ダークソウルの闇の王エンド。火継ぎと闇の王エンドのどっちがハッピーエンドかは、各々の解釈でいいと思います

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人間性を求めよ!


闇の王

 ヴィンハイムの竜の学院を出た英雄は、闇の王となることを決めた。

 我は正統なる闇の配下。我は正統なる時代の従者。我は闇に仕えるもの。

 蛇はかく語りき。

 

 

 絵本。昔話。伝承。それは時に真実を示唆するものである。

 かの英雄が読んだ本では、太陽はいつか沈む。そして闇が世界を覆い尽くすという美しくも当たり前の真実が記されていた。

 かの英雄は大きくなると、両親がそうであったように魔術の徒となった。ヴィンハイム最高学部、竜の学院。岩の古竜に起源を辿るという、生命力の根源“ソウル”を利用した技術を学ぶ場所である。その場で最重要視されたのは知識である。認識し、観測し、分析し、理解する。ソウルという、物理法則を深く知るためにありとあらゆる手段が行使されていた。

 ――竜の学院では、鱗の無い竜シースが研究対象でもあった。シースは既に大きく数を減らしてしまった古竜の数少ない生き残りであり、魔術の祖である。魔術という技術を作り上げたのも竜である。竜に近づくことでソウルを理解しようとするのは、決しておかしなことではない。

 著名なる魔術師ビックハット・ローガンもまたシースを知ろうとして旅に出た。

 だから、竜の学院でよい成績を収めたかの英雄が不死となり旅に出たのもさほど不思議なことではなかった。

 

 不死者とは、人間の社会を崩壊に導く存在である。例え縛り首にされようが磔にされようが復活する存在がいかに不気味なことか。いかなる重い罪を犯そうとも、少しの苦痛を経るだけで許されるなど、あってはならない。もっとも重い刑罰である死刑でさえも、不死者にとっては罰になりえない。死という常識が前提の社会では、不死はあってはならないイレギュラーなのである。

 そこで人間の社会は、主神ロイドの名において、不死者を拘束し、北の不死院に送ることに決めていた。英雄は優秀な魔術師であったが、ロイドの騎士たちにはかなわなかった。

 魔術師は捕らえられ、身ぐるみはがされて北の不死院に送られた。

 北の不死院は文字通り極寒の土地にある。薄手では半日とかからずに凍死するような極地である。だが不死者は全裸で飲まず食わずだろうが死ぬことができない。仮に肉体が死を迎えても蘇生してしまうのである。魔術師はまるで石像のように牢屋の中で時を過ごした。

 時の流れが淀んだ土地において、どれだけの時間がなどと論じるのは不可思議だが、気の遠くなる時間が流れた。あまりの時間の長さに頭がおかしくなりかけたが、魔術の鍛錬は怠らず、なんとか牢屋を破れないかと試行錯誤した。だが牢屋は頑固として開かなかった。

 転機があったのは、一人の騎士が牢屋を破る手助けをしてくれたことだ。英雄は彼に感謝して先に進んだ。

 

 

 ロードラン。

 それは巡礼の道。

 太陽の光の王グウィンが建設したと伝えられる荘厳なる城である。かつて火の時代の最盛期においては、グウィンの神々とその配下の巨人たちが城で優雅な生活を送り、人を総べていたという。

 驕れるものも久しからず。ただ風の前の塵に同じ。

 時間という残酷な流れは最初の火を弱体化させ、グウィンらの力をはく奪していった。王は旅に出た。ロードランは僅かな配下の者たちに任されるままになった。

 

 幾人もの敵を殺した。否、動けなくした。

 竜の学院で習得した魔術はロードランにおいても通用するものであり、亡者に向かいソウルの術をぶつけてひたすら殺して進んだ。魔術だけでは不足していたので、慣れない剣術も練習した。

 

 

 火継ぎの祭祀場で、心折れた騎士に出会った。

 かつて彼も勇敢なる英雄だったのであろうが、既に心折れて空を仰ぐだけの作業に従事していた。彼は鴉を罵った。こんなことならば、巡礼の道に連れてくるな、そう言った。

 英雄が何か済まして帰ってくることに皮肉な言葉を残してくれるだけで、特に危害を加えようともしなかったが、二つの鐘を鳴らした直後に姿を消した。蛇の吐息が臭いと口にしていたがそれは恥ずかしさを隠すための文句であろう。

 心折れた騎士は小ロンド遺跡で亡者となり英雄に襲い掛かった。

 英雄は彼を殺し、持ち物を奪った。ひとたび亡者となればバケモノと何ら変わりない。心に残ったのは無情感と虚無感だけであった。

 

 金色の騎士に出会った。

 彼は不気味で、まるで暗殺者のような気配を孕んでいたが、竜の学院の上層部の人間らと同じ感覚を宿していたので、かの英雄にとってはさほどおかしなものではなかった。なぜ巡礼の道を辿るのかと尋ねたが彼は答えず、明日の身もわからないのだからなれ合いは止めておこうと言われた。

 のちに金色の騎士は、祭祀場の火防女を殺害した。英雄は騎士を追い詰め殺した。楽しみも嬉しさもなかった。

 運命的な女神の抱擁を模った鎧だけが地面に光っていた。

 

 狐のようにずる賢い男にだまされた英雄は、彼を追い詰めた。

 命乞いする彼を非情にも殺害せんとしたが人間性をくれたので、止めておいた。

 次はないぞと脅すと、彼はにんまりと笑った。

 

 太陽の騎士を自称する男と出会った。

 陰気な人間ばかりのヴィンハイムではありえぬほどに明るく朗らかな男であった。太陽になりたいのだと大真面目に語られたときは、果たして気が狂ったのかと疑いを持つほどに、男は底抜けに明るかった。

 そんな彼も、いつしか本当に狂ってしまった。

 ―――俺が太陽だ!

 偽物どころか、ただ輝くだけの虫を頭に被って襲い掛かってきたのである。英雄はやむを得ず応戦した。そして殺した。太陽とはなんだったのかの答えを知ったのか、知らずに絶望したのか、もはや聞きようがない。灰となり消滅する男を尻目に、英雄は先を急いだ。逃げるように。

 

 ビックハット・ローガンに出会った。

 彼はやはりシースの神秘を知るために旅に出たのだという。シースの座す城はロードランにあるのだから。今は失われた知識の坩堝があるであろうと。

 ローガンの知識は素晴らしく、英雄を軽く凌駕していた。英雄は彼に教えを乞うた。もとより人間嫌いで知られるローガンだが、久しく誰とも話していないのと、救出してもらった恩が影響したか、気さくに教えを振るってくれた。

 だが、彼もおかしくなり始めた。シースの城へやってきてから彼は何らかの事実を知ったもしくは、学んだらしく、英雄と会話が通じなくなっていたのである。

 英雄は、数十回数百回の挑戦ののち、シースを下した。永遠を象徴する結晶を砕き力を奪ったのちに、尾を斬り、魔術により葬り去ったのだ。

 探検を進めると、ローガンが半裸となり正気を失って佇んでいた。死闘の末ローガンを殺害した英雄は、ローガンが何を見てしまったのかに興味を抱いたが、止めた。知らなくてもいい真実など、道端にだって転がっているくらいなのだから。

 

 不死となり国を出たという、タマネギ型の鎧を着た騎士と出会った。

 冒険を進めるうちに騎士の娘がやってきた。父を捜しに来たと。

 そして、混沌の廃都イザリスで引くことも進むこともできなくなっていた騎士を救出した英雄は、またしばらくののち、太古の竜が生息するという湖で二人に出会った。

 父の亡骸のそばには、剣を背負った娘。

 カタリナの騎士は娘によって討たれたのだ。

 娘は、もはや私には必要のないものだとして貴重な原盤を英雄に手渡した。

 英雄はすすり泣きを背にその場を去った。

 

 白教を信じる修道女も、死んだ。

従者を名乗る男の裏切りにより命を落としてしまったのだ。裏切り者を下した英雄の手はなかば作業染みていた。

 

 沼地には、かつて魔女に仕えていたという美しき女性がいた。彼女は病人を救うために身をささげ、その視力を失っていた。遠い昔にイザリスの魔女が作り上げた出来損ないの火の暴走のせいか否か、下半身が異形と変わっていたにも拘らず、他人のために命をささげていたのである。その姉は、妹のために人間性を奪っていた。

 英雄は世界を救うため、クラーグを殺害した。事実を知ったのはのちのことであった。激しい罪悪感。正義のために、必要な犠牲は許されるのだろうか? 果たして正義とはなんなのだろうか? 大昔から哲学者が頭を悩ませて、ついに答えが出なかった命題に、英雄の心は確実に蝕まれていた。

 

 

 ―――世界とは悲劇なのか?

 英雄はロードランで出会った人々について思い返していた。

 

 

 深淵で邂逅した蛇は言った。

 王のソウルを持つものは既に役割を終えており世界には不要な存在である。殺しても罪悪感を覚える必要などないのだと。

 英雄は、蛇に頷いた。

 よろしい。蛇は言う。

 王のソウルを、王の器に捧げよ、と。

 

 

 そして英雄は、燃え殻の王グウィンの棺へとたどり着いた。

 かつて最初の火がともった原初の場所であり、世界の光の根源を象徴する核である。

 辛うじて薪の役割を担っているグウィンを葬り、火が消えるのを待てば、闇の時代がやってくる。目標はただ一つ、グウィンの首である。

 道中を塞ぐのは、かつてグウィンが火継ぎに出かけた際に、彼を追った忠実なる騎士である。騎士は再び熾った火によって焼けただれた鎧を着込んでいたが、その戦闘能力は健在であり、英雄の行く手を阻んだ。

 

 質量を乗せた突きが鳩尾を貫通する。黒ずんだ重量感のある剣が布を裂き、肉を割った。血がどっと吹き出る。更に腕力に任せて黒騎士が剣を振るい、英雄の肉体を灰の上に投げやった。

 大威力の巨剣が振り下ろされるや、脳天から首そして胸まで侵入した。脳漿が血液と混じり合い奔流となりて上方に噴水となり、肉片が大地に散らばった。顔のあった場所には、左右に分かれた肉と骨。英雄の眼球は何も映していない。刹那、黒騎士が容赦なく腹部に蹴りを入れ、その内臓を粉々にした。

 混沌から生まれた悪魔を相手取るに相応しい力を秘めた一撃が、斧に乗って空間を横に叩き斬る。英雄がとっさに翳した剣ごと破壊し、その首を一刀両断。首が半ばから千切れ、頭が大地を転がった。肉体は支えを失ったマリオネットのように崩れ落ちた。

 大地を掠め、上方へと抜ける突きが英雄の胸を捉えた。斧槍の切っ先が心臓を的確に捉え、破壊していた。続く、引きからの薙ぎが上半身を酷く痛めつけ、灰まみれの大地へと叩き付けていた。とどめと言わんばかりに黒騎士が英雄の体を蹴ると、まるで鞠のように二度三度転がった。

 元は魔術師である英雄に、剣術などの近接格闘の術は乏しい。だが強力なはずの魔術でさえ黒騎士を怯ませるには威力が足りない。まるで痛みなど感じないかのように寄ってきて攻撃を繰り出してくる巨体がいかに恐ろしいか。他のバケモノでさえ揺るがした一撃は、あろうことか時に躱され、時に受け止められる。

 それもそのはず。グウィンに仕えた騎士はどれもつわもの揃い。竜狩りなどを筆頭にする無双の戦士だらけである。グウィンの槍に例えられるローガンの一撃でさえ、騎士たちは怯むことがない。死ぬことを恐れぬ、戦うためだけの存在なのだから、恐れるという概念自体が無いのである。

 何度死んだのか、英雄にはわからなくなっていた。

 ひたすら減り続ける人間性に神経がすり減っていった。それだけである。

 そして、やっとの思いでグウィンへとたどり着いた英雄だったが、そこでも何度も殺された。刺され、蹴られ、焼かれ、潰され、おろされ、粉々にされたのだ。

 

 英雄が空間に浮かべたソウルの球体が、青白い痕跡を引き連れながら、グウィンの身を袋叩きにする。すかさず意識を切り替え、空間に矢を浮かべ、放つ。

 グウィンはそれを横に飛び退くことで躱したが、続く第三撃に対処することはできなかった。

 英雄が放った、結晶の槍が、胴体を貫通する。グウィンの動きが止まった。手からつい今しがたまで燃え盛っていた剣が落ち、灰となっていく。

 グウィンの生気のない顔が、崩れていった。肉体も、服さえも、灰となって消えていく。燃え殻とは燃え尽きてしまった灰である。灰は、灰に還るのだ。

 英雄は見た、目があるべき場所に無い落ちくぼんだ黒い空間が、光を失うのを。

 最初の火は今まさに燃え尽きようとしていた。伝承にはその火は美しくとてつもなく大きいとされていたが、薪に刺さった剣の根元で、燻るだけの存在でしかなかった。天空で輝く太陽の本質が燃え殻であり、光とは拳よりも小さい範囲で断末魔の煙を上げる熱でしかない。

 英雄は、火に背を向けた。

 最初の火は燃え殻さえも失って、急速に終焉へと向かっていった。差異をもたらした力は最後に小さな悲鳴を上げると、ふっつりと消えてしまった。

 

 棺の扉を潜った英雄を待ち受けていたのは、蛇たちだった。

 竜の出来損ない。知識を与えるもの。正統なる時代をもたらすために働く存在。

 数は、もはや数えきれない。

 蛇たちは順々に頭を垂れると、配下になることを口々に誓った。

 英雄は、一歩を踏み出すと、王の器のある地点から下るべく、階段を踏みしめた。

 世界から急速に光が失われていくのを肌で感じていた。やがて世界は闇に落ちるだろう。光は失われる。だがそれでいいのだ。人間性、すなわちダークソウルが人々を満たせば、人は生死という概念さえ超越した生命体へと生まれ変わる。最初の火より見出されたそれは、間違いなく王のソウルである。

 そして闇の時代をもたらした英雄は、もう一つの名前を得たのだ。

 

 ―――闇の王と。

 

 太陽の光の王グウィンに比肩する強大なるものの誕生である。

 




俺の太陽よう……


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