クロックリターン・プラネット 作:機械系ヒロインバンザイ
リューズの水着姿やったぜ!
原作4巻でテンプに煽られていたことが否定される改変を期待した視聴者は多いはず。
マエリベル・ハルターことマリー・ベル・ブレゲははしゃいでいた。
彼女にとっては初めての高校生活だ。大学に通ったと言っても短い間で、それも卒業することだけを目的に入学しただけだ。まさか公的に死んでからこのような体験ができるとは思わなかった。
「さーて、思いっきり楽しむわよ!」
一時限目、数学。
(なに、これ?)
マリーは教科書を見て絶望していた。内容が分からない、ではない。簡単過ぎて失望したのだ。
なんで高校生にもなって因数分解だの二次関数のグラフだのをやっているのだ?少なくとも微分積分はやってしかるべきだろう。
ーーーなお、マリー・ベル・ブレゲは天才なので、世の一般の高校生の気持ちが分からない。そして見浦ナオトの通う高校は、リューズが来るまでナオトに対するイジメが常に発生しているような底辺校だったのだ。そんな高校の授業のレベルが高いわけがない。
二時限目、体育。
(そうよ、きっとこの高校はスポーツ重視なのよ。だからあんなに勉強ができないんだわ)
気を取り直して、跳び箱。
なんかただ跳んでいる奴がクラス一の成績を叩き出していた。段数は9。これ以上の段はこの高校にはないらしい。もしかして見た目以上に難しいのだろうか?
マリーはその後あっさりとその段で前方倒立回転跳びにアレンジを加えた技を披露。トップの成績を塗り替えた。
三時限目は英語の抜き打ちテストだった。
とは言ってもそう大したものではない。単純な単語テストと文章読解、英文の穴埋めしかない基礎的なテストだった。マリーはもう失望を隠さずテストを五分で終わらせ、ふとカンニングを疑われない範囲で周囲を見る。
皆必死に解いていた。どう見ても苦戦していた。どうやらこの高校は思った以上のお馬鹿高校らしい。
ーーーそして、前の席が目に付いた。
ヘッドホンをした少年、見浦ナオトはテストに目もくれずずっと歯車を弄っている。教師がなんとかその機械いじりを妨害しようとチョークを投げつけるが、空中で霧散、チョークの成れの果ての白い粉末がなぜか教師に降りかかる。それと同時に、ただでさえ少ない男性教師の頭髪が少しだけ消失する。
(……………うわあ)
ナオトを教師のチョーク攻撃から守り、ある意味最もタチの悪い反撃を繰り出しているのはリューズだ。文字通り目にも留まらぬスピードで鎌を用いてチョークを迎撃、粉砕し、粉末がナオトにかからないように風圧で吹き飛ばす。そしてもう一方の鎌で少しずつ相手の頭髪を削いでいた。おかげで教師の頭髪が失せ、その代わりにチョークの粉がかかるという見ていて思わず噴き出してしまうような悲惨な光景が出来上がっている。
ーーーえげつない。
この場合、客観的にみて正しいのは教師だ。テスト中に機械いじりなど言語道断、もしもここが進学校、否まともな学校なら即退室させられているところだろう。
ーーーだがそんなことはナオトとリューズには関係ない。
ナオトは機械にしか興味がなく、テストなどいらないと思っている。リューズはリューズで、ナオトの望みが第一で、それが阻まれるならばその障害を排除しよう、くらいにしか考えてはいるまい。
その後も授業を受けて分かったことは、この学校はマリーにとってとてつもなくレベルが低いということと、見浦ナオトがまともに授業を受けていないということだけだった。
「ところでアンクルちゃんって、今は三重にいるはずだよな?」
「時系列を鑑みるに、その可能性が極めて高いと思われますが」
「……三重、行かね?」
「その前にまず、補習を受けるべきかと。そもそも行く手段についてはどうなさるおつもりで?」
「頑張って円筒鉄道に乗る……。アンクルちゃんの為なら怖くない!」
「非常に不愉快かつ屈辱的ではありますが、後ほどマリーさまに頼んで航空機を手配してもらいましょう。もちろん補習が済んだ後で」
午前の授業が終わり、昼休み。ナオトとリューズは屋上で昼食をとっていた。……その実態はリューズが一方的にナオトに『あーん』で食べさせるものだったが。
ちなみにナオトはテストで無事に赤点をとっていた。かつて経験した試験と全く同じ問題であるにも関わらず赤点とは、この男全く学習していない。
「でも急がないとアンクルちゃんが電磁パルスとかいうヤツの餌食になっちゃうしなぁ…」
ナオトが心配しているのはそこだった。
記憶にあるのは、リューズとアンクルが電磁波攻撃を受けて倒れ臥す姿だ。アンクルは自分で脱磁と冷却ができたが、リューズは無理やり発熱した結果、腹部のパーツが溶解して大破し、しばらく機能停止する羽目になった。
「アンクルならば電磁パルスを受けても回復できますし、問題ないと思われますが」
「でも一刻も早く助けてあげたいじゃん?」
ーーーーーーー。
そこでリューズは、自分がどこまで落ちぶれていたのかを理解した。
もしも、『最初の記憶と同じように三重に向かっていたら』。
もしも、『京都のパージを防いですぐにアンクルを助けに向かっていたら』。
これらの答えをすでに知っているリューズは、しかし失敗した。何をしても手詰まりで、本当に失ってはならないものを取りこぼしてしまう。そのせいで、いくら主人のためとはいえ全く躊躇うことなく妹を切り捨てようとしていたのだと、遅まきながら気付いたのだ。
しかし、それとこれとは話が別だ。いくら低俗な人間どもの作った的外れな試験とはいえ、主が低く評価されるのを見過ごすわけにはいかない。
「ナオトさま。無事に補習を終えられた暁には、
「うっ……。でも、アンクルちゃん操られてるし……」
そう、アンクルがそのまま無事に過ごしているなら問題はないのだ。それなら、会うのを先延ばしにしても問題ないと思えるほどの魅力がリューズの申し出にはあった。しかし、操られているならば話は別だ。
「ナオトさま。すなわち問題はノミ以下の人間さまによる補習を受けることではなく、アンクルを助けることが遅れることでございますよね?」
「うん」
むしろ両立できたら最高だろう。嫌な補修が終わればリューズに文字通り『なんでも』してもらえるし、アンクルも早く助けられる。
「ならば話は簡単でございます。文字通り『急いで』帰ってくれば良いのです」
と、いうわけで。
現在、ナオトはリューズに背負われた状態だった。
「……どうかお覚悟を。今夜は決して寝かしません」
「アンクルちゃんの為ならへっちゃらだ!」
補習は受けたい、でもアンクルも早く助けたい。その二つを両立させるため、一晩の内にアンクル救出作戦を実行することにした。
「定義宣言。Intial-Yシリーズ壱番機、『
それは宣告だ。今からこの世界の法則を乱し、超越するという。
「第一時計『実数時間』から第二時計『虚数時間』へシフト開始」
リューズの装いが黒から白へ、瞳が黄金から真紅へ変化する。
「
「ーーー
その、直後。
ナオトの見ている景色が変わった。
虚数運動。それはただ加速するのではなく文字通り虚数時間を運動する力だ。虚数時間上でどんなに時間が経とうとも実時間上では一瞬。事実上、虚数運動をしている限り一瞬の間に無限に運動できる。
そこでリューズが持ち出した提案は、「ナオトを背負ったまま相対機動を連続使用して三重まで移動し、帰りもリューズが二人を担いで帰ってくる」というものだった。ただ単に超加速して移動するならばナオトの身体は慣性による負荷で即グチャグチャのミンチになりかねないが、虚数運動ならば負荷はリューズが虚数時間を移動する際の負荷だけで済む。
リューズは静止した世界で走る。ーーーしかし、人間であるナオトの身体に負担をかけないように、慎重に。
ーーー鼓動を、感じない。
当然だ。ナオトの時間は今静止している。鼓動も呼吸音もあるはずがない。
ーーーだが、それでも
考え事をしながらも、リューズの足は止まらない。駅に着くと円筒列車の発着所から旅客用の円筒が通る経路に入り込み、突き進む。既にこの経路が区画・三重につながっているのは確認済みだ。メンテナンス用の明かりしかない薄暗い経路内を駆け抜け、やがて出口が見えるとそのまま少しずつスピードを落とし、様子を伺いながら進む。三重の発着所に出ると、そのままホームに飛び上がり、着地と共に減速。本来ナオトに掛かるはずだった分の衝撃も全て両足で受け止めた。
自らの背に乗っている主人を確認する。ーーー全く問題なし。
残り時間はあと僅か。どこへ向かおうか考え、ふとあの場所に思い至る。
そのままリューズはゆっくりと歩いてそこへ向かった。
「…暑っ⁉︎」
景色が変わると同時に感じたのは熱気だった。その時点で区画・三重に着いたのだと分かる。
目の前には駅前のブティック。そこはかつて、ナオトがリューズに水着を着せられず、仕方なくパンフレットだけもらった場所だ。
そして、足元にはゼンマイが切れてまるでしがみつくように眠るリューズの姿が。
(……よしっ!)
ゼンマイを回し、リューズが目覚めるのを待つ。
ナオトの中では、既に補習の暁にリューズにしてもらうことは決まっていた。
虚数時間の設定がよく分からないので想像で書いた。後悔はしていない。細かいことは気にしちゃダメだ。
虚数運動のイメージとしてはやっぱり複素数平面かな?虚軸における値がいくら増えようが実軸における値が増えないのと一緒で、虚数時間がどれだけ経とうと実時間は経過しない、みたいなものだと思ってる。
クロプラ二次が、増えない…。