ダンジョンに半神の男がいるのは間違っているだろうか 作:夕暮夜風
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昨日のミノタウロスとの1件があり、少年を保護したファミリアの幹部はそのファミリアの主神の部屋に集まっていた。
「つまりノっくんはその少年をファミリアに入れたいんやな?」
そこでは勿論 保護した少年“ベル・クラネル”の話がされていた。
何故そのような話になったかと言うと、遡ること2時間前。朝帰りをしたノクトの事をリヴェリアは待っていた。恋人が出かけたのを待つ女性 とは全く違い、この様な朝まで飲み歩いていた男に説教をする為に彼女は3時間近くノクトをホームの入口付近で待っていた。
それもそのはず、何処の子供か分からない少年を勝手に保護をして 勝手に出て行き 勝手に飲み歩いていたのだ、リヴェリア出なくともその事については皆怒ろう。
そしてその説教は1時間と30分も続いた。
そしてそんな長ったらしい説教も終わり、ノクトはファミリアの団長【勇者】の二つ名を持つ フィン・ディムナに呼び出された。
「ノクト、ちょっと来てくれないか?」
険しい顔をしていた為『朝帰りの件か?』とフィンに問うと『違うよ、別の事で来て欲しい』と言われフィンに付いていくとそこは主神の部屋だった。
そこには さっきまでノクトに説教をしていた【九魔姫】の二つ名を持つ事ファミリアの副団長 リヴェリア・リヨス・アールヴ や、このファミリアの最古参の1人 【重傑】の二つ名を持つガレス・ランドロックと言う幹部連中が全員集まっていた。
そんな光景を目の前にしてノクトは『全員集まってどうしたんだ?トラブルか?』と首を傾げていた。
そこでまず初めに口を開いたのはフィンだった。
「まずノクトに教えてもらいたいんだ、君はあの少年を“どうしたいんだい”?」
フィンのその言葉にノクトが一瞬固まる。意味を理解したリヴェリアも固まってしまう。その他の幹部はと言うと((((なんの話?))))と理解していなかった。
そしてそれにノクトが答えるために口を開く。
「面白い子だと思ったからファミリアに入れたいと思ってるんだ、ダメか?」
軽い、それはかなり軽い言い方だった。
だがフィンとして入れるのは良いが此処で一つ疑問があった。それは彼がダンジョンに潜っていたと言うことは 他の神の眷属であると言うことを示す。それなのに彼はこのファミリアに入れたいと言ってきた。
ノクトの事だからその様な些細な事を忘れるはずもないと思ったがフィンはそれをノクトに聞こうとする。
「ノク「その少年言うんはどこの眷属の子なんや?」…」
質問をしようとしたフィンと同じー いやそれよりも一瞬早く答えたのはこのファミリアが主神であった。
そしてその質問をノクトに投げかけると即座にノクトはそれを否定する。
「残念ながらそれは違う。」
神も含め此処にいる全員が言葉の意味が分からなかった。
そして次にノクトの発した言葉により頭に?の付いていた一同は凍りつく。
「彼は“何処のファミリアにも属していない”」
それは神にもそして幹部連中、つまりこれまで多くの修羅場を乗り越えてきた彼らでも予想しなかった答えだった。
その為5秒と言う刹那の静寂が主神の部屋を支配する。
そして次に口を開いたのはガレスだった。
「つまりその小僧は“恩恵も無しにダンジョンに潜っていたと言うことか”?」
神を含めここにいる人々は(有り得ない)と心の中で思いつつもノクトが『そういう事だ』と言う肯定により再び意識は凍りつく。
「…ロキ」
そう口を開いたのはフィンで ロキとはこのファミリアの主神の名で悪戯好きの女神である。
そして何故フィンがロキと口にしたか。
それは神の持つ特性《人は神に嘘はつけない》これを生かし、ノクトの言ってることは本当かを確かめるためだった。そしてロキは渋い顔をしながらも答える。
「…ほんとみたいやで」
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こうしてノクトは出会った経緯や彼の見たものなどを全て自らの主神である神ロキ そして団長であるフィン・ディムナやリヴェリア・リヨス・アールヴを含めこの場にいたロキ・ファミリアの幹部皆に話し今に至った。
「つまりノっくんはその少年をファミリアに入れたいんやな?」
その質問にノクトは真っ直ぐとした目で主神を見つめ答えた。
「彼にその意志があるなら入れたいと思ってる」
そのノクトの言葉を聞き 1人面白くないと言う顔をした者がいた。 べート・ローガ Lv5の一級冒険者である。
彼は異常な迄の実力主義者である為“自分より圧倒的に強い”ノクトが何故そのような雑魚を入れようとしているのか疑問だった。
確かに恩恵無しでミノタウロスから逃げ切れたのは凄いだろう、だが雑魚は雑魚でしかないと言うのがべートの意見だった。
だが そんなべートの意見を言わせないかのようにフィンが口を開く。
「…僕はノクトの意見に賛成するよ」
フィンのその言葉により 本日何度目か分からない驚きが部屋を支配する。そして正気に戻ったリヴェリアがフィンに問う。
「何故だ?」
短い言葉だがそれで十分だった。
そしてそれにフィンが答える。
「それは…彼を入れろって親指が疼くからだよ」
フィンは生まれながらにして研ぎ澄まされた第六感を持ち、危険など自分に関係のある大きな事を察知すると親指が疼くというまでの神がかった勘を持っていた。
そしてそれは外れた事がないため、一同は息を飲みノクトとフィン同様賛成する事にした。
「それに僕は“初めて”彼を見た時も親指が疼いたんだ。だから僕は多少無理をしてでも彼を入れようと最初から思っていたんだ」
ノクトが少年を助けファミリアに向かう際にフィンはどんな少年か気になり顔を見てみることにした。すると親指が疼いたんだ。と皆に説明をするとファミリアの幹部の意思は自然と纏まって行った。
「んーほんじゃ その少年連れてきてやー」
そして話がひと段落したのを見て主神ロキが口を開く。
さっきまで真面目に話していたのが嘘のようにとても軽く。そんな姿を見て苦笑いする幹部もいた程だった。
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先日まで空き室だった部屋をノクトがノックする。
「起きてるか?」
そう問うとその直後部屋の中から返事が返ってくる。
『は、はい…起きてます!』
その返事を聞くとノクトは扉のドアノブに手を掛けゆっくり開けると同時に『入るぞ』と言って少年のいる部屋へと入っていった。
「……気分はどうだ?」
部屋に入って数秒もしない内に少年へ ノクトが問いかける。それもそのはず、昨晩一同目を覚ましていたとは言えど恩恵も何も持たない少年がミノタウロスに襲われていたのだ、心配するのが当たり前だろう。
するとその質問を投げかけてすぐに返事は帰ってきた。
「あ!ありがとうございます、身体はどこにも問題ありません!」
少し緊張しながらも少年はニコニコとしてノクトお礼の言葉と今の身体の状況を教えた。傍から見たら兄弟の様に見える光景だろう。そして少年が先程の質問に答えるとノクトは『…そうか』と言って話を切り上げ黙ってしまう。
10秒程の静寂が部屋を覆うと、先に口を開いたのは少年だった。
「それにしても貴方は一体…?」
それは少年にとって当たり前で尚且つ一番重要な質問だった。自分を救ってくれたとは言えど全く知らない男性なのだ 質問するのも無理はない。
「………ボクが誰かって事か?」
オウム返し、では無いが少年にノクトが聞き返すと『はい!』と答える少年。ロキに『早く連れてきーや』と言われ時間はあまり無いがこうなると名乗らない訳にも行かないため青年は渋々名乗る事にした。
「ボクはノクティス、ノクティス・ヴァレンシュタイン」
「えええぇぇぇぇぇえええっ!」
その名前を聞くと同時に少年は絶叫と共に固まる。思わずノクトが耳を塞ぐ。そしてその思考フリーズが解除されると同時に再び彼に質問しようとする少年
「あ、あのノクティス・ヴァレンシュタインさんですか?!」
その質問に対して軽く眉を顰めてしまうノクト。
そしてそれに応えるために再び口を開く。
「あぁ、そのノクティス・ヴァレンシュタインで間違いないと、思うな…」
それに続くようにノクトは言葉を紡ぎ少年に指摘をする。
「ボクも名乗ったんだ、君も名乗るのが当たり前じゃないのか?」
その指摘により少年は一瞬ハッとして起き上がって座ってたままのベッドから降りノクトの前に背筋を伸ばし立つ。
「べ、ベル・クラネルです!」
それを聞くとノクトは部屋にある時計を見て 先程の少年と同じようにハッとして『話があるから着いて来てくれ』と少年に問いかける。そして少年ことベルを主神ロキがいる部屋まで連れていった。その間べルはおどおどしながらノクトの背に付いて行った。
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少年ことベル・クラネルは現在目の前の光景に固まっている。 それは何故か? ベルの目の前には冒険者なら1度は必ず聞いたことがある程有名なオラリアが代表する“一級冒険者”達が目の前にいたからだ。
「来たね、えっと君の名は?」
そんな固まってしまったベルに助け舟を出す様に口を開いたのはフィンだった。
そしてフィンに質問されたことにより固まっていたベルは意識を取り戻しそれに答える。
「べ、ベル・クラネルです!」
それは先程ノクトが名前を聞いた時と全く同じ反応であった為 ノクトは思わず苦笑を浮かべてしまう。
ベルが名乗ると真っ先に口を開いたのはロキだった。
「にっしてもノっくんとベルたん よー似とるな、兄弟やないのか?」
それは今は全く関係の無い質問だった。
やはり第三者から見ればノクトとベルは似ているらしい。
真っ白い初雪のような髪の毛に真っ赤な真紅の瞳。
この様な髪の毛と瞳を持つ者はオラリア全体を見渡してもこの2人くらいと言うほど珍しい為ロキは思わず口を開いてしまったのだ。
そしてそれを静止するように神ロキの首の横にそっと細剣が構えられていた。
「………余計な口は謹んでロキ」
己の主神でありながらぞんざいな扱いをする金髪金眼の少女がそこにいた。何故そのような行動をとったかそれは、神ロキが話し始めると 必ず話が明後日の方向に進み全く話が進まない為だ。
しかし 止め方過激な為ノクトは再び眉間にシワが寄っていた。そしてそれを辞めるように少女に言う。
「……アイズ、頼むから節度のある行動をしてくれないかな?お前はいつも過激なんだ」
その言葉を聞くやアイズと呼ばれた少女は己の主神の首元に構えていた細剣を鞘に収めノクトへ返事をする。
「…………ごめんなさいお兄さん」
そしてベルはと言うと、アイズと言われた少女の名前を聞き『ええぇぇぇぇっー!!!』驚きの声を上げるとべートに『うるせぇ雑魚がッ!』と言われ咄嗟に口を閉じる。
そしてフィンが話を戻さんと再び口を開く。
「僕はフィン、フィン・ディムナ。【勇者】なんて大層な二つ名を貰ってはいるけどフィンで構わないよ」
フィンが自己紹介をすると本日3度目となるベルの絶叫がロキ・ファミリアがホーム【黄昏の館】に響き渡ったが、べートによる罵声によりベルは再び黙る。
「それで君はどうしてダンジョンにいたんだい?」
ベルが何処のファミリアに入って無いのを知っての上での質問だった。
そしてそれに答えるためベルが話し出す。
「ぼ、僕は冒険者になる為にオラリアに来ました!でもどうやって冒険者になるかわからなかったから街中で途方に暮れていたら2人組の冒険者に声をかけられて冒険者にしてやると言われダンジョンに行きました……」
そのベルの話と昨日のベルのダンジョンでの装備や道具を思い出す限り その2人組の冒険者は善意からの行動ではないと神や幹部全員が思っていた。
「……つまりベル、お前はそこでミノタウロスに出会ったんだな?」
話す程に暗くなっていくベルの顔を見て真っ先に口を開いたのはノクトだった。
「はい…そこでミノタウロスに出会って逃げようとしたら、声をかけてくれた冒険者の人が真っ先に逃げて一人になりました。えっと……それで僕もミノタウロスから逃げていた時ノクティスさんに助けてもらいました…」
周りの状況に困惑しているせいか、ミノタウロスがトラウマとなってるせいかベルはぎこちなくダンジョンにいた時の事を答えていく。
ベルが一通り話終わるとフィンは再びベルに対して口を開く。
「残念だけどその冒険者は善意で君を連れていった訳では無いね……面白半分、いや いざと言う時の身代わりとして連れていったんだと思う…」
そのフィンの言葉を聞くや『えっ…』と言い俯くベル。
そしてその後言葉を紡ぐ者がいなかった為半分程の静寂が訪れる。 その静寂を破ったのは他でもない、ベルだった。
「あ、あの!僕を冒険者にさせてください!!」
その言葉にロキ・ファミリアの面々が驚愕の表情を浮かべる。
それもその筈、彼はつい先日 ミノタウロスに襲われたばかり。つまり怖い思いをしたばかりなのに冒険者になると言っているのだ。そんな考えと共に褐色の肌をした女性がベルに質問を投げかける。
「貴方、冒険者になるにはどうしたらいいか知ってるの?」
その質問に聞くやベルは『…いえ』と答えるともう1人いる褐色の肌の女性が言葉を紡ぐ。
「冒険者になるにはファミリアにギルドで冒険者登録をしたらいいんだよ〜」
ベルはその言葉を聞くと少しの間下を向き黙り込むとが何かを決意したかのようにフィンの方へ向き直る。
「あ、あのフィンさん、僕を……このファミリアに入れてください!!!」
その言葉を聞くと真剣な眼差しでフィンはベルを見つめる。先程の褐色の女性達やノクトにアイズ、リヴェリアと言った幹部達も同じような目でベルを見つめる。
「なら君に聞かせてもらいたい。君は先日ミノタウロスにより殺されかけたばかりだったね?それでも冒険者になりたいかい?」
フィンはベルに対して質問する。それは冒険者として生きてく上で最も重要な事だからである。
特にこの“オラリア最大派閥”ロキ・ファミリアでは。
するとベルは一変の迷いもなくベルはフィンの質問に答える。
「はい…本当は怖いですけど、どうしても冒険者になりたいんです!!!」
それは神でなくとも嘘は付いていないとわかる程真っ直ぐとした目だった。しかしフィンは再びベルへ問いかけをする。
「君はどうして冒険者になりたいんだい?」
ベルは怖いと言いながらも冒険者になりたいと言った、フィンはそこがどうしても気になった。だからそれに付いて聞いてみることにすると、幹部全体が予想もしなかった答えが返ってきた。
「え、英雄になりたいから……大切な人を失わない為に強くなってみんなを助けられるような英雄になりたいからです!!!」
それを聞きロキやべート、天真爛漫の褐色の女性は笑いだしフィンやリヴェリア、ガレスと言った他のメンバーはベルの答えに驚いていた。
そしてノクトは…… その言葉を聞いた時 一瞬目を見開くもすぐにポーカーフェイスに戻した。
しかしその口角は少しつり上がっていた。
「ロキ」
フィンが主神ロキへ話を振る。
するとロキは満面の笑みでベルに向き直り口を開く。
「合格や!」
『へっ?』と少し気の抜けた声をベルが出すとフィンも苦笑いを浮かべつつベルに説明を始めた。
「僕達は元々君をこのファミリアに向かい入れるつもりだったんだけど、君の意思と覚悟が無ければそのまま君を返すつもりだったんだ。つまり君の覚悟を見させてもらったんだ、騙すような事をして悪かったね」
そう言うとフィンはベルに対して頭を下げるとベルは『い、いえいえ!ボクの方こそ、なんか…すみません!!』と頭を下げる。
そんなやり取りをしてて口を開いたのはリヴェリアだった。
「ベル、今日から私達は家族だ。何かあれば遠慮などするな。」
その言葉を聞くとベルは俯く。
すると水滴が垂れる音がした。
リヴェリアは慌てて『私はおかしな事でも言ったか?!』とベルに聞くとベルは『いえ…』と答え、自分の生い立ちを話してくれた。
物心ついた時から両親は居らず、祖父と二人で暮らしていた。両親が居なくても村の人達や祖父に支えられ可愛がられていた為苦労などはなかったが つい1年程前に祖父も亡くし天涯孤独の身となってしまった為。勿論村の人達も居たが肉親を失い、家族と言えるものを失った。
それを聞いた時 ロキ・ファミリアの面々は涙を堪える者や涙を流す者もいた。
そしてそんな中、口を開いたものがいた。
「チッ…おいチビ、みんなを守る為に強くなるんだろ?明日から鍛えてやるから覚悟しておけよ!」
べート・ローガ
それは過剰なまでの実力主義者の彼の心を動かしたのだ。
それを知らないベルからしたら『え?』と戸惑ってしまうが、べートの事をよく知るロキファミリアの幹部達は(((((((((嘘だろ?)))))))))と奇しくも同じ事を考えていた。
「……ベル、ボクも君さえ良ければ明日から君を指導しようと思うんだけど、どうかな?」
ベルにとって思いもよらない言葉だった。
冒険者として名を馳せオラリアでは知らない人はいないと言われる程、いやオラリアの外でもなお馳せ そして【黒騎士】の二つ名を持ち“英雄”と言われている男性から師事をしたいと言われたのだ。
「ぼ、僕の方こそよろしくお願いしますノクティスさん!」
ベルがノクトに頭を下げると合格をすると暫く黙っていたロキが口を開きベルを呼ぶ。
「ほな、ベルたんのロキ・ファミリア入団も決まった訳だし“恩恵”を与えんとな!ベルたん こっち来ーや!」
【神の恩恵】
それは神から人に与えられる恩寵。
様々な事象から【経験値】を得て己の能力を引き上げ新たなる能力を発現させることを可能とするもの。
ロキに呼ばれロキの座っているベッドの方へベルが向かっていくとロキに『服脱いで、ベットに寝てなー』と言われたため一瞬ピンク色の事を考えるも、こんな人前では…と考え直し服を脱ぎベルはベッドに横たわる。
そしてロキは横たわったベルに跨るとベルは困惑の声を上げるが『アンタが思っとる事はせんから安心しーや』と言われ我に返る。
「にしてもベルたんええ肌しとるな〜」
再び恥じらいを覚えたベルは布団に顔をうずめる。それを見たロキは『ほな、恩恵刻むで!』と言い、己の懐のホルダーに指してあったナイフで己の指を少し切り、慣れた作業の様にその血でベルの背に恩恵を刻んでいく。
「ほいよ、出来た…なんやこれ…」
恩恵を与える作業を終えそのステイタスをロキが見るとそこには信じられないものが刻まれていた。
ロキの驚く声に釣られリヴェリアとノクトとベルのステイタスを確認すると『ッ?!』『これは…』と両名とも驚いていた。それに対してベルは
「な、なんかあったんですか!?」
と驚いていたがロキ、リヴェリア、ノクトの3人は気のせいだったと言った。普通なら疑うだろうが純粋なベルはそれを信じた為、多少心が痛かった。
本来恩恵とは人には普通は読めないがリヴェリアの様にある程度勉強する事により読めるようになる者もいる。
対してノクトはその生い立ちにより無意識ながらそれを読み理解する事が出来た。
そしてそこに表記されてたものは
*************
ベル・クラネル
LV.1
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
《魔法》
【】
《スキル》
【情景一途】
・早熟する
・懸想が続く限り効果持続
・懸想の丈により効果向上
*************
ロキは悩んだ
(なんやこのスキル!?見たこともないレアスキルやないか?! 早熟って成長系スキルなんて聞いたことあらへんぞ?こんな事他の神々に知られたら横槍入らんとも限らん… ベルが強くなるまで黙っておくしかあらんな)
そうロキは考えた結果 ベルに見せるステイタスを紙に書き写しベルに見せた。スキルの部分を消して。
リヴェリアとノクトはその意味を悟り 口出しはしなかった。
「ほれベルたん、これがベルたんのスキルやで!!」
*******
ベル・クラネル
LV.1
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
《魔法》
【】
《スキル》
【】
*******
ベルはそれを見るや0ばかりで落ち込むがロキは抱擁するようにベルに言う。
「はじめはみんな同じやから気にすることないで!」
その言葉と共にベルは明るい表情を取り戻すと 同時に好奇心が出てきた。
「皆さんのステイタスってどんな感じなんですか!!」
それは冒険者内ではタブーの質問。
ステイタスを見られると都合の悪い事や利用されてしまう可能性など沢山あるため他人のステイタスは暗黙の了解とされているがそんな事は知らないベルは聞いてしまう。
皆、何も知らない少年だから仕方ないと思い何も口出しはせずロキが話を戻す。
「その前にベルたん 恩恵について大事なこと話すからよー聞いとき」
先ほどの浮かれた顔とは違い真剣な眼差しをするロキを見ると ベルも真面目な顔でロキの話を聞く。
「背中の【ステイタス】は冒険者と【ファミリア】の最重要機密やから神血で鍵をかけといたで。神々の中には鍵を知らん阿呆もおるけど この下界には鍵を強制的に開ける薬もある。だからステイタスは基本的には見せんよーにするや、わかったかベルたん?」
その話に思わず息を呑む。
このまま知らないで生きていれば間違いなく自分は人に見せ利用されていただろうと。そしてその話を聞きベルはしっかりとした目でロキに返事をする。
「はい!教えていただいてありがとうございます神様!」
それを聞き微笑みを浮かべるロキは直後にハッとなる
「あかん!ウチにはアイズたんがおるんに、ウチが手を出すんは女の子だけなんに!ベル、アンタ女やないよな?」
そんな無茶苦茶な話をベルにするとベルは『…男ですよ』と苦笑いを浮かべロキを見ていた。
「ほんで、ベルは人のステイタスが見たいんよな?」
ロキが先ほどの話に戻すとベルも少し真剣な目でロキを見つめる。
「ちょーどステイタスを更新しよう思っとったのもおるしええで。だけど他のファミリアに話したらあかんからな?」
ベルに念を押すようにロキは話をした。
その話を聞いていたロキ・ファミリアの女性幹部達はと言うと(((((私じゃないことを祈ろう)))))と同じことを考え、見事考えをシンクロさせていた。
「ほな、ノっくんこっち来〜」
そこにいた幹部達の顔が凍りつく。
何故なら ノクトのステイタスを見たことがあるのは ファミリアの中でもロキだけである。幹部すら見たことのないノクトのステイタスを見れるとなれば皆驚いていた。
ノクトは先程までベルがいたベッドにベル同様服を脱ぎ横たわる。
古代に神々の為に人が作り上げた神殿の中にある彫刻の石像を思わせるような一切無駄な脂肪のない身体。
それは見せる筋肉ではなく実用の為の筋肉だけを鍛えた様な完璧な身体。
女性陣は愚か同性のフィンやガレス、べートですら息を呑む。
「ほな、更新するで」とロキが言うと 1滴の神血をノクトの背中に落とすとノクトの背にステイタスが浮かび上がる。そしてそのステイタスを神血てなぞる様に一つ一つ更新していく。その一通りの作業を終えるとロキはステイタスを紙に書き写す。その作業も終わると その背にもう1度1滴の神血を滴しそのステイタスに鍵をかけた。
『これがノクトのステイタスやで!』と言い 当の本人であるノクト以外の幹部とベルがそのステイタスを見るや 開いた口が塞がらないと言うように口を開いたまま固まる者までいた。
***********************
ノクティス・ヴァレンシュタイン
LV.6
力:SS 1096 → SSS 1138
耐久:S 976 → SS 1002
器用:S 932 → S 998
敏捷:SSS 1100 → SSS 1192
魔力:SSS 1360 → SSS 1422
《魔法》
【ケラヴノス】
・付与魔法
・詠唱式【迸れ】
《スキル》
【騎士の誓い】
・護る者が近くにいると効果発生
・自身より強いものと対峙した際Lv+2
・想いが強い人程効果上昇
【半神半人】
・ステイタス大幅補正
・チャージする事で威力増大
・窮地に立つほど効果上昇
【全知全能】
・自身の周りの者の能力上昇
・自身の能力を上昇
・精神力と引換に能力強化
***********************
どんな一流冒険者でもこの様なものを見せられては表情を崩すなと言われている方が難しいだろう。
それ程なまでに強大なスキルに限界突破をしているステイタス。驚かない人の方がいない。あのロキでさえ初めはとても取り乱していたのだ、眷属達が取り乱さない訳がなかった。
そんな驚いているフィン達を余所にノクトは服を着てる部屋から出ていった。
勿論目の前の現実離れしたノクトのステイタスと言う現実に 出ていった事に気が付いたものはロキ以外誰もいなかった。
そして5分程の静寂が部屋の空気を染める。
初めに我に返ったのはリヴェリアだった。
リヴェリアが我に返るのを見て皆が1人ずつ我に返り初めた。異常なステイタスを目撃してしまった皆は初めこそ何を話せばいいのか分からなくなっていたが ベルの指導に付いて話し始めた。
本来一級冒険者が新人冒険者に付きっきりで指導するという事は例外を除きないのだが、ベルのミノタウロス件やリヴェリアやノクトがベルのステイタスを見て驚いていた件もあり、期待の新人とされているため一級冒険者による指導と言うことになった。
そしてまず初めに決まったのは…
「まずベル。お前にきっちりダンジョンについて勉強をしてもらう、筆記用具を持って後で私について来い いいな?」
リヴェリアによるダンジョンやモンスターについての授業だった。これはリヴェリアが新入りに毎回やっている事だが3日持った者はいないと言われているほど厳しいものだった。そんな事を知らないベルは『はい!ありがとうございます!』と知識を得れる事に喜びを感じていた。
そんなベルの表情を見てフィンも口を開く。
「戦闘はべートとノクトがいるから……戦術は僕とガレスが教えるよ」
先程べートとノクトから許可をもらっているためこちらはすんなり決まり 戦術についても教えられる者はフィンとガレスくらいな為即決定した。
「ティオネとティオナ、それにアイズもノクトやべートと一緒に戦い方をベルに教えてあげて欲しいんだけどいいよね?」
フィンの質問に対してアイズは無言で頷き ティオネと呼ばれた褐色の女性は「はい!団長♡」と答え 流石のフィンも苦笑いを浮かべていた。そしてティオナと呼ばれたもう一人の褐色の肌の女性は「わかったよ〜」と気の抜けた返事をして幹部達による話し合いは終わり ベルはロキ・ファミリアの幹部全員に深々と頭を下げた。
それと同時にこのロキ・ファミリアのホーム【黄昏の館】に鐘の音が響き渡る。
「これは何ですか?」
初めて聞く音にベルは首を傾げ、誰となく質問を問いかけると主神となったロキがベルに説明する。
「これは朝食の鐘やで!言い忘れとったから言っとくで、ウチのファミリアは少しだけルールがあるんや、それはみんな揃って食事する事や!何かある時は先に言っとけばええからな!」
そんなロキ・ファミリアのルールをロキに説明してもらい 幹部達とベルは食堂へ向かった。
******
「今日からロキ・ファミリアに入らせてもらいますベル・クラネルです!ロキ・ファミリアの一員としてその名に恥じないように尽力しますのでよ、宜しくお願いしましゅ!!!」
大切な所で噛んでしまったベル。
そんな姿を見てロキ・ファミリアの幹部も含め全ての団員が((((((可愛い!!))))))と奇しくも意見を一致させる。
何故この様な公開処刑をベルが喰らっているかは3分前
ベルはロキや幹部に連れられ食堂へやって来た。
するとロキの気まぐれでみんな揃ってるからとベルを紹介することにした。
「ほなみんな、今日から新しい家族になるベルやで、自己紹介しーや!!」
そんな無茶ぶりに緊張からモジモジして1分間ベルが何も話さないと言う緊急事態が起こったが そんな姿を見て ファミリアの団員はホッコリとしていた。
そして今に至る。
『ベルくん可愛いね!』『よろしくなベル!』『ノクティスさんの兄弟?』など多数の言葉を頂きひとりひとり答えていく。
そんなベルをフィンが優しく見守っていた。
(みんなとやっていけるか不安だったけど歓迎されてるみたいで良かったよベル)
出会ってまだ一日も経過していないが フィンはベルに対して親心の様なものを抱いていた。それはリヴェリアやガレスと言うロキ・ファミリアの年長は全員奇しくも同じ事を思っていたのだった。
(君の活躍、楽しみにしてるよベル)
フィンは心の中でベルにエールを贈ると朝食の合図と共に朝食を食べ始めたのと同時にある事に気が付く。
(そう言えばノクトがいないな………)
******
ーオラリアーバベル
迷宮の真上にそびえ立つ50階建ての摩天楼施設。
迷宮の監視と管理を行うギルド保有の施設であり、20階までは公共施設や換金所、各ファミリアの商業施設が軒を構えている。さらにその上からはオラリオでも有数のファミリアの神々が住み着いている「神様達の領域」となっている。 そこにノクトはいた。
それは何故か 新しく入った後輩に装備を与える為だ。
彼の身体はファミリアの者達と比べると小さい方で彼のサイズの防具がないからである。女性用なら入るかもしれないが 男性用防具と女性用防具では色々と違う為 この際買おうと言う決断に至った。勿論フィンやリヴェリアが知れば否定したであろうから 確信犯である。
そしてノクトが寄ったのはバベルの中にあるヘファイストス・ファミリアのバベル支店だった。
入るや否や『黒騎士だ!』『ノクティスさんよ!』『この武器使ってください!』など多種多様の声がノクトに飛んでくるが ノクトは軽く頭を下げヘファイストス・ファミリアバベル支店の掘り出し品コーナーと言っても過言ではない上の階へ来ていた。
「へいダンナ!何をお探しで…黒騎士ぃぃぃいい?!!」
ギャグ漫画の世界に居そうなリアクションを目の前で見せる店主につい笑いが零れてしまったノクト。
「ふっ……気にしないでくれ、後輩の防具と武器を見に来たんだ」
『それでしたら!』と店主は続けるがノクトはそれを無視して店の中の防具や武器を色々と見て回った。
結果は… ベルの身体周りのサイズが分からないからと言うことで防具は断念した為惨敗だった。
その為せめてと言うことで武器を買って帰った。
自身の使う剣の内の一種で刀身の長いロングブレード。
名前すら持たず、ヘファイストス・ファミリアの名を名乗ることも許されない品だ。だがノクトはそれを購入した。やはりヘファイストス・ファミリアの掘り出し品は面白い そんな事を思いながら自身のホームである【黄昏の館】へと足を進めた。
勿論帰ってみると其処にはリヴェリアが立っていた……
「用事などがある場合は先に言えとあれほど言っているだろうノクト!!!」
こうしてリヴェリアの積極を1日に2回食らうノクトであった……
ああ、長い。
書いてて少し鬱になりました。
と言うか心が挫けそうになりました。
ノクトくんの名前がやっと明かされましたが まだまだ謎だらけですね。話と共に色々と明かして行きたいと思います。
構図は練られてるけど文字にすると本当に大変で苦労してる私が目に浮かぶので少しくらい気持ちになります。
では今回はこれでごめん遊ばせ。