クロックリターン・プラネット   作:機械系ヒロインバンザイ

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ダイジェストで飛ばしていくスタイル。


3話

『もう限界よ。あと一回でも相対機動(ミュート・スクリーム)を使えば、もう修理なんかできない。あんな耳を持ってる馬鹿はもういないんだから』

 

知ったことではありません。そもそも、あの方のいない世界になど興味はない。壊れて二度と目覚めなくなるなら、むしろ本望。

 

ーーーこんなガラクタなど、消えてしまえばいい。

 

 

『やめなさい、って言っても聞かないのよね。ならいいわ。せめてわたしは最後まで付き合う』

 

どうして?

 

『もうあの子はいない。ハルターも死んだ。なら、せめて復讐くらいはしないと、気が済まないわよ』

 

ーーーあなたも随分変わりましたね。

 

『うるさい。……今すぐ死にたいと思ってるのが、アンタだけだと思わないで』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リューズのカミングアウトは、希望を見ていた二人を絶望の奈落に叩き落とした。

 

 

「じゃあ、何か?お姫さんの推測は的外れってことか?」

 

「滑稽なくらい掠りもしておりません。確かにわたしを設計したのは『Y』ですし、史上最高の自動人形(オートマタ)であることは自明の理ですが…」

 

「な、なら…」

 

「しかしわたしの主命はこの惑星のメンテナンスなどではありませんし、その為の機能も知識も与えられていません」

 

 

その後にリューズの語った内容は、ナオトの記憶とほとんど変わらない。彼女は『付き従うもの(ユアスレイブ)』。ナオトの側に侍り、自身の存在の全てを懸けて尽くすことこそが存在意義だと、リューズは得意げに語った。

内容などどうでもいい。マリー達二人にとっては、これはただの惚気話ではない。……一種の宣告だ。この銀髪の人形に、『打つ手は何もない』と告げられた。

 

 

ーーーかに思われたのだが。

 

 

「しかし、お二人の期待に添える方がこちらにいらっしゃいます」

 

「………え?」

 

マリーは、リューズの隣を見た。そこにいたのは少年。正直に言って、今までリューズのおまけ程度にしか思っていなかった相手だ。

 

 

「206年眠り続けたわたしを修理したナオトさまならば、故障箇所の特定は可能かと」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー見事だった。

 

マリーはそう評価する。少なくともここまで苦戦は一切しなかった。

正直、耳だけでリューズの故障の原因を突き止めて修理した、という話は半信半疑だったが、とんでもない。遭遇する全ての兵器や自動人形の位置と数、種類を完全に把握し、事前に知らせる。恐ろしいくらいに正確な、生きた人間センサー。どうやら本当にこの素人の少年がリューズの故障箇所を特定して修理したらしい。……それでも掛かった時間が1時間というのは短すぎる気もするが。

 

そして現在、大支柱(コアタワー)第24層。大した苦労もせずにそこに到達し、作業をしていた第一級時計技師(マイスター)達と合流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耳を澄ませて構造を把握する。以前ほど時間はいらない。ここの構造は以前に一度"聴いて"いる。故に為すべきは頭の中の記憶と現在の状況が一致しているかどうか。

 

「…何をしてるんだ?」

 

「静かに」

 

訝しげな男の声とそれを諌めるマリーの声が聞こえる。正直に『助かった』と内心で礼を言った。一度構造を把握しているとはいえ、他の音は少ない方が良い。少しでも気を緩めれば雑音の海に呑まれて訳のわからないことになる。

 

………そして、道を見失いそうになる度に頼りにするのがリューズの音だ。

 

彼女の全身の歯車の奏でる音を目印にして、迷いそうになったら即引き返す。この心地良い音に意識の全てを委ねたい衝動に駆られるが、それは後の楽しみにしようと堪えた。

 

 

 

そして、およそ4分。ナオトは全ての故障箇所が記憶と全く相違ないことを確認した。

 

「故障箇所は4047。でも今回の重力異常に関わるパーツは18箇所。それだけ直せば、この重力異常は止まる」

 

その場にいた面々に浮かぶ表情は、驚愕二割、困惑八割といったところか。そもそも、ただ五分足らずの間に耳を澄ませていただけでここの構造を把握した、といっても信じてはもらえないだろう。

沈黙して身動きが取れなくなっている一同の中で唯一マリーだけが前に進んでいた。

 

「その18箇所はどこ?」

 

「ごめん、図面が読めない。口頭で伝えるからマリーは指示を出してくれ」

 

「わかったわ」

 

大きくなるざわめき。一同の顔には『正気か?』と書かれている。………コンラッド整備士長を除いて。

 

「ここはマリー先生を信じましょう。どのみちこのままでは為すすべがないのも事実。ならば、どんなに荒唐無稽でも最後の可能性にかけるしかない」

 

 

その後、ナオトは口頭でマリーに異常箇所を伝えた。やはり彼女は天才。素人の口頭による報告も瞬時に理解し、図面上に置き換えていく。

 

ーーーだが、このままでは駄目だ。

 

たとえ修理が無事に完了したとしても、軍は証拠の隠蔽の為に強引にパージを実行する。これでは結局、リューズを危険に晒すのに全く変わりがない。

 

ーーー故に、リューズを守る為に対策を立てるのも忘れない。

 

「それとさ、マリー。修理と並行してやってほしいことがあるんだけどーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

およそ3時間で、全ての修理が終了した。第一級時計技師たちの喜びようは凄まじく、ナオトに向けられる視線に込められる感情は疑念から感謝へと変わっていた。

 

「ありがとう。君のおかげでこの都市は救われた」

 

そうナオトに礼を言うのはコンラッド整備士長だ。立派な顎髭を蓄え、柔和な笑みを浮かべている。

しかし忘れてはいけない。この男、あろうことかあの殺人的護身術をマリーに教えた張本人なのだ。しかも『ストリップ・ザ・ウエノ』の常連という紛うことなき変態。

 

「いえ、俺は音を聴いただけですから」

 

「しかし、君がいなければ我々もこの都市も救われなかった。本当にありがとう」

 

(…なんかむず痒いな。お礼を言われるのって)

 

思えば、テロリストとして活動してからまともにお礼を言われたことはなかった気がする。……そしてそのテロリストになった原因は、間違いなくあの地雷女だ。

 

(でもマリーいないとアンクルちゃんに会えないしなー。結果オーライか)

 

 

そんなことを考えていた、その直後。

第24層に、警報が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『修理するついでに、この第支柱(コアタワー)のコントロール掌握してくれね?』

 

そんなふざけたことを、あの馬鹿は言った。

 

『何言ってんのよ?なんでそんなことしなくちゃいけないわけ?』

 

時間がないのもあって、わたしは不機嫌に答えた。あの馬鹿は言った。

 

『もしもこのまま修理しただけだと、どの道軍はパージすると思うぞ。……証拠隠滅のために。そうなったらもう手立てがなくなるだろ』

 

ーーー確かにそれはそうだ。しかし、いくら軍でも修理した第支柱(コアタワー)をパージしたりは……。

 

『マリーの死亡を偽装した時、あいつ(リモンズ)は何て言った?』

 

……………。

 

確かに、ありえるわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

区画・京都外周部。軍の司令室にて。

 

「駄目です!第支柱(コアタワー)の制御が乗っ取られてる!こちらの操作を全く受け付けません!」

 

その宣告に驚愕と安堵が多数、しかし悔しさや怒りを覚えたのは少数だった。

 

ーーー怒りを覚えたのは軍の指揮官のみ。

 

それ以外の軍属技師は、みな安堵していた。コアタワーが掌握されていることを報告したオペレーターの声さえ、どこか弾んでいる。

彼らは自分たちの行いがどれほどの被害をもたらし、どれだけの人を虐殺するのかを知っていた。かと言って上官の命令には逆らえない。もはや奇跡でも起こってはくれないかと密かに祈っていたところにこの報告である。表には出さないが、彼らはみな第支柱を支配してくれた何者かに感謝すら捧げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にパージしようとするなんて……」

 

正直、マリーは軍に呆れていた。

マリーが修理をしながらシステムに組み込んだ警報は、『軍』からのパージの操作が行われた際に鳴るようになっている。すでにコアタワーの制御は完全に掌握しているため万が一警報が鳴ってもパージされることはないが、それでも心臓に悪すぎる。

 

ーーーそして、見浦ナオト。彼には本当に助けられた。

 

その規格外な聴力もそうだが、軍の行動の先読みや『コアタワーを乗っ取る』などという提案を平然とするその胆力には驚いた。もしも彼の言うことが的外れで、軍が何もアクションを起こさなかったらコアタワーを勝手に乗っ取った犯罪者になっていたところだ。

 

そしてその一番の立役者はというと。

 

 

「あ〜〜。リューズの膝枕は最高だなぁ〜」

 

癒される〜などと言いつつ、時折体制を変えてリューズの膝枕を堪能している。というか、事もあろうにこの変態()、膝枕に顔を埋めやがった。膝というかそこは太腿、というか人間だったらアウトな場所なのでは?

しかしリューズは気にした様子もなく、

 

「わたしの膝枕は世界一ですので、それを独占なさるナオトさまは人類一の幸せ者かと」

 

こんな調子で為すがままにさせている。時折微笑みながらナオトの髪を撫でるその仕草は、彼に対する愛情が感じられた。爆発しろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、後日。ハルターの演技によって記録されたリモンズの音声が匿名で公開され、さらに公開されては困るような軍の様々な報告書やら機密資料やらが全世界に公開され、日本政府は大打撃を負った。

 

リモンズはクビになった。




3話で終わる第1巻。


………増えないなあ、クロプラ二次。
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