クロックリターン・プラネット   作:機械系ヒロインバンザイ

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本編の続きが書けないなら、幕間書けばいいじゃない!

というわけで投下。


幕間 壱番機主観・第18世界 ②

ーーーなぜ、こんな迂闊な真似をしてしまったのか。

 

起床して早々、リューズは自己嫌悪に陥っていた。いくら敵に狙われて焦り、さらには思考力が低下していたとはいえ、以前ならば決してしないような失態だ。

まず、逃走するのは良い。あの場で余計な欲を出して燃え尽きた屋敷の中を調べでもしていたら、即刻敵に捕まっていたかもしれない。

 

ーーーだが、リミッターを外すのはまずかった。

 

現状、リューズを修理できる人間は側にいない。そもそもリミッターを外しても相手がもしΩならば逃げ切れるわけがないのだから、ここは幸運を祈って平常時の規格内のスピードに抑えるべきだった。それならば人工知能の負担も軽く済み、最適化も短時間で済んだのだ。リミッターの解除によって逃走のスピードは上がったが、そのせいで擬似神経が焼き切れ、余計に姿勢制御による負担が増してしまった。これでは修理するまで、毎回休眠に時間がかかる。否、そればかりか通常行動における思考も鈍り、ますます敵に捕捉される可能性が高まってしまうだろう。

 

(……本当に愚かなことです。仮にもリューズ(わたし)ともあろう者が、こんな浅はかな考えで行動するとは)

 

もし以前のリューズが今のリューズを見たならば、即座に破壊するだろう。

 

(もっとも、今のわたしがIntial-Yシリーズ壱番機『RyuZu』だと認められるのならば、の話ですが)

 

今のリューズが『リューズ』のままであるのは、脊髄円筒(メインシリンダ)とその他いくつかのパーツだけだ。実質的に、機体としては『リューズのパーツを流用したただの自動人形(オートマタ)』と言った方が正しい。

 

ーーーだが、たとえそうだとしても、主人だけは守らなければならない。

 

もうIntial-Yシリーズでなくなったとしても、それは変わらない。リューズは使命ではなく自由意志によって、最後までナオトを守り続ける。それが唯一リューズにできることだ。

 

故に。

 

『ナオトさま、おはようございます。早速ですが、失礼いたしますね』

 

安全確保だけではなく、ナオトの衛星管理もまた、彼女の崇高な義務なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー生き物は本当に不便であると、リューズは最近思うようになった。

 

なにせ、飲み食いをしなければ死んでしまう。飲み食いをすれば当然排泄もするし、時間とともに老いて、いずれは死んでしまう。自動人形と違って傷が時間とともに癒えるという利点もあるが、良いことはそれくらいだ。

 

ーーーもしもナオトが万全な状態、とはいかなくとも、少なくとも会話できる状態ならばリューズはこの行いに喜びを見出したことだろう。『僅かでもナオトさまのお役に立てている』、と。

 

しかし、ナオトは何も言わない。排泄の処理をしている時でさえ、何も。本来のナオトならどんな反応をしただろうか、と想像すると、羞恥を感じるよりも先に悲嘆に胸が苦しくなる。

 

その後はナオトの着替えと簡単な朝食を済ませ、即座にチェックアウト。とにかく逃げる。

 

ーーーコンラッド達を探す、という手はない。確かに合流できれば安全性は飛躍的に増すが、探す間に敵に捕捉されるリスクと合流できる可能性を天秤にかければ、結局「逃亡」に軍配があがる。そもそもの話、無事ならばとうの昔に連絡がついているはずなのだ。コンラッドは手元にある通信機でリューズの中に組み込まれた通信用非接触型共振歯車に呼びかけることが可能なのだから。

 

そして、この通信はコンラッドからリューズへの一方通行。コンラッド側から繋げてくれれば電話のように双方向から音声のやり取りはできるが、リューズからコンラッドにつなぐことはできない。ボディの構造上、通信機を搭載しようにもそれが限界だったのだ。

 

逃亡の途中で車椅子を調達し、おぶっていたナオトを座らせる。

昨日は焦りのあまり車椅子を捨てて主人を抱えて逃げてきてしまったが、それは悪手だった。確かに短距離を高速で移動する場合は車椅子の耐久性なども考えるとその方がむしろ安全かもしれないが、長距離の移動では主人を『抱えて走る』というのはリューズのボディにも主人(ナオト)の身体にも負担が大きすぎる。よって、ここからの行動は車椅子を用いた方が良いだろう。その方が人工知能の負荷も少なくて済む。

 

ーーーそれにしても。

 

(……愚かな人間さま方の視線が気になりますね。わたしが万全の状態なら切り刻んで差し上げるのですが)

 

先ほどから、周囲の人間の視線が鬱陶しい。自分の造形美に見惚れるのならともかく、なにやらまるであり得ないものでも見ているかのような、敵意と怯えの入り混じった視線ーーーー

 

 

『続いてのニュースです。昨晩、〇〇区画にある建物の火災について情報が入ってきました。この建物の火災は放火と見られておりーーー』

 

ふと、聞こえたニュースに意識を向ける。ビルに取り付けられたモニターからは、とある放送局のニュースが映っている。その映像は、昨日まで存在したリューズ達の隠れ家ーーー

 

(……まさかっ⁉︎)

 

リューズの背に悪寒が走るのと、ニュースが決定的な画像を映したのはほぼ同時だった。

 

 

『ーーーこちらの写真に映っている自動人形、『リューズ』。今回の放火は、この自動人形が暴走して起こしたものと見られています』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーまさか、人目についた時点でゲームオーバーの逃走劇が始まるとは思っていなかった。

 

この世界では、ナオト達はテロリストとして指名手配されていない。故に、警察組織が敵に回るのは想定外だった。いや、そうならないように努力してきたつもりだった。

 

(この世界でもやはり、失敗したのですね)

 

繰り返すこと17回。何度やり直しても、必ずどこかで失敗する。

今回の敗因は、やはり最初に敵に捕らわれたことだろう。あの時ナオトが人体実験を受けて廃人になってしまった時点で、終わりだった。

 

ーーー命があるならばと、僅かな可能性に賭けた。

 

脳に後遺症が残り、回復は絶望的だけれど、それでも諦めなければ活路を開けるのではないかと期待した。今までとは違って、主人を殺されたわけではないのだから、もしかしたらこの世界こそが主人(ナオト)を幸せにできる機会なのではないかと。

 

ーーー滑稽な話だ。そもそも、マリーもアンクルも失い、大きな障害が残った時点で望む幸福など得られなくなったというのに。

 

 

 

諦観に苛まれながらも、リューズは足を止めない。終末が決まってしまったとしても、それでも悪足掻きだけはやめられなかった。

 

サイレンが聞こえる。こちらに向かって音源が近づいてくることを考えると、どうやら誰かに通報されたらしい。

 

ーーーどうするか、と考える。

 

敵が報道機関や警察組織につながっていることはほぼ確実。でなければあんな報道はされないだろう。最悪、保護という名目でナオトは拉致され、敵の手に落ちるのが関の山。ーーーもちろん自動人形(オートマタ)に人権などないので、問答無用で破壊されて終わり。

 

ーーーどうするにしても、捕まるわけにはいかない。

 

スピードを上げる。車椅子の耐久性に期待して、爆走。人通りのない場所に逃げ込んでいたこともあって、通行人(障害物)にぶつかることはない。

 

 

 

 

 

ーーー突如、バランスを失い、倒れ込んだ。

 

急に傾いた車椅子から、愛しい主人が転がり出る。地面に激突する寸前で受け止め、事なきを得た。

 

(……ここまで、ですか)

 

自分が倒れ込んだ理由は明白だ。ーーー右脚が根元から千切れているのだから。

 

リューズの視線の先には、先ほどまで自分の右脚だったパーツが転がっている。小さな歯車が溢れ、断面は赤熱していた。

 

周囲の建物の物陰から、何体もの警備用自動人形が現れる。武装を見るに、右脚を吹き飛ばしたのはその狙撃銃か。

 

「目撃情報通りだな。少年を人質に逃げ回ってたらしいが、ようやく捕まえた」

 

そして、その自動人形達の背後には数名の人間。軍だ。

 

「少年は丁重に保護しろ。上からの命令だ。自動人形は破壊しろ。危険だからな」

 

「はっ!」

 

ーーーまずはじめに、残った手足を撃ち抜かれた。

 

幸運だったのは、擬似神経に痛覚を感じ取る精度がなかったことか。本来の身体なら激痛が走っていただろうが、少し衝撃を感じるくらいで、これといった痛みはない。

 

(全く愚かで臆病な方たちです。もはやただのか弱い自動人形に成り下がったわたしをここまで警戒するとは)

 

諦観に支配されながら、胸中で目の前の人間達を蔑み、誹り、呪う。

 

ーーー続いて、眼を撃たれた。相変わらず痛みはないが、視覚情報が全て遮断される。

 

 

「馬鹿だな、何やってる。これでは危険だ。まずはじめに脊髄円筒(メインシリンダ)を壊すんだよ。そうすれば何もできなくなるからな」

 

ーーーその音声を最後に、リューズは意識を失った。永遠に。

 

 

 

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