学生の放課後というものは学校の一日の終わりを告げ、生徒にとっての自由時間。勉強の事を傍に置いて部活に励むもよし、図書室などでさらに勉強するも良し。しかし、大半の学生は寄り道をするだろう。話題の喫茶店に寄ってみたい、新しくできたレストランを試してみたい、もしくは最寄りのファストフードで友達とひたすら駄弁りたい、お店も目的も様々である。
そしてそれは忍学生である飛鳥達も同じだ。学園のどこかにある隠し部屋にて少女たちは普通の高校生と変わらない光景を広げている。
「……あの、皆さん どうしたんです?」
自主訓練を終えた斑鳩が居間へ戻ると何やら騒がしいと気づく。見てみるとそこには飛鳥、葛城、柳生、雲雀の4人が言い争っている。
「大体、葛ねぇは普段からラーメン食べてるんだからこういう時くらい譲ってくれてもいいじゃない!」
「何おう?! 飛鳥だって太巻きに拘りすぎだろ! それに柳生、スルメはないだろスルメは」
「スルメをバカにするな。さっきから聞いていればスルメはないとは聞き捨てならないな。スルメの素晴らしさを知るためにも食べに行こうとオレは提案している」
「もう!みんな落ち着こうよ〜。ここは間を取って甘いモノにしようよ!」
内容からして食べ物の話である事は分かるがそれ以上はさっぱりだ。喧嘩を迅速に止めるためにも何としても冷静に話し合わなければ…。
「…皆さん、何故喧嘩しているのかと聞いているのですが」
わーわー…………
……冷静に
「…皆さん」
あーだこーだ………
…………冷静に
「…………」
ギャーギャー…………
………ブチッ
______しばらくお待ちください_____
「なるほど……、そういう事でしたか」
飛、葛、柳、雲「(((((;゚Д゚)))))))」
状況を把握できた斑鳩に対し、飛鳥達4人は居間の隅で固まって怯えている。喧嘩が白熱し過ぎて斑鳩に気づかなかった4人は彼女の逆鱗に触れてしまったのだ。かくいう柳生とて後ろに雲雀を庇っているがその膝は面白いくらいに笑っている。
とはいえ斑鳩は大声で怒鳴った訳ではない。やったことといえば居間のちゃぶ台に手を叩け付けて皆の注目を集めただけ。ただし、叩きつけた時の音が凄まじく、まるで耳元で炸裂音が轟いたかのようだったのだ。
その様は喚く患者を銃声で黙らせるある看護師を彷彿とさせる。………誰のことか想像できたそこの貴方、今すぐ忘れた方がいい。余計な者を呼び寄せる前に。
それはさておき、轟音で注意を引かれた飛鳥達は一斉に斑鳩の方へ視線を向けた瞬間、彼女達は見てしまった。そこにいたのは鬼だった、修羅だった、羅刹と表現しても足りない。とにかく、それほどの怒気と迫力を背負った斑鳩に萎縮してしまった。
好戦的な者が目の当たりにしても一気に戦意を根こそぎ奪われ、降参するだろう。そんな中で飛鳥が一足早く立ち直り、斑鳩に状況説明をしたのだ。
「それで皆さんがそれぞれ食べたいものが別れてしまって口論に至ったと」
「うん、皆お互いに譲れないくらい食べたくてつい…」
こうなって来ると誰かが折れない限り平行線のまま。かと言って1人のために残りの3人に譲るよう説得するのも少し酷というもの。
責任感が人一倍強い斑鳩は何とか4人に納得できる形で解決出来ないか思案を巡らせる。
「(個別にお店に行っても時間がかかるだけ…、けれど話に上がった4つを出してるレストランも聞いたことはありません)」
ファミレスですらラーメンを出してる所は大分分かれているのだ。その上、スルメと来ればもはやお手上げである。
「(そうなると…、自作するしかないでしょうか?)」
ある意味では現実的な案である。どこもその4品がないというなら自分で作ればいい。ならばと創作料理を披露しようかと提案したその時…。
「あ、そうだ! あったよ!! 皆の食べたいものが出せる場所」
飛鳥の言葉に全員は驚いたが次の瞬間には懐疑的になる。
「そんな店があるのか? アタイが知ってる中でもラーメンやってるファミレスは限られてるぞ?」
そんな都合のいいファミレスに心当たりはないと進言する葛城。しかしそれでもな飛鳥は明るくなった表情を崩す事なく答える。
「ううん、あるよ! とっておきの場所が」
________________
「…それで俺に白羽の矢が立ったって訳か」
校門前で5人と合流し、お互いに自己紹介を済ませた士郎。飛鳥が妙案を開示した直後、自分の教室へと向かって士郎に頼み込んだのだ。…創作料理に挑戦出来なかったことに少ししょんぼりする斑鳩もいたが。
特に用事のない士郎はこれを快諾して今に至る。
「それにしても驚きました、まさかあの喫茶店"カルデア"で働いてるなんて」
喫茶カルデア。3年ほど前に冬木でオープンした小さめなカフェだが、こじんまりとした雰囲気に反して市内でも高く評価されている人気店だ。コーヒー、紅茶、料理、スイーツに至るまで全てのクォリティが非常に高く、雑誌にも取り上げられている。何せわざわざ市外からも人が押し寄せるほどだ。
ただ不思議なことに限られた時間にしか営業しておらず1年前から閉店状態だったのだ。
「カルデアって言ったらスイーツが大人気の名店だからすっごい楽しみ〜! あ、ってことはついにオープンするんですか?」
目をこれ以上ないくらい輝かせながら雲雀は問いかける。
「いや、近々再オープンする予定ではあるけど今はまだ開店前だな。だけど5人分の料理を用意するくらいなら大丈夫だ」
「ごめんね、士郎くん。無理を言っちゃって」
「気にするな、ただ流石に食材がロクに揃ってないから買い出しからしなきゃいけないけどいいか?」
調理器具などは揃えているものの、買出しがまだだったため食材がほとんどない状態。故に士郎は下校のついでに買い物の提案をする。
「ええ、もちろん構いません」
「それじゃあ今の内にご注文を伺っても?」
食材特定のため、5人のオーダーを確認する士郎。すかさず少女たちは答える。
「わたしは太巻き!」
「アタイは当然、ラーメンだな」
「スルメイカを使った一品を頼む」
「オススメのスイーツをお願いします!」
一人一人の注文を受けてどの食材をどこの店で買うか思考する。そんな中まだ斑鳩のオーダーを受けてないことに気づく。
「鳳凰院先輩は何にしますか?」
「あ、いえ 私はお任せします。何かオススメでもあれば…」
どこか遠慮しているようにも見える 斑鳩。それも無理のない話である。斑鳩は懐石料理が好物であり、いくら人気のある店でも流石に用意出来ない。しかし、そんな斑鳩をじっと見ていた士郎はしばしの間考え込み…。
「ふむ……、"分かりました"。じゃあ早速行きましょうか」
商店街にて____
「では、その頃から飛鳥さんと知り合っていたんですね」
「そうですね、もう長い付き合いになります」
雑談交じりに歩く士郎と斑鳩。商店街に着いた一行は固まって買いに行くより2人1組で分かれて材料を買い、また合流してからカルデアへ向かう方針で可決された。
決まったところでどうペアに分かれようかと思案したところで葛城がジャンケンで決めようと提案した。結果、士郎と斑鳩、飛鳥と葛城、柳生と雲雀のペアに分かれた。
……士郎とペアになれなかった飛鳥が少し残念そうにしていたのはご愛嬌。
「ですが、よろしかったんですか?。リストを見る限り衛宮君の方が量が多いのですが…」
リストを配るために書いた時、士郎は自分の分を多めに書いたのだ。その代わりとして他の2組は少なめであり、運ぶに苦労はしないだろう。
「元々こっちがやらなきゃならない事だったし、それにこっちのリストには仕込みや隠し味に使うものが多いので」
「それでもやっぱり申し訳ないです。ただでさえ無理を聞いてもらってるのに…」
なかなか遠慮の姿勢を崩さない斑鳩にどうしたものかと考える。
「うーん、…でしたら店の宣伝をお願いできますか? 再オープンに関する広告などは特にないもので」
「そんなことでいいのですか?」
「はい、何かと人伝の方が効果が高いですからね。だからどうか気にしないでください」
少し硬い空気を何とか緩和しようと努める士郎。対価を出されたことで遠慮気味の斑鳩はようやくその姿勢を解く。
「分かりました。それではよろしくお願いしますね、衛宮君」
「こちらこそ 今後ともご贔屓に、鳳凰院先輩」
士郎の言葉に考え込む斑鳩。どうかしたのかと聞こうとしたその時…。
「衛宮君、できれば私のことは苗字ではなく名前で呼んでくれませんか?」
「名前を? いいんですか?」
「ええ、飛鳥さんの馴染みの上にここまで良くしてくれたのですから十分信頼に値します」
お淑やかな笑みでそう答える斑鳩に士郎は綺麗だな、と思いながら顔に出さずに返事を返す。
「分かりました、斑鳩先輩」
「あ、先輩と敬語も抜きでお願いしますね」
「………了解した、斑鳩さん。 それだったら俺のことも士郎でいいよ」
せめてさん付けくらいは勘弁してくれるだろうと悪あがきをする。…哀れ、士郎。押しの強い女性に勝てた試しがない。
「ではそう呼ばせてもらいますね、士郎さん」
再び淑女の笑みを見せる。心なしか先ほどの笑顔よりうれしそうであった。
士郎side
目的の品が担当区画の端と端にあるため斑鳩さんとさらに二手に分かれて買出しをする。
「おう! シロ坊じゃねえか」
「お久しぶりです」
行きつけの魚屋で目的の品を物色する。的確に鮮度と品質が高いものを選んでいく。
「いや〜相変わらずお目が高いな、シロ坊。歴戦の主婦でもそこまで素早く鮮度のいい魚を選べねえ」
「まあ、自炊生活に慣れてくると自然にできるようになっただけですよ」
…食材の品質を見極めるためだけに解析魔術を使ってるなんて口が裂けても言えないな。
「にしてもでけえ荷物だな。もしかして店用か?」
「ええ、最小限の仕込み用ですが」
「ってぇことは久々にオープンか。ウチの娘が喜ぶぜ!」
「ぜひ娘さんも連れてお越しください」
買出しが完了し、斑鳩さんと合流しようかと思ったその時。
「む…、これは、結界か?」
突如感じる違和感。それも斑鳩さんが向かった方角からだ。まるで絵画の一部分がごっそりくり抜かれたかのように商店街の一角が不自然だ。
おそらくこれは忍結界。忍術によって構成されたものでこちらでいうところの人払いの結界に近い。現に結界の外にいる一般人がその姿勢一角を避けるように通っている。
まあ、視覚を強化すれば視えないこともないが。
見た所、斑鳩さんがスケ番みたいな不良たちと争ってるようだ。とはいえ片や素人、もう片や修業中ながらも立派な忍。勝敗は見るまでもなく斑鳩さんの圧勝で終わるだろう。
と、様子を見ていた所にトラブルが発生する。
「(あれは…!)」
斑鳩さんが蹴り飛ばした不良の1人が安全地帯に置いた食材目掛けて飛んでいる。このままではせっかくの材料が無駄になってしまう。斑鳩さんも気づいたようだがもう間に合わない。
「(仕方ない…)」
幸い様子見のため荷物は置いている。なら…。
設計図を浮かべると同時に右手を振る。投影するは何の変哲も無いナイフ。カルデアでアサシン達から学んだ隠形術を応用した無音投射を行使する。ナイフは外れることなく不良の制服、その肩辺りに命中して壁へと縫い付ける。
本来ならナイフ程度でこの様な威力は出せない。しかし、徹甲作用を重ねることで可能にしたのだ。そして周りは気づいた様子がないことから無音投射は成功したと確認。
「さて、あとは何食わぬ顔で合流するだけだな」
あともう一仕事だな。
士郎side out
喫茶カルデアにて____
「どうぞ、待ってる間にこれでも飲んでくれ」
紅茶を淹れた士郎は5人に振る舞うとそのまま厨房へと向かう。
「見た所、料理人の方がまだ来ていないようですが…もしかして士郎さんが調理するのですか?」
斑鳩たちはてっきり士郎が直接コックに頼み込むかと思っていたため、少し驚く。
「あれ? 言ってなかったっけ? カルデアの料理人は元々士郎くん1人だよ?」
飛鳥の言葉に今度は大きく仰天する4人。誰が想像できるだろうか? 市街で一二を争う人気店のコックがまだ学生の青年だと。
30分後____
「「美味しい!」」「「美味い!!」」
料理が運ばれ、いざ実食。最初の一口を食べた瞬間に先の言葉が出たのだ。
飛鳥には慣れ親しんだ味にもう一工夫加えた太巻き、葛城には衛宮印特製ラーメン、柳生はスルメイカを丁寧に下処理した天ぷら、そして雲雀は一見シンプルなバニラスポンジと生クリームのケーキだがその上にはプリンのような層が乗っている。
4人が料理に舌太鼓を打ってるなか斑鳩の料理だけがまだ来ていない。士郎曰くあとは仕上げだけだからすぐ持ってくるとのこと。そして1分もしないうちに…。
「お待たせしました、こちらをどうぞ」
仕事時の物腰で士郎が持って来たのはなんと懐石料理……とまではいかないものの1つの善の上に色とりどりのおかずが入った複数の小鉢がある。手の込んだものから家庭料理まで士郎が現時点で用意できるバラエティに富んだ品である。
4品の料理を並行して作るだけでも無茶だというのにどうやってこんな手間暇掛けたものが作れるのやら…。聞いてもおそらく「このぐらい出来ないで何が執事(バトラー)か」としか答えないだろうが…。
「士郎さん…これは」
驚いた様子の斑鳩が士郎に視線を向ける。
「何となく斑鳩さんは和食が好きなんじゃないかと予想してな。ただ和食の何がいいかまでは分からないからコレを用意してみた。幕の内定食、みたいなものだと思ってくれ」
「冷めないうちに食べてみてくれ」と促されて斑鳩は箸を手に取る。優雅に流れる動作で小鉢を持って一口食べる。じっくりと噛みしめるように咀嚼。そして飲み込んだ後に士郎へと顔を向け…
「とても美味しいです」
本日見た中で最高の笑顔を見せた。その表情はまさしく花開いたと表現するべきだろう。
「それは良かった」
士郎もまた笑顔で返す。人の笑顔が自分の料理にもたらされたと思うとやはり嬉しいものである。
斑鳩side
衛宮士郎さん。飛鳥さんの幼馴染で同じ学園に通う後輩。恥ずかしながらあまり男性と接した事はないのでどのような方か気になりましたが、なるほど 飛鳥さんが自慢するわけですね。
物腰は丁寧で礼節も弁えている。懐の広さも中々のようで柳生さんが苗字とはいえ呼び捨てしたことをさして気にしてはいませんでした。
何より驚きなのはその料理の腕前。4つの異なる料理を並行して作るなんて相当な腕でないと出来ません。そして私 に出してくれたあの幕の内定食、本人の言う通り本場の懐石料理ほどの豪勢さはありませんが一つ一つが丁寧に作られていて種類も様々に分けられていました。士郎さんは何となくと言っていましたが私の好物を見抜いて作ったのでしょう。
…ここまで来ると一流のシェフではないでしょうか?
おまけに紅茶を出していた時の動き、あれは間違いなく熟練されたものでした。鳳凰院家の使用人でもあのような動きは出来ません。……士郎さんって何者なのでしょう?
家名で呼ばれた時、壁があるような気がして名前で呼んで欲しいとお願いしましたが、士郎さんも快く自分も名前でいい了承してくれました。…自慢ではありませんが鳳凰財閥の名は絶大でその名を聞けば殆どの人は萎縮してしまい、一歩引いてしまいます。
でも士郎さんはこちらの要求通り、名前で呼んでくれました。飛鳥さんたち以外にも私の"名"を呼んでくれる、私の"家"ではなく"私"を見てくれる人が増えるのはやはり嬉しいものです。
願わくば末長い付き合いにしたいものですね。
……そういえば一昨日、お父様の付き添いで出席したパーティーで士郎さんと同じ髪の色をした方を見たような……、気のせいでしょうか?
以上、斑鳩編でございました。そして今回書きたかった士郎の喫茶店カルデア! やはりあそこが一番思い出深い場所だと思ったので名付けました。さぁて次は誰とのイベントを書こうかな〜(*´∀`)♪
ん? こんな所に切り傷が、いつの間に…まあ唾つけときゃいいか。
「急患ですね」
うぉ!? ナイチンゲールさん? これぐらい大丈夫ですよ。
「何が大丈夫なものですか。小さな傷でも雑菌が入れば病気に繋がります」
ちょ! その腕はそっちに曲がらな(ゴキっ) ギャアアア!!
「やはり悪化しましたね。 これはいけない! 腕ごと切断します」
待ってぇええ! 切断しちゃらめぇぇぇえええ!!
「何てこと…、こんな状態でまだ生きてるなんて! 普通なら4回も死んでるはずなのに」
だから何のこと!?
「安心なさい、例え首だけになっても貴方を救います!」
イヤァァァァあああ! やm…
____とても見せられないよ____