超速い慇懃無礼な従者   作:技巧ナイフ。

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先日、間違えてラブライブ!サンシャイン!!の方を投稿してしまい、読者の皆様を混乱させてしまいました。
本当に申し訳ございません。


第13話 魔術競技祭の思惑

「はーい、じゃあ次は『変身』の種目に出たい人ー?」

 

 システィーナの呼びかけに、しかし教室に座る誰もが反応を返さない。

 大半が気まずそうに目を晒すか、目を伏せるか。先ほどからこんな光景が続いている。

 

 1週間後に迫った魔術競技祭だが、残念ながらこの二年次生二組だけは誰が何の種目に出るかすら決まっていない。

 正直な話、原因はシスティーナ自身だったりする。

 

 例年の如くさっさと成績上位者だけで出場すればいいものを、わざわざクラスメイト全員に出番を与えようとしているのだ。

 

「ねぇ、せっかくのチャンスだしみんなで頑張ってみない?先生が『好きにしろ』って言ってくれたんだし……」

 

 今決まってるものといえば、『精神防御』のところに朝比奈信一の文字があるだけだった。

 

『精神防御』は精神汚染攻撃への対処能力を競う競技である。

 しかし、この競技は敗者脱落形式で一位のクラスにしかポイントが入らない。それに加え、ある程度のラウンドまで行くと脱落した場合3日ほど廃人になってしまう恐れがある危険な競技だ。

 

 結局例年通りになった場合、学年トップのシスティーナがこの競技に出る可能性がある。だったらそうなる前に信一が進んで出場したいと手を挙げるのは当然の帰結だった。

 それに、去年信一はこの競技に捨て駒として出場している。特に恐れる気持ちはないし、システィーナが廃人になるくらいなら自分が廃人になるくらい何とも思わない。

 それ以前に、廃人となる前のラウンドで信一は脱落する。去年は第3ラウンドで脱落した。

 

「ムダだよ、システィーナ」

 

 さすがに業を煮やしたのか、クラスの次席であるギイブルが声を上げた。

 

「今回の競技祭には女王陛下が賓客としてご尊来になるんだ。皆、負けると分かってる戦いにわざわざ負けて無様を晒したくないのさ。それに……」

 

 一度息を吐き、まっすぐシスティーナの目を見て彼は言う。

 

「足手まといにお情けの出番を与える遊びはもういいだろう?そろそろマジメにメンバーを決めようよ」

 

 それは暗に成績上位者以外を蔑ろにする発言であった。さすがにシスティーナもそれにはカチンと来て彼を睨む。

 

「ギイブル……あなた本気で言ってるの……?」

 

「そうだよ。何かおかしいかい?」

 

 対してギイブルは自分が間違っているとは微塵も思ってない様子だった。2人が無言で睨み合い、剣呑な空気が教室内を覆う。

 

 さすがにここで喧嘩が起きても面倒なので、ルミアと共に書記を務めていた信一はため息混じりに仲裁に入ることにした。

 

「ハァ……。お嬢様、落ち着いてください。ギイブルもわざわざ怒らせるような事を言わないで」

 

 しかし、2人の睨み合いは続く。なんだかんだ言って2人とも成績上位者というだけでなくプライドも高い。引くに引けないという気持ちもあるのだろう。

 それを見抜いた信一は別の方向から解決を試みることにする。

 

「皆さ、本当に今回の競技祭に出なくていいの?」

 

 信一は2人を一旦放置し、他のクラスメイトに声をかけた。

 

「さっきお嬢様が言ったことを繰り返すようだけど、せっかくグレン先生が好きにしろって言ってくれたんだしさ、出てみない?それにこれが最後のチャンスかもしれないよ?」

 

 最後のチャンス、という部分でクラスメイト達は首を傾げた。はて、競技祭は来年もあるはずだが?

 

 そんな空気がありありと見えた信一はにっこり笑う。

 

「確かに来年も競技祭はある。でも、来年までグレン先生がいるとは限らないんじゃないかな。だって……あのグレン先生だよ?」

 

「「「 あぁ…………………… 」」」

 

 非常勤講師から正式に講師となった今でも、グレンの素行が改善されたわけではない。

 先日など、3日前が給料日だったにも関わらずクラスの生徒全員に昼食をたかっていた程だ。噂に寄ると全額未来へ投資したらしい。

 ちなみに『未来へ投資』と書いて『ギャンブルでスる』と読む。

 

 そんなグレンが来年もこの学院で講師をしているだろうか?

 

 その疑問に力強く頷けるものは……悲しいかな。彼をよく知る二年次生二組にはいなかった。

 あの心優しいルミアでさえ、苦笑いを浮かべるだけで首が縦には1ミリも動かない。

 

「だからまぁ、みんな出てみてもいいんじゃない?思い出作りって意味で考えれば女王陛下の前で競技祭をしたっていうのもそれなりに立派なものだと思うよ」

 

 これが効いたらしく、クラスが少しざわめき出す。とりあえず勝ち負けは二の次と考えてくれたらしい。

 それ以外にも「そうか、先生いなくなるんだ」「短い間だったけど楽しかったなぁ」「俺、明日先生に花束買ってくる」といった、何故かグレンが今年中にクビになることは確定したような会話もチラホラ聞こえてくるが、特にそれは気にしなくていいだろう。

 

 今のところそれを否定できる材料は1つもないのだから。

 

 なんとなくシスティーナとギイブルの空気も有耶無耶になったので、一息つく。そんな時、廊下からドタドタと荒々しい足音が聞こえてきた。

 その音は自分達の教室の前で止まる。

 

 バァンッ!!

 

 大きな音を立てて教室の扉が開かれ、ちょうどクラスの中では来年いなくなることになっているグレンが姿を現した。その表情はいつになくやる気に満ち溢れている。

 

「ここは俺に任せろ!!このグレン=レーダス大先生様になッ!!」

 

「うわぁ……ややこしいのがきちゃったよ……」

 

 その小さな信一の呟きはクラスメイト全員の心を代弁していた。

 

 何がややこしいって、どう考えても先日と今で魔術競技祭へ向ける情熱が違うことだ。どう考えても何かある。

 

「白猫、競技種目のリストよこせ。言っとくが、俺がやるからには全力で勝ちに行くぞ?」

 

 リストをグレンに手渡すシスティーナも何か訝しんでいるようだ。

 

 そんな彼女達を尻目に、グレンはリストを見ながら考え込むように顎へ手を当てている。しかし、すぐに纏まったようで視線をクラス中に向けた。

 

「じゃあこの1番配点が高い『決闘戦』は白猫とギイブル、そんでカッシュ。お前ら3人が出ろ」

 

「俺!?」

 

 まさかの人選にカッシュは驚愕の声を上げるが、グレンは構わず生徒達に種目を割り振っていく。

 

「次……『暗号早解き』、これはウェンディ一択だな。『精神防御』……はルミア以外ありえんわ。んで、この『スナイピング・ダブルス』っていうのは今年の新競技か?これはそうだな……【ショック・ボルト】系統の競技だし、セシルと信一がいいだろう」

 

 淡々と決められていく出場種目にクラスメイトはざわめきすら起こさず、黙って聞いている。

 一応書記の信一とルミアは、慌てて黒板にグレンの言った通りに手分けして競技の隣へ名前を書いていった。

 

「———で最後、『変身』はリンに頼むか。よし、これで枠は埋まったな。何か質問は?」

 

 ルミアが『変身』の隣にリンの名前を書いて、その作業が終わった。

 グレンの言う通り全ての枠が埋まった黒板を見て、システィーナが目をパチクリさせる。改めて見返した信一とルミアもお互い顔を見合わせていた。

 

 少なくとも最低1回はクラスの全員が競技に参加することになっているのだ。

 

「納得いきませんわ!」

 

 黒板の様子を見て感嘆していると、1人の女子生徒がグレンの采配に異を唱えた。ツインテールの少女———ウェンディだ。

 

「どうして私が『決闘戦」の選択から漏れてるんですの!?カッシュさんより私の方が成績はよろしくってよ!?」

 

 それを聞いたカッシュはなんとも微妙な顔をしている。

 

 ウェンディの言う通りこのクラスの成績は首席がシスティーナ、、次席がギイブル、三席がウェンディとなっている。四席以降はわりとコロコロ変わるが、基本トップスリーはこの3人だ。

 

『決闘戦』はグレンも述べたように1番配点が高い。本来ならカッシュではなくウェンディを出すのがセオリーだ。にも関わらずグレンはカッシュを選んだ。それがプライドの高いウェンディにはお気に召さなかったのだろう。

 

「お前、突発的な事故に弱えし鈍臭いとこあるからなー。使える呪文は少ねーが運動能力と状況判断のいいカッシュの方が向いてると思ってな」

 

「んな……」

 

 どうやらグレンの説明はいたくウェンディのプライドを傷つけたらしい。彼女は顔を真っ赤にしてグレンを睨んでいる。

 だが、グレンの言葉には続きがあった。

 

「でもな、リード・ランゲージの腕前はこのクラスならお前は誰よりも上だ。『暗号早解き』は独断場だろ?」

 

「ま、まぁ……そういう事でしたら……」

 

 ウェンディの顔が先ほどとは別の意味で赤くなった。グレンの言葉を要約するなら、『お前が1番』と言っているようなものなので分からなくもないが、案外ウェンディは褒め言葉を添えれば簡単に説得できることがクラスに露見した瞬間である。

 

「あ、じゃあ先生。なんで俺が『決闘戦』なんだ?」

 

「ん?今言っただろ?」

 

「いや、使える呪文が少なくて運動能力と状況判断がいいって言うなら俺じゃなくて信一の方が向いてるんじゃないか?」

 

 あぁそういえば、とクラス中が不思議そうに首を傾げる。

 

 皆の頭には1ヶ月前の事件のことが思い浮かんでいるのだろう。

 信一は的確な判断と類い稀な身体能力でテロリスト1人を無力化してみせた。魔術で強化し、なおかつ武器を使ったことを差し引いてもカッシュより戦闘能力が上であることは火を見るよりも明らかだ。

 

『決闘戦』はその名の通り(いくさ)。さすがに学生同士の競い合いなので殺し合いをするわけではないが、それでも戦闘に関してはクラスの誰よりも上を行く信一が適任と考えるのは普通だろう。

 

 しかし、それもグレンはしっかりと考えていた。

 

「体術有りなら確かに信一の方がいい。だが、この『決闘戦』は魔術オンリーの戦いだ。使える呪文が少なくてもいいとは言ったが、信一はいくらなんでも少な過ぎる」

 

「うぐっ……」

 

 信一は痛いところを突かれたかのように呻く。

 

 確かにまともな一節詠唱ができるのは【ショック・ボルト】や【フラッシュ・ライト】、あとは音響魔術くらいだ。

 他の呪文も使えなくはないが、ダラダラと三節詠唱をした挙句発動しないことのほうが多い。さすがにこれでは試合にならない。

 

 それを説明し終わる頃には、信一の目が濁り切っていた。ルミアに頭をナデナデしてもらいながら慰めてもらっている。

 さすがに従者であり、家族である信一がそこまで言われたとなるとシスティーナもグレンへ非難の眼差しを向けていた。

 

 グレンは慌ててフォローを入れる。

 

「でもな、お前らは気付いてないかもしれないけど、【ショック・ボルト】に関してはこの学院の生徒で信一に勝てる奴はいない。これは断言できる」

 

 それを聞いてカッシュも思い出したかのように手を打つ。そういえば、入学当初から【ショック・ボルト】を使えたのは信一とシスティーナだけ。しかもその信一は既に一節詠唱すらできていた。

 

 当時はとんでもない天才がいたもんだ、と感心したものだ。実態はそれ以外がポンコツな劣等生だったが。

 

 しかし、グレンは信一が【ショック・ボルト】の使い方に関してクラスの誰よりも上と言ったのは別の理由がある。

 それはグレン自身も【迅雷】の術理を信一の父親であり、元同僚から聞いていたからだ。

 脳に直接打ち込む時点で、正確無比な狙いと威力の調整が要求される。それを、精神を極限まで擦り減らす戦闘中に行使できるということはすなわち、学生レベルを軽く凌駕しているという証左に充分なり得るのだ。

 

「だからわざわざできない魔術オンリーの『決闘戦』より、【ショック・ボルト】だけの競技のほうが信一の有用性は高い。それに『スナイピング・()()()()』って言うくらいだし、パートナーとのチームワークは必須だろう?俺が見た限りだが、信一とセシルは仲が良いように見える。セシルも読書で発揮している集中力は目を見張るものがあるしな」

 

 セシルの趣味は読書。信一も授業を放棄してまで本を読もうとする本好き。

 確かに2人は趣味が合うためよく話すが、それをグレンの前で見せた覚えはなかった。

 

 どうやらグレンは自分達が思っている以上に生徒達を見ているようだ。

 

 グレンの説明を受けてカッシュも納得したようだった。

 

「どうやら自分がその競技に選ばれたことがよく分かってない奴もいるみたいだし、1人1人答えていこうか」

 

 そして、グレンは宣言通り競技に選ばれた理由を1人1人丁寧に述べていく。その様を見てシスティーナは感動したようであった。

 

 しかし、またしてもそのグレンの采配に異を唱える者が現れた。ギイブルだ。

 

「やれやれ……何が全力で勝ちに行く、ですか。そんな編成で勝てるわけないでしょう」

 

 彼はゆらりと立ち上がって、呆れたように肩をすくめていた。

 

「ほう、ギイブル。そういうお前は俺が考えた以上に勝率を上げる編成ができるのか?」

 

 それに対してグレンは特に気分を害した様子はない。むしろ、そんなものがあるなら即そちらを採用してやるぜ、という気概すら見える。

 

 そんな様子にギイブルは苛立ちを隠さず吐き捨てるように言ってやる。

 

「そんなもの決まってるじゃないですか。成績上位者だけで全種目を固まるんですよ。それが毎年恒例で、他のクラスがやってることです」

 

「………………え?」

 

 グレンの動きが止まる。

 

 顔には今日1番の驚愕を貼り付けていた。まるで神の天啓を聞いたかのようにポカンとしている。

 それから顎に手を当て、数秒。何かブツブツ言ってるようなので信一がグレンの顔を覗き込むと、とんでもなく悪い顔をしていた。

 

 とりあえずその顔をシスティーナとルミアに見えないよう自分の体で隠す。

 

「うむ……そうだな。そういうことなら……」

 

「何言ってるの、ギイブル!」

 

 どんな心境の変化があったのかはわからないが、ギイブルの意見を採用しようとしたグレンの声をシスティーナが遮った。

 

「見なさいよ、この編成!皆の得手不得手をきちんと考えて、皆が活躍できるようにしてくれてるのよ!」

 

 我が意を得たり、というわけではないが、これは奇しくもシスティーナが望んでいたものと同じものだ。

 

 すなわちクラス全員で競技祭に参加する、ということ。

 

 しかも、自分では到底成し得なかった編成さえグレンは簡単にやってのけた。しかも皆をきちんと見ているとわかる形で。

 

「先生がここまでしてくれたのに、それでもまだ成績上位者で固めることにこだわるの?それで掴んだ勝利なんてなんの意味もないじゃない!

 

 クラスもシスティーナの訴えでなんとなく彼女へ追従するムードが出来上がっていた。

 グレンを信じ抜いて啖呵を切るシスティーナ。しかし、グレンの顔は反比例して真っ青に染まっていく。

 

 そして、縋るような視線をギイブルへ向けていた。声には出してないが、なんというか……顔面がギイブルを全力で応援していた。

 

 だが、そんなグレンの視線に気付くことなく彼はため息を1つ。

 

「やれやれ。相変わらずだね、システィーナ。まぁいい。それがクラスの総意だというなら、好きにすればいいさ」

 

 ギイブルがそう言った瞬間、グレンがこの世の終わりみたいな顔をしだした。

 

「ふふ……♪」

 

 それとは対照的に、システィーナは今が最高だと満面の笑みを浮かべる。

 ギイブルを言い負かしたことではなく、クラス全員で競技祭に参加できることを心から喜ぶように。

 

 そして彼女にしては珍しく、世の男どもが嫉妬に狂って身を焦がしてしまいそうなほど可愛らしい笑みをグレンに向ける。

 

「私達、精一杯頑張るから。期待しててね、先生♪」

 

「お、おぅ……任せたぞ……」

 

 今にも死んでしまいそうな顔でそんなシスティーナにサムズアップを返すグレン。

 なにやらチグハグな2人の様子に苦笑いを浮かべ、信一は隣のルミアにそっと耳打ちをする。

 

「ねぇ、ルミアさん。なんかこの2人の会話……」

 

「うん……かみ合ってないよね……?」

 

 会話の字面だけで見れば、生徒思いの良い先生と先生の期待に応えようと頑張る健気な生徒なのだが……どうにも表情がその雰囲気を完全にぶち壊していた。

 

 ……ま、お嬢様が嬉しそうだし別にいっか。

 

 

 

 

 

 

 出場種目も決まったということで、二組一同は翌日から学院の中庭で各々競技の練習をしていた。

 

「よろしくね、信一」

 

「こちらこそよろしく、セシル」

 

 今回『スナイピング・ダブルス』でパートナーとなる女顔の小柄な男子生徒———セシルと軽く拳を合わせ、信一はにっこり笑う。

 

 基本信一は学院でもシスティーナとルミアにべったりなイメージだが、実はそうでもない。

 昼食に誘われれば2人に断ってそちらに行くし、普通に談笑も交わす。クラスメイトが困っていて、その一助になれそうなら自分から声をかけて必要なら手を貸す。

 

 案外女子生徒とはシスティーナとルミア経由で早い段階から仲良くなれたが、男子生徒はそうもいかないので自分から仲良くなっていった。なので、今回セシルと組むことになっても特に気負うことはない。

 

「それにしても、僕も魔術競技祭に出れるなんてね。正直、今でも信じられない気分だよ」

 

「俺も。しかも捨て駒じゃなくて、ちゃんと勝つ為の役割なんだから。グレン先生には感謝感謝だね」

 

 その辺の適当な木に背中を預けて座るグレンに2人は視線を向けた。

 なんか昨日より痩せた気がするが、何故だろうか?

 

「ま、本当に感謝するのは競技に勝ったからだけどね。やるからには一位狙ってこう!」

 

「おぉーー!!」

 

 余談だが、信一もクラスでは小柄な部類に入る。それは人種的な問題で仕方のないことだが、加えて童顔でもある。

 

 小柄で女顔のセシルと小柄で童顔な信一。その2人が気合を入れて拳を突き上げる様はどうにも母性をくすぐるらしく、女子生徒が微笑ましいものを見るような眼差しを向けている。

 

 その眼差しに気付いた信一はセシルと共にそちらへ笑って手を振ると、黄色い声が上がった。

 

「信一×セシル!尊い!」「いや、ここはあえてセシル攻めで!」「システィーナとルミアへ対する気持ちに悶々とする信一へ、『僕が忘れさせてあげるよ』と迫るセシル!」

 

「「「 キャーーーーーーーッ!! 」」」

 

 若干腐った黄色い声も聞こえたが、聞かなかったことにする。

 

 とりあえず信一が今腐った黄色い声(腐黄色(ふおうしょく)と命名)を上げた女子生徒の本棚は燃やそうと決意した時———中庭の一部からカッシュの怒号が響いた。

 

「いい加減にしろよ、お前ら!」

 

 そちらを振り向くと、なにやら違うクラスの生徒と言い争いをしているようだった。

 ただの言い合いならともかく、既にヒートアップしていて掴みかかりかねない雰囲気だ。

 

 ここで問題を起こされると、せっかくクラス全員で出場することになった競技祭に対してペナルティが課せられるかもしれない。

 そうなれば、システィーナが悲しんでしまうと考えた信一は仲裁に入ることにする。

 

「こーら。どうしたの?」

 

 布袋から刀を二本とも取り出して、右刀でカッシュを、左刀で違うクラスの生徒の襟をそれぞれ鞘に吊るして引き離す。

 

 2人とも大柄だが、地に足が着いてなければ暴れることもできない。とりあえずはお互いを宥めてから話を聞くことにした。

 

「な、なんだよお前!?」

 

「いいからいいから。何かウチのクラスに言いたいことがあるんでしょ?話は聞くから喧嘩腰はやめてくれる?」

 

「むっ……あぁ、わかったよ」

 

 しぶしぶと言った様子で頷く生徒ににっこりと笑いかけて2人とも下ろしてやる。

 すると、さすがに生徒同士のいざこざとなると放置するわけにもいかなくなったグレンがこちらへ歩いてきた。

 

 グレンが違うクラスの生徒———一組のクライス———はどうやら練習場所を確保しにきたらしい。

 一組は例年通り、成績上位者だけで固めた少数精鋭。対して二組はクラス全員が参加するということで人数も多い。

 なので、二組は出ていけとのことだった。

 

 だがここは先生という立場でもあるグレンが、公平に練習場所を分けるということで話に決着がついた。ついたのだが……

 

「何をしている、クライス!さっさと場所を取っておけと言ったろう!まだ空かないのか!?」

 

 怒号を飛ばしながら一組の担当講師、ハーレイが口を挟んできたことで、せっかく治りかけていた騒ぎが再発した。

 彼の言い分はこうだ。

 

 成績下位者、つまり足手まといをわざわざ使って競技祭に挑むようなふざけたクラスに練習場所は必要ないという一方的なものだった。

 

 いくらなんでもあんまりな言い方に黙って聞いていた信一はムッとして一言言ってやろうと一歩前に踏み出す……が、それをグレンは抑えて代わりに言い返した。

 

「お言葉ですがね、うちのクラスはこれが最強の布陣なんすよ。やる気がない?ふっ、馬鹿言わんといてくれませんかね?無論、俺たち優勝を狙っていますよ?まぁ、せいぜい油断してウチに寝首を掻かれないことっすね」

 

 口の端を上げ、不敵に笑うグレンには言い知れない威圧感がある。

 だが、ハーレイも生徒の手前、それを悟られないように反論してきた。

 

「……く、口ではなんとでも言えるだろうな、口では。だが、お前はシスティーナやギイブルといった優秀な生徒達を遊ばせているではないか……ッ!」

 

 システィーナが優秀と、敵とはいえ講師の口から出たその言葉に信一は一瞬誇らしい気持ちになるが、ふと考え直す。

 

 システィーナの名前が出たのはいい。しかし、ルミアの名前が出ていない。確かに彼女は成績だけでみたら上位者というわけではないが、治癒系の白魔術はプロ顔負けの練度を誇る。つまり、ルミアも優秀なのだ。

 

 三席のウェンディのほうが優秀なんじゃないか? 知らん。

 

 そんな考えが頭を巡り、大人気なく売り言葉に買い言葉で言い合いをしているハーレイの肩を叩く。

 

「……ん?なんだ朝比奈」

 

「なんか若いわりに生え際が後退を始めてる可哀想……じゃなくてハーレイ先生!一言俺から物申したいことがあるんですけど!」

 

「私は今のお前の発言に物申したいのだが……?」

 

 青筋を立てているハーレイの言葉を聞こえないふりで華麗にスルーして続ける。

 

「俺達のクラスはグレン先生の言う通り最強です。どのクラスにも負けません。もちろんなんか若いわりに生え際が後退を始めてる可哀想な……もといハーレイ先生のクラスにもね」

 

「ほう、私の言葉を無視するとはいい度胸だ」

 

「でも、口だけではなんとでも言えるというのも間違っていません。だから……」

 

 バッと指を3本立ててハーレイに向ける。

 

「3ヶ月分です。()()()()()()給料3ヶ月分を、二組が優勝することに賭けます」

 

「いやちょっと待……ごふッ!?」

 

 軽く肘をグレンの鳩尾に叩き込んで黙らせる。

 信一も顔では穏やかだが怒っているのだ。ルミアを優秀と言われなくて。

 だからこそ、ルミアを優秀と認めさせる為ならグレンの給料3ヶ月分なんて安い。格安だ。特に自分達に実質的な被害がないというのが素晴らしい。

 

「どうです?もちろんこの賭け乗りますよね?だってなんか若いわりに生え際が後退を始めてる可哀想な先生にとっては二組なんて足手まといの集まりなんですものね?」

 

「貴様……ついに言い切ったな」

 

「ほら、どうなんですか?乗らなくても構いませんよ?でももし乗らなかったら明日から先生に対する生徒の評判は———どうなってるか楽しみですね?」

 

 ひまわりのような満面の笑みで笑う信一の姿はもはや悪魔であった。

 グレンにとっても、ハーレイにとっても。

 

 ここまで言われればハーレイも乗らないわけにはいかない。

 ということで、なんか競技祭とはまた別の争いが生まれた。

 

 この後、グレンが灰のように真っ白になっていたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 時間は学院の馬鹿騒ぎから数日遡る。

 場所は帝都オルランド。王宮内部の謁見の間にて。

 

 帝国宮廷魔道士団の魔道士礼服を身に纏い、一振りの刀を腰に差した男性が扉の前で握手を求めるように手を差し出す。

 

「帝国宮廷魔道士団特務分室所属、執行者ナンバー13『死神』。朝比奈零という。今回女王陛下の勅命により、護衛に参加することとなった」

 

「王室親衛隊、総隊長のゼーロス・ドラグハートだ。よろしく頼む」

 

 彼の手を握るのは初老の男性だった。しかし、気の良いお爺ちゃんとった優しい雰囲気は一切なく、鋭い眼光と服の隙間からチラチラと覗く古傷は歴戦の猛者ということを言外に知らしめてくる。

 

 王室親衛隊、総隊長ゼーロス。40年前の奉神戦争を『双紫電』の2つ名と共に駆け抜け、そして戦い抜いた本物の武人だ。

 

 この2人は謁見の間にて、女王の目の前で顔合わせをしていた。

 

 といっても女王と朝比奈零は個人的に親交があり、時間が合えば共にティータイムを興じる仲なので、親衛隊のゼーロスとも初対面ではない。

 

「まさか貴殿と共に陛下をお守りする時が来るとはな」

 

「まったくだ。いつも陛下の後ろから警戒心丸出しで、お茶の味をわからなくしてくる奴と組むとはね」

 

 お互い冗談を言っているのだが、まったくもって和やかな雰囲気はない。感情としては仕事だけのお付き合いにしたいのだろう。

 

「して、貴殿は一刀一槍の変則二刀流とバーナードから聞いていたが……槍はどうした?」

 

 本来女王陛下の前で武装をするというのは不敬罪にあたるのだが、今は護衛任務の顔合わせということで武装をして来ることになっていた。これは女王に力の象徴を見せて安心してもらうという形式的なものだ。

 

 なので自分の武器を持ってここにくることになっていたが、零は槍を持っていない。

 

 ……あのしじい、なに人の武器バラしたんだよ。

 

 零は同僚であり、またゼーロスの元戦友でもあるやんちゃ坊主のような初老の男性に心の中で恨み言を吐く。

 

「持ってきてはいる。ただ見せないだけだ」

 

「ほう……。その真意は?」

 

「『持っているのに持っていない』というのは相手に必要以上の警戒心を煽る。見せろと言わられば構わないが、必要か?」

 

「ふっ……いや、必要ない。そして合格だ」

 

「合格?」

 

「貴殿を心から信用するという意味だ。試すような真似をしてすまなかった。非礼を詫びよう」

 

「別にいい。あんたにはあんたなりに陛下を守ろうとしているに過ぎないんだからな」

 

 そこでやっと2人とも相好を崩す。このやり取りを見ていた女王にはわからないが、彼らには何か通じ合うものがあったのだろう。

 

「話は終わりましたか、2人とも」

 

「はい。時間を取らせて申し訳ございません、陛下」

 

「では、命じます」

 

 陛下は玉座から立ち上がった。それに合わせて零とゼーロスは跪く。

 

「王室親衛隊、総隊長ゼーロス。並びに『死神』の零。貴方達を此度のアルザーノ帝国魔術学院で行われる魔術競技祭の護衛に任じます。私を守る盾となり、また私を守る剣となりなさい」

 

「「 はっ!貴女の御心のままに! 」」

 

 彼らは平伏し、忠誠を示す。




はい、いかがでしたか?

家族の優秀さを示す為なら他人の金を平然と賭ける信一、わりとクズいです。
あとゼーロスさんの喋り方難しい!なんなのこのおっさん!?



今更ですけど、【迅雷】の元ネタってわかる人いるんですかね?
ヒント:電撃文庫の黒いコートを纏った二刀流の人
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