クロックリターン・プラネット 作:機械系ヒロインバンザイ
これは決して、R-18ではない。いいね?
……R-15ってどこからどこまでが許されるんだろう?
ーーー今、生徒会長の彼女は非常に困惑していた。
およそ五分前。
全ての授業が終わった放課後。今日は部活動もなく、自習でもしていない限り誰もいない時間帯。特に用事もないし、ふと気紛れに校庭を歩いていたら今は使われていないはずの体育倉庫から物音がしたのだ。
少し気になって行ってみると、倉庫の中から何かが聞こえてくる。
『……あの、ナオトさま…。そんなに開かないで………あんっ』
『よし、奥まで入ったぞ。……相変わらず綺麗だ』
そんな荒い息遣いの二人の男女の声が聞こえた。
…………………。
この場合、どうすればいいのだろうか?
彼女は恋愛経験のない純情かつ健全な女子高生である。当然その手の経験はなかったし、今まで体育倉庫で事に及ぶようなシーンは精々フィクションの中だけだと思っていた。それがまさかこんな身近な場所で大人の階段を登るイベントが発生するなどとは想定外だった。
ーーーまさか気づいていないだけでこの手の出来事は割と起こるのだろうか?
そんなはずはない、と思う。これは異常だ。速やかにここを離れるべきだ。しかし今それを逃してはもう二度とお目にかかれない気もする………いや待て何を考えているんだ。
邪念を追い払い、彼女は体育倉庫の扉に手をかけた。そうこれは生徒会長としての義務だ。風紀を乱す行いをする者達に罰を。これは決して好奇心とか下世話な理由による覗きではなく、あくまで正義の鉄槌を下すために現場を目撃して取り押さえるだけだーーー!
『先生を呼びにいく』という程度の発想もできないまま、彼女は一思いに扉を開けるっ!
「こらーーー!こんな場所で何をしてるん………ですか?」
扉を開けた直後の威勢は、しかしたちまち消失する。
「………………」
「………………」
「ハァ……ハァ…」
音声だけなら濡れ場を目撃されて固まる男性一名と余韻に未だ息を荒げている女性一人だが、視覚情報を加えるとその表現も妥当ではなくなる。
ーーーなんだこれ?
目撃者の生徒会長は首を傾げた。
まず目に映るのは銀髪の少女だ。服を脱がされ半裸になり、頬を上気させて未だに喘いでいる。色っぽい、というかエロい。それはまだわかる。
だがその少女の背中が文字通り
少年が硬直していたのは僅かな間だった。すぐに作業に戻り、ドライバーを動かす。
「……あんっ」
さらにまた喘ぎ声を上げて悶える少女ーーー型の自動人形。背中から大量の歯車が覗いていたので間違いないはずだ。
ーーーなんだこれ?
すると痺れを切らしたのか、少年がその瞳に剣呑な光を宿して呆れた声で言った。
「早く閉めてくれませんか?埃入っちゃうんですけど」
というか無茶苦茶不機嫌だった。まるで『空気読めよさっさと出て行けや』とでも言いたげである。
「え、と、あの、すみませんでしたーーーー!」
もはや事態をうまく飲み込めずパニックになり、彼女は大慌てでその場から逃亡した。
「…せっかく掃除して埃ひとつない環境にしたのにな」
リューズの背中からドライバーを引き抜き、背中を閉じてナオトが言った。
………
しかしながらナオトの自宅は崩壊している。メンテナンスをしようにもその場所がないため、仕方なく学校の使われていない倉庫を勝手に掃除して(もちろんそのために埃ひとつ残さない超高性能の掃除器具も購入した)環境を整えたのだが、まさかこの日のこの時間にこの場所にやってくる物好きがいるとは思わなかった。
閉じた背中に応じて、形状記憶素材の人工皮膚が馴染み、開かれた背中の痕跡が跡形もなくなる。リューズはすぐに制服を着直し、どこか拗ねたように言った。
「…ナオトさまは変態です。よもや本来必要のないメンテナンスをこのような場所で行い、わたしを存分に辱めるような性癖をお持ちだとは……」
「……ちょっと待ってリューズさん。なんか誤解してね?」
「しかし主人の獣欲を受け止めるのも従者の務め。ならばたとえナオトさまがいかなるプレイをご所望でも、その全てに応えてみせます」
「いや待って誤解!……俺はただリューズの中をもう一度じっくり見たかっただけで…」
「しかし途中からわたしの反応を楽しんでおられましたよね?」
「はい、ごちそうさまでした!」
ちなみに言っておくが。
必要もないのに『中身をじっくり見たい』などと抜かすのは、たとえ機械であっても女の子なら普通に変態的発言である。
ーーー二人きりで体育倉庫に行くと言いだした時は、『まさか』と期待した。
期待したのだが、よくよく考えてすぐに『望み薄』との結論に達した。なんだかんだ言いつつ、とうとう
見浦ナオト。過去にもそして未来にも、彼以外の主人は存在しない。『機械しか愛せない代わりに、機械の女の子なら異性として見ることができる』という世間的にみればどう繕っても『変態』のレッテルが貼られてしまう困ったお方だが、そもそも世界そのものが彼を理解することのできない低俗な領域に留まっているのでそれで良い、と思う。
結局彼の望みは『リューズの中を見たい』というだけであり、正直がっかりしたのは否めない。まあ、彼に中を見てもらうのは嬉しいことでもあるので抵抗はなかったが。
ーーーこの世界での結末は、どうなるのだろうか?
ふと、ずっと先のことを考える。
今ある平和など、実は薄氷の上に建つ城のようなものだ。本当は成立している方が不思議なくらいで、いつ崩れてもおかしくない。
ーーー全てから逃げ出せば、彼の命が救われる。そんなシンプルなシナリオだったらどれだけよかったことか。
表面上は日常を謳歌しつつ、内心では常に怯えている。いつ何が起きるか分からない。これが人間だったならとうに擦り切れているであろうストレスに、彼女は24時間絶え間無く耐え続けてきた。
ーーーバレてはいないだろうか?
彼は耳が良い。自分では押し殺しているつもりでも、些細な精神の負荷は僅かな歯車の雑音として現れてしまうかもしれない。メンテナンスをする、などと言い出したのはもしやそのせいなのでは?
失うかもしれない恐怖。そして未だに主人が生きているという安堵。混沌とした雑音だらけの心の中で、彼女が願うものはただ一つ。
ーーーどうかナオトさまに今度こそ幸せで安全な生活を。
後日、マエリベル・ハルターと名乗る少女とヴァイネイ・ハルターと名乗る男がナオトたちの学校にやってきた。早くもリューズの願いは、ここで瓦解の一歩を踏み出そうとしていた。
突っ込みどころ満載だと思ったあなたに向けて一言。
ーーー細かいことは気にするな。