※本作品はPSO2(Phantasy Star Online2)の二次創作です。最近ラッピーが人気らしいので衝動的に書いてしまいました。暇潰しにでもなれば幸いです。
「相棒、緑のラッピ―伝説って知ってるか?」
突然そんな事を言い出してきたのは、自分の事を初めて会った時から相棒と呼ぶ青年、“アフィン”であった。
「緑? ラッピ―ってのは黄色だろ? しかもなんだよ、その伝説って」
ラッピ―自体は知っていた。というよりも俺達“アークス”の間では常識的な存在である。ありとあらゆる惑星のあらゆる場所に出没し、通常のエネミーと違い撃退は出来るが、完全に倒すまでには至らない。しかしそれでいてこちらに危害は加えてくるのもほぼ皆無。一部では時空を超えているのでは、そんな考えもある黄色の可愛いエネミーである。
「それがいるんだよ、緑のラッピ―。しかも通常のラッピ―に比べてすっげーデカイらしいぜ。俺も他のアークスに話を聞いたくらいでよく分かんねぇんだけどよ、なんでもアークスがピンチになると助けに来てくれるって噂だぜ」
「ハッハッハ! アークスがラッピーを助けるじゃなくてその逆だって? そりゃあ伝説だな!」
アフィンの言っている事はどうにも信憑性に欠ける、俺はそう思ってこの時も話し半分で聞き流していた。
「あ、その反応は信じてないだろー! 実際に会った人もいるんだぞ、ちょっとは興味持ってくれてもいいじゃんか!」
「はいはい、俺がピンチになったら『助けてラッピ―!』とでも叫んだらいいんだな。これからはそうするよ」
俺は笑いを噛み殺しながらそう言ったが、どうにもアフィンはお気に召さなかったみたいだった。
「思いっきり笑ってるじゃんかー。いいよ、相棒は1回ピンチになってラッピーさーん!助けてーとかなっちゃえばさ!」
「ククク、俺がピンチになったらだって? そんな事は無いとは思うがその時は神様頼みじゃなくてラッピーにでも祈っておくさ」
「クッソー、相棒はホント凄いからなー……ピンチになんて早々なんねーのが悔しいぜ」
「ま、いい暇潰しにはなったさ。それじゃあ俺は次の任務にでも行ってくるよ。詳しくはまた帰ってきたら聞かせてくれや」
「そうするよ……じゃあ頑張ってこいよ、相棒!」
そういってアフィンと別れて、後ろ手に手をヒラヒラと振りながらキャンプシップに続く道を進んだ。この時は自分が死にそうな羽目に陥るとは、そしてまさか“あんな事”になるなんて予想も出来ていなかった……
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「一体全体どうなってやがんだこれは!!」
絶体絶命。まさにそんな言葉が似合う状況に俺は立たされていた。
惑星ナベリウスの凍土地帯。
俺は今、ここに来ていた……
いつもだったら鼻歌交じりにこなす様な任務の筈だった……
早めに終わらせて、アフィンとまたくだらない話に花を咲かせるつもりだった……
エコーさんと2人でオーザさんとマールーさんの2人の仲を進展させるつもりだった……
なのに、なのに、なのに……
「誰がこんな状況を想像出来るってんだよ! ダーカーに浸食されたデ・マルモスにスノウ夫婦にダル・マルリが1体ずつだと!? それに小型もちらほらと……なーんでまた、俺1人の時に限ってなんだろうな……!」
ただでさえ強力な原生種に加えて、遭遇するのさえ困難なレア種。それに加えてダーカーに浸食され、より凶暴化している状態である。それに数も合わさりまさに多勢に無勢である。
「ハハッ、これはやべぇな……流石の俺でもこの状況を切り抜けられる切り札なんて持ってねぇぜ……ッ!」
小型を倒すのに集中すると大型に一瞬でやられ、大型に集中すると小型に邪魔をされる。しかも1番厄介なその大型も4体いる。
「これでも……喰らっとけェ!」
愛槍“ブリューナク”から繰り出した“フォトンアーツ”、“スライドエンド”がデ・マルモスの弱点である背中の突起に直撃する。
デ・マルモスの巨体が小型エネミーを何匹か道連れにしながら崩れ落ちるのを横目で確信した。
「1匹終了ォ! まだまだ俺はやれるぜぇ……!」
しかし1匹倒せたといっても、まだまだ氷山の一角といったところ。エネミーはまだまだ存在している。
「イッテェ! どっから来てんだテメェはよォ!」
正面のスノウ・バンシーを警戒してたら、そこに突如左から現れたガルフルに対応しそこねた。
左腕を負傷する。
「まァだだ! まだ右が残ってるぜェ! かかってこいよ!」
威勢よく啖呵は切った。
しかし……
俺は……ここから生きて戻れるビジョンが浮かんでこなかった……
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「ど……うだ……へへっ、お仲間も大分減って来たんじゃねぇのか……?」
戦闘が始まってどれくらいたったか、短いかもしれないし、はたまた長い時間がたったのかは分からくなっていた……
「後はあんたら夫婦だけだぜェ……!」
俺は死力を尽くして戦い続けた、その結果ダル・マルリを討伐し、小型エネミーを倒しきれた。
だが、俺にはほとんど戦う力は残されていなかった。
「ここまでくると……どこがイテェのかも分かんねぇな……チクショウが……」
最初に負傷した左腕は既に使いものにならなくなっている。胴体は左胸から右腰にかけて大きく切り裂かれており、血がダラダラと大量に流れている。両足は大きい傷は無いものの、細かい傷か多数あり、衣装の原形を留めていない。
「カッカッカ、よく頑張ったなー、俺……しかし、これは、もう駄目かも分からんねぇ……ククク、疲労が足にきてやがる……」
スノウ夫婦は俺の事を既に満身創痍と知ってか知らずか、悠々とこちらを見下げている。
「潮時……かねぇ……?」
俺は既に生き残る事を半ば諦めていた。満身創痍の死に体、その状態での大型エネミーなんて勝てるはずが無いと思っていた。
最後に一死報えればいい、そう思っていた。
スノウ・バンサーが吠えた。この鳴き方は知っている、ガルフル達を呼ぶ咆哮だ。確実に自分を仕留める気なんだろう。
「いいぜ……せめてテメェらのどっちかくらい……潰してやらぁ……!」
覚悟を決めて立ち上がるり、敵を見据える。スノウ夫婦がこちらを仕留めるべく、構える。
そこで違和感を覚えた。
いつもならどこから湧いているんだ、そう思っているガルフル達が一向に姿を現さないのだ。
「……あ?」
スノウ夫婦もそれに気付いたのか、こちらを警戒しつつも、周りを気にしている。
「そっちに何があったのかは知らんが……このチャンスを逃す手は……ねぇなァ!」
小型が出てくる前に叩く。この機会を逃すまいと足に力を込めるが……
「ッ!? おいおい……これはねぇだろうよ……!」
予想以上に、自分の体にはガタがきていたらしい。力を込めた両足は言う事を聞かず、前に行ったそのままの勢いで転んでしまった。
目の前のスノウ夫婦もガルフル達に構うのは後からにしたのか、こちらに近づいてきた……
2匹が、目の前に来る。
スノウ・バンシーが爪を大きく振りかぶる。
「だっせぇ……最後がこんな終わり方かよ……!」
来るべき衝撃に備え、硬く目を瞑る。
瞬間、悲鳴が聞こえた…
「……え?」
もちろんその悲鳴は自分の口から出たものでは、無い。
自分を捕食しようと、圧倒的有利の立場であった、スノウ・バンシーのものであった。
衝撃に備えていた目を開く。そこにあったのは大剣。それも惑星を切るとまで言われている伝説の大剣、“エリュシオーヌ”だった。
「なんだってんだ……これはよ……!」
絶望に染まっていた、そんな自分が見た幻覚なのかとも思った。しかし自分の体の傷が、目の前であがっている悲鳴が、全ては現実だと教えてくれる。
「他のアークスが……? けどここに来る奴なんて早々いねぇが……あん?」
スノウ夫婦が上を見上げて威嚇している。釣られて上を見上げると……
「緑色の……デケぇラッピー……なのか?」
見間違いでは、無いだろう。確かに高い崖の上に緑色のラッピ―が見える。ゴシゴシと、何回目をこすっても消えないアレは実際に存在しているのだろう。
そして……俺のいる方へ……飛び降りてきた……
「ばっ! あんな高いところから降りたら!!」
アレもアークスなら死ぬ事は無いだろう。しかしどこかを傷めるであろうことは容易に想像できた。
しかし、そんな事など関係ないとばかりに緑色のラッピーは颯爽と落ちてくる。
着地。雪が舞い、視界が奪われる。
衝撃で少し後ろに飛ばされる。
「げっふげっほ! これはアレか……アフィンが話してた……例の緑のラッピーって奴か……?」
視界が晴れ、そこには、エリュシオーヌを肩に担いだ、緑のラッピーの背中と。“既に事切れている”スノウ・バンシーの姿があった。
「ハハッ、なんだよそりゃあ。すげぇ、つえぇんだな……」
色々な急展開についていけない俺は、頭がボーっとして、正常な判断など下せそうも無かった。
「おい、アンタ……後は、頼んでいいのかい……?」
いつもならこんな胡散臭そうで、それでいて怪しい奴は信用しない。だが、この緑のラッピーには何か信用出来るものがあった。
「すまねぇが、俺は限界だ……そいつ1匹やっといてくれ……」
緑のラッピーが振りかえる。そいつは左の羽と言うべきか、腕と言うべきか。その部分をこちらに見せて。
「きゅきゅ」
後は俺に任せろ。
そう言っている様に、俺は感じられた……
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その後、俺はアークスシップの医療室で目を覚ました。なんでもスノウ夫婦の死体と共に雪の中で倒れていたらしい。
そんな中で重傷だった俺は寒さで凍え死ぬんじゃないのか? そう聞いたが、あまりにも突拍子も無い事だから俺に直接言っても信じてもらえないんじゃないのか。そう言って渋っていたが、どうにか聞き出した。
その内容に、俺は驚くとともに、何故か……あぁ、そうだろうな。そういう感想が出てきた。
その内容と言うのが、“緑色の羽が、布団の様になって、体温が下がらないようにしていた”と、いうものだからだ。
それに、これは後から聞いた話だったが。
……なんでも、俺が倒れていた場所から、少し離れた場所にガルフル達が折り重なって倒れているのが発見されていたらしい。
俺は怪我の見舞いにきたアフィンに緑のラッピ-が出た、そう話したが相棒が俺をからかうなんて珍しいな。そういってまともに取り合ってくれなかった。
それもそうだ、俺もこんな話をアフィンから聞いたら頭がダーカー浸食されたかを疑う。
しかし、俺は見た。緑のラッピーを。あの後ろ姿を。
俺は生涯忘れないだろう、あいつの後ろ姿を、あいつの声を。
今度、また後輩が出来るらしい。そうしたらそいつらにもこの話をしてやろうと思う。
“ピンチになったら緑のラッピーに助けを求めろ”ってな。
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「うわぁ!? た、助けてくれぇ!!」
1人の新人アークスがまた、窮地に追いやられていた。自分の力量も見定めずに、高難度のクエストを受ける。良くある光景だ。
「し、死にたくない!? 誰か助けてくれよぉ!!!」
ダーカーに囲まれ、悲鳴にも似た声をあげるが、そこには誰もいるはずがない……
そう、“普通ならば”
一陣の風と共に、新人アークスに、見た事のない物と聞き覚えのある声が聞こえた。
「緑色の……ラッピー……?」
大剣エリュシオーヌを肩に担いだ、緑色のラッピーがいた。新人アークスに振り向いて、左腕を見せるようにする
「きゅきゅきゅ」
あぁ、これで自分は助かる……不思議と、そう思った。
お粗末さまでした。