちろん」