忘れ去られた空き地で   作:する蔵

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プロローグ

 それを見つけたのは、人気の全くない空き地であった。

 

 通学路を外れ、脇道に入る。両脇を古びた民家やアパートに挟まれているため、ろくに陽は射さず薄暗い。

 通りは広くはないが、人が楽にすれ違えるだけの広さはある。

 一本道なのだが、長く曲がりくねっているため、道の先は見えない。

 延々と薄暗い道を一人で歩き続けるたびに、いつも朋也は疑問に思う。この道は昨日と同じ場所に続いているのだろうか、と。

 人の気配はない。

 ブロック塀から建物までにはわずかなスペースしかなく、建物に挟まれて圧迫感がある。それにも関わらず朋也には、路地がそれらの建物から遠く離れているように感じられた。それは人々の営みから遠く離れているということだ。

 錯覚ではないのかもしれない。ここから見える建物は、本当に遠くにあるのかもしれない。ここは異界への入り口で、距離はその意味を失くすのかもしれない。自分はこの世界にただ一人の人間なのかもしれない。

 この路地には人を拒絶するような冷たい空気が漂っている。実際に冷たいのか、それともそういう雰囲気があるだけなのか。

 それでいて、ある種の人間には懐かしさと寛容を感じさせて受け入れるのだ。――朋也のような。

 理性は危険だと告げていた。だが何度もこの路地を訪れるうちに、理性というものは既にうまく働かなくなっていた。この路地に慣れてきたと言ってもいい。この場所にはそのような人の思考を妨げるところがある。

 このような路地が現実に存在するのだろうか。だが実際に存在していて、こうして歩いているのだ。存在を認めないわけにはいかない。

 いや、幻を見ているだけなのかもしれない。何度この路地を訪れようと、朋也は自分の認識に自信を持つことができなかった。

 道の先が見えないといっても、せいぜい数メートル横に折れるだけだ。しかしそんな角が小刻みに、永遠と思われるほども続く。だから先が見えなくなるのだ。

 いや、永遠に続くわけがない。少なくとも朋也の常識にはない。頭の片隅でそう感じた。それでも朋也には永遠に思われた。認識の分裂。やはりここは異界への入り口なのだろう。

 感覚が麻痺しているとはいえ、かなりの長さの路地なのは確かだ。ただの住宅街に、このような一本道の路地が存在するものなのだろうか? しかも小刻みに曲がりくねっている。角を曲がるのも十回や二十回ではきかないのだ。さらには路地は常に一定の幅を保っている。

 不思議と、この路地に面した入り口を持つ家は一軒も見当たらない。こんな偶然があるのだろうか。一軒くらい裏口があってもよさそうなものだが。全ての建物がこの路地と関わり合いになるのを避けているかのようだ。庭から路地にせり出している木々さえもない。

 路地は奇妙なほどに清潔だった。アスファルトには塵ひとつ落ちていない。ブロック塀も古びているはずなのに作られたばかりのような印象を与える。雑草の一つも生えていないし、ノラ猫もいなければ虫の一匹も見当たらない。もちろん人間の姿も見かけない。時折現れるマンホールだけが存在を主張していた。

 なぜこのような路地が存在するのか。だが歩いているうちに、そんな疑問も忘れそうになる。

 不意に開けた場所に出た。

 まさに不意という形容がふさわしい。角を曲がれば同じように薄暗く狭い道が続いているように思えるのだ。永遠に。だが朋也はそこへと辿り着く。そこへ辿りついて初めて、最後の角を曲がり終えたと気付くのだ。

 何度もこの場所を訪れ、既に最後の角だと認識できている。それでも訪れるたびに唐突だと感じられた。路地が永遠に続くように思えてしかたないのだ。

 ここはそういう場所なのだ。

 路地が異界への入り口なら、道の行き着く先は異界なのだろう。

 辿り着いたそこは空き地のようだった。入り口以外は全て二メートルほどのコンクリート塀で囲まれている。塀の向こうは古びた雑居ビルや町工場の敷地内のようだ。

 小さな学校の校庭くらいの広さはある。こんな路地裏に校庭ほどの土地が残っているとは、にわかには信じがたい。幻を見ているかのような雰囲気さえ感じられる。

 ただし土地の所有者から見放されたのか、雑草は腰の高さまで生え放題だ。とても人の手が入っているとは思えないので、腰の高さまでしか伸びない草なのだろう。

 粗大ゴミや電化製品も競い合うかのように大量に積み上げて不法投棄されている。そのため校庭ほどの広さは感じない。

 なぜか回収に出せばいいだけのはずの雑誌類までもが、紐でくくられて捨てられていた。長年の風雨に耐えて原型を留めているのが奇跡のようにも思える。

 そもそもこの土地の所有者は、この土地を所有しているということさえも忘れているに違いない。そう思わせるほど人気がなく生活感のない場所だった。

 それでもゴミに埋まっているのは空き地の半分余りだった。空き地の奥にゴミを重ねて、手前は広々としている。全てのゴミは律儀なほど奥側に寄せられている。

 空き地を埋め尽くすほどの量ではないが、その中途半端な分量のせいで、かえって何も置かれていない土地よりも空疎感が際立ってしまっている。

 捨てられたものの存在感が、生活の温もりの欠如を強調しているのだ。

 空き地には陽の当たる場所もあるのだが、陽光の存在が日陰の薄暗さを引き立てている。そう感じてしまうほど空疎な場所だった。

 このような場所にわざわざ重いゴミを捨てに来るのかと初めのうちは驚いていた。もしかしたら昔は異界でも何でもなく、いたって普通の空き地だったのかもしれない。

 捨てられているゴミはどれも古いものばかりで、最近のものは見当たらない。現世から離れた場所になるにつれ、この土地は人々から忘れ去られていき、いつしかゴミを捨てに来る者もいなくなったのだろうか。

 手前に積まれているゴミしか見ていないのだが、わざわざ奥に新しいゴミを捨てに行く人もいないだろう。しかもこの土地には新しいものを拒否するという「意思」のようなものさえ感じられた。

 ここはゴミを不法投棄するような人々からも見放された土地なのだ。やはりここは異界なのだろう。

 

 そんな場所で、それを見つけたのだ。

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