友情とパワー(火力)が足りなかった事に気付きました。
もしも、その時わっしーとそのっちに不思議な事が起こったら。
という事で、勇者わっしーと勇者そのっちにスポットを当てた短編を少々。
もしも、その時わっしーとそのっちに不思議な事が起こったら。
前作『例えばこんなミノさん』で、何かが足りないと思ったブロx。
友情とパワー(火力)が足りなかった事に気付きました。
わすゆとゆゆゆを汚すな。ネタバレやめろ。そう思われる方はブラウザバックをお願いします。
この作品は妄想で出来ております。
―例えばこんなわっしーとそのっち―
―――我らの天敵。我らが御役目。
―――私達の親友。私達は勇者。
勇者の成すべき事はただ一つ。皆を守る事。
我らの敵を、すべて根絶やしにして。
「わっしー……。動けそう?」
「―――動くわ。 動、けるわよッ」
全くと言っていいほど動かないこの身体に鞭を打つ。
私は御役目を果たす。この国を守る。家族を守り抜く。
裂帛の気合だけが、全身を奮わせていた。
「わたしも、身体が全然動かないや~…。 ッッーーー!!!!」
敵を撃退する。神樹様を守る。この場所を守り抜く。
どんな犠牲を払ってでも。
親友を失ってでも。
「―――違う。………違うッ!」
「―――違うんだよ~。 違、うんだよッッ!」
友達を守りたい。
独りで闘っている私達の親友を、助け出したい。たとえ世界中敵に回しても。
・・・そう思えるくらいには、今の私達は冷静だ。
「ミノさんはトラブルメイカーだからね~…!
そのミノさんが『またね』だって。 また逢えた時は、決まってどこかしら怪我してるんだよ」
「そうよそのっち。だからこそ、友達の私達が、銀の傍にいてあげなきゃいけないの!」
―――だから動け。動くんだ。動くのよ。
私達を海に叩き落として、あんな今生の別れみたいな笑えない挨拶をする親友に一発キツいのをお見舞いしなきゃ。
「どうかッ!!! この伊豫之二名州を守護せし神樹様!どうか我らの友を救い、我らが敵を打ち倒す為の力をッ!!!」
「神樹様、並びにご先祖様ッ!!! 私達の親友を、どうか救い出す為の力をッ!!!」
叫び、無心の叫び。
勇気を振り絞り、この地を守りし神と、この地を守ってきたご先祖様に願い奉る。人はどうしようもない時、にっちもさっちも行かない時、大願成就を何かに祈る。
それは自分であったり、他人であったり、神仏であったり、天地自然であったり。
「この身この魂、全て擲とうとも惜しくない人が居りますッ!私の親友なのですッ!!」
足に万人力を込める。
「ずっと考えておりました。 何故この時代に生まれ、何故この瞬間に生きて、
何故こんな痛くて険しい道のりに立っているのだろうかと。……神樹様に選ばれたから。
でも!それだけじゃあなかった…!!!」
歯を食いしばり、万人力を拳に込める。
・・・・・理由を探していた。
自分以外の何かによって決められた理由じゃなく、自分がこうだと決められる理由を。
『―――もうアタシ達、ダチコーだよね』
あの人の笑顔が忘れられない。
「私は守るんだ!一緒に、帰るんだ!!!」
「銀と、そのっちと、私とでッ!!!」
意志に反して、全く動かない自分の身体。
奥歯が欠けそうだ。速く動きすぎて心臓が鼓動を止めそうだ。
脳が血管ごと神経ごと、焼き切れそうだ。
「――――」
「――――」
率直に言えば。
人間という物は、何でも最初は勢いが良い生き物。
諦めて堪るか。死んで堪るか。負けてなるものか。思考を止めるな。
そう考えて。
終に行き着く、この発想。
「――――」
「――――」
身体中の血の気が失せて、あるいは沸騰しきって、氷点下へ。
マイナスへ、墜ちる。
「そのっち。―――銀なら、何とかなるんじゃないのかな」
「ミノさんなら大丈夫だよわっしー」
楽観と、停止という発想へ。
「身体は神樹様の御力で徐々に回復していってる……。あと少しで動けるようになるわ、私達」
「そうしたらミノさんと合流しよう~。大丈夫大丈夫、あのミノさんだよ~?」
気付いてはいるのだ。
この場所このタイミングで、こんな発想は間違ってると。
しかし五体は。 今はこの発想が最も良いと、最善だと命を下している。
従っていれば苦痛はさほど無い。
肉体と精神を休ませ、己を次に生かす。
更なる大きな飛躍の為。 今よりも、もっともっと大事な時の為に。
「…星が綺麗ね、そのっち」
「…樹海化してるのに、お空の星は相変わらず綺麗だね~」
輝く大きな一番星。
今よりももっと子供の時分から、ずっと天にある香香やかしい黄金の星。
―――欲を言えば、三人で星見をしたかった。月見だって花見だって。
―――真っ直ぐに、こちらを照らしているあのお星様。
・・・銀なら。
・・・ミノさんなら。
あの星を見て、なんて言うかな。
「―――…そうね」
「―――…そうだね~」
足の筋繊維が切れた。
奥歯が欠けた。拳の甲の血管が音を立てて割れた。
・・・・・だから?
「答えを聞きに往きましょう」
「突っ走ろうか~、ミノさんの元まで」
答えはきっと。
この道の先で待っている。
「燧灘 はるかに秋の 沖はれて みをわかれたり 紺青と白」
「熟田津に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな」
これこそが。
人間様の気合ってやつを示しに往こう。私達の愛する、大事な親友に。
―――もう二度と戻って来れないこの旅路。一句読むのは常識だ。
◇
修羅がいた。
「……ダチコーの為に」
羅刹がいた。
「……四国の為に」
勇者がいた。
「……家族の、弟の未来の為に!」
二振りの斧を振るい続ける、赤とも燈とも見て取れる女性。
三ノ輪銀は、断崖に立っていた。
心身ともに。
「―――化け物には分からないだろう」
天地が、空間が重く響くように声を出す。
すなわち咆哮。
「この力。――――これこそが、人間様の、」
三ノ輪銀にしか出来ない事柄。
勇者として、自分の大切なものを守るという、自分だけの闘う理由。
『将来の夢は学者がいいかしら。大赦で働きながら、だけど』
『私は小説とか書いてみたいかな~。 ミノさんは?』
『アタシは……。』
『どうしたの?銀。 そこまで言ったんだから先を言いなさいよ』
『……特に何も無いから、お嫁さんとか…。あ~ッ!!恥ずかしい!!!』
『恥ずかしくないわよ、素敵じゃない。…ね?そのっち』
『可愛いよ~、ミノさん可愛いよ~!!!』
今もほら、湧いてくる。
「気合と、根性と。 魂ってやつよ―――ッッッ!!!!!」
四国はこの勇者三ノ輪銀が守る。
―――だからまたね。 須美、園子。 生まれ変わったら、また逢おう。
襲い掛かって来る三体のバーテックスを見据え。
三ノ輪銀はそのうちの一体が、今。
激しく赤く燃え上がるのを、眼に焼き付けた。
「………え? は、な、何事!?」
古来。この国には、防人(さきもり)という役職があった。
選ばれたという理由だけで、自費で、見知らぬ遠い異国まで赴き国防の任にあたる。
そして三年間、故郷には帰れない。
愛する者には、十中八九二度と逢えない。
・・・彼らは初代勇者と言えるのではないだろうか。
「勇者たる者!! 憂国の意志を胸に秘め、己が命を賭けて国防に当たるべし!
…されど、命を無闇に散華する事無かれッ!!!」
「ゆえに散華させるは、我らが敵のみなり~ッッ!!!」
絵本で見た事のある、ヨーロッパという地方にあったとされる大きなお城。
その城の尖塔のような大きさの剛槍が、2体目のバーテックスを叩き潰した。
彼女が握る槍の柄はごく普通の大きさ、形状だが、
敵に命中する部位周辺だけが巨大化している。
それはまるで、断罪が如き神鉄の槍撃だった。
「…え?園子?」
「違うよ~?今の私は乃木園子などといういたいけな少女じゃないよ~?」
「その槍からしてナリからしてどう見ても園子だろ!?
…待てよ?てことは、そっちの仮面かぶった変なのは須美か!!?」
「…違うわ。今の私は鷲尾須美などという可憐な小娘じゃあ無い。
―――私はッ!!」
「私は~ッ!!!」
大切な貴女を助け出し、この友情の為に胸を張る。
「 私は四国を守る防人。そして、貴女の親友 」
矢を番えていない弓を引き絞り、剛槍を引き構える。
勇者達。
「………前々から突っ走る気質があるとは思ってたけど、まさか二人がそこまでいくとは思わなかったよ…」
「つもる話は後で。 今は貴女を助け、現状を打破する事が肝要ッ!」
「お~~ッッ!!!」
目を閉じ、更に更に弦を引き絞る。
「この世であなたに勝る勇者などいない。 勇者にこそ、生命の杯はあわだち溢れる。
銀の角笛の響きを聞き、碧の園に身を横たえ、藪を抜け、鷲を飛び越え、敵を追う。
衛り継ぐ喜び。 勇者の憧憬れ―――!」
瞬間、三ノ輪銀は理解した。
矢は番えられていないのではなく、その必要が無かったのだと。
鷲尾須美の背部に、とある艦砲が顕現する。
曰く、主武装・四十五口径三年式四十一糎砲。
曰く、45口径41センチ連装砲。
曰く、戦艦長門。旧世紀の我が国が誇る戦艦よ。
「 絶大火砲・防人の海神 」
番えられた紅蓮の矢が、放たれた。
「―――ここから出て往け。いなくなれ」
「―――三人でゆっくり、星見も出来ないでしょう〜?」
【 天地の いずれの神を 祈らばか うつくし君に また言とはむ 】
紅蓮の艦砲射撃と神鉄の剛鎗が、彼女等の天敵を一匹残らず呑み干した。
◇
我らの敵の撃退は、無事に成功した。
少々火力が強すぎた感は否めないが、聞けば旧世紀には80センチもの極大火砲があったというのだから、私のはまだマシだろう。
「……三体のバーテックスどもが、塵芥。 もうなんて言えば良いのか分からないよ、二人とも」
銀が呆れ顔で口にする。
でも、その口元が震えている事に私達は気づいていた。
「こう言えばいいじゃないの、銀」
「こういう時はこう言うんだよ~?ミノさん」
握った拳の親指を天に向けて、私と園子は、
「また会ったわね、…親友」
「また会ったね~、…ミノさん」
逢えて良かった。
もう二度と会えないのかと思った。・・・思っていた。
両の腕で互いを抱きしめる。
私達三人は勇者だ。 だけど、今この時の落涙だけは許してほしい。
「また………、」
「…うん?」
「なに? ミノさん」
「またダチコーに出会えて、良かった」
樹海化がとけ、依然大きな一番星が照り輝く中。
私達は、握り拳を空に掲げた。
【 君がため 数多の津々の わきばらで 尽きぬ香々やき 天津甕星 】