超速い慇懃無礼な従者   作:技巧ナイフ。

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はい、2巻最終話です。

やはりまとめとなると長くなっちゃいますね……。
今回はオリ主の新武器登場です。燃えますよね、新武器って!なんかもう、響きからして!!


第21話 家族の為なら国を壊せますか?

  閉会式での騒動はアリシアの巧みな話術で無事?誤魔化された。

 ゼーロスの投稿宣言を聞き、暴走していた王室親衛隊も沈静化。その場に居合わせた者達に不安や動揺が走ったが、それもじき落ち着くことだろう。

 

  そして閉会式から1時間が経った今、信一とルミアは学院内にある迷いの森へと向けて仲良く肩を並べて歩いていた。

 

「シンくん、本当に勲章断っちゃって良かったの?」

 

「別にいりませんからねぇ〜。ああいう勲章は従者よりお嬢様みたいなフィーベル家の誰かが貰わないと他の貴族からはマイナスなイメージになりますし」

 

 従者は主の前に出るものではない。あくまで主の引き立て役である。

 主より先に従者が名誉ある勲章を貰っては、フィーベル家が従者頼みの貴族だと侮られる可能性があるのだ。

 

 ———というのは建前で、ぶっちゃけ勲章授与式とか事情聴取とか面倒だから信一はグレンに全て押し付けた。

『女王陛下の苦しみをいち早く察し、それをすぐにでも取り除きたいというグレン先生の気持ちに生徒として精一杯応えただけです。讃えられるべきは手伝った俺ではなく、事件解決に全力で奔走したグレン=レーダス大先生様ですよ』という1コンマ1秒たりとも思ってないことを(のたま)って。

 

 我ながら上手く押し付けられたと、信一は自分に拍手喝采を送りたくなったほどだ。それを横で聞いていたグレン=レーダス大先生様が恨めしそうな視線をぶつけてきてたが知ったことではない。

 

「そういえば、シンくんはどうして私が変身してるって気付いたの?」

 

「……秘密です」

 

「え〜教えてよ〜」

 

「ダメです。秘密です」

 

 さすがに「貴女のいいニオイで気付きました」とは言えない。率直に言ってキモすぎる。

 ルミアに嫌われたら自暴自棄で本当に国家転覆を目論んじゃうかもしれない。

 

「まぁ、アレです。姿が変わったくらいで気付けなくなるなんてあり得ないということです」

 

 嘘は言ってない。姿が変わっても匂いは変わらないのだから。

 

「う〜ん……なんか誤魔化されてる気がするなぁ」

 

「気のせいです」

 

「本当に?」

 

「気のせいったら気のせいです。気のせいって事にしないとおやつ抜きにしますよ?」

 

「うっ……わかった」

 

 おやつ抜きは嫌だったようで、ルミアはおずおずと引き下がった。かなり強引だが、今度からはこの手でいこうと心に決める信一。

 

 それからしばらく談笑しながら2迷いの森へと歩いていくと、既に2人を待つ人達がいた。

 ドレスに身を包む気品溢れる女性と、その女性を守るような立ち位置で談笑を交わす男———アリシアと零だ。

 

 2人は信一とルミアに気付くとそれぞれ微笑みながら手を振ってきた。それにルミアは少し緊張したように体を強張らせる。

 

「大丈夫ですか?」

 

「う、うん」

 

 本来は信一が父親の零と話す予定だったのだが、急遽ルミアも連れてきてほしいと言われた。突然信一から伝えられルミア自身もすぐに答えに辿り着いていたが、さすがに本人を前にすると固くなってしまうらしい。

 

「アリス、…だ…し………て………れ」

 

「えっ!いや……いきなりそんな……」

 

 そんなルミアを見て、零はアリシアに耳打ち。アリシアはそれを聞いて明らかに戸惑っているが、グッと勇気を振り絞るような仕草をする。

 そして———両手をルミアに向けて広げた。

 

「……っ!?」

 

 優しげな表情で自分へと手を広げるアリシア……実の母親にルミアは動揺しながらも近付いていく。だが、あと一歩。アリシアの腕に収まるあと一歩が踏み出せない。

 

「ハァ……」

 

 そんなルミアに、信一は優しくも呆れたようなため息を1つ。そして彼女の背中を軽くトンと押す。

 

 突然押されたことでルミアはたたらを踏み———アリシアの腕の中へと収まった。

 

「あ……」

 

「エルミアナ!」

 

 ルミアの本名を叫びながら、腕に収まった彼女をアリシアは強く抱き締める。

 それに最初はルミアも戸惑っていたが、母親の温もりが自身へと伝わっていくうちに自然と手を背中へ回していた。

 

「お母……さん……」

 

 3年ぶりの母娘(おやこ)の抱擁。

 娘を愛し、しかし女王という立場がそれを許さなかったアリシア。

 そんな事情を知らず、母親に捨てられたと思いながらも最後まで嫌いになれなかったルミア。

 

 どちらも悪かったわけじゃない。どちらもお互いが大好きだった。だが、どちらも踏み出せなかった。その心の距離がこの瞬間、ゼロになったのだ。

 

「信一」

 

「うん」

 

 ここからは女王と元王女ではなく、アリシアとルミアの親子としての時間だ。言いたい事、苦しかった事、そしてやっぱり大好きだったこと。伝えたい事はたくさんあるはず。

 

 それに立ち会うのは野暮と判断した零は、顎をしゃくって少し距離の空いたところにある太い木の幹を指した。

 

 

 

 

 

 

 零が指した場所に移動した2人。

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

 しかし、こちらはこちらでお互い言葉が出ない。

 零としては抱き締めてもいいが、さすがにそれは信一が嫌がると考えて何もできないでいる。

 

「……父さん、グレン先生に【迅雷】のこと教えたの?」

 

「んっ……あ、あぁ。命懸けの場で背中を合わせることの多い奴だったからな。弱点も含めて全部教えた」

 

「そっか」

 

 突然振られた息子からの話にガラにもなく驚きつつ、答える。

 

【迅雷】の弱点。今回の騒動解決に一役買った……かどうかは微妙だが、少なくともこれをグレンが知ってたおかげでゼーロスを倒せたのは事実だ。

 

 その弱点というのが、一発の【ショック・ボルト】に対して潜在能力を解放できる時間がたったの3秒しかないということ。

 一発脳に撃ち込み、それからの3秒間でマナ・バイオリズムを整えてまた撃ち込まなければならない。

 

「グレンの【愚者の世界】は魔術の起動を封じる。だからゼーロスの剣を防いだ後【迅雷】は使えなかっただろ?」

 

「うん。本当にスリリングな3秒間だったよ」

 

「そうかもな。それで……だ。体は大丈夫か?あの瞬間だけ、お前80%くらい解放してたように見えたんだが」

 

「一発目だけだったし、なんとかね。……やっぱり解放し過ぎるのはまずいの?」

 

「あぁ。元々自損しないように掛けられた身体のリミッターを無理矢理外してるようなものだからな」

 

 これもまた弱点の一つである。

 

 現に信一は先のテロ事件でヒューイが降伏した後倒れている。あれも【迅雷】の後遺症だ。

 

「「 ……………………… 」」

 

 ある程度話すと、またお互い間ができてしまう。本来なら久し振りの親子水入らずを楽しみたいのだが、2人の間にはどうしてもそれを妨げてしまうものがあった。

 

 それについて、やはり2人は踏み出せないでいる。

 

 しかし、ここで踏み出さなければ変わらない。それに、零の仕事は正真正銘の命懸け。もしかしたら今日が信一に会える最後の日になる可能性は充分にあり得る。

 だから今度は自分から話しかける。

 

「……なぁ、信一」

 

「ん?」

 

 真っ直ぐ息子の目を見て、踏み出さなければならない。

 

「5年前、お前が1番辛い時に……側に居てやらなくてすまなかった」

 

 頭を下げる。信一が望むのなら土下座だって辞さないつもりだ。

 

 母親を殺し、それが原因で妹が昏睡状態に陥ったことで自分を責める信一に、零は父親として寄り添うべきだった。だが、それをしなかった。

 学生時代の友人と恩師に預け、妻を失った悲しみを仕事に打ち込んだ忘れようとしただけ。

 

 零はそんな自分が許せなかったのだ。

 

「父さんこそ……俺を憎んでないの?」

 

 対して信一は、父親からの謝罪に目を丸くしている。

 

「俺は母さんを……父さんが生涯愛すって誓った人を殺したんだよ?」

 

 信一は今この瞬間になるまで、父親に会うことを恐れていた。

 大切な家族を殺し、妹すら守れなかった不甲斐ない自分を責めてくるのではないか。お前なんかいなければ良かったと拒絶されるのではないか。

 

 そんな予想が毎日のように頭へと浮かんでいた。

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

 頭を下げて謝る父親と、それを狐に摘まれたような表情で見つめる息子。彼ら親子は5年前から自分を責め続け、それが高じて相手も自分を責めていると思い続けてきた。

 しかし蓋を開けてみれば、それはただの強迫観念でしかなかったのだ。

 

 自分は責められなければならない、と。

 

「信一。父さんは、お前を憎んでないよ。お前はどうなんだ?」

 

「俺もだよ。確かに父さんが側に居てくれれば嬉しかったけど、でも父さんと同じくらい俺や信夏を大事にしてくれる人達に会えたから」

 

 レドルフは祖父のように色々なことを教えてくれた。

 レナードは父親のように頭を撫でてくれた。

 フィリアナは母親のように抱き締めてくれた。

 システィーナはまるで姉のように鬱ぎ込む自分の手を引いてくれた。

 そしてルミアは妹のように自分を慕ってくれた。

 

 そんな家族と出会えたのは零のおかげだ。だから信一にとって父親を責める理由は何もない。

 

「でもさ、もしかしたら母さんは俺を憎んでるかもね」

 

「どうしてだ?」

 

「今が……とても幸せだから」

 

 どうしても、その考えが胸を締めつける。

 

 この幸福は言い方を変えれば、母親を殺したから手に入れられたものだ。母親を殺して手に入れたものなのだ。

 

「俺は本当なら……幸せになる資格なんてないんだけどなぁ」

 

「アホ」

 

 頭を上げた零が、信一の頭へ大きな手を置く。その重みで逆に信一が謝っているような態勢になってしまった。

 

「逆だ。お前は幸せになる義務がある」

 

「どうして……?俺の今の幸せは母さんを踏み台にして得たものなんだよ」

 

「ハァ……」

 

 突然零が誤魔化しようもない落胆のため息を一つ。

 これには信一もムッとなる。

 

「だって……」

 

「お前は、今日なんの為に戦った?なんの為に命を懸けた?」

 

 未だ自分を責めようとする信一へと食い気味にセリフを被せる。

 

 こいつは1番重要なことに気づいていないのだ。

 

「———家族を守る為だろう?」

 

「そうだけど……」

 

「ならお前は知ってるはずだぞ。———家族を守る為に命を懸ける理由を」

 

「———っ!?」

 

 信一は驚愕に目を見開く。

 自分が戦う理由。それは紛れもなく家族の幸福の為だ。その為なら国と敵対することも辞さない。

 

「俺は……」

 

「———幸せになれ、信一」

 

「…………………………」

 

「命を懸けて家族を守る理由……そんなものは古今東西決まってる。幸せになってほしいからだ」

 

 少し屈み、零は信一と目の高さを合わせて優しく言ってやる。

 

「お前が幸せにならなければ、アイツは本当にただ死んだだけになっちまう。だから信一、信夏、お前ら兄妹は幸せになる義務があるんだ」

 

「……そっか……」

 

 自然と、信一は涙を溢していた。母親を殺した自身の手を眺めていると、涙で歪む。

 

「そっかぁ……」

 

 ずっと知っていたのだ。母親が自分や妹を守る為に、自分に殺してほしいと願った理由を。

 だが気付かなかった。今の生活に幸福を感じている自分を責めることばかりで、目を向けようとさえしていなかった。

 

「俺は……バカだなぁ……」

 

「どんなにバカでも()()の子どもだ。俺達はお前ら兄妹がこれからも幸せに生きることを願っている」

 

「うん……約束するよ」

 

 そう答えると、父親は頭をグシャグシャと乱暴に撫でてくる。しかし不思議と不快感はない。男らしくも、やはりどこか優しさを感じる。

 

 それから2人は、やっと本当の親子のように談笑を始めた。

 信一の学業成績を聞いて零が呆れたり、零の武勇伝を聞いて信一がはしゃいだりと。5年越しに……やっと親子に戻れた。

 

「信一、コレを」

 

 突然、零は腰に差している刀を信一に差し出す。

 

「……いいの?」

 

「もちろんあげるわけじゃないぞ。新しい刀が出来るまで貸しておくだけだ。さすがにナイフ2本だけじゃ心許ないだろ?」

 

「まぁね……って重いなぁ!?」

 

 零が軽々と片手で持っているので、信一もそれを片手で受け取った瞬間———あまりの重さに体がガクンと傾く。

 信一もわりと力はあるほうだが、それにしても父親の刀は重たい。

 

 何かの悪戯かと思って刀を鞘から抜くと、金色の刃が小さく覗く。

 

「綺麗だね。なんか混ぜてるの?」

 

「強度を上げる為に『純金』と玉鋼の合金製にしてある。金の方が比率が高いから、普通の刀の3.5倍くらい重いかもな」

 

「笑えない……」

 

 ルミアの話だと、零はこれを片手で振り回していたらしい。しかも【迅雷】抜きの、純粋な膂力だけで。

 信一は自分の顔筋が引き攣るのを自覚しながら、父親に尋ねる。

 

「でもさ、父さんコレなくて大丈夫なの?刀が無い間も仕事はあるでしょ?」

 

「まぁ、なんとかなるだろ」

 

 命のやり取りを行う人間のセリフとは思えないほど軽い口調なのだが……この父親が言うと本当になんとかなる気がするのが不思議だ。

 

「さ、そろそろ戻るぞ。あの2人も話はついたみたいだしな」

 

 それに応えるよう、信一もアリシアとルミアの方を見る。

 2人とも自分たち同様、話は終わったようだ。陰りの一切ない笑顔を向けあっている。

 

「アリス」

 

「あ……もう時間ですか?」

 

「あぁ」

 

 すると、アリシアの表情が名残惜しいものに変わる。

 

 それを尻目に信一もルミアへ話しかける。

 

「ルミアさんも、もう大丈夫ですか?」

 

「うん!ありがとね、シンくん!」

 

「お礼なら父さんに言ってください。この提案は父さんからされたものなので」

 

 頷き、ルミアは零にしっかりと頭を下げた。

 

「信一、今度まとまった休暇が取れたらフィーベル家に行くよ。信夏にも会いたいしな」

 

「そっか。きっと喜ぶと思うよ」

 

「あぁ。そしたら一緒に墓参りにでも行こう」

 

「OK」

 

 少し遠出になるが、母親の墓参りにはまだ行ったことがない。信一自身、どんな顔をすればいいかわからなかったからだ。

 だが、今日この日、その踏ん切りもついた。墓前で手を合わせながら、今が幸せだと伝える。

 それを母親も望んでいるだろう。

 

「それじゃ、また適当に連絡するよ」

 

「あぁ。今度はお前からしてくれよ」

 

「もちろん」

 

 ふふっと笑い合う父子(おやこ)

 アリシアとルミアもそれにならって手を振っていた。

 

「またね、父さん。そして女王陛下も、此度の無礼はお許しください」

 

 まさか自分が声をかけられると思っていなかったアリシアは、心底驚いた様子で信一を見る。しかし、彼はもうルミアの手を引いて踵を返していた。

 

「あの!」

 

「……はい?」

 

 そんな信一を、アリシアは呼び止める。

 

 実は今の別れの言葉で、今回の敵対宣言を有耶無耶にしようと考えていた信一は恐る恐るといった様子で振り向く。背中に冷や汗がどっと流れてきた。

 

「貴方はエルミアナの……いえ、ルミアの為なら国を壊すと言いましたね」

 

「は、はい……」

 

 もはや背中は大洪水だ。

 そんな信一の気持ちなど露知らず、アリシアは真剣な面持ちで言葉を紡ぐ。

 

「もしまたわたくしがルミアを討つ命令を出さなくてはいけなくなった時———貴方はわたくしを殺し、このアルザーノ帝国を壊してでもルミアを守ってくれますか?」

 

 その言葉に、信一と手を繋いだ状態のルミアは顔を青くしてアリシアに振り返る。

 だが、信一は彼女と対称的に躊躇いなくその問いに答えることができた。そこに迷いなど一切ない。

 

「———それがルミアさんの幸せに繋がるのなら喜んで」

 

 信一の表情はどこまでも深い優しさで満ち溢れている。

 

 アリシアという女王を突如失い、その結果他国からの侵略を止める術がなくなるかもしれない。多くの国民が死に、もしくは奴隷として人権を失い金で取引される『物』に成り下がる可能性もある。それが理解できない程、信一も馬鹿ではない。

 

 しかし逆に言えばそれを理解した上で、それでも信一は家族の為ならアリシアを殺せる。罪悪感など湧かず、むしろ家族の幸福に繋がるということに喜びを感じながら満面の笑みを浮かべて殺すだろう。

 

 ———壊れている。狂っている。イカれている。

 そんな表現がぴったりと当てはまる。間違いなく、朝比奈信一という少年は狂人の類だ。

 

「ですが……」

 

「きゃっ!」

 

 突然、繋いでいたルミアの手を軽く引き寄せて片手で抱き締める。まるでこの世に存在する全ての宝石などただの石ころと思わせるような手つきで、優しく大切に。

 

「できれば貴女を殺すようなことはしたくありません。母親が死ぬのは辛いものです。それをルミアさんに味合わせたくはない」

 

「———っ!?」

 

 ルミアが母親を殺されて幸福になるとは思えない。それくらいの判断は狂人にだってできる。

 

「だから女王陛下。どうか貴女も彼女を守れるよう尽力してください。ルミアさんが危険な目に合わないよう努力してください。子どもを守る為の母親の努力を非難する資格は誰にもありませんから」

 

「それは……公私混同というのでは?」

 

「———そのくらいやってみなよ。母親でしょ?」」

 

 挑発的な言い方。場が場なら即刻不敬罪で首を落とされても文句は言えない。

 にも関わらず、アリシアの口元には笑みが浮かんできていた。

 

「朝比奈信一、と言いましたか?」

 

「はい」

 

「———わたくしの娘を守ってくださいね?」

 

「もちろん———俺の家族ですから」

 

 話はそれで終わった。

 

 アリシアは女王に、零はその護衛に。

 ルミアはフィーベル家の居候に、信一はフィーベル家の従者に。

 

 それぞれ本来の自分の立場に戻り、背を向けて歩き出す。

 

 

 

 

 

 信一達と別れ、少し経ったところで零は通信結晶を取り出した。それを口元まで持ってきて、告げる。

 

「アル、今回の騒動の黒幕———侍女長エレノア=シャーレットを捕らえろ」

 

『南地区にて交戦中。今すぐ合流してくれ』

 

「了解」

 

 そして長い一日が終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術競技祭から2週間。

 

 早朝、信一はいつものように刀を振るう。しかしいつもと違い、振るう刀は一振り。しかも刀身は金色で、めちゃくちゃ重たいが。

 

「ふぅ……」

 

 井戸から汲み上げた水を頭から被り、一気に汗を流す。鍛錬で火照った体に、水の冷たさが心地良く染み渡っていく。

 

 日課を終えた信一は朝食の献立を考えながら郵便受けを見て本日の分を回収。すると、門の外から男性に声をかけられた。

 

「あの〜、こちらフィーベル家でよろしいでしょうか?」

 

「はい、そうですが」

 

 どうやら宅急便のようだ。彼は抱える程の木箱を持っていた。

 

「こちら、お届け物です」

 

「あぁ、ありがとうございます」

 

 一応木箱を叩き、音で危険物ではないことを確かめた後受け取る。

 その木箱の前面には大きく翼を広げた鷹の紋———帝国王室の紋章が描かれていた。

 

 それを確認した信一は素早くそれを一旦部屋に置き、即座に朝食の支度を済ます。そして、システィーナとルミアが席に着いたことを確認。

 

「あの、朝これが届きまして……」

 

 食事が載っているテーブルへ置くわけにもいかず、信一は本来自分が座っている椅子へドンと木箱を下ろす。そこに描かれた紋章を見て、眠気まなこを擦っていたルミアが一気に覚醒した。

 

「えっ……シンくん、それって……」

 

「はい。王室の紋章で間違いありませんよね?」

 

「う、うん」

 

 システィーナに関しては、開いた口が塞がらないといった様子だ。

 なにせ、家に王室から荷物が届くなど一大事。いくら貴族といえど、これはメンツ的に色々まずいのではないかと彼女は考えている。

 

「んじゃ、開けますよ?」

 

「「 うん…… 」」

 

 かぱっと開けると、木箱の中には黒塗りの鞘と黒い柄巻きに収まった刀が二振りと、手紙が2枚入っていた。

 手紙のうち、片方はルミア宛になっている。

 

「……あぁ、なるほどね」

 

 たぶんこれはアリシア女王からルミアに宛てた手紙だ。なんとなく、そうな予想がついた。

 

「どうぞ」

 

「うん」

 

 それをルミアに渡す。彼女はさっそく便箋を開き、読み始めた。

 目にどんどん涙が溜まっていく。しかし、その涙が悲しみではないことがよく分かる。何故なら、ルミアはとても嬉しそうな笑みを浮かべているのだから。

 読み終わったルミアは、その手紙を宝物のように胸に抱く。

 

「なんて書いて……」

 

「お嬢様」

 

 システィーナが手紙の内容を尋ねようとすると、珍しく信一が咎めるような声色で遮る。

 振り向いたシスティーナに首を振る信一。その仕草だけで、彼女も理解した。

 親子水入らずの手紙に口を挟むのは野暮だろう。その手紙の内容は、ルミアとアリシアだけが知っていれば良い。

 

 なので、システィーナは木箱に入っていた刀のうちの一振りを取り出す。

 

「信一、抜いてもいい?」

 

「どうぞ。言うまでもありませんが、刃物なので充分気を付けてください」

 

「わかってるって」

 

 信一の見様見真似で刀を抜く。

 

「うえっ!?」

 

 途端、驚きの声がシスティーナから上がった。

 何か虫でも入ってたのだろうか、とそちらを覗き込むと———刀の刃が鈍色ではなく蒼銀の輝きを放っている。

 それは大変美しく、国が一つ買えてしまえるのではないかと思えてしまうほどだ。

 

「これ……真銀(ミスリル)じゃない!」

 

真銀(ミスリル)……ですか?」

 

 システィーナの驚嘆を聞いてどこかで聞いたことがあるなと首を傾げる信一。実は二組の中でシスティーナに付けられたあだ名の一つに『真銀(ミスリル)の妖精』というものがある。

 

 真銀(ミスリル)とは、アルザーノ帝国で刀剣の素材として使われる最高級品、ウーツ鋼のさらに遥か格上。魔法金属である。(ちなみにシスティーナのあだ名になった原因として、真銀(ミスリル)は大変美しいが、融通が利かなく扱い難いということらしい)

 そんなシスティーナのような剛性と靭性を兼ね備えている真銀(ミスリル)。この刀はそれをさらに魔術的な手段で折り返し、叩き、鍛え、また折り返し、叩き……気の遠くなるような作業の一つ一つに魂が込められ作られた一品。

 

 それが()()()。しかも間違いなく信一用であると分かる刀の形状をしている。

 

 これを2週間……いや、アリシア女王が帝都に帰る時間とこちらに郵送される時間を考えるとさらに短期間で鍛造されたことになる。帝都の錬金刀匠何人か過労死したんじゃね、とちょっぴり不安になってきた。

 

「ま、まぁ……せっかくですし使わせて貰いましょう」

 

 魂を込めたどころか、本当に霊魂が宿ってるかもしれないし。使わないと祟られそうで怖い。

 

 そうなると父親から借りている刀はどうするかということになるのだが、もう一枚の手紙に、この木箱に入れて送り返してくれればいいという旨が書かれていた(郵送代は自腹)。

 

 ちなみにゼーロスに叩き折られた刀は、折れた刃も含めて鞘や柄全てが信一の自室に揃っている。実はこっそりそのままにして帰ろうとしたら、リック学院長に不法投棄になるから持って帰れと言われたのだ。ちゃっかり信一が『殺刄(サツジン)』で斬り飛ばしたレイピアの刃も入れられた。

 

 

 ……これもまた、娘を守りたいという親心かな?

 

 

 まさかこのレベルの公私混同をしてくるとは思わなかったが、信一自身もルミアを守る努力をしろと言った身だ。この刀は二振りとも大切に使おう。

 

 だが、ここで新たな危惧が生まれた。

 

「大切に……か」

 

 どうも自分は戦う度に刀を折っている気がする。

 

 今回も折れたし、その前も折れた。

 特に今回折れたのはレイディ商会の娘であるテレサ=レイディがプレゼントしてくれたものだった。にも関わらず約1ヶ月でへし折り、それを知った彼女はおっとりお姉さん系の優しい笑顔に信一が思わず震え上がるほどの威圧感を込めていたのは今も鮮明に思い出せる。

 

 

 ……今度テレサ経由でレイディ商会に何か注文しよう。

 

 それで許してくれるだろう……たぶん。

 

 ———閑話休題

 

 

「どうしたの、信一?」

 

「いや、俺ってあんまり武器を大切にしてないなぁって思いまして」

 

 もちろん毎日最高レベルの整備をしているが、いざ使うとなると使い潰すような扱いをしている。家族を守る為なのでそれは仕方のない事だが、その結果としてテレサが怖くなったのは良い教訓になった。

 

 さてどうしたものか、と悩んでいると手紙をポケットにしまったルミアが提案してくる。

 

「名前とか付けてあげたら愛着湧くんじゃないかな? ほら、お花とか育ててるとつい名前つけちゃってもっと大切にするし」

 

「名前、ですか……」

 

 ルミアの可愛らしい理由に身悶えするのを必死に抑えながら顎に手を当てて黙考する。確かにそれは良いアイデアかもしれない。

 

「じゃあこっち(右刀)は『叢雲(ムラクモ)』、こっち(左刀)は『羽々斬(ハバキリ)』なんてどうでしょう」

 

「なんかいきなり思春期拗らせたような名前になったわね」

 

「むぅ……」

 

 システィーナのにべもない言い方に口を尖らせる。信一的にはそれなりに由緒正しい神聖な名前のつもりなのだが。

 そんな彼の意思をなんとなく察し、ルミアは苦笑いを浮かべて問いかける。

 

「あはは……何かの名前なの?」

 

「母国の神話に出てくる武器です。八岐大蛇っていう———頭が八つある大蛇を退治した刀が『羽々斬』で、その大蛇の中から出てきたのが『叢雲』といいます」

 

「へぇ、結構面白そうなお話だね」

 

「ちなみに神話の中だと『羽々斬』は大蛇の中にあった『叢雲』にぶつかってへし折れてます」

 

「「 えぇ…… 」」

 

 なんとも微妙な表情を浮かべる2人。

 それにちょっと押され気味になりながらも、咳払いで誤魔化して話を続ける。

 

「でもまぁ、断じて拗らせてなどいませんが言われてみればそう思えても仕方ありませんね。断じて拗らせてなどいませんが」

 

「なんか信一怒ってない?」

 

「怒ってませんよ。今日のおやつ、お嬢様の分は作り忘れてやろうとか思ってませんから安心してください」

 

「怒ってるわよね!めちゃくちゃ怒ってるわよね!?」

 

 実際、自分のネーミングセンスを遠回しにディスられてイラっときたのは事実だ。

 このままでは、システィーナがおやつ抜きになると考えたルミアは助け舟を出してやる。

 

「あ!あ!でもシンくん、右に持つのと左に持つのじゃ毎回変わっちゃわない?見分けってつくの?」

 

 右刀が『叢雲』なのはいいが、それは今右手に持っている刀の場合で、いつものように布袋に入れたら『羽々斬』もごっちゃになってわからなくなってしまうのではないか、というのがルミアの言い分だ。

 

 その発言になんとかおやつ抜きを阻止しようと言い訳を並べ、その数だけ墓穴を掘るという作業を行っているシスティーナを一旦放置してまたも考える。

 すると、すぐに名案が浮かんだ。

 

「じゃあ右手に持ったらどっちであろうと『叢雲』で、左手に持ったら『羽々斬』ということで」

 

「「 雑な…… 」」

 

 システィーナとルミアが再び微妙な表情を浮かべる。だが、信一の言葉には続きがあった。

 

「んでんで、なんか名前が仰々しくて硬いので、右刀は『叢雲』改め“むーくん”。左刀は『羽々斬』改め“はーちゃん”なんてどうでしょう?」

 

 ドヤ顔でそんなことを言い放つ信一。

 それに対し、2人はこの男のネーミングセンスが壊滅的なことを理解したのだった。

 

 

 ……守ってみせますよ、女王陛下。

 

 

 もはや引き気味の表情になった2人を見て、それでも信一はこの真銀(ミスリル)製の刀二振り、“むーくん”と“はーちゃん”を力強く握る。

 

 自分にとって、家族とその幸せが一番だ。だから———

 

 ———一番(家族)の為なら二番(自分)三番(友人)なんて使い捨ての道具として扱える。

 そして一番を害す者。それが誰であろうと……この刀で殺す。

 

 それは狂気だ。狂気的な考えだという自覚を持ちながらも、その考えを実行する時は狂喜の笑みを浮かべられる。朝比奈信一はやはりどこか———

 

 ———狂っている







はい、いかがでしたか?オリ主、狂っちゃってます(笑)

といっても、一応片鱗は何度か見せてきたので驚きは少なかったのかな?
あ、ネーミングセンスに関しては狂ってるとか関係ないですからね。ただ単に狂気的なまでにセンスがないだけです。

では、次回はやっとリィエルちゃん登場となります。ちょっと口調が難しそう……
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