クロックリターン・プラネット 作:機械系ヒロインバンザイ
……これってクロプラというコンテンツそのものの危機なのでは?
ーーーハルターの口から告げられた通信の内容は、全く、一字一句、完全に同じだった。
(……どういうことだ?)
アンクルはここにいる。通信の指す『リトルでビッグなコック』はてっきりアンクルのことかと思っていたが、間違っていた?
ーーーいや、案外何も考えずに通信を送ったのかもしれない。ベルモットのことだ、どうせ格好つけたかっただけで深い意味などないのだろう。
発信元は三重。つまり、あの巨大兵器とまたご対面する羽目になる。
(アンクルちゃん助けたから、もうあそこに用事ないんだよな…)
ナオトにとっては、秋葉原の住人よりもリューズとアンクルの方が大切だ。その2人(アンクルは自分で脱磁できるが)を破壊しかねない巨大兵器を相手にし、さらに秋葉原を破滅させる悪役を演じる必要性をまるで感じない。
と、いうわけで。
「俺は別に行かなくてもよくね?アンクルちゃん直さなきゃいけないし、補習あるし」
「別に今すぐとは言わないわよ。だったらそのアンクル直して、補習終わってから行けば良いじゃない」
「呼び出されたのはマリーさまなのですから、お一人で行かれればよろしいかと」
全くもってリューズの言う通りなのだが、マリーからしてみればナオトの耳がなければ困る。道中の索敵や未知の事態の解決のためには、彼の耳が必要不可欠だからだ。
ーーーしかしそれは、聞き方によっては『いてくれないと不安』という意味にも取れる。
それはマリーにとっては屈辱だ。なぜよりにもよってこの変態をあてにした挙句、それに依存しているような誤解を招きかねない発言をしなければならないのか。
生来の意地によってうまくリューズへの反論が思いつかず、マリーは『ぐぬぬ』と唸るしかない。そして当然、ここで助け舟を出すのはハルターである。
ーーー曰く、『三重には今時珍しい海水浴場があるぜ』と。
「……これで完璧だな」
もう完全に私物化している学校の『元』体育倉庫にこっそりアンクルを連れ込み、その場で修理。かつてのマリーの助言によって修理スキルを得たナオトは、多少拙い手際だが迷いなく作業を終えた。かつて構造を完璧に把握したアンクルだからこそできたことだ。正直、リューズやアンクル以外の自動人形ならこうもうまくはいくまい。
ーーー正直、不安がないと言えば嘘になる。
どういうわけかリューズはナオトを覚えていたが、アンクルもそうだとは限らない。しかし、少なくとも『リューズ』はいる。娘に己を忘れられるのは途轍もなくショックだが、しかし『嫁』だけは忘れなかったのだ。ならば、大丈夫。少なくとも、生きてはいける。
ーーーそして修理から数秒経ち、目覚める。その口から溢れるは、天使の声。
「おとうさん、おねえちゃん、おはよう」
「おはようアンクルちゃんやっぱたまんねえ最高ーーーーーーーー!」
目覚めた直後にナオトの抱きつき攻撃。緊張の糸が切れたのか、その反動で張り切り具合は凄まじいことになっている。
ーーー補足すると、アンクルは初対面の時からナオトを『おとうさん』と呼んでいたため、この挨拶は『記憶』の根拠になり得ないのだが、ナオトには考えが及ぶはずもない。
さらに言うなら、アンクルに抱きついたことでリューズの機嫌が一気に急降下。嫉妬のボルテージがグングン上がっていくが、それにナオトは気づかない。
「さあさあ、遠慮せず!パパンのお腹にカモーン!」
ぽふっと。寝転がったナオトにアンクルが抱きつき。
「えへへ。……おとうさん、あったかい……」
アンクルも幸せそうに頬擦りする。
……さて、この鬱憤をどう晴らしてくれようか?
などとリューズが不穏なことを考え始めたあたりで、
「さあリューズもカモン!」
などと主人が夢心地のまま叫ぶ。
ーーーすっかり機嫌を直したリューズはナオトが膝枕を望んでいるのだと薄々察していたが、敢えてアンクルと同じようにダイブした。
「………………」
生徒会長は困っていた。いやもう本当に。
場所はよりにもよって元体育倉庫。つい最近美少女の自動人形と少年がなにやらよろしくやっているのを目撃したばかりだが、今度はそれよりもさらによく分からないことになっていた。
ーーー別に、いかがわしい雰囲気、と言うわけではない。むしろほのぼの系。
しかしそれが件の少年少女と、プラス幼女で場所が学校内だと思うと途端にカオスになる。
「ああ、
もう昇天しそうなくらいに幸せそうな顔で、悟りを開いたかのような声音で呟く少年。彼は床に寝そべり、2人の少女に左右から抱きつかれた状態だった。こちらに気づく様子はない。
赤と白の幼女は少年の腕に頬擦りしている。とても可愛い。
そして、制服姿の少女は少年の腕を抱きながら昏い瞳でこちらを見ていた。
「…………………」
ーーー呼吸が完全に止まった。
制服姿のその少女からは途轍もないプレッシャーを感じる。まるで「邪魔すんなさっさと出ていけ殺すぞ」とでも言っているようだった。
生徒会長は音を立てずにこっそり扉を閉めると、忍び足でその場から立ち去った。
「…ん?どうしたリューズ?」
「いいえ、なんでもございません。少々煩わしい羽虫を追い払っただけでございます」
「ん?まあ、いいか」
生徒会長の存在に、見浦ナオトは全く気づかなかった。いや耳はそれを捉えていたが、意識に全く入らなかったのだ。なにせ今は家族団欒中。嫁と娘で意識のリソースは精一杯。全ての感覚をリューズとアンクルに触れた皮膚に集中させ、その感触と温もりを記憶に刻み込む。
(……膝枕もいいけど、これも最高………)
まさしく至高である。
抱きつかれているにも関わらず圧迫感などは微塵も感じない。だがその柔らかい感触と仄かな温もりは伝わる、程よい力加減。2人がナオトを思いやっている証拠だ。
正直2人を抱きかえしたいところだが、生憎ナオトの身体は一つしかない。故にどちらかしか抱き返せない。それがひどくもどかしい。ナオトには嫁と娘のどちらかを優先するという選択肢はないし、そんな不公平は許さない。故に抱き返す、という選択肢が取れない。
ーーーそして、そんな彼の内心を知ってか知らずか、思い悩む
(アンクルも抱きついている、という状況が不満といえば不満ですが、それは贅沢というもの。この至福の時は、まさしく不朽の宝でございますね)
正直このままずっとナオトにはこの穏やかな時間を堪能してもらいたいというのがリューズの本音だが、そうも言っていられない。確かめなければならないことがあるからだ。
「さて、アンクル。確認したいことがあります」
「なに、おねえちゃん?」
「あなたには、最初の世界の記憶がありますか?」
ーーー最初の世界。
それは、時間が巻き戻ったことを認識しているかどうかの確認だ。
今までのほのぼの空間が、一瞬で緊迫した空気に変わる。
ーーーナオトは覚悟を決めた。たとえ忘れられていたとしても、これから思い出を作っていくんだ、と。
ーーーリューズは、世界を決定する宣告を待った。この返答次第で、
「……?なんの、こと?」
「……………」
「…そう、ですか」
どうやら何も覚えていないらしい事実に、ナオトがショックを受ける。覚悟はしていたつもりだが、実際に忘れられているとなると思いの外苦しい。ーーー改めて、リューズだけは覚えてくれていることに感謝した。
ーーーその傍でリューズが安堵したような表情をしたことに、ナオトは気がつかなかった。
…………実はこの先の展開を考えてないとか言えない…。